(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本明細書で開示する実施例の技術的特徴の幾つかを記す。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
【0008】
本明細書が開示するエアフィルターは、撥油性シートと親油性シートを備えていてよい。親油性シートは、撥油性シートの表面に積層されていてよい。エアフィルターは、1層の撥油性シートと1層の親油性シートが積層されたものであってよい。あるいは、エアフィルターは、撥油性シートと親油性シートの積層構造が繰り返し設けられていてもよい。エアフィルターは、空気中の油粒子を除去するために用いられてよい。具体的には、給気中に含まれる50nm以上10μm以下の油系粒子(オイルミスト)を除去するために用いられてよい。
【0009】
撥油性シートは、50nm以上1000nm以下の直径を有する繊維(以下、ナノファイバーと称する)からなる不織布状であってよい。直径の大きな繊維を気流の中に配置すると、繊維の下流で渦が発生する。直径の大きな繊維でエアフィルターを形成すると、エアフィルター(繊維)の抵抗が増大し、エアフィルター上流と下流の間で圧力損失が生じる。しかしながら、ナノファイバーを気流の中に配置しても、ナノファイバーの下流に渦が発生しにくく、圧力損失を小さくすることができる。エアフィルター自体に加わる圧力を小さくすることができるので、エアフィルターの物理的な劣化が抑制される。さらに、ナノファイバー表面に油分がたまると光の乱反射が抑制されるので、撥油性シートの透明性が高くなる。エアフィルターの劣化が視認し易くなる。
【0010】
なお、好ましくは、撥油性シートを構成する繊維(ナノファイバー)の直径は50nm以上300nm以下であり、特に好ましくは100nm以上200nm以下である。直径50nm未満のナノファイバーは、製造コストが高い。また、直径300nmより大きなナノファイバーは、微細粒子の捕集性能が低下する。直径50nm以上300nm以下のナノファイバーは、安価に安定して製造することができる。ナノファイバーの直径を50nm以上300nm以下とすることにより、安価で高性能な撥油性シートを実現することができる。特に、ナノファイバーの直径が100nm以上200nm以下であれば、紡糸が容易となり、より安定して撥油性シートを形成することができる。なお、ナノファイバーの繊維長は、繊維径の100倍以上(5μm以上)であってよい。
【0011】
また、撥油性シートをナノファイバーで形成することにより、以下の利点も得られる。空隙の小さな撥油性シートが得られるので、異物の捕獲性能を高くすることができる。ナノファイバーは大きな比表面積を有するので、撥油性シートの表面に異物を吸着させ易くすることができる。単位質量当たりの接着面積が増加するので、撥油性シートの吸着力が増大する。また、ナノファイバーはアスペクト比が高く、分子が長さ方向に配向しているので、高強度の撥油性シートが得られる。
【0012】
撥油性シートの材料は、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、シリカであってよい。撥油性シートは、エレクトロスピニング法(電子紡糸法)で形成されていてよい。エレクトロスピニング法を用いることにより、繊維径のばらつきが抑制されたナノファイバーを不織布状に形成することができる。エレクトロスピニング法を用いる場合、親油性シートの表面に撥油性シート(ナノファイバーで形成された不織布)を形成してもよい。あるいは、親油性シートとは別に撥油性シートを作成し、完成後の撥油性シートを親油性シートと貼りあわせてもよい。親油性シートの材料は、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース、表面を親油処理された素材からなる多孔性シート不織布であってよい。なお、エレクトロスピニング法の原理は公知のため説明を省略する。また、親油処理の方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法であってよい。
【0013】
エアフィルターは、気流の上流側(すなわち、異物を取り除く空気が存在する側)に、撥油性シートと親油性シートのいずれか一方のみが露出していてよい。具体的には、親油性シートが気流の上流側に配置され、撥油性シートが下流側に配置されてよい。あるいは、撥油性シートが気流の上流側に配置され、親油性シートが下流側に配置されてもよい。エアフィルターは、気流の上流側に、撥油性シートと親油性シートの両方が露出していてもよい。この場合、撥油性シートと親油性シートを繰り返し積層し、両者の接合面が気流の上流側に露出するように配置すればよい。
【0014】
なお、エアフィルターは、親油性シートの表面に撥油性シートが積層されている第1フィルターと、撥油性シートと親油性シートを繰り返し積層した第2フィルターを用意し、第1フィルターの表面(親油性シートの表面、又は、撥油性シートの表面)に第2フィルターの接合面が接するように第1フィルターと第2フィルターを接合していてもよい。
【0015】
(第1実施形態)
図1及び
図2を参照し、エアフィルター10について説明する。エアフィルター10は、ポリプロピレン製の親油性シート2の表面に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の撥油性シート(ナノファイバーシート)4が形成されている。親油性シート2の厚みは5〜20mmに調整されており、撥油性シート4の厚みは1〜100μmに調整されている。
図1では、親油性シート2を気流の上流側に配置している。エアフィルター10を通過する前の排気に含まれる異物のうち、大きな粒子は、親油性シート2で捕獲される。オイルミスト等の小さな粒子は、親油性シート2を通過し、撥油性シート4の表面に蓄積する。なお、
図1の矢印は気流の向きを現わしている。
【0016】
オイルミストが撥油性シート4の表面に蓄積すると、油粒子が凝集し、撥油性シート4の表面に液状油6が形成される(
図2を参照)。液状油6は、親油性シート2に吸収される。そのため、液状油6によって撥油性シート4に目詰まりが生じることが抑制される。親油性シート2を気流の上流側に配置することにより、液状油6が排気側(気流の下流側)に移動することが抑制され、液状油6が排気側の空間に移動することが抑制される。なお、
図1では親油性シート2を気流の上流側に配置しているが、撥油性シート4を気流の上流側に配置して親油性シート2を下流側に配置してもよい。
【0017】
(第2実施形態)
図3を参照し、エアフィルター20について説明する。エアフィルター20は、撥油性シート4と親油性シート2の積層構造が繰り返し設けられている。エアフィルター20では、親油性シート2の厚みは1〜20mmに調整されており、撥油性シート4の厚みは1〜100μmに調整されている。エアフィルター20では、撥油性シート4と親油性シート2の双方が、エアフィルターを通過する前の排気に接する。エアフィルター20においても、排気(エアフィルター20を通過する前の排気)中に含まれるオイルミストが撥油性シート4の表面で凝集し、液状油が形成され、液状油が親油性シート2に吸収される(
図2も参照)。なお、エアフィルター20は、複数のエアフィルター10(
図1を参照)を用意し、各々のエアフィルター10を積層することにより形成することができる。あるいは、エアフィルター20は、エアフィルター10を捲回することにより形成することもできる。この場合、
図3は、エアフィルター20の断面に相当する。
【0018】
(第3実施形態)
図4を参照し、エアフィルター30について説明する。エアフィルター30は、エアフィルター10の表層(親油性シート2)に、エアフィルター20を積層したものである。排気中に含まれるオイルミストは、エアフィルター20を構成している親油性シート2の部分を通過してしまう。しかしながら、エアフィルター10とエアフィルター20を組み合わせることにより、エアフィルター20を通過したオイルミストをエアフィルター10で捕集することができる。また、エアフィルター20によって多くのオイルミストを除去することができるので、エアフィルター10に達するオイルミストの量を減少させることができる。エアフィルター10の劣化をさらに抑制することができる。
【実施例】
【0019】
オイルコンプレッサーから排出される空気をエアフィルター10に供給し、エアフィルター10の0.3μm粒子の捕集率について経時的な変化を測定した。また、エアフィルター10の前後(上流と下流)の差圧についても経時的な変化を測定した。エアフィルター10に供給する空気(上流)の圧力を0.1Mpaに調整し、エアフィルターを通過した後の空気(下流)の流量を16L/分に調整した。なお、0.3μm粒子は、オイルコンプレッサーの排気に含まれるオイルミストに相当する。
【0020】
実施例のエアフィルターとして、親油性シートの表面に撥油性シートを貼り付け、エアフィルター10を作成した。なお、撥油性シートは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF,ソルベイスペシャリティポリマーズ(株)社製ソレフ21216)を用いて作成したナノファイバー不織布(繊維径300±50nm)を用いた。ナノファイバー不織布は、エレクトロスピニング法で作成した。また、親油性シートとして、WF Air Filter WF150(倉敷繊維加工(株)社製)を用いた。
【0021】
比較例のエアフィルターとして、第1の撥油性シートの表面に第2の撥油性シートを貼り付け、エアフィルターを作成した。なお、第1の撥油性シートは、実施例のエアフィルターで用いたものと同じナノファイバー不織布である。第2の撥油性シートは、PTFEろ紙(アドバンテック東洋(株)製PF100)を用いた。
【0022】
図5は、0.3μm粒子の捕集率の変化を示している。グラフの横軸は時間(日)を示し、縦軸は捕集率(%)を示している。「○」は実施例のエアフィルターの結果を示し「▲」は比較例のエアフィルターの結果を示している。
図5から明らかなように、実施例のエアフィルターは、測定開始から9日に亘って、初回(開始から1日後)に測定した捕集率(初期捕集率)を維持している。それに対して、比較例のエアフィルターは、2日間(2回目の測定)しか初期捕集率を維持できなかった。
【0023】
図6は、エアフィルターの前後の差圧の変化を示している。グラフの横軸は時間(日)を示し、縦軸は差圧(KPa)を示している。「○」は実施例のエアフィルターの結果を示し「▲」は比較例のエアフィルターの結果を示している。
図6に示すように、実施例のエアフィルターは、時間の経過とともに緩やかに差圧が上昇している。エアフィルターに捕集されたに0.3μm粒子によって、時間の経過とともにエアフィルターの開口が狭くなっていることを示している。それに対して、比較例のエアフィルターは、時間の経過とともに差圧が急激に上昇することが確認された。
【0024】
上記したように、実施例のエアフィルターは、長期間に亘って初期捕集率を維持している。このことは、実施例のエアフィルターは、長期間に亘って撥油性シートの劣化が抑制されていることを示している。より具体的には、撥油性シートの表面に蓄積した油粒子が親油性シートに移動し、撥油性シートの表面が油膜で覆われることが防止されていることを示している。比較例のエアフィルターは、測定開始から2日を超えると撥油性シートの表面に蓄積した油粒子が油膜を形成し、撥油性シートの開口を塞ぐ。その結果、測定開始から2日を超えると、0.3μm粒子の捕集率が低下している。このことは、
図6に示す差圧の変化にも顕著に現れている。実施例のエアフィルターは、撥油性シートの表面に油膜が形成されることが抑制されているので、差圧の増加が緩やかである。それに対して、比較例のエアフィルターは、撥油性シートの表面が油膜で覆われるので、差圧が急激に増加している。
【0025】
なお、
図5に示すように、初期捕集率は、比較例のエアフィルターの方が実施例のエアフィルターより高い。これは、実施例のエアフィルターが撥油性シートと親油性シートで構成されているのに対して、比較例のエアフィルターは2種類の撥油性シートで構成されていることに起因する。親油性シートは、開口率が高く(目が粗く)、0.3μm粒子を捕集することができないからである。そのため、初期捕集率だけを比較すると比較例のエアフィルターの方が優れていると判断することもできる。しかしながら、捕集率自体は、エアフィルターの配置等、設計により調整することが可能である。例えば、実施例のエアフィルターを2段に配置することにより、初期捕集率を向上させることができる。実施例のエアフィルターは、長期間に亘って初期捕集率を維持することができるという点において、比較例のエアフィルターに対して格段の利点を有しているといえる。
【0026】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。