【文献】
CIGDEM SECKIN GUREL, ERDEM YAZGAN,RESONANT CIRCULAR PATCH MICROSTRIP ANTENNA WITH AIR GAP,ANTEM'98 - Symposium on Antenna Technology and Applied Electromagnetics,1998年,pp. 233-236
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明では、特に必要なとき以外は、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。また、以下の説明において便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施例に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明などの関係にある。
【0011】
また、以下の説明において、要素の数など(個数、数値、量、範囲などを含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合などを除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良いものとする。
【0012】
また、以下の説明において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0013】
また、以下の説明において、構成要素等について、「Aからなる」、「Aよりなる」、「Aを有する」、「Aを含む」と言うときは、特にその要素のみである旨明示した場合等を除き、それ以外の要素を排除するものでない。同様に、以下の説明において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲等についても同様である。
【0014】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施例の説明に使用する全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
(1)実施例1
図1に、本実施例に係るアンテナ装置1の概略構造を示す。アンテナ装置1は、上部誘電体基板2、パッチ電極3、中間誘電体基板4、空隙5、グランド電極6、下部誘電体基板7を有する。
図2に示すように、上部誘電体基板2の下面と中間誘電体基板4の上面は接しており、パッチ電極3は上部誘電体基板2と中間誘電体基板4の間に挟まれている。パッチ電極3の寸法は、通常のパッチアンテナと同様、得たい共振周波数に基づいて設計される。
図1及び
図2の場合、パッチ電極3は正方形である。ただし、パッチ電極3の形状は、所望の特性が得られるのであれば、長方形、円形、楕円形等でも良い。パッチ電極3は、銅、アルミニウム、金等の板又は薄膜として形成される。グランド電極6は、下部誘電体基板7の上面を覆うように配置されている。グランド電極6は、空隙5を介して中間誘電体基板4の下面と対向する。グランド電極6は、銅、アルミニウム、金等の板又は薄膜として形成される。本実施例では、グランド電極6は、下部誘電体基板7の上面と接しているが対向していればよい。
【0016】
上部誘電体基板2、中間誘電体基板4、下部誘電体基板7の材料は、FR4、アクリル、テフロン(登録商標)等である。各基板の寸法Lは、グランド電極6の寸法と同一であり、アンテナ装置1の使用周波数において十分な大きさを取る必要がある。換言すると、各基板の寸法Lは、パッチ電極3の寸法よりも十分広い。各基板の寸法Lは、例えば使用周波数が1GHz程度の場合、100〜300mm程度が好適である。
【0017】
アンテナ装置1は、上部誘電体基板2の厚さtu、中間誘電体基板4の厚さti、空隙の距離dgを設計パラメータ(
図2)として、動作利得や帯域幅を設計することができる。tu、ti、dgは以下の範囲内で設計される。
【0019】
ここで、λは、アンテナ装置1の使用周波数に対する電磁波の自由空間における波長であり、例えば1GHzでは約300mmである。上段の式は、アンテナ装置1をマイクロアンテナとして動作するための条件であり、下段の式は、設計上の要請を満たすための条件である。例えば適用する無線通信システムに応じた値が用いられる。
【0020】
以下では、
図3を使用し、アンテナ装置1の各構成要素について説明する。ここでは、アンテナ装置1がパッチアンテナであるものとして説明する。なお、アンテナ装置1の下部誘電体基板7の下面7bには、アンテナ装置1に接続される信号線に高周波信号を送信する電子部品が実装される。
【0021】
上部誘電体基板2は、第1の面(上面)2aと第2の面(下面)2bを有する。パッチ電極3は、第3の面(上面)3aと第4の面(下面)3bを有する。中間誘電体基板4は、第5の面(上面)4aと第6の面(下面)4bを有する。グランド電極6は、第7の面(上面)6aと第8の面(下面)6bを有する。下部誘電体基板7は、第9の面(上面)7aと第10の面(下面)7bを有する。
【0022】
以下、
図4〜
図10を使用して、アンテナ装置1をより詳細に説明する。
図4は、アンテナ装置1を構成単位に分解した図である。
図4に示すように、アンテナ装置1は、上部誘電体基板2と、中間誘電体基板4と、下部誘電体基板7の3枚の基板によって構成される。これらの基板は、電子回路基板として一般的に用いられるPCB(Printed Circuit Board)により作製され、より具体的には両面銅張プリント基板(二層基板)で作製される。本実施例では、上部誘電体基板2とパッチ電極3で構成される構造体を上部プリント基板11と呼び、グランド電極6と下部誘電体基板7で構成される構造体を下部プリント基板12と呼ぶ。
【0023】
図5に示すように、上部プリント基板11の上面2aには、第1のランド部である第1信号用ランド部9が形成される。なお、上部プリント基板11にはスルーホール(導体)11cが形成されている。
図6に示すように、上部プリント基板11の下面2bには、第1の導体部であるパッチ電極3が形成されている。
【0024】
図7及び
図8に示すように、中間誘電体基板4の上面4a及び下面4bから電極(銅箔)は完全に取り除かれ、信号線が貫通するスルーホール4cが開けられている。
図9及び
図10に示すように、下部プリント基板12の上面6aには、第2の導体部であるグランド電極6が略全面に形成され、下部プリント基板12の下面7bには、第2のランド部であるグランド用ランド部10が形成されている。なお、下部プリント基板12にはスルーホール12cとビアホール配線12dが形成されている。ビアホール配線12dはスルーホール12cを取り囲むように形成される。
【0025】
図4の説明に戻る。
図4に示すように、中間誘電体基板4とグランド電極6とが空隙5を介して対向して配置されている。すなわち、中間誘電体基板4と下部プリント基板12の間に空隙5が形成されており、中空構造のアンテナ装置1を実現している。パッチ電極3は上側プリント基板11の下面2bに形成され、グランド電極6は下部プリント基板12の上面6aに形成されている。このため、パッチ電極3とグランド電極6とが中間誘電体基板4と空隙5を介して対向している。また、第1信号用ランド部9とパッチ電極3とがスルーホール11cを通じて電気的に接続され、グランド電極6とグランド用ランド部10とがスルーホール12c及び12dを通じて電気的に接続されている。
【0026】
図9に示すように、下部プリント基板12の上面6aに形成されたグランド電極6は、上面6aの略全面に亘って形成されている。従って、グランド電極6の平面視の大きさは、
図6に示す上部プリント基板11の下面2bのパッチ電極3の平面視の大きさに比べて大きい。
【0027】
アンテナ装置1では、上部誘電体基板2の上面2aのうちパッチ電極3の上方に当たる位置には給電点8(
図1)が設けられており、当該給電点8を通じて高周波信号が入出力される。給電点8は、前述した第1信号用ランド部9の部分に当たる。本実施例の場合、給電点8のインピーダンスは50Ωである。給電点8は、高周波信号が最も効率良く入って来る位置に選定される。本実施例の場合、給電点8は、パッチ電極3の中心から少しずれた位置に選定されている。
【0028】
上部プリント基板11、中間誘電体基板4、下部プリント基板12には、好適にはガラスエポキシ樹脂を材料としたプリント基板が用いられるが、アクリル板、ABS(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンを重合させて形成される樹脂)、ガラス板等の誘電体を用いてもよい。
【0029】
続いて、アンテナ装置1の寸法について説明する。アンテナ装置1におけるパッチ電極3の寸法は、無線システムの搬送波周波数によって決定される。一般に、パッチ電極3の一辺の長さは、搬送波周波数の1/2波長の長さに基づいて設定されることが多い。自由空間での波長に基づけば、パッチ電極3の一辺の長さは、例えば920MHz帯の場合で140mm程度であり、1.6GHz帯の場合で78mm程度である。ただし、アンテナ装置1は、各電極を支持する上部誘電体層2、中間誘電体基板4、下部誘電体基板7の誘電率の影響による波長短縮を受けるため、実際のパッチ電極3の寸法は、上述の自由空間での波長に基づいた寸法よりも数%〜数十%程度小さくなる。
【0030】
アンテナ装置1の基板寸法L(
図1)は、
図9に示す下部プリント基板12の上面6aのグランド電極6の寸法に対応するため、理想的にはパッチ電極3の寸法の2倍以上の大きさとすることが望ましいが、アンテナ装置1の小型化を重視する場合はさらに小さくしてもよい。
【0031】
なお、上部プリント基板11と下部プリント基板12の大きさを異なるような構成にすることも可能である。この場合、グランド電極6を配置する下部プリント基板12の寸法を上記の例に従ってパッチ電極3の寸法の2倍を目安に設定し、上部プリント基板11はパッチ電極3を配置できる寸法であればそれよりも小さくしてもよい。
【0032】
図11に、各基板の支持構造の一例を示す。
図11の場合、上部誘電体基板2と下部誘電体基板7は、4隅に配置したポール(柱部)13とネジ14によって支持され固定されている。なお、ポール13とネジ14は樹脂製であることが望ましいが、強度が必要な場合は金属製であってもよい。もっとも、ポール13とネジ14の配置位置は、パッチ電極3から放射される電磁波に悪影響を及ぼさない位置であれば良く、例えば各基板のエッジ部分の任意の位置に配置しても良い。
図11に示すように各基板の4隅にポール13とネジ14を配置することによりパッチ電極3から放射される電磁波に悪影響を及ぼすことを避けることができ、アンテナ特性の低下を抑制して基板を支持することができる。
【0033】
もっとも、ポール13とネジ14は、パッチ電極3と干渉する位置であっても、アンテナ特性に深刻な影響を与えない場所であれば配置することができる。例えば、パッチ電極3の平面方向の中央部は入力インピーダンスが0となり、理論上、導体や誘電体が触れていてもアンテナ特性への影響は小さいと考えられるため、ポールとネジを配置することが可能である。このようにパッチ電極3の中央部にポール(柱部)13を設けることにより、中空構造による基板の撓みを低減することができ、高いアンテナ性能を維持することができる。特に、産業用途など、過酷な使用条件の場合は機械的な衝撃が多く加わることが想定され、このような強度を高める構造が必要となる場合がある。また、
図11では、4本のポール13を設けているが、必要となれる強度、コスト等の条件によっては、ポールの数を増やしたり減らしたりしても良い。
【0034】
引き続き、
図3〜
図10を使用して、下部プリント基板12と中間誘電体基板4を介し、下部プリント基板12側の信号線と上部プリント基板11とを接続するための導体パターンのレイアウト例を説明する。
図10に示すように、下部プリント基板12の下面7bには、後述する
図12に示す信号線15を通すためのスルーホール12cと、グランド用ランド部10の領域に配置された複数のビアホール配線(導体)12dとが形成されている。
【0035】
また、
図9に示すように、下部プリント基板12の上面6aには、信号線15を通すためのスルーホール12cと、スルーホール12cの周囲に配置された複数のビアホール配線12dとが形成されている。なお、下部プリント基板12の上面6aは、略全面がグランド電極6となっており、この上面6aのグランド電極6と、下面7bのグランド用ランド部10とが複数のビアホール配線12dを介して電気的に接続されている。また、
図6に示すように、上部プリント基板11の下面2bには、信号線15を通すためのスルーホール11cが形成されている。スルーホール11cはパッチ電極3も貫通する。
【0036】
また、
図5に示すように、上部プリント基板11の上面2aには、第1信号用ランド部9と、信号線15を通すためのスルーホール11cとが形成されており、後述する
図12に示すように、スルーホール11cの内壁には、パッチ電極3と第1信号用ランド部9とを電気的に接続するようにスルーホール配線(導体)が形成されている。すなわち、上部プリント基板11では、その上面2aに形成された第1信号用ランド部9と、その下面2bに形成されたパッチ電極3とがスルーホール配線によって電気的に接続されている。
【0037】
図12に、組み立てた状態のアンテナ装置1の構造を部分的に拡大して示す。
図12に示すように、上部プリント基板11側の給電点8と下部プリント基板12側の導体パターンとは、中間誘電体基板4及び下部プリント基板12を介し、電気的に接続されている。前述したように、上部プリント基板11の上面2aに形成された第1信号用ランド部9と、その下面2bに形成されたパッチ電極3とがスルーホール配線によって電気的に接続されている。
【0038】
一方、下部プリント基板12では、その上面6aに形成されたグランド電極6と、その下面7bに形成されたグランド用ランド部10とが複数のビアホール配線を介して電気的に接続されている。そして、下部プリント基板12の下面7bには、グランド用ランド部10の内側には、隙間部10cを隔てて、第2信号用ランド部16が形成されている。すなわち、グランド用ランド部10と第2信号用ランド部16とは、隙間部10cで隔てられている。このため、グランド用ランド部10と第2信号用ランド部16とは電気的に接続されてはいない。換言すると、グランド用ランド部10と第2信号用ランド部16とは絶縁されている。
【0039】
ここで、信号線15は、3つの貫通孔(すなわち、上部プリント基板11に形成されたスルーホール11c、中間誘電体基板4のスルーホール4c、下部プリント基板12のスルーホール12c)を跨るように配置される。なお、信号線15の一端(上端)と第1信号用ランド部9とは半田17によって電気的に接続され、信号線15の他端(下端)と第2信号用ランド部16とは半田17によってそれぞれ電気的に接続されている。そして、第1信号用ランド部9とパッチ電極3とはスルーホール配線を通じて電気的に接続されている。このため、下部プリント基板12の下面7bの第2信号用ランド部16と、上部プリント基板11の下面2bのパッチ電極3とが信号線15を通じて電気的に接続される。
【0040】
本実施例の場合、下部プリント基板12の上面6aには、スルーホール12cを取り囲むように隙間部6cが設けられており、当該隙間部6cの更に外側にグランド用ランド部10が配置される。従って、隙間部6cを設けない場合に比して、信号線15とグランド用ランド部10とを確実に絶縁できる。この結果、信号線15とグランド用ランド部10との電気的ショート(短絡)を防止できる。
【0041】
以上の通り、下部プリント基板12の下面7bに形成された第2信号用ランド部16と、上部プリント基板11の下面2bに形成されたパッチ電極3とが信号線15及び半田17を介して電気的に接続される。また、上部プリント基板11の上面2aの第1信号用ランド部9と下面2bのパッチ電極3とは給電点8で導通しており、グランドとは絶縁されている。一方、下部プリント基板12の下面7bのグランド用ランド部10は、給電点8(信号線15)とは絶縁されており、上面6aのグランド電極6と導通されている(電気的に接続されている)。
【0042】
つまり、上部プリント基板11の上面2aで信号線15と第1信号用ランド部9とが半田接合され、下部プリント基板12の下面7bで信号線15と第2信号用ランド部16とがグランド用ランド部10と絶縁された状態で半田接合されている。したがって、アンテナ装置1の組み立て時に、信号線15を、上部プリント基板11の上面2a側(外側)と、下部プリント基板12の下面7b側(外側)とで半田付けすることができ、組み立て作業を容易に行える。
図12では、グランド用ランド部10は電子回路(回路素子)18のグラウンド端子18fに接続され、第2信号用ランド部16はマイクロストリップ線路19を介して電子回路(回路素子)18のアンテナ端子(入力端子)18aに接続されている。
【0043】
図13に、下部プリント基板12の下面7bに設けられるマイクロストリップ線路19と電子回路18との接続関係を示す。
図12及び
図13に示すように、下部プリント基板12の下面7bには、半田17を通じて信号線15に接合される第2信号用ランド部16と、第2信号用ランド部16から延在するマイクロストリップ線路19とが形成されており、マイクロストリップ線路19は電子回路(回路素子)18と電気的に接続されている。電子回路18は、低雑音増幅回路を含んでいる。
【0044】
図14に、電子回路18の内部構成を示す。
図14は、低雑音増幅器を用いたアクティブアンテナを構成する場合の電子回路18の構成例である。電子回路18は、入力側から順番に、アンテナ20(
図12のうち電子回路18を除く部分)と接続されるアンテナ端子18a、低雑音増幅器(LNA)18c、帯域通過フィルタ(BPF)18d、バイアスティー(Bias Tee)18e、出力端子18bを有する。出力端子18bは外部受信回路である復調IC21(復調器)等に接続される。
【0045】
前述したように、下部プリント基板12の下面7b側で信号線15は、第2信号用ランド部16を介してマイクロストリップ線路19と接続されている。つまり、第2信号用ランド部16もマイクロストリップ線路19の一部となるため、第2信号用ランド部16とマイクロストリップ線路19は、グランド用ランド部10と所定の距離を介して設けられている。具体的には、第2信号用ランド部16とマイクロストリップ線路19は、グランド用ランド部10と所定の幅の隙間部10cを介して設けられている。これにより、マイクロストリップ線路19は高周波信号を伝送することができる。なお、隙間部10cはマイクロストリップ線路19の特性インピーダンスが所望の値(通常は50Ω)となるように設計される。
【0046】
ここで、下部プリント基板12の上面6aはグランド電極6が形成された面(グランド面)であるため、その下面7bは電磁界的にアンテナ部分と分離される。したがって、下面7bには回路部品等を実装して電子回路18を実装することができる。
【0047】
前述したように、本実施例のアンテナ装置1は、上部プリント基板11のパッチ電極3と、これに対向して配置される下部プリント基板12のグランド電極6との間に中間誘電体基板4と空隙5を配置することによりパッチアンテナ構造を形成している。これにより、アンテナ装置1は、安価なプリント基板(誘電体基板)を用いてパッチアンテナを実現することができる。
【0048】
その結果、パッチアンテナを製造するための材料コストを安くすることができる。すなわち、本実施例に係るアンテナ装置1は、3枚のプリント基板(上部プリント基板11、中間誘電体基板4、下部プリント基板12)によって中空構造のパッチアンテナを構成するため、プリント基板の製造工程の量産効果により、パッチアンテナの低コスト化を図ることができる。
【0049】
また、アンテナ装置1の製造工程では、上部プリント基板11の上面2a側(外側)と下部プリント基板12の下面7b側(外側)での半田付けにより、信号線15を上部プリント基板11及び下部プリント基板12に固定することができる。すなわち、2枚のプリント基板の外側の面で半田付け作業を行うことができ、半田付け作業を容易に行うことができる。このことは、アンテナ装置1の組み立て作業を容易化し、製造コストの低減化に寄与する。
【0050】
また、本実施例に係るアンテナ装置1においては、上部プリント基板11のパッチ電極3の平面視での中央部の位置と、下部プリント基板12のグランド電極6の平面視での中央部の位置とが略対向した関係となる。これにより、パッチ電極3の中央部に電界が集まり易くなり、アンテナ装置1における放射効率の上昇度合いをより高めることができる。
【0051】
また、本実施例に係るアンテナ装置1においては、中間誘電体基板4をパッチ電極3の下面に配置している。このため、アンテナ装置1は、中間誘電体基板4を有しない構造のアンテナ装置(以下、「比較装置」という。)に比べ、誘電率の影響による波長短縮効果が期待される。波長短縮効果によりパッチ電極3の一辺の寸法を比較装置に比べて小さくでき、その分、同じ電波を扱う比較装置に比してアンテナ装置1を小型化できる。また、パッチ電極3の一辺が小さくなるので、パッチ電極3の面積は比較装置のパッチ電極の面積よりも小さく済む。これは、パッチ電極3に流れる電流が放射する電磁界のビームフォーミング効果を弱める方向に作用し、比較装置に比して指向性を広げることが可能になる。
【0052】
指向性が広がることで、アンテナ装置1は例えば無線通信システムでの使用に適している。特に、移動体通信システムでは、送信機と受信機の位置関係(方向)が特定できない場合が多いため、広指向性のアンテナ装置1は、移動体通信システムでの使用に適している。
【0053】
(2)実施例2
図15に、本実施例に係るアンテナ装置1Aの概略構造を示す。
図15の場合もポール13とネジ14は省略している。本実施例に係るアンテナ装置1Aでは、
図15及び
図16に示すように、下部誘電体基板7の下面7bに同軸コネクタ25が実装されている。このアンテナ装置1Aは、例えばパッチアンテナ単体として製品出荷される。
【0054】
同軸コネクタ25は、信号端子25aとグランド端子25bとを有している。信号線15は、実施例1のアンテナ装置1の場合と同じく、上部プリント基板11に設けられたスルーホール11cと、中間誘電体基板4に設けられたスルーホール4cと、下部プリント基板12に設けられたスルーホール12cを貫通している。信号線15の一端(上端部)は、上部プリント基板11の上面2aに形成された第1信号用ランド部9、スルーホール配線及び半田17によりパッチ電極3と電気的に接続されている。一方、信号線15の他端(下端部)は、下部誘電体基板7の下面7bに実装された同軸コネクタ25の信号端子25aとして露出している。
【0055】
なお、給電点8は、実施例1と同様、パッチ電極3の中心位置である必要はなく、
図15のX方向に対してパッチ電極3の中心から僅かにずれた位置(インピーダンスが50Ωとなる位置)に配置されている。本実施例の場合も、
図16に示すように、下部プリント基板12の上面6aにはスルーホール12cを取り囲むように隙間部6cが形成され、隙間部6cにより信号線15とグランド電極6とが絶縁されている。また、下部プリント基板12の下面7bにもスルーホール12cを取り囲むようにグランド用ランド部10との間に隙間部6cを形成してもよい。隙間部6cは、スルーホール12cの開口の縁部から例えば0.2mmの幅で形成する。これにより、信号線15とグランド電極6とグランド用ランド部10との電気的ショート(短絡)を防止することができる。
【0056】
図16の場合、下部プリント基板12の下面7bにおいて、同軸コネクタ25のグランド端子25bは、半田17を介してグランド用ランド部10やビアホール配線(導体)と電気的に接続されている。なお、下部プリント基板12の上面6aのグランド電極6と下面7bのグランド用ランド部10とは、複数のビアホール配線を介して電気的に接続されている。
【0057】
以上の接続関係により、下部プリント基板12の下面7bに実装された同軸コネクタ25の信号端子25a(すなわち信号線15)は、上部プリント基板11の下面2bに形成されたパッチ電極3と、半田17及びスルーホール配線を介して電気的に接続される。このように、本実施例のアンテナ装置1の場合にも、上部プリント基板11の上面2aでは信号線15と第1信号用ランド部9とが半田17によって接合され、一方、下部プリント基板12の下面7bでは同軸コネクタ25のグランド端子25bと、グランド用ランド部10及びビアホール配線とが半田17によって接合されている。
【0058】
すなわち、本実施例の場合にも、上部プリント基板11の上面2aの第1信号用ランド部9と下面2bのパッチ電極3とは、給電点8の部分で導通しており、グランドとは絶縁されている。一方、下部プリント基板12の下面7bのグランド用ランド部10は、給電点8(信号端子25a)とは絶縁されており、上面6aのグランド電極6と導通されている(電気的に接続されている)。
【0059】
従って、アンテナ装置1Aの組み立て時に、同軸コネクタ25の信号端子25a(すなわち、信号線15)を、上部プリント基板11の上面2a側(外側)で半田付けすることができ、かつ、同軸コネクタ25のグランド端子25bを、下部プリント基板12の下面7b側(外側)で半田付けすることができる。すなわち、2枚の基板それぞれの外側の面において半田付けの作業を行うことができ、上記作業を容易に行うことができる。特に、同軸コネクタ25をアンテナ装置1Aの縦積み構造の外側から半田付けすることができ、アンテナ装置1Aの組み立てを容易に行うことができる。その結果、実施例1の場合と同様に、アンテナ装置1Aにおいても、その組み立て作業を容易にでき、しかも製造コストを安くすることができる。
【0060】
(3)実施例3
図17に、本実施例に係るアンテナ装置1Bの概略構造を示す。
図17に示すアンテナ装置1Bは、上部プリント基板11の上面2aに2つの給電点8a及び8bを持つ。これら2つの給電点8a及び8bは、それぞれ直交する偏波成分を受信できる給電点であり、偏波ダイバーシティー向けアンテナとして利用することが可能である。さらに、給電点8aと給電点8bで受信される信号を、位相を90度異ならせて合成することで、円偏波を受信可能なアンテナを構成することもできる。本実施例では受信アンテナを想定して説明したが、同様の議論は送信アンテナにおいてもそのまま適用可能である。
【0061】
(4)実施例4
図18に、給電点8Aが中間誘電体基板4を貫通するものの、上部誘電体基板2を貫通しない構成のアンテナ装置1Cの構成例を示す。この実施例の場合、給電点8Aは、導電性材料(Conductive material)によってパッチ電極3に直接接続される。ここで、導電性材料は、銀ペーストや導電性接着剤などの材料や、銅テープ、アルミテープ、等の導電性の両面テープ等を使う事ができる。もちろん、ハンダであっても良い。
【0062】
(5)設計例
以下では、前述したアンテナ装置1、1A、1B(以下では単に「1」という。)の具体的な設計例について説明する。ここでは、GPS向けアンテナ装置に用いる場合(中心周波数1575.42MHz)について説明する。
図19に、設計A(Design A)、設計B(Design B)、設計C(Design C)の3つの設計例を示す。
図19には示していないが、設計A、設計B、設計Cのアンテナ装置は、いずれも共振周波数が1575.42MHzとなるように、パッチ電極3の寸法が設計されている。
【0063】
図20に、実施例に係るアンテナ装置1の設計範囲内における設計A、設計B、設計Cの位置関係を示す。
図21は、設計Aのアンテナ装置で得られる放射パターンのシミュレーション結果である。設計Aのアンテナ装置の動作利得を単位dBiで示した。θ方向の偏波成分、φ方向の偏波成分ともに約5dBiの動作利得を持ち、−3dB半値幅はθ方向の偏波成分が約±40°、φ方向の偏波成分が約±45°である。
【0064】
図22は設計Bのアンテナ装置で得られる放射パターンのシミュレーション結果である。設計Bのアンテナ装置の動作利得を単位dBiで示した。θ方向の偏波成分、φ方向の偏波成分ともに約2dBiの動作利得を持ち、−3dB半値幅はθ方向の偏波成分が約±50°、φ方向の偏波成分が約±40°である。
【0065】
図23は設計Cのアンテナ装置で得られる放射パターンのシミュレーション結果である。設計Cのアンテナ装置の動作利得を単位dBiで示した。θ方向の偏波成分、φ方向の偏波成分ともに約3dBiの動作利得を持ち、−3dB半値幅はθ方向の偏波成分が約±55°、φ方向の偏波成分が約±40°である。
【0066】
以上の通り、本発明のアンテナ装置は式1の範囲内で適切にtu、ti、dgを選ぶことで、利得、ビーム幅、等の放射パターン特性、および周波数帯域幅を、無線システムの仕様に合わせて適切に設計することが可能である。
【0067】
(6)他の実施例
本発明は、上述した実施例に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば前述の実施例の説明では、アンテナ装置1の上部プリント基板11及び下部プリント基板12が、それぞれの4つの角部において、ポール13及びネジ14によって支持されている場合について説明した。しかし、剛性の高い導体部材で形成された信号線15が半田17によってそれぞれの基板と高い接合力で接合されていれば、アンテナ装置1は必ずしも4つの角部にポール13及びネジ14を設けなくてよい。
【0068】
また、前述の実施例では本発明を具体的に説明したが、言うまでもなく、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0069】
また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。なお、図面に記載した各部材や相対的なサイズは、本発明を分かりやすく説明するため簡素化・理想化しており、実装上はより複雑な形状となる。