(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
単セルにおいて、空気極と燃料極との少なくとも一方が、第1の層(「集電層」とも呼ばれる)と、第1の方向において第1の層の電解質層側(すなわち、第1の層より電解質層に近い側)に位置する第2の層(「活性層」とも呼ばれる)とを含むように構成される場合がある。このような構成の単セルにおいて、各部材の熱膨張に伴う応力や他の部材(例えばインターコネクタ)からの押圧力による応力等を原因として、単セルの表面にクラックが発生することがある。従来の単セルの構成では、単セルの表面に発生したクラックが電極の第1の層を通って電解質層により近い第2の層まで伸展することにより、単セルの性能が低下するおそれがある。
【0005】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という)の最小構成単位である電解セルにも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池単セルと電解セルとをまとめて電気化学反応単セルと呼ぶ。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応単セルにも共通の課題である。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示される電気化学反応単セルは、電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を備える電気化学反応単セルにおいて、前記空気極と前記燃料極との少なくとも一方は、第1の層と、前記第1の方向において前記第1の層の前記電解質層側に位置する第2の層と、を含み、前記第1の層の前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面に、以下の関係S,Tを満たす領域が存在する。
関係S:R(1)≧20%(ただし、R(1)は、所定の範囲における粒子の全数に対する第1種粒子の数の割合であり、前記第1種粒子は、前記第1の方向における粒長D1に対する前記第1の方向に直交する第2の方向における粒長D2の比であるアスペクト比(D2/D1)が2以上である粒子である。)
関係T:aD2(A)<aD2(1)(ただし、aD2(A)は、前記所定の範囲における全粒子の粒長D2の平均値であり、aD2(1)は、前記所定の範囲における前記第1種粒子の粒長D2の平均値である。)
粒長D2が比較的大きく、かつ、第1の方向に直交する方向に長い形状である第1種粒子は、電気化学反応単セルの表面に発生したクラックの第1の方向への伸展を止めるストッパーとして機能するところ、本電気化学反応単セルによれば、電極の第1の層における第1種粒子の構成割合R(1)が比較的多く、かつ、第1種粒子の粒長D2の平均値aD2(1)が全粒子の粒長D2の平均値aD2(A)より大きいため、電気化学反応単セルの表面に発生したクラックが第1の層内を第1の方向に伸展して電解質層により近い位置にある第2の層に至ることを抑制することができ、電気化学反応単セルの性能低下を抑制することができる。
【0009】
(2)上記電気化学反応単セルにおいて、前記領域は、以下の関係Uを満たす領域である構成としてもよい。
関係U:E≦0.68(μm)(ただし、Eは、前記所定の範囲における各粒子の粒長D2の偏差の絶対値である。)
本電気化学反応単セルによれば、電極の第1の層における第2の方向の粒長D2のばらつきが比較的小さいことから、粒子同士の接触点が多くなり、導電経路が一定以上確保され、電気化学反応単セルの初期性能が低下することを抑制することができる。
【0010】
(3)上記電気化学反応単セルにおいて、前記領域は、以下の関係Vを満たす領域である構成としてもよい。
関係V:R(2)≧23%(ただし、R(2)は、前記所定の範囲における粒子の全数に対する第2種粒子の数の割合であり、前記第2種粒子は、アスペクト比(D2/D1)が1以下である粒子である。)
第1の方向に長い形状である第2種粒子は、第1の方向における導電性確保の点で有利であるところ、本電気化学反応単セルによれば、電極の第1の層における第2種粒子の構成割合R(2)が比較的多いため、電極の導電性低下を抑制することができる。
【0011】
(4)上記電気化学反応単セルにおいて、前記第1の層の前記第1の方向に平行な3つの断面であって、前記第1の方向視で前記空気極を長手方向に4等分する3つの断面に、前記領域が存在する構成としてもよい。本電気化学反応単セルによれば、第2の方向において満遍なく、電極の第1の層における第1種粒子の構成割合R(1)が比較的多いため、電気化学反応単セルの性能低下を効果的に抑制することができる。
【0012】
(5)また、本明細書に開示されるインターコネクタ−電気化学反応単セル複合体は、上記電気化学反応単セルと、前記電気化学反応単セルの前記空気極と前記燃料極との前記少なくとも一方側に配置され、前記空気極と前記燃料極との前記少なくとも一方側に突出する凸部を有するインターコネクタと、を備える。本インターコネクタ−電気化学反応単セル複合体によれば、インターコネクタの凸部からの押圧力による応力により電気化学反応単セルの表面にクラックが発生しても、当該クラックが第1の層内を第1の方向に伸展して電解質層により近い位置にある第2の層に至ることを抑制することができ、電気化学反応単セルの性能低下を抑制することができる。
【0013】
(6)上記電気化学反応単セルにおいて、前記電解質層は、固体酸化物または炭酸塩を含む構成としてもよい。本電気化学反応単セルによれば、比較的高温で運転が行われる電気化学反応単セルにおいて、各部材の熱膨張による応力によって電気化学反応単セルの表面にクラックが発生しても、当該クラックが第1の層内を第1の方向に伸展して電解質層により近い位置にある第2の層に至ることを抑制することができ、電気化学反応単セルの性能低下を抑制することができる。
【0014】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応単セル(燃料電池単セルまたは電解セル)、電気化学反応単セルとインターコネクタとを備えるインターコネクタ−電気化学反応単セル複合体(インターコネクタ−燃料電池単セル複合体またはインターコネクタ−電解セル複合体)、複数の電気化学反応単セルを備える電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施形態:
A−1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、
図2は、
図1のII−IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1のIII−IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
図4以降についても同様である。
【0017】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)発電単位102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。なお、上記配列方向(上下方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0018】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0019】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、
図2および
図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0020】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。
図1および
図2に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0021】
また、
図1および
図3に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0022】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、
図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、
図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0023】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0024】
(発電単位102の構成)
図4は、
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図5は、
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0025】
図4および
図5に示すように、発電の最小単位である発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0026】
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(
図2および
図3参照)。
【0027】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向(発電単位102が並ぶ配列方向)に互いに対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で電解質層112および空気極114を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0028】
電解質層112は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。空気極114は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。空気極114の構成については、後に詳述する。燃料極116は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。このように、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0029】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。なお、セパレータ120が接合された単セル110をセパレータ付き単セルともいう。
【0030】
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0031】
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0032】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0033】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。なお、本実施形態では、空気極側集電体134とインターコネクタ150とは一体の部材として形成されている。すなわち、該一体の部材の内の、上下方向(Z軸方向)に直交する平板形の部分がインターコネクタ150として機能し、該平板形の部分から空気極114に向けて突出するように形成された複数の凸部である集電体要素135が空気極側集電体134として機能する。また、空気極側集電体134とインターコネクタ150との一体部材は、導電性のコートによって覆われていてもよく、空気極114と空気極側集電体134との間には、両者を接合する導電性の接合層が介在していてもよい。空気極側集電体134とインターコネクタ150との一体部材を、単にインターコネクタと呼ぶ場合もある。
【0034】
なお、本明細書では、
図4および
図5に示すように、各発電単位102から空気極側フレーム130と空気極側フレーム130側のインターコネクタ150とを除いた構造体、すなわち、単セル110と、セパレータ120と、燃料極側フレーム140と、燃料極側フレーム140側のインターコネクタ150とを備える構造体を、インターコネクタ−燃料電池単セル複合体107ともいう。上述したように、燃料電池スタック100は、上下方向に並べて配置された複数の発電単位102を備えるが、換言すれば、燃料電池スタック100は、空気極側フレーム130を挟んで並べて配置された複数のインターコネクタ−燃料電池単セル複合体107を備えると言える。インターコネクタ−燃料電池単セル複合体107は、インターコネクタ−電気化学反応単セル複合体の一例である。
【0035】
A−2.燃料電池スタック100の動作:
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、
図3および
図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0036】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0037】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、
図3および
図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0038】
A−3.空気極114の詳細構成:
図5に示すように、空気極114は、活性層420と集電層410とを含む。活性層420は、Z方向において、集電層410の電解質層112側、すなわち、集電層410より電解質層112に近い側に位置する。
【0039】
空気極114の活性層420は、主として、酸化剤ガスOGに含まれる酸素のイオン化反応の場として機能する層である。本実施形態では、活性層420は、ペロブスカイト型酸化物と、活性化物質としてのGDC(ガドリニウムドープセリア)とを含む。空気極114の集電層410は、主として、空気室166から供給された酸化剤ガスOGを拡散させると共に、発電反応により得られた電気を集電する場として機能する層である。集電層410は、ペロブスカイト型酸化物を含むが、GDCを含まない。なお、活性層420は、集電層410と比較して、粒径が全体的に小さく、かつ、緻密質である(すなわち、気孔率が低い)。活性層420は、特許請求の範囲における第2の層に相当し、集電層410は、特許請求の範囲における第1の層に相当する。
【0040】
A−4.性能評価:
本実施形態の燃料電池スタック100は、空気極114の集電層410の構成に特徴がある。以下、空気極114の集電層410の構成が互いに異なる複数のサンプルを用いて行った各種性能評価について説明する。
【0041】
(発電劣化率についての性能評価)
第1の性能評価として、空気極114の集電層410の構成が互いに異なる複数の単セル110のサンプル(サンプル1およびサンプル2)を用いて、発電劣化率を測定した。
図6は、第1の性能評価の結果を示す説明図である。また、
図7は、サンプル1(比較例)における空気極114の集電層410(410(1))のXZ断面構成を模式的に示す説明図であり、
図8は、サンプル2(実施例)における空気極114の集電層410(410(2))のXZ断面構成を模式的に示す説明図である。
【0042】
図7および
図8に示すように、第1の性能評価では、空気極114の集電層410に含まれる各粒子を、Z方向における粒長D1に対するZ方向に直交する方向(例えばX方向であり、以下「面方向」という)における粒長D2の比であるアスペクト比(D2/D1)により、第1種粒子P1と、第2種粒子P2と、第3種粒子P3との3種類に分類した。第1種粒子P1は、アスペクト比(D2/D1)が2以上の粒子であり、面方向に長い形状の粒子である。第2種粒子P2は、アスペクト比(D2/D1)が1以下の粒子であり、Z方向(上下方向)に長い形状の粒子である。第3種粒子P3は、第1種粒子P1および第2種粒子P2以外の粒子である。
【0043】
図6に示すように、サンプル1の集電層410では、Z方向に平行なある断面(例えばXZ断面)において、各種粒子の構成割合R(n)は以下の通りであった。なお、構成割合R(n)は、断面の所定の範囲における粒子の全数に対する第n種粒子Pnの数の割合である(ただし、n=1,2,3)。
・第1種粒子P1の構成割合R(1)=10(%)
・第2種粒子P2の構成割合R(2)=23(%)
・第3種粒子P3の構成割合R(3)=67(%)
【0044】
一方、サンプル2の集電層410では、Z方向に平行なある断面(例えばXZ断面)において、各種粒子の構成割合R(n)は以下の通りであった。
・第1種粒子P1の構成割合R(1)=20(%)
・第2種粒子P2の構成割合R(2)=23(%)
・第3種粒子P3の構成割合R(3)=57(%)
【0045】
このように、サンプル1の集電層410(
図7参照)では、第1種粒子P1の構成割合R(1)が比較的少なく、サンプル2の集電層410(
図8参照)では、第1種粒子P1の構成割合R(1)が比較的多い。また、集電層410に含まれる第2種粒子P2の構成割合R(2)は、サンプル1とサンプル2とで同等である。
【0046】
また、
図6に示すように、サンプル1の集電層410では、上記断面において、面方向の粒長D2の平均は以下の通りであった。なお、全粒子平均粒長aD2(A)は、上記断面の上記所定の範囲における全粒子の粒長D2の平均値であり、第1種粒子平均粒長aD2(1)は、上記断面の上記所定の範囲における第1種粒子P1の粒長D2の平均値である。
・全粒子平均粒長aD2(A)=1.37(μm)
・第1種粒子平均粒長aD2(1)=1.99(μm)
【0047】
一方、サンプル2の集電層410では、上記断面において、面方向の粒長D2の平均は以下の通りであった。
・全粒子平均粒長aD2(A)=1.2(μm)
・第1種粒子平均粒長aD2(1)=1.56(μm)
【0048】
このように、サンプル1とサンプル2とのいずれにおいても、全粒子平均粒長aD2(A)<第1種粒子平均粒長aD2(1)という関係が成立した。すなわち、サンプル1とサンプル2とのいずれにおいても、第1種粒子P1の面方向の粒長D2は、他の種類の粒子と比較して大きいと言える。
【0049】
第1の性能評価では、上記2つの単セル110のサンプル(サンプル1およびサンプル2)を用いて、定常運転から運転を停止する動作と停止状態から運転を再開する動作とを繰り返す試験により発電劣化率を測定した。より詳細には、定常運転から運転を停止する動作と停止状態から運転を再開する動作との組合せを繰り返すことによって、サンプルの温度を高温から低温へ変化させ、複数回にわたってサンプルに熱衝撃を加えた。上記動作の組合せを約20回繰り返した後の電圧(試験後電圧)を測定し、初期電圧に対する初期電圧と試験後電圧との差の割合を、発電劣化率(%)として算出した。
【0050】
図6に示すように、サンプル1(比較例)では、発電劣化率が比較的高く、不合格(×)と判定された。一方、サンプル2(実施例)では、発電劣化率が極めて低く、合格(〇)と判定された。この要因としては、以下のことが考えられる。すなわち、単セル110を構成する各部材の熱膨張に伴う応力や、他の部材(例えば、インターコネクタの凸部として空気極側集電体134)からの押圧力による応力等を原因として、単セル110の表面、例えば空気極114の集電層410の表面にクラックが発生することがある。空気極114の集電層410の表面に発生したクラックが、集電層410を通って電解質層112により近い位置にある活性層420まで伸展すると、単セル110の発電性能が低下する。ここで、集電層410に含まれる粒子の内、粒長D2が比較的大きく、かつ、面方向に長い形状の第1種粒子P1は、このようなクラックのZ方向への伸展を止めるストッパーとして機能する。サンプル1では、集電層410における第1種粒子P1の構成割合R(1)が比較的少ないため、単セル110の表面に発生したクラックが集電層410内をZ方向に伸展して活性層420に至ることが抑制されず、単セル110の性能低下が抑制されなかったと考えられる。一方、サンプル2では、集電層410における第1種粒子P1の構成割合R(1)が比較的多く、かつ、第1種粒子平均粒長aD2(1)が全粒子平均粒長aD2(A)より大きいため、単セル110の表面に発生したクラックが集電層410内をZ方向に伸展して活性層420に至ることが抑制され、単セル110の性能低下が抑制されたものと考えられる。
【0051】
このように、第1の性能評価の結果から、空気極114の集電層410が、Z方向に平行な少なくとも1つの断面(例えばXZ断面)に、以下の関係S,Tを満たす領域が存在するように構成されていると、単セル110の表面に発生したクラックが集電層410を通って活性層420まで伸展することを抑制することができ、単セル110の性能を低下することができると言える。
関係S:第1種粒子P1の構成割合R(1)≧20%
関係T:全粒子平均粒長aD2(A)<第1種粒子平均粒長aD2(1)
【0052】
なお、空気極114の集電層410において、第1種粒子P1の構成割合R(1)が面方向において満遍なく高い構成であると、単セル110の表面におけるクラックの発生位置にかかわらず、発生したクラックが集電層410内をZ方向に伸展して活性層420に至ることが抑制されるため、さらに好ましいと言える。そのため、例えば、集電層410のZ方向に平行な3つの断面であって、Z方向視で空気極114を長手方向に4等分する3つの断面に上記関係S,Tを満たす領域が存在するように、空気極114の集電層410が構成されていると、さらに好ましいと言える。
【0053】
また、第1種粒子P1は、第2種粒子P2と比較して、Z方向(上下方向)における導電性確保の点では不利であるため、空気極114の導電性低下を抑制するためには、集電層410にある程度以上の構成割合で第2種粒子P2が存在することが好ましい。そのため、第1の性能評価の結果を参照すると、上記関係S,Tを満たす領域が、以下の関係Vを満たす領域であると、空気極114の導電性低下を抑制することができ、さらに好ましいと言える。
関係V:第2種粒子P2の構成割合R(2)≧23%
【0054】
(初期電圧についての性能評価)
第2の性能評価として、サンプル1およびサンプル2を用いて、初期電圧を測定した。
図9は、第2の性能評価の結果を示す説明図である。
【0055】
サンプル1とサンプル2とは、Z方向に平行なある断面(例えばXZ断面)の所定の範囲における各粒子の面方向の粒長D2の偏差(平均値との差)の程度が互いに異なる。具体的には、サンプル1では、上記偏差の絶対値の最大値(以下、「粒長最大偏差E」という)が0.97(μm)と比較的大きく、サンプル2では、粒長最大偏差Eが0.68(μm)と比較的小さい。すなわち、サンプル1では、面方向の粒長D2のばらつきが比較的大きく、サンプル2では、面方向の粒長D2のばらつきが比較的小さい。
【0056】
第2の性能評価では、上記2つの単セル110のサンプルを用いて、0.3(A/cm
2)における初期電圧(V)を測定した。
図9に示すように、サンプル1では、初期電圧が比較的低く、不合格(×)と判定された。一方、サンプル2では、初期電圧が比較的高く、良好(〇)と判定された。この要因としては、サンプル2では、集電層410における面方向の粒長D2のばらつきが比較的小さいことから、粒子同士の接触点が多くなり、導電経路が一定以上確保され、初期の発電性能が低下することが抑制されたものと考えられる。
【0057】
このように、第2の性能評価の結果から、空気極114の集電層410が、Z方向に平行な少なくとも1つの断面(例えばXZ断面)における上記関係S,Tを満たす領域が、以下の関係Uを満たす領域であると、初期の発電性能が低下することを抑制することができると言える。
関係U:粒長最大偏差E≦0.68(μm)
【0058】
A−5.単セル110の製造方法:
本実施形態における単セル110の製造方法の一例は、次の通りである。
【0059】
(電解質層112と燃料極116との積層体の形成)
BET法による比表面積が例えば5〜7m
2/gであるYSZ粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるジオクチルフタレート(DOP)と、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、例えば厚さ約10μmの電解質層用グリーンシートを得る。また、BET法による比表面積が例えば3〜4m
2/gであるNiOの粉末を、Ni重量に換算して55質量部となるように秤量し、BET法による比表面積が例えば5〜7m
2/gであるYSZの粉末45質量部と混合して混合粉末を得る。この混合粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、例えば厚さ270μmの燃料極用グリーンシートを得る。電解質層用グリーンシートと燃料極用グリーンシートとを貼り付けて、乾燥させる。その後、例えば1400℃にて焼成を行うことによって、電解質層112と燃料極116との積層体を得る。
【0060】
(空気極114の形成)
次に、空気極114の活性層420の材料として、LSCF粉末と、GDC粉末と、アルミナ粉末と、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを混合し、粘度を調整して、活性層用ペーストを調製する。調整された活性層用ペーストを、電解質層112と燃料極116との積層体における電解質層112側の表面に、スクリーン印刷によって塗布し、乾燥させる。
【0061】
また、空気極114の集電層410の材料として、LSCF粉末と、アルミナ粉末と、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを混合し、粘度を調整して、集電層用ペーストを調製する。調整された集電層用ペーストを、上述した活性層用ペーストの上に、スクリーン印刷によって塗布し、乾燥させる。なお、空気極114の各層用ペーストの塗布方法として、例えば噴霧塗布といった他の方法も採用可能である。
【0062】
その後、例えば1100℃にて焼成を行うことによって、電解質層112と燃料極116との積層体における電解質層112側の表面に、活性層420と集電層410とから構成される空気極114が形成される。
【0063】
なお、空気極114の集電層410における各種粒子の構成割合R(n)は、例えば、以下の方法により調整することができる。すなわち、第1種粒子P1の構成割合R(1)を多くしたい場合には、空気極114の集電層410の材料としてのLSCF粉末を作成するための粉砕処理の時間を比較的短くすることによって、粒子形状を比較的不均一にする。このようにすれば、比較的細長い形状のLSCF粒子を多く含むLSCF粉末材料が得られる。また、調整された集電層用ペーストを塗布して乾燥させた後、集電層用ペーストにZ方向の圧縮力を加えることにより、集電層用ペーストに含まれる細長い形状のLSCF粒子の少なくとも一部が、その長手方向が面方向に近づくように姿勢を変化させ、アスペクト比(Z方向における粒長D1に対する面方向における粒長D2の比)が2以上である第1種粒子P1となる。そのため、このような方法により、集電層410における第1種粒子P1の構成割合R(1)を多くすることができる。また、第2種粒子P2の構成割合R(2)を多くしたい場合には、第1種粒子P1の構成割合R(1)を多くしたい場合と同様に、LSCF粉末を作成するための粉砕処理の時間を比較的短くすることによって粒子形状を比較的不均一にする。ただし、第2種粒子P2の構成割合R(2)を多くしたい場合には、集電層用ペーストを塗布して乾燥させた後に圧縮力を加えないか、圧縮力の大きさを小さくしたり圧縮時間を短くしたりして、細長い形状のLSCF粒子の姿勢変化を促さない。これにより、集電層410における第2種粒子P2の構成割合R(2)を多くすることができる。なお、集電層410における第3種粒子P3の構成割合R(3)を多くしたい場合には、LSCF粉末を作成するための粉砕処理の時間を比較的長くすればよい。
【0064】
以上の工程により、上述した構成の単セル110が製造される。なお、単セル110が製造された後、例えば、空気極114と空気極側集電体134との接合やボルト22による燃料電池スタック100の締結等の組み立て工程が行われることにより、上述した構成の燃料電池スタック100が製造される。
【0065】
A−6.空気極114の分析方法:
(分析画像M1の取得方法)
粒長等に関して空気極114を分析する方法について説明する。まず、空気極114の分析に用いられる分析画像M1を以下の方法により取得する。単セル110において、上下方向(Z軸方向)に平行な1つの断面(ただし空気極114を含む断面)を任意に設定し、当該断面において空気極114の上下方向における全体が確認できる画像を、分析画像M1として取得する。より詳細には、空気極114の上側表面(空気極側集電体134と接触する表面)が、画像を上下方向に10等分して得られた10個の分割領域の内の最も上の分割領域内に位置し、かつ、空気極114と電解質層112との境界が、最も下の分割領域内に位置している画像を、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影し、分析画像M1として取得する。なお、この分析画像M1は、SEMにより撮影された画像を2値化処理した後の2値化画像でもよい。ただし、2値化画像における粒子等が実際の形態と大きく異なる場合には、SEMにより撮影された2値化処理前の画像のコントラストを調整し、その調整後の画像を2値化処理した画像でもよい。また、分析画像M1は、SEMにより撮影された2値化処理前の画像そのものでもよい。SEMの画像の倍率は、上記のように空気極114の上下方向における全体が分析画像M1に収まるような値に設定され、例えば200〜20,000倍とすることができるが、これに限定されず、適宜変更することができる。分析画像M1の測定範囲は、特許請求の範囲における所定の範囲に相当する。
【0066】
(活性層420と集電層410との境界の決定方法)
空気極114を構成する活性層420と集電層410との境界は、活性層420の気孔率が集電層410の気孔率より低いという特徴を利用して、以下の方法により特定される。まず、分析画像M1に対して、上下方向(Z軸方向)に直交する複数の仮想線Kを、0.3μm間隔で空気極114の上側表面から下方に順番に引き、仮想線K1、K2、K3、・・・、Km、・・・、K(m+9)、K(m+10)、・・・、Knを得る。そして、各仮想線Kにおいて気孔と重複する部分の長さを測定し、気孔と重複する部分の長さの合計を算出し、各仮想線Kの全長に対する気孔と重複する部分の長さの合計の比を、当該仮想線K上に存在する気孔の割合(気孔率Ks)とする。次に、各仮想線Kの気孔率Ks1、Ks2、Ks3、・・・、Ksm、・・・、Ks(m+9)、Ks(m+10)、・・・、Ksnのうち、上方側から順番に10個の仮想線Kの気孔率Ksを有する各データ群を設定し、各データ群の10個の気孔率Ksの平均値(Ave)と各データ群の気孔率Ksの標準偏差(σ)を算出する。
【0067】
上方側から順番に、データ群G1は、Ks1、Ks2、・・・、Ks10からなり、データ群G2は、Ks2、Ks3、・・・、Ks11からなり、データ群Gmは、Ksm、Ks(m+1)、Ks(m+2)、・・・、Ks(m+9)からなり、データ群G(m+1)は、Ks(m+1)、Ks(m+2)、・・・、Ks(m+10)からなる。すなわち、データ群G(m+1)とは、データ群Gmから、データ群Gmの1つ目の仮想線Kmの気孔率Ksmを除いた9個の気孔率(Ks(m+1)、・・・、Ks(m+9))に、データ群の最後の仮想線K(m+9)の次の仮想線K(m+10)の気孔率Ks(m+10)を加えた10個の気孔率Ksからなる一つの群を意味する。そして、「G(m+1)の気孔率Ksの平均値」が「Gmの気孔率Ksの平均値に、Gmの10個の気孔率Ksの標準偏差(σ)の2倍の値を加えた値」を初めて上回ったとき、または、「G(m+1)の気孔率Ksの平均値」が「Gmの気孔率Ksの平均値から、Gmの10個の気孔率Ksの標準偏差(σ)の2倍の値を減じた値」を初めて下回ったときの、データ群G(m+1)の10個目の気孔率Ks(m+10)に対応する仮想線K(m+10)を、活性層420と集電層410との境界とする。すなわち、データ群Gmの気孔率Ksの平均値をGmAve、データ群G(m+1)の気孔率Ksの平均値をG(m+1)Ave、データ群Gmの気孔率Ksの標準偏差をσmとしたとき、下記式(1)を満たす初めてのデータ群G(m+1)の10個目の気孔率Ks(m+10)に対応する仮想線K(m+10)を、活性層420と集電層410との境界とする。この境界が決定されれば、分析画像M1上において、活性層420と集電層410とを区別することができる。
|(G(m+1)Ave)−(GmAve)|>2σm ・・・(1)
【0068】
(粒長の測定方法)
空気極114の集電層410における粒長は、"水谷惟恭、尾崎義治、木村敏夫、山口喬著、「セラミックプロセッシング」、技報堂出版株式会社、1985年3月25日発行、第192頁から第195頁"に記載されている方法(インターセプト方法)に従って特定される。具体的には、上記分析画像M1において、集電層410に、上下方向(Z軸方向)に直交する直線を所定間隔(例えば4μm間隔)で複数本引き、各直線上の各粒子にあたる部分の長さを粒長として測定する。対象の部材や領域に位置する1つまたは複数の直線上のすべての粒子についての粒長を計測し、計測値を用いて粒長の平均値等を算出するものとする。
【0069】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0070】
上記実施形態(または変形例、以下同様)では、空気極114の集電層410は、上記関係S〜Vを満たすように構成されているとしているが、集電層410が少なくとも上記関係S〜Tを満たすように構成されていれば、単セル110の空気極114側の表面に発生したクラックが空気極114の集電層410内をZ方向に伸展して活性層420に至ることが抑制され、単セル110の性能低下を抑制することができる。
【0071】
また、上記実施形態では、空気極114は、活性層420と集電層410との二層構成であるとしているが、空気極114は、活性層420および集電層410以外の他の層を含むとしてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、燃料電池スタック100に含まれるすべての単セル110について、上記関係S〜Vが満たされた構成であるとしているが、燃料電池スタック100に含まれる少なくとも1つの単セル110について、そのような構成となっていれば、当該単セル110について、単セル110の空気極114側の表面に発生したクラックが空気極114の集電層410内をZ方向に伸展して活性層420に至ることが抑制され、単セル110の性能低下を抑制することができると共に、空気極114の導電性低下を抑制することができる。
【0073】
また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。また、上記実施形態における各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。
【0074】
本明細書において、部材(または部材のある部分、以下同様)Aを挟んで部材Bと部材Cとが互いに対向するとは、部材Aと部材Bまたは部材Cとが隣接する形態に限定されず、部材Aと部材Bまたは部材Cとの間に他の構成要素が介在する形態を含む。例えば、電解質層112と空気極114との間に他の層が設けられていてもよい。このような構成であっても、空気極114と燃料極116とは電解質層112を挟んで互いに対向すると言える。
【0075】
また、上記実施形態では、燃料電池スタック100は複数の平板形の発電単位102が積層された構成であるが、本発明は、他の構成、例えば特開2008−59797号に記載されているように、複数の略円筒形の燃料電池単セルが直列に接続された構成にも同様に適用可能である。
【0076】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の最小単位である電解セルや、複数の電解セルを備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2014−207120号に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解セルおよび電解セルスタックにおいても、上記実施形態と同様に、上記関係S〜Vが満たされた構成であるとすれば、単セル110の空気極114側の表面に発生したクラックが空気極114の集電層410内をZ方向に伸展して活性層420に至ることが抑制され、単セル110の性能低下を抑制することができると共に、空気極114の導電性低下を抑制することができる。
【0077】
また、上記実施形態では、空気極114は、活性層420と集電層410とを含む構成であるとしているが、空気極114に代えて、または、空気極114と共に、燃料極116が、上述の空気極114の構成と同様に、活性層と集電層とを含む構成であるとしてもよい。その際、燃料極116の集電層が、上述した空気極114の集電層410と同様に、上記関係S〜Vを満たすように構成されるとしてもよい。このようにすれば、単セル110の燃料極116側の表面に発生したクラックが燃料極116の集電層内をZ方向に伸展して活性層に至ることが抑制され、単セル110の性能低下を抑制することができると共に、燃料極116の導電性低下を抑制することができる。
【0078】
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本発明は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。なお、本発明は、SOFCやMCFC等のガスの温度が比較的高温となり、セル割れや層間剥離が問題となりやすいタイプの燃料電池において、より好適である。