【実施例】
【0032】
以下、この発明にかかる銅合金を実際に製造した例を挙げて報告する。まず、銅合金に対して行う試験方法について説明する。
【0033】
<機械的性質試験>
JISH 5120で規定するA号供試材の形状に鋳造した試料から、JISZ 2241で規定する4号試験片に加工した。具体的形状は各々
図1、
図2の通りである。このうち、
図1におけるA号試験片は図中ハッチの部分であり、寸法の単位はmmである。また、
図2における径d
oは14±0.5mm、試験片の原標点距離L
oは50mm、平行部長さL
cは60mm以上、肩部の半径Rは15mm以上である
【0034】
この試験片について、JIS Z2241に従って引張強さと伸びとを測定した。その結果の数値と、機械的性質としての評価を示す。
・引張強さの評価は、195MPa以上を○、195MPa未満を×とした。
・伸びの評価は、15%以上を○、15%未満を×とした。
なお、この閾値は通常水道部材に用いられるJIS H5120 CAC406の基準値である。
【0035】
<エロージョンコロージョン試験>
Φ20×120mmLの金型に鋳造した試料を
図3に記載のように、φ16mmの円柱状に加工したものを試験片12とし、この試験片12に対して隙間を0.4mmあけた位置に、1.6mm口径のノズル11をセットし、ノズル11から試料へ向けて1%CuCl
2水溶液13を流量0.4L/minの順流で5時間流し続け、試験前後における試料の重量損失(減耗量)及び最大深さを計測した。
・減耗量の評価は、150mg未満を○、150mg以上200mg未満を△、200mg以上を×とした。
・最大深さの評価は、100μm未満を○、100μm以上150μm未満を△、150μm以上を×とした。
【0036】
<切削性試験・穿孔試験>
各々の合金について、ボール盤による穿孔試験を実施した。穿孔試験は、各供試材をφ18mm×20Hの円柱試料に加工し、ボール盤を用いて円柱深部から5mm深さの孔明けにかかる時間を、表1に示す穿孔条件で測定して評価を行った。6sec未満を○、6sec以上7sec未満を△、7sec以上のものを×と評価した。
【0037】
【表1】
【0038】
<湯流れ性試験>
図4に示す渦巻き試験形状鋳型に、加熱して溶解させたそれぞれの実施例及び比較例の銅合金を鋳造し、渦巻き試験片を作製した。鋳込温度は、各々のZn含有量によって凝固開始温度が異なるため、一定の鋳込温度では、合金本来の湯流れ性が評価できない。このため、各々の合金について熱分析法により凝固開始温度を測定した後、凝固開始温度+110℃の温度で鋳造を行った。その後、鋳造した渦巻き試験片の渦巻き部の流動長を測定した。300mm以上のものを〇、280mm以上300mm未満のものを△、280mm未満のものを×と評価した。
【0039】
<鋳造欠陥試験>
<階段状供試材における浸透探傷試験>
各々の合金について、階段状供試材における浸透探傷試験を行い、鋳造欠陥に関する良否を判定した。表中「―」は実施していない例である。具体的には次の通りである。実施する各々の合金について、肉厚を10、20、30mmの3段階に変化させた
図5に示すように押湯効果を少なくし鋳造欠陥を生じやすい形状とした階段状のCO
2鋳型を製作して(鋳込み温度1120℃)、これにより得られた鋳物の中心部を切断し、JIS Z2343浸透探傷試験に従って試験を行い、この浸透探傷試験における鋳造欠陥及び微小空隙の発生状況を観察した。引け巣欠陥やガス欠陥といった欠陥指示模様が、肉厚10、20mm部に観察されないものを〇、肉厚10mm部には観察されず肉厚20mm部に観察されるものを△、肉厚10、20mm部に観察されるものを×とし評価をおこなった。肉厚30mm部は評価対象外とした。
【0040】
<製造方法>
それぞれの元素を構成する材料を混合し、高周波誘導溶解炉にて溶製した後、CO
2鋳型により鋳造して表2に記載の含有量となる各々の例で供試材を作製した。なお、含有量の値は全て質量%であり、製造後の測定値である。また、比較例12として、従来から用いられていた鉛入りの青銅材料JIS H5120 CAC406を用い、物性の比較対象とした。その含有量も記載する。それぞれの得られた銅合金について、下記の試験を行った。表中「―」は検出限界未満であることを示す。なお、比較例11を除き、いずれの例においても、B、Bi、Sb、Al、Si、Feは検出限界未満であった。総合評価は、試験した項目全てが○であれば○とし、試験した項目のうち一つでも△があれば△とし、一つでも×があれば×とした。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
はじめに、比較例12のCAC406について説明する。CAC406の機械的性質は、JISの規格値である引張強さ195MPa以上、伸び15%以上となっている。また、5.38質量%のPbが含有するため、穿孔試験において良好な結果が得られた。さらに、湯流れ試験では流動長が298mmとなり、評価は△となった。一方、Pbを4〜6質量%含有するため、鉛の浸出に問題がある。
【0044】
まず、Znの含有量を変化させ、Zn以外の元素の含有量を出来るだけ近いものとした比較例1、実施例1〜4を調製した。表2、表3中の第一項目にこれらをZnの含有量順に並べた。機械的性質はいずれも引張強さ195MPa,伸び15%を上回る値を示したが、Znが12質量%未満となる比較例1では、切削にかかる時間が長くなりすぎてしまった。一方、Znが上限の21質量%に近くなる実施例4では、切削性がやや低下する傾向が見られた。
【0045】
次に、実施例2を基準としてSnの含有量を変化させ、Sn以外の元素の含有量を出来るだけ近いものとした比較例2、実施例5、6、7、比較例3を調製した。表2、表3中の第二項目にこれらをSnの含有量順に並べた。Snが下限値に近い1.43質量%である実施例5では耐エロージョン−コロージョン性がやや低下する傾向を示し、Snが0.99質量%である比較例2は耐エロージョン−コロージョン性が著しく不足してしまった。一方、Snが4.5質量%である実施例7は切削性がやや低下する傾向を示し、Snが4.5質量%を超えて4.92質量%である比較例3では伸びと切削性に問題を生じてしまった。
【0046】
次に、表2中にZn+Snの合計含有量の順に実施例5,3,4を並べ、さらにこれらよりもZn+Snの含有量が上回り、23.5質量%を上回る比較例4を調製して、表2、表3中の第三項目にZn+Snの合計含有量順に並べた。比較例4は引張強さと伸びの両方が大きく低下してしまった。
【0047】
次に、実施例2を基準としてPの含有量を変化させ、P以外の元素の含有量を出来るだけ近いものとした比較例5、実施例8,9、比較例6を調製した。表2、表3中の第四項目にこれらをPの含有量順に並べた。Pが0.005質量%未満である比較例5と、Pが0.15質量%を上回る比較例6はいずれも湯流れ性に問題を生じる結果となった。また、浸透探傷試験を行った結果を
図6に示す。Pが0.15質量%を上回る比較例6では全体に引け巣を生じてしまった。なお、写真中、肉厚30mmの箇所は評価対象外であり、より薄い部分にまで赤く細かい斑点が生じている点を問題としている。比較例6以外は肉厚20mm以下の箇所には斑点が見られず、良好な結果となった。
【0048】
次に、実施例2を基準として、Pbの含有量を変化させ、Pb以外の含有量を出来るだけ近いものとした比較例7,実施例10,実施例11,比較例8を調製した。表2、表3中の第五項目にこれらをPbの含有量順に並べた。Pbが0.05質量%未満である0.03質量%の比較例7では、切削性に問題を生じることとなった。
【0049】
さらに、実施例2に近い組成で、Niを含有させた実施例13、14、15比較例9、10を調製した。いずれも機械的性質には問題がなかった。ただしNiが0.5質量%を超える比較例9、10は、切削性に問題を生じることとなった。
【0050】
さらに、実施例2に近い組成で、Biを0.3質量%含有させた比較例11を調製した。引張強さが大きく低下して機械的性質に問題を生じてしまった。また、この含有量ではリサイクル上の問題があった。