(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらにセパレータを有し、該セパレータを介して前記正極と前記負極が対向配置され、前記正極、前記負極、前記セパレータがラミネート外装フィルムからなる容器に収容された、請求項7に記載のリチウムイオン二次電池。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、携帯電話、デジタルカメラ、ラップトップコンピュータなどのポータブル機器の小型電源として広く普及し、また、車両や家庭用の比較的大型の電源としても利用されている。なかでも、高エネルギー密度で軽量なリチウムイオン二次電池は、生活に欠かせないエネルギー蓄積デバイスになっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、その使用において、保護回路等の保護手段が何らかの原因で故障して異常な電圧が電池に印加され、また、使用環境や周囲の装置等の外部からの影響により電池が異常に高温となることで、電解液溶媒の電気分解により発熱及びガス種の発生が起こり、電池の温度上昇及び内圧上昇が生じることがある。そのため、このような電解液溶媒の分解による温度上昇や内圧上昇を抑えることが求められている。
【0004】
その一方で、高容量化、長寿命化、量産安定性向上を目指して、リチウムイオン二次電池の特性向上のための検討が行われている。
【0005】
特許文献1には、電極が変形した異常な状況下でショートが発生した場合でも安定性が優れる非水電荷質電池を提供することを目的とし、正極集電体上に正極活物質層が複数積層された非水電解質電池が記載されている。具体的には、正極集電体に隣接する正極活物質層下層に含有される正極活物質を、Mn又はFeの少なくとも一方を含有するLi含有遷移金属複合酸化合物(例えばLiMn
2O
4、LiFePO
4)とし、正極集電体に隣接しない正極活物質層上層に含有される正極活物質を、Ni又はCoの少なくとも一方を含有するLi含有遷移金属複合酸化物(例えばLiNiO
2、LiCoO
2、LiNi
0.8Co
0.2O
2)とすることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、正極集電体と、正極集電体上に形成された第1正極活物質層(層状結晶構造を有するリチウム複合酸化物を含む)と、この第1正極活物質層上に形成された第2正極活物質層(スピネル構造またはオリビン構造を有するリチウム複合化合物を含む)とを含むリチウム二次電池が記載れている。このような構成により、過充電時の安全性を向上できることが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、異なる活物質を含む多層構造を有する活物質層が集電体上に設けられた正極であって、前記活物質層は、第1の活物質を含む第1層(LiとNiを含む複合酸化物)と、第1の活物質よりも高い熱安定性を有する第2の活物質(LiとFeを含むリン酸化合物)を含む第2層とを有する正極が記載されている。このような構成により熱安定性を向上でき、結果、長時間連続充電した後や高温で保存した後の特性劣化を抑制できることが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態によるリチウムイオン二次電池用正極は、正極集電体と、この正極集電体上に形成された第1の正極活物質層(以下、適宜「第1活物質層」という)と、この第1の正極活物質層上に形成された第2の正極活物質層(以下、適宜「第2活物質層という)とを有する。
【0016】
第1活物質層は、スピネル構造を有する正極活物質Aと、層状結晶構造を有する正極活物質Bが含まれる。スピネル構造を有する正極活物質Aとしては、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を用いることができる。層状結晶構造を有する正極活物質Bとしては、層状結晶構造を有するリチウムニッケル複合酸化物、層状結晶構造を有するリチウムコバルト複合酸化物、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0017】
第2活物質層は、オリビン構造を有する正極活物質Cが含まれる。オリビン構造を有する正極活物質Cとしては、リチウム遷移金属複合リン酸化物を用いることができる。
【0018】
正極活物質A、B及びCは、それぞれ、正極活物質を構成する元素の一部を他の元素で置換したものであってもよい。
【0019】
正極活物質Aは、下記式:
Li
1+xMn
2-x-yMe1
yO
4
(式中、Me1は、Mg、Al、Fe、Co、Ni、Cuからなる群から選択される少なくとも1種を含み、0<x<0.25、0<y<0.5)
で表される化合物あることが好ましい。
【0020】
正極活物質Bは、下記式:
Li
1+a(Ni
1-p-q-rCo
pMn
qMe2
r)O
2
(式中、Me2は、Mg、Al、Fe、Cr、Ti、Inからなる群から選択される少なくとも1種を含み、−0.5≦a<0.1、0≦p<0.45、0≦q<0.45、0≦r<0.15)
で表される化合物あることが好ましい。
【0021】
正極活物質Cは、下記式:
LizMPO
4
(式中、Mは、Fe、Co、Ni、Mn、Cuからなる群から選択される少なくとも1種を含み、0.95≦z≦1.1)
で表される化合物あることが好ましい。
【0022】
正極活物質Cの粒子は導電性フィラーで被覆されていることが望ましい。
この被覆は、一般的に知られている被覆方法で行うことができる。例えば、気相成長法による析出や、スプレードライ法で被覆することができる。スプレードライ法を用いた場合の具体的としては、正極活物質粒子と炭素源材料を溶媒中に分散し、高温雰囲気下に噴霧することにより、瞬時に溶媒を飛ばして炭素材料が被覆された正極活物質粒子を形成することができる。
【0023】
層状結晶構造を有する正極活物質は、充電状態で結晶構造の不安定化が一部に起こりやすく、電解液と不安定化した結晶構造部分との局所的界面で電解液の分解が誘発され、分解ガスが発生する場合がある。層状結晶構造を有する正極活物質を含む第1活物質層を比較的安定な正極活物質を含む第2活物質層で覆うことで、層状結晶構造を有する正極活物質と電解液の界面を減らし、分解ガスの発生を抑制することができる。
【0024】
また、第1活物質層の上に形成する第2活物質層に含まれるオリビン構造を有する正極活物質は、スピネル構造を有する正極活物質や層状結晶構造を有する正極活物質よりも直流抵抗(上昇率)が高い。そのため、第2活物質層を、正極の最表層(負極に対向する側)に配置することにより、過充電状態等で内部短絡が生じたとしても流れる電流を少なくすることができる。
【0025】
更に、オリビン構造を有する正極活物質は、スピネル構造を有する正極活物質や層状結晶構造を有する正極活物質に比べて、低い反応電位(3.4V)を有する。そのため、電池の過放電検出を容易にすることができる。
【0026】
層状結晶構造を有する正極活物質Bは、充放電サイクルによる粒子の膨張収縮が大きい。そのため、第1活物質層に単独で使用した場合、第1活物質層と集電体との間の剥離や、第1活物質層と第2活物質層との間の剥離が起きやすく、容量が低下する場合がある。この容量低下を抑えるため、充放電サイクルによる活物質粒子の膨張収縮の挙動が層状結晶構造を有する活物質とは逆のスピネル構造を有する活物質Aを混合する。
【0027】
また、スピネル構造を有する活物質Aを単独で使用した場合、充放電サイクルや高温保存によってMnイオンが溶出し、そのMnイオンが対向する負極表面に析出することによって容量が劣化する傾向がある。しかし、スピネル構造を有する活物質Aと層状結晶構造を有する活物質Bを混合して使用すると、層状結晶構造を有する活物質Bがプロトン補足剤として働き、Mnイオンの溶出を抑制することができる。層状結晶構造を有する活物質Bが補足しきれないMnイオンは、第2活物質層のオリビン構造を有する活物質Cによって負極への移動が阻害される。このようにして、スピネル構造を有する活物質Aから溶出したMnイオンが負極表面に析出することが防止され、電池の長寿命化を図ることができる。
【0028】
本発明の実施形態によれば、このような改善効果を得ることができるため、長寿命なリチウムイオン二次電池を提供することができる。また、高エネルギー密度かつ長寿命で、良好な出力特性を有する二次電池を提供することができる。
【0029】
正極活物質Aと正極活物質Bの混合比(質量比A:B)は、十分な混合効果を得る点から、80:20〜5:95が好ましく、十分な混合効果を得ながらより高いエネルギー密度を得る点から、50:50〜5:95が好ましく、20:80〜5:95がよりましい。
【0030】
第1活物質層の厚みは特に限定されるものではなく、所望の特性に応じて適宜設定することができる、例えばエネルギー密度の観点からは厚く設定することができ、また出力特性の観点からは薄く設定することができる。第1活物質層の厚みは、例えば10〜200μmの範囲で適宜設定できる。
【0031】
第2活物質層の厚さは、3〜50μmが好ましく、3〜30μmがより好ましく、5〜20μmがより好ましく、5〜15μmが特に好ましい。第2活物質層を厚くしていくと、リチウムイオン二次電池の十分な安全性及び長寿命特性が得られる一方で、エネルギー密度が低下する傾向がある。逆に第2活物質層を薄くしていくと、第2活物質層(オリビン構造を有する活物質)による、過充電状態の内部短絡の際に流れる電流を抑制する効果が得られにくくなり、また第2活物質層(オリビン構造を有する活物質)がスピネル構造を有する活物質から溶出したMnイオンの負極へ移動を阻害する効果も十分に発揮されず、良好な長寿命特性を得にくくなる。
【0032】
第1活物質層のエネルギー密度が第2活物質層のエネルギー密度より大きいため、十分な体積エネルギー密度を得る点から、第1活物質層の厚みは第2活物質層の厚みより大きいことが好ましい。
第1活物質層と第2の活物質層の合計の厚みは、例えば13〜250μmの範囲に設定することができ、50〜180μmの範囲に設定することが好ましい。
【0033】
正極活物質A、B、Cの平均粒径は、それぞれ、電解液との反応性やレート特性等の観点から、例えば0.1〜50μmが好ましく、1〜30μmがより好ましく、2〜25μmがさらに好ましい。ここで、平均粒径は、レーザ回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒径(メジアン径:D
50)を意味する。
【0034】
次に本発明の実施形態による正極について
図1を参照して説明する。
【0035】
図1は、本発明の実施形態による正極の構成を説明するための模式図である。
図1に示される正極は、正極集電体11と、正極活物質Aの粒子14および正極活物質Bの粒子15を含む第1活物質層12と、第1活物質層の上に形成された正極活物質Cの粒子16を含む第2活物質層13から構成されている。この正極は、第2活物質層13がセパレータ17を介して負極集電体19上の負極活物質層と対向するように配置されている。なお、説明の都合上、
図1は誇張した模式的に表現しており、本発明の技術的範囲は、図面に示す形態に限定されない。
【0036】
正極活物質層(第1及び第2の活物質層)は、次のようにして形成することができる。まず、正極活物質、バインダー及び溶媒(さらに必要により導電性付与剤)を含むスラリーを調製し、これを正極集電体(又は先に形成した第1活物質層)上に塗布し、乾燥し、必要に応じてプレスすることにより形成することができる。正極作製時に用いるスラリー溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることができる。
【0037】
第1活物質層および第2活物質層は、それぞれ、正極活物質の他に導電性付与剤とバインダーを含むことができる。導電性付与剤としては特に制限は無く、カーボンブラック、アセチレンブラック、天然黒鉛、人工黒鉛、炭素繊維等の炭素質材料などの通常導電性付与剤として用いられる導電性材料を用いることができる。また、バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の通常正極用バインダーとして用いられるものを用いることができる。
【0038】
導電性付与剤の活物質層中の含有量は、1〜10質量%が好ましく、バインダーの含有量は、1〜10質量%が好ましい。
【0039】
正極活物質層中の正極活物質の割合が多い方が質量当たりの容量が大きくなるため好ましいが、電極の低抵抗化の点からは導電性付与剤を添加することが好ましく、電極強度の点からバインダーを添加することが好ましい。導電性付与剤の割合が少なすぎると十分な導電性を保つことが困難になり、電極の抵抗増加につながりやすくなる。バインダーの割合が少なすぎると集電体や活物質、導電性付与剤との接着力が保つことが困難になり、電極剥離が生じる場合がある。
【0040】
また、形成された正極を構成する集電体を除いた、活物質層の空孔率は10〜30%が好ましく、20〜25%がより好ましい。また、第1活物質層の空孔率は10〜30%が好ましく、20〜25%がより好ましい。また、第2活物質層の空孔率は20〜35%が好ましく、25〜30%がより好ましい。活物質層の空孔率を上記値とすると、高放電レートでの使用時における放電容量が向上するため好ましい。
【0041】
空孔率とは、活物質層の全体としての見かけの体積のうち、活物質や導電性付与剤などの粒子が占める体積を引いた残りの体積の占める割合を意味する。よって、活物質層の厚さと単位面積当たりの重量、活物質や導電性付与剤などの粒子の真密度から、計算により求めることができる。
空孔率=(活物質層の見かけ体積−粒子の体積)/(活物質層の見かけの体積)
【0042】
なお、上記式中の「粒子の体積」(活物質層に含まれる粒子の占める体積)は下記式で計算できる。
粒子の体積=
(活物質層の単位面積当たりの重量×活物質層の面積×その粒子の含有率)÷粒子の真密度
ここで、「活物質層の面積」は、集電体側とは反対側(セパレータ側)の平面の面積をいう。
【0043】
負極活物質としては、リチウム金属、炭素質材料、Si系材料などのリチウムを吸蔵、放出できる材料を用いることができる。炭素質材料としては、黒鉛、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなどが挙げられる。Si系材料としては、Si、SiO
2、SiOx(0<x≦2)、Si含有複合材料などを用いることができ、あるいはこれらの2種以上を含む複合物を用いても構わない。
【0044】
負極活物質としてリチウム金属を用いる場合は、融液冷却方式、液体急冷方式、アトマイズ方式、真空蒸着方式、スパッタリング方式、プラズマCVD方式、光CVD方式、熱CVD方式、ゾル‐ゲル方式、などの方式により負極を形成することができる。
【0045】
負極活物質として炭素質材料やSi系材料を用いる場合は、炭素質材料(又はSi系材料)とポリビニリデンフルオライド(PVDF)等のバインダーを混合し、NMP等の溶剤中に分散混錬し、得られたスラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥し、必要に応じてプレスすることで負極を得ることができる。また、予め負極活物質層を形成した後に、蒸着法、CVD法、スパッタリング法などの方法により集電体となる薄膜を形成して負極を得ることができる。
【0046】
負極活物質の平均粒径は、充放電時の副反応を抑えて充放電効率の低下を抑える点から、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましく、入出力特性の観点や電極作製上の観点(電極表面の平滑性等)から、80μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。ここで平均粒径は、レーザ回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒子径(メジアン径:D
50)を意味する。
【0047】
負極活物質層は、必要に応じて導電性付与剤を含有してもよい。この導電性付与剤としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の炭素質材料などの一般に負極の導電性付与剤として使用されている導電性材料を用いることができる。
【0048】
正極集電体としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金などを用いることができる。負極集電体としては、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金を用いることができる。
【0049】
電解質としては、1種又は2種以上の非水溶媒に、リチウム塩を溶解させた非水系電解液を用いることができる。
【0050】
非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート類;エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類;1,2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)などの鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル類が挙げられる。これらの非水溶媒のうちの1種を単独で、または2種以上の混合物を使用することができる。
【0051】
非水溶媒に溶解させるリチウム塩としては、特に制限されるものではないが、例えばLiPF
6、LiAsF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、LiBF
4、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、Li(CF
3SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)
2、リチウムビスオキサラトボレートが挙げられる。これらのリチウム塩は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。また、非水系電解質としてポリマー成分を含んでもよい。リチウム塩の濃度は、0.8〜1.2mol/Lの範囲に設定することができ、0.9〜1.1mol/Lが好ましい。
【0052】
セパレータとしては、樹脂製の多孔質膜、織布、不織布等を用いることができる。多孔質膜を構成する樹脂としては、例えばポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、またはナイロン樹脂等が挙げられる。特にポリオレフィン系の微多孔膜は、イオン透過性と、正極と負極とを物理的に隔離する性能に優れているため好ましい。また、必要に応じて、セパレータには無機物粒子を含む層を形成してもよく、無機物粒子としては、絶縁性の酸化物、窒化物、硫化物、炭化物などを挙げることができ、なかでもTiO
2やAl
2O
3を含むことが好ましい。
【0053】
外装容器には可撓性フィルムからなるケースや缶ケース等を用いることができ、電池の軽量化の観点からは可撓性フィルムを用いることが好ましい。
【0054】
可撓性フィルムには、基材となる金属層の表裏面に樹脂層が設けられたものを用いることができる。金属層には、電解液の漏出や外部からの水分の浸入を防止する等のバリア性を有するものを選択することができ、アルミニウム、ステンレス鋼などを用いることができる。金属層の少なくとも一方の面には、変性ポリオレフィンなどの熱融着性樹脂層が設けられる。可撓性フィルムの熱融着性樹脂層同士を対向させ、電極積層体を収納する部分の周囲を熱融着することで外装容器が形成される。熱融着性の樹脂層が形成された面と反対側の面となる外装体表面にはナイロンフィルム、ポリエステルフィルムなどの樹脂層を設けることができる。
【0055】
電極の作製において、集電体上に多層構造(2層構造)の活物質層を形成するための装置としては、ドクターブレードや、ダイコータ、グラビアコータ、転写方式、蒸着方式などの様々な塗布方法を実施する装置や、これらの塗布装置の組み合わせを用いることが可能である。正極活物質の塗布端部を精度良く形成するためには、ダイコータを用いることが特に好ましい。ダイコータによる活物質の塗布方式としては、大別して、長尺の集電体の長手方向に沿って連続的に活物質を形成する連続塗布方式と、集電体の長手方向に沿って活物質の塗布部と未塗布部を交互に繰り返して形成する間欠塗布方式の2種類があり、これらの方式を適宜選択することができる。
【0056】
本発明の実施形態によるリチウムイオン二次電池の一例(ラミネート型)の断面図を
図2に示す。
図2に示すように、本例のリチウムイオン二次電池は、アルミニウム箔等の金属からなる正極集電体3と、その上に設けられた正極活物質を含有する正極活物質層1とからなる正極、及び銅箔等の金属からなる負極集電体4と、その上に設けられた負極活物質を含有する負極活物質層2とからなる負極を有する。正極および負極は、正極活物質層1と負極活物質層2とが対向するように、不織布やポリプロピレン微多孔膜などからなるセパレータ5を介して積層されている。この電極対は、アルミニウムラミネートフィルムからなる外装体6、7で形成された容器内に収容されている。正極集電体3には正極タブ9が接続けられ、負極集電体4には負極タブ8が接続され、これらのタブは容器の外に引き出されている。容器内には電解液が注入され封止される。複数の電極対が積層された電極群が容器内に収容された構造とすることもできる。
【実施例】
【0057】
以下に本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
(
参考例1)
正極活物質Aとして、平均粒子径9.8μm、BET比表面積0.8m
2/gのスピネル型マンガン酸リチウム(Li
1.1Mn
1.9O
4)、正極活物質Bとして、平均粒子径6.5μm、BET比表面積0.5m
2/gの層状結晶構造を有するニッケル酸リチウム(LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
4)、導電性付与剤としてカーボンブラックを用意した。これらを乾式混合し、得られた混合物を、バインダーとしてフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)を溶解させたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に均一に分散させスラリー(以下「スラリーA」)を作製した。スラリーA中の固形分の配合比率(質量比)は、正極活物質Aと正極活物質Bの混合比(質量比)がA:B=80:20となるように、正極活物質A:正極活物質B:導電性付与剤:バインダー=73.6:18.4:4:4とした。
【0059】
続いて、正極活物質Cとして、平均粒子径4.5μm、比表面積13.1m
2/gの表面が導電性フィラーで被覆されているオリビン構造を有するリチウム遷移金属複合リン酸化合物(LiFePO
4)のを準備した。正極活物質として正極活物質Cを用いた以外は、スラリーAと同様の方法で正極活物質Cを含むスラリー(以下「スラリーB」)を作製した。このときのスラリーB中の固形分の配合比率(質量比)は、正極活物質C:導電性付与剤:バインダー=85:5:10とした。
【0060】
スラリーAを、正極集電体となるアルミ金属箔(厚さ20μm)上に塗布後、NMPを蒸発させることにより、正極活物質Aと正極活物質Bを含む第1活物質層(膜厚85μm)がアルミ金属箔上に形成された正極シートAを得た。
【0061】
次いで、スラリーBを正極シートA上に塗布後、NMPを蒸発させることにより、第1活物質層(膜厚85μm)の上面に正極活物質Bを含む第2活物質層(膜厚15μm)を形成し、膜厚100μmの正極活物質層を有する正極シートBを得た。
【0062】
(
参考例2〜
4、実施例5〜7)
正極活物質Aと正極活物質Bの混合比を表1に記載の通りに変更した以外は、
参考例1と同様にして正極シートを作製した。
【0063】
(実施例8〜10)
正極活物質Aと正極活物質Bの混合比を20:80とし、また、第2活物質層の厚みが表1に示す厚みとなるように、第1正極活物質層(膜厚85μm)を有する正極シートA上のスラリーBの塗布する厚さを変更した以外は、
参考例1と同様にして正極シートを作製した。
【0064】
(比較例1)
正極活物質として正極活物質Bのみを用いた以外は、
参考例1と同様にして膜厚100μmの正極シートを作製した。
【0065】
(比較例2)
正極活物質として正極活物質Aのみを用いた以外は、
参考例1と同様にして膜厚100μmの正極シートを作製した。
【0066】
(比較例3〜10)
第2の正極活物質
層を形成しないで、また、正極活物質Aと正極活物質Bの混合比を表1に記載の通りにした以外は、
参考例1と同様にして正極シートを作製した。
【0067】
(リチウムイオン二次電池の作製)
負極活物質(カーボン)とバインダー(PVDF)を、混合比(質量比)がカーボン:PVDF=90:10となるように混合し、NMPに分散させ、負極用スラリーを作製した。このスラリーを、負極集電体となる銅箔(厚さ10μm)上に塗布して、負極シートを作製した。
【0068】
電解液としては、溶媒としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を体積比3:7(EC:DEC)で混合したものに、電解質としてリチウム塩(LiPF
6)を濃度1mol/Lとなるように溶解したものを用いた。
【0069】
上記の負極シートと正極シートとをポリプロピレンからなるセパレータを介して積層した。正極用の引き出し電極、負極用の引き出し電極を設けた後、この積層体をラミネートフィルムで包み、電解液を注入し、封止し、
図2に示すラミネート型二次電池を得た。
【0070】
(高温サイクル試験)
実施例
、参考例および比較例の正極と上記負極を用いて作製したラミネート型二次電池について、次の条件で充放電を繰り返し行い、高温サイクル寿命特性を評価した。結果を表1に示す。
充放電条件:温度60℃、充電レート1.0C、放電レート1.0C、充電終止電圧4.2V、放電終止電圧2.5V。
容量維持率(%)は、300サイクル後の放電容量(mAh)を、10サイクル目の放電容量(mAh)で割った値である。
【0071】
(剥離強度試験)
300サイクル後の電池の電極について、JIS K6854−2に従い180度剥離試験を実施し、剥離試験に用いたテープ幅で規格化した剥離強度を算出した。なお、各実施例、
参考例、比較例において電極サンプルを5つ作製し、各電極サンプルについて剥離強度を測定し、平均値を剥離強度とした。結果を表1に示す。
【0072】
(内部直流抵抗の測定および抵抗上昇率)
得られた二次電池の内部直流抵抗を次のようにして測定した。
温度20℃において、充電レート0.5Cで4.3Vまで充電を行い、4.3Vに到達後、定電圧充電を2時間行って充電した。充電後の電池を0.1Cで放電深度(Depth of Discharge:DOD)50%まで放電させた後、1Cの電流で10秒間放電させたときの電圧を測定した。続いて10分間放置後、今度は1Cの電流で10秒間充電した時の電圧を測定した。さらに10分間放置後3Cの電流で10秒間放電した時の電圧を測定し、再度10分間放置後3Cの電流で10秒間充電した時の電圧を測定した。続いて10分間放置後5Cの電流で10秒間放電した時の電圧を測定し、再度10分間放置後5Cの電流で10秒間充電した時の電圧を測定した。その後、10分間放置後7Cの電流で10秒間放電した時の電圧を測定し、再度10分間放置後7Cの電流で10秒間充電した時の電圧を測定した。最後に10分間放置後10Cの電流で10秒間放電した時の電圧を測定し、再度10分間放置後10Cの電流で10秒間充電した時の電圧を測定した。これらの電圧の測定結果よりV−I直線を求め、このときの直線の傾斜を内部直流抵抗(直流抵抗)とした。
【0073】
また、上記のサイクル試験を行った後、上述の内部直流抵抗の測定を行い、内部直流抵抗の抵抗上昇率(=[サイクル後の内部直流抵抗]/[サイクル前の内部直流抵抗])を算出した。
【0074】
表1に、得られた二次電池の容量維持率、エネルギー密度(Wh/kg)、剥離強度および抵抗上昇率をまとめて示した。
【0075】
【表1】
【0076】
各実施例と比較例とを対比すると明らかなように、第1活物質層にはスピネル結晶構造を有するリチウムマンガン複合酸化物Aと層状結晶構造を有するリチウムニッケル複合酸化物Bを含有し、この第1活物質層の上に形成された第2活物質層にはオリビン構造を有するリチウム遷移金属複合リン酸化合物Cを含有している正極を使用することにより、リチウムイオン二次電池の長期寿命特性(サイクル寿命特性)を改善することができる。
【0077】
さらに、正極活物質Aと正極活物質Bの混合比(質量比)を50:50〜5:95とした場合では、高エネルギー密度及び長期寿命特性の両立がなされていることが分かる。従って、本発明の実施形態による正極は、リチウムイオン二次電池の高容量化および長期寿命特性の向上に有効に寄与できる。