【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、本発明によれば、エナメル粉末を担持する担体を誘導加熱し、このとき、インダクタの運転周波数を、被加工材の材料特性を考慮して、被加工材への電磁侵入深さが最大で1mmになるように選定することにより解決される。
【0007】
本発明は、エナメル引きプロセスにとって基本的なパラメータ、特に、エナメル粉末又は基材材料の担体上への「溶融」時における局所的な変形温度、が確実に守られるようにすれば高い製品品質が保証されるという考察に、基づいている。この限界条件を確実に順守することにより、必要なエネルギー需要は−及びこれに伴う環境負荷及び資源の消費も−変形又は溶融プロセスにおけるエネルギーの投与を、所望の変形プロセスが実際に生じなければならない局所的な空間範囲に、集中させて限定及び制限することにより、特に小さく抑えることができる。エナメル粉末を担持する担体が炉内で全体的に、従って全体積及び大面積において、加熱及び加温される通常の方法とは明らかに異なり、今や、所期の材料変形をそこに限定しなければならない担体の限られた空間範囲に、局所的に限定され集中された加熱が行なわれることになる。これは、誘導加熱による担体の局所的な加熱により、特に簡単に達成可能である。
【0008】
エナメル引きプロセスに必要な熱は、従って、第三の媒体を介して基材表面に、そして次に、この表面を介して担体材料と基材との境界面に施されるものではない。それよりもむしろ、対象となる空間範囲、特に担体と基材又はエナメル粉末との界面、が直接的に密着して誘導加熱される。この結果、エナメル層の形成プロセス(焼き付け/硬化)時には、この層は、担体から表面に向かって直接的及び成長的に積み上げられ、−通常の方法のように−表面から担体へ向かって施されるのではない。
【0009】
エナメル引きプロセスにより生じる熱釉薬と金属担体材料との接合は、エネルギー蓄積又は熱蓄積が内部から生じることにより、明確に改良される。これにより、担体に対するエナメル層の固定が明らかに改善され、新たなエナメル引き品質が生じる。特に、これにより担体材料への基材又はエナメル引き材料の接着は、−「臨界箇所」でも−、更に改良され、特に端部又は稜部における剥がれは更に明瞭に減少する。
【0010】
更に、層形成プロセス又はこれに続く硬化プロセス中に、場合によってはなお存在する空気若しくは湿気又は他の封入物は、表面が層形成プロセス中になお「開放」状態にあるので、担体の界面から外部に向かって消失する。不所望な気泡状の空気又はガス封入物により発生する恐れのある問題は最小化される。
【0011】
第2及び/又は第3の基材又は材料を塗布することにより、所望の輪郭を施し、下側の基材層と融合させることができる。これは、例えば広告用に、有効に利用される。下側層上の文字列に対しては、例えば、別の色/別の種類の基材を吹き付け(例えばスクリ−ン印刷/テンプレ−ト)、相応に形成されたインダクタ(場合によっては別のインダクタ)を追従させることにより、直ちに溶融し硬化させることができる。巧みに変化を加え組み合わせることにより、創造性及び多様性には限界がない。
【0012】
本来の焼き付けプロセスの前段階として、(出力がより小さく又は作用時間がより短い)別の又は同一のインダクタによる誘導加熱を、特殊な基材塗布のための予備乾燥又は予備加熱のために利用することもでき、これにより、特に良好な接着を達成することができる。また、個々の洗浄段階の間に誘導乾燥を行なうこともできる。
【0013】
誘導加熱は、本来は焼き付けに先立って行なわれるこの段階においても、必要なプロセス時間及び出力を相当程度減少させるとともに、相応するプロセスの改良の結果として、装置上及びプロセス技術上の出費を減少させる。
【0014】
誘導加熱は、特にエナメル被覆層における散発的な欠陥箇所に、例えば局所的にエナメルペーストを施し、次いで修復の必要な部材を局所的に誘導加熱し、これにより「補充エナメル」が施されるように、修理目的で使用すると特に有利である。
【0015】
場合によってなお必要な炉のための本来の面積及び空間は、−「室」の良好な隔離を前提として−明らかに減少される。誘導により、ごく局所的で所期どおりの加熱が可能となる。従って、従来は強制的に必要であった多くのエネルギー損失を伴う大面積加熱を避けることができる。これは、エネルギー的に有利であり、環境保全上も好適である。
【0016】
溶融及び焼き付けプロセスにレーザー技術を使用する方法及びその場合に原理的に生じる縞状の構造と比較して、誘導加熱法は−例えば大きな部分のスキャンに際して−このような欠点を持たない。むしろ、なだらかな推移部及び被覆層の順次の溶融を可能にするので、結果として「一体構造」からなる表面が形成される。
【0017】
担体の誘導加熱は、局所的に担体の一空間範囲に限定されて行なわれるので、エネルギー投入の位置決めを相応して制御することにより選択的で対象に適したプロセスの実施を可能にする。この場合、ほかのいくつかの変形例と並んで、一種の「スキャン」の形での担体の表面領域の連続的な掃引が可能となる。部材の大きさ及び形状次第では、全体を大面積に亘って又は全体を断片的にスキャンし加熱することもできる。この場合、特に金属における熱伝導が問題となるが、これは、しかし、局所化された「焼き付け炉」には殆ど影響を与えず、障害となるよりはむしろ有利であり、一種の予備又は基本加熱に相当することになる。
【0018】
一般的には、インダクタの形態及び設計には、ほとんど限界がない。板状材料又は容器の全面的エナメル引き(例えばエナメル引きされた容器/貯蔵器)では、主として環状インダクタが考えられ、また、有利である。極めて大きい平面部材では、一方の側から「平面インダクタ」により処理すべき面を高周波でスキャンし加熱することができる。
【0019】
小型の広告媒体又は装飾品に対しては場合によってはトロイダルコイル又は変形したトロイダルインダクタ(矩形/卵型など)が有利である。最適な形状は、実験により得られる。
【0020】
エナメル引きすべき部材の大きさ及び性質は、誘導加熱のための周波数選定(MF又はHF)にとって重要なものであり、多くの用途では、基材との界面が対象となり加熱される(スキン効果)ので、高周波の選択が有利であろう。
【0021】
任意に実施することができる誘導作用の局所的限定、特に適切なプロセスの実施による局所的限定、により、更に、完全に又は部分的に引っ掻かれ、削られ又は別の形で傷つけられた、特に工業部材又は高価な日用品の表面の再加工を、修理部門において、特別に効率的でコスト的に有利に解決することが可能になる。この種の修理は、特に有利には、設置場所において直接に、一種の現場処置のやり方で、即ち、各部材の解体及び再組み立ての必要性なしに、行なうことができる。このとき、処置が必要な欠陥個所は、好適には、本来の処置の前に機械的及び/又は化学的に洗浄され、錆やほかの汚染物が除去される。例えば下塗りなどの適切な前処理後に、有利には形状及び/又は色彩を処置の必要な部材に合わせたエナメルパテを塗布し、続いて、存在している「古物」、即ち局所的にまだ存在する残層、の中で又はこれと一緒に、誘導的に迅速に溶融させ、直ちに焼き付ける。このとき、輪郭が融けて一緒になるので、修理された表面が全体的に均質な印象が生じる。このとき、修理された部分表面は、材料、特にエナメルパテ、の適切な選定により、色彩及び/又は表面特性に関して、存在する元の表面に適合させることも、又は意図的に視覚的に強調して、独自のセグメントとして、明確に区別することもできる。
【0022】
特に、「臨界的な」要求の多い及び/又は敏感な工業用部材の場合には、例えば、外部表面から1mmの深さに在る構造層を、表面被覆の際に、保護し損傷しないように要求されることがある。このような要求に応えるには、誘導加熱に際して、比較的高いエネルギー密度、高周波数及び短い作用時間を考慮しなければならない。有利には、運転パラメータ、特にエネルギー密度、周波数及び/又は作用時間は、個々の担体の材料特性を考慮して適切に行なわれる。例えば、現在最も慣用されている担体材料である鋼、銅及びアルミニウムは、以下の熱伝導率(W/(mK))を有する:鋼50、銅300、アルミニウム240。従って、プロセス実施のための運転パラメータは、有利には、エナメルコンパウンドの均一で再現可能な溶融挙動を得るために、担体材料に適切に適合するように、選定される。
【0023】
また第1工程で、MF全加熱及び全表面への焼き付けを想定し、これにデザイン上の目的で別の基材及びHF誘導による第2工程が続くようにすることもできる。
【0024】
プロセスの経過及びエナメル引きの品質は、実際の観点から、特に以下の項目により影響される。
−担体の材料及びその性質
−エナメル引き材料(基材)の品質
−前処理工程の範囲及び品質
−全設備の構成/適正さ
−適合するコンバ−タの選定(出力、周波数)
−インダクタの設計
−誘導の方法パラメータ
−カップリング距離
−出力(段階付けも可能!)
−作用時間/加熱時間
−スキャンプロセス時
インダクタの運動経過(速度、方向、振動曲線)
【0025】
このとき、特に有利なのは、被覆すべき表面に対するインダクタの運動経過を、例えば処理温度、伝達エネルギー又は出力密度等の他のプロセスパラメータを考慮して、適切に選定し調整することである。このとき、材料の要求特性に関しては、例えば、被覆すべき部材における一方では実際に誘導加熱される範囲と他方では実際に加熱されない範囲との間の過度の温度差を避けるために、インダクタを個々の処理空間範囲上を十分迅速に通過させることにより、考慮される。これにより、材料片の熱的変形を避け或いは少なくともそれを僅かにすることができる。例えば、処理すべき表面上の各インダクタの運動パターンに対しては、直線及び/又は回転運動又はこれらから合成された運動プロフィルも想定される。
【0026】
一般的には、エナメル引きプログラムを−対象物及び特別な要求に適合させて−広範囲に変えて実施し、各対象点に適した方法パラメータを割り当てることが可能である。更に多数の形態上の可能性がある。この場合、特に有利なのは以下のものである。
−インダクタの形態は、用途に応じて多様であり、広範囲の変形、例えば円形、スキャン用に平坦、対象物の大きさ及び用途に応じて、一巻き及び多数巻き、蛇行状の平面インダクタ(比較的大きな「作用面」)とすることができ、対象物に適合させて半円形、卵形又は矩形、が可能である。
−プロセス経過及びエナメル引きの品質に関しては、基本的にはあらゆる金属が通用し、特に誘導結合が良好な金属(鉄、鋼、合金);銅、アルミニウム、貴金属(人造物!)、金、銀、白金が有利である。
−エナメル引き材料の品質は、組成、化学的性質、粒径、前処理を考慮して選定すべきである。
−担体材料の特に有利な前処理は、洗浄、水洗い、乾燥、化学的前処理、脱脂を含む。
【0027】
プロセス実施の際の運転パラメータの選定のための重要なパラメータの一つは、材料表面への電磁場の−通常は周波数及び温度に依存した−侵入深さである。従って、保護の必要性から深いところにある構造層をまさに考慮して、インダクタの処理温度及び/又は運転周波数は、侵入深さが最大で約1mmであるように選定すると特に有利である。
【0028】
これは、例えば、担体材料としての銅に対しては、約20℃の処理温度では、インダクタの運転周波数は約10kHz以上に選定され、約100℃の処理温度では、この規準とは異なり、約20kHzの運転周波数が有利であることを意味する。これに対し、約20℃の処理温度では、担体材料としての鋼に対しては約500Hz以上の運転周波数が、アルミニウムに対しては約1kHz以上の運転周波数が、有利である。
【0029】
エネルギー上の利点は極めて良好に検証でき、具体的な応用例で、測定技術的に疑いなく検出できる。それから直接的に環境に良いことが導出される。何故なら、強い炉加熱は−いつものように−高いCO
2排出量を意味するからである。更に誘導加熱により、製造プロセスにおける特に良好な再現性が、各部材に関して局所的に異なる要求があった場合にも、可能になる。
【0030】
以下の対比例における数値は上記のエネルギー上の利点を明確に示す。
加熱の種類 出力伝達(W/cm
2)
対流(分子運動、連行) 0.5
放射(炉、抵抗加熱) 8
誘導加熱(部材自体での、伝達媒体なし) 30000
【0031】
インダクタに対して少なくとも300kHzの運転周波数が選定されると有利である。これにより、材料又は周囲条件が変化しても、電磁侵入深さは十分に小さく抑えることができ、加熱を表面の直近範囲に限定することが保証される。
【0032】
別の有利な実施態様では、誘導加熱により、被加工材上にすでにある欠陥エナメル層が修理される。これは、局所的に限定された、従って極めて良好に集束可能な熱導入により、要求に極めて適した、従って省資源的なやり方で行なうことができる。
【0033】
インダクタを介して、被加工材に少なくとも10kW/cm
2の出力密度を誘導伝達すると有利である。これにより、エナメル粉末又はスラリーの溶融温度到達時間を極めて短くできるので、表面範囲への熱導入が限定され、全体として比較的小さくなる。
【0034】
エナメル引きされた表面の特別な特性及び利点を認識した上で使用される部材は、例えば大面積のトンネル被覆では、製造コストの低減のもとに大きな活気を引き起こすことが良好に想定され、多数の容器(飲料水、薬など)の製造時にも時間及び費用ファクタが販売を促進するように作用する。
【0035】
スキン効果を一貫して利用することによって被覆すべき部材の実際の表面範囲への温度導入を一貫して制限することにより、更に、特に有利な実施態様では、一種の複合材料で、エナメルと金属との組み合わせで、表面層を塗布することが可能である。これにより、またエナメル被覆を適切に選定することにより、特に有利な利用では、腐食の恐れがある部材又は例えば喫水線以下にある船体用の形材など攻撃的な環境下で使用するための部材を、有効に保守することができる。
【0036】
代替的に特に有利でそれ自体発明とみなされる使用例においては、部材の誘導加熱の概念は、粉末の被覆/焼き付け(有利には窓下枠、窓枠、ファサード部材、垣根部材又は他の建築材料)のために、テフロン(登録商標)被覆又は表面のダイアモンド、セラミック及び/若しくは結晶被覆のために使用される。
【0037】
本発明の一実施例を図面について詳細に説明する。