(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本発明の実施形態に係るナトリウムイオン二次電池用電極活物質は、(1)P3型の結晶構造を有するナトリウム含有複合酸化物を含み、ナトリウム含有複合酸化物が、4価のチタンと、3価のクロムと、を含む。ナトリウム含有複合酸化物がP3型の結晶構造を有し、かつ4価のチタンを含むことで、ナトリウム含有複合酸化物は高い電圧を発現することが可能である。更に、TiおよびCrは電解質に溶出しにくいため、金属元素の溶出に起因する不具合も抑制される。よって、ナトリウムイオン二次電池の充放電サイクルを繰り返す場合でも容量の劣化が小さい。すなわち、高容量かつ高電圧で、容量維持率に優れたナトリウムイオン二次電池が得られる。
【0013】
(2)ナトリウム含有複合酸化物に含まれる4価のチタンのモル数(M
Ti)と、ナトリウム含有複合酸化物に含まれる3価のクロムのモル数(M
Cr)とが、0.4≦M
Ti/M
Cr≦2を満たすことが好ましい。これにより、高電圧を維持しつつ、より高い容量を得ることが可能になる。
【0014】
(3)ナトリウム含有複合酸化物は、2/5≦M
Ti/M
Cr≦4/5を満たすことが好ましい。これにより、P3型結晶構造の安定性が高められる。
【0015】
(4)ナトリウム含有複合酸化物は、一般式:Na
xTi
aM
bCr
1-a-bO
2で表されることが好ましい。また、上記一般式は、0<x<1、0.3≦a≦0.7かつ0≦b≦1/3を満たすことが好ましい。ただし、a+b≦0.7である。元素Mは、例えば、Na、TiおよびCr以外の金属元素よりなる群から選択される少なくとも1種である。すなわち、ナトリウム含有複合酸化物は、Na、TiおよびCr以外の種々の金属元素を含み得る。
【0016】
(5)また、上記一般式は0.4≦a≦0.45を満たすことが好ましい。これにより、ナトリウム含有複合酸化物のP3型の結晶構造の安定性が更に高められる。
【0017】
(6)本発明の一実施形態に係るナトリウムイオン二次電池は、上記の電極活物質を正極活物質として含む正極と、負極活物質を含む負極と、ナトリウムイオン伝導性を有する電解質と、を具備する。上記電極活物質を正極活物質として用いることで、高電圧で、容量維持率に優れたナトリウムイオン二次電池を提供することができる。(7)更に、負極活物質が、上記の電極活物質を含んでもよい。この場合、平均的に2.5V程度の端子間電圧を得ることができる。これにより、例えば、正極活物質と負極活物質とを同じ電極活物質とすることができ、電池の製造コストを低減することができる。
【0018】
(8)本発明の他の実施形態に係るナトリウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、上記の電極活物質を負極活物質として含む負極と、ナトリウムイオン伝導性を有する電解質と、を具備する。上記電極活物質を負極活物質として用いることで、容量維持率に優れたナトリウムイオン二次電池を提供することができる。
【0019】
(9)本発明の実施形態に係るナトリウムイオン二次電池用電極活物質の製造方法は、ナトリウム、4価のチタンおよび3価のクロムを含む原料を調製する工程と、原料を、不活性ガス雰囲気中で、700℃以上、かつ900℃以下の温度で、10〜13時間焼成してナトリウム含有複合酸化物を生成させる工程と、を有する。この製造方法によれば、P3型の結晶構造を有し、高電圧を発現するナトリウムイオン含有複合酸化物を得ることができる。
【0020】
[発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の実施形態について更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0021】
<電極活物質>
電極活物質は、P3型の結晶構造を有するナトリウム含有複合酸化物を含み、ナトリウム含有複合酸化物は、4価のチタンと、3価のクロムとを含む。すなわち、ナトリウム含有複合酸化物は、Na
xCrO
2(0<x≦1)の3価のCrの一部を、4価のTiで置換した組成を有する。4価のTiが導入されると、正電荷が過剰になるため、ナトリウム含有量は減少する。
【0022】
本実施形態に係るナトリウム含有複合酸化物は、金属ナトリウムの酸化還元電位に対して、例えば0.2〜4Vの範囲で充放電を行うことができる。したがって、ナトリウム含有複合酸化物は、正極活物質としても、負極活物質としても用いることができる。
【0023】
P3型の結晶構造を安定化させる観点からは、ナトリウム含有複合酸化物が相当量の4価のチタンを含むことが望ましい。例えば、ナトリウム含有複合酸化物に含まれる4価のチタンのモル数(M
Ti)と、ナトリウム含有複合酸化物に含まれる3価のクロムのモル数(M
Cr)とは、0.4≦M
Ti/M
Cr≦2を満たすことが好ましい。また、ナトリウム含有複合酸化物が相当量の4価のチタンを含むことで、負極活物質として用いる場合の容量を向上させやすくなる。一方、ナトリウム含有複合酸化物を正極活物質として用いる場合、容量を向上させる観点から、4価のチタンの含有量は小さいことが望ましい。例えば、容量とP3型結晶構造の安定性とのバランスを考慮すると、2/5≦M
Ti/M
Cr≦4/5であることが好ましい。
【0024】
以上より、ナトリウム含有複合酸化物を一般式:Na
xTi
aM
bCr
1-a-bO
2で表すとき、上記一般式は、例えば0<x<1、0.3≦a≦0.7かつ0≦b≦1/3を満たすことが好ましい。ただし、a+b≦0.7である。
【0025】
ナトリウム含有複合酸化物のナトリウム含有量(x値)は、ある程度はチタン含有量に依存する。例えば0.4≦a≦0.45であるときは、0.5≦x<0.65を満たすことが好ましい。なお、xが0.9を超えると、O3型結晶構造が安定となる傾向があり、P3型結晶構造が形成されにくくなる場合がある。また、xが0.1より小さいと、P3型結晶構造が形成されにくくなる場合がある。
【0026】
ナトリウム含有複合酸化物を正極活物質として用いる場合、高容量を確保する観点から、1/2≦x<1であることが好ましい。このとき、0.3≦a≦1/2であることが好ましい。ナトリウム含有複合酸化物を負極活物質として用いる場合、高容量を確保する観点から、1/3≦x≦2/3であることが好ましい。このとき、1/3≦a≦2/3であることが好ましい。
【0027】
本実施形態に係るナトリウム含有複合酸化物は、正極活物質および負極活物質の両方に用いることもできる。この場合、正極活物質と負極活物質とで、それぞれ組成の異なるナトリウム含有複合酸化物を用いてもよく、同じ組成のナトリウム含有複合酸化物を用いてもよい。正極活物質および負極活物質として、同じ組成のナトリウム含有複合酸化物を用いることで、ナトリウムイオン二次電池の製造工程を簡易にでき、製造コストを低減することができる。正極活物質および負極活物質の両方に同じ組成のナトリウム含有複合酸化物を用いる場合、正極および負極の容量を両立する観点から、1/3≦x≦2/3であることが好ましく、1/3≦a≦2/3であることが好ましい。
【0028】
元素Mは、Na、TiおよびCr以外の金属元素であればよく、例えば周期表第4〜6周期の元素などである。これらのうち、1種だけが元素Mとしてナトリウム含有複合酸化物に含まれてもよく、2種以上が含まれてもよい。
【0029】
なお、上記組成の範囲は、原料の焼成により生成するナトリウム含有複合酸化物の組成における範囲である。合成直後で充放電を未経験のナトリウム含有複合酸化物が3価の元素と4価の元素とを含む場合、そのナトリウム含有複合酸化物に含まれる1価元素であるナトリウムのモル数N
1は、3価の元素のモル数N
3とほぼ等しくなりやすい。例えば0.9≦N
1/N
3≦1.1が満たされることが多い。
【0030】
上記一般式のx値は、ナトリウムイオン二次電池の充放電により増減する。ナトリウム含有複合酸化物を正極活物質とする場合、x値は充電時に減少し、放電時に増加する。充電時のx値の下限は0.1≦xであることが好ましく、0.2≦xであることがより好ましい。放電時のx値の上限はx<1であることが好ましく、x≦0.9であることがより好ましい。
【0031】
ナトリウム含有複合酸化物を負極活物質とする場合、x値は充電時に増加し、放電時に減少する。充電時のx値の上限はx<1であることが好ましく、x≦0.9であることがより好ましい。放電時のx値の下限は0.1≦xであることが好ましく、0.2≦xであることがより好ましい。
【0032】
次に、P3型結晶構造について更に説明する。代表的なP3型結晶構造は、空間群R―3mに帰属される。基本的なP3型結晶は層状の母構造を有するが、P3型の母構造にP2型および/またはO3型の積層欠陥が含まれる場合もある。P3型結晶構造を有する金属酸化物は、遷移金属元素(Me)と酸素とで構成されるMeO
2層の積層構造を含む。P3型結晶構造においては、遷移金属元素および酸素の配置がそれぞれ異なる3種類のMeO
2層が存在し、MeO
2層間に三角柱(Prismatic)サイトを有する。例えば正極において、放電時には、MeO
2層の層間にナトリウムイオンが吸蔵され、充電時には、MeO
2層の層間からナトリウムイオンが放出される。そして、少なくとも放電状態では、MeO
2層間の三角柱サイトを、ナトリウムイオンが占有した構造をとり得る。遷移金属元素Meは、上記の一般式におけるTi、Crおよび元素Mに相当する。ナトリウム含有複合酸化物がP3型結晶構造を有するか否かは、X線回折により確認することができる。
【0033】
本発明に係るナトリウム含有複合酸化物は、上記組成を有し、かつP3型の結晶構造を有すればよく、X線回折におけるピーク位置の詳細は特に限定されない。また、P3型の結晶構造に帰属されるピークは、客観的にその存在を確認できる程度の実質的なピークであればよい。P3型の結晶構造に帰属される代表的なピークP
P3は、例えば2θ=40〜45°の範囲に観測される。なお、P3型の結晶構造に帰属されないピークは、実質的に観測されないことが望ましい。
【0034】
(平均一次粒子径)
ナトリウム含有複合酸化物の平均一次粒子径は、特に限定されないが、例えば0.1μm以上であり、0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましい。この範囲であれば、P3型結晶が十分に成長しているといえる。また、平均一次粒子径は、例えば5μm以下であり、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。この範囲であれば、複合酸化物の反応面積を十分に確保でき、出力特性に優れた電極活物質を得ることができる。平均一次粒子径は、複合酸化物の走査型電子顕微鏡(SEM)像において10〜30個の一次粒子を任意に選択し、選択した一次粒子の最大径の平均値として求めればよい。
【0035】
上記ナトリウム含有複合酸化物を含む電極を作製し、対極に金属ナトリウムを用いて電池を組み立てた場合、その開回路電圧(OCV)は、例えば2.5〜2.6Vである。正極として用いる場合は、金属ナトリウムの酸化還元電位に対して、2.5V〜4.0Vの範囲で充放電することができる。ただし、充放電サイクルを安定して繰り返す観点から、充電時の上限電圧は3.9V以下とすることが好ましく、3.85V以下がより好ましく、3.8V以下が更に好ましい。また、放電時の下限電圧は、2.6V以上が好ましく、2.8V以上がより好ましい。
【0036】
上記ナトリウム含有複合酸化物を含む負極として用いる場合には、負極は、金属ナトリウムの酸化還元電位に対して、2.0〜0.2Vの範囲で充放電することができる。ただし、充放電サイクルを安定して繰り返す観点から、充電時の下限電圧は0.3V以上が好ましく、放電時の上限電圧は1.5V以下が好ましい。
【0037】
(ナトリウム含有複合酸化物の製造方法)
次に、上記ナトリウム含有複合酸化物の製造方法として、原料を調製する工程(i)と、原料を焼成する工程(ii)と、を有する方法について説明する。ただし、ナトリウム含有複合酸化物の製造方法は、以下に限定されない。
【0038】
工程(i)
ナトリウム、4価のチタンおよび3価のクロムを含む原料を調製する。必要に応じて、原料にはNa、TiおよびCr以外の元素Mを含ませる。このような原料は、例えば、所定価数のナトリウム、チタン、クロムおよび元素Mよりなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物の混合物である。化合物としては、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩(例えばシュウ酸塩)などが適している。
【0039】
原料としては、例えば、ナトリウム化合物と、チタン化合物と、クロム化合物と、元素Mを含む化合物とを含む混合物を調製すればよい。原料、すなわち化合物の混合物は、ボールミル、V型混合機、攪拌機などの混合装置を用いて、乾式または湿式で混合すればよい。
【0040】
ナトリウム化合物としては、Na
2CO
3、NaHCO
3、Na
2Oなどを用いることができる。これらのうちでは、Na
2CO
3の取り扱いが最も容易である。チタン化合物としては、TiO
2、チタン酸、メタチタン酸、チタン酸塩などを用いることができる。これらのうちでは、TiO
2の入手が容易で取り扱いが最も容易である。クロム化合物としては、Cr
2O
3、Cr(OH)
3、Cr(CH
3COO)
3などを用いることができる。また、チタンとクロムを含む複塩、チタンと元素Mを含む複塩、クロムと元素Mを含む複塩、チタンとクロムと元素Mを含む複塩などを用いてもよい。これらの複塩は、例えば、晶析法または共沈法により、酸化物もしくは水酸化物として調製することができる。
【0041】
原料は、これに含まれる4価のチタンのモル数(M
Ti)と、3価のクロムのモル数(M
Cr)とが、2/5≦M
Ti/M
Cr≦2もしくは2/5≦M
Ti/M
Cr≦4/5を満たすように配合する。また、正極活物質であれば、ナトリウム以外の金属元素の合計に対するナトリウムのモル比xが、1/2≦x<1もしくは1/2≦x≦0.9となるように配合することが好ましい。負極活物質であれば、ナトリウム以外の金属元素の合計に対するナトリウムのモル比xが、1/3≦x≦2/3もしくは1/3≦x≦0.6となるように配合することが好ましい。
【0042】
元素Mを含む複合酸化物を調製する場合には、チタンとクロムとのモル比が、a:1−a−b(0.1≦a≦2/3かつ0≦b≦1/3)となるように配合することが好ましい。x値、a値およびb値は、所望のナトリウム含有複合酸化物の組成に応じて適宜選択される。
【0043】
工程(ii)
次に、原料を、不活性ガス雰囲気中で、700℃以上、かつ900℃以下の温度で焼成してナトリウム含有複合酸化物を生成させる。焼成温度を700℃以上とすることで、P3型の結晶構造が十分に成長し、原料成分が残存しにくく、純度の高いナトリウム含有複合酸化物を生成させることができる。また、焼成温度を900℃以下とすることで、P3型の結晶構造の純度を高めることができる。
【0044】
焼成温度は、800℃およびこの付近であることが望ましいが、750℃〜850℃も好ましい。なお、焼成温度とは、昇温過程および降温過程を除く期間(以下、本焼成期間)の平均的な温度である。よって、例えば、本焼成期間中に瞬間的に、もしくは短時間だけ700℃未満になったり、900℃を超えたりすることは許容される。ただし、本焼成期間の80%程度は、焼成雰囲気の温度が700℃〜900℃(好ましくは750℃〜850℃)に維持されることが好ましい。
【0045】
本焼成期間は、10時間〜13時間であり、11時間〜13時間が更に好ましい。これにより、より安定的にP3型結晶構造を成長させることができる。
【0046】
原料を不活性雰囲気で焼成する場合、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどを用いることができる。これらの1種が単独で不活性雰囲気を形成してもよく、複数種の混合気体が不活性雰囲気を形成してもよい。
【0047】
不活性ガス雰囲気の圧力は、特に限定されないが、例えば0.9×10
5Pa〜1.1×10
5Paであればよい。なお、原料を、酸素を含む雰囲気で焼成すると、クロムの酸化が進行し、副生物の含有量が増加する傾向がある。よって、酸素はできるだけ雰囲気から排除することが望ましい。ただし、酸素の分圧が雰囲気圧力の0.1%以下であれば特に問題はない。
【0048】
上記焼成を行う前に、上記と同様の雰囲気中で、400〜600℃の温度範囲で原料の仮焼成を行ってもよい。仮焼成により、原料に含まれる揮発成分(例えば水分)を緩やかに除去することができる。これにより、その後の本焼成期間での結晶成長が進行しやすくなる。
【0049】
<ナトリウムイオン二次電池>
次に、ナトリウムイオン二次電池について説明する。ナトリウムイオン二次電池は、上記電極活物質を含む正極および/または負極と、ナトリウムイオン伝導性を有する非水電解質と、を具備する。
図1は、一実施形態に係るナトリウムイオン二次電池100を概略的に示す縦断面図である。ナトリウムイオン二次電池は、積層型の電極群、電解質(図示せず)およびこれらを収容する角型の電池ケース10を具備する。電池ケース10は、例えばアルミニウム製であり、上部が開口した有底の容器本体12と、上部開口を塞ぐ蓋体13とで構成されている。
【0050】
蓋体13の中央には、電池ケース10の内圧が上昇したときに内部で発生したガスを放出するための安全弁16が設けられている。安全弁16を中央にして、蓋体13の一方側寄りには、蓋体13を貫通する外部負極端子14が設けられ、蓋体13の他方側寄りの位置には、蓋体13を貫通する外部正極端子が設けられる。
【0051】
積層型の電極群は、いずれもシート状の複数の正極2と複数の負極3およびこれらの間に介在する複数のセパレータ1により構成されている。各正極2の一端部には、正極リード片2aが形成されている。複数の正極2の正極リード片2aは束ねられ、電池ケース10の蓋体13に設けられた外部正極端子に接続されている。同様に、各負極3の一端部には、負極リード片3aが形成されている。複数の負極3の負極リード片3aは束ねられ、電池ケース10の蓋体13に設けられた外部負極端子14に接続される。
【0052】
外部正極端子および外部負極端子14は、いずれも柱状であり、少なくとも外部に露出する部分が螺子溝を有する。各端子の螺子溝にはナット7が嵌められ、ナット7を回転することにより蓋体13に対してナット7が固定される。各端子の電池ケース10内部に収容される部分には、鍔部8が設けられており、ナット7の回転により、鍔部8が、蓋体13の内面に、O−リング状のガスケット9を介して固定される。
【0053】
(正極)
正極は、正極集電体と、正極集電体に担持された上記正極活物質(または正極合剤)とを含む。正極集電体は、金属箔でもよく、金属多孔体でもよい。正極集電体の材質としては、正極電位での安定性の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金などが好ましい。
【0054】
正極活物質としては、上記ナトリウム含有複合酸化物を単独で用いてもよく、他のナトリウムイオンを吸蔵および放出(または挿入および脱離)する材料(以下、第2正極活物質)と併用してもよい。上記ナトリウム含有複合酸化物を負極活物質としてのみ用いる場合、第2正極活物質を単独で用いてもよい。第2正極活物質は、特に限定されないが、例えば、亜クロム酸ナトリウム(NaCrO
2)、ニッケルマンガン酸ナトリウム(NaNi
0.5Mn
0.5O
2、Na
2/3Ti
1/6Ni
1/3Mn
1/2O
2など)、鉄コバルト酸ナトリウム(NaFe
0.5Co
0.5O
2など)、鉄マンガン酸ナトリウム(Na
2/3Fe
1/3Mn
2/3O
2など)などが挙げられる。
【0055】
正極合剤は、正極活物質に加え、さらに導電助剤および/またはバインダを含むことができる。正極は、正極集電体に正極合剤を塗布または充填し、乾燥し、必要に応じて、乾燥物を厚み方向に圧延することにより得られる。正極合剤は、通常、分散媒を含むスラリーの形態で使用される。
【0056】
導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、および/または炭素繊維などが挙げられる。バインダとしては、例えば、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ゴム状重合体、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂(ポリアミドイミドなど)、および/またはセルロースエーテルなどが挙げられる。分散媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP:N-methyl-2-pyrrolidone)などの有機溶媒の他、水などが用いられる。
【0057】
(負極)
負極は、負極集電体と、負極集電体に担持された負極活物質(または負極合剤)とを含む。負極集電体は、正極集電体と同様に、金属箔または金属多孔体であってもよい。負極集電体の材質としては、ナトリウムと合金化せず、負極電位で安定であることから、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス鋼などが好ましい。
【0058】
負極活物質としては、上記ナトリウム含有複合酸化物を単独で用いてもよく、他のナトリウムイオンを可逆的に吸蔵および放出(もしくは挿入および脱離)する材料および/またはナトリウムと合金化する材料(以下、第2負極活物質)と併用してもよい。上記ナトリウム含有複合酸化物を正極活物質としてのみ用いる場合、第2正極活物質を単独で用いてもよい。いずれの材料も、ファラデー反応により容量を発現する材料である。
【0059】
第2負極活物質としては、ナトリウム、チタン、亜鉛、インジウム、スズ、ケイ素などの金属またはその合金、もしくはその化合物;および炭素質材料などが例示できる。金属の化合物としては、チタン酸リチウム(Li
2Ti
3O
7および/またはLi
4Ti
5O
12など)などのリチウム含有チタン酸化物、およびチタン酸ナトリウム(Na
2Ti
3O
7および/またはNa
4Ti
5O
12など)などのナトリウム含有チタン酸化物が例示できる。
【0060】
第2負極活物質のうち、炭素質材料としては、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、および/または難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)などが例示できる。第2負極活物質は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0061】
負極は、例えば、正極の場合に準じて、負極集電体に、負極活物質を含む負極合剤を塗布または充填し、乾燥し、乾燥物を厚み方向に圧延することにより形成できる。負極活物質には、必要に応じて、ナトリウムイオンをプレドープしてもよい。
【0062】
負極合剤は、負極活物質に加え、さらに導電助剤および/またはバインダを含むことができる。負極合剤は、通常、分散媒を含むスラリーの形態で使用される。導電助剤、バインダ、および分散媒としては、それぞれ、正極について例示したものから適宜選択できる。
【0063】
(セパレータ)
セパレータとしては、例えば、樹脂製の微多孔膜、不織布などが使用できる。セパレータの材質は、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂などが例示できる。
【0064】
(電解質)
電解質としては、例えば、非水電解質、水溶液電解質などが使用できる。非水電解質は、ナトリウムイオン伝導性を有する限り特に限定されない。例えば、有機溶媒にナトリウムイオンとアニオンとの塩(ナトリウム塩)を溶解させた有機電解質の他、ナトリウムイオンおよびアニオンを含むイオン液体などが用いられる。非水電解質におけるナトリウム塩の濃度は、例えば0.3〜3mol/リットルであればよい。
【0065】
ナトリウム塩を構成するアニオン(第1アニオン)の種類は特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF
6−)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF
4−)、過塩素酸イオン(ClO
4−)、ビス(オキサラト)ボレートイオン(B(C
2O
4)
2−)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF
3SO
3−)、ビススルホニルアミドアニオンなどが挙げられる。ナトリウム塩は、一種を単独で用いてもよく、第1アニオンの種類が異なるナトリウム塩を二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0066】
非水電解質にイオン液体を用いる場合、非水電解質中のイオン液体の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。非水電解質は、イオン液体に加え、有機溶媒や添加剤を少量含んでもよい。なお、「イオン液体」とは、溶融状態の塩(溶融塩)である。
【0067】
非水電解質に有機電解質を用いる場合、非水電解質中における有機溶媒とナトリウム塩との合計量は、非水電解質の80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。非水電解質は、有機電解質に加え、イオン液体や添加剤を少量含んでもよい。
【0068】
有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトンなどの環状炭酸エステルなどを好ましく用いることができる。有機溶媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
イオン液体は、ナトリウムイオン(第1カチオン)に加え、さらに第2カチオンを含んでいてもよい。このような第2カチオンとしては、有機カチオンが好ましい。第2カチオンは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。有機カチオンとしては、窒素含有オニウムカチオンが好ましい。
【0070】
水溶液電解質は、ナトリウム塩と水とを含む水溶液である。ナトリウム塩としては、例えば、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。水溶液電解質におけるナトリウム塩の濃度は、例えば、0.1〜5mol/リットルとすることができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。ただし、以下の実施例は、何ら本発明を限定するものではない。
【0072】
(実施例1)
<ナトリウム含有複合酸化物の合成>
Na
2CO
3、TiO
2およびCr
2O
3を、Na:Ti:Crのモル比が0.583:0.417:0.583となるように秤量し、600rpmのボールミルで12時間混合して原料を得た。得られた原料をペレットに成型した後、Ar雰囲気中で、約800℃で12時間焼成し、実施例1の複合酸化物を得た。
【0073】
[評価1]
実施例1の複合酸化物の粉末X線回折測定を下記条件で行い、結晶構造の同定を行った。測定装置は、株式会社リガク製の粉末X線回折測定装置(MultiFlex)を用いた。
X線:CuKα
電圧−電流:40kV−20mA
測定角度範囲:2θ=10〜70°
ステップ:0.02°
スキャンスピード:6°/分
【0074】
粉末X線回折像(XRDパターン)およびリートベルト解析の結果、実施例1の複合酸化物がP3型結晶構造を有し、Na
0.583Ti
0.417Cr
0.583O
2で表されることが判明した。
【0075】
[評価2]
実施例1の複合酸化物と、導電材としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリビフッ化ビニリデンとを、質量比80:13:7で含み、適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を分散媒として含むスラリーを調製した。得られたスラリーを集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に塗布した。塗膜の厚さは40μmとした。塗膜を十分に乾燥させた後、アルミニウム箔とともに打ち抜いて、直径1.0cmのコイン型の電極を得た。
【0076】
上記電極を正極とし、金属ナトリウムを対極として、コイン型のナトリウムイオン二次電池(以下、コイン型電池A)を作製した。非水電解質には、ナトリウムビスフルオロスルホニルアミド(NaFSA):1−メチル−1−プロピルピロリジニウムフルオロスルホニルアミド(NaPy13)のモル比が30:70のイオン液体を用いた。セパレータにはガラスフィルタを使用した。
【0077】
コイン型電池Aの充放電を、正極の単位面積あたりの電流密度0.2mA/cm
2で、60℃の恒温室内で、2.5V〜3.8Vの範囲で行った。
図3にコイン型電池Aの30サイクル目までの充放電曲線を示す。また、
図4にコイン型電池Aの充放電サイクル数と放電容量との関係を示す。
【0078】
図3、4より、実施例1では、良好なサイクル特性および容量維持率を得られていることが理解できる。なお、容量維持率は、初回の充放電における放電容量に対する所定サイクル時における容量の割合である。
【0079】
[評価3]
評価2で作製した、コイン型電池Aの充放電を、正極の単位面積あたりの電流密度0.2mA/cm
2で、60℃の恒温室内で、0.2V〜2.0Vの範囲で行った。
図5にコイン型電池Aの30サイクル目までの充放電曲線を示す。また、
図6にコイン型電池Aの0.2V〜2.0Vでの充放電サイクル数と放電容量との関係を示す。
【0080】
図5、6より、実施例1の複合酸化物を負極活物質として用いる場合でも、良好なサイクル特性および容量維持率を得られていることが理解できる。
【0081】
[評価4]
評価2で作製した、実施例1の複合酸化物を含むコイン型の電極を2つ用意し、一方を正極とし、他方を負極としたこと以外、コイン型電池Aと同様にして、コイン型電池Bを作製した。
【0082】
コイン型電池Bの充放電を、正極の単位面積あたりの電流密度0.2mA/cm
2で、60℃の恒温室内で、0〜1.5Vの範囲で行った。その結果、実施例1の複合酸化物を正極活物質および負極活物質としたコイン型電池でも、充放電を行えることが確認された。