【課題を解決するための手段】
【0005】
本出願人は、流加培養における産生株細胞クローンの産生力価が、静置マイクロプレート培養における1つまたは複数の機能的に多様な化学的ストレッサー(例えば、阻害剤および毒素)に対するクローンに特異的な組換えタンパク質産生応答の迅速なプロファイリングにより正確に予測することができることを発見した。マイクロプレートプロファイリングを実施するために、固定数のクローンに由来する細胞を、別々のウェルへ個別にロードされた1つまたは複数の化学的細胞ストレッサーを含有する96ウェルマイクロプレートへ分配した。各化学物質は、細胞成長培地中に可溶性であり、マイクロプレートにおいて親CHO細胞増殖を阻害するように予め定められたLD30からLD80の範囲内の濃度で通常利用された。成長期間(即ち、3日間)の静置成長後に、上清MAb力価をHPLCプロテインAアッセイにより測定した。限界希釈クローニングにより単離されるIgG1 MAbを発現する12個のCHO−Sクローンをマイクロプレートプロファイリングに付して、続いて、エルレンマイヤーフラスコにおいて最適流加培養性能(MAb力価[MAb]、50%細胞生存率に対する生存細胞濃度の積分[IVCC
50])の評価を行った。多重線形モデリングを使用して、マイクロプレートにおけるクローン性能が、クローンに特異的なMAb力価マイクロプレートプロファイルを使用してMAb力価(r
2=0.84)を予測することができることを実証した。
【0006】
第1の態様では、本発明は、流加培養においてクエリー産生株細胞の産生力価を予測する、コンピューターで実行される方法であって、
−クエリー産生株細胞を、1つまたは複数の化学的細胞ストレッサーとともにインキュベートするステップと、
−化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下で、クエリー産生株細胞の産生力価応答を決定して、クエリー細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを生成するステップと、
−クエリー細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを、計算モデルに入力するステップであって、計算モデルは、既知の流加産生力価を有する細胞の較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、計算モデルは、細胞に関する予測される流加産生力価を出力するように設定されるステップと
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0007】
別の態様では、本発明は、流加培養において産生株細胞のパネルの相対的な産生力価を予測する、コンピューターで実行される方法であって、
−各産生株細胞を、1つまたは複数の化学的細胞ストレッサーとともにインキュベートするステップと、
−化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下で、各細胞の産生力価応答を決定して、産生株細胞のパネルそれぞれに関する細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを生成するステップと、
−産生株細胞のパネルそれぞれに関する細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを、計算モデルに入力するステップであって、計算モデルは、既知の流加産生力価を有する細胞の較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、計算モデルは、産生株細胞のパネルの予測される相対的な産生力価を出力するように設定されるステップと
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0008】
新たなクローンのバッチが、親細胞株から生成される場合、全てではなく、選ばれた少数がバイオリアクターにおいて高価でかつ時間のかかる成長研究に付されているが、本発明の方法は、多数のクローンを、迅速でかつハイスループットな様式で、予測される流加(組換えタンパク質)産生力価に関して迅速にアッセイして、それに従ってランク付けすることが可能である。これは、どのクローンを、スケールアップ/ミニバイオリアクター研究に進めるかの情報を与える(例えば以下の
図Xに示されるような良好なクローンのみ)。
【0009】
本発明の方法は、予め検証されたクローン(既知の産生力価のクローン)のパネルからのデータ(産生力価応答プロファイル)、およびこのデータに基づく計算モデル、理想的には多重線形計算モデルを用いて、それらの迅速に得られる化学的フィンガープリントに基づいて、クローンの新たなセットの相対的な流加組換え産生力価の予測を可能にする。
【0010】
好ましくは、本方法は、予測される流加産生力価に従って、クローンをランク付けるさらなるステップを含む。
【0011】
本方法は、マイクロタイタープレートを使用して通常実行され、ここで各アッセイは、マイクロタイタープレートのウェル中で実施される。適切には、各クローン細胞の成長は、マルチウェルプレートのウェル中でアッセイされる。多重の化学的細胞ストレッサーが用いられる場合、各クローンは、単一の化学的細胞ストレッサーの存在下でアッセイされる。
【0012】
通常、アッセイは、クローンの試料を、化学的細胞ストレッサーと混合するステップと、混合物を1から4日、通常2から4日、好ましくは60〜80時間、理想的には約3日、インキュベートするステップと、細胞の成長のレベルをアッセイするステップとを含む。適切には、クローン試料は、混合物1ml当たり0.1から1.0x10
6個の細胞の濃度で供給される。通常、バイオリアクターに関連する化学的細胞ストレッサーは、0.5から2xIC50、理想的には約1xIC50の濃度で供給される。
【0013】
適切には、各クローンの成長は、5日未満のインキュベーション期間後にアッセイされる。理想的には、各クローンの成長は、1〜4日のインキュベーションの期間後に、理想的には2日および3日後にアッセイされる。
【0014】
好ましくは、各クローンの成長は、同時にアッセイされる。通常、インキュベーションステップは、静置マイクロプレート培養において実行される。
【0015】
好ましい実施形態では、本発明は、流加培養においてクローン産生株細胞のパネルの相対的な産生(即ち、モノクローナル抗体)力価を予測する、迅速でハイスループットな、コンピューターで実行される方法であって、
−各産生株細胞を、静置マイクロプレート培養において複数の異なる機能的に多様な化学的細胞ストレッサーとともに、4日未満のインキュベーション期間、同時にインキュベートするステップであって、化学的細胞ストレッサーは、アミノ酸輸送阻害剤、細胞周期阻害剤、浸透圧ストレスの供給源、酸化的ストレスの供給源、アポトーシスの誘発剤、代謝的エフェクター、pH改質剤、解糖系の阻害剤、および毒素のうちの少なくとも2個から選択されるステップと、
−インキュベーション期間後に、異なる各化学的細胞ストレッサーの存在下で、各細胞の産生力価応答を決定して、産生株細胞のパネルそれぞれに関する細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを生成するステップと、
−産生株細胞のパネルそれぞれに関する細胞に特異的な産生力価応答プロファイルを、計算モデルに入力するステップであって、計算モデルは、既知の流加産生力価を有する産生株細胞の較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、計算モデルは、産生株細胞のパネルの予測される相対的な流加産生力価を出力するように設定されるステップと
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0016】
化学的細胞ストレッサーは、多重の細胞経路の1つまたは複数を介して細胞成長の低減を引き起こす化学物質である。適切には、複数の化学的細胞ストレッサーは、少なくとも2、3、4、5または6個の機能的に多様な化学的細胞ストレッサー、例えば少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、21、22、23、24または25個の異なるストレッサーを含む。通常、複数の化学的細胞ストレッサーは、アミノ酸輸送阻害剤、細胞周期阻害剤、浸透圧ストレスの供給源、酸化的ストレスの供給源、アポトーシスの誘発剤、代謝的エフェクター、pH改質剤、解糖系の阻害剤、および毒素から選択される。これらは、機能的に多様な化学的細胞ストレッサーの例である。通常、複数の化学的細胞ストレッサーは、アミノ酸輸送阻害剤、細胞周期阻害剤、浸透圧ストレスの供給源、酸化的ストレスの供給源、アポトーシスの誘発剤、代謝的エフェクター、pH改質剤、解糖系の阻害剤、および毒素からなる群の少なくとも4、5、6または7個から選択されるストレッサーを含む。
【0017】
別の態様では、本発明は、少なくとも24、48または96個のウェルを含むマイクロタイタープレート、およびウェルの少なくとも幾つかの中に個々に配置される複数の化学的細胞ストレッサーを提供する。通常、プレートは、少なくとも6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、21、22、23、24または25個の化学的細胞ストレッサーを含む。適切には、各化学的細胞ストレッサーは、プレートの少なくとも2または3個のウェル中に配置される(即ち、二重または三重で)。
【0018】
好ましくは、複数の化学的細胞ストレッサーは、2−アミノビシクロ−(2,2,1)ヘプタン−カルボン酸(BCH)、D−フェニルアラニン、α−(メチルアミノ)イソ酪酸(MeAIB)、酪酸ナトリウム(NaBu)、シクロヘキシミド、塩化アンモニウム、酢酸カドミウム二水和物、塩化コバルト(CoCl2)、塩化ナトリウム(NaCl)、乳酸ナトリウム(Na Lac)、アミノトリアゾール(AMT)、メナジオン重亜硫酸ナトリウム(MSB)、ブチオニンスルホキシミン(BSO)、メルカプトコハク酸(MS)、2,4−ジニトロフェノール(24DNP)、オキサミド酸ナトリウム、2−デオキシグルコース(2dg)、3−ブロモピルビン酸(3−BrPA)、ジクロロ酢酸(DCA)、6−ジアゾ−5−オキソ−l−ノルロイシン(l−don)、バルプロ酸(Val)、オルトバナジン酸ナトリウム(NaV)、クエン酸、FK866、乳酸の群から選択される。
【0019】
別の態様では、本発明は、少なくとも24、48または96個のウェルを含むマイクロタイタープレート、および1つまたは複数の、一般的には複数の、ウェルの少なくとも幾つかの中に個々に配置される化学的細胞ストレッサーを提供し、ここで、複数の異なる化学的細胞ストレッサーが用いられる場合、化学的細胞ストレッサーは、アミノ酸輸送阻害剤、細胞周期阻害剤、浸透圧ストレスの供給源、酸化的ストレスの供給源、アポトーシスの誘発剤、代謝的エフェクター、pH改質剤、解糖系の阻害剤、および毒素からなる群それぞれから選択される少なくとも1個の化学的細胞ストレッサーを含む。
【0020】
一実施形態では、本発明は、少なくとも96個のウェルを含むマイクロタイタープレート、およびプレートのウェル中に個々に配置される少なくとも23個の化学的細胞ストレッサーを提供し、ここで、化学的細胞ストレッサーは、2−アミノビシクロ−(2,2,1)ヘプタン−カルボン酸(BCH)、D−フェニルアラニン、α−(メチルアミノ)イソ酪酸(MeAIB)、酪酸ナトリウム(NaBu)、シクロヘキシミド、塩化アンモニウム、酢酸カドミウム二水和物、塩化コバルト(CoCl2)、塩化ナトリウム(NaCl)、乳酸ナトリウム(Na Lac)、アミノトリアゾール(AMT)、メナジオン重亜硫酸ナトリウム(MSB)、ブチオニンスルホキシミン(BSO)、メルカプトコハク酸(MS)、2,4−ジニトロフェノール(24DNP)、オキサミド酸ナトリウム、2−デオキシグルコース(2dg)、3−ブロモピルビン酸(3−BrPA)、ジクロロ酢酸(DCA)、6−ジアゾ−5−オキソ−l−ノルロイシン(l−don)、バルプロ酸(Val)、オルトバナジン酸ナトリウム(NaV)、クエン酸、FK866、乳酸から本質的に構成される。
【0021】
別の態様では、本発明は、本発明の方法を実施するのに適しており、(a)本発明のマイクロタイタープレート、(b)マイクロタイタープレートリーダー、および(c)(i)化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下および非存在下で、各クローンの産生力価値を決定システム(例えば、HPLC)から受信すること、(ii)化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下で、各クローンに関する正規化された産生力価値を算出すること、(ii)化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下で、各クローンに関する正規化された産生力価値を含むクローンに特異的な産生力価応答プロファイルを、計算モデルに入力すること(ここで、計算モデルは、既知の産生力価値を有するクローンの較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、計算モデルは、各クローンに関する予測される流加産生力価値を出力する(および任意に、クローン細胞のパネルの相対的な流加産生力価値を予測する)ように設定される)、および(iii)各クローンに関する予測される流加産生力価値を出力する(および任意に、クローン細胞のパネルの相対的な流加産生力価値を予測する)ことに関するプログラム指示書を含むコンピュータープログラムを含むキットを提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、単一の親宿主細胞集団に由来するクローン産生株細胞のパネルの相対的な流加産生力価を予測する方法を実施するのに適しており、(a)本発明のマイクロタイタープレート、(b)マイクロタイタープレートリーダー、および(c)(i)1つまたは複数の化学的細胞ストレッサーの存在下および非存在下で成長させた各クローンの産生力価値を適切な機械から受信すること、(ii)化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下で、各クローンに関する正規化された産生力価値を算出すること、(ii)化学的細胞ストレッサーまたは各化学的細胞ストレッサーの存在下で、各クローンに関する正規化された産生力価値を含むクローンに特異的な産生力価応答プロファイルを、計算モデルに入力すること(ここで、計算プログラムは、既知の産生力価値を有するクローンの較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、計算モデルは、各クローンに関する予測される流加産生力価値を出力して、クローン細胞のパネルの相対的な流加産生力価値を予測するように設定される)、および(iii)クローン細胞のパネルの予測される相対的な流加産生力価値を出力することに関するプログラム指示書を含むコンピュータープログラムを含むキットを提供する。
【0023】
クローンの産生力価を決定するのに用いられる決定システムは、任意の適切な機械、例えば、標的組換えタンパク質を定量的にアッセイするように適応されたHPLCまたは質量分析計であり得る。
【0024】
本発明はまた、単一の細胞株に由来するクローン産生株細胞の流加産生力価を予測する方法を実施するための、コンピューターで実行されるシステムであって、
−1つまたは複数の異なる化学的細胞ストレッサー(通常、複数の異なる化学的細胞ストレッサー)の存在下および非存在下で、クローンの産生力価をアッセイして、1つまたは複数のストレスが加えられた微小環境におけるクローンに関する正規化された産生力価応答値を提供するための決定システムと、
−ストレスが加えられた微小環境または各ストレスが加えられた微小環境におけるクローンに関する正規化された産生力価応答値を含むクローンに特異的な産生力価応答プロファイルを処理するように適応された計算モデルであって、既知の流加産生力価応答プロファイルを有するクローンの較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、クローンに関する予測される流加産生力価値を出力するように設定される計算モデルと、
−クローン産生株細胞に関する予測される流加産生力価を出力するための手段と
を含むことを特徴とするシステムを提供する。
【0025】
本発明はまた、単一の細胞株に由来するクローン産生株細胞のパネルの相対的な流加産生力価を予測する方法を実施するためのコンピューターで実行されるシステムであって、
−複数の異なる化学的細胞ストレッサーの存在下および非存在下で、各クローンの産生力価をアッセイして、複数のストレスが加えられた微小環境における各クローンに関する正規化された産生力価応答値を提供するための決定システムと、
−ストレスが加えられた微小環境それぞれにおける各クローンに関する正規化された産生力価応答値を含むクローンに特異的な産生力価応答プロファイルを処理するように適応された計算モデルであって、既知の流加産生力価応答プロファイルを有するクローンの較正セットから得られる産生力価応答プロファイルから生成され、各クローンに関する予測される流加産生力価値および/またはクローン細胞のパネルの予測される相対的な流加産生力価を出力するように設定される計算モデルと、
−(i)パネルにおける1つまたは複数のクローンに関する予測される流加産生力価、または(ii)クローン細胞のパネルの予測される相対的な流加性能、または(iii)(i)および(ii)の両方を出力するための手段と
を含むことを特徴とするシステムを提供する。
【0026】
通常、決定システムは、HPLCを含むが、標的タンパク質に関して定量的にアッセイするように適応された他のシステム、例えば定量的ELISAを用いてもよい。
【0027】
適切には、計算モデルは、多重線形計算モデルである。理想的には、多重線形計算モデルは、最小二乗解を適切に用いて、パラメーター(即ち、細胞に特異的な産生力価応答のレベル)を観察される流加産生力価に適合させる。
【0028】
本発明はまた、コンピューター上で実行されると、コンピューターに、本発明により単一の細胞株に由来するクローン細胞のパネルの相対的な流加産生力価を予測する方法を実施させるコンピュータープログラムを提供する。
【0029】
本発明はまた、本発明によるコンピュータープログラムを保存するコンピュータープログラム読み取り媒体に関する。