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特許6561063クローンに由来する産生株細胞のパネルの相対的な流加産生力価を予測する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561063
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】クローンに由来する産生株細胞のパネルの相対的な流加産生力価を予測する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20190805BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20190805BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20190805BHJP
   G06F 17/00 20190101ALI20190805BHJP
【FI】
   C12P21/02 C
   C12P21/08
   C12Q1/06
   G06F17/00
【請求項の数】19
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-549467(P2016-549467)
(86)(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公表番号】特表2017-511688(P2017-511688A)
(43)【公表日】2017年4月27日
(86)【国際出願番号】EP2014078340
(87)【国際公開番号】WO2015113704
(87)【国際公開日】20150806
【審査請求日】2017年11月15日
(31)【優先権主張番号】14153333.1
(32)【優先日】2014年1月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516003492
【氏名又は名称】バリタセル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベン トンプソン
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ジェリー クリフォード
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 Biotechnology Progress,2011年,vol.27, no.3,p.757-765
【文献】 Biotechnology Progress,2010年,vol.26, no.5,p.1367-1381
【文献】 Nature Biotechnology,2004年,vol.22,p.1393-1398
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/02
C12Q 1/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流加培養においてクローン産生株細胞のパネルの相対的な産生力価を予測する、迅速でハイスループットな、コンピューターで実行される方法であって、
−各産生株細胞を、少なくとも3個の異なる化学的細胞ストレッサーとともに、静置マイクロプレート培養において4日未満のインキュベーション期間、同時にインキュベートするステップであって、各産生株細胞は、IC50の0.5から2.0倍の濃度で供給された単一の化学的細胞ストレッサーとともにインキュベートされるステップと、
−前記インキュベーション期間後に、前記少なくとも3個の化学的細胞ストレッサーの存在下および非存在下で、各細胞の産生力価応答を決定して、産生株細胞の前記パネルそれぞれに関する細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを生成するステップと、
−産生株細胞の前記パネルそれぞれに関する前記細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを、計算モデルに入力するステップであって、前記計算モデルは、既知の流加産生力価を有する産生株細胞の較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、前記計算モデルは、産生株細胞の前記パネルの予測される相対的な流加産生力価を出力するように設定されるステップと
を含むことを特徴とする方法であって、
前記化学的細胞ストレッサーは、細胞培養培地中で細胞とともにインキュベートすることができ、1つまたは複数の細胞経路を介して、細胞成長の低減を引き起こすことが可能な化学物質を意味する、方法。
【請求項2】
前記産生力価応答は、正規化された産生力価応答を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記産生力価は、組換えタンパク質の産生力価であり、前記産生株細胞は、前記組換えタンパク質をコードする導入遺伝子を含むことを特徴とする請求項1および2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記組換えタンパク質は、モノクローナル抗体、またはその断片であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
クローン産生株細胞の前記パネルは、CHO細胞であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
各産生株細胞は、静置マイクロプレート培養においてマイクロタイタープレートのウェル中で、前記異なる化学的細胞ストレッサーまたは異なる化学的細胞ストレッサーの各々とともにインキュベートされることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーは、インキュベーション中に前記クローン産生株細胞の増殖を阻害するように予め定められたLD30からLD80の範囲内の濃度で用いられることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記請求項1から7のいずれかに記載の流加培養においてクローン産生株細胞のパネルの相対的な産生力価を予測する、迅速でハイスループットな、コンピューターで実行される方法であって、
−各産生株細胞を、静置マイクロプレート培養において少なくとも3個のそれぞれ異なる機能的に多様な化学的細胞ストレッサーとともに、4日未満のインキュベーション期間、同時にインキュベートするステップであって、各産生株細胞は、IC50の0.5から2.0倍の濃度で供給される単一の化学的細胞ストレッサーとともにインキュベートされるステップと、
−前記インキュベーション期間後に、異なる化学的細胞ストレッサー各々の存在下で、各細胞の前記産生力価応答を決定して、クローン産生株細胞の前記パネルそれぞれに関する細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを生成するステップと、
−産生株細胞の前記パネルそれぞれに関する前記細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを、計算モデルに入力するステップであって、前記計算モデルは、既知の流加産生力価を有する産生株細胞の較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、前記計算モデルは、産生株細胞の前記パネルの予測される相対的な流加産生力価を出力するように設定されるステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記計算モデルは、多重線形計算モデルであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記多重線形計算モデルは、最小二乗解を用いて、細胞に特異的な産生力価応答のレベルを観察される流加産生力価に適合させることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
流加培養においてクローン産生株細胞のパネルの相対的な産生力価を予測する方法を実
施するための、コンピューターで実行されるシステムであって、
−IC50の0.5から2.0倍の濃度で供給された少なくとも3個の異なる化学的細胞ストレッサーの存在下および非存在下で、各クローンの産生力価をアッセイして、複数のストレスが加えられた微小環境における各クローンに関する正規化された産生力価応答値を提供するための決定システムと、
−前記ストレスが加えられた微小環境それぞれにおける各クローンに関する前記正規化された産生力価応答値を含むクローンに特異的な産生力価応答プロファイルを処理するように適応された計算モデルであって、既知の流加産生力価応答プロファイルを有するクローンの較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、各クローンに関する予測される流加産生力価値および/またはクローン細胞の前記パネルの予測される相対的な流加産生力価を出力するように設定される計算モデルと、
−(i)前記パネルにおける1つまたは複数のクローンに関する前記予測される流加産生力価、または(ii)クローン細胞の前記パネルの予測される相対的な流加性能、または(iii)(i)および(ii)の両方を出力するための手段と
を含むことを特徴とするシステムであって、
前記化学的細胞ストレッサーは、細胞培養培地中で細胞とともにインキュベートすることができ、1つまたは複数の細胞経路を介して、細胞成長の低減を引き起こすことが可能な化学物質を意味する、システム。
【請求項12】
前記決定システムは、HPLCを含むことを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記計算モデルは、多重線形計算モデルであることを特徴とする請求項11または12に記載のシステム。
【請求項14】
前記多重線形計算モデルは、最小二乗解を用いて、細胞に特異的な産生力価応答のレベルを観察される流加産生力価に適合させることを特徴とする請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
単一の細胞株に由来する産生株細胞クローンのパネルをスクリーニングして、流加産生力価に従って前記クローンを層別化する方法であって、各クローンの試料を、IC50の0.5から2.0倍の濃度で供給された少なくとも3個の異なる化学的細胞ストレッサーとともに、および複数の異なる化学的細胞ストレッサーを伴わずに、少なくとも24時間かつ最大4または5日の期間、インキュベートして、前記クローンに関する複数の正規化された産生力価応答値を得るステップであって、前記産生力価応答値は、クローンに特異的な産生力価応答プロファイルを形成するクローンに特異的な産生力価応答の特定のパターンを提供するステップと、多重線形計算モデルを用いて、前記クローンに特異的な産生力価応答プロファイルを、既知の流加産生力価を有するクローンの較正セットからの複数の産生力価応答プロファイルと相関させ、クローンの前記パネルの1つまたは複数に関する流加産生力価を予測するステップとを含むことを特徴とする方法であって、
前記化学的細胞ストレッサーは、細胞培養培地中で細胞とともにインキュベートすることができ、1つまたは複数の細胞経路を介して、細胞成長の低減を引き起こすことが可能な化学物質を意味する、方法。
【請求項16】
前記パネルからの前記クローンは、予測される流加産生力価に従ってランク付けされることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
コンピューター上で実行されると、請求項1から10、請求項15および請求項16のいずれかに記載の方法に従って、単一の細胞株に由来するクローン細胞のパネルの相対的な流加産生力価を予測する方法を前記コンピューターに実施させるコンピュータープログラム。
【請求項18】
請求項17に記載のコンピュータープログラムを保存しているコンピュータープログラム記録媒体。
【請求項19】
流加培養においてクエリー産生株細胞の産生力価を予測する、コンピューターで実行される方法であって、
−クエリー産生株細胞を、各化学的細胞ストレッサーがIC50の0.5から2.0倍の濃度で供給された、少なくとも3個の化学的細胞ストレッサーとともに個別に静置マイクロプレート培養においてインキュベートするステップと、
−各化学的細胞ストレッサーの存在下におけるクエリー産生株細胞の産生力価応答を決定して、クエリー細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを生成するステップと、
−クエリー細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを、計算モデルに入力するステップであって、計算モデルは、既知の流加産生力価を有する細胞の較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、計算モデルは、細胞に関する予測される流加産生力価を出力するように設定されるステップと
を含むことを特徴とする方法であって、
前記化学的細胞ストレッサーは、細胞培養培地中で細胞とともにインキュベートすることができ、1つまたは複数の細胞経路を介して、細胞成長の低減を引き起こすことが可能な化学物質を意味する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産生株細胞の流加産生力価を予測する方法に関する。特に、本発明は、クローンに由来する産生株細胞のパネルの相対的な流加組換えタンパク質力価を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CHO細胞クローン分離株の、細胞株を製造するのに機能を果たす相対的な能力の初期予測は、細胞株開発プロセスの重要な構成要素である。静置培養において外見上生産的なクローンは、細胞成長および生産性の両方に関して、続く流加培養性能において実質的に多様であり得る。現在の成功事例は、50〜100個のクローン分離株の比較を可能にする小規模のマルチパラレルバイオリアクターシステムを使用して、細胞株開発において初期にクローン性能を測定することである。しかしながら、このアプローチは、依然としてコストも時間もかかる。
【0003】
本発明の目的は、上述の問題のうちの少なくとも1つを克服することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Production of recombinant protein therapeutics in cultivated mammalian cells(2004),Wurm,Florian M,New York,NY,Nature Biotechnology 22(2004),S.1393−1398
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本出願人は、流加培養における産生株細胞クローンの産生力価が、静置マイクロプレート培養における1つまたは複数の機能的に多様な化学的ストレッサー(例えば、阻害剤および毒素)に対するクローンに特異的な組換えタンパク質産生応答の迅速なプロファイリングにより正確に予測することができることを発見した。マイクロプレートプロファイリングを実施するために、固定数のクローンに由来する細胞を、別々のウェルへ個別にロードされた1つまたは複数の化学的細胞ストレッサーを含有する96ウェルマイクロプレートへ分配した。各化学物質は、細胞成長培地中に可溶性であり、マイクロプレートにおいて親CHO細胞増殖を阻害するように予め定められたLD30からLD80の範囲内の濃度で通常利用された。成長期間(即ち、3日間)の静置成長後に、上清MAb力価をHPLCプロテインAアッセイにより測定した。限界希釈クローニングにより単離されるIgG1 MAbを発現する12個のCHO−Sクローンをマイクロプレートプロファイリングに付して、続いて、エルレンマイヤーフラスコにおいて最適流加培養性能(MAb力価[MAb]、50%細胞生存率に対する生存細胞濃度の積分[IVCC50])の評価を行った。多重線形モデリングを使用して、マイクロプレートにおけるクローン性能が、クローンに特異的なMAb力価マイクロプレートプロファイルを使用してMAb力価(r2=0.84)を予測することができることを実証した。
【0006】
第1の態様では、本発明は、流加培養においてクエリー産生株細胞の産生力価を予測する、コンピューターで実行される方法であって、
−クエリー産生株細胞を、1つまたは複数の化学的細胞ストレッサーとともにインキュベートするステップと、
−化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下で、クエリー産生株細胞の産生力価応答を決定して、クエリー細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを生成するステップと、
−クエリー細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを、計算モデルに入力するステップであって、計算モデルは、既知の流加産生力価を有する細胞の較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、計算モデルは、細胞に関する予測される流加産生力価を出力するように設定されるステップと
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0007】
別の態様では、本発明は、流加培養において産生株細胞のパネルの相対的な産生力価を予測する、コンピューターで実行される方法であって、
−各産生株細胞を、1つまたは複数の化学的細胞ストレッサーとともにインキュベートするステップと、
−化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下で、各細胞の産生力価応答を決定して、産生株細胞のパネルそれぞれに関する細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを生成するステップと、
−産生株細胞のパネルそれぞれに関する細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを、計算モデルに入力するステップであって、計算モデルは、既知の流加産生力価を有する細胞の較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、計算モデルは、産生株細胞のパネルの予測される相対的な産生力価を出力するように設定されるステップと
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0008】
新たなクローンのバッチが、親細胞株から生成される場合、全てではなく、選ばれた少数がバイオリアクターにおいて高価でかつ時間のかかる成長研究に付されているが、本発明の方法は、多数のクローンを、迅速でかつハイスループットな様式で、予測される流加(組換えタンパク質)産生力価に関して迅速にアッセイして、それに従ってランク付けすることが可能である。これは、どのクローンを、スケールアップ/ミニバイオリアクター研究に進めるかの情報を与える(例えば以下の図Xに示されるような良好なクローンのみ)。
【0009】
本発明の方法は、予め検証されたクローン(既知の産生力価のクローン)のパネルからのデータ(産生力価応答プロファイル)、およびこのデータに基づく計算モデル、理想的には多重線形計算モデルを用いて、それらの迅速に得られる化学的フィンガープリントに基づいて、クローンの新たなセットの相対的な流加組換え産生力価の予測を可能にする。
【0010】
好ましくは、本方法は、予測される流加産生力価に従って、クローンをランク付けるさらなるステップを含む。
【0011】
本方法は、マイクロタイタープレートを使用して通常実行され、ここで各アッセイは、マイクロタイタープレートのウェル中で実施される。適切には、各クローン細胞の成長は、マルチウェルプレートのウェル中でアッセイされる。多重の化学的細胞ストレッサーが用いられる場合、各クローンは、単一の化学的細胞ストレッサーの存在下でアッセイされる。
【0012】
通常、アッセイは、クローンの試料を、化学的細胞ストレッサーと混合するステップと、混合物を1から4日、通常2から4日、好ましくは60〜80時間、理想的には約3日、インキュベートするステップと、細胞の成長のレベルをアッセイするステップとを含む。適切には、クローン試料は、混合物1ml当たり0.1から1.0x106個の細胞の濃度で供給される。通常、バイオリアクターに関連する化学的細胞ストレッサーは、0.5から2xIC50、理想的には約1xIC50の濃度で供給される。
【0013】
適切には、各クローンの成長は、5日未満のインキュベーション期間後にアッセイされる。理想的には、各クローンの成長は、1〜4日のインキュベーションの期間後に、理想的には2日および3日後にアッセイされる。
【0014】
好ましくは、各クローンの成長は、同時にアッセイされる。通常、インキュベーションステップは、静置マイクロプレート培養において実行される。
【0015】
好ましい実施形態では、本発明は、流加培養においてクローン産生株細胞のパネルの相対的な産生(即ち、モノクローナル抗体)力価を予測する、迅速でハイスループットな、コンピューターで実行される方法であって、
−各産生株細胞を、静置マイクロプレート培養において複数の異なる機能的に多様な化学的細胞ストレッサーとともに、4日未満のインキュベーション期間、同時にインキュベートするステップであって、化学的細胞ストレッサーは、アミノ酸輸送阻害剤、細胞周期阻害剤、浸透圧ストレスの供給源、酸化的ストレスの供給源、アポトーシスの誘発剤、代謝的エフェクター、pH改質剤、解糖系の阻害剤、および毒素のうちの少なくとも2個から選択されるステップと、
−インキュベーション期間後に、異なる各化学的細胞ストレッサーの存在下で、各細胞の産生力価応答を決定して、産生株細胞のパネルそれぞれに関する細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを生成するステップと、
−産生株細胞のパネルそれぞれに関する細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを、計算モデルに入力するステップであって、計算モデルは、既知の流加産生力価を有する産生株細胞の較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、計算モデルは、産生株細胞のパネルの予測される相対的な流加産生力価を出力するように設定されるステップと
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0016】
化学的細胞ストレッサーは、多重の細胞経路の1つまたは複数を介して細胞成長の低減を引き起こす化学物質である。適切には、複数の化学的細胞ストレッサーは、少なくとも2、3、4、5または6個の機能的に多様な化学的細胞ストレッサー、例えば少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、21、22、23、24または25個の異なるストレッサーを含む。通常、複数の化学的細胞ストレッサーは、アミノ酸輸送阻害剤、細胞周期阻害剤、浸透圧ストレスの供給源、酸化的ストレスの供給源、アポトーシスの誘発剤、代謝的エフェクター、pH改質剤、解糖系の阻害剤、および毒素から選択される。これらは、機能的に多様な化学的細胞ストレッサーの例である。通常、複数の化学的細胞ストレッサーは、アミノ酸輸送阻害剤、細胞周期阻害剤、浸透圧ストレスの供給源、酸化的ストレスの供給源、アポトーシスの誘発剤、代謝的エフェクター、pH改質剤、解糖系の阻害剤、および毒素からなる群の少なくとも4、5、6または7個から選択されるストレッサーを含む。
【0017】
別の態様では、本発明は、少なくとも24、48または96個のウェルを含むマイクロタイタープレート、およびウェルの少なくとも幾つかの中に個々に配置される複数の化学的細胞ストレッサーを提供する。通常、プレートは、少なくとも6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、21、22、23、24または25個の化学的細胞ストレッサーを含む。適切には、各化学的細胞ストレッサーは、プレートの少なくとも2または3個のウェル中に配置される(即ち、二重または三重で)。
【0018】
好ましくは、複数の化学的細胞ストレッサーは、2−アミノビシクロ−(2,2,1)ヘプタン−カルボン酸(BCH)、D−フェニルアラニン、α−(メチルアミノ)イソ酪酸(MeAIB)、酪酸ナトリウム(NaBu)、シクロヘキシミド、塩化アンモニウム、酢酸カドミウム二水和物、塩化コバルト(CoCl2)、塩化ナトリウム(NaCl)、乳酸ナトリウム(Na Lac)、アミノトリアゾール(AMT)、メナジオン重亜硫酸ナトリウム(MSB)、ブチオニンスルホキシミン(BSO)、メルカプトコハク酸(MS)、2,4−ジニトロフェノール(24DNP)、オキサミド酸ナトリウム、2−デオキシグルコース(2dg)、3−ブロモピルビン酸(3−BrPA)、ジクロロ酢酸(DCA)、6−ジアゾ−5−オキソ−l−ノルロイシン(l−don)、バルプロ酸(Val)、オルトバナジン酸ナトリウム(NaV)、クエン酸、FK866、乳酸の群から選択される。
【0019】
別の態様では、本発明は、少なくとも24、48または96個のウェルを含むマイクロタイタープレート、および1つまたは複数の、一般的には複数の、ウェルの少なくとも幾つかの中に個々に配置される化学的細胞ストレッサーを提供し、ここで、複数の異なる化学的細胞ストレッサーが用いられる場合、化学的細胞ストレッサーは、アミノ酸輸送阻害剤、細胞周期阻害剤、浸透圧ストレスの供給源、酸化的ストレスの供給源、アポトーシスの誘発剤、代謝的エフェクター、pH改質剤、解糖系の阻害剤、および毒素からなる群それぞれから選択される少なくとも1個の化学的細胞ストレッサーを含む。
【0020】
一実施形態では、本発明は、少なくとも96個のウェルを含むマイクロタイタープレート、およびプレートのウェル中に個々に配置される少なくとも23個の化学的細胞ストレッサーを提供し、ここで、化学的細胞ストレッサーは、2−アミノビシクロ−(2,2,1)ヘプタン−カルボン酸(BCH)、D−フェニルアラニン、α−(メチルアミノ)イソ酪酸(MeAIB)、酪酸ナトリウム(NaBu)、シクロヘキシミド、塩化アンモニウム、酢酸カドミウム二水和物、塩化コバルト(CoCl2)、塩化ナトリウム(NaCl)、乳酸ナトリウム(Na Lac)、アミノトリアゾール(AMT)、メナジオン重亜硫酸ナトリウム(MSB)、ブチオニンスルホキシミン(BSO)、メルカプトコハク酸(MS)、2,4−ジニトロフェノール(24DNP)、オキサミド酸ナトリウム、2−デオキシグルコース(2dg)、3−ブロモピルビン酸(3−BrPA)、ジクロロ酢酸(DCA)、6−ジアゾ−5−オキソ−l−ノルロイシン(l−don)、バルプロ酸(Val)、オルトバナジン酸ナトリウム(NaV)、クエン酸、FK866、乳酸から本質的に構成される。
【0021】
別の態様では、本発明は、本発明の方法を実施するのに適しており、(a)本発明のマイクロタイタープレート、(b)マイクロタイタープレートリーダー、および(c)(i)化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下および非存在下で、各クローンの産生力価値を決定システム(例えば、HPLC)から受信すること、(ii)化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下で、各クローンに関する正規化された産生力価値を算出すること、(ii)化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下で、各クローンに関する正規化された産生力価値を含むクローンに特異的な産生力価応答プロファイルを、計算モデルに入力すること(ここで、計算モデルは、既知の産生力価値を有するクローンの較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、計算モデルは、各クローンに関する予測される流加産生力価値を出力する(および任意に、クローン細胞のパネルの相対的な流加産生力価値を予測する)ように設定される)、および(iii)各クローンに関する予測される流加産生力価値を出力する(および任意に、クローン細胞のパネルの相対的な流加産生力価値を予測する)ことに関するプログラム指示書を含むコンピュータープログラムを含むキットを提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、単一の親宿主細胞集団に由来するクローン産生株細胞のパネルの相対的な流加産生力価を予測する方法を実施するのに適しており、(a)本発明のマイクロタイタープレート、(b)マイクロタイタープレートリーダー、および(c)(i)1つまたは複数の化学的細胞ストレッサーの存在下および非存在下で成長させた各クローンの産生力価値を適切な機械から受信すること、(ii)化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下で、各クローンに関する正規化された産生力価値を算出すること、(ii)化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下で、各クローンに関する正規化された産生力価値を含むクローンに特異的な産生力価応答プロファイルを、計算モデルに入力すること(ここで、計算プログラムは、既知の産生力価値を有するクローンの較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、計算モデルは、各クローンに関する予測される流加産生力価値を出力して、クローン細胞のパネルの相対的な流加産生力価値を予測するように設定される)、および(iii)クローン細胞のパネルの予測される相対的な流加産生力価値を出力することに関するプログラム指示書を含むコンピュータープログラムを含むキットを提供する。
【0023】
クローンの産生力価を決定するのに用いられる決定システムは、任意の適切な機械、例えば、標的組換えタンパク質を定量的にアッセイするように適応されたHPLCまたは質量分析計であり得る。
【0024】
本発明はまた、単一の細胞株に由来するクローン産生株細胞の流加産生力価を予測する方法を実施するための、コンピューターで実行されるシステムであって、
−1つまたは複数の異なる化学的細胞ストレッサー(通常、複数の異なる化学的細胞ストレッサー)の存在下および非存在下で、クローンの産生力価をアッセイして、1つまたは複数のストレスが加えられた微小環境におけるクローンに関する正規化された産生力価応答値を提供するための決定システムと、
−ストレスが加えられた微小環境または各ストレスが加えられた微小環境におけるクローンに関する正規化された産生力価応答値を含むクローンに特異的な産生力価応答プロファイルを処理するように適応された計算モデルであって、既知の流加産生力価応答プロファイルを有するクローンの較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、クローンに関する予測される流加産生力価値を出力するように設定される計算モデルと、
−クローン産生株細胞に関する予測される流加産生力価を出力するための手段と
を含むことを特徴とするシステムを提供する。
【0025】
本発明はまた、単一の細胞株に由来するクローン産生株細胞のパネルの相対的な流加産生力価を予測する方法を実施するためのコンピューターで実行されるシステムであって、
−複数の異なる化学的細胞ストレッサーの存在下および非存在下で、各クローンの産生力価をアッセイして、複数のストレスが加えられた微小環境における各クローンに関する正規化された産生力価応答値を提供するための決定システムと、
−ストレスが加えられた微小環境それぞれにおける各クローンに関する正規化された産生力価応答値を含むクローンに特異的な産生力価応答プロファイルを処理するように適応された計算モデルであって、既知の流加産生力価応答プロファイルを有するクローンの較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、各クローンに関する予測される流加産生力価値および/またはクローン細胞のパネルの予測される相対的な流加産生力価を出力するように設定される計算モデルと、
−(i)パネルにおける1つまたは複数のクローンに関する予測される流加産生力価、または(ii)クローン細胞のパネルの予測される相対的な流加性能、または(iii)(i)および(ii)の両方を出力するための手段と
を含むことを特徴とするシステムを提供する。
【0026】
通常、決定システムは、HPLCを含むが、標的タンパク質に関して定量的にアッセイするように適応された他のシステム、例えば定量的ELISAを用いてもよい。
【0027】
適切には、計算モデルは、多重線形計算モデルである。理想的には、多重線形計算モデルは、最小二乗解を適切に用いて、パラメーター(即ち、細胞に特異的な産生力価応答のレベル)を観察される流加産生力価に適合させる。
【0028】
本発明はまた、コンピューター上で実行されると、コンピューターに、本発明により単一の細胞株に由来するクローン細胞のパネルの相対的な流加産生力価を予測する方法を実施させるコンピュータープログラムを提供する。
【0029】
本発明はまた、本発明によるコンピュータープログラムを保存するコンピュータープログラム読み取り媒体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】一般的な親細胞株由来の12個のクローン細胞株のパネルからの流加培養において達成される最大モノクローナル抗体力価の図である。
図2】12個のクローン細胞株のパネルにより達成される特定の化学的ストレッサーの存在下での産生力価の範囲の図である。
図3】化学的な特異的MAb応答を使用して最大MAb力価を予測するための多重線形モデルの適合度の視覚的な表示である。
図4】モデルの、新たなデータを予測する能力の図である。ここで、上述のモデルパラメーターを使用して、「一個抜き」交差検証機能を使用して新たなデータを用いて最大MAb力価を予測した。
【発明を実施するための形態】
【0031】
一態様では、本発明は、単一の細胞株に由来する産生株細胞クローンのパネルをスクリーニングして、流加産生力価に従ってクローンを層別化する方法に関する。本方法は、各クローンの試料を、1個、一般的には複数の個々の化学的細胞ストレッサーとともに、また1個、一般的には複数の異なる化学的細胞ストレッサーを伴わずに、一定期間、通常少なくとも24時間かつ最大4または5日間インキュベートして、クローンに関する複数の正規化された産生力価応答値を得るステップを包含する。これらの産生力価応答値は、クローンに特異的な成長応答プロファイルを形成するクローンに特異的な産生力価応答の特定のパターンを提供する。多重線形計算モデルを用いて、産生力価応答プロファイルを、既知の流加産生力価を有するクローンの較正セットからの複数の産生力価応答プロファイルと相関させ、クローンのパネルの1つまたは複数に関する流加産生力価を予測する。続いて、パネルからのクローンは、予測される流加産生力価に従ってランク付けされてもよく、それにより、産生株クローンを、さらなる開発のために選択することが可能となる。
【0032】
この明細書では、「迅速でハイスループットな」という用語は、本方法が4日またはそれ未満で実行され得ることを意味すると理解されるべきであり、ここで、インキュベーション期間中の細胞のインキュベーションは、マイクロタイタープレートのウェル中で実行され得る。
【0033】
「産生力価」または「産生力価応答」という用語は、特異的な産生株細胞クローンに適用される場合、特異的な産生株細胞クローンが、定められた期間にわたって生成する特異的なタンパク質、一般的には組換えタンパク質、理想的には組換えモノクローナル抗体の量を指す。力価は、絶対的または相対的に定量化され得る。一般に、力価は、培養液の容量当たりの産生物の重量とみなされ、1リットル当たりのグラム(g/L)が一般的な測定基準である(最大力価)。概して、クローンは、特定の期間、例えば2〜4日間インキュベートされ、インキュベーション期間後に、上清の試料を通常採取して、産生力価に関してアッセイされる。HPLCおよび定量的ELISAを含む産生力価を測定する各種方法が、当業者に明らかである。
【0034】
多くの場合、本発明の方法で用いられる産生力価は、正規化された産生力価応答であり、化学的細胞ストレッサーの存在下および非存在下で測定される場合の細胞に関する産生力価応答間の差を意味する。
【0035】
「産生株細胞」という用語は、特定の所望のタンパク質を生成するのに用いられる細胞を指す。概して、細胞は、一般的に特定のプロモーターの制御下にある所望のタンパク質をコードする導入遺伝子の1つまたは多重のコピーを含むように遺伝的に改変される。したがって、特定のタンパク質は通常、組換えタンパク質である。産生株細胞は、当該技術分野で周知であり、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはベビーハムスター腎臓(BHK)細胞を含む。理想的には、産生株細胞はCHO細胞である。通常、産生株細胞は、モノクローナル抗体産生株細胞である。
【0036】
「産生力価応答プロファイル」という用語は、1つまたは複数の化学的細胞ストレッサーに対する所定のクローンに関する産生力価応答を指す。一実施形態では、プロファイルは、所定のクローンに関する単一の産生力価応答(1個の化学的細胞ストレッサーの存在および通常非存在下での細胞に関する産生力価応答)を含み得る。他の実施形態では、産生力価応答プロファイルは、複数の産生力価応答または所定のクローン(複数の異なる化学的細胞ストレッサーの存在および任意に非存在下での細胞に関する産生力価応答)を含む。一般的に、プロファイルは、正規化された産生力価応答(ストレッサーの非存在下での産生力価から、ストレッサーの存在下での産生力価を引いたもの)を使用して生成され、その結果、正規化された産生力価応答プロファイルが得られる。しかしながら、プロファイルが1個よりも多いストレッサーを使用して生成される状況で、ストレスが加えられた微小環境からの産生力価のみを用いて(即ち、対照産生力価を用いずに)生成されるプロファイルを使用することが可能である。
【0037】
本発明の方法は、流加培養における場合に、産生株細胞の迅速なプロファイリングを用いて、細胞の産生力価を予測する。この明細書では、「流加」または「流加培養」という用語は、さらなる栄養分が、細胞の播種後に少なくとも1回、ボーラス形式で添加される細胞の拡張培養を意味すると理解されるべきである。
【0038】
「クローンの較正セット」という用語は、それぞれが、産生力価応答フィンガープリントおよび既知の流加性能を有する複数のクローンを指す。通常、クローンの較正セットは、最終利用者が「良好な」パフォーマーとみなすことから、最終利用者が「悪い」パフォーマーとみなすことまでの流加性能の能力の範囲を示すクローンを含む。適切には、クローンの較正セットは、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、22、24または26個のクローンを含む。
【0039】
「ストレスが加えられた微小環境」という用語は、化学的細胞ストレッサーを含む環境を意味すると理解されるべきである。概して、これは、クローンが、化学的細胞ストレッサーの存在下でマイクロタイタープレートのウェル中で成長に関してアッセイされることを意味する。
【0040】
本明細書中では、「迅速な」という用語は、5日未満、理想的には4または3日未満かかる流加性能を予測する方法を意味すると理解されるべきである。
【0041】
本明細書中では、「ハイスループット」という用語は、多数の試料、例えば20〜500個を同時にアッセイすることができる方法を意味すると理解されるべきである。一実施形態では、これは、マルチウェルプレート、例えば48、96または192ウェルプレートにおけるクローンの成長をアッセイすることを含む。
【0042】
本明細書中では、「予測される流加産生力価」は、クローン産生株細胞に適用される場合、流加培養におけるクローンの予測される流加産生力価を意味すると理解されるべきである。予測される産生力価は、絶対的に定量化されてもよく、または相対的に、即ち、既知の良好な、もしくは悪い産生力価を有するクローンに対して、またはクローンのパネルに対して定量化されてもよい。
【0043】
本明細書中では、「相対的な産生力価を予測する」という用語は、互いに対して、パネルにおけるクローンの流加産生力価を予測することを意味すると理解されるべきである。したがって、一実施形態では、クローンは、それらの予測される流加産生力価に従って層別化される。同様に、「クローン細胞のパネルの予測される相対的な流加産生力価」という用語は、互いに対するパネルにおけるクローンの予測される流加産生力価を意味すると理解されるべきである。したがって、一実施形態では、クローンは、それらの予測される流加産生力価に従って層別化される。別の実施形態では、クローンは、最良の予測される流加産生力価クローンを示す1つまたは複数のクローン、最悪の予測される流加産生力価クローンを示す1つまたは複数のクローン、またはその両方を抜き出すように層別化される。
【0044】
本明細書では、「クローン産生株細胞のパネル」という用語は、単一の細胞株に由来し、2から500個またはそれ以上のクローン産生株細胞集団を含むクローン産生株細胞集団のパネルを意味すると理解されるべきである。クローン産生株細胞のパネルを生成する方法は、当業者に周知であり、記載されている(例えば、非特許文献1参照)。通常、クローン産生株細胞集団のパネルは、10〜500、20〜500、30〜500、40〜500、50〜500、60〜500、70〜500、80〜500、90〜500または100〜500個のクローン細胞集団を含む。通常、クローン産生株細胞集団のパネルは、100〜500、100〜400、150〜400、150〜350個のクローン細胞集団を含む。
【0045】
本明細書中では、「計算モデル」という用語は通常、多重線形計算モデルを指す。理想的には、多重線形計算モデルは、最小二乗解を用いて、パラメーター(即ち、細胞に特異的な産生力価応答のレベル)を観察される流加産生力価に適合させる。
【0046】
本明細書中では、「化学的細胞ストレッサー」という用語は、細胞培養培地中で細胞とともにインキュベートすることができ、1つまたは複数の細胞経路を介して、細胞成長の低減を引き起こすことが可能である化学物質を意味すると理解されるべきである。好ましくは、化学的細胞ストレッサーは、細胞培養培地中で可溶性である。化学的細胞ストレッサー(細胞ストレッサー型)として、細胞経路の阻害剤、細胞毒素(細胞、特に哺乳動物細胞に対して毒性のある化学物質)、代謝的エフェクター、および細胞にストレスを加える化学物質が挙げられる。阻害剤の例として、アミノ酸輸送阻害剤、細胞周期阻害剤および解糖系阻害剤が挙げられる。細胞にストレスを加える化学物質の例は、浸透圧または酸化的ストレスの供給源である。通常、化学的細胞ストレッサーは、LD30からLD80の範囲内の細胞増殖を阻害する量で利用される。適切には、化学的細胞ストレッサーは、0.5から2xIC50の濃度で利用される。通常、各細胞の試料(即ち、各クローンの試料)は、少なくとも3つの異なる細胞ストレッサーとともに個別にインキュベートされる。好ましくは、各細胞の試料(即ち、各クローンの試料)は、少なくとも3個の異なる型の細胞ストレッサー(例えば、アミノ酸輸送阻害剤、解糖系阻害剤および浸透圧ストレスの供給源)とともに個別にインキュベートされる。適切には、複数の化学的細胞ストレッサーは、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、21、22、23、24または25個のストレッサーを含む。通常、複数の化学的細胞ストレッサーは、アミノ酸輸送阻害剤、細胞周期阻害剤、浸透圧ストレスの供給源、酸化的ストレスの供給源、アポトーシスの誘発剤、代謝的エフェクター、pH改質剤、解糖系の阻害剤、および毒素からなる群から選択される。通常、複数の化学的細胞ストレッサーは、アミノ酸輸送阻害剤、細胞周期阻害剤、浸透圧ストレスの供給源、pH改質剤、酸化的ストレスの供給源、アポトーシスの誘発剤、代謝的エフェクター、解糖系の阻害剤、および毒素からなる群の少なくとも4、5、6または7個から選択されるストレッサーを含む。化学的細胞ストレッサーの例として、以下が挙げられる:
BCH(AA輸送阻害剤)
D−フェニルアラニン(AA輸送阻害剤)
MeAIB(AA輸送阻害剤)
酪酸ナトリウム(細胞周期阻害剤)
シクロヘキシミド(毒素)
塩化アンモニウム(毒素)
塩化コバルト(アポトーシスの誘発剤)
NaCL(浸透圧ストレスの供給源)
乳酸ナトリウム(代謝的エフェクター)
アミノトリアゾール(酸化的ストレスの供給源)
メナジオン重亜硫酸ナトリウム(酸化的ストレスの供給源)、
メルカプトコハク酸(酸化的ストレスの供給源)
2,4−ジニトロフェノール(代謝的エフェクター)
オキサミド酸ナトリウム(解糖系阻害剤)
2−デオキシグルコース(解糖系阻害剤)
3−ブロモピルビン酸(解糖系阻害剤)
ジクロロ酢酸(解糖系阻害剤)
L−don(AA合成阻害剤)
バルプロ酸(細胞周期阻害剤)
オルトバナジン酸ナトリウム(細胞周期阻害剤)
FK866(アポトーシス誘発剤)
クエン酸/乳酸(pH改質剤)。
【0047】
「IC50」:阻害濃度を確立するために、「インハウス親CHO」細胞を、96ウェルプレートにおいて様々な濃度の目的の化学物質の存在下で、3日間(72時間)インキュベートした。成長は、化学的生存細胞数アッセイ(Life Technologies、UKからの「Presto Blue」)を使用して決定した。化学物質濃度の存在下での成長を、対照細胞成長(即ち、0mMの阻害化学物質の存在下で)と比較して、化学物質濃度対、対照に対する成長パーセントの曲線を作った。この曲線を使用して、IC「X%」濃度を確立させた。
【0048】
実施例
細胞培養:
使用したクローンは、Cobra biologies(キール、UK)により供給されたモノクローナル抗体を産生する親クローン(クローン38)由来のCHO−S由来クローンであった。これらは、これ以降、「PM−CHO」と称される。PM−CHO細胞は、CD−CHO培地(Invitrogen、ペーズリー、UK)、8mM L−グルタミン(Invitrogen、ペーズリー、UK)、1%HTサプリメント(Invitrogen、ペーズリー、UK)、12.5μg/mlのピューロマイシン(Invitrogen、ペーズリー、UK)中で培養した。細胞は、交互の3/4日レジームで日常的に継代培養した。
【0049】
流加研究:
流加研究は、市販のフィードおよび培地を使用して、振とうフラスコ中で、60ml容量で実施した。フィードは、4、6、8および10日目に6mlボーラスで添加した。毎日試料を採取して、細胞成長およびモノクローナル抗体力価に関して分析した。
モノクローナル抗体力価の決定:
HPLC法は、「Biomonolith」プロテインAカラム(Aglient、ウォーキンガム、UK)を使用して用いた。モノクローナル抗体は、溶離液中のUV吸収ピーク下の面積に従って定量化した。これは、試料中の抗体濃度に線形比例していると実証された。
【0050】
本発明を実施する方法:
詳細な文献検索から、流加性能の情報を与えると予想された様々な化学物質を同定した。これらは、下記であった:
2−アミノビシクロ−(2,2,1)ヘプタン−カルボン酸(BCH)
D−フェニルアラニン(D−Phe)
α−(メチルアミノ)イソ酪酸(MeAIB)
酪酸ナトリウム(NaBu)
シクロヘキシミド
塩化アンモニウム
酢酸カドミウム二水和物
塩化コバルト(CoCl2)
塩化ナトリウム(NaCl)
乳酸ナトリウム(Na Lac)
アミノトリアゾール(AMT)
メナジオン重亜硫酸ナトリウム(MSB)
ブチオニンスルホキシミン(BSO)
メルカプトコハク酸(MS)
2,4−ジニトロフェノール(24DNP)
オキサミド酸ナトリウム
2−デオキシグルコース(2dg)
3−ブロモピルビン酸(3−BrPA)
ジクロロ酢酸(DCA)
6−ジアゾ−5−オキソ−l−ノルロイシン(l−don)
バルプロ酸(Val)
オルトバナジン酸ナトリウム(NaV)
クエン酸
FK866
乳酸。
【0051】
「インハウス」親細胞株を使用して、上記化学物質の阻害用量50(IC50)濃度を、成長研究を通じて同定した。ここで、IC50は、3日間にわたって正常な細胞成長を50%阻害する、問題となっている化学物質の濃度として定義される。IC50がいったん確立されたら、IC50濃度で化学物質の上記選択を含有して、細胞成長培地のみを含有した対照ウェルを含む96ウェルプレートをセットした。
【0052】
モノクローナル抗体を産生するクローン細胞株のサイズ12のパネルを、PM親細胞株を使用した限界希釈クローニング法によりインハウスで生成した。これらのクローンを流加研究に付して、それらの流加産生物産生能力を評価した。ここで、これは、流加実行中に達成される最大容量産生物力価として定義される。クローンパネルにより流加中に達成される最大力価の範囲を図1に示す。
【0053】
各クローン細胞株を、上述の化学物質を含有する96ウェルプレートにおいて3日間成長させた。この期間後、プレートにおける化学物質に特異的な産生物力価(即ち、上述するような化学物質の存在下および非存在下でのMAb力価−正規化された産生力価)のレベルを、上述するように「HPLC」アッセイを使用して測定した。これにより、化学物質に特異的な産生物産生フィンガープリントを、各クローン細胞株に関して同定することが可能となった(クローンに特異的な産生力価応答プロファイルとして上記で言及されている)。ここで、産生物産生フィンガープリントは、各化学的微小環境における複数の産生物産生レベルとして定義される。
【0054】
クローンのパネルに関する化学物質に特異的な生産性の範囲を図2に示す。
【0055】
これらの化学物質に特異的な産生物産生フィンガープリントからの情報を使用して、多重線形モデルは、パラメーターとして個々の化学物質に対する応答を使用して構築された。
【0056】
多重線形モデルは、方程式を満たすものとして定義される。
【0057】
【化1】
【0058】
式中、Xは、説明変数からの適切なデータを含有する行列を表し、Yは、従属(または応答)変数のベクトルである。これは、パラメーター(即ち、化学物質に特異的な産生物産生)を観察される流加性能(ここでは、Max MAb力価として定義される)に適合させるのに最小二乗解を本質的に見出している。
【0059】
複数のクローン微小環境から構築される多重線形モデルの例は、
Max.MAb.力価=37.78*(対照プレート力価)−22.4150*(MeIABプレート力価)+0.4711
である。
【0060】
式中、Max.Mab.力価は、流加培養において達成される最大モノクローナル抗体力価である。上記パラメーターを使用したモデル適合度を示すグラフを図3に示す。このモデルに関するR2値は0.84である。これは、データの挙動の84%をモデルにより説明することができると解釈され得る。
【0061】
ブートストラップ交差検証技法を使用することにより、上記様式で構築されたモデルが、今後のデータ、即ちモデルで使用されていないデータを予測し得ることが示され得る。図4は、モデリングアプローチの、予測モデルを構築する予測能力を示す。このモデルを用いて、0.68の多重R2は、新たなデータを予測するのに達成された。
【0062】
既知の流加性能を有するクローンのセットに関して構築されたこのモデルは、新たなクローンの「フィンガープリント」を使用することができ、それらの相対的な流加性能を予測することが可能である。最初に、モデルは、既知の流加性能を有するクローンのパネルを使用して生成される(上記例では、12個が使用されたが、どれくらいを使用することができるかに対して制限はない−しかしながら、構築されるモデルの複雑さは、使用するクローンの数により制限される)。続いて、クローンの大きなパネルが、細胞株開発のプロセスで得られる場合、これらは、多重微小環境プレートにおいて「スクリーニング」されて、既知の性能特性を有するクローンから生成されたモデルを使用して、Max MAb力価を予測するか、クローンをランク付けするか、またはそれらの今後の流加性能の能力の可能性に関して少なくとも情報を与えることが可能であり、その結果として、クローンスクリーニングの次の段階へとどのクローンを進ませるかどうかを選択するプロセスを助長する(即ち、小規模流加研究)。
【0063】
本発明に記載する実施形態は、コンピューター装置および/またはコンピューター装置で実施されるプロセスを任意に含む。しかしながら、本発明はまた、コンピュータープログラム、特に本発明を実行させるように適応させたキャリア上または中に保存されたコンピュータープログラムにも及ぶ。プログラムは、部分的にコンパイルされた形態、または本発明による方法の実行における使用に適した任意の他の形態などのソースコード、オブジェクトコード、またはコード中間ソースおよびオブジェクトコードの形態で存在し得る。キャリアは、ROM、例えばCD ROMなどの記憶媒体、または磁記録媒体、例えばメモリースティックまたはハードディスクを含んでもよい。キャリアは、電気もしくは光ケーブルを介して、または無線もしくは他の手段により送られ得る電気または光信号であり得る。
【0064】
本明細書中では、「を含む、を含む(単数形)、を含んでいた、およびを含んでいる」という用語またはそれらの任意の変形、および「を包含する、を包含する(単数形)、を包含していた、およびを包含している」という用語またはそれらの任意の変形は、全体として交換可能であるとみなされ、それらは全て、最も広い考え得る解釈を提供すべきであり、その逆もまた同様である。
【0065】
本発明は、上述の実施形態に限定されず、それらは、本発明の精神を逸脱することなく構成および詳細において多様であり得る。
図1
図2
図3
図4