(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、自動二輪車等の車両が備える内燃機関の制御装置には、クランク角センサによって検出されたクランク角情報や内燃機関の運転状態に基づいて、インジェクタの開弁時期や開弁時間及び点火コイルの通電時期や通電時間を制御する電子制御装置が設けられている。
【0003】
かかる電子制御装置では、クランク角センサの故障やその電気配線の断線等の異常の発生によってインジェクタや点火コイルの制御時期を決定できない場合、所望の燃料噴射及び点火制御を行うことができなくなるため、内燃機関の出力や車両の運転状態に不要な影響を及ぼす可能性がある。このため、クランク角センサの異常が発生した場合には、故障診断結果を車両の運転者に速やかに通知等する必要がある。
【0004】
このような背景から、クランク角センサが信号を出力する条件下においてクランク角センサからの信号が検出されたか否かを判別することによって、クランク角センサ自体の故障を検出する技術が提案されている。
【0005】
かかる状況下で、特許文献1は、内燃機関のクランク角センサ故障診断方法に関し、バッテリ電圧の変化を監視することによって内燃機関の状態がクランキング状態にあるか否かを判別し、内燃機関の状態がクランキング状態にあるときにクランク角センサの故障を検出する構成が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態における電子制御装置につき、詳細に説明する。
【0017】
〔構成〕
まず、
図1を参照して、本実施形態における電子制御装置の構成について説明する。
【0018】
図1は、本実施形態における電子制御装置の構成を示す模式的な構成図であり、
図1(a)は、ACG出力電圧が基準電位に対して正であるときの電流の流れを示す図であり、また、
図1(b)は、ACG出力電圧が基準電位に対して負であるときの電流の流れを示す図である。
【0019】
図1(a)及び
図1(b)に示すように、本実施形態における電子制御装置(Electronic Control Unit:ECU)1は、自動二輪車等の車両に搭載され、交流発電機(Alternating Current Generator:ACG)2及びクランク角センサ3が装着された図示しない内燃機関の運転状態を制御する装置である。ACG2の回転軸は、典型的には、内燃機関の図示を省略するクランク軸に直結されている。
【0020】
ECU1は、コネクタ11、ダイオード素子D1、トランジスタ素子T1、ダイオード素子D2、及びCPU(Central Processing Unit)12を主な構成要素として備えている。ここで、コネクタ11、ダイオード素子D1、トランジスタ素子T1、及びダイオード素子D2は、信号生成回路を構成し、かかる回路の機能についての詳細は後述する。
【0021】
コネクタ11は、ACG2側のコネクタ21に電気的に接続されている。ACG2側のコネクタ21は、電気配線22及び出力端子23を介してACG2に接続されている。コネクタ11には、ACG2の出力電圧(ACG出力電圧)が印加される。なお、
図1(a)では、基準電位に対して正であるACG出力電圧を呈する波形を出力端子23の下方に模式的に示し、
図1(b)では、基準電位に対して負であるACG出力電圧を呈する波形を出力端子23の下方に模式的に示す。
【0022】
ダイオード素子D1は、コネクタ11とCPU12とを電気的に接続する電気配線13に配設されている。ダイオード素子D1では、そのアノード端子がCPU12側の電気配線13に接続され、そのカソード端子がコネクタ11側の電気配線13に接続されている。
【0023】
トランジスタ素子T1は、NPN型のトランジスタ素子であって、ダイオード素子D1とダイオード素子D2との間の電気配線13に配設されている。トランジスタ素子T1では、そのエミッタ端子がダイオード素子D1側の電気配線13に接続され、そのコレクタ端子がダイオード素子D2側の電気配線13に接続され、そのベース端子が抵抗素子R1を介して接地電位に接続されている。また、かかるエミッタ端子とベース端子とは、抵抗素子R2を介して接続されている。
【0024】
ダイオード素子D2は、トランジスタ素子T1とCPU12との間の電気配線13に配設されている。ダイオード素子D2では、そのアノード端子がトランジスタ素子T1側の電気配線13に接続され、そのカソード端子がCPU12側の電気配線13に接続されている。
【0025】
トランジスタ素子T1とダイオード素子D2との間の電気配線13には、抵抗素子R3を介して電源電圧Vccが接続されている。また、ダイオード素子D2とCPU12との間の電気配線13は、抵抗素子R4を介して接地電位に接続されている。
【0026】
CPU12は、そのACG出力監視ポート12aを介して電気配線13に接続されている。また、CPU12は、電気配線14及び図示しないコネクタや電気配線を介してクランク角センサ3に接続されている。クランク角センサ3は、内燃機関のクランク軸であるクランクシャフトの回転角に対応するクランクパルス信号をCPU12に入力する。
【0027】
CPU12は、図示しないメモリに記憶されている制御プログラムを実行することによって判定部12b及び制御部12cとして機能する。制御部12cは、ECU1全体の動作を制御する。判定部12bの機能についての詳細は後述する。
【0028】
ここで、電子制御装置1では、
図1(a)に示すように、ACG出力電圧が基準電位に対して正である場合、トランジスタ素子T
1のベース端子からエミッタ端子側に電流が流れず、トランジスタ素子T
1はオフ状態となる。これにより、電源電圧VccからCPU12に向けて電流が流れ(矢印A1)、CPU12のACG出力監視ポート12aに正の電圧が印加されるため、ACG出力監視ポート12aは、ハイ電位(第1の電位)を呈する。
【0029】
一方、ACG出力電圧が基準電位に対して負である場合には、
図1(b)に示すように、トランジスタ素子T
1のベース端子からエミッタ端子側に電流が流れ(矢印A2)、ベース端子とエミッタ端子との間の電圧が閾値以上になることによって、トランジスタ素子T
1はオン状態となる。これにより、電源電圧Vccからトランジスタ素子T1に向けて電流が流れ、CPU12のACG出力監視ポート12aには電圧が印加されないため、ACG出力監視ポート12aは、ロー電位(第2の電位)を呈する。
【0030】
以上のような構成を有する電子制御装置1では、CPU12が、以下に示す異常検出処理を実行することによって、廉価なシステムにおいても電気的負荷の影響を受けることなくクランク角センサ3自体及びその電気配線系の異常を精度よく検出可能にする。以下、更に
図2及び
図3をも参照して、この異常検出処理を実行する際のCPU12の動作について説明する。
〔異常検出処理〕
【0031】
図2は、本実施形態における異常検出処理の流れを示すフローチャートである。また、
図3は、本実施形態における異常検出処理の流れを説明するためのタイミングチャートである。
【0032】
図2に示すフローチャートは、車両の図示を省略するスタータスイッチがオンされ、ECU1が起動されて稼働するタイミング(
図3に示す時刻t=t0)で開始となり、異常検出処理はステップS1の処理に進む。かかる異常検出処理は、ECU1が稼働している間、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0033】
ステップS1の処理では、判定部12bが、ACG2が回転しているか否かを判別する。具体的には、判定部12bは、ACG出力監視ポート12aの電位が正の電位(ハイ電位)からそれよりも低い電位(ロー電位)に変化した場合(例えば
図3に示す時刻t=t1)、ACG2が回転していると判別する。このような判別により、廉価なシステムにおいても、電気的負荷の影響を抑制した態様で、処理工程を簡素化すると共に、内燃機関が回転しているか否かを精度よく判別することができる。判別の結果、ACG2が回転している場合、判定部12bは、異常検出処理をステップS2の処理に進める。一方、ACG2が回転していない場合には、判定部12bは、今回の一連の異常検出処理を終了する。
【0034】
ステップS2の処理では、判定部12bが、ACG出力監視ポート12aの電位がロー電位であるか否かを判別する。判別の結果、ACG出力監視ポート12aの電位がロー電位である場合、判定部12bは、異常検出処理をステップS3の処理に進める。一方、ACG出力監視ポート12aの電位がロー電位でない場合には、判定部12bは、今回の一連の異常検出処理を終了する。
【0035】
ステップS3の処理では、判定部12bが、電気配線14を介してクランク角センサ3からのクランクパルス信号の入力が検出されているか否かを判別する。判別の結果、クランクパルス信号の入力が検出されている場合、判定部12bは、異常検出処理をステップS4の処理に進める。一方、クランクパルス信号の入力が検出されていない場合には、判定部12bは、異常検出処理をステップS5の処理に進める。例えば
図3に示す時刻t=t5においてクランク角センサ3自体及びその電気配線14系のいずれかに異常が発生した場合、時刻t=t5以後では、クランクパルス信号の入力は検出されなくなる。
【0036】
ステップS4の処理では、判定部12bは、クランク角センサ3自体及びその電気配線14系は正常であると判定する。これにより、ステップS4の処理は完了し、今回の一連の異常検出処理は終了する。
【0037】
ステップS5の処理では、判定部12bは、クランク角センサ3の出力信号が検出されなかった回数を計数するためのプログラムカウンタの値を1増数する。これにより、ステップS5の処理は完了し、異常検出処理はステップS6の処理に進む。例えば
図3に示す時刻t=t5においてクランク角センサ3自体及びその電気配線14系のいずれかに異常が発生した場合、判定部12bは、時刻t=t6から時刻t=t7の間及び時刻t=t8時刻t=t9の間においてプログラムカウンタの値を1増数する。
【0038】
ステップS6の処理では、判定部12bが、プログラムカウンタの値が所定値以上であるか否かを判別することにより、クランクパルス信号の入力が検出されなかった回数が所定回数以上であるか否かを判別する。判別の結果、クランクパルス信号の入力が検出されなかった回数が所定回数以上である場合、判定部12bは、異常検出処理をステップS7の処理に進める。一方、クランクパルス信号の入力が検出されなかった回数が所定回数未満である場合には、判定部12bは、今回の一連の異常検出処理を終了する。
【0039】
ステップS7の処理では、判定部12bは、クランク角センサ3自体及びその電気配線14系のいずれかに異常があると判定する。このような判定は、AGC2の出力電圧の負電圧部分に対応したACG出力監視ポート12aのロー電位に基づくものであるため、廉価なシステムにおいても、電気的負荷の影響をより抑制した態様で、処理工程を簡素化すると共に、クランク角センサの異常を精度よく検出することができる。これにより、ステップS7の処理は完了し、今回の一連の異常検出処理は終了する。
【0040】
以上の説明から明らかなように、本実施形態における電子制御装置1では、判定部12bが、ACG出力監視ポート12aに印加されるACG2の出力電圧に応じた電圧信号に基づいてACG2が回転しているか否かを判定すると共に、ACG2が回転していると判定したときに、クランク角センサ3からのクランクパルス信号の入力を検出しない場合には、クランク角センサ3及びその電気配線14系のいずれかに異常があると判定する。これにより、廉価なシステムにおいても、電気的負荷の影響を抑制した態様で、クランク角センサ3の異常を精度よく検出することができる。
【0041】
〔変形例〕
最後に、
図4を参照して、
図1に示す電子制御装置1の変形例について説明する。
【0042】
図4(a)から
図4(c)は、本実施形態における電子制御装置の変形例の構成を各々模式的に示す構成図である。
【0043】
図4(a)に示す変形例1では、
図1に示す電子制御装置1におけるトランジスタ素子T1並びに抵抗素子R1及びR2が省略されている。この変形例1においても、ACG出力電圧が基準電位に対して正である場合、電源電圧VccからCPU12に向けて電流が流れ(矢印A4)、ACG出力電圧が基準電位に対して負である場合、電源電圧VccからACG2に向けて電流が流れるので(矢印A5)、上述した異常検出処理を実行することによってクランク角センサ3の異常を検出することができる。また、このような構成によれば、トランジスタ素子T1並びに抵抗素子R1及びR2の分だけ電子制御装置1の回路規模を小さくして小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0044】
図4(b)に示す変形例2では、
図4(a)に示す変形例1において、コネクタ11とダイオード素子D1との間の電気配線13にツェナーダイオード素子D3が配設されていると共に、ツェナーダイオード素子D3とダイオード素子D1との間の電気配線13は抵抗素子R5を介して接地電位に接続されている。このような構成によれば、変形例1の作用及び効果に加えて、ツェナーダイオード素子D3によってACG出力電圧の負電圧を調整してその負電圧を安定させることができる。
【0045】
図4(c)に示す変形例3では、
図1に示す電子制御装置1におけるダイオード素子D1とCPU12との間の電気配線13に抵抗素子R6、PNP型のトランジスタ素子T
2、及び抵抗素子R7が配設されている。トランジスタ素子T
2のエミッタ端子は電源電圧Vccに接続され、コレクタ端子は抵抗素子R7に接続され、及び、ベース端子は抵抗素子R6に接続されている。また、エミッタ端子とベース端子は抵抗素子R8を介して接続され、抵抗素子R7とトランジスタ素子T
2のコレクタ端子との間の電気配線13は抵抗素子R9を介して接地電位に接続されている。この変形例3においても、ACG出力電圧が基準電位に対して正である場合、電源電圧VccからCPU12に向けて電流が流れ(矢印A4)、ACG出力電圧が基準電位に対して負である場合、電源電圧VccからACG2に向けて電流が流れるので(矢印A5)、上述した異常検出処理を実行することによってクランク角センサ3の異常を検出することができる。また、このような構成によれば、抵抗素子の抵抗値を調整することによってトランジスタ素子T
2の作動タイミングを調整することができる。
【0046】
なお、本発明は、部材の種類、形状、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。