(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
底付きシリンダ(10)の底面上にバルブスリーブ(13)が立設され、そのバルブスリーブ(13)の内部にロッド(14)の下端部が摺動自在に挿入されてバルブスリーブ(13)内に圧力室(15)が設けられ、前記ロッド(14)の上部に設けられたばね座(16)とシリンダ(10)の底面間に、ばね座(16)とシリンダ(10)を伸張する方向に付勢するリターンスプリング(17)が組み込まれ、前記シリンダ(10)の底部には、前記シリンダ(10)の内周とバルブスリーブ(13)の外周間に形成されたリザーバ室(24)と前記圧力室(15)を連通する油通路(25)が設けられ、前記バルブスリーブ(13)の下端部内には、前記圧力室(15)の圧力がリザーバ室(24)内の圧力より高くなると閉鎖して圧力室(15)と油通路(25)の連通を遮断する第1チェックバルブ(27)が設けられ、その第1チェックバルブ(27)の閉鎖時に圧力室(15)内のオイルによる油圧ダンパ作用でロッド(14)とバルブスリーブ(13)を収縮させる方向の押込み力を緩衝する構成とされた油圧式オートテンショナにおいて、
前記ロッド(14)の外径面と前記バルブスリーブ(13)の内径面間に筒状のプランジャ(28)が摺動可能に嵌合され、そのプランジャ(28)とロッド(14)の摺動面間に第1リーク隙間(31)が設けられ、かつ、プランジャ(28)とバルブスリーブ(13)の摺動面間に、前記第1リーク隙間(31)より流路抵抗の大きな第2リーク隙間(32)が設けられ、前記ロッド(14)と前記プランジャ(28)の相互間に、前記圧力室(15)内の圧力上昇に伴うプランジャ(28)の上昇時に前記第1リーク隙間(31)を閉鎖する第2チェックバルブ(35)が設けられ、その第2チェックバルブ(35)が、前記ロッド(14)の前記プランジャ(28)の上端から外部に位置する大径軸部(14a)の下端にバルブシート(35a)が設けられ、前記プランジャ(28)の上部内径面に前記バルブシート(35a)に対して着座可能なシート面(35b)が設けられた構成とされ、前記ロッド(14)とばね座(16)が一体に成形されていることを特徴とする油圧式オートテンショナ。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の排出量を削減するため、車両の停止時にエンジンを停止し、アクセルペダルの踏み込みによる車両の発進時にエンジンを瞬時に始動させるISG(Integrated Starter Generator)のアイドルストップ機構が搭載されたエンジンが提案されている。
【0003】
図9(a)、(b)は、エンジン補機駆動とエンジン始動を両立するISGのアイドルストップ機構が搭載されたエンジンのベルト伝動装置を示し、クランクシャフト51に取り付けられたクランクシャフトプーリP
1と、ISGのスタータ・ジェネレータ52の回転軸に取り付けられたスタータ・ジェネレータプーリP
2と、ウォータポンプ等の補機53の回転軸に取り付けられた補機プーリP
3間にベルト54を掛け渡し、エンジンの通常運転時、
図9(a)に示すように、クランクシャフトプーリP
1の矢印で示す方向の回転によりスタータ・ジェネレータ52および補機53を駆動し、スタータ・ジェネレータ52をジェネレータとして機能させるようにしている。
【0004】
一方、スタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジンの始動時、
図9(b)に示すように、スタータ・ジェネレータプーリP
2の矢印で示す方向の回転によりクランクシャフトプーリP
1を回転させて、スタータ・ジェネレータ52をスタータとして機能させるようにしている。
【0005】
上記のようなベルト伝動装置においては、クランクシャフトプーリP
1とスタータ・ジェネレータプーリP
2にわたるベルト部54aにテンションプーリ55を設け、そのテンションプーリ55を回転自在に支持する揺動可能なプーリアーム56に油圧式オートテンショナAの調整力を付与してテンションプーリ55がベルト54を押圧する方向にプーリアーム56を付勢し、ベルト54の張力変化を油圧式オートテンショナAにより吸収するようにしている。
【0006】
油圧式オートテンショナAとして、特許文献1に記載されたものが従来から知られている。この油圧式オートテンショナにおいては、シリンダの底面上に立設されたバルブスリーブ内にロッドの下端部を摺動自在に挿入して、バルブスリーブ内に圧力室を形成し、上記ロッドの上端部に設けられたばね座とシリンダの底面間にリターンスプリングを組み込んで、ロッドとバルブスリーブを伸長する方向に付勢している。
【0007】
また、シリンダの内周とバルブスリーブの外周間に密閉されたリザーバ室を設け、そのリザーバ室の下部と上記圧力室の下部をシリンダの底面部に形成された油通路で連通し、バルブスリーブの下端部内にはチェックバルブを組込み、ロッドに押込み力が負荷され、圧力室の圧力がリザーバ室の圧力より高くなった際、チェックバルブを閉鎖して油通路と圧力室の連通を遮断するようにしている。
【0008】
上記の構成からなる油圧式オートテンショナは、ばね座の上面に設けられた連結片を
図9(a)に示すエンジンブロックEに回動自在に連結し、シリンダの下面に設けられた連結片をプーリアーム56に連結して、ベルト54からテンションプーリ55およびプーリアーム56を介してロッドに押込み力が負荷された際に、チェックバルブを閉じ、圧力室内に封入されたオイルをバルブスリーブとロッドの摺動面間に形成されたリーク隙間に流動させ、その流動時のオイルの粘性抵抗により圧力室内に油圧ダンパ力を発生させて上記押込み力を緩衝するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記従来の油圧式オートテンショナにおいては、ロッドに押込み力が負荷された際、圧力室内のオイルをバルブスリーブとロッドの摺動面間に形成された単一のリーク隙間からリークさせる構成であるため、エンジンの通常運転時およびスタータ・ジェネレータ52でのエンジン始動時のそれぞれにおいてベルト54に適正な張力を付与することができない。
【0011】
すなわち、リーク隙間をエンジンの通常運転時におけるベルトの張力変動を吸収可能な大きさに設定すると、リーク隙間が大きいため、スタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジンの始動時にロッドが大きく押し込まれてベルト54に弛みが生じ、ベルト54とプーリP
1乃至P
3の接触部で滑りが生じ、ベルト寿命の低下やスタータ・ジェネレータ52によるエンジン始動不良が生じる可能性がある。
【0012】
一方、リーク隙間をスタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジンの始動時におけるベルト54の張力変動を吸収可能な大きさに設定すると、リーク隙間が小さいために、エンジンの通常運転時におけるベルト54の張力が高くなり過ぎてベルト54が過張力となり、ベルト54やプーリP
1乃至P
3を回転自在に支持する軸受が損傷し易くなり、燃料の消費が多くなるという問題が生じる。
【0013】
この発明の課題は、エンジンの通常運転時およびスタータ・ジェネレータでのエンジン始動時のそれぞれにおいて適正な張力をベルトに付与することができると共に、スタータ・ジェネレータでのエンジン始動時のベルトのスリップを確実に防止することができる製造コストの安い油圧式オートテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、この発明においては、底付きシリンダの底面上にバルブスリーブが立設され、そのバルブスリーブの内部にロッドの下端部が摺動自在に挿入されてバルブスリーブ内に圧力室が設けられ、前記ロッドの上部に設けられたばね座とシリンダの底面間に、ばね座とシリンダを伸張する方向に付勢するリターンスプリングが組み込まれ、前記シリンダの底部には、前記シリンダの内周とバルブスリーブの外周間に形成されたリザーバ室と前記圧力室を連通する油通路が設けられ、前記バルブスリーブの下端部内には、前記圧力室の圧力がリザーバ室内の圧力より高くなると閉鎖して圧力室と油通路の連通を遮断する第1チェックバルブが設けられ、その第1チェックバルブの閉鎖時に圧力室内のオイルによる油圧ダンパ作用でロッドとバルブスリーブを収縮させる方向の押込み力を緩衝する油圧式オートテンショナにおいて、前記ロッドの外径面と前記バルブスリーブの内径面間に筒状のプランジャを摺動可能に嵌合して、そのプランジャとロッドの摺動面間に第1リーク隙間を設け、かつ、プランジャとバルブスリーブの摺動面間に、前記第1リーク隙間より流路抵抗の大きな第2リーク隙間を設け、前記ロッドと前記プランジャの相互間に、前記圧力室内の圧力上昇に伴うプランジャの上昇時に前記第1リーク隙間を閉鎖する第2チェックバルブを設け、その第2チェックバルブを、前記ロッドの前記プランジャの上端から外部に位置する大径軸部の下端にバルブシートを設け、前記プランジャの上部内径面に前記バルブシートに対して着座可能なシート面を設けた構成とし、前記ロッドとばね座を一体に成形した構成を採用したのである。
【0015】
上記の構成からなる油圧式オートテンショナにおいて、ISGのアイドルストップ機構が搭載されたエンジンの補機駆動用ベルト伝動装置におけるベルトの張力調整に際しては、エンジンブロック等のテンショナ取付け対象にロッド上部のばね座を連結し、シリンダの下端部をプーリアームに連結して、そのプーリアームに支持されたテンションプーリがクランクシャフトプーリとスタータ・ジェネレータプーリ間のベルト部を押圧する方向にプーリアームを付勢し、ベルトを緊張させる。
【0016】
上記のようなベルト伝動装置への油圧式オートテンショナの組込み状態において、エンジンの通常運転状態でベルトの張力が強くなり、そのベルトからロッドに押込み力が負荷されると、圧力室内の圧力が高くなり、第1チェックバルブが閉鎖して、圧力室内のオイルは流路抵抗の小さな第1リーク隙間からリザーバ室にリークし、第1リーク隙間を流れるオイルの粘性抵抗により圧力室内に油圧ダンパ力が発生し、その油圧ダンパ力によって上記押込み力が緩衝され、ベルトは適正張力に保持される。
【0017】
一方、スタータ・ジェネレータの駆動によるエンジン始動時、ベルトの張力は急激に大きくなって圧力室の圧力が急激に上昇する。この時、第1チェックバルブが閉鎖し、その第1チェックバルブの閉鎖後、プランジャが上昇し、そのプランジャの上部内径面に形成されたシート面がロッドの大径軸部の下端に設けられたバルブシートに着座して第2チェックバルブが閉鎖し、第1リーク隙間が閉塞される。
【0018】
このため、圧力室のオイルは第2リーク隙間からリザーバ室にリークする。その第2リーク隙間の流路抵抗は第1リーク隙間の流路抵抗より大きいため、圧力室での圧力低下が少なく、圧力室での油圧ダンパ作用によりロッドの押し込みが抑制されてベルトはクランクシャフトを駆動するのに必要なベルト張力に保持され、ベルトとプーリ間のスリップが防止される。
【0019】
ここで、ロッドは、プランジャとの間で第1リーク隙間を形成するものであるため、外径面の面精度が悪い場合には、第1リーク隙間からのオイルのリーク量を精度よく管理することができず、また、第2チェックバルブの閉鎖が不完全となって流路抵抗の小さな第1リーク隙間からもオイルがリークしてダンパ力は小さくなり、ベルトスリップが発生する可能性がある。このため、ロッドの外径面は所望の面精度を確保する必要がある。
【0020】
ロッド外径面の面精度の確保には、樹脂等によって成形されるばね座と別体のロッドを旋削加工後に研削加工を施すのも一つの方法である。しかし、その場合、大径軸部の下端とロッドの連設部に研削加工用の盗みを形成する必要があり、また、ばね座にインサートされるロッドの上部には抜止め強度を確保する凹凸を設けておく必要があるため、ロッドの製造にコストがかかる。
【0021】
しかし、この発明では、ロッドとばね座を一体に成形しているため、ロッドに十分な面精度を確保することができる。このため、旋削および研削加工や、抜止め強度を確保するための凹凸の形成を不要とすることができので、製造コストを大幅に低減することができる。
【0022】
ここで、ロッドとばね座を一体とする成形には、樹脂の成形を採用することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明においては、上記のように、エンジンの通常運転時、圧力室内のオイルは流路抵抗の小さな第1リーク隙間からリザーバ室にリークし、一方、スタータ・ジェネレータでのエンジン始動時、圧力室内のオイルは流路抵抗の大きな第2リーク隙間からリザーバ室にリークするため、エンジンの通常運転時およびスタータ・ジェネレータでのエンジン始動時のそれぞれにおいてベルトに適正な張力を付与することができる。
【0024】
また、ロッドとばね座を成形により一体化したことにより、旋削および研削加工後にばね座と一体化する場合に比較して製造コストを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、シリンダ10は底部を有し、その底部の下面に
図9のプーリアーム56に連結される連結片11が設けられている。
【0027】
連結片11には、一側面から他側面に貫通する軸挿入孔11aが設けられ、その軸挿入孔11a内に筒状の支点軸11bとその支点軸11bを回転自在に支持する滑り軸受11cとが組み込まれ、上記支点軸11b内に挿通されてプーリアーム56にねじ係合されるボルトの締め付けにより支点軸11bが固定され、連結片11がプーリアーム56に回動自在の取付けとされる。
【0028】
シリンダ10の底面には、バルブスリーブ嵌合孔12が設けられ、そのバルブスリーブ嵌合孔12内に鋼製のバルブスリーブ13の下端部が圧入されている。バルブスリーブ13内にはロッド14の下部が摺動自在に挿入され、そのロッド14の挿入によって、バルブスリーブ13内には上記ロッド14の下側に圧力室15が設けられている。
【0029】
ロッド14のシリンダ10の外部に位置する上端部にはばね座16が設けられ、そのばね座16とシリンダ10の底面間に組込まれたリターンスプリング17は、シリンダ10とロッド14が相対的に伸張する方向に付勢している。
【0030】
ばね座16の上端にはエンジンブロックに連結される連結片18が設けられている。連結片18には一側面から他側面に貫通するスリーブ挿入孔18aが形成され、そのスリーブ挿入孔18a内にスリーブ18bと、そのスリーブ18bを回転自在に支持する滑り軸受18cとが組み込まれ、上記スリーブ18b内に挿通されるボルトによって連結片18がエンジンブロックに回転自在に連結される。
【0031】
ばね座16は成形品からなる。その成形時、
図4に示すように、ロッド14が同時に成形されて、ロッド14とばね座16は一体化されている。また、成形時、
図1および
図4に示すように、ばね座16にシリンダ10の上部外周を覆う筒状のダストカバー20と、リターンスプリング17の上部を覆う筒状のスプリングカバー21とが同時に成形される。
【0032】
ロッド14とばね座16を一体化するため、ここでは、熱硬化性樹脂等の樹脂成形としているが、成形による一体化はこれに限定されない。例えば、アルミのダイキャスト成形であってもよく、金属粉末の焼結成形であってもよい。
【0033】
スプリングカバー21は、ばね座16の成形時にインサート成形される筒体22によって外周の全体が覆われている。筒体22は、鋼板のプレス成形品からなる。
【0034】
図1に示すように、シリンダ10の上側開口部内にはシール部材としてのオイルシール23が組込まれ、そのオイルシール23の内周が筒体22の外周面に弾性接触して、シリンダ10の上側開口を閉塞し、シリンダ10の内部に充填されたオイルの外部への漏洩を防止し、かつ、ダストの内部への侵入を防止している。
【0035】
上記オイルシール23の組み込みにより、シリンダ10とバルブスリーブ13との間に密閉されたリザーバ室24が形成される。リザーバ室24と圧力室15は、バルブスリーブ嵌合孔12とバルブスリーブ13の嵌合面間に形成された油通路25およびバルブスリーブ嵌合孔12の底面中央部に形成された円形凹部からなる油溜り26を介して連通している。
【0036】
バルブスリーブ13の下端部内には第1チェックバルブ27が組み込まれている。第1チェックバルブ27は、バルブスリーブ13の下端部内に圧入されたバルブシート27aの弁孔27bを圧力室15側から開閉する鋼製のチェックボール27cと、そのチェックボール27cを弁孔27bに向けて付勢するスプリング27dと、上記チェックボール27cの開閉量を規制するリテーナ27eとからなっている。
【0037】
第1チェックバルブ27は、圧力室15内の圧力がリザーバ室24内の圧力より高くなると、チェックボール27cが弁孔27bを閉じ、圧力室15と油通路25の連通が遮断して、圧力室15内のオイルが油通路25を通ってリザーバ室24に流れるのを防止する。
【0038】
図1および
図2に示すように、ロッド14には筒状のプランジャ28が嵌合されている。プランジャ28は、ロッド14の外径面およびバルブスリーブ13の内周上部に形成された小径内径面13aに沿って摺動自在とされ、上記ロッド14とプランジャ28の摺動面間に円筒状の第1リーク隙間31が形成されている。また、プランジャ28とバルブスリーブ13の摺動面間に円筒状の第2リーク隙間32が設けられている。
【0039】
第2リーク隙間32のすき間量は第1リーク隙間31のすき間量より小さく、そのすき間量の相違から、第2リーク隙間32の流路抵抗が第1リーク隙間31の流路抵抗より大きくなっている。
【0040】
第1リーク隙間31および第2リーク隙間32のそれぞれは、圧力室15内のオイルがそれぞれのリーク隙間31、32に沿ってリークする際の粘性抵抗により圧力室15内に油圧ダンパ作用を生じさせるようになっている。
【0041】
第1リーク隙間31は、オイルのリークによって生じる油圧ダンパ作用によって
図9(a)に示すエンジンの通常運転時におけるベルト54の張力変動を吸収可能とする大きさに設定されている。一方、第2リーク隙間32は、
図9(b)に示すスタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジン始動時にロッド14が急激に押し込まれることのない大きさに設定されている。
【0042】
図2に示すように、ロッド14の下端部にはプランジャ28を抜止めするストッパ34が設けられている。ストッパ34として、ここでは止め輪を採用し、ロッド14の下端部に設けられたリング溝33に取り付けるようにしている。
【0043】
ここで、止め輪からなるストッパ34は周方向の一部に切り離し部34aを有し、その切り離し部34aを介して圧力室15と第1リーク隙間31は常に連通する状態にある。
【0044】
ロッド14とプランジャ28の相互間には、スタータ・ジェネレータ52(
図9参照)の駆動によるエンジン始動時の圧力上昇時に第1リーク隙間31を閉塞する第2チェックバルブ35が設けられている。
【0045】
第2チェックバルブ35は、ロッド14のプランジャ28の上端から外部に位置する上部に大径軸部14aを設け、その大径軸部14aの下端部に凸曲面状のバルブシート35aを設け、一方、プランジャ28の上部内径面にテーパ状のシート面35bを形成し、圧力室15内の圧力によるプランジャ28の上昇時に、
図3に示すように、バルブシート35aにシート面35bを着座させて第1リーク隙間31の上端開口を閉塞するようにしている。
【0046】
図1および
図2に示すように、プランジャ28の上部には外向きのフランジ29が設けられ、そのフランジ29とばね座16の対向面間にバルブスプリング37が組み込まれている。バルブスプリング37はプランジャ28をロッド14の下端部に取り付けられた前述のストッパ34に向けて付勢している。
【0047】
バルブスプリング37として、
図2ではコイルばねを採用しているが、
図5に示すように、皿ばねであってもよく、あるいは、
図6に示すように、波形座金であってもよい。さらに、
図7に示すように、ウェーブスプリングであってもよい。波形座金を採用する場合は、
図6に示すように、複数の波形座金37のそれぞれの重なり部間に平座金38を介在させるようにする。
【0048】
図2に示すように、プランジャ28の外周下部には、下部が大径のリング状のテーパ溝39が設けられ、そのテーパ溝39内に抜止めリング40が取り付けられている。抜止めリング40は、自然状態での外径がプランジャ28の外径より大径とされて外周部がプランジャ28の外径面より外側に位置し、バルブスリーブ13の内周上部に形成された上述の小径内径面13aの下端の段差部13bに対する当接によってプランジャ28およびロッド14がバルブスリーブ13の上端から上方に抜け出るのを防止する。
【0049】
実施の形態で示す油圧式オートテンショナは上記の構成からなり、
図9に示すアイドルストップ機構が搭載されたエンジンの補機駆動用ベルト伝動装置への組込みに際しては、シリンダ10の閉塞端に設けられた連結片11をプーリアーム56に連結し、かつ、ばね座16の連結片18をエンジンブロックに連結して、そのプーリアーム56に調整力を付与する。
【0050】
上記のようなベルト54の張力調整状態において、エンジンの通常運転状態において、補機53の負荷変動等によってベルト54の張力が変化し、上記ベルト54の張力が弱くなると、リターンスプリング17の押圧によりシリンダ10とばね座16が伸張する方向に相対移動してベルト54の弛みが吸収される。
【0051】
ここで、シリンダ10とばね座16が伸張する方向に相対移動するとき、圧力室15内の圧力はリザーバ室24内の圧力より低くなるため、第1チェックバルブ27が開放する。このため、リザーバ室24内のオイルは油通路25から油溜り26を通って圧力室15内にスムーズに流れ、シリンダ10とばね座16は伸張する方向にスムーズに相対移動してベルト54の弛みを直ちに吸収する。
【0052】
一方、ベルト54の張力が強くなると、ベルト54から油圧式オートテンショナのシリンダ10とばね座16を収縮させる方向の押込み力が負荷される。このとき、圧力室15内の圧力はリザーバ室24内の圧力より高くなるため、第1チェックバルブ27のチェックボール27cが弁孔27bを閉鎖する。
【0053】
また、圧力室15内のオイルは
図2の矢印で示すように第1リーク隙間31を流通し、その第1リーク隙間31の上端開口から
図1に示されるリザーバ室24にリークし、上記第1リーク隙間31を流動するオイルによって圧力室15内に油圧ダンパ力が発生する。その油圧ダンパ力により、油圧式オートテンショナに負荷される上記押込み力が緩衝される。
【0054】
このとき、第1リーク隙間31は、エンジンの通常運転時におけるベルト54の張力変動を吸収可能な大きさに設定されているため、エンジンの通常運転時におけるベルト54の張力が高くなり過ぎることはなく、適正張力に保持される。
【0055】
一方、スタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジン始動時、ベルト54の張力は急激に大きくなってばね座16を介して作用するロッド14に対する押込み力が強くなり、圧力室15の圧力が急激に上昇する。このとき、第1チェックバルブ27は閉鎖して圧力室15内の圧力が上昇し、その圧力がバルブスプリング37の弾性力より高くなると、プランジャ28がバルブスプリング37の弾性に抗して上昇し、
図3に示すように、シート面35bがバルブシート35aに着座して、第2チェックバルブ35が閉鎖する。
【0056】
第2チェックバルブ35の閉鎖により第1リーク隙間31の上端開口が閉塞し、圧力室15内のオイルは、
図3の矢印で示すように、第2リーク隙間32内に流通して上端開口からリザーバ室24にリークする。
【0057】
このとき、第2リーク隙間32の流路抵抗は第1リーク隙間31の流路抵抗より大きいため、圧力室15内のオイルは第2リーク隙間32内をゆっくりと流動する。このため、圧力室15での急激な圧力低下がなく、その圧力室15内の油圧ダンパ作用によってロッド14の押し込みが抑制され、ベルト54はクランクシャフト51を駆動するのに必要なベルト張力に保持され、ベルト54とプーリP
1乃至P
3間のスリップが防止される。
【0058】
上記のように、エンジンの通常運転時、圧力室15内のオイルは流路抵抗の小さな第1リーク隙間31からリザーバ室24にリークし、一方、スタータ・ジェネレータ52でのエンジン始動時、圧力室15内のオイルは流路抵抗の大きな第2リーク隙間32からリザーバ室24にリークするため、エンジンの通常運転時およびスタータ・ジェネレータでのエンジン始動時のそれぞれにおいてベルト54に適正な張力を付与することができる。
【0059】
ここで、ロッド14は、プランジャ28との間で第1リーク隙間31を形成するものであるため、外径面の面精度が悪い場合には、第1リーク隙間31からのオイルのリーク量を精度よく管理することができなくなり、また、第2チェックバルブ35の閉鎖が不完全となって流路抵抗の小さな第1リーク隙間31からもオイルがリークしてダンパ力が小さくなり、ベルトスリップが発生する可能性がある。このため、ロッド14の外径面は所望の面精度を確保する必要がある。
【0060】
図10は、ロッド14の外径面の面精度を確保する方法の一例を示す。この方法においては、金属からなるロッド14を旋削し、その旋削加工後に研削加工を施すようにしている。
【0061】
しかし、上記方法におけるロッド14の面精度の確保においては、研削加工を必要とするため、大径軸部14aの下端とロッド14の連設部に研削加工用の盗み14bを形成する必要がある。また、成形品からなるばね座16との結合を強固なものとするため、ばね座16にインサートされるロッド14の上部に凹凸14cを設けて抜止め強度を確保する必要があるため、ロッド14の製造にコストがかかる。
【0062】
実施の形態においては、ロッド14とばね座16を一体に成形しているため、ロッド14に十分な面精度を確保することができる。このため、旋削および研削加工や、抜止め強度を確保するための凹凸の形成を不要とすることができので、製造コストを大幅に低減することができ、大量生産を可能とすることができる。
【0063】
図8に、上記実施形態の油圧式オートテンショナ(以下「実施品」という)の反力特性と、従来の油圧式オートテンショナ(以下「従来品」という)の反力特性とを比較した測定例を示す。以下説明する。
【0064】
実施品としては、上記実施形態で説明したテンショナを使用した。すなわち、
図1および
図2に示すように、有底筒状のシリンダ10と、そのシリンダ10の底面から上方に延びるバルブスリーブ13と、そのバルブスリーブ13に上下に摺動可能に挿入されたプランジャ28と、そのプランジャ28に上下に摺動可能に挿入されたロッド14と、バルブスリーブ13とロッド14とプランジャ28とで囲まれる圧力室15と、ロッド14とプランジャ28の摺動面間に形成された円筒状の第1リーク隙間31と、プランジャ28とバルブスリーブ13の摺動面間に形成された円筒状の第2リーク隙間32と、ロッド14の上部に設けられたばね座16と、そのばね座16をシリンダ10に対して上方に付勢するリターンスプリング17と、プランジャ28を下方に付勢するバルブスプリング37と、ロッド14に対するプランジャ28の上方への移動範囲を規制する上側のストッパとしてのバルブシート35aと、ロッド14に対するプランジャ28の下方への移動範囲を規制する下側のストッパ34としての止め輪とを有する構成のテンショナを使用した。そして、シリンダ10を固定した状態でばね座16を上下に加振し、ばね座16に作用する上向きの力(テンショナ反力)の変化を測定した。
【0065】
また、従来品としては、特開2009−275757号公報の
図1に示すテンショナ(実施品のプランジャ28に相当する部材が無いテンショナ。ロッド14がバルブスリーブ13に直接摺動する)を使用した。
【0066】
加振条件は以下のとおりである。
・制御方法:変位制御
・加振波形:サイン波
・加振周波数:10Hz
【0067】
変位制御は、ばね座16に作用する力(テンショナ反力)がどのように増減するかによらず、ばね座16の位置の時間変化がサイン波となるようにばね座16の変位を制御する制御方式である。加振の振幅は、エンジンの通常運転時にテンショナに加わる一般的な加振の振幅(例えば±0.1mm〜±0.2mm程度)よりも大きい±0.5mmとした。実施品および従来品は、いずれもばね係数が約35N/mmのリターンスプリング17を使用している。
【0068】
上記の加振試験により得たテンショナ変位(ばね座16の下向きの変位)とテンショナ反力(ばね座16に作用する上向きの力)の関係を
図8に示す。
【0069】
図8に示すように、実施品は、テンショナが収縮する過程で、テンショナ反力が急・緩・急の3段階の行程で変化している。すなわち、テンショナが収縮する過程で、実施品のテンショナ反力は、テンショナ反力の最小値(点P1)を起点として比較的急に増加する第1行程(点P1〜点P2)と、ほとんど増加せずにほぼ一定の大きさを維持する第2行程(点P2〜点P3)と、比較的急に増加する第3行程(点P3〜点P4)とを順に経てテンショナ反力の最大値(点P4)まで変化する。
【0070】
その後、実施品は、テンショナが伸長する過程で、テンショナ反力が急・緩・急・緩の4段階の行程で変化する。すなわち、テンショナが伸長する過程で、実施品のテンショナ反力は、テンショナ反力の最大値(点P4)を起点として比較的急に減少する第1行程(点P4〜点P5)と、ほとんど減少せずにほぼ一定の大きさを維持する第2行程(点P5〜点P6)と、比較的急に減少する第3行程(点P6〜点P7)と、ほとんど減少せずにほぼ一定の大きさを維持する第4行程(点P7〜点P1)とを順に経てテンショナ反力の最小値(点P1)まで変化する。
【0071】
これに対し、従来品は、テンショナが収縮する過程で、テンショナ反力が最小値(点Q1)から最大値(点Q2)までおおむね単調に増加する。また、従来品は、テンショナが伸長する過程で、テンショナ反力が急・緩の2段階の行程で変化する。すなわち、テンショナが伸長する過程で、従来品のテンショナ反力は、テンショナ反力の最大値(点Q2)を起点として比較的急に減少する第1行程(点Q2〜点Q3)と、ほとんど減少せずにほぼ一定の大きさを維持する第2行程(点Q3〜点Q1)とを順に経てテンショナ反力の最小値(点Q1)まで変化する。
【0072】
つまり、実施品のテンショナは、テンショナが収縮する過程で、テンショナ反力の増加率が急から緩に変わる変化点P2と、テンショナ反力の増加率が緩から急に変わる変化点P3とを順に有する反力特性を示す。また、実施品のテンショナは、テンショナが伸長する過程で、テンショナ反力の減少率が急から緩に変わる変化点P5と、テンショナ反力の減少率が緩から急に変わる変化点P6と、テンショナ反力の減少率が急から緩に変わる変化点P7とを順に有する反力特性を示す。
【0073】
実施品のテンショナが上記反力特性を示す理由を、
図1〜
図3、
図8を参照して説明する。
【0074】
<点P1〜点P2>
図2に示すロッド14が下降を開始する。このとき、プランジャ28はバルブスプリング37で下方に付勢してストッパ34に押圧されているので、プランジャ28もロッド14と一体に下降する。プランジャ28とロッド14が一体に下降すると、圧力室15内のオイルの一部が第1リーク隙間31を通って圧力室15から流出するとともに、圧力室15内のオイルが圧縮される。圧力室15内のオイルが圧縮すると、圧力室15内のオイルの圧力が増加し、テンショナ反力が比較的急に増加する(
図8の点P1〜点P2)。そして、
図8の点P2において、圧力室15内のオイルからプランジャ28に作用する上向きの圧力と、バルブスプリング37からプランジャ28に作用する下向きの付勢力とが釣り合う。
【0075】
<点P2〜点P3>
図2に示すロッド14がさらに下降する。このとき、圧力室15内のオイルからプランジャ28に作用する上向きの圧力が、バルブスプリング37からプランジャ28に作用する下向きの付勢力を上回ることにより、プランジャ28が上昇する。この間は、プランジャ28が上昇することによって圧力室15の圧力上昇が抑えられ、テンショナ反力がほぼ一定となる(
図8の点P2〜点P3)。すなわち、ロッド14の下降に伴いプランジャ28が上昇するので、圧力室15の体積がほとんど変化せず、圧力室15の圧力がほぼ一定となる。このとき、圧力室15の体積がほとんど変化しないため、第1リーク隙間31および第2リーク隙間32にはオイルがほとんど流れない。そして、
図8の点P3において、
図3に示すように、シート面35bがバルブシート35aに着座し、プランジャ28の上昇が停止する。
【0076】
<点P3〜点P4>
図3に示すロッド14がさらに下降する。このとき、
図3に示すように、シート面35bがバルブシート35aに着座しているので、プランジャ28もロッド14と一体に下降する。プランジャ28とロッド14が一体に下降すると、圧力室15内のオイルがさらに圧縮されるので、圧力室15内のオイルの圧力が再び増加し、テンショナ反力が再び急に増加する(
図8の点P3〜点P4)。このとき、
図3に示すように、シート面35bがバルブシート35aに着座しているので、第1リーク隙間31にはオイルが流れず、圧力室15内のオイルの一部が第2リーク隙間32を通って圧力室15から流出する。
【0077】
<点P4〜点P5>
図3に示すロッド14が上昇を開始する。このとき、圧力室15内のオイルからプランジャ28に作用する上向きの圧力が、バルブスプリング37からプランジャ28に作用する下向きの付勢力を上回っているので、プランジャ28もロッド14と一体に上昇する。プランジャ28とロッド14が一体に上昇すると、圧力室15内のオイルの圧縮が次第に解放されるので、圧力室15内のオイルの圧力が減少し、テンショナ反力が比較的急に減少する(
図8の点P4〜点P5)。このとき、圧力室15内のオイルの圧縮が解放される(すなわち圧力室15内のオイルが膨張する)ことにより圧力室15内のオイルの体積が増加するので、第2リーク隙間32にはオイルがほとんど流れない。また、
図3に示すように、シート面35bがバルブシート35aに着座しているので、第1リーク隙間31にもオイルは流れない。そして、
図8の点P5において、圧力室15内のオイルからプランジャ28に作用する上向きの圧力と、バルブスプリング37からプランジャ28に作用する下向きの付勢力とが釣り合う。
【0078】
<点P5〜点P6>
図3に示すロッド14がさらに上昇する。このとき、圧力室15内のオイルからプランジャ28に作用する上向きの圧力が、バルブスプリング37からプランジャ28に作用する下向きの付勢力を下回ることにより、プランジャ28が下降する。この間は、プランジャ28が下降することによって、圧力室15の圧力下降が抑えられ、テンショナ反力がほぼ一定となる(
図8の点P5〜点P6)。すなわち、ロッド14の上昇に伴いプランジャ28が下降するので、圧力室15の体積がほとんど変化せず、圧力室15の圧力がほぼ一定となる。このとき、点P4〜点P5のときと同じく、圧力室15内のオイルの圧縮が解放される(すなわち圧力室15内のオイルが膨張する)ことにより圧力室15内のオイルの体積が増加するので、第1リーク隙間31および第2リーク隙間32にはオイルがほとんど流れない。そして、
図8の点P6において、
図2に示すように、プランジャ28の下方の移動がストッパ34で阻止され、プランジャ28の下降が停止する。
【0079】
<点P6〜点P7>
図2に示すロッド14がさらに上昇する。このとき、
図2に示すように、プランジャ28のロッド14に対する下方への相対移動がストッパ34で阻止されているので、プランジャ28もロッド14と一体に上昇する。プランジャ28とロッド14が一体に上昇すると、圧力室15内のオイルの圧縮がさらに解放されるので、圧力室15内のオイルの圧力が再び減少し始め、テンショナ反力が再び急に減少する(
図8の点P6〜点P7)。このとき、点P4〜点P5のときと同じく、圧力室15内のオイルの圧縮が解放される(すなわち圧力室15内のオイルが膨張する)ことにより圧力室15内のオイルの体積が増加するので、第1リーク隙間31および第2リーク隙間32にはオイルがほとんど流れない。そして、
図8の点P7において、
図1に示す圧力室15内のオイルの圧力がリザーバ室24内のオイルと同等の圧力まで低下し、圧力室15内のオイルの圧縮が完全に解放された状態となる。
【0080】
<点P7〜点P1>
図1に示すロッド14がさらに上昇する。このとき、プランジャ28のロッド14に対する下方への相対移動がストッパ34で阻止されているので、プランジャ28もロッド14と一体に上昇する。プランジャ28とロッド14が一体に上昇すると、圧力室15内のオイルの圧力がリザーバ室24内の圧力を下回ることによりチェックバルブ27が開き、オイルが油通路25を通ってリザーバ室24から圧力室15に流れる。そのため、圧力室15内のオイルの圧力はほとんど変化せず、テンショナ反力もほぼ一定となる(
図8の点P7〜点P1)。
【0081】
以上のとおり、実施品は、テンショナが収縮する過程で、テンショナ反力が所定値(
図8の点P2のときの値)に達すると、プランジャ28が上昇して圧力室15の体積の変化を吸収し、その間、テンショナ反力がほぼ一定となる(
図8の点P2〜点P3)。そのため、実施品は、テンショナが収縮する過程で、テンショナ反力の増加率が急から緩に変わる変化点P2と、テンショナ反力の増加率が緩から急に変わる変化点P3とを順に有する反力特性を示す。
【0082】
また、実施品は、テンショナが伸長する過程で、テンショナ反力が所定値(
図8の点P5のときの値)に達すると、プランジャ28が下降して圧力室15の体積の変化を吸収し、その間、テンショナ反力がほぼ一定となる(
図8の点P5〜点P6)。そのため、実施品は、テンショナが伸長する過程で、テンショナ反力の減少率が急から緩に変わる変化点P5と、テンショナ反力の減少率が緩から急に変わる変化点P6とを順に有する反力特性を示す。
【0083】
実施品のテンショナは、上述の反力特性を有することにより、エンジンの通常運転時には、テンショナ反力の大きさを小さく抑えて、
図9(a)に示すテンションプーリ55がベルト54に付与する張力を小さく抑えることができ、一方、スタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジン始動時には、大きいテンショナ反力を発生させて、
図9(b)に示すベルト54とプーリP
2の間のスリップを効果的に防止することができる。
【0084】
すなわち、エンジンの通常運転時には、
図8に符号S1で示すように、テンショナが±0.5mmよりも小さい振幅(例えば±0.1mm〜±0.2mm程度の振幅)で変位する。このとき、テンショナ反力は、テンショナが収縮する過程では、点P1を起点として、点P2を経て、点P2と点P3の間の値まで増加し、その後、テンショナが伸長する過程では、点P2と点P3の間の値を起点として、点P5と点P6の間の値まで減少し、さらに点P6と点P7とを順に経て、点P1まで減少する。このように、実施品のテンショナを使用すると、エンジンの通常運転時には、テンショナ反力の最大値を点P2と点P3の間の値に抑えることができ、
図9(a)に示すテンションプーリ55がベルト54に付与する張力を小さく抑えて、エンジンの低燃費化を図ることができる。
【0085】
一方、スタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジン始動時には、テンショナは、
図8に符号S2で示すように、±0.5mmの振幅の最大値かその近傍まで収縮する。このとき、テンショナ反力は、点P4かその近傍まで増加する。そのため、スタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジン始動時には、大きいテンショナ反力を発生させることができ、
図9(b)に示すベルト54とプーリP
2の間のスリップを効果的に防止することができる。
【0086】
これに対し、従来品のテンショナでは、エンジンの通常運転時には、ベルト54の張力が過大となりやすい傾向がある。すなわち、
図8に符号S1で示す振幅でテンショナが変位するとき、テンショナが収縮する過程では、テンショナ反力が、点Q1を起点として、点Q1と点Q2の間の値まで増加し、その後、テンショナが伸長する過程では、点Q1と点Q2の間の値を起点として、点Q3と点Q1の間の値まで減少し、さらに点Q1まで減少する。このように、従来品のテンショナを使用すると、エンジンの通常運転時には、テンショナ反力の最大値が点Q1と点Q2の間の値まで増加するので、
図9(a)に示すテンションプーリ55がベルト54に付与する張力が過大となりやすく、エンジンの低燃費化を図ることが難しい。
【0087】
また、従来品のテンショナは、スタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジン始動時には、大きいテンショナ反力を発生させることが難しい。すなわち、
テンショナが、
図9に符号S2で示す±0.5mmの振幅の最大値かその近傍まで収縮したとき、テンショナ反力は、点Q2かその近傍までしか増加しない。そのため、スタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジン始動時に、大きいテンショナ反力を発生させることが難しく、
図9(b)に示すベルト54とプーリP
2の間にスリップが生じやすい。