【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.研究集会の開催日 平成28年9月7日 研究集会名:化学工学会第48回秋季大会 2.刊行物の刊行日 平成28年9月6日 刊行物名:「生物接触ろ過過程におけるバイオポリマーの挙動解析」を保管したUSBメモリー(上記1での発表内容) 3.ウェブサイトでの公開日 平成28年8月23日 掲載アドレス:http://www3.scej.org/meeting/48f/(上記1での発表内容) 4.研究集会の開催日 平成28年9月8日 研究集会名:化学工学会第48回秋季大会 5.刊行物の刊行日 平成28年9月6日 刊行物名:「生物接触ろ過の季節変動とMF膜ファウリングに及ぼす影響」を保管したUSBメモリー(上記4での発表内容) 6.ウェブサイトでの公開日 平成28年8月23日 掲載アドレス:http://www3.scej.org/meeting/48f/(上記4での発表内容) 7.研究集会の開催日 平成28年11月11日 研究集会名:平成28年度全国会議(第89回総会・水道研究発表会) 8.刊行物の刊行日 平成28年10月6日 刊行物名:平成28年度全国会議(水道研究発表会)講演集
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、有機物を含む被処理水を膜分離する水処理設備として、前記被処理水を膜分離する膜分離部と、前記膜分離部の上流側に配され、膜分離前の前記被処理水中の有機物を前処理する前処理部と、を備えるものが知られている。該水処理装置の前処理部においては、膜分離部の分離膜における有機物由来の膜閉塞(以下、ファウリングともいう)を抑制するための前処理が行われている。有機物由来のファウリングは、膜分離部の分離膜の孔の内部に、被処理水中の有機物が入り込むことによって孔が目詰まりし、閉塞することにより生じると考えられている。
このような水処理設備としては、例えば、特許文献1および2に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1に記載の水処理設備は、前処理部として、有機物を含む被処理水中のTOCを測定するTOC測定手段と、該TOC測定手段によって測定された被処理水中のTOCに応じて被処理水中の有機物を酸化分解する酸化剤を添加する酸化剤添加手段と、酸化剤添加後の被処理水を通水させたときに、該被処理水中の有機物を酸化分解する酸化処理層とを備え、膜分離部として、有機物が酸化分解された被処理水を膜分離する分離膜を備えている。
特許文献1に記載の水処理設備の前処理部においては、有機物を低分子化し、該有機物を分離膜の孔を透過させることにより、分離膜における有機物由来のファウリングを抑制している。
【0004】
特許文献2に記載の水処理設備は、膜分離部として、逆浸透膜と、該逆浸透膜の濃縮水のTOCを測定するTOC測定手段とを備え、前処理部として、膜分離部のTOC測定手段によって測定された濃縮水のTOCが所定値以上になったときに、有機物を含む被処理水に、有機物を栄養源として繁殖した微生物(バクテリア、カビなど)に由来するスライムの形成を抑制するスライム抑制剤(次亜塩素酸など)を供給するスライム抑制剤供給手段とを備えている。
特許文献2に記載の水処理設備の前処理部においては、被処理水にスライム抑制剤を供給し、被処理水中でのスライムの形成を抑制することによって、逆浸透膜における有機物由来のファウリングを抑制している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記各特許文献に記載の水処理設備のように、有機物を含む被処理水において、該被処理水中のTOC値を基準として、膜分離部におけるファウリングを抑制すべく、膜分離前の被処理水に酸化剤やスライム抑制剤を添加した場合、TOC値が同じであっても、ファウリングが発生することもあれば、ファウリングが発生しないこともあり、ファウリングの発生にはバラツキがあった。
そのため、TOC値を基準として、膜分離部におけるファウリングの発生を適切に抑制することは難しかった。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、膜分離部におけるファウリングの発生を適切に抑制しつつ、被処理水を膜分離することができる水処理設備および水処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一般に、有機物を含む被処理水においては、該有機物の一部としてバイオポリマーが含まれている。
そして、本発明者が鋭意検討したところ、有機物を含む被処理水中のバイオポリマー濃度が所定濃度以上になったときに、膜分離におけるファウリングの発生が顕著になることが判明した。
【0009】
すなわち、本発明に係る水処理設備は、有機物を含む被処理水を膜分離する膜分離部と、前記膜分離部の上流側に配され、前記被処理水中のバイオポリマー濃度を所定閾値以下となるように調整する前処理部と、を備え、前記所定閾値は、0μg/Lより大きく17μg/L以下の範囲のいずれかの値に設定されている。
【0010】
斯かる構成によれば、前処理部において、膜分離前の被処理水中のバイオポリマー濃度を所定の設定値の濃度以下(少なくとも17μg/L以下)となるように調整するので、膜分離部におけるファウリングの発生を十分に抑制することができる。
これにより、膜分離部におけるファウリングの発生を適切に抑制しつつ、被処理水を膜分離することができる。
【0011】
また、上記水処理設備においては、前記膜分離部は、精密濾過膜または限外濾過膜を備え、該精密濾過膜または該限外濾過膜を用いて前記被処理水を膜分離してもよい。
【0012】
斯かる構成によれば、膜分離部におけるファウリングの進行を抑制しつつ、安定した操作圧力で膜濾過を継続して行うことができる。
【0013】
また、上記水処理設備においては、前記前処理部は、水質浄化作用を有する微生物を生育させた濾材を有し、かつ該濾材を用いて膜分離前の前記被処理水を濾過する生物接触濾過部を備えていてもよい。
【0014】
斯かる構成によれば、被処理水に含まれ、かつ微生物により浄化される成分であるバイオポリマーを、微生物による水質浄化作用により浄化しつつ、該被処理水中の懸濁物質を濾過することができる。
これにより、後段の膜分離部における膜分離の負荷を低減することができる。
【0015】
本発明に係る水処理方法は、有機物を含む被処理水を膜分離する膜分離工程と、前記膜分離工程前に、前記被処理水中のバイオポリマー濃度を所定閾値以下となるように調整する前処理工程と、を備え、前記所定閾値を、0μg/Lより大きく17μg/L以下の範囲のいずれかの値に設定する。
【0016】
斯かる構成によれば、前処理工程において、膜分離前の被処理水中のバイオポリマー濃度を所定の設定値の濃度以下(少なくとも17μg/L以下)となるように調整するので、膜分離工程におけるファウリングの発生を十分に抑制することができる。
これにより、膜分離工程におけるファウリングの発生を適切に抑制しつつ、被処理水を膜分離することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、膜分離部におけるファウリングの発生を適切に抑制しつつ、被処理水を膜分離することができる水処理設備および水処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る水処理設備について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
水処理設備1は、有機物を含む被処理水Aを膜分離する膜分離部10と、膜分離部10の上流側に配され、被処理水A中のバイオポリマー濃度を所定閾値以下となるように調整する前処理部20と、を備える。
被処理水Aとしては、例えば、湖水(ダム湖水など)、沼水、河川水などが挙げられる。
【0021】
ここで、バイオポリマーとは、各種被処理水中に存在する有機物の一種であり、一般的には、みかけ分子量が10万Da以上の多糖類およびタンパク質とされている。
バイオポリマーは、有機炭素検出型排除クロマトグラフ法(LC−OCD)で測定することができる。ここで、LC−OCD法とは、試料中のTOC成分を分子量ごとに分画し、クロマトグラムとして示す分析法であり、クロマトグラム上では、分子量および親水性の大きい有機物ほど保持時間が短くなる傾向がある。
LC−OCD法の測定条件としては、カラムとして250mm×20mm TSK HW50Sを用い、流速を1.1mL/minにし、サンプル注入量を1mLにし、UV波長を254nmにし、OCD計への酸注入量を0.2mL/minにし、溶離液としてpH6.85 リン酸バッファを用い、酸性化溶液として1L超純水に対し、4mL O−リン酸(85%)およびペルオキソ二硫酸カリウム0.5gを添加した溶液を用いるというものを採用することができる。
LC−OCD法に用いる測定装置としては、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に湿式全有機炭素計測器(OCD計)を接続したLC−OCD装置(DOC−Labar製)を用いることができる。
【0022】
膜分離部10は、精密濾過膜(MF膜)を含む膜分離ユニットを有し、前処理部20で前処理された有機物等を含む被処理水Aの有機物を膜分離ユニットで膜分離するように構成されている。
また、膜分離部10は、膜分離ユニットでの膜分離によって、精密濾過膜を透過して有機物が低減された透過水Zと、精密濾過膜を透過せずに有機物等が濃縮された濃縮水Xとを得るように構成されている。
【0023】
詳しくは、膜分離部10は、
図2に示すように、複数の膜分離ユニット11を有する。膜分離部10においては、複数の膜分離ユニット11が並列的に被処理水Aを膜分離するように、膜分離ユニット11がそれぞれ配されている。すなわち、膜分離部10は、被処理水Aを並列的に膜分離する複数の膜分離ユニット11を有する。
膜分離部10は、
図2に示すように、被処理水Aの膜分離によって、膜分離ユニット11のそれぞれで精密濾過膜を透過して有機物が低減された透過水Zと、膜分離ユニット11のそれぞれで精密濾過膜を透過せず有機物等が濃縮された濃縮水Xとを得るように構成されている。
すなわち、膜分離部10は、膜分離によって生じた透過水Zと濃縮水Xとがそれぞれ取り出されるように構成されている。
【0024】
精密濾過膜の材質としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、酢酸セルロース、芳香族アミドなどのポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスルホンなどが挙げられる。
【0025】
精密濾過膜の形状としては、従来公知のものが挙げられ、例えば、直径数mmの中空糸状に形成されたいわゆる中空糸膜状、スパイラル状、または板状の平膜状などが挙げられる。
【0026】
膜分離ユニット11は、精密濾過膜を含み、該精密濾過膜によって有機物を含む被処理水を膜分離し、精密濾過膜を透過して有機物が低減された透過水Zと、精密濾過膜を透過せず有機物等が濃縮された濃縮水Xとを得るように構成されている。
膜分離ユニット11としては、例えば、市販されている一般的なものを用いることができる。
膜分離部10の上流側には、被処理水Aを加圧するための加圧ポンプが配されていてもよい。
また、膜分離ユニット11として浸漬型のものを用いる場合、吸引することにより濾過を行うので、膜分離部10の下流側(すなわち、分離膜の透過側)に吸引ポンプが配されていてもよい。
【0027】
本実施形態においては、膜分離ユニット11に分離膜として精密濾過膜が含まれる例について説明したが、膜分離ユニット11に含まれる分離膜はこれに限られない。膜分離ユニット11に含まれる分離膜は、例えば、逆浸透膜(RO膜)、限外濾過膜などであってもよい。
【0028】
本実施形態の前処理部20は、膜分離前の被処理水Aのバイオポリマー濃度を所定閾値以下となるように調整するように構成されている。前記所定閾値は、少なくとも膜分離部10におけるファウリングの発生が顕著になる17μg/L以下の値に設定される。前記所定閾値は、0μg/Lより大きく17μg/L以下の範囲内で任意に設定することができる。
【0029】
本実施形態の前処理部20は、膜分離前の被処理水A中のバイオポリマー濃度を測定するバイオポリマー濃度測定部21と、バイオポリマー濃度が所定閾値を越えたときに、膜分離前の被処理水A中のバイオポリマー濃度を所定閾値以下となるようにファウリング抑制物質を膜分離前の被処理水Aに添加するファウリング抑制物質添加部22とを備える。
【0030】
また、前処理部20は、バイオポリマー濃度測定部21およびファウリング抑制物質添加部22の上流側に、水質浄化作用を有する微生物を生育させた濾材を有し、かつ該濾材を用いて膜分離前の被処理水Aを濾過する生物接触濾過部23を備える。
【0031】
さらに、前処理部20は、バイオポリマー濃度測定部21およびファウリング抑制物質添加部22の下流側に、ファウリング抑制物質と被処理水Aとを混合するための混合部24を備える。
【0032】
バイオポリマー濃度測定部21は、膜分離前の被処理水A中のバイオポリマー濃度を測定するように構成され、生物接触濾過後の被処理水Aをサンプリングするためのサンプリング槽21aと、サンプリング槽21a内の被処理水Aをサンプリングするサンプラー21bと、サンプラー21bによってサンプリングされた被処理水A中のバイオポリマー濃度を測定するための濃度測定装置21cとを備える。
【0033】
サンプリング槽21aは、生物接触濾過部23において濾過された被処理水Aを内部空間に収容するように構成されている。
また、サンプリング槽21aは、内部空間に収容された被処理水Aを撹拌するように構成されている。
【0034】
サンプラー21bは、サンプリング槽21a内の被処理水Aをサンプリングできるように構成されている。サンプラー21bとしては、ポータブル自動採水器、ベイラーサンプラーなどを用いることができる。
【0035】
濃度測定装置21cは、被処理水A中のバイオポリマー濃度をLC−OCD法で測定できるように構成されている。LC−OCD法の測定条件としては、カラムとして250mm×20mm TSK HW50Sを用い、流速を1.1mL/minにし、サンプル注入量を1mLにし、UV波長を254nmにし、OCD計への酸注入量を0.2mL/minにし、溶離液としてpH6.85 リン酸バッファを用い、酸性化溶液として1L超純水に対し、4mL O−リン酸(85%)およびペルオキソ二硫酸カリウム0.5gを添加した溶液を用いるというものを採用することができる。
濃度測定装置21cとしては、例えば、DOC−Labar製のLC−OCD装置を用いることができる。
【0036】
ファウリング抑制物質添加部22は、濃度測定装置21cで測定された被処理水A中のバイオポリマー濃度が所定閾値を越えたときに、ファウリング抑制物質を添加するように構成されている。
【0037】
ファウリング抑制物質としては、凝集剤、粉末活性炭、酸化剤などの各種公知のものを用いることができる。好ましくは、凝集剤、粉末活性炭を用いることができる。より好ましくは、バイオポリマーを捕捉する凝集剤を用いることができる。
凝集剤としては、無機系凝集剤および有機系凝集剤のいずれも用いることができる。
無機系凝集剤としては、鉄系、アルミ系のものを用いることができる。鉄系の凝集剤としては、ポリ鉄、塩化第二鉄などが挙げられる。アルミ系の凝集剤としては、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、PAC(ポリ塩化アルミニウム)などが挙げられる。
有機系凝集剤としては、高分子凝集剤などを用いることができる。高分子凝集剤としては、天然高分子系および合成高分子系のいずれも用いることができる。また、高分子凝集剤として、カチオン性、アニオン性、ノニオン性、両性のいずれのものも用いることができる。
上記のような凝集剤の中でも、アルミ系の無機系凝集剤を用いることが好ましい。
また、粉末活性炭としては、ヤシ殻、木材(木質)等の植物系のものを原料とするもの、石炭、石油(ピッチ)等の鉱物系のものを原料とするものなどを用いることができる。これらの中でも、ヤシ殻を原料とするヤシ殻炭を用いることが好ましい。
【0038】
ファウリング抑制物質として凝集剤を用いた場合、該凝集剤によってバイオポリマーを膜分離ユニット11に含まれる精密濾過膜の孔よりも大きなフロックにすることにより、バイオポリマーが精密濾過膜の孔の内部に入り込んで孔を目詰まりさせることを抑制し、精密濾過膜におけるファウリングの発生を抑制することができる。
また、ファウリング抑制物質として粉末活性炭を用いた場合、該粉末活性炭が有する細孔内にバイオポリマーを吸着させて、被処理水A中のバイオポリマー濃度を低下させることにより、精密濾過膜におけるファウリングの発生を抑制することができる。
【0039】
また、ファウリング抑制物質添加部22は、図示しない制御部を備えている。該制御部は、被処理水Aへのファウリング抑制物質の添加の要否を判定するとともに、ファウリング抑制物質の添加が必要な場合には、被処理水A中のバイオポリマー濃度に応じて被処理水Aへのファウリング抑制物質の添加量を制御している。そのため、必要量以上のファウリング抑制物質を添加することなく、ファウリングの発生を抑制することができる。これにより、膜分離部10におけるファウリングの発生を適切に抑制することができる。
ファウリング抑制物質の添加量は、ファウリング抑制物質添加後の被処理水A中のバイオポリマー濃度を9μg/L未満とする量であってもよい。
ファウリング抑制物質の添加量は、被処理水Aに添加するファウリング抑制物質の種類によって異なるが、例えば、ファウリング抑制物質として、粉末活性炭を用いた場合、被処理水A中のバイオポリマー濃度が9μg/Lより大きく100μg/L以下の場合には、被処理水Aに対する粉末活性炭の添加量が5mg/L以上30mg/L以下となるように添加することが好ましい。
また、ファウリング抑制物質として凝集剤(PAC)を用いた場合、被処理水A中のバイオポリマー濃度が9μg/Lより大きく100μg/L以下の場合には、被処理水Aに対する凝集剤(PAC)の添加量が3mg/L以上となるように添加することが好ましく、5mg/L以上となるように添加することがより好ましい。
【0040】
生物接触濾過部23は、水質浄化作用を有する微生物を生育させた濾材を有し、かつ該濾材を用いて膜分離前の被処理水Aを濾過するように構成されている。前記濾材は、水質浄化作用を有する微生物を粉末活性炭などの表面に生育させたものであってもよい。
生物接触濾過部23は、濾材表面の微生物による浄化作用により、被処理水Aに含まれる、バイオポリマーを含む有機物のみならず、鉄、マンガン、アンモニア態窒素などを浄化するとともに、被処理水Aに含まれる懸濁物質を濾材によって除去する。
生物接触濾過部23は、上向流式および下向流式のいずれのものでも用いることができる。
【0041】
ところで、生物接触濾過部23においては、濾材表面に生育された微生物は、冬季などの水温が比較的低い時期には活性が低下して、被処理水A中に含まれる有機物を分解する有機物分解能が低下するようになる。
その結果、冬季などの水温が比較的低い時期においては、生物接触濾過部23によって被処理水A中のバイオポリマーが浄化され難くなるため、水温が比較的高い時期に比べて、生物接触濾過後の被処理水A中のバイオポリマー濃度が大きく上昇し、生物接触濾過後の被処理水A中のバイオポリマー濃度が、前記所定閾値を越えることがある。
このような場合には、生物接触濾過後の被処理水Aにファウリング抑制物質添加部22からファウリング抑制物質を添加することにより、被処理水A中のバイオポリマー濃度を所定閾値以下に調整することができる。
【0042】
前処理部20は、ファウリング抑制物質添加部22の下流側に、被処理水Aにファウリング抑制物質を添加した場合に、被処理水Aとファウリング抑制物質とを混合する混合部24を備える。
混合部24は、ファウリング抑制物質と被処理水Aとを混合できるように構成されている。混合部24としては、撹拌機付き凝集混和タンク、ラインミキサなどを用いることができる。
【0043】
次に、本発明の一実施形態に係る水処理方法について説明する。
【0044】
本実施形態に係る水処理方法は、
図3に示すように、有機物を含む被処理水を膜分離する膜分離工程(S2)と、前記膜分離工程(S2)前に、前記被処理水中のバイオポリマー濃度を所定閾値以下となるように調整する前処理工程(S1)と、を備える。
【0045】
本実施形態の水処理方法においては、例えば、上述の水処理設備1を用いて、前処理部20にて、前記前処理工程(S1)を行い、膜分離部10にて、前記膜分離工程(S2)を行うことができる。
【0046】
(前処理工程:S1)
上記のように、本工程においては、膜分離前の被処理水A中のバイオポリマー濃度を所定閾値以下となるように調整する。前記所定閾値は、0μg/Lより大きく17μg/L以下の範囲において任意に設定することができる。
本工程においては、被処理水Aを生物接触濾過することにより、あるいは生物接触濾過後の被処理水Aにファウリング抑制物質を添加することにより、膜分離前の被処理水A中のバイオポリマー濃度を前記所定閾値以下となるように調整する。
本工程においては、バイオポリマー濃度測定部21で測定された、生物接触濾過後の被処理水A中のバイオポリマー濃度が前記所定閾値以下の場合には、生物接触濾過後の被処理水Aにファウリング抑制物質を添加せずに、膜分離工程(S2)で膜分離する被処理水Aとする。
一方で、濃度測定装置21cで測定された、生物接触濾過後の被処理水A中のバイオポリマー濃度が前記所定閾値を越える場合には、生物接触濾過後の被処理水Aにファウリング抑制物質を添加し、被処理水A中のバイオポリマー濃度を所定閾値以下に調整して、膜分離工程(S2)で膜分離する被処理水Aとする。
【0047】
(膜分離工程:S2)
上記のように、本工程においては、前処理部20にて、バイオポリマー濃度を前記所定閾値以下に調整した被処理水Aを膜分離する。
本工程においては、膜分離によって、精密濾過膜を透過して有機物が低減された透過水と、精密濾過膜を透過せずに有機物等が濃縮された濃縮水とが得られる。
【0048】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態および変形が可能とされたものである。また、上述の実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施形態および実施例ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内およびそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0049】
以下では、バイオポリマー濃度の異なる被処理水を用いて、精密濾過膜の膜濾過抵抗の上昇速度を測定した試験例について説明する。
【0050】
<試験例1>
(被処理水)
某浄水場の水を、サンプリング場所またはサンプリング時期を変えて取水した。取水は6回行った。
【0051】
(バイオポリマー濃度の測定)
バイオポリマー濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に湿式全有機炭素計測器(OCD計)を接続したLC−OCD(DOC−Labor製)により測定した。
この測定は、Stefan A.Huber et al.“Characterisation of aquatic humic and non−humic matter with size−exclusion chromatography−organic carbon detection−organic nitrogen detection(LC−OCD−OND)”Water Research 45(2011)pp879−885に記載された方法に準じ、以下の条件下で行った。
・流速:1.1mL/min
・サンプル注入量:1mL
・カラム:250mm×20mm TSK HW50S
・UV波長:254nm
・OCD計:酸注入量 0.2mL/min
・溶離液:pH6.85 リン酸バッファ
・酸性化溶液:1L超純水に対し、4mL O−リン酸(85%)およびペルオキソ二硫酸カリウム0.5gを添加
【0052】
(膜濾過抵抗の上昇速度の測定)
膜濾過抵抗R(m
−1)は、以下の式(1)により算出した。
R=ΔP/(μ×J)・・(1)
ここで、ΔPは膜間差圧(Pa)であり、μは透過水の粘度(Pa・s)であり、Jは単位濾過面積当たりの流量(m
3/(m
2×s))である。
単位濾過面積当たりの流量Jおよび膜間差圧ΔPは、浸漬型の膜モジュールを用いて吸引濾過試験により求めた。前記膜モジュールは、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride(PVDF))製の中空糸MF膜(旭化成ケミカルズ製)8本を有効膜面積が0.005m
2となるようにモジュール化することにより構成した。なお、使用した膜の膜孔径は0.08μmであった。
前記吸引濾過試験において、被処理水の濾過速度は、ペリスタリックポンプ(L/Sシリーズ、ヤマト科学株式会社製)を用いて、初期透過フラックスが1.5m/d(62.5L/m
2/h(LMH))となるように調整した。また、前記吸引濾過試験においては、前記膜モジュールの透過水を用いて、30分ごとに1分間、前記膜モジュールを逆流洗浄(逆洗)した。該逆洗は、ペリスタリックポンプ(MP型、EYELA製)を用いて、フラックスが2.25m/d(約94LMH)となる条件で行った。
単位濾過面積当たりの流量Jは、前記膜モジュールの単位時間当たりの膜透過水量(m
3/s)を前記膜モジュールの有効膜面積で除することにより求めた。前記膜モジュールの単位時間当たりの透過水量(m
3/s)は、前記膜モジュールの膜透過水を、電子天秤(FGシリーズ デジタルはかり、株式会社A&D製)上に設置したタンク内に流入させ、タンク内の膜透過水の質量変化を、データロガー(計量データロガー AD−1688、株式会社A&D製)によって1時間ごとに測定し、測定された1時間ごとの質量変化を算術平均し、さらに1秒ごとの質量変化に換算した値(kg)を透過水の密度(kg/m
3)で除して求めた。
膜間差圧は、被処理水が透過する膜面側の圧力と、被処理水が透過した膜面側の圧力との差を圧力計(プレッシャセンサ、SMC製)でモニターし、データロガー(株式会社T&D製)によって1時間ごとに測定し、測定された各圧力差を算術平均することにより求めた。
また、透過水の粘度μは、透過水の膜透水時の温度に応じて、以下の二次近似式(2)を用いて求めた。透過水の膜透水時の温度は、前記の吸引濾過試験においてタンク内の水の温度を、データロガー(株式会社T&D製)によって1時間ごとに測定し、測定された各温度を算術平均することにより求めた。透過水の膜透水時の温度は、4.35〜19℃の間のいずれかの温度であった。
μ=0.006t
2−0.0493t+1.7471(R
2=0.9996)・・(2)
ここで、tは、透過水の膜透水時の温度である。
【0053】
上記のようなバイオポリマー濃度の異なる被処理水を用いて、精密濾過膜の膜濾過抵抗の上昇速度を測定した結果を
図4に示した。
【0054】
図4から、被処理水中のバイオポリマー濃度が17μg/Lのときに膜濾過抵抗の上昇速度の値は比較的小さい値になることが分かった。
また、被処理水中のバイオポリマー濃度が12μg/Lのときに、膜濾過抵抗の上昇速度の値は、被処理水中のバイオポリマー濃度が17μg/Lのときよりも小さい値となることが分かった。
さらに、被処理水中のバイオポリマー濃度が9μg/Lのときに、膜濾過抵抗の上昇速度の値は、被処理水中のバイオポリマー濃度が12μg/Lのときよりも小さい値となることが分かった。
この結果から、バイオポリマー濃度を17μg/L以下に調整した被処理水を精密濾過膜にて膜濾過することにより、膜濾過抵抗の上昇速度の値が大きくなることを抑制でき、バイオポリマー濃度を12μg/L以下に調整した被処理水を精密濾過膜にて膜濾過することにより、膜濾過抵抗の上昇速度の値が大きくなることをより好適に抑制でき、バイオポリマー濃度を9μg/L以下に調整した被処理水を精密濾過膜にて膜濾過することにより、膜濾過抵抗の上昇速度の値が大きくなることをさらに好適に抑制することができることが分かった。