特許第6561081号(P6561081)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6561081フラックスフリーろう付用のブレージングシート、フラックスフリーろう付方法および熱交換器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561081
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】フラックスフリーろう付用のブレージングシート、フラックスフリーろう付方法および熱交換器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/28 20060101AFI20190805BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20190805BHJP
   B23K 35/14 20060101ALI20190805BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20190805BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20190805BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20190805BHJP
   B23K 31/02 20060101ALI20190805BHJP
   F28F 9/18 20060101ALI20190805BHJP
   B23K 101/14 20060101ALN20190805BHJP
   B23K 103/10 20060101ALN20190805BHJP
【FI】
   B23K35/28 310B
   B23K35/22 310E
   B23K35/14 F
   C22C21/00 D
   C22C21/00 E
   C22C21/00 J
   B23K1/00 S
   B23K1/00 330L
   B23K1/19 F
   B23K1/19 G
   B23K31/02 310B
   F28F9/18
   B23K101:14
   B23K103:10
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-30181(P2017-30181)
(22)【出願日】2017年2月21日
(65)【公開番号】特開2018-103260(P2018-103260A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2018年2月8日
(31)【優先権主張番号】特願2016-253307(P2016-253307)
(32)【優先日】2016年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀幸
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−155955(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/000666(WO,A1)
【文献】 特許第4547032(JP,B1)
【文献】 特表2015−528852(JP,A)
【文献】 特開2014−037576(JP,A)
【文献】 特許第6055573(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00 − 35/40
B23K 1/00 − 1/20
B23K 31/02
C22C 21/00 − 21/18
F28F 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材の片面または両面に、質量%で、2〜13%Siを含有するAl−Si系合金からなる最表面ろう材層と、質量%で、4〜13%のSiおよび0.1〜5.0%のMgを含有するAl−Si−Mg系合金からなる中間ろう材層がクラッドされており、前記中間ろう材層と前記最表面層ろう材の液相線温度差が50℃未満であり、さらに、前記最表面ろう材層に含まれるSi粒子が、表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、1.75μm以上の径のものの数の割合が10%以上であり、かつ、前記中間層ろう材層に含まれるSi粒子が、ろう材層の断面観察において、円相当径0.25μm以上のSi粒子が10000μm当たり3,000個未満であることを特徴とするフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項2】
前記最表面ろう材が質量%で、2%以上4%未満のSiを含有するAl−Si系合金からなることを特徴とする請求項1に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項3】
前記最表面ろう材が質量%で、0.1〜1.0%のFeを含有するAl−Si系合金からなることを特徴とする請求項1または2に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項4】
前記最表面ろう材層と中間ろう材層のクラッド率が、ブレージングシート全厚みに対して片面当りそれぞれ1〜30%であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項5】
前記中間ろう材層のろう材に、質量%で、0.01〜0.5%のBiを含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項6】
前記最表面ろう材層のろう材に、質量%で、0.01〜0.5%のBiを含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシート。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシートを用いて、酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気中で、フラックスを用いることなくアルミニウム部材同士の接合を行うことを特徴とするアルミニウム部材のフラックスフリーろう付方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載のフラックスフリーろう付用ブレージングシートを用いて、酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気中で、フラックスを用いることなくアルミニウム部材同士の接合を行うことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フラックスフリーでアルミニウム合金部材のろう付に用いられるフラックスフリーろう付用のブレージングシート、フラックスフリーろう付方法および熱交換器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用熱交換器をはじめとしたろう付分野において、Al−Si−Mg合金ろう材を用いたフラックスフリーの工法が提案されている。Al−Si−Mg合金ろう材を用いるフラックスフリーろう付では、溶融して活性となったろう材中のMgが接合部表面のAl酸化皮膜(Al)を還元分解することで接合が可能となる。閉塞的な面接合継手などでは、Mgによる酸化皮膜の分解作用により、ろう材を有するブレージングシートを組合せた継手や、ブレージングシートとろう材を有さない被接合部材(ベア材)を組合せた継手で良好な接合状態が得られる。
しかし、雰囲気の影響を受け易い開放部を有する継手形状では、Mg添加ろう材の表面でMgO皮膜が成長し易くなるが、MgO皮膜は分解され難い安定な酸化皮膜であるため接合が著しく阻害される。このことから、開放部を有する継手で安定した接合状態が得られるフラックスフリーろう付方法が強く望まれている。
【0003】
上記課題に対し、ろう材表面でMgO皮膜が成長することを抑制するため、最表面層をMg無添加合金とし、中間層にMgを添加したろう材を適用することで接合状態が改善する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−155955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1で提案されている技術では、中間層はMg添加により最表面層よりも固相線温度が低くなるため、ろう付昇温過程では最表面層よりも早く液相ろうが生成し、さらに、Si添加量が多くなるほど液相量(液相の割合)が多くなる。最表面層が溶融する前に溶け出した中間層ろう材は、材料端部などから流出し、接合部に流入する有効な流動ろうとして機能しなくなる課題がある。さらに、コルゲートフィンなどの実用的な継手形状に適用した場合に必ずしも十分な接合が得られないという課題もある。
【0006】
発明者らは、ろう付昇温過程での中間層と最表面層の液相ろうの生成挙動に着目してろう付前の中間層ろう材中のSi粒子分布を最適化し、さらに、接合部表面の酸化皮膜の状態に着目して最表面ろう材のSi粒子分布を最適化することで上記課題を克服した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明のフラックスフリーろう付用のブレージングシートのうち、第1の形態は、芯材の片面または両面に、質量%で、2〜13%Siを含有するAl−Si系合金からなる最表面ろう材層と、質量%で、4〜13%のSiおよび0.1〜5.0%のMgを含有するAl−Si−Mg系合金からなる中間ろう材層がクラッドされており、前記中間ろう材層と前記最表面層ろう材の液相線温度差が50℃未満であり、さらに、前記最表面ろう材層に含まれるSi粒子が、表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、1.75μm以上の径のものの数の割合が10%以上であり、かつ、前記中間層ろう材層に含まれるSi粒子が、ろう材層の断面観察において、円相当径0.25μm以上のSi粒子が10000μm当たり3,000個未満であることを特徴とする。
【0008】
他の形態のフラックスフリーろう付用のブレージングシートの発明は、前記形態の本発明において、前記最表面ろう材が質量%で、2%以上4%未満のSiを含有するAl−Si系合金からなることを特徴とする。
【0009】
他の形態のフラックスフリーろう付用のブレージングシートの発明は、前記形態の本発明において、前記最表面ろう材が質量%で、0.1〜1.0%のFeを含有するAl−Si系合金からなることを特徴とする。
【0011】
他の形態のフラックスフリーろう付用のブレージングシートの発明は、前記形態の本発明において、前記最表面ろう材層と中間ろう材層のクラッド率が、ブレージングシート全厚みに対して片面当りそれぞれ1〜30%であることを特徴とする。
【0012】
他の形態のフラックスフリーろう付用のブレージングシートの発明は、前記形態の本発明において、前記中間ろう材層のろう材に、質量%で、0.01〜0.5%のBiを含有することを特徴とする。
【0013】
他の形態のフラックスフリーろう付用のブレージングシートの発明は、前記形態の本発明において、前記最表面ろう材層のろう材に、質量%で、0.01〜0.5%のBiを含有することを特徴とする。
【0014】
本発明のアルミニウム部材のフラックスフリーろう付方法は、前記形態のフラックスフリーろう付用ブレージングシートを用いて、酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気中で、フラックスを用いることなくアルミニウム部材同士の接合を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明による熱交換器の製造方法は、前記形態のフラックスフリーろう付用ブレージングシートを用いて、酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気中で、フラックスを用いることなくアルミニウム部材同士の接合を行うことを特徴とする。
【0016】
次に、本願発明で規定する内容について説明する。なお、成分の説明における含有量はいずれも質量%で示される。
【0017】
最表面ろう材層ろう材組成
Si:2〜13%
最表面ろう材層では、ろう付時にSiによって溶融ろうを形成し、接合部のフィレットを形成する。Si含有量が不足すると、フィレットを形成するための溶融ろうが不足する。また、中間層からのMgの拡散が遅れ、十分な接合が得られない。一方、Si含有量が過剰になると、効果が飽和する。また、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。
これらのため、最表面ろう材層のろう材では、Si含有量を2〜13%とする。また、同様の理由でSi含有量の下限を3%、上限を11%とするのがさらに望ましい。
【0018】
さらに、大型製品や内部構造が複雑な熱交換器では、ろう付時の製品内温度ばらつきによりろう流動が不均一になる場合があるが、厚みが薄く到達温度が高くなり易い接合部材などでは、ろう流動を抑制するため、フィレット形成に必要なろう材量を中間層ろう材のSi量で確保し、最表面ろう材のSi量を低くすることが有効である。この場合は、最表面ろう材のSi量を2%以上4%未満とする。2%未満では最表層ろう材が十分に溶融せず中間層ろう材からのMg拡散が遅れ接合不良を生じ易く、4%以上ではろう流動の抑制効果が不十分となる。
【0019】
Bi:0.05〜0.5%
Biは、ろう付昇温過程で材料表面に濃縮し、緻密な酸化皮膜の成長を抑制するので所望により含有する。Biの含有量が不足すると効果が不十分であり、Biを過剰に含有すると、効果が飽和する。これらのため、Biの含有量を0.05〜0.5%とするのが望ましい。また、同様の理由で、Biの下限を0.1%とし、上限を0.2%とするのが一層望ましい。
【0020】
Fe:0.1〜1.0%
FeはAlに殆ど固溶せず、最表面ろう材中で単体またはAl、Mn、Siなどとの金属間化合物として存在する。材料表面に存在するこれらの粒子は、接合部表面の酸化皮膜の欠陥部となるため、接合を阻害する酸化皮膜の成長を抑制することや、中間層ろう材から拡散してきたMgがAlを分解する際に酸化皮膜が破壊され易くなる効果をもつ。0.1%未満では効果が不十分となり、1.0%以上では効果が飽和し、さらに多くなるとろう材層が機械的に脆くなり圧延性が低下するため、下限を0.1%、上限を1.0%とする。
【0021】
中間ろう材層ろう材組成
Si:4〜13%
Siは、ろう付時に中間層中に液相を生成し、中間層に添加されたMgの最表面層への拡散を促進する。Si含有量が不足すると効果が不十分であり、Siを過剰に含有すると、過剰な液相が材料端部などから流出し、中間層中のMgが消耗するため、十分な接合状態が得られなくなる。
これらの点でSi含有量を4〜13%とするのが望ましい。
なお、同様の理由で、Si含有量の下限を5%、上限を11%とするのが一層望ましい。
【0022】
Mg:0.1〜5.0%
Mgは、Al酸化皮膜(Al)を還元分解する。ただし、Mg含有量が不足すると、効果が不十分であり、Mg含有量が過剰になると、効果が飽和するとともに、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。これらのため、Mg含有量は、0.1〜5.0%とする。なお、同様の理由で、下限を0.3%、上限を3.0%とするのが望ましく、さらに、下限を0.8%、上限を2.5%とするのがより望ましい。
【0023】
Bi:0.01〜0.5%
Biは、ろう付昇温過程で材料表面に濃縮し、緻密な酸化皮膜の成長を抑制するので所望により含有させる。Bi含有量が不足すると効果が不十分であり、Bi含有量が過剰になると効果が飽和する。これらのため、Bi含有量は0.01〜0.5%とするのが望ましい。なお、同様の理由で下限を0.02%、上限を0.2%とするのが望ましい。
【0024】
ろう材の液相線温度
中間層ろう材は、Mg添加により最表面のAl−Siろう材よりも固相線温度が低いため、ろう付昇温過程では最表面ろう材よりも早く溶融が始まり、液相線温度に近づくほど液相率が高くなり最表面ろう材へのMg拡散量が増加する。しかし、中間層ろう材の液相線温度が最表面ろう材よりも低すぎると、材料端部などから中間層ろう材が流出し、材料表面のAl皮膜を分解するのに十分なMg量が不足することや、接合部に流入する有効な流動ろうが不足する。また、逆に最表面ろう材の液相線温度が中間層ろう材の液相線温度よりも低すぎると最表面ろう材表面のAl皮膜を分解するのに十分なMg量が中間層ろう材から拡散する前に最表面ろう材の液相率が高まり活性となるため、最表面の再酸化や不安定なろう流動によりろう付性が低下する。このため、中間層ろう材と最表面ろう材の液相線温度差は、50℃未満とすることが望ましい。さらに、同様の理由で35℃未満とすることがより望ましい。
【0025】
ろう材クラッド率:1〜30%
最表面ろう材層と中間ろう材層のクラッド率をブレージングシート全厚みに対して片面当りそれぞれ1〜30%とするのが望ましい。クラッド率が小さすぎると熱延によるクラッド貼合わせ時に長手方向のクラッド率がばらつき易くなり、クラッド率が大きすぎるとクラッド貼合わせでクラッド界面の接合状態が不安定になり十分な製造品質が確保できない問題がある。また、ろう付後製品の構造強度や寸法精度を確保するため、芯材のクラッド率は50%以上を確保することが望ましい。
【0026】
そして、本発明を実施するにあたっては、最表面層ろう材表面に比較的粗大なSi粒子が存在していることが好ましい。通常、アルミニウム材料表面には緻密なAl等の酸化皮膜が存在し、ろう付け熱処理過程ではこれがさらに成長し厚膜となる。酸化皮膜の厚みが増すほど、酸化皮膜の破壊作用を阻害する傾向が強くなるのが一般的な見解である。本発明では、最表面層ろう材表面に粗大なSi粒子が存在することで、粗大Si粒子表面にはアルミニウムの緻密な酸化皮膜が成長せず、この部位がアルミニウム材料表面の酸化皮膜欠陥として働く。すなわち、アルミニウム材料表面の酸化皮膜がろう付け熱処理中に厚膜となっても、Si粒子部分からろう材の染み出し等が発生し、この部位を起点に酸化皮膜破壊作用が進んでいくものと考えられる。ここで言うSi粒子とは、組成上Si単体成分によるSi粒子、及び、例えば、Fe−Si系化合物や、Fe−Siを主成分とするAl−Fe−Si系の金属間化合物等をも含むものとする。本発明の説明においては、これらを便宜的にSi粒子と表記する。具体的には、ろう材表面のSi粒子を円相当径でみなし、0.8μm以上のSi粒子数をカウントした場合に、1.75μm以上のものの数の割合が10%以上存在すると、この効果が十分に得られる。本発明においてSi粒子の密度には言及していないが、本発明で用いる合金組成と製造条件範囲、及び材料の仕上げ板厚寸法によって、10000μm視野における0.8μm以上のSi粒子数は数十〜数千個の範囲に及ぶと考えられ、その規定は難しいことから、本発明においては、このSi粒子数範囲で、1.75μm径以上のものの数の割合が10%以上存在すれば、効果を得られることを確認し上記規定を望ましいものとした。
【0027】
さらに、本発明を実施するにあたっては、中間層ろう材中のSi粒子が細かく分散している状態が好ましい。本発明では、ろう付昇温過程でMgを添加した中間層ろう材が固相線温度に達すると、MgSi粒子などを起点に溶融が始まり、最表面ろう材層にMgの拡散が進み易くなるが、中間層ろう材中のSi粒子が粗大で粗に分布していると、最表面ろう材へのMgの拡散が不均一となるため、最表面ろう材表面でのMgによる酸化皮膜(Al等)の分解作用も不均一となり接合状態が不安定となる。ここで言うSi粒子とは、組成上Si単体成分によるSi粒子、及び、例えば、MgSi化合物等の金属間化合物も含むものとする。本発明の説明においては、これらを便宜的にSi粒子と表記する。具体的には、中間層ろう材断面から見たSi粒子を円相当径でみなし、0.25μm以上のSi粒子が10000μm当たり3,000個未満とすることにより効果が得られる。Si粒子は、上記を満たす範囲で粒子径がより細かく密に分散していることが望ましい。
なお、Si粒子を細かくする手段としては、鋳造時の超音波印加や凝固速度制御(0.1〜500℃/sec)、焼鈍時の温度条件により調整することや、ろう材中Si粒子の微細化効果があるSrなどを添加することが挙げられるが、その方法が限定されるものではない。
【0028】
酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気
上記ブレージングシートは、酸素濃度100ppm以下の非酸化性ガス雰囲気において、フラックスフリーでろう付を行うことができる。
ろう付炉内雰囲気の圧力は常圧を基本とするが、例えば、製品内部のガス置換効率を向上させるためにろう材溶融前の温度域で100kPa〜0.1Pa程度の中低真空とすることや、炉内への外気(大気)混入を抑制するために大気圧よりも5〜100Pa程度陽圧としてもよい。
非酸化性ガス雰囲気としては、窒素ガス、或いは還元性ガスもしくはこれらの混合ガスが挙げられる。使用する置換ガスの種類としては、アルミニウム材の接合を得るにあたり特に限定されるものではないが、コストの観点より、窒素ガス、不活性ガスとしてはアルゴン、還元性ガスとしては水素、アンモニアを用いることが好適である。雰囲気中の酸素濃度管理範囲としては、100ppm以下が望ましい。100ppm超では被ろう付部材の再酸化が進みやすくなる。同様の理由で30ppm以下とするのが望ましく、さらに、10ppm以下とするのが一層望ましい。
【発明の効果】
【0029】
すなわち、本発明によれば、最表面をMg無添加ろう材とし、中間層をMg添加ろう材とすることで、ろう付昇温過程の材料表面でのMgO皮膜成長を抑制しつつ、さらに、各ろう材層のSi粒子分布を最適化することでろう材溶融時には、Al酸化皮膜(Al)を分解するMgを効率的に材料表面に供給することができるため、接合部表面で溶融ろう材が濡れ拡がり易くなり、開放部を有する継手においても良好な接合状態が得られる。
【0030】
本発明により実用的な酸素濃度管理下で開放部を有する継手で良好な接合状態が得られるため、ラジエータ、コンデンサ、エバポレータ、ヒータコア、インタークーラなどのアウターフィンやチューブ根付部において従来ろう付方法と同等以上の接合部強度や耐久性が確保される。
また、上記実施形態では、本発明の適用用途として自動車用熱交換器について説明したが、自動車用以外の熱交換器でもよく、さらに本発明の用途が熱交換器に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態におけるフラックスフリーろう付用のブレージングシートを示す図である。
図2】本発明の一実施形態におけるアルミニウム製自動車用熱交換器を示す斜視図である。
図3】本発明の実施例におけるろう付評価モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
ろう材用アルミニウム合金のうち、最表面層用のものとして、質量%で、Si:2〜13%を含有し、所望により、Fe:0.1〜1.0、Bi:0.01〜0.5%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成に調製し、中間層用のものとして、質量%で、Si:4〜13%、Mg:0.1〜5.0%を含有し、所望により、Bi:0.01〜0.5%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成に調製する。また、ろう材用アルミニウム合金としては、その他に、質量%で、Cu:0.05〜2.0、Mn:0.05〜2.5、Ca:0.001〜0.5、Li:0.001〜0.5、Be:0.001〜0.1などを含有してもよい。
【0033】
また、芯材用アルミニウム合金として、質量%で、Mn:0.1〜3.0%、Si:0.1〜1.2%、Cu:0.1〜3.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成に調製する。芯材用アルミニウム合金には、その他に、Fe、Mg、Biなどを既知の量で含有してもよい。
【0034】
本発明としては、芯材用アルミニウム合金の組成は特に限定されるものではないが、MgSiなどを微細析出させることで材料の大幅な高強度化が図れるため、MgとSiを積極添加した合金を好適に用いることができる。従来のフッ化物系フラックスを用いるろう付方法は、フラックスがMgと反応して高融点のフッ化Mgを生成し不活性化するためろう付性が低下することや、この反応によりMgを消費するため高強度Mg添加合金に適用することが難しかったが、フラックスフリーろう付では高強度Mg添加合金が利用可能となる。
なお、Znが添加されたアルミニウム合金を犠牲防食層として何れかのクラッド層間、または、ろう材がクラッドされていない芯材表面にクラッドしてもよい。
これらの合金に対し、熱間圧延、冷間圧延を行って芯材の一方または両方の面に、中間ろう材層と最表面ろう材層が重ね合わされて接合されたクラッド材を得る。
【0035】
上記工程を経ることにより、図1に示すように、アルミニウム合金芯材2の両面にアルミニウム合金ろう材3がクラッドされた熱交換器用のブレージングシート1が得られる。アルミニウム合金芯材2は、本発明のアルミニウム合金部材に相当する。アルミニウム合金ろう材3は、中間ろう材層3aと最表面ろう材層3bとからなる。
なお、各中間ろう材層3a、最表面ろう材層3bは、ブレージングシート1全厚に対し、1〜30%の厚さを有している。
ブレージングシート1は、熱交換器のチューブ、ヘッダ、タンク、アウターフィン、インナーフィンなどとして用いることができる。
一方、ろう付対象部材として、例えば、質量%で、Mg:0.1〜0.8%、Si:0.1〜1.2%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金を調製し、適宜形状に加工される。ろう付対象部材は、本発明のアルミニウム部材に相当する。なお、ろう付対象部材の組成は本発明としては特に限定されるものではなく、適宜組成のものを用いることができる。
【0036】
上記ブレージングシート1は、上記最表面ろう材層3bが最表面に位置しており、表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下で、前記表面酸化皮膜中におけるMgO皮膜の平均膜厚が2nm以下に調整されているのが望ましい。
また、ろう付対象部材は、少なくとも接合面において表面酸化皮膜の平均膜厚が15nm以下かつ皮膜中のMgO皮膜厚さが2nm以下に調整されているのが望ましい。
上記表面酸化皮膜は、鋳造後の均質化、熱間圧延前の均熱、冷間圧延後の焼鈍等、各種熱処理時の温度と時間によって調整することができる。
【0037】
上記ブレージングシート1とろう付対象部材とは、フラックスフリーで、アルミニウム合金芯材2とろう付対象部材との間に、中間ろう材層3aと、最表面ろう材層3bが介在するように配置する。これらを組み付けてろう付用アルミニウム合金組み付け体とする。したがって、ブレージングシート1は、本発明のフラックスフリーろう付用のブレージングシートに相当する。
【0038】
上記組み付け体は、常圧下の非酸化性雰囲気とされた加熱炉内に配置される。非酸化性ガスには窒素ガス、あるいは、アルゴンなどの不活性ガス、または、水素、アンモニアなどの還元性ガス、あるいはこれらの混合ガスを用いて構成することができる。ろう付炉内雰囲気の圧力は常圧を基本とするが、例えば、製品内部のガス置換効率を向上させるためにろう材溶融前の温度域で100kPa〜0.1Pa程度の中低真空とすることや、炉内への外気(大気)混入を抑制するために大気圧よりも5〜100Pa程度陽圧としてもよい。加熱炉は密閉した空間を有することを必要とせず、ろう付材の搬入口、搬出口を有するトンネル型であってもよい。このような加熱炉でも、不活性ガスを炉内に吹き出し続けることで非酸化性が維持される。該非酸化性雰囲気としては、酸素濃度として体積比で100ppm以下が望ましい。
【0039】
上記雰囲気下で、例えば、昇温速度10〜200℃/minで加熱して、組み付け体の到達温度が580〜620℃となる熱処理条件にてろう付接合を行う。
ろう付条件において、昇温速度が速くなるほどろう付時間が短くなるため、材料表面の酸化皮膜成長が抑制されてろう付性が向上する。到達温度は少なくともろう材の固相線温度以上とすればろう付可能であるが、液相線温度に近づけることで流動ろう材が増加し、開放部を有する継手で良好な接合状態が得られ易くなる。ただし、あまり高温にするとろう浸食が進み易く、ろう付後の組付け体の構造寸法精度が低下するため好ましくない。
【0040】
図2は、上記ブレージングシート1を用いてフィン5を形成し、ろう付け対象材としてアルミニウム合金製のチューブ6を用いたアルミニウム製自動車用熱交換器4を示している。フィン5、チューブ6を、補強材7、ヘッダプレート8と組み込んで、フラックスフリーろう付けによってアルミニウム製自動車用熱交換器4を得ている。
【実施例1】
【0041】
表1、表2に示す組成(残部Alと不可避不純物)のろう材と、JISA3003の芯材とをクラッドしたアルミニウム材を用意した。
アルミニウムクラッド材は、各種組成ろう材をクラッド率5%とし、H14相当調質の0.25mm厚に仕上げた。また、ろう付対象部材としてJISA3005合金、H14のアルミニウムベア材(0.1mm厚)のコルゲートフィン11を用意した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
前記アルミニウムクラッド材を用いて幅20mmのチューブ12を製作し、該チューブ12とコルゲートフィン11とを組み合わせ、ろう付評価モデルとして図3(a)に示すようなチューブ15段、長さ300mmのコア10とした。前記コアを、窒素雰囲気中(酸素含有量50ppm)のろう付炉にて、600℃まで加熱し、そのろう付状態を評価した。
【0045】
○ろう付性
・接合率
以下式にて接合率を求め、各試料間の優劣を評価した。
フィン接合率=(フィンとチューブの総ろう付長さ/フィンとチューブの総接触長さ)×100
判定は以下の基準によって行い、その結果を表3、4に示した。
ろう付後のフィン接合率 ◎:98%以上、○:90%以上98%未満、△:80%以上90%未満、×:80%未満
【0046】
・接合部幅評価
ろう付接合状態は上記接合率のみではなく、本発明の目的であるフィレット形成能の向上を確認するため、図3(b)に示したような接合部13の幅Wを各試料で20点計測し、その平均値をもって優劣を評価した。判定は以下の基準とし、表3、4に示した。
◎:0.8mm以上、○:0.7mm以上0.8mm未満、△:0.6mm以上0.7mm未満、×:0.6mm未満
【0047】
・最表面ろう材層Si粒子数割合
作製したクラッド材について、表面を0.1μmの砥粒で鏡面処理し、表面方向10000μm(100μm角)の観察視野において、EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いた全自動粒子解析を行った。測定した0.8μm以上の総粒子数中で、1.75μm以上のものの割合を表3、4に示した。
【0048】
・中間層ろう材Si粒子数
作製したクラッド材を切断し、切断面を0.1μmの砥粒で鏡面処理し、中間ろう材層10000μm(10×1000μm)の観察視野において、EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いた全自動粒子解析を行った。測定した0.25μm以上の総粒子数を表3、4に示した。
【0049】
実施例の何れも良好なろう付性を示したのに対し、比較例では十分な接合が得られなかった。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
以上、本発明について、上記実施形態および実施例に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態および実施例の内容に限定されるものではなく、本願発明を逸脱しない限りは、上記実施形態および実施例の内容を適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明を用いることで自動車用熱交換器のほか、鉄道車両、航空機、インバータやCPUなどの電子部品、各種プラント、産業や家電空調などに用いられるアルミニウム製の熱交換器、冷却器、ヒートシンク、放熱器などがフラックスを使用することなくろう付接合可能となる。本発明ではフラックスを使用しないため、ろう付後にフラックス残渣による表面品質や表面化成処理性の低下がなく、また、残渣起因のコンタミによる電気素子の不具合を生じない。
【符号の説明】
【0054】
1 ブレージングシート
2 アルミニウム合金芯材
3 アルミニウム合金ろう材
3a 中間ろう材層
3b 最表面ろう材層
図1
図2
図3