(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アクリル系重合体(A1)における前記反応性官能基を有する構成単位を与える単量体(m1)の、前記アクリル系重合体(A1)を与える単量体全体に対する質量比率が、5質量%以上30質量%以下であり、
前記アクリル系重合体(A)を形成するための反応において、前記化合物(A2)の使用量は、前記単量体(m1)に対して0.4当量以上0.9当量以下である、請求項1または2に記載のダイシングシート。
使用に際して、前記粘着剤層の前記基材側と反対側の面には、半導体チップを樹脂封止した半導体パッケージの樹脂封止面が貼付される、請求項1から4のいずれか一項に記載のダイシングシート。
請求項1から5のいずれか一項に記載されるダイシングシートの前記粘着剤層側の面を、モールドパッケージの樹脂封止面に貼付し、前記ダイシングシート上の前記モールドパッケージを切断して個片化し、複数のモールドチップを得る、モールドチップの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.ダイシングシート
本発明の一実施形態に係るダイシングシートは、基材および粘着剤層を備える。
【0025】
(1)基材
本実施形態に係るダイシングシートの基材は、ピックアップ工程などにおいて破断しない限り、その構成材料は、特に限定はされず、通常は樹脂系の材料を主材とするフィルムから構成される。そのフィルムの具体例として、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン−ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリウレタンフィルム;ポリイミドフィルム;アイオノマー樹脂フィルム;エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合フィルム;ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム;フッ素樹脂フィルム;ならびにこれらの樹脂の水添加物および変性物を主材とするフィルムなどが挙げられる。またこれらの架橋フィルム、共重合体フィルムも用いられる。上記の基材は1種単独でもよいし、さらにこれらを2種類以上組み合わせた積層フィルムであってもよい。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語についても同様である。
【0026】
基材は、上記の樹脂系材料を主材とするフィルム内に、着色剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤が含まれていてもよい。着色剤としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック等の顔料や、種々の染料等が挙げられる。また、フィラーとして、メラミン樹脂のような有機系材料、ヒュームドシリカのような無機系材料およびニッケル粒子のような金属系材料が例示される。こうした添加剤の含有量は特に限定されないが、基材が所望の機能を発揮し、所望の平滑性や柔軟性を失わない範囲に留めるべきである。
【0027】
粘着剤層を硬化するために照射するエネルギー線として紫外線を用いる場合には、基材は紫外線に対して透過性を有することが好ましい。なお、エネルギー線として電子線を用いる場合には基材は電子線の透過性を有していることが好ましい。
【0028】
基材の厚さはダイシングシートが前述の各工程において適切に機能できる限り、限定されない。好ましくは20〜450μm、より好ましくは25〜200μm、特に好ましくは50〜150μmの範囲にある。
【0029】
本実施形態における基材の破断伸度は、23℃、相対湿度50%のときに測定した値として100%以上であることが好ましく、特に200%以上1000%以下であることが好ましい。上記の破断伸度が100%以上である基材は、エキスパンド工程が行われた場合にも破断しにくく、モールドパッケージを切断して形成したモールドチップを離間し易いものとなる。なお、破断伸度はJIS K7161:1994に準拠した引張り試験における、試験片破壊時の試験片の長さの元の長さに対する伸び率である。
【0030】
また、本実施形態における基材のJIS K7161:1994に準拠した試験により測定される25%ひずみ時引張応力は5N/10mm以上15N/10mm以下であることが好ましく、最大引張応力は15MPa以上50MPa以下であることが好ましい。25%ひずみ時引張応力が5N/10mm未満であったり、最大引張応力が15MPa未満であったりすると、ダイシングシートにモールドパッケージを貼着した後、リングフレームに固定した際、基材が柔らかいために弛みが発生し、搬送エラーの原因となることがある。一方、25%ひずみ時引張応力が15N/10mmを超えたり、最大引張応力が50MPaを超えたりすると、エキスパンド工程が行われた場合にダイシングシートに加わる荷重が大きくなるため、リングフレームからダイシングシート自体が剥がれたりするなどの問題が発生するおそれがある。本発明における破断伸度、25%ひずみ時引張応力、最大引張応力は基材の長尺方向について測定した値を指す。
【0031】
(2)粘着剤層
本実施形態に係るダイシングシートが備える粘着剤層は、次に説明するように、厚さが20μm未満であって、貯蔵弾性率など所定の特性を備え、エネルギー線重合性基および反応性官能基を有するアクリル系重合体(A)、および反応性官能基と架橋反応が可能なイソシアネート系架橋剤(B)を含有する粘着剤組成物から形成されたものである。
【0032】
(2−1)厚さ
本実施形態に係るダイシングシートが備える粘着剤層の厚さは20μm未満である。粘着剤層の厚さが20μm未満であることにより、糊残りが生じにくくなって、ダイシング工程において不具合が生じる可能性が低減される。また、ピックアップ工程において不具合が生じる可能性が低減されることもある。特に、ダイシング工程を実施してモールドパッケージを個片化してモールドチップとした後、エネルギー線の照射が行われるまでの期間が長い(例えば30日間)場合には、粘着剤層の厚さが20μm以上であると、モールドチップの面に対する粘着剤層の粘着性が過度に高くなって、エネルギー線を照射しても上記の粘着性が適切に低減されず、ピックアップ不良が生じる可能性が高まることがある。本実施形態に係るダイシングシートは、粘着剤層の厚さが20μm未満であるため、このようなピックアップ工程における不具合が生じる可能性が安定的に低減される。本実施形態に係るダイシングシートが備える粘着剤層の厚さは、17μm以下とすることが好ましく、13μm以下とすることがより好ましく、10μm以下とすることが特に好ましい。粘着剤層が被着面に対して適切な粘着性を有することを安定的に実現する観点から、粘着剤層の厚さは2μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましく、5μm以上とすることが特に好ましい。したがって、粘着剤層の最も好ましい厚さは、5μm以上10μm以下である。
【0033】
(2−2)貯蔵弾性率
本実施形態に係るダイシングシートが備える粘着剤層に対してエネルギー線を照射する前の当該粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率(本明細書において「照射前弾性率」ともいう。)は、50kPa以上80kPa以下である。
【0034】
照射前弾性率が上記の範囲にあることにより、粘着剤層の被着面であるモールドパッケージの封止樹脂の面の凹部内に、エネルギー線照射前の粘着剤層を構成する材料が入り込みにくくなって、ピックアップ不良が生じにくくなる。また、照射前弾性率が上記の範囲にあることにより、粘着剤層の被着面に対する粘着性が適切となって、チップ飛散が生じにくくなる。ピックアップ不良およびチップ飛散が生じる可能性をより安定的に低減させる観点から、照射前弾性率は、50kPa以上75kPa以下であることが好ましく、50kPa以上70kPa以下であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態に係るダイシングシートが備える粘着剤層に対してエネルギー線を照射した後の当該粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率(本明細書において「照射後弾性率」ともいう。)は、5.0MPa以上である。
【0036】
照射後弾性率が5.0MPa以上であることにより、粘着剤層の被着面であるモールドパッケージの封止樹脂の面の凹部内に、エネルギー線照射後の粘着剤層を構成する材料が入り込みにくくなって、ピックアップ不良が生じにくくなる。ピックアップ不良が生じる可能性をより安定的に低減させる観点から、照射後弾性率は、10MPa以上であることが好ましく、15MPa以上であることがより好ましく、20MPa以上であることが特に好ましい。
【0037】
粘着剤層の被着面であるモールドパッケージの封止樹脂の面の凹部内に入り込んだ粘着剤層を構成する材料が、ピックアップ工程において、上記の凹部から適切に離間すること、上記の凹部内で破断することがあってもピックアップの妨げになりにくいことなどを安定的に実現する観点から、照射後弾性率は、800MPa以下であることが好ましく、700MPa以下であることがより好ましく、500MPa以下であることがさらに好ましく、200MPa以下であることが特に好ましい。
【0038】
(2−3)タック値
本実施形態に係るダイシングシートの粘着剤層の面は、エネルギー線が照射される前の状態において、JIS Z0237:1991に記載された方法おいて剥離速度を1mm/分に変更した条件によりプローブタックを用いて測定したエネルギー量(本明細書において「タック値」ともいう。)が、0.1mJ/5mmφ以上0.8mJ/5mmφ以下である。このタック値は、測定開始からプローブが剥離するまでに測定されたピークの積算値として求められる。タック値が上記の範囲であることにより、チップ飛散の発生を抑制することができる。チップ飛散が生じる可能性をより安定的に低減させる観点から、タック値は、0.13mJ/5mmφ以上0.75mJ/5mmφ以下であることが好ましく、0.15mJ/5mmφ以上0.7mJ/5mmφ以下であることがより好ましく、0.18mJ/5mmφ以上0.65mJ/5mmφ以下であることが特に好ましい。
【0039】
(2−4)アクリル系重合体(A)
本実施形態に係るダイシングシートが備える粘着剤層を形成するための粘着剤組成物は、エネルギー線重合性基および反応性官能基を有するアクリル系重合体(A)を含有する。アクリル系重合体(A)は、エネルギー線重合性基および反応性官能基を有するアクリル系化合物に基づく構成単位をその骨格を構成する単位として含むアクリル系重合体である。アクリル系重合体(A)は、1種類の単量体が重合してなる単独重合体であってもよいし、複数種類の単量体が重合してなる共重合体であってもよい。重合体の物理的特性や化学的特性を制御しやすい観点から、アクリル系重合体(A)は共重合体であることが好ましい。
【0040】
アクリル系重合体(A)のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、1万〜200万であることが好ましい。かかるアクリル系重合体(A)は、粘着剤主剤の一般的な機能である粘着剤層の凝集性を維持する効果を生じさせるものであり、このような効果は分子量が高いほど、より発揮される。一方で、アクリル系重合体(A)の分子量が過度に大きい場合には、粘着剤層を製造するにあたり薄層化することが困難となる場合がある。したがって、アクリル系重合体(A)のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、10万〜150万であることがより好ましい。また、アクリル系重合体(A)のガラス転移温度Tgは、好ましくは−70〜30℃、さらに好ましくは−60〜20℃の範囲にある。なお、本明細書におけるポリスチレン換算重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。
【0041】
アクリル系重合体(A)が有する反応性官能基は、後述するイソシアネート系架橋剤(B)と架橋反応が可能な官能基であり、水酸基、カルボキシル基、アミノ基などが例示される。これらの中でも、イソシアネート系架橋剤(B)に係るイソシアネート基との反応性の高い水酸基が、アクリル系重合体(A)が有する反応性官能基として好ましい。
【0042】
アクリル系重合体(A)が有するエネルギー線重合性基の種類は特に限定されない。その具体例として、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和結合を有する官能基などが挙げられる。重合反応性に優れる観点から、エネルギー線重合性基はエチレン性不飽和結合を有する官能基であることが好ましく、その中でもエネルギー線が照射されたときの反応性の高さの観点から(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
【0043】
エネルギー線重合性基を反応させるためのエネルギー線としては、電離放射線、すなわち、X線、紫外線、電子線などが挙げられる。これらのうちでも、比較的照射設備の導入の容易な紫外線が好ましい。
【0044】
電離放射線として紫外線を用いる場合には、取り扱いのしやすさから波長200〜380nm程度の紫外線を含む近紫外線を用いればよい。紫外線量としては、アクリル系重合体(A)が有するエネルギー線重合性基の種類や粘着剤層の厚さに応じて適宜設定すればよく、通常50〜500mJ/cm
2程度であり、100〜450mJ/cm
2が好ましく、150〜400mJ/cm
2がより好ましい。また、紫外線照度は、通常50〜500mW/cm
2程度であり、100〜450mW/cm
2が好ましく、150〜400mW/cm
2がより好ましい。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプなどが用いられる。
【0045】
電離放射線として電子線を用いる場合には、その加速電圧については、アクリル系重合体(A)が有するエネルギー線重合性基の種類や粘着剤層の厚さに応じて適宜設定すればよく、通常加速電圧10〜1000kV程度であることが好ましい。また、照射線量は、アクリル系重合体(A)が有するエネルギー線重合性基の反応が適切に進行する範囲に設定すればよく、通常10〜1000kradの範囲で選定される。電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
【0046】
アクリル系重合体(A)は、反応性官能基を有するアクリル系重合体(A1)と、エネルギー線重合性基を有するイソシアネート系化合物(A2)とが、チタンおよびジルコニウムの少なくとも一方を含有する有機金属触媒(C)の存在下反応することにより得られたものである。このような有機金属触媒(C)の存在下で反応することにより、得られたアクリル系重合体(A)を含有する粘着剤組成物は、適切な照射前弾性率および適切なタック値を有する粘着剤層を形成することが可能となる。
【0047】
(2−4−1)アクリル系重合体(A1)
アクリル系重合体(A1)は、前述の反応性官能基を有するアクリル系重合体である。アクリル系重合体(A1)における反応性官能基を有する構成単位を与える単量体(m1)の、アクリル系重合体(A1)を与える単量体全体に対する質量比率は、5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。上記の質量比率に関する規定を満たすことにより、アクリル系重合体(A1)から得られたアクリル系重合体(A)を含有する粘着剤組成物は、適切な照射前弾性率および適切なタック値を有する粘着剤層を形成することが可能となる。上記の質量比率は、7質量%以上25質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、12質量%以上17質量%以下であることが特に好ましい。
【0048】
アクリル系重合体(A1)が反応性官能基として水酸基を有する場合を具体例として、アクリル系重合体(A1)を形成するための単量体について説明する。
【0049】
上記のような水酸基を有するアクリル系重合体(A1)を形成するための原料となりうる単量体(本明細書において「原料単量体」ともいう。)として、水酸基を有するアクリル系単量体(本明細書において「ヒドロキシアクリル系単量体」という。)、水酸基を有する非アクリル系単量体、水酸基を有しないアクリル系単量体および水酸基を有しない非アクリル系単量体が挙げられる。水酸基を有するアクリル系重合体(A1)は、上記の原料単量体のうち、当該重合体がアクリル系の重合体となるように、ヒドロキシアクリル系単量体および水酸基を有しないアクリル系単量体の少なくとも一種に由来する構成単位を含むとともに、当該重合体(A1)が水酸基を有するように、ヒドロキシアクリル系単量体および水酸基を有する非アクリル系単量体の少なくとも一種に由来する構成単位を含む。
【0050】
ヒドロキシアクリル系単量体の具体例として、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミドななどの水酸基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、水酸基を有する非アクリル系単量体の具体例として、ヒドロキシ酢酸ビニルなどが挙げられる。取り扱い性を高める観点や粘着剤層の物性の調整を容易とする観点から、水酸基を有するアクリル系重合体は、ヒドロキシアクリル系単量体に由来する構成単位を含むものが好ましい。これらの水酸基を有する単量体は、アクリル系重合体(A)におけるエネルギー線重合性基の存在量を制御することが容易となる点から、水酸基をただ一つ有する単量体が好ましい。
【0051】
上記の原料単量体のうち、水酸基を有しないアクリル系単量体の具体例として、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、その誘導体(アクリロニトリルなど)が具体例として挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルについてさらに具体例を示せば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の鎖状骨格を有する(メタ)アクリレート;シクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イミドアクリレート等の環状骨格を有する(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の水酸基以外の反応性官能基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、水酸基を有しないアクリル系単量体がアルキル(メタ)アクリレートである場合には、そのアルキル基の炭素数は1から18の範囲であることが好ましい。また、水酸基を有しない非アクリル系単量体としては、エチレン、ノルボルネン等のオレフィン、酢酸ビニル、スチレンなどが例示される。
【0052】
(2−4−2)イソシアネート系化合物(A2)
イソシアネート系化合物(A2)は、エネルギー線重合性基を有するとともに、アクリル系重合体(A1)が有する反応性官能基との反応に際してイソシアネート基を有することができる化合物である。かかるイソシアネート系化合物として、イソシアネート基を有する化合物、ブロックイソシアネート基を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物のビウレット体やイソシアヌレート体、イソシアネート基を有する化合物と、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の非芳香族性低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などの変性体などが例示される。
【0053】
イソシアネート系化合物(A2)の具体例として、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートが挙げられる。このほか、少なくとも一つの水酸基が残留した(メタ)アクリレートと、ポリイソシアネート化合物との反応生成物もイソシアネート系化合物(A2)の具体例として挙げられる。これらのうちでも、アクリル系重合体(A)におけるエネルギー線重合性基の存在量を制御することが容易となる点で、エネルギー線重合性基をただ一つ有するイソシアネート化合物が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートがより好ましい。
【0054】
アクリル系重合体(A)を形成するための反応において、化合物(A2)の使用量は、アクリル系重合体(A)に係る単量体(m1)に対して0.4当量以上0.9当量以下であることが好ましい。上記の化合物(A2)の使用量に関する規定を満たすことにより、アクリル系重合体(A1)および化合物(A2)から得られたアクリル系重合体(A)を含有する粘着剤組成物は、これにより得られる粘着剤層が、エネルギー線照射後に過度に硬化したり、エネルギー線照射によって被着面への粘着性を低下させることが不十分となったりすることを回避できる。その結果、ダイシングシートからのチップのピックアップを容易とすることが可能となる。上記の単量体(m1)に対する化合物(A2)の使用量は、0.4当量以上0.8当量以下であることが好ましく、0.45当量以上0.75当量以下であることがより好ましく、0.5当量以上0.7当量以下であることが特に好ましい。
【0055】
(2−5)イソシアネート系架橋剤(B)
本明細書において「イソシアネート系架橋剤」とは、ポリイソシアネート化合物であって、架橋性を有するものの総称を意味する。その具体例として、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等の脂環式イソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の非環式脂肪族イソシアネートおよびそのビウレット体やイソシアヌレート体、イソシアネート基を有する化合物と、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の非芳香族性低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などの変性体などポリイソシアネート化合物に基づく化合物が挙げられる。粘着剤組成物においてイソシアネート系架橋剤(B)として機能する化合物は、1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
【0056】
粘着剤組成物におけるイソシアネート系架橋剤(B)の含有量は限定されない。イソシアネート系架橋剤(B)の種類に応じて適宜設定される。限定されない例示として、粘着剤組成物全体に対して、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.05質量%以上7質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上3質量%以下が特に好ましい。
【0057】
(2−6)有機金属触媒(C)
有機金属触媒(C)は、チタンおよびジルコニウムの少なくとも一方を含有する。具体的には、チタンおよびジルコニウムの少なくとも一方を含有する有機金属化合物からなる。かかる有機金属化合物として、これらの金属元素のアルコキシド、キレート、アシレートなどが例示され、具体例として、チタンアルコキシド、チタンキレート、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムキレートなどが挙げられる。これらの中でも、有機金属化合物が含有する金属元素がジルコニウムを含むことが好ましく、かかる金属元素がジルコニウムであることが好ましい。また、有機金属化合物はキレート化合物であることが好ましい。したがって、有機金属触媒(C)は、ジルコニウム含有キレート化合物を含むことが好ましく、ジルコニウム含有キレート化合物からなることがより好ましい。
【0058】
有機金属触媒(C)はスズ含有有機金属化合物を含有しないことが好ましい。理由は明確でないが、粘着剤組成物が有機金属触媒(C)がスズ含有有機金属化合物を含有しない場合には、適切な照射前弾性率および適切なタック値を有する粘着剤層を形成しやすくなる。
【0059】
アクリル系重合体(A)を得るための反応において使用される有機金属触媒(C)の使用量は限定されない。当該使用量は、アクリル系重合体(A1)の固形分100質量部に対して、0.01質量部以上0.5質量部以下が好ましく、0.01質量部以上0.3質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上0.25質量部以下が特に好ましい。
【0060】
(2−7)その他の成分
本実施形態に係るダイシングシートが備える粘着剤層を形成するための粘着剤組成物は、上記の成分に加えて、光重合開始剤(D)、粘着付与樹脂、染料や顔料などの着色材料、難燃剤、フィラー、帯電防止剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0061】
ここで、光重合開始剤(D)についてやや詳しく説明する。光重合開始剤(D)としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等の光開始剤、アミンやキノン等の光増感剤などが挙げられ、具体的には、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが例示できる。エネルギー線として紫外線を用いる場合には、光重合開始剤(D)を配合することにより照射時間、照射量を少なくすることができる。
【0062】
(2−8)粘着剤組成物の製造方法
粘着剤層を形成するための粘着剤組成物の製造方法は限定されない。次に説明する方法により製造することが好ましい。
【0063】
まず、第1工程として、アクリル系重合体(A1)とイソシアネート系化合物(A2)とを、有機金属触媒(C)の存在下反応させて、アクリル系重合体(A)および有機金属触媒(C)に基づく成分を含む生成物を得る。上記の反応において適切な溶媒を使用してもよい。第1工程に係る反応の反応条件は、反応原料であるアクリル系重合体(A1)、イソシアネート系化合物(A2)および有機金属触媒(C)の種類および含有量に応じて適宜設定される。かかる反応によりアクリル系重合体(A)および有機金属触媒(C)に基づく成分を含む生成物を得ることができる。有機金属触媒(C)に基づく成分は、触媒活性を維持していることが好ましい。触媒活性を維持していることにより、粘着剤組成物から粘着剤層を形成する際に生じるアクリル系重合体(A)とイソシアネート系架橋剤(B)との反応の触媒として、有機金属触媒(C)に基づく成分を機能させることができる。
【0064】
第1工程の次に行われる第2工程では、第1工程の生成物、イソシアネート系架橋剤(B)、および必要に応じて光重合開始剤(D)等を含む混合体を粘着剤組成物として得る。第1工程の生成物は、アクリル系重合体(A)を含む限り、溶媒除去などのプロセスを経たものであってもよい。混合方法は限定されず、混合体の均一性が高まるように適宜設定すればよい。
【0065】
(3)剥離シート
本実施形態に係るダイシングシートは、その粘着剤層を被着体であるモールドパッケージ(半導体パッケージが具体例として挙げられる。)に貼付するまでの間において粘着剤層を保護する目的で、粘着剤層の基材に対向する側と反対側の面に、剥離シートの剥離面が貼合されていてもよい。剥離シートの構成は任意であり、プラスチックフィルムに剥離剤を塗布したものが例示される。プラスチックフィルムの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、およびポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィンフィルムが挙げられる。剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系などを用いることができるが、これらの中で、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。上記の剥離シートのプラスチックフィルムに代えて、グラシン紙、コート紙、上質紙などの紙基材または紙基材にポリエチレンなどの熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙を用いてもよい。該剥離シートの厚さについては特に制限はないが、通常20μm以上250μm以下程度である。
【0066】
2.ダイシングシートの製造方法
ダイシングシートの製造方法は、前述の粘着剤組成物から形成される粘着剤層を基材の一の面に積層できれば、詳細な方法は特に限定されない。一例を挙げれば、前述の粘着剤組成物、および所望によりさらに溶媒を含有する塗工液を調製し、基材の一の面上に、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、スリットコーター、ナイフコーター等によりその塗工液を塗布し、当該一の面上の塗膜を乾燥させることにより、粘着剤層を形成することができる。塗工液は、塗布を行うことが可能であればその性状は特に限定されず、粘着剤層を形成するための成分を溶質として含有する場合もあれば、分散質として含有する場合もある。
【0067】
上記の乾燥の条件(温度、時間など)を調整することにより、または別途架橋のための加熱処理を設けることにより、塗膜内のアクリル系重合体(A)とイソシアネート系架橋剤(B)との架橋反応を進行させ、粘着剤層内に所望の存在密度で架橋構造を形成させればよい。この架橋反応を十分に進行させるために、上記の方法などによって基材に粘着剤層を積層させた後、得られたダイシングシートを、例えば23℃、相対湿度50%の環境に数日間静置するといった養生が通常行われる。
【0068】
あるいは、上記の剥離シートの剥離面上に塗工液を塗布して塗膜を形成し、これを乾燥させて粘着剤層と剥離シートとからなる積層体を形成し、この積層体の粘着剤層における剥離シートに対向する側と反対側の面を、基材の一の面に貼付して、ダイシングシートと剥離シートとの積層体を得てもよい。この積層体における剥離シートは工程材料として剥離してもよいし、モールドパッケージに貼付するまで剥離せずに、粘着剤層を保護していてもよい。
【0069】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係る製造方法は、次の工程のいずれかを備える:
アクリル系重合体(A)およびイソシアネート系架橋剤(B)を含有する粘着剤組成物を、基材の一方の面に塗布し、得られた塗膜から粘着剤層を形成して、前記ダイシングシートを得る工程;および
粘着剤組成物を剥離シートの剥離面に塗布し、得られた塗膜から粘着剤層を形成し、剥離シート上の粘着剤層における剥離シートに対向する側と反対側の面を基材の一方の面に貼付して、ダイシングシートを、粘着剤層側の面に剥離シートが貼付した状態で得る工程。
【0070】
ここで、前述のとおり、アクリル系重合体(A)は、アクリル系重合体(A1)とイソシアネート系化合物(A2)とが有機金属触媒(C)の存在下反応することにより得られたものであり、アクリル系重合体(A1)における単量体(m1)のアクリル系重合体(A1)を与える単量体全体に対する質量比率は5質量%以上30質量%以上であることが好ましく、アクリル系重合体(A)を形成するための反応において、化合物(A2)の使用量は、単量体(m1)に対して0.4当量以上0.9当量以下であることが好ましい。
【0071】
3.モールドチップの製造方法
本実施形態に係るダイシングシートを用いてモールドパッケージからモールドチップを製造する方法を、モールドパッケージが半導体パッケージからなる場合を具体例として以下に説明する。
【0072】
半導体パッケージは上述のとおり基台の集合体の各基台上に半導体チップを搭載し、これらの半導体チップを一括して樹脂封止した電子部品集合体であるが、通常基板面と樹脂封止面を有し、その厚さは200〜2000μm程度である。樹脂封止面は表面の算術平均粗さRaが0.5〜10μm程度と粗く、また、封止装置の型からの取り出しを容易とするため、封止材料が離型成分を含有していることがある。このため、樹脂封止面に粘着シートを貼付した場合、十分な固定性能が発揮されない傾向がある。
【0073】
本実施形態に係るダイシングシートは、使用にあたり、粘着剤層側の面(すなわち、粘着剤層の基材側と反対側の面)を半導体パッケージの樹脂封止面に貼付する。なお、ダイシングシートの粘着剤層側の面に剥離シートが貼付されている場合には、その剥離シートを剥離して粘着剤層側の面を表出させて、半導体パッケージの樹脂封止面にその面を貼付すればよい。ダイシングシートの外周部は、通常その部分に設けられた粘着剤層により、リングフレームと呼ばれる搬送や装置への固定のための環状の治具に貼付される。粘着剤層は適切な粘着剤組成物から形成されているため、タック値が適切である。それゆえ、ダイシングシートに貼付された半導体パッケージをダイシング工程に供しても、半導体パッケージが個片化されてなるモールドチップが加工中に飛散する可能性は低減されている。
【0074】
なお、ダイシング工程により形成されるモールドチップのサイズは通常5mm×5mm以下であり、近年は1mm×1mm程度とされる場合もあるが、本実施形態に係るダイシングシートの粘着剤層はタック値が適切であるため、そのようなファインピッチのダイシングにも十分に対応することができる。
【0075】
以上のダイシング工程を実施することによって半導体パッケージから複数のモールドチップを得ることができる。ダイシング工程終了後、ダイシングシート上に近接配置された複数のモールドチップをピックアップしやすいように、通常は、ダイシングシートを主面内方向に伸張するエキスパンド工程が行われる場合もある。この伸長の程度は、隣接するモールドチップが有すべき間隔、基材の引張強度などを考慮して適宜設定すればよい。
【0076】
必要に応じて行われたエキスパンド工程を実施した後、吸引コレット等の汎用手段により、粘着剤層上のモールドチップのピックアップを行う。ピックアップされたモールドチップは、搬送工程など次の工程へと供される。
【0077】
ダイシング工程の終了後、ピックアップ工程の開始までに、本実施形態に係るダイシングシートの基材側からエネルギー線照射を行えば、ダイシングシートが備える粘着剤層内部において、これに含有されるエネルギー線重合性基の反応が進行し、モールドチップの面に対する粘着剤層の粘着性を低下させることができる。しかも、本実施形態に係るダイシングシートが備える粘着剤層は、適切な粘着剤組成物から形成されているため、被着体である半導体パッケージの樹脂封止面の凹部内に、粘着剤層を構成する材料が入り込みにくい。このため、ピックアップの際に、上記の凹部内に入り込んだ材料を凹部から離間させるために要する力や、当該材料を破断により粘着剤層から分離するために要する力が高まりにくい。それゆえ、本実施形態に係るダイシングシートは、ピックアップ不良が特に生じにくい。
【0078】
上記のように、本実施形態に係るモールドチップの製造方法はチップ飛散が生じにくく、その後工程においても、ピックアップ不良が発生しにくい。このため、半導体パッケージなどのモールドパッケージを複数のモールドチップに分割するダイシング工程およびピックアップ工程を経て次の工程に至るまでの一連の工程で、歩留まりが低下しにくい。それゆえ、本実施形態に係るダイシングシートを用いる本実施形態に係る製造方法により得られたモールドチップは、コスト的に有利なものとなりやすい。また、チップ飛散やピックアップ不良は、これらの不具合に直接的に関連するモールドチップ以外に、チップの衝突などによって、同ロットで製造されたモールドチップに欠けなどの問題を発生させる場合がある。したがって、本実施形態に係るモールドチップの製造方法により製造されたモールドチップは、そのような問題を有する可能性が低減され、品質に優れる。
【0079】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0081】
〔実施例1〕
(1)塗工液の調製
次の組成を有する塗工液を調製した。
75質量部の2−エチルヘキシルアクリレートと10質量部のメチルメタクリレートと15質量部の2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)とを共重合して、共重合体(ポリスチレン換算重量平均分子量70万)を、アクリル系重合体(A1)として得た。
【0082】
化合物(A2)としてのメタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)と、上記のアクリル系重合体(A1)とを、有機金属触媒(C)としてのジルコニウムキレート触媒(マツモトファインケミカル社製「ZC−700」)の存在下、反応させた。化合物(A2)の使用量は、アクリル系重合体(A1)における反応性官能基である水酸基を有する構成単位を与える単量体(m1)として位置付けられるHEAに対して0.6当量であった。有機金属触媒(C)の添加量は、アクリル系重合体(A1)の固形分100質量部に対して0.1質量部であった。上記の反応により、アクリル系重合体(A)および有機金属触媒(C)に基づく成分を含む生成物を得た。
【0083】
上記の生成物と、生成物中のアクリル系重合体(A)100質量部に対して、0.3質量部のイソシアネート系架橋剤(B)(トーヨーケム社製「BHS−8515」)および3.0質量部の光重合開始剤(D)(BASF社製「イルガキュア(登録商標)184」)を配合(すべて固形分換算による配合比)し、粘着剤組成物を得た。
【0084】
(2)ダイシングシートの作製
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製基材フィルムの一方の面上にシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる剥離面を備える剥離シート(リンテック社製「SP−PET381031」)を用意した。この剥離シートの剥離面上に、前述の塗工液をナイフコーターにて塗布した。得られた塗膜を剥離シートごと100℃の環境下に1分間経過させることにより塗膜を乾燥するとともに架橋反応を進行させて、剥離シートと粘着剤層(厚さ10μm)とからなる積層体を得た。
厚さ140μmのエチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)フィルムからなる基材の一方の面(コロナ処理済、表面張力:54mN/m)に、上記の積層体の粘着剤層側の面を貼付して、基材と粘着剤層とからなるダイシングシートを、粘着剤層側の面に剥離シートがさらに積層された状態で得た。
【0085】
〔実施例2〕
アクリル系重合体(A)を得るために使用した有機金属触媒(C)を、ジルコニウムキレート触媒に代えて、チタンキレート触媒(マツモトファインケミカル社製「TC−750」)とし、その使用量を、アクリル系重合体(A1)の固形分100質量部に対して0.03質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、ダイシングシートを、粘着剤層側の面に剥離シートが積層された状態で得た。
【0086】
〔比較例1〕
アクリル系重合体(A)を得るために使用した有機金属触媒(C)を、ジルコニウムキレート触媒に代えて、スズ触媒(トーヨーケム社製「BXX−3778」)とし、その使用量を、アクリル系重合体(A1)の固形分100質量部に対して0.03質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、ダイシングシートを、粘着剤層側の面に剥離シートが積層された状態で得た。
【0087】
〔実施例3〕
アクリル系重合体(A)を得るために使用した化合物(A2)としてのMOIの使用量を、HEAに対して0.7当量としたこと以外は、実施例1と同様にして、ダイシングシートを、粘着剤層側の面に剥離シートが積層された状態で得た。
【0088】
〔実施例4〕
アクリル系重合体(A)を得るために使用した化合物(A2)としてのMOIの使用量を、HEAに対して0.9当量としたこと以外は、実施例1と同様にして、ダイシングシートを、粘着剤層側の面に剥離シートが積層された状態で得た。
【0089】
〔比較例2〕
アクリル系重合体(A)を得るために使用した化合物(A2)としてのMOIの使用量を、HEAに対して0.3当量としたこと以外は、実施例1と同様にして、ダイシングシートを、粘着剤層側の面に剥離シートが積層された状態で得た。
【0090】
〔比較例3〕
粘着剤層の厚さを30μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、ダイシングシートを、粘着剤層側の面に剥離シートが積層された状態で得た。
【0091】
〔比較例4〕
85質量部の2−エチルヘキシルアクリレートと15質量部の2−ヒドロキシエチルアクリレートとを共重合して共重合体(ポリスチレン換算重量平均分子量70万)を得た。アクリル系重合体(A1)に代えてこの共重合体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ダイシングシートを、粘着剤層側の面に剥離シートが積層された状態で得た。
【0092】
〔比較例5〕
粘着剤組成物を、次に説明する方法により調製したこと以外は、実施例1と同様にして、ダイシングシートを、粘着剤層側の面に剥離シートが積層された状態で得た。
共重合体100質量部に対し、架橋剤を10質量部、エネルギー線硬化性化合物を40質量部(配合量はいずれも固形分量)添加し、有機溶媒の溶液としての粘着剤塗工用組成物を得た。
上記の共重合体、架橋剤およびエネルギー線硬化性化合物の詳細は次のとおりであった。
共重合体:2−エチルヘキシルアクリレート/メチルアクリレート/アクリル酸=50/40/10の組成比、ポリスチレン換算重量平均分子量:80万
架橋剤:トリメチロールプロパントリレンジイソシアネート(TDI−TMP)、トーヨーケム社製「BHS 8515」
エネルギー線硬化性化合物:10官能ウレタンアクリレート、分子量:1700、日本合成化学工業社製「UV−1700B」
【0093】
〔試験例1〕<チップ飛散の評価および糊残りの評価>
半導体パッケージ用樹脂(住友ベークライト社製「G700」)を用いて、50mm×50mm、厚さ600μmであって、封止樹脂面の算術平均粗さRaが1μmである模擬半導体パッケージを作製した。上記の実施例および比較例により製造したダイシングシートの粘着剤層側の面を、テープマウンター(リンテック社製「Adwill RAD2500」)を用いて、上述の作製した模擬半導体パッケージの封止樹脂面に貼付した。こうして得られたダイシングシートと模擬半導体パッケージとの積層体をダイシング用リングフレーム(ディスコ社製「2−6−1」)に装着し、ダイシング装置(ディスコ社製「DFD−651」)を用いて、模擬半導体パッケージ側から切断するダイシング工程を行い、1mm×1mmの大きさのモールドチップに分割した。なお、ダイシング条件は下記のとおりであった。
ダイシングブレード :ディスコ社製「ZBT−5074(Z1110LS3)」
ブレード厚さ :0.17mm
刃出し量 :3.3mm
ブレード回転数 :30000rpm
切断速度 :100mm/分
基材への切り込み深さ:50μm
切削水量 :1.0L/min
切削水温度 :20℃
【0094】
ダイシング工程により得られた、ダイシングシートの粘着剤層側の面にモールドチップが付着してなる部材を目視で観察して、ダイシング工程中にダイシングシートから脱落していたモールドチップの個数を数え、その個数をダイシング工程における分割数で除して、チップ飛散率(単位:%)を求めた。チップ飛散率が10%未満であった場合を良好と判断し、10%以上であった場合を不良と判断した。結果を表1に示す。表1中、「A」は良好と判断されたことを意味し、「B」は不良と判断されたことを意味する。
【0095】
また、上記のダイシングシート上で個片化したチップ群から無作為に縦5列、横5列を選択することにより250個のモールドチップを選び出し、それらの中からさらに150個のモールドチップを選んで、測定対象チップとした。これらの測定対象チップの側面を顕微鏡により観察して、10μm以上の粘着剤凝集物がモールドチップの側面に付着しているか否かにより、糊残りが生じたか否かを判断した。結果を表1に示す。表1中、「A」は良好(糊残りは生じなかった。)と判断されたことを意味し、「B」は不良(糊残りが生じた。)と判断されたことを意味する。
【0096】
〔試験例2〕<短期および長期のピックアップ性の評価>
半導体パッケージ用樹脂(住友ベークライト社製「G700」)を用いて、50mm×50mm、厚さ600μmであって、封止樹脂面の算術平均粗さRaが1μmである模擬半導体パッケージを作製した。上記の実施例および比較例により製造したダイシングシートの粘着剤層側の面を、テープマウンター(リンテック社製「Adwill RAD2500」)を用いて、上述の作製した模擬半導体パッケージの封止樹脂面に貼付した。こうして得られたダイシングシートと模擬半導体パッケージとの積層体をダイシング用リングフレーム(ディスコ社製「2−6−1」)に装着し、ダイシング装置(ディスコ社製「DFD−651」)を用いて、模擬半導体パッケージ側から切断するダイシング工程を行い、10mm×10mmの大きさのモールドチップに分割した。なお、ダイシング条件は下記のとおりであった。
ダイシングブレード :ディスコ社製「ZBT−5074(Z1110LS3)」
ブレード厚さ :0.17mm
刃出し量 :3.3mm
ブレード回転数 :30000rpm
切断速度 :100mm/分
基材への切り込み深さ:50μm
切削水量 :1.0L/min
切削水温度 :20℃
【0097】
上記のダイシング工程の完了後、遅滞なく、紫外線照射装置(リンテック社製RAD−2000m/12)を用い、ダイシング工程後のダイシングシートの基材側から、窒素雰囲気下にて紫外線照射(照度230mW/cm
2、光量190mJ/cm
2)を行った。
【0098】
紫外線照射後、ダイシングシートの粘着剤層側の面にモールドチップが付着してなる部材におけるダイシングシートを、エキスパンド装置(ジェイシーエム社製「ME−300Bタイプ」)を用いて、速度1mm/秒で当該シートの主面内方向に20mm伸長させるエキスパンド工程を実施した。
【0099】
続いて、ダイシングシート上に位置する100個のモールドチップについてピックアップ試験を行ってピックアップ性(短期)を評価した。すなわち、ダイシングシートにおけるピックアップ対象とするモールドチップに接する部分を、基材側からニードルで1.5mm突き上げ、突出したモールドチップのダイシングシートに対向する側と反対側の面に真空コレットを付着させ、真空コレットに付着したモールドチップを持ち上げた。ピックアップ性(短期)は次の基準で評価した。結果を表1に示す。
A:ピックアップは成功し、ピックアップされたモールドチップの粘着剤層に対向していた面には、粘着剤を構成する物質は付着していなかった。
B:ピックアップは成功し、ピックアップされたモールドチップには、粘着剤層に対向していた面に粘着剤を構成する物質が付着しているものが存在したが、多くのモールドチップには上記物質の付着は認められなかった。
C:ピックアップは成功し、ピックアップされたモールドチップには、粘着剤層に対向していた面に粘着剤を構成する物質が付着しているものが多数存在した。
D:ピックアップできなかった。
【0100】
ダイシング工程の完了後、紫外線照射を行うまでの期間を30日としたこと以外は、上記のピックアップ性(短期)の評価と同様の作業を行って、上記のAからDの基準でピックアップ性(長期)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
〔試験例3〕<タック値の測定>
実施例および比較例において製造したダイシングシートが備える粘着剤層におけるエネルギー線が照射される前の状態の面について、直径5mm(5mmφ)のプローブを用いて、プローブタック試験機(レスカ社製「RPT−100」)により測定した。測定方法は、JIS Z0237:1991に記載の方法において、剥離速度を1mm/分に変更する一方、荷重は100gf/cm
2、接触時間は1秒間と、上記のJIS規定の記載のとおりとした。測定したエネルギー量(ピーク積算値)を求め、タック値(単位:mJ/5mmφ)とした。結果を表1に示す。
【0102】
〔試験例4〕<粘着剤層の厚さの測定>
実施例および比較例において使用した粘着剤組成物を、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムの一方の面上に、実施例および比較例と同条件で塗布・乾燥して、フィルムと粘着剤層とからなる積層体を得た。この積層体の厚さを、定圧厚さ測定器(テックロック社製「PG−02J」)を用いて測定し、得られた測定値からフィルムの厚さを差し引いて、粘着剤層の厚さ(単位:μm)を求めた。結果を表1に示す。
【0103】
〔試験例5〕<照射前弾性率および照射後弾性率の測定>
実施例および比較例において使用した粘着剤組成物を、厚さ38μmの剥離フィルム(リンテック社製「SP−PET381031」)の剥離面上に乾燥後の厚さが40μmとなるように塗布し、得られた塗膜および剥離フィルムからなる積層体を100℃で1分間保持することにより、塗膜の乾燥を行った。この手順により得られる剥離フィルム上の粘着剤層を複数準備し、厚さ800μmとなるまで貼り合せた積層体を作製し、直径10mmの円形に打ち抜いて測定のための試料とした。粘弾性測定装置(TAインスツルメンツ社製「ARES」)により、試料に周波数1Hzのひずみを与え、−50〜150℃の貯蔵弾性率を測定し、23℃における貯蔵弾性率の値を照射前弾性率(単位:kPa)として得た。結果を表1に示す。
【0104】
上記と同様にして、実施例および比較例において使用した粘着剤組成物から形成された粘着剤層が剥離フィルム上に積層された部材を得た。当該部材に対して、紫外線照射装置(リンテック社製RAD−2000m/12)を用い、上記部材の剥離フィルム側から、窒素雰囲気下にて紫外線照射(照度230mW/cm
2、光量190mJ/cm
2)を行った。紫外線照射後の部材に対して、上記の照射前弾性率の測定の場合と同様の作業を行って、23℃における貯蔵弾性率の値を照射後弾性率(単位:MPa)として得た。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
表1から分かるように、本発明の条件を満たす実施例のダイシングシートは、ダイシング工程およびピックアップ工程のいずれにおいても不具合が発生しにくいといえるものであった。特に、実施例1から3において製造したダイシングシートは、短期のピックアップ性のみならず、長期のピックアップ性にも優れ、ダイシング工程後紫外線照射されるまでの期間が30日間であっても、ピックアップ試験に供されたすべてのモールドチップをピックアップすることができた。