特許第6560650号(P6560650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6560650
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】光学ガラス及び光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20190805BHJP
   C03C 3/066 20060101ALI20190805BHJP
   C03C 3/15 20060101ALI20190805BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   C03C3/068
   C03C3/066
   C03C3/15
   G02B1/00
【請求項の数】6
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2016-194368(P2016-194368)
(22)【出願日】2016年9月30日
(62)【分割の表示】特願2012-278571(P2012-278571)の分割
【原出願日】2012年12月20日
(65)【公開番号】特開2017-39640(P2017-39640A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2016年9月30日
【審判番号】不服2018-10101(P2018-10101/J1)
【審判請求日】2018年7月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-289956(P2011-289956)
(32)【優先日】2011年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-190082(P2012-190082)
(32)【優先日】2012年8月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】桃野 浄行
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 金 公彦
【審判官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−83705(JP,A)
【文献】 特開2010−30879(JP,A)
【文献】 特開2008−137877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/062-3/068
C03C 3/12 -3/21
G02B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で
成分を1.0〜13.90%、
La成分を39.056.0%、
成分を1.80〜20.0%
Nb成分を1.0%超15.0%以下
TiO成分を9.20%以上20.0%以下、及び
WO成分を0.5%以上15.0%以下、
含有し
成分の含有量が2.80%以下、
Yb成分の含有量が2.80%以下
SiO成分の含有量が15.0%以下
であり、
Ta成分を含有せず、
Gd成分及びYb分の含有量の和が2.80%以下であり、
成分及びSiO成分の含有量の和が13.88%以上21.0%以下であり、
Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が54.0%以上65.0%以下であり
.75以上の屈折率(n)を有し、23以上50以下のアッベ数(ν)を有する光学ガラス。
【請求項2】
Nb成分及びWO成分の含有量の和が5.50%以上11.14%以下である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量比(Nb+WO)/(B+SiO)が0.387以上0.803以下である請求項1又は2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
1300℃以下の液相温度を有する請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
請求項1からのいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【請求項6】
請求項記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器や、プロジェクタやプロジェクションテレビ等の画像再生(投影)機器等の各種光学機器の分野では、光学系で用いられるレンズやプリズム等の光学素子の枚数を削減し、光学系全体を軽量化及び小型化する要求が強まっている。
【0003】
光学素子を作製する光学ガラスの中でも特に、光学系全体の軽量化及び小型化を図ることが可能な、1.75以上の屈折率(n)を有し、23以上50以下のアッベ数(ν)を有する高屈折率低分散ガラスの需要が非常に高まっている。このような高屈折率低分散ガラスとしては、特許文献1及び2に代表されるようなガラス組成物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−016293号公報
【特許文献2】特開2011−144069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学ガラスから光学素子を作製する方法としては、例えば、光学ガラスから形成されたゴブ又はガラスブロックに対して研削及び研磨を行って光学素子の形状を得る方法、光学ガラスから形成されたゴブ又はガラスブロックを再加熱して成形(リヒートプレス成形)して得られたガラス成形体を研削及び研磨する方法、及び、ゴブ又はガラスブロックから得られたプリフォーム材を超精密加工された金型で成形(精密モールドプレス成形)して光学素子の形状を得る方法が知られている。いずれの方法であっても、熔融したガラス原料からゴブ又はガラスブロックを形成する際に、安定なガラスが得られることが求められる
【0006】
ここで、得られるゴブ又はガラスブロックを構成するガラスの失透に対する安定性(耐失透性)が低下してガラスの内部に結晶が発生した場合、もはや光学素子として好適なガラスを得ることができない。
【0007】
また、光学ガラスの材料コストを低減するために、光学ガラスを構成する諸成分の原料費は、なるべく安価であることが望まれる。ところが、特許文献1及び2に記載されたガラスは、このような要求に十分応えるものとは言い難い。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率及びアッベ数が所望の範囲内にある安定なガラスを、より安価に得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、B成分及びLa成分を必須成分として含有するガラスにおいて、Y成分の含有量を所定の範囲内におくことにより、所望の高屈折率及び高アッベ数を有する安定なガラスが得られながらも、ガラスの材料コストが低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) 質量%でB成分を1.0〜30.0%及びLa成分を10.0〜60.0%含有し、Y成分の含有量が30.0%以下である光学ガラス。
【0011】
(2) 質量%で
Gd成分 0〜40.0%
Yb成分 0〜20.0%
である(1)に記載の光学ガラス。
【0012】
(3) Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が30.0%以上70.0%以下である(1)又は(2)に記載の光学ガラス。
【0013】
(4) 質量比(Gd+Yb)/(La+Y)が0.50以下である(1)から(3)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0014】
(5) 質量%で、Ta成分の含有量が15.0%以下である(1)から(4)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0015】
(6) Gd成分、Yb成分及びTa成分の含有量の和が20.0%以下である(1)から(5)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0016】
(7) 質量%で
WO成分 0〜25.0%
Nb成分 0〜20.0%
TiO成分 0〜20.0%
である(1)から(6)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0017】
(8) Nb成分及びWO成分の含有量の和が1.0%以上30.0%以下である(1)から(7)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0018】
(9) 質量%で、SiO成分の含有量が20.0%以下である(1)から(8)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0019】
(10) B成分及びSiO成分の含有量の和が1.0%以上30.0%以下である(1)から(9)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0020】
(11) 質量比(Nb+WO)/(B+SiO)が0.15以上2.00以下である(1)から(10)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0021】
(12) 質量%で
MgO成分 0〜20.0%
CaO成分 0〜20.0%
SrO成分 0〜20.0%
BaO成分 0〜25.0%
である(1)から(11)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0022】
(13) RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の質量和が25.0%以下である(1)から(12)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0023】
(14) 質量%で
LiO成分 0〜10.0%
NaO成分 0〜10.0%
O成分 0〜10.0%
CsO成分 0〜10.0%
である(1)から(13)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0024】
(15) RnO成分(式中、RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上)の質量和が15.0%以下である(1)から(14)のいずれかに記載の光学ガラス。
【0025】
(16) 質量%で
成分 0〜10.0%
GeO成分 0〜10.0%
ZrO成分 0〜15.0%
ZnO成分 0〜15.0%
Al成分 0〜10.0%
Ga成分 0〜10.0%
Bi成分 0〜10.0%
TeO成分 0〜20.0%
SnO成分 0〜1.0%
Sb成分 0〜1.0%
である(1)から(15)のいずれか記載の光学ガラス。
【0026】
(17) 1.75以上の屈折率(n)を有し、23以上50以下のアッベ数(ν)を有する(1)から(16)のいずれか記載の光学ガラス。
【0027】
(18) 1300℃以下の液相温度を有する(1)から(17)のいずれか記載の光学ガラス。
【0028】
(19) (1)から(18)のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【0029】
(20) (19)記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、屈折率及びアッベ数が所望の範囲内にあり、且つ光学機器の軽量化に寄与しうる安定なガラスを、より安価に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で、B成分を1.0〜30.0%及びLa成分を10.0〜60.0%含有し、Y成分の含有量が30.0%以下である。La成分を必須成分として含有し、且つY成分の含有量を所定の範囲内にすることで、高価であり且つガラスの比重を増加することの多い希土類元素、特にGdやYbを低減しても、高い屈折率及びアッベ数が得られ、且つ液相温度の上昇が抑えられる。そのため、1.75以上の屈折率及び23以上50以下のアッベ数を有しながらも、比重が小さく光学機器の軽量化に寄与しうる、耐失透性の高い光学ガラスを、より安価に得ることができる。
【0032】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0033】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中で特に断りがない場合、各成分の含有量は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0034】
<必須成分、任意成分について>
成分は、ガラス形成酸化物として欠かすことの出来ない必須成分である。
特に、B成分を1.0%以上含有することで、ガラスの耐失透性を高められ、且つガラスの分散を小さくできる。従って、B成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは8.5%、さらに好ましくは10.5%を下限とする。
一方、B成分の含有量を30.0%以下にすることで、より大きな屈折率を得易くでき、化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、B成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは20.0%を上限とする。
成分は、原料としてHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いることができる。
【0035】
La成分は、ガラスの屈折率を高め、分散を小さく(アッベ数を大きく)する成分である。特に、La成分を10.0%以上含有することで、所望の高屈折率を得ることができる。従って、La成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは26.0%、さらに好ましくは34.0%、さらに好ましくは39.0%を下限とする。
一方、La成分の含有量を60.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められる。従って、La成分の含有量は、好ましくは60.0%、より好ましくは58.0%、さらに好ましくは56.0%を上限とする。
La成分は、原料としてLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)等を用いることができる。
【0036】
成分は、0%超含有する場合に、高屈折率及び高アッベ数を維持しながらも、ガラスの材料コストを抑えられ、且つ比重を低減できる任意成分である。このY成分は、希土類元素の中でも材料コストが安く、他の希土類元素に比べて比重を低減し易いため、本発明の光学ガラスにとって有用である。従って、Y成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%超、さらに好ましくは1.0%超としてもよい。
一方で、Y成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下を抑えられ、且つガラスの耐失透性を高められる。従って、Y成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは20.0%を上限とする。
成分は、原料としてY、YF等を用いることができる。
【0037】
Gd成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つアッベ数を高められる任意成分である。
一方で、希土類元素の中でも特に高価なGd成分を40.0%以下に低減することで、ガラスの材料コストが低減されるため、より安価な光学ガラスを作製できる。また、これによりガラスのアッベ数の必要以上の上昇を抑えられる。従って、Gd成分の含有量は、それぞれ好ましくは40.0%、より好ましくは30.0%、さらに好ましくは20.0%、さらに好ましくは15.0%を上限とし、さらに好ましくは10.0%未満とする。
Gd成分は、原料としてGd、GdF等を用いることができる。
【0038】
Yb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つ分散を小さくできる任意成分である。
一方で、Yb成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められる。従って、Yb成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Yb成分は、原料としてYb等を用いることができる。
【0039】
Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、30.0%以上75.0%以下が好ましい。
特に、この和を30.0%以上にすることで、ガラスの分散を小さくできる。従って、Ln成分の質量和は、好ましくは30.0%、より好ましくは40.0%、さらに好ましくは45.0%、さらに好ましくは54.0%を下限とする。
一方で、この和を70.0%以下にすることで、ガラスの液相温度が低くなるため、耐失透性を高められる。従って、Ln成分の質量和は、好ましくは70.0%、より好ましくは68.0%、さらに好ましくは65.0%を上限とする。
【0040】
ここで、La成分及びY成分の含有量の和に対する、Gd成分及びYb成分の含有量の和の比率(質量比)は、0.50以下が好ましい。これにより、高いアッベ数と高い透過率を維持しながらも、高価なGd成分やYb成分の使用が低減されるため、ガラスの材料コストを抑えられる。従って、質量比(Gd+Yb)/(La+Y)は、好ましくは0.50、より好ましくは0.30、さらに好ましくは0.22、さらに好ましくは0.20を上限とする。
【0041】
Ta成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、高価なTa成分を15.0%以下に低減することで、ガラスの材料コストが低減されるため、より安価な光学ガラスを作製できる。また、Ta成分の含有量を15.0%以下にすることで、原料の熔解温度が低くなり、原料の熔解に要するエネルギーが低減されるため、光学ガラスの製造コストをも低減できる。従って、Ta成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは13.0%、さらに好ましくは8.0%を上限とする。特に、より安価な光学ガラスを作製する観点では、Ta成分の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは4.0%を上限とし、さらに好ましくは1.0%未満とする。
Ta成分は、原料としてTa等を用いることができる。
【0042】
また、本発明の光学ガラスでは、Gd成分、Yb成分及びTa成分の含有量の和(質量和)は、20.0%以下が好ましい。これにより、これら高価な成分の含有量が低減されるため、ガラスの材料コストを抑えられる。従って、質量和(Gd+Yb+Ta)は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは13.0%、さらに好ましくは10.0%を上限とする。
【0043】
WO成分は、0%超含有する場合に、他の高屈折率成分によるガラスの着色を低減しながら屈折率を高め、且つガラスの耐失透性を高められる任意成分である。また、WO成分は、ガラス転移点を低くできる成分でもある。そのため、WO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは0.5%、さらに好ましくは0.6%を下限としてもよい。
一方で、WO成分の含有量を25.0%以下にすることで、WO成分によるガラスの着色を低減して可視光透過率を高めることができる。従って、WO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは15.0%を上限とする。
WO成分は、原料としてWO等を用いることができる。
【0044】
Nb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。そのため、Nb成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは1.5%超、さらに好ましくは2.0%超、さらに好ましくは4.0%超にしてもよい。
一方で、Nb成分の含有量を20.0%以下にすることで、Nb成分の過剰な含有によるガラスの耐失透性の低下や、可視光の透過率の低下を抑えることができる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは13.0%を上限とする。
Nb成分は、原料としてNb等を用いることができる。
【0045】
TiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、アッベ数を低く調整し、且つ耐失透性を高められる任意成分である。そのため、TiO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限としてもよい。
一方で、TiOの含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減して可視光透過率を高め、ガラスのアッベ数の必要以上の低下を抑えられる。また、TiO成分の過剰な含有による失透を抑えられる。従って、TiO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは18.0%、さらに好ましくは15.0%を上限とし、さらに好ましくは10.0%未満とする。
TiO成分は、原料としてTiO等を用いることができる。
【0046】
ここで、Nb成分及びWO成分の含有量の和(質量和)は、1.0%以上30.0%以下が好ましい。
特に、この和を1.0%以上にすることで、ガラスの材料コストを低減するためにTa成分や希土類元素を低減しても、ガラスの屈折率を高められ、着色を低減でき、且つ耐失透性を高められる。従って、質量和(Nb+WO)は、好ましくは1.0%を下限とし、より好ましくは2.0%超、さらに好ましくは4.0%超、さらに好ましくは7.0%超、さらに好ましくは8.0%超とする。
一方、この和を30.0%以下にすることで、これら成分の過剰な含有による着色やを低減でき、耐失透性を高められる。従って、質量和(Nb+WO)は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは20.0%を上限とする。
【0047】
本発明の光学ガラスでは、上述のようにB成分を30.0%以下に低減しながらも、Ta成分の含有量を15.0%以下にし、且つNb成分及びWO成分の含有量の和を1.0%以上にすることが好ましい。これにより、屈折率を下げるB成分が低減される一方で、屈折率を高めるNb成分及びWO成分が所定以上含有されることで、ガラスの屈折率が高められる。それとともに、屈折率と耐失透性を高める成分の中でも高価なTa成分が低減される一方で、より安価なNb成分及びWO成分が含有されることで、より耐失透性の高い光学ガラスが得られる。従って、屈折率が高く耐失透性の高い光学ガラスの材料コストを抑えられる。より好ましくは、B成分を16.4%以下にし、Ta成分の含有量を5.0%以下にし、且つNb成分及びWO成分の含有量の和を7.0%以上にしてもよい。
【0048】
SiO成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの粘度を高め、ガラスの着色を低減でき、且つ耐失透性を高められる任意成分である。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは3.0%を下限としてもよい。
一方で、SiO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラス転移点の上昇を抑え、且つ屈折率の低下を抑えることができる。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは8.0%を上限とする。
SiO成分は、原料としてSiO、KSiF、NaSiF等を用いることができる。
【0049】
ここで、B成分及びSiO成分の含有量の和(質量和)は、1.0%以上30.0%以下が好ましい。
特に、この和を1.0%以上にすることで、B成分やSiO成分の欠乏による耐失透性の低下を抑えられる。従って、質量和(B+SiO)は、好ましくは1.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは10.0%を下限とする。
一方で、この和を30.0%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有による屈折率の低下が抑えられるので、所望の高屈折率を得易くできる。従って、質量和(B+SiO)は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは21.0%を上限とする。
【0050】
また、B成分及びSiO成分の含有量の和に対する、Nb成分及びWO成分の含有量の和の比率(質量比)は、0.15以上2.00以下が好ましい。
特に、この比率を0.15以上にすることで、高い耐失透性を維持しながらも屈折率を高められる。従って、質量比(Nb+WO)/(B+SiO)は、好ましくは0.15、より好ましくは0.25、さらに好ましくは0.30、さらに好ましくは0.35、さらに好ましくは0.40を下限とする。
一方で、この比率を2.00以下にすることで、Nb成分やWO成分の過剰な含有や、B成分やSiO成分の欠乏による耐失透性の低下を抑えられる。従って、質量比(Nb+WO)/(B+SiO)は、好ましくは2.00、より好ましくは1.50、さらに好ましくは1.20を上限とする。
【0051】
MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、0%超含有する場合に、ガラス原料の熔融性やガラスの耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、MgO成分、CaO成分及びSrO成分の各々の含有量を20.0%以下にすること、及び/又は、BaO成分の含有量を25.0%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有による、屈折率の低下や耐失透性の低下を抑えられる。従って、MgO成分、CaO成分及びSrO成分の各々の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。また、BaO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは8.0%を上限とする。
MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、原料としてMgCO、MgF、CaCO、CaF、Sr(NO、SrF、BaCO、Ba(NO、BaF等を用いることができる。
【0052】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の合計(質量和)は、25.0%以下が好ましい。これにより、RO成分の過剰な含有による、ガラスの屈折率の低下や耐失透性の低下を抑えられる。従って、RO成分の質量和は、好ましくは25.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
【0053】
LiO成分、NaO成分、KO成分及びCsO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を改善し、且つガラス転移点を低くできる任意成分である。このうちNaO成分、KO成分及びCsO成分は、ガラスの耐失透性を高められる成分でもある。ここで、LiO成分、NaO成分、KO成分及びCsO成分の各々の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くし、且つ、耐失透性を高められる。従って、LiO成分、NaO成分、KO成分及びCsO成分の各々の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
特に、LiO成分の含有量を3.0%以下にすることで、ガラスの粘性が高くなるため、ガラスの脈理を低減できる。従って、ガラスの脈理を低減する観点では、LiO成分の含有量は、好ましくは3.0%、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.3%を上限としてもよい。
LiO成分、NaO成分、KO成分及びCsO成分は、原料としてLiCO、LiNO、LiCO、NaNO、NaF、NaSiF、KCO、KNO、KF、KHF、KSiF、CsCO、CsNO等を用いることができる。
【0054】
RnO成分(式中、RnはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上)の合計量は、15.0%以下が好ましい。これにより、ガラスの屈折率の低下を抑え、且つ耐失透性を高められる。従って、RnO成分の質量和は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
【0055】
成分は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性を高められる任意成分である。特に、P成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性の低下を抑えられる。従って、P成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
成分は、原料としてAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いることができる。
【0056】
GeO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つ耐失透性を向上できる任意成分である。しかしながら、GeOは原料価格が高いため、その量が多いと材料コストが高くなることで、Gd成分やTa成分を低減することによるコスト低減の効果が減殺される。従って、GeO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは1.0%を上限とし、最も好ましくは含有しない。
GeO成分は、原料としてGeO等を用いることができる。
【0057】
ZrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの高屈折率化及び低分散化に寄与でき、且つガラスの耐失透性を高められる。そのため、ZrO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは3.0%を下限としてもよい。
一方で、ZrO成分を15.0%以下にすることで、ZrO成分の過剰な含有によるガラスの耐失透性の低下を抑えられる。従って、ZrO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは8.0%を上限とする。
ZrO成分は、原料としてZrO、ZrF等を用いることができる。
【0058】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、ガラス転移点を低くし、且つ化学的耐久性を高められる任意成分である。
一方で、ZnO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下や、耐失透性の低下を抑えられる。また、これにより熔融ガラスの粘性が高められるため、ガラスへの脈理の発生を低減できる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは1.1%を上限とする。
ZnO成分は、原料としてZnO、ZnF等を用いることができる。
【0059】
Al成分及びGa成分は、0%超含有する場合に、ガラスの化学的耐久性を高め、且つガラスの耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、Al成分及びGa成分の各々の含有量を10.0%以下にすることで、これらの過剰な含有によるガラスの耐失透性の低下を抑えられる。従って、Al成分及びGa成分の各々の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
Al成分及びGa成分は、原料としてAl、Al(OH)、AlF、Ga、Ga(OH)等を用いることができる。
【0060】
Bi成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。
一方で、Bi成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められ、且つ、ガラスの着色を低減して可視光透過率を高められる。従って、Bi成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
Bi成分は、原料としてBi等を用いることができる。
【0061】
TeO成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。
しかしながら、TeOは白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を熔融する際、白金と合金化しうる問題がある。従って、TeO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とし、さらに好ましくは含有しない。
TeO成分は、原料としてTeO等を用いることができる。
【0062】
SnO成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの酸化を低減して清澄し、且つガラスの可視光透過率を高められる任意成分である。
一方で、SnO成分の含有量を1.0%以下にすることで、熔融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を低減できる。また、SnO成分と熔解設備(特にPt等の貴金属)の合金化が低減されるため、熔解設備の長寿命化を図れる。従って、SnO成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.7%、さらに好ましくは0.5%を上限とする。
SnO成分は、原料としてSnO、SnO、SnF、SnF等を用いることができる。
【0063】
Sb成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。
一方で、Sb量が多すぎると、可視光領域の短波長領域における透過率が悪くなる。従って、Sb成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.7%、さらに好ましくは0.5%を上限とする。
Sb成分は、原料としてSb、Sb、NaSb・5HO等を用いることができる。
【0064】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0065】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0066】
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0067】
また、PbO等の鉛化合物及びAs等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0068】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0069】
本発明のガラス組成物は、その組成が酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
成分 2.0〜55.0モル%、及び
La成分 5.0〜30.0モル%、
並びに
成分 0〜20.0モル%、
Gd成分 0〜20.0モル%、
Yb成分 0〜10.0モル%、
Ta成分 0〜5.0モル%、
WO成分 0〜20.0モル%、
Nb成分 0〜15.0モル%、
TiO成分 0〜40.0モル%、
SiO成分 0〜50.0モル%、
MgO成分 0〜50.0モル%、
CaO成分 0〜40.0モル%、
SrO成分 0〜30.0モル%、
BaO成分 0〜35.0モル%、
LiO成分 0〜30.0モル%、
NaO成分 0〜25.0モル%、
O成分 0〜20.0モル%、
CsO成分 0〜10.0モル%、
成分 0〜15.0モル%、
GeO成分 0〜10.0モル%、
ZrO成分 0〜20.0モル%、
ZnO成分 0〜50.0モル%、
Al成分 0〜20.0モル%、
Ga成分 0〜5.0モル%、
Bi成分 0〜5.0モル%、
TeO成分 0〜20.0モル%、
SnO成分 0〜0.3モル%、又は
Sb成分 0〜0.5モル%
【0070】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100〜1500℃の温度範囲で2〜5時間熔融し、攪拌均質化した後、適当な温度に下げてから金型に鋳込み、徐冷することにより作製される。
【0071】
[物性]
本発明の光学ガラスは、高屈折率及び高アッベ数(低分散)を有することが好ましい。特に、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.75、より好ましくは1.80、さらに好ましくは1.85を下限とする。この屈折率の上限は、好ましくは2.20、より好ましくは2.15、さらに好ましくは2.10であってもよい。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは23、より好ましくは25、さらに好ましくは28、さらに好ましくは30、さらに好ましくは31、さらに好ましくは32を下限とし、好ましくは50、より好ましくは45を上限とし、さらに好ましくは39未満とする。
このような高屈折率を有することで、光学素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。また、このような低分散を有することで、単レンズであっても光の波長による焦点のずれ(色収差)が小さくなる。加えて、このような低分散を有することで、例えば高分散(低いアッベ数)を有する光学素子と組み合わせた場合に、高い結像特性等を図ることができる。
従って、本発明の光学ガラスは、光学設計上有用であり、特に高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができ、光学設計の自由度を広げることができる。
【0072】
また、本発明の光学ガラスは、比重が小さいことが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの比重は5.50[g/cm]以下である。これにより、光学素子やそれを用いた光学機器の質量が低減されるため、光学機器の軽量化に寄与することができる。従って、本発明の光学ガラスの比重は、好ましくは5.50、より好ましくは5.40、好ましくは5.30を上限とする。なお、本発明の光学ガラスの比重は、概ね3.00以上、より詳細には3.50以上、さらに詳細には4.00以上であることが多い。
本発明の光学ガラスの比重は、日本光学硝子工業会規格JOGIS05−1975「光学ガラスの比重の測定方法」に基づいて測定する。
【0073】
本発明の光学ガラスは、耐失透性が高いこと、より具体的には、低い液相温度を有することが好ましい。すなわち、本発明の光学ガラスの液相温度は、好ましくは1300℃、より好ましくは1290℃、さらに好ましくは1280℃を上限とする。これにより、より低い温度で熔融ガラスを流出しても、作製されたガラスの結晶化が低減されるため、特に熔融状態からガラスを形成したときの失透を低減でき、ガラスを用いた光学素子の光学特性への影響を低減できる。また、ガラスの熔解温度を低くしてもガラスを成形できるため、ガラスの成形時に消費するエネルギーを抑えることで、ガラスの製造コストを低減できる。一方、本発明の光学ガラスの液相温度の下限は特に限定しないが、本発明によって得られるガラスの液相温度は、好ましくは500℃、より好ましくは600℃、さらに好ましくは700℃を下限としてもよい。なお、本明細書中における「液相温度」は、50mlの容量の白金製坩堝に30ccのカレット状のガラス試料を白金坩堝に入れて1350℃で完全に熔融状態にし、所定の温度まで降温して12時間保持し、炉外に取り出して冷却した後直ちにガラス表面及びガラス中の結晶の有無を観察し、結晶が認められない一番低い温度を表す。ここで降温する際の所定の温度は、1300℃までの10℃刻みの温度である。
【0074】
本発明の光学ガラスは、可視光透過率、特に可視光のうち短波長側の光の透過率が高く、それにより着色が少ないことが好ましい。
特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ70)は、好ましくは550nm、より好ましくは520nm、さらに好ましくは500nm、さらに好ましくは480nmを上限とする。
また、本発明の光学ガラスにおける、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す最も短い波長(λ)は、好ましくは440nm、より好ましくは420nm、さらに好ましくは400nm、さらに好ましくは380nmを上限とする。
これらにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍になり、可視光に対するガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスを、レンズ等の光を透過させる光学素子に好ましく用いることができる。
【0075】
本発明の光学ガラスは、低い部分分散比(θg,F)を有することが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(ν)との間で、(−2.50×10−3×ν+0.6571)≦(θg,F)≦(−2.50×10−3×ν+0.6971)の関係を満たすことが好ましい。これにより、部分分散比(θg,F)の小さい光学ガラスが得られるため、光学ガラスを光学素子の色収差の低減等に役立てられる。
従って、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは(−2.50×10−3×ν+0.6571)、より好ましくは(−2.50×10−3×ν+0.6591)、さらに好ましくは(−2.50×10−3×ν+0.6611)を下限とする。
一方で、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは(−2.50×10−3×ν+0.6971)、より好ましくは(−2.50×10−3×ν+0.6921)、さらに好ましくは(−2.50×10−3×ν+0.6871)を上限とする。
【0076】
[ガラス成形体及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えば研磨加工の手段、又は、リヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスに対して研削及び研磨等の機械加工を行ってガラス成形体を作製したり、光学ガラスから作製したプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0077】
このように、本発明の光学ガラスから形成したガラス成形体は、様々な光学素子及び光学設計に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子に用いることが好ましい。これにより、径の大きなガラス成形体の形成が可能になるため、光学素子の大型化を図りながらも、カメラやプロジェクタ等の光学機器に用いたときに高精細で高精度な結像特性及び投影特性を実現できる。
【実施例】
【0078】
本発明の実施例(No.1〜No.132)及び比較例(No.A)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、部分分散比(θg,F)、液相温度、分光透過率が5%及び70%を示す波長(λ及びλ70)並びに比重の結果を表1〜表19に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0079】
本発明の実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100〜1500℃の温度範囲で2〜5時間熔融した後、攪拌均質化してから金型等に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0080】
ここで、実施例及び比較例のガラスの屈折率、アッベ数、及び部分分散比(θg,F)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。そして、求められたアッベ数及び部分分散比の値について、関係式(θg,F)=−a×ν+bにおける、傾きaが0.0025のときの切片bを求めた。ここで、屈折率、アッベ数、及び部分分散比は、徐冷降温速度を−25℃/hrにして得られたガラスについて測定を行うことで求めた。
【0081】
また、実施例及び比較例のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ(透過率5%時の波長)及びλ70(透過率70%時の波長)を求めた。
【0082】
また、実施例及び比較例のガラスの液相温度は、50mlの容量の白金製坩堝に30ccのカレット状のガラス試料を白金坩堝に入れて1350℃で完全に熔融状態にし、1300℃〜1160℃まで10℃刻みで設定したいずれかの温度まで降温して12時間保持し、炉外に取り出して冷却した後直ちにガラス表面及びガラス中の結晶の有無を観察し、結晶が認められない一番低い温度を求めた。
【0083】
また、実施例及び比較例のガラスの比重は、日本光学硝子工業会規格JOGIS05−1975「光学ガラスの比重の測定方法」に基づいて測定した。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
【表7】
【0091】
【表8】
【0092】
【表9】
【0093】
【表10】
【0094】
【表11】
【0095】
【表12】
【0096】
【表13】
【0097】
【表14】
【0098】
【表15】
【0099】
【表16】
【0100】
【表17】
【0101】
【表18】
【0102】
【表19】
【0103】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも比重が5.50以下、より詳細には5.20以下であった。そのため、本発明の実施例の光学ガラスは、比重が小さいことが明らかになった。
【0104】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも液相温度が1300℃以下、より詳細には1220℃以下であり、所望の範囲内であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、液相温度が低く、耐失透性が高いことが明らかになった。
【0105】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ70(透過率70%時の波長)がいずれも550nm以下、より詳細には505nm以下であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ(透過率5%時の波長)がいずれも440nm以下、より詳細には379nm以下であった。
【0106】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.75以上、より詳細には1.87以上であるとともに、この屈折率は2.20以下、より詳細には2.01以下であり、所望の範囲内であった。
【0107】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が23以上、より詳細には28以上であるとともに、このアッベ数は50以下、より詳細には39以下であり、所望の範囲内であった。
【0108】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも部分分散比(θg,F)が(−2.50×10−3×ν+0.6571)以上、より詳細には(−2.50×10−3×ν+0.6683)以上であった。その反面で、本発明の実施例の光学ガラスの部分分散比(−2.50×10−3×ν+0.6971)以下、より詳細には(−2.50×10−3×ν+0.6750)以下であった。そのため、これらの部分分散比(θg,F)が所望の範囲内にあることがわかった。
【0109】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率及びアッベ数が所望の範囲内にありながらも安価に作製でき、耐失透性が高く、着色が少なく、且つ比重が小さいことが明らかになった。
【0110】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、ガラスブロックを形成し、このガラスブロックに対して研削及び研磨を行い、レンズ及びプリズムの形状に加工した。その結果、安定に様々なレンズ及びプリズムの形状に加工することができた。
【0111】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。