【文献】
J. AM. CHEM. SOC.,2003年,VOL.125, NO.19,p.5652-5653
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の態様は、本発明の具体的な実施態様を対象とする以下の記載及び関連図面において開示される。用語「本発明の実施態様」は、本発明の全ての実施態様が、論じられた特性、利点、プロセス、又は操作様式を包含することを要求するものではなく、また代替の実施態様が本発明の要旨から逸脱することなく考案されてもよい。加えて、本発明の周知の要素は、詳細に記載されていなくてもよく、或いは省略されて、他のより関係の深い詳細を不明瞭にしないようにしてもよい。
【0015】
上記の背景において論じたように、Liイオン電池において安定な負極性能を達成することは、多くの高容量負極材料にとり、課題となってきた。このことは、その全てが理解されているのではない多様な理由から真実である。本発明者らは、例えば、電池電解質中にある、又はLiイオン電池(セル)サイクリングの間にin−situで生成される、フッ化水素酸(HF)の存在が、主要なシリコン負極劣化メカニズムの一つに寄与することを発見した。シリコンが、通常その天然の酸化物(SiO
2)を除去するのみで、その下にあるシリコンをインタクトなまま残すフッ化水素酸とは、事実上何ら化学的に反応しないものとして一般的に理解されているにもかかわらず、である。例えばマイクロエレクトロニクス産業においては、濃フッ化水素酸は、下にあるシリコンを損傷することなく環境条件下で酸化物をエッチングするべく、意図的に使用されている。
【0016】
それにもかかわらず、本発明者らはフッ化水素酸が、対応する負極のバイアス/電流条件下での電気化学的操作の間に、シリコンをエッチングすることを発見した。シリコン表面の溶解のための全体的な腐食反応は、以下の式:
Si+6HF+h
+→SiF
62−+6H
++3e
− (式1)
Si+6HF+h
+→SiF
62−+4H
++H
2+e
− (式2)
[式中、h
+は、正孔カチオンを表わし、かつe
−は、電子注入を表わす]に従って進行し得る。結果として生じる活物質(この場合はシリコン)の喪失と、その表面積の増大(孔形成及び表面の粗面化に起因する)とが、負極容量を低下させることが示された。
【0017】
残念なことに、従来のLiイオン電池は、通常の操作の間常にフッ化水素酸を生成する。フッ化水素酸は、例えば電池電解質中で、非解離もしくは解離型で存在してもよく、又はHF
2−もしくはH
2F
3−などの錯イオンを形成してもよく、これらの全てが上記の溶解反応に関与でき得る。多くの電池デザインにおいて、Liイオン電池に使用される電解質は、Li系の塩と、有機溶媒、中でもエチレンカーボネート(C
3H
4O
3)、ジメチルカーボネート(C
3H
6O
3)、及びエチルメチルカーボネート(C
4H
8O
3)などの組合せとからなる。イオン性の塩としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)が、その高い導電性及び輸率の故に一般的である。テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)もまた一般的である。しかしながらこれらの化合物は、残留水分への暴露により、又は電気化学的サイクリングの間に、容易にフッ化水素酸を産生し得る。産生されたフッ化水素酸が、正極材料表面を化学的に攻撃し得ることは既に示唆されてきたが、それは全ての酸化物と同様にフッ化水素酸と化学的に反応することが公知のリチウム酸化物もしくはリン酸化物(例えば、LiCoO
2又は、一般性は低いがLiMn
2O
4、LiFePO
4、もしくはLiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2)から一般的に構成されており、フッ化水素酸が負極材料にも同様に問題があり得ることは従来知られていなかった。
【0018】
それ故、より高容量の材料から形成される負極の安定性を、それに対するフッ化水素酸エッチングの有害作用を低減又は防止することによって改善するための装置、方法、及び他の技術が、本明細書において提供される。以下の記載において、例示のみを目的としたシリコン負極材料に関連して、いくつかの実施態様が記載される。開示された技術が、上記に論じられたシリコンのみならず、フッ化水素酸による電気化学的エッチングに感受性であるか、又はリチウムの挿入又は脱離の間に有意な体積変化(例えば、約5%を超える)を経験する、他の負極材料も含めた多様な高容量負極材料にも応用してよいことが理解されよう。かかる材料の例は:(i)重く(及び「極めて重く」)ドープされたシリコン;(ii)第IV族元素;(iii)金属との二元シリコン合金(又は混合物);(iv)金属との三元シリコン合金(又は混合物);及び(v)リチウムとの合金を形成する他の金属及び金属合金、を包含する。
【0019】
重く及び極めて重くドープされたシリコンは、高含量の第III族元素、例えばホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、もしくはタリウム(Tl)か、又は高含量の第V族元素、例えば窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、もしくはビスマス(Bi)を用いてドープされたシリコンを包含する。「重くドープされた」及び「極めて重くドープされた」により、ドーピング原子の含量が、典型的には3,000パーツパーミリオン(ppm)ないし700,000ppmの範囲内、又は全組成物の約0.3%ないし70%であることが理解されよう。
【0020】
高容量負極材料を形成するべく使用される第IV族元素は、Ge、Sn、Pb、及びそれらの合金、混合物、又は、一般式Si
a−Ge
b−Sn
c−Pb
d−C
e−D
f[式中、a、b、c、d、e、及びfは、ゼロ又は非ゼロでよく、かつここで、Dは周期表第III族又は第V族から選択されるドーパントである]の複合物を包含してもよい。
【0021】
金属との二元シリコン合金(又は混合物)としては、シリコン含量は、約20%ないし99.7%の範囲内であってもよい。合金(又は混合物)などの例は、限定するものではないが:Mg−Si、Ca−Si、Sc−Si、Ti−Si、V−Si、Cr−Si、Mn−Si、Fe−Si、Co−Si、Ni−Si、Cu−Si、Zn−Si、Sr−Si、Y−Si、Zr−Si、Nb−Si、Mo−Si、Tc−Si、Ru−Si、Rh−Si、Pd−Si、Ag−Si、Cd−Si、Ba−Si、Hf−Si、Ta−Si、及びW−Siを包含する。かかる二元合金は、第III族又は第V族元素によりドープ(又は重くドープ)されてもよい。別法として、他の第IV族元素をシリコンの代わりに使用して、金属との類似の合金又は混合物を形成してもよい。種々の第IV族元素の組合せもまた、金属とのかかる合金又は混合物を形成するために使用し得る。
【0022】
金属との三元シリコン合金(又は混合物)としては、シリコン含量は、約20%ないし99.7%の範囲内であってもよい。かかる三元合金は、第III族又は第V族元素によりドープ(又は重くドープ)されてもよい。他の第IV族元素をシリコンの代わりに使用して、金属とのかかる合金又は混合物を形成してもよい。別法として、他の第IV族元素をシリコンの代わりに使用して、金属との同様の合金又は混合物を形成してもよい。また種々の第IV族元素の組合せも、金属とのかかる合金又は混合物を形成するために使用してもよい。
【0023】
リチウムと合金を形成する他の金属及び金属合金の例は、限定するものではないが、Mg、Al、Ga、In、Ag、Zn、Cdその他、並びにこれらの金属、その酸化物その他から形成される種々の組合せを包含する。
【0024】
いくつかの実施態様においては、改善された負極安定性は、フッ素がないか(例えば、FフリーLi塩)又はフッ化水素酸を生成しないよう熱安定性であるか、のいずれかである特定の電解質塩を使用することによって達成してもよい。例えば、式R
f1SO
2X
−(Li
+)YZ
aで表わされるクラスのリチウム化合物は、Liイオン電池セルにおいて電解質として用いた場合、フッ化水素酸生成に対し効率的に防御することが判明している。式中、XはC又はNであり、a=0又は1であり、但しXがCであればa=1であり、かつXがNであればa=0であるという条件付きである。a=1であるとき、Y及びZは、独立して、CN、SO
2R
f2、SO
2R、P(O)(OR)
2、CO
2R、P(O)R
2、C(O)R
f3、C(O)R、それらから形成されるシクロアルキル基、及びH、からなる群より選択される電子吸引基であってもよく、但しY及びZの双方がHであることはできないという条件付きである。R
f1、R
f2、R
f3は、任意選択で1つ以上のエーテル酸素で置換えられた、1ないし4個の炭素からなるパーフルオロアルキルラジカルであってよい。Rは、任意選択で1つ以上のエーテル酸素で置換された、1ないし6個の炭素からなるアルキル基か、又は任意選択でさらに置換されたアリール基であってよい。別法として、a=0であるとき、Yは、式SO
2R
f6で表わされる電子吸引基でよく、ここで、R
f6は、任意選択で1つ以上のエーテル酸素で置換された、式(R
f4SO
2N
−(Li
+)SO
2)
mR
f5[式中、m=0又は1、かつR
f4は、C
nF
2n+1であり、かつR
f5は、C
nF
2n+1であり、ここで、n=1ないし4である]によって表わされるラジカルである。
【0025】
かかるリチウム化合物電解質の例は、以下を包含する:CF
3SO
2N
−(Li
+)SO
2CF
3、CF
3CF
2SO
2N
−(Li
+)SO
2CF
3、CF
3CF
2SO
2N
−(Li
+)SO
2CF
2CF
3、F
3SO
2N
−(Li
+)SO
2CF
2OCF
3、CF
3OCF
2SO
2N
−(Li
+)SO
2CF
2OCF
3、C
6F
5SO
2N
−(Li
+)SO
2CF
3、C
6F
5SO
2N
−(Li
+)SO
2C
6F
5、又はCF
3SO
2N
−(Li
+)SO
2PhCF
3。このタイプのリチウム化合物は、いくつかの実施態様において、0.2ないし3モル(M)の範囲内の濃度で使用されてきた。
【0026】
しかしながら、CF
3SO
2N
−(Li
+)SO
2CF
3及び他のイミド塩の使用に伴う課題は、それらがアルミニウム箔集電体を腐食し得ることである。アルミニウム箔集電体は、Liイオン電池の正極での使用には一般的であり、グラファイト製のものなどの他のタイプの集電体に比べて有利である。グラファイト集電体は、体積を増大し、電気的及び熱的導電性を低減し、かつさらに、Al箔集電体に比べてセル組立プロセスを複雑にする。この腐食に取り組みかつアルミニウム箔集電体の正極での使用をなお維持するため、いくつかの実施態様は、イミド塩と通常の塩(例えば、LiPF
6、LiBF
4、又はLiClO
4)との組合せを使用する。例えば、1つ以上の上記記載の電解質化合物と混合された、低いパーセンテージ(例えば、約10−25%)のLiPF
6は、アルミニウム集電体を腐食に対し安定化させると同時に、高容量負極の安定性を改善することが判明している。
【0027】
図1A−1Eは、電解質組成物のいくつかの例、及び、それらの、アルミニウム正極の腐食に対する全く異なる効果を例示する。各場合に、アルミニウム正極及びリチウム負極は、70重量%のエチレンカーボネート及び30重量%のプロピレンカーボネートから構成される溶媒、及び8重量%での電解質添加物ビニレンカーボネートとともに、特定の電解質組成物と組合せて使用された。各セルは、80℃で約1時間アニールした。
【0028】
図1Aのグラフでは、LiPF
6の完全な1M溶液を含む従来の電解質組成物が使用された。図からわかるように、正極では小さい腐食電流が観察されるにすぎず、かつサイクリングを反復するにつれて腐食電流は減少する。しかしながら、この電解質組成物は、多くの高容量負極材料には、上記に論じられた通りの負極劣化をもたらし得る。
図1Bのグラフでは、負極安定性を改善するべく、イミド塩(この場合は、CF
3SO
2N
−(Li
+)SO
2CF
3)の完全な1M溶液を含む電解質組成物を使用した。しかしながら、
図1AのLiPF
6溶液に比較して、実質的に大きい腐食電流が正極において観察され、かつ生じた腐食電流がサイクリングの反復につれて減少することは観察されなかった。
【0029】
図1Cのグラフでは、少量のLiPF
6を
図1Bのイミド塩組成物に添加して、約90重量%のイミド塩(この場合は、CF
3SO
2N
−(Li
+)SO
2CF
3)と約10重量%のLiPF
6とからなる電解質組成物を得た。図からわかるように、生じた腐食電流は、純粋なイミド塩溶液よりも有意に低減され、正極ではやはり小さい腐食電流が観察されるにすぎないが、サイクリングの反復につれて腐食電流が増大することが観察された。
図1Dのグラフでは、LiPF
6の濃度は約15重量%まで増大され、生じた腐食電流はさらに抑制された。
図1Eのグラフでは、LiPF
6の濃度は約20重量%まで増大され、生じた腐食電流はなおさらに抑制され、サイクリングの反復につれて再度減少し始めることが観察された。本明細書において実証されたように、所与の適用に適した特定の濃度においてイミド塩と通常の塩とを注意深く混合することは、正極の腐食と負極の安定性との間に有利な折衷案を提供し得る。
【0030】
一般に、イミド塩は、電解質の少なくとも50重量%を占めてよく、改善された負極安定性に関し上記に言及された利益をなお提供する。さらなる実施態様においては、電解質の約75重量%ないし約90重量%の範囲内のイミド塩パーセンテージが特に有利であることが判明している。
【0031】
上記の特別な電解質混合物に加えて、又はその代替として、改善された負極安定性は、化学的又は電気化学的反応によりフッ化水素酸を中和するべく選択された特別な添加物により、負極材料自体を損なうことなく達成されてもよい。例えば、塩基性を有する化合物を用いてフッ化水素酸と結合させ、それによりセル性能に対するマイナスの効果を緩和するようにしてもよい。ルイス塩基は、Liイオンセルにおいてフッ化水素酸と結合し得る成分として使用してもよい化合物クラスの一例である。ルイス塩基は一般に、非共有電子対を供与して、例えばフッ化水素酸を含むルイス酸とともに、ルイス付加物を形成し得る任意の化合物を包含する。かかるルイス塩基は、限定するものではないが、アミン及びボランを包含する。フッ化水素酸と結合するための化合物クラスの別の例は、不溶性のフッ化物を形成する金属イオンを包含する。かかる金属イオンは、限定するものではないが、2、3、及び4価の金属イオン、例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、又はマンガン(Mn)イオンを包含してもよい。中和剤(別にフッ化水素酸除去化合物とも称される)の他の例は、負極材料の表面に付加され、F
−イオンの捕捉を補佐するか、又は別の方法でフッ化水素酸と反応する官能基、例えば−COONa又は−COOK基、及び他のフッ化水素酸結合性金属誘導体塩又は酸化物を包含する。かかる塩及び酸化物は、1つ以上の以下の金属:Ca、Mg、Ag、Cu、Zn、Fe、Ni、及びCo、から形成し得る。塩はまた、炭酸塩、酢酸塩、アルギン酸塩、又はシュウ酸塩であってもよい。
【0032】
フッ化水素酸中和剤は、低分子の形態又はポリマーの形態を含む多様な形態で、電解質、活物質、対応するバインダー材料、1つ以上の電極、電池セパレータその他を含む多様なセル成分により、かつ化学的接着、物理的ブレンディングなどといった多様な技術を用いて、Liイオンセル中に導入されてもよい。いくつかの例を以下に記載する。
【0033】
ある実施態様においては、セル電解質は、上記中和剤の1つとともに直接注入されてもよい。例えば、ルイス塩基は、セル電解質中に溶解されてもよい。ポリマー物質及び低分子量物質の双方を使用してもよい。第三級アミンの利用は、それらが、電解質分解を引き起こし得る窒素に結合した水素原子を含有しないことから、いくつかの応用には有利であってもよい。かかるアミンは、脂肪族、芳香族、又は混合した構造のいずれかであってもよい。例としては、限定するものではないが、トリアルキルアミン、N−アルキル(アリール)ピペリジン、N−アルキル(アリール)モルホリン、N,N−ジアルキルアニリン、N−アルキル−N,N−ジアリールアミン、トリアリールアミン、ピリジン及びアルキル(アリール)置換ピリジン、キノリン及びその誘導体その他を包含する。アミン成分を有するポリマーも、同様に使用し得る。例としては、限定するものではないが、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレンのアミノ誘導体、ポリビニルピリジンその他を包含する。
【0034】
別の実施態様においては、あるセル材料(例えば、電極)の表面は、少なくとも1つのフッ化水素酸中和剤基を担持するべく修飾されていてもよい。例えば、金属酸化物、リン酸塩、及びシリコンは、N,N−アルキル(アリール)プロピルトリエトキシシランとの反応により修飾され、基体の表面に化学的に結合されたアミノ基を生じ得る。水分濃度、酸性触媒の有無などといった反応条件は、単一の単層コーティング又は厚いコーティング(例えば、約2nmないし約50nmのオーダー)を得るべく変更し得る。
【0035】
同様に、任意の粉末基質の表面は、フッ化水素酸中和剤基を含有するポリマーの薄層で被覆されていてもよい。ポリマーを作成するためには、コーティング粒子は、コートされるべきポリマーを含有する溶媒中に分散されてもよい。分散物に無溶剤型ポリマーを添加することにより、粒子の表面上にポリマーを成膜し得る。所望のコーティング厚は、ポリマー及び粒子の濃度を変えることにより達成してもよい。上記に言及した通り、かかるポリマーの例は、限定するものではないが、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレンのアミノ誘導体、ポリビニルピリジン、キトサン、キチン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンその他を包含する。
【0036】
別法として、非共有電子対を有する元素(ルイス塩基)を、かかる粉末基質中に、それらの合成の間に導入し得る。例えば、炭素源ガス中に、その合成の間にホウ素又は窒素前駆体を添加することにより、ホウ素又は窒素を用いて炭素粒子をドープし得る。
【0037】
なお別の実施態様においては、中和剤基は、バインダーへ結合されていてもよい。例えば、Liイオンセル調製において利用されるポリマーバインダーを使用して、その構造内に1つ以上の中和剤基を担持してもよい。これらの基は、適切に選ばれたポリマー(例えば、キトサン、キチン、ポリスチレンのアミノ誘導体、ポリビニルピリジン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリ(N,N−ジアルキルアミノメタクリレート)、その他を包含する)の中にもともと存在していてもよく、或いは化学修飾を介することにより人為的にバインダー分子中に導入されてもよい。例えば、ポリマー分子中に存在するエポキシ基は、多様な第二級及び第一級アミンと反応して、ポリマー分子中にアミン成分をもたらすことができる。
【0038】
なお別の実施態様においては、電池セパレータを、中和剤基を担持するための支持体として使用してもよい。例えば、中和剤基又は粒子が、セパレータの対応する表面に化学的に結合されるか、又はセパレータ内に吸収されてもよい。セパレータ表面又は粒子表面に化学的に結合してもよい基の例は、限定するものではないが、トリアルキルアミン、N−アルキル(アリール)ピペリジン、N−アルキル(アリール)モルホリン、N,N−ジアルキルアニリン、N−アルキル−N,N−ジアリールアミン、トリアリールアミン、ピリジン及びアルキル(アリール)置換ピリジン、キノリン及びその誘導体その他から得ることができる。アミン成分を担持するポリマーも、同様に使用し得る。それらは、ポリマー溶液の形態でセパレータ中に吸収されることが可能であるか、或いはセパレータにナノ粒子を含浸させることができる。ポリマーの例は、限定するものではないが、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレンのアミノ誘導体、ポリビニルピリジン、キトサン、キチン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリ(N,N−ジアルキルアミノメタクリレート)、その他を包含する。
【0039】
材料を選択するための修飾は、中和剤をセルの特定の領域、例えば負極に限定させ、そこで別の化学が利用可能となるという点で、例えば電解質への注入よりもむしろ、いくつかの適用においては有利であってよい。例えば、ポリマー担持ルイス塩基は、セル電解質中で不溶性にすることができ、バインダーと一緒に負極組成物中にブレンドされる。この場合、フッ化水素酸結合特性は、電極に導入され、かつ電極空間に限定される。特定の領域に閉じ込めることは、他のセル成分中では望ましくない、化学化合物の利用を可能にする。例えば、アミンを負極領域に閉じ込めることで、さもなければそれによってアミンがLiイオンセルの正極上で酸化されるかもしれない、望ましくない副反応を防止することができる。
【0040】
上記の特定の電解質及び付加的な化合物に加えて、又はその別法として、改善された負極安定性はまた、負極材料の表面に対する保護コーティング
シェル又はフィルムの適用によって達成されてもよい。保護コーティング
シェルは、精選されたポリマー、酸化物、ハロゲン化物(例えば、フッ化物又は塩化物)、オキシハロゲン化物(例えば、オキシフッ化物又はオキシ塩化物)、炭素、それらの組合せ、又は他の材料などの、負極活物質のフッ化水素酸エッチングを低減又は防止するべく特別に選択された物質から形成されるか、又は別の方法で該物質を包含してもよい。Liイオン電池の効果的な操作のため、保護コーティング
シェルはLiイオン浸透性に作られる。望ましくは、また少なくともいくつかのデザインにおいては、保護コーティング
シェルは同時に電解質溶媒による浸透に対し抵抗性に作られる(非浸透性でない場合)。
【0041】
図2は、1つ以上の実施態様による、保護負極コーティングアレンジメントの一例を例示する。この例において、負極200は、一般に、シリコン活物質204とバインダー208とを含む、電気的に相互接続した粒子のマトリックスから形成される。シリコン系負極では、バインダー208はシリコン204に結合し、安定性を提供する。そのことは、シリコン及びリチウムの電気化学的合金化(及び脱合金化)に伴う体積変化に起因する不可逆的な容量損失を最小化する、より安定な固体−電解質界面(SEI)の形成に寄与することにより、負極の性能を高め得る。シリコン系負極において使用された従来のバインダーは、典型的にはカルボキシメチルセルロース(CMC)及びポリ(ビニリデンフルオライド)(PVDF)であるが、他の材料も要望に応じて使用してもよい。他の例は、限定するものではないが、ポリアクリル酸又はアルギン酸の金属塩を包含し、これらは例えば、Li
+、Na
+、K
+、Mg
2+、Ca
2+、Al
3+、Ti
4+、Sn
4+、その他の金属カチオンを包含してもよい。例示されたデザインにおいては、負極200はまた、電池の最初のサイクリングの間にシリコン204とバインダー208との間の界面の少なくとも一部をシールするべく使用される、炭素導電性添加物212も包含する。
【0042】
負極構造200はさらに、シリコン204、バインダー208、及び導電性添加物212を少なくとも部分的に包み込む、上記記載のタイプの保護コーティング
シェル220を包含する。示された通り、保護コーティング
シェル220は、負極200の表面上に接着されていてもよく、電解質及びそれに含有された任意のフッ化水素酸に対するバリアとして作用し(Liイオンに対して浸透性のまま)、それがシリコン活物質204を劣化させるのを妨げる。上記に論じたように、保護コーティング
シェル220は、精選されたポリマー、酸化物、フッ化物、炭素、それらの組合せ、又は他の材料から形成されていてもよい。
【0043】
図3A−3Bは、1つの実施態様による炭素保護コーティングの一例の、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)画像をそれぞれ例示する。この例では、シリコンコートされた垂直配向性カーボンナノチューブ(Vertically Aligned Carbon Nanotubes(VACNTs))を負極材料として使用し、次いでフッ化水素酸エッチングに対し防護するための保護コーティング
シェルとして用いるアモルファスカーボンの層でさらにコートされる。示された通り(またX線回折研究からさらに明らかなように)、粗い、数珠状のシリコンコートされたVACNT構造は、成膜後は滑らかにされ、シリコンは結晶化する。外側の炭素コーティングは、フッ化水素酸エッチングに対し抵抗性であり、かつリチオ化及び脱リチオ化の間の、シリコンの構造完全性又は導電性を増強する。それはさらに、孔形成がなお、シリコンの多結晶質構造に起因して異方性の様式で生じることを保証する。かかる外側炭素コーティングによって与えられるフッ化水素酸エッチングに対する抵抗性は、その厚さを調整することにより、特定の環境に適合されてもよい。
【0044】
いくつかの実施態様においては、保護コーティング
シェルは可撓性に作らされ、リチオ化及び脱リチオ化の間に負極活物質とともに膨張及び収縮できるようにする。例えば、保護コーティング
シェルは、それ自体に対しスライドすることが可能なポリマー鎖から製されてもよい。他の例は、その表面上に自然に保護酸化物層を形成する金属を包含する。これらは、限定するものではないが、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、及びその他を包含する。かかるコーティングの成膜は、物理蒸着、化学蒸着、マグネトロンスパッタリング、原子層堆積、マイクロ波支援堆積、湿式化学、及びその他を含む、多様な酸化物コーティング成膜技術を使用して実施し得る。
【0045】
例えば、水溶性塩の形態の金属酸化物前駆体を、コートされるべき粒子の懸濁液(水中)に添加してもよい。塩基(例えば、水酸化ナトリウム又はアミン)の添加は、金属(Me)水酸化物の形成を引き起こす。混合物中に懸濁された活性粒子は、次にMe−水酸化物成膜のための核生成部位として作用してよい。ひとたび粒子がMe−水酸化物のシェルでコートされれば、それらは水酸化物シェルを対応する酸化物層に変換する目的でアニールされてよく、該層は次に粒子表面に充分に接着される。
【0046】
他の例では、酸化アルミニウムコーティングは、湿式化学を用いて、以下の:(i)アルミニウムイソプロポキシドをエタノール中に溶解する;(ii)溶液を活性シリコン粒子の存在下に乾燥する;及び(iii)アルミニウムイソプロポキシドコーティングを酸化アルミニウムコーティングに変換するべくアニールする、という工程に従って産生されてよい。なお別の例では、フッ化鉄コーティングが、湿式化学を用いて、以下の:(i)鉄(Fe)粉末をフルオロケイ酸の水溶液中に溶解する;(ii)溶液を活性シリコン粒子の存在下に乾燥して、FeSiF
6・H
2Oからなるコーティングを生成する;及び(iii)コートされた粉末を、アルゴンガス又は真空中などの不活性環境においてアニールすることにより、FeSiF
6・H
2Oをフッ化鉄(FeF
x)に変換する、という工程に従って産生されてもよい。
【0047】
充分に可撓性の保護コーティング
シェルの形成は、サイクリングの間に約400%までの体積の増加及びそれに続く減少を示す、シリコンのようなある負極材料にとり、有利であってもよい。保護コーティング
シェルの可撓性は、さもなければフッ化水素酸を活物質に浸透させることになる、亀裂又は間隙の形成を防止する。
【0048】
別の実施態様においては、しかしながら、機械的に安定かつ可塑的に変形し得る保護コーティング
シェルの使用は、適切に配置された場合には、さらなる利益を提供し得ることが見出されてきた。例えば、シェル構造を用いて、負極表面をコート又は包み込んでもよい。最初の挿入(例えば、Liイオン電池の最初のサイクル)の間、かかる保護コーティング
シェルの外表面は可塑的に変形しかつ膨張して、リチオ化された負極材料の膨張状態に合致し得る。しかしながら、リチウムの脱離時には、このタイプの保護コーティング
シェルは、機械的に安定したままであり、多くがその膨張状態を保持する。この方法では、膨張したリチオ化状態の負極にフィットしたシェル構造が作成されるが、脱リチオ化の間の活物質コアの収縮を破裂することなく可能にする。
【0049】
図4は、1つ以上の実施態様によるシェル保護負極コーティングアレンジメントの一例の、リチオ化及び脱リチオ化を例示する。この例では、
図2に示したデザインと同様、負極400は一般に、シリコン活物質404と、場合によっては上記に論じたような他の物質、例えばバインダー、炭素導電性添加物、又はその他(示さず)とを含む、電気的に相互接続した粒子のマトリックスから形成される。保護コーティング
シェル410は、負極400の任意の他の物質とともに、シリコン活物質404の少なくとも一部の上に供される。
【0050】
保護コーティング
シェル410は、少なくとも最初のサイクリング期間の後に、間隙又はポケット412が保護コーティング
シェル410の内側に形成されて(脱リチオ化状態で)、シリコン404がリチオ化の間に膨張するための空間が与えられるようデザインされている。この方法では、保護コーティング
シェル410の外表面は、正常な電池操作の一部としての、次に続くシリコン−リチウム膨張(リチウム挿入の間の)及び圧縮(リチウム脱離の間の)のサイクルの間中、実質的に安定したままである。
【0051】
SEI層420もまた、
図4に示されており、ここではそれは、別の場合のようにシリコン404の表面上に直接的にではなく、むしろ保護コーティング
シェル410の上に形成される。フッ化水素酸、溶媒分子、及び他の有害成分の浸透性に対するSEIの安定性及び抵抗性は、その外表面が連続的に膨張及び収縮することから、リチウム挿入/脱離の間のシリコン粒子における大きい体積変化によって損なわれ得る。この膨張/収縮は、概してSEIの欠陥及び間隙の形成の原因となり、このことは、浸透に対するその抵抗性の低下をもたらす。しかしながら、
図4のデザイン
の保護コーティング
シェル410を用いて、SEI420がその上に形成するより安定な外表面を提供することで、SEI層420の機械的安定性が増強されてもよい。より安定なSEI層420は、フッ化水素酸エッチング並びに他の劣化プロセスに対し、さらなる保護を提供する。
【0052】
いくつかの実施態様においては、セラミックコーティング材料を使用して、保護コーティング
シェル410を形成してもよい。セラミックコーティングの例は、限定するものではないが:酸化アルミニウム又はリチオ化酸化アルミニウム、酸化チタン又はリチオ化酸化チタン、酸化亜鉛又はリチオ化酸化亜鉛、酸化ニオブ又はリチオ化酸化ニオブ、及び酸化タンタル又はリチオ化酸化タンタルを包含する。セラミックコーティングの他の例は、限定するものではないが:フッ化バナジウム、オキシフッ化バナジウム、フッ化鉄、オキシフッ化鉄、フッ化アルミニウム、オキシフッ化アルミニウム、フッ化チタン、オキシフッ化チタン、フッ化亜鉛、オキシフッ化亜鉛、フッ化ニオブ、オキシフッ化ニオブ、フッ化タンタル、オキシフッ化タンタル、フッ化ニッケル、オキシフッ化ニッケル、フッ化マグネシウム、オキシフッ化マグネシウム、フッ化銅、オキシフッ化銅、フッ化マンガン、及びオキシフッ化マンガンを包含する。これらのセラミックは、Liイオン浸透性でありかつ電解質溶媒非浸透性であり、それらをLiイオン電池適用における使用に充分適合させる。
【0053】
別の実施態様においては、ポリマーコーティングを用いて保護コーティング
シェル410を形成してもよい。例えば、ポリマーコーティングは、犠牲層としてシリコン404の表面に適用され、次に炭化されて(例えば、熱分解又は熱アニーリングにより)、保護コーティング
シェル410として作用する炭素シェルを残してもよい。
【0054】
なお別の実施態様においては、材料の組合せを使用して、複合保護負極コーティングを形成してもよい。複合コーティングを形成するための、様々な材料の適切な選択及び特定の適用は、複合材料が、いずれかの材料単独では見出されない、2つ以上の構成材料のいくつかの異なる物理的又は化学的特性を利用するべくデザインし得ることから、所望の適用に依存して様々なさらなる利益をもたらし得る。
【0055】
図5A−5Fは、種々の実施態様による複合保護負極コーティング構造のいくつかの異なる例を例示する。各場合に、保護される負極コアは、例示目的のために単一の代表的なシリコン活物質粒子504として簡略に示された、電気的に相互接続した粒子のマトリックスから構成される。しかしながら、代表的なシリコン粒子504が、事実上粒子の集合体、シリコン複合材料の一部、シリコン−炭素複合材料の一部、その他から構成されていてもよいことが理解されよう。また、主要な活物質がシリコン以外の物質であってもよいこと、及び上記に論じたような他の物質、例えばバインダー、炭素導電性添加物、又はその他などの、他の第二の物質が負極コアに含まれ得ることも理解されよう。
【0056】
図5A−5Cに示したデザイン例においては、複合保護コーティング
シェルは、外側保護層(この場合は、金属酸化物又は金属フッ化物シェル)512と、内側保護層(この場合は、炭素系材料)520とから形成される。金属酸化物又は金属フッ化物外側保護層512の使用は、フッ化水素酸、溶媒分子、及び他の有害又は反応性分子の拡散を防止し、かつそれらがシリコン活物質504の表面に到達するのを妨げる。シリコン活物質504と金属酸化物又は金属フッ化物外側保護層512との間の、炭素系内側保護層520の使用は、電流及びLiイオンの流れのための電気的及びイオン的導電経路を提供する。炭素系内側保護層520はまた、フッ化水素酸、溶媒分子、及び他の有害又は反応性分子の拡散に対し、付加的なバリアを形成し、下にあるシリコン活物質504の潜在的な劣化をさらに低減する。
【0057】
例えば金属酸化物又は金属フッ化物外側保護層512の形態にある、固体でありかつ不溶性のイオン導電体である、機械的に安定な外側シェル構造と、炭素系内側保護層520の形態にある、より柔らかく可撓性の内側コーティングとの組合せは、それ故、双方の材料の利点を単一の複合デザインに付与している。しかしながらさらなる利点は、種々の特性及び対応する種々の利点により、様々な方法で形成されてよい、内側保護層520の種々の構造によって達成し得る。
図5A−5Cに示された様々なデザインは、いくつかの例を例示する。
【0058】
図5Aのデザインでは、内側保護層520は、電気的及びイオン的導電性炭素コーティングなどの、固層として形成される。このタイプの高密度の炭素層は、シリコン活物質504と外側保護層512の内表面との間の結合を弱める助けとなり、脱リチオ化の間にシリコン活物質504がその内側で収縮するとき、外側保護層512が膨張したままでありかつ機械的に安定しているようにする。上記に論じたように、外側保護層512などの機械的に安定な保護コーティング
シェルは、より安定したSEI層の形成を供し、その結果として、フッ化水素酸エッチングならびに他の劣化プロセスに対しさらなる保護が提供される。炭素コーティングはまた、一般に可撓性であり、下にあるシリコン活物質504のリチオ化の間の膨張も多少は緩和し、外側保護層512に対する任意のストレスを低減する。
【0059】
しかしながら、いくつかの適用には、さらなる膨張能が要求され得る。それ故
図5Bのデザインでは、内側保護層520は中空の層として形成され、シリコン活物質504の外表面と外側保護層512の内表面とに対する炭素質物質の薄いコーティングにより、間隙又は孔516が間に残される。孔516の付加的な体積は、リチオ化の間のシリコン膨張のためのさらなる空間を提供し、かつ
図5Aのデザインにおける高密度の炭素コーティングに比較して、外側保護層512に対して作用され得る任意のストレスをさらに軽減する助けとなり得る。シリコン活物質504の外表面、及び外側保護層512の内表面上のこうした薄いコーティングは、
図5Aのデザインにおけるような電気的及びイオン的導電性コーティングの介在という利点をやはり提供するが、改善された機械的ストレス低減という交換条件の下でのより限られた範囲内までである。
【0060】
それ故、
図5Cのさらなるデザインは、より一般的で中間的なアプローチを表わし、これにおいて内側保護層520は、シリコン活物質504と外側保護層512の内表面との間に、一連のより小さい孔516を用いて形成される。孔516は、単に活物質504全体と外側保護層512の内表面との間に完璧に配置されていなくてもよく、その代わりに、電池操作の間に、時には活物質504に侵入し、かつ活物質504を構成している粒子又は複合材料の任意の集合体の間に形成してもよいことが理解されよう。このアレンジメントは、シリコン活物質504と外側保護層512の内表面との「間」に形成されるものとして、一連の孔516に関する上記の記載に含まれることを意図している。
【0061】
孔516の密度は、特定の適用(例えば、特定の活物質)にフィットするべく適合されてもよく、内側保護層520中の炭素の量(及びそれ故、その電気的及びイオン的導電性特性)と、内側保護層520中の自由空間の量(及びそれ故、リチオ化及び脱リチオ化の間の膨張のためのその許容量)との間に、所望のバランスを達成するべく調整されてよい。シリコン活物質を含むいくつかの適用については、シリコン活物質コアによって占有される体積の約50%の(又はそれをこえる)全孔体積が、リチオ化の間の膨張のために充分なスペースを提供することが判明している。
【0062】
図5D−5Fに示されたデザイン例は、それらが付加的な導電性コーティング層524を外側保護層512の周囲に包含することを除いて、
図5A−5Cに示したものとそれぞれ同等である。付加的な導電性コーティング層524は、構成要素負極粒子間に増強された電気的接続性を提供し、このことが、負極スラリーからの電気的導電性の負極の形成を助ける。付加的な導電性コーティング層524は、例えば炭素又は導電性ポリマーから形成されてよく、フッ化水素酸、溶媒分子、及び他の有害又は反応性分子の拡散に対する、なおさらなるバリアを提供し、下にあるシリコン活物質504の潜在的劣化をさらに低減する。
【0063】
図6A−6Cは、
図5D−5Fの複合保護負極コーティング構造の例に対するリチオ化及び脱リチオ化の効果を例示する。簡略化のため、
図5D−5Fのデザインのみが明示的に示されているが、
図5A−Cに対する効果は実質的に同様である。
【0064】
図6Aに示したように、最初のLi挿入(例えば、Liイオン電池の最初の充電)の間、Liイオンはシリコン活物質504に挿入されて、Si−Li合金530を形成する。形成の間、その外表面は上記記載の通り有意に膨張し、炭素系の内側保護層520を移動させかつ圧縮させる。続いて、さらなるサイクリングの間に、LiイオンはSi−Li合金530から脱離され、それをその天然のシリコン状態524に戻す。用いた特定の内側保護層520の材料と、経験した体積変化とに依存して、内側保護層520又はその一部は、示したようなその圧縮された形態を保持していてもよい。したがって、ある場合には、内側保護層520は少なくとも部分的に圧縮されてよく、上記に論じたものに類似の孔もしくは複数の孔516が、介在するスペース中に形成されてもよい。この様式でのかかる孔516の形成は、いくつかの適用においては有利であってよい(例えば、さらなる体積変化に適応させるため)。
【0065】
大きい孔デザインを有する内側保護層520の構造について、
図6Bに目を向ければ、シリコン膨張に適合するべく供された本来備わるスペースは、いかなる最初の挿入効果も避けるべく充分であってよい。この場合、シリコン活物質504中へのLiイオンの挿入は、Si−Li合金530を形成し、その外表面はそれ故膨張して、孔516を充たすか又は部分的に充たしており、かつSi−Li合金530がその天然のシリコン状態524にもどることから、脱リチオ化の間に縮まって元のサイズに戻る。
【0066】
中間密度の孔デザインについて、
図6Cに目を向ければ、Si−Li合金530を形成するための、最初のLi挿入及び付随するシリコン活物質504の膨張は、様々な小孔516の移動を引き起こしてよく、これらは、示されたように圧縮されるため、典型的には一緒に凝集する。続いて、さらなるサイクリングの間に、LiイオンはSi−Li合金530から脱離され、それをその天然のシリコン状態524に戻す。様々な孔516の密度及び最初のアレンジメント、並びに経験された体積変化に依存して、孔516は元の配置及び密度に、又は示されたように、変更された配置及び密度に戻ってもよい。
【0067】
図6A及び6Cに示したものなどの、最初のリチウム挿入は、in−situ(Liイオン電池セル組立て後)及びex−situ(Liイオン電池セル組立て前)の双方を包含する、多様な方法で実施し得る。例えば、負極材料へのin−situのリチウム挿入は、Liを含有する陽極材料から取られたリチウムの挿入などの、Liイオン電池の操作の間の電気化学的リチウム挿入を包含してもよい。負極材料へのex−situのリチウム挿入のためには、リチオ化は、電極への負極粉末の組立に先立つか、又はLiイオン電池セルへの電極の組立に先立つ、気相反応を包含し得る。別法として、ex−situのリチウム挿入は、負極の室温でのリチオ化を包含してよく、それにより、リチオ化を誘導するため(主として電解質との接触により)、柔らかく安定した(ドライルームフレンドリーな)リチウム粉末が、予め形成された多孔性の負極の表面上に成膜及び塗布されてよい。かかるプロセスが溶媒の存在下に実施される場合、同時にSEI層が負極表面上に予め形成されてもよい。あるデザインでは、リチウム粉末の代わりにリチウム箔を使用してもよい。
【0068】
図5A−5Fの様々な複合保護負極コーティング構造が、多様な方法で形成され得ることが理解されよう。いくつかの形成法の例を以下に記載する。
【0069】
図7は、1つ以上の実施態様による、
図5A−5Fの複合保護負極コーティング構造の例の形成を示す、図表によるフロー図である。この例では、形成は、工程710におけるシリコン活物質粒子(複数)504の供給又は凝集で始まる。再度、シリコン粒子504は、例示のみを目的として単数で示されており、実際には、シリコン複合体の部分、シリコン−炭素複合体の部分、その他から形成される、粒子の集合体から構成されていることが理解されるであろう。第一の活物質がシリコン以外であってもよく、それは例として示されているにすぎないこと、また、上記に論じたような、バインダー、炭素導電性添加物、又はその他などの他の第二の物質が、同様に負極コアに含まれていてもよいこともまた理解されるであろう。
【0070】
工程720において、例えば犠牲ポリマーコーティング508は、内側保護層520の前駆体として、シリコン粒子504に適用される。犠牲ポリマーコーティング508及びシリコン粒子504は次に、工程730において、原子層堆積(ALD)、化学蒸着(CVD)、種々の湿式化学的方法、又は当該技術分野における他の公知の方法などの、1つ以上の公知の方法を用いて、外側保護層512(例えば、金属酸化物又は金属フッ化物)によってさらにコートされる。
【0071】
工程740においては、
図5A−5Fの異なる孔デザインのうちの1つが所望により選択され、犠牲ポリマーコーティング508から形成される。内側保護層520及びその関連する孔516(又は、場合に応じてそれを欠く)の所望の構造に依存して、特定のプロセスが必要とされる。特に、犠牲ポリマーコーティング508は、熱処理(例えば、ガス環境におけるアニーリング)により、熱水プロセスにより、又は所望の構造に適した他の技術により、所望の構造に変形し得る。ポリマー組成物及び変形条件に依存して、犠牲ポリマーは:(a)
図5Aのデザインにおけるような高密度炭素構造;(b)
図5Bのデザインにおけるような、シリコン粒子504と外側保護層512の内表面とを被覆する、炭素質材料の薄層;又は(c)
図5Cのデザインにおけるような多孔性炭素構造、に変形されてもよい。
【0072】
図5D−5Fのさらなるデザインについては、工程750において付加的なプロセスを実施して、例えば、付加的な導電性ポリマー又は炭素コーティング524を、外側保護層512の表面上に形成する。炭素から形成される付加的な導電性コーティング524用には、炭素は、CVD(例えば、炭化水素ガス前駆体の分解)、ポリマー層の形成及び分解、水熱炭化、又は他の技術により成膜され得る。導電性ポリマーから形成される付加的な導電性コーティング524用には、導電性ポリマーコーティングは、プラズマ支援重合、マイクロ波支援重合、コートされるべき粒子の懸濁液中での溶液重合、又は、粒子と溶液状もしくはポリマーナノ粒子の形状のポリマーとの、複合懸濁液のスプレードライにより成膜され得る。
【0073】
図8は、1つ以上の実施態様による、機械的に安定なシェル保護負極コーティングの形成方法の一例を例示するプロセスフロー図である。この例では、ポリマーから構成される犠牲コーティングが、所望の活物質粒子上に最初に成膜される(工程810)。続いて、金属酸化物又は金属フッ化物層が、その例が上記に論じられている1つ以上の従来技術を用いて成膜される(工程820)。酸化物層の成膜後、得られたコア−シェル構造を、中間ポリマー層を炭化するのに充分高い温度においてアニールする(工程830)。ポリマー体積は炭化の間に減少することから、活性粒子コアと金属酸化物シェルとの間に間隙が形成され得る。ポリマー炭化後に得られた薄い炭素層は、複合粒子内側の電気導電性を増強する。活性粒子と金属酸化物層との間の自由体積は、ポリマーコーティングの厚さ及び用いるポリマーのタイプを変えることにより変更し得る。
【0074】
オプションの工程815によって例示されたように、いくつかの実施態様においては、追加のプロセスを使用して、金属酸化物層と活性粒子との間の増強された接着を達成してもよい。示された通り、活性粒子表面への犠牲ポリマーコーティングの成膜後(工程810)、得られた組合せを、ポリマーのガラス転移温度より高い温度でアニールしてもよい(オプションの工程815)。加熱により、ポリマーコーティングは粘性の液体に変形し、粒子表面から部分的にディウェッティングする。最初はポリマーによって隠されていた粒子表面は、それ故開放される。したがって、金属酸化物フィルムは、ポリマー及び部分的に露出された粒子表面の上に成膜されたとき(工程820)、ディウェッティングされた粒子領域は、金属酸化物と粒子表面との間の直接の接触点を提供する。次に続く炭化工程(工程830)は、再度、金属酸化物層の下に間隙を生成し、これが電池使用の間の粒子膨張を可能にする。
【0075】
図9は、種々の実施態様により、上記の装置、方法、及び他の技術、又はそれらの組み合わせが適用されてもよい、Liイオン電池の一例を例示する。筒形の電池は、例示を目的として示されているが、角形又はパウチ(ラミネート型)電池を含む、他のタイプのアレンジメントもまた、所望により使用されてよい。Liイオン電池1の例は、負極2、正極3、負極2と正極3との間に介在するセパレータ4、セパレータ4を含浸させる電解質、電池ケース5、及び電池ケース5を密封するシーリング部材6を包含する。
【0076】
Liイオン電池例1が、本発明の多数の態様を、様々なデザインにおいて同時に具体化し得ることが理解されよう。例えば、Liイオン電池1は:(a)Liイオン浸透性炭素、ポリマー、及び酸化物又はフッ化物シェルによって保護された、シリコン材料を含有する活性負極;(b)(i)イミド含有塩(例えば、全塩含量の50−95%)と、(ii)カーボネートの混合物を主成分とする溶媒と、及び(iii)ジメチルアセトアミド(DMAC)などの電解質添加物と、から構成される電解質;及び(c)酸化物、フッ化物、又は硫黄活物質を含有する正極を含有してもよい。別の組合せ例は:(a)Liイオン浸透性酸化物シェル及びHF除去物質によって保護された、シリコン活物質を含有する負極;(b)(i)LiPF
6塩と、(ii)カーボネートの混合物を主成分とする溶媒と、及び(iii)DMACなどのルイス塩基電解質添加物と、から構成される電解質;及び(c)酸化物、フッ化物、又は硫黄活物質を含有する正極、の使用を包含してもよい。一般に、上記実施態様の任意の組合せが、所望により使用し得ることが理解されよう。
【0077】
上記の記載は、当業者が本発明の実施態様を作成又は使用できるようにするため提供される。しかしながら当業者には、これらの実施態様に対する種々の変更が容易に明らかとなることから、本発明が、本明細書に開示された特定の配合、プロセス工程、及び材料に制限されないことが理解されよう。即ち、本明細書に定義された一般原理は、以下のクレーム及び全ての同等物によってのみ定義されるべき本発明の精神又は範囲から離れることなく、他の実施態様に適用してもよい。