特許第6561048号(P6561048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6561048TiB2を含有する層で工作物をコーティングする方法
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  • 特許6561048-TiB2を含有する層で工作物をコーティングする方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561048
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】TiB2を含有する層で工作物をコーティングする方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20190805BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20190805BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   C23C14/34 R
   C23C14/06 C
   B23B27/14 A
【請求項の数】3
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2016-522327(P2016-522327)
(86)(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公表番号】特表2016-527392(P2016-527392A)
(43)【公表日】2016年9月8日
(86)【国際出願番号】EP2014001781
(87)【国際公開番号】WO2015000576
(87)【国際公開日】20150108
【審査請求日】2017年5月2日
(31)【優先権主張番号】102013011075.0
(32)【優先日】2013年7月3日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
(74)【代理人】
【識別番号】100091867
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 アキラ
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 秀樹
(74)【代理人】
【識別番号】100202016
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 喬
(72)【発明者】
【氏名】クラポフ デニス
(72)【発明者】
【氏名】クラスニッツァー ジークフリート
【審査官】 西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/143087(WO,A1)
【文献】 特開2012−139795(JP,A)
【文献】 特開2002−355704(JP,A)
【文献】 特開2010−099735(JP,A)
【文献】 B.Grancic, et al.,The influence of deposition parameters on TiB2 thin films prepared by DC magnetron sputtering,VACUUM,2005年,80(2005),174-177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのTiBを含有する層で工作物をコーティングするための方法であって、
− コーティングされる前記工作物をコーティングチャンバー内に置くこと、
− 前記TiBを含有する層を、作動ガスを含有する雰囲気中で非反応性のスパッタリングプロセスを用いて、TiBターゲットに作用することによって析出すること、
の各方法ステップを備える方法において、
少なくとも2つのTiBターゲットが20kWより大きなDC電源の電力で作用されて、その結果、前記TiBターゲットでの電流密度が時折且つ局所的に0.2A/cmより大きくなり、その際、ターゲットが時間平均で10kWより大きくない電力を消費しなければならないこと、
先ず、第一のスパッタリング陰極だけが電源のフルパワーで、それゆえに高い電力密度で作用され、そして第二のスパッタリング陰極が電源の出力に接続され、この際、第二のスパッタリング陰極のインピーダンスが第一のスパッタリング陰極のインピーダンスよりも遥かに高く、そして第一のスパッタリング陰極が電源の出力から外されると電力出力が本質的に第二のスパッタリング陰極を介して生じること、
前記TiBを含有する層の粗さが前記作動ガスの部分圧を調整することによって影響され、前記TiBを含有する層の粗さが、前記作動ガスの部分圧を増加することによって減少すること、
前記TiBを含有する層が顕著な(001)配向を示すXRDスペクトルでの際立ったピークを生じる構造を有すること、
を特徴とする方法。
【請求項2】
スパッタリングのために、0.2Pa以上の作動ガス部分圧が少なくとも時々維持されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記作動ガスが少なくともアルゴンを含有することを特徴とする請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一つのTiB層を含有するコーティングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
TiBを工具のためのコーティング材料として用いることは既知である。例えば特許文献1は、工具上にTiBの層を析出するためにスパッタリングプロセスをどのように用いるかを記載する。このように析出した材料は良好なメカニカル特性や摩擦学的特性を特徴とするものではあるが、業界は、より高い密度やなお一層大きな硬度を達成するやり方を追求している。
【0003】
TiBは非常に高い溶融点を有する材料なので、より稠密で、したがってより硬質な層をもたらすであろう所謂陰極アーク蒸着を用いることは経済的に引き合わない。
【0004】
スパッタリングされた層の密度や硬度をアーク蒸着によって生成されるものと類似の範囲にシフトするための一つの既知のオプションは、所謂HiPIMSプロセス(HiPIMS=High Power Impulse Magnetron Sputtering、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング)である。このスパッタリングプロセスで、スパッタリング陰極は高出力パルス密度で作用して、陰極から蒸発する材料が高い割合のイオン化を有することとなる。そして負の電圧がコーティングされる工作物に印加されるならば、それらイオンが工作物に向けて加速され、それゆえに非常に稠密なコーティングを生成する。
【0005】
スパッタリング陰極は、パルス状の電力を伴う熱入力を消散する時間を得るためにパルス状の電力で作用されなければならない。したがって、HiPIMSプロセスにおいてパルス発生機が電源として用いられる。このパルス発生機は非常にパワフルで非常に短いパルスを出力できなければならない。今日入手可能なパルス発生機は例えばパルス高さ及び/又はパルス寿命に関してあまり融通性を有さない。理想的には矩形状のパルスが出力されるべきである。けれども、大概、パルス内の電力出力は非常に時間依存であり、このことは硬度、付着力、内部ストレス等のような層特性に直接的に影響する。加えて、コーティング率は矩形状のプロフィールからの逸れによってマイナスに影響される。
【0006】
とりわけ、これらの困難が再現性に関して問題を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US 4820392
【特許文献2】WO 2013/060415 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ、高出力のマグネトロン蒸着を用いてTiB層が生成可能な方法の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
少なくとも1つのTiBを含有する層で工作物をコーティングするための、本発明に係る方法は、次の方法ステップを備え得る:
− コーティングされる前記工作物をコーティングチャンバー内に置くこと、
− 前記TiBを含有する層を、作動ガスを含有する雰囲気中で非反応性のスパッタリングプロセスを用いて、TiBターゲットに作用することによって析出すること。
そして、少なくとも2つのTiBターゲットが20kWより大きなDC電源の電力で作用されて、その結果、前記TiBターゲットでの電流密度が時折且つ局所的に0.2A/cmより大きくなり、その際、ターゲットが時間平均で10kWより大きくない電力を消費しなければならない。
本発明によれば、TiB層が電源から定常的な高出力が生じるスパッタリングプロセスを用いて生成される。複数のスパッタリング陰極がこのために用いられる。在来のHiPIMSプロセスと異なって、パルス発生機は用いられず、代わりに先ず、第一のスパッタリング陰極だけが電源のフルパワーで、それゆえに高い電力密度で作用される。そして、第二のスパッタリング陰極が電源の出力に接続される。この際、この時点で第二のスパッタリング陰極のインピーダンスが第一のスパッタリング陰極のインピーダンスよりも遥かに高いので、先ず殆んど起こらない(最初は殆ど生じない)。ただ第一のスパッタリング陰極が電源の出力から外されると電力出力が本質的に第二のスパッタリング陰極を介して生じる。対応する高出力マグネトロンスパッタリングプロセスが特許文献2により詳細に記載されている。典型的に、その中の電源は60kWのオーダーで稼働される。スパッタリング陰極が時間平均で受ける典型的な電力は8kWのオーダーである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】アルゴン流の部分圧と粗さの関係を示すグラフである。
図2】アルゴン流の部分圧と硬度並びに弾性率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明者らは、スパッタリング陰極として用いられるTiBターゲットのようなセラミックターゲットでそのような方法が用いられる場合に、非常に良好なメカニカル特性を備えた層を再現可能に生成することが可能であることを見出した。発明者らはまた、そのような非反応性のプロセスにおいて作動ガスの部分圧を調整することによって層の粗さに直接影響することが可能であり、実際に上記メカニカル特性に著しくマイナスな影響を有することなく可能であることを見出した。
【0012】
実施例においてTiB層が生成された。これら層はXRDスペクトルにおいて顕著な(001)配向を示す際立ったピークを生じる構造を有する。そのような配向は、硬質な材料コーティングが求められる多くの適用において非常に有利であることが明らかになる。
【0013】
粗さに関する作動ガスの部分圧の影響を示すために、様々なアルゴンガス流が用いられた。80sccmのアルゴンガス流で、Ra=0.14μm、0.115μmのRzの粗さの値が測定され、160sccmのアルゴンガス流で、Ra=0.115μm、0.095μmのRzの粗さの値が測定され、300sccmのアルゴンガス流で、Ra=0.06μm、0.05μmのRzの粗さの値が測定された。用いられたコーティングシステムにおいて、80sccmのアルゴン流は0.2Paの部分圧に対応し、160sccmのアルゴン流は0.4Paの部分圧に対応し、300sccmのアルゴン流は0.75Paの部分圧に対応した。これを図1に示す。
【0014】
しかしながら、層の硬度や層の弾性率は常に良好なままであった。これを図2に示す。
【0015】
したがって、本発明はTiB層を効率的かつ経済的に生成するための方法を開示する。この方法は、非常に低い粗さの値と組み合わせると以前には知られていない硬度を備えたTiB層をもたらす。このことは、主として摺動面に関する適用に関連して重大な関心事である。従来のPVD蒸着プロセスでは、そのような硬いTiB層の生成が可能でなかった。
なお、本発明に係る方法によって、
TiBを含有する少なくとも一つの層を含むコーティングを有する工作物であって、TiBを含有する層が従来のスパッタリングプロセスを用いて生成される層に比べて高い密度を有する工作物
を得ることができる。そして、TiB含有層は少なくとも50GPaの硬度を有する。また、TiB含有層は顕著な(001)配向を示すXRDスペクトルでの際立ったピークを生じる構造を有する。
コーティング直後の工作物の表面が、コーティングされていない工作物表面の寄与が減じられるのであれば、最大で0.14μm、好ましくは最大で0.115μm、特に好ましくは最大で0.095μmの粗さの値Raを有する。また、コーティング直後の工作物の表面が、コーティングされていない工作物表面の寄与が減じられるのであれば、最大で0.115μm、好ましくは最大で0.095μm、特に好ましくは最大で0.05μmの粗さの値Rzを有する。
図1
図2