特許第6561116号(P6561116)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561116
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】水道部材用銅合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/04 20060101AFI20190805BHJP
   E03B 3/00 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   C22C9/04
   E03B3/00 Z
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-508926(P2017-508926)
(86)(22)【出願日】2015年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2015060141
(87)【国際公開番号】WO2016157413
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2018年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 武明
(72)【発明者】
【氏名】山本 匡昭
(72)【発明者】
【氏名】松葉 昌平
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩士
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−211310(JP,A)
【文献】 特開2010−275573(JP,A)
【文献】 特開2014−240517(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0058005(US,A1)
【文献】 国際公開第2007/043101(WO,A1)
【文献】 特開2001−064742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00− 9/10
E03B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niの含有量を0.5質量%以下とし、Znを12質量%以上21質量%以下、Snを1.4質量%以上4.5質量%以下含有し、ZnとSnとの合計含有率が23.5質量%以下であり、
Pを0.005質量%以上0.15質量%以下、Pbを0.05質量%以上0.30質量%以下含有し、
Biの含有量が0.2質量%未満であり、
残部がCuと不可避不純物であり、
前記不可避不純物に含まれるZrの含有量が0.01質量%未満であり、前記不可避不純物に含まれるSeの含有量が0.1質量%未満である水道部材用銅合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅合金製であって、鉛の浸出が規定以下である水道部材に適用する材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水道用資機材や給水装置の部品に用いられてきた青銅鋳物(JIS H5120
CAC406)は、鋳造性、耐食性、切削性、耐圧性に優れており、水道用資機材や給水装置の部品など様々な分野に用いられている。この青銅鋳物(CAC406)は、鉛を4.0〜6.0重量%含むことで高い切削性を有しており、加工しやすいという特徴がある。しかし、この含有する鉛は、接触する水道水へ浸出する性質があり、昨今の鉛浸出量規制に対応できない。このため、有害な鉛の浸出量を削減することを目標として、鉛の含有量を低下させた、又は鉛を使用しない鉛フリー銅合金が検討されている。
【0003】
例えば下記特許文献1には、Znを8〜40質量%含む黄銅合金において、Zrを0.0005〜0.04質量%含有させ、かつPを0.01〜0.25質量%含有させ、かつ、Pbを0.005〜0.45質量%、Biを0.005〜0.45質量%、Seを0.03〜0.45質量%、Teを0.01〜0.45質量%のうちから一種又は2種以上含有し、残りがCu及び不可避不純物からなる成分に調整された黄銅合金が記載されている。この黄銅合金は固体金属と液体金属とが混合した半融状態で凝固させた合金であり、その凝固過程において、粒状のα初晶が晶出し、あるいはα固相が存在するものである。また他の元素の条件として、Siを2〜5質量%、Snを0.05〜6質量%、Alを0.05〜3.5質量%のうち1種又は2種以上を含有しても良く、特にZrはPと共存することにより半融状態で微細化に効果があると記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、Niを0.5質量%未満に制限し、Pbを検出限界未満とする一方で、Biを0.2〜0.9質量%含有し、Znを12.0〜20.0質量%、Snを1.5〜4.5質量%、Pを0.005〜0.1質量%で含有し、かつ、Zn+Snの合計含有量が21.5質量%以下であり、残部が不可避不純物とCuとからなる水道部材用銅合金が記載されている。また、追加でBを0.0003〜0.006質量%含有させる旨が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5116976号公報
【特許文献2】特許第5406405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、有害なPbを削減した銅合金は切削性や耐圧性などの性質の悪化を防ぐためにPbの代替としてBiやSiを含有させた銅合金が使用されている。一方で、水道用部材以外の鉛の浸出に関係がない機械部品などでは、鉛を使用した青銅鋳物が多く使用されている。これらの銅合金を同一ラインで製造する場合、BiやSiを含有する鉛フリー銅合金の後に鉛を含有する青銅鋳物を溶解・鋳造すると、先に製造した鉛フリー銅合金のBiやSiが溶解炉に残り、次に溶解・鋳造する青銅鋳物に混入してしまう。意図せずにこれらの元素が混入した青銅鋳物製品は製品の不良が増加したり、機械的性質を大きく低下させることがあり、製造現場の都合上、BiやSiといった元素はできるだけ使わないことが望ましい。
【0007】
また、特許文献1にかかる合金は、Zn含有量が多い範囲では脱亜鉛腐食を起こしやすいという問題があり、Pb含有量が多い範囲では鉛の浸出基準を満足できない性質となっていた。また、Biをに含有するため、上記のようなリサイクルの問題があった。さらに、Zn含有量が多くSn含有量が少ない範囲においてZrが含有された場合、半融状態からの凝固のように凝固温度範囲が狭い鋳造プロセスでは性質の改善に有効に働くが、Zn含有量が少なくSn含有量が多い範囲でZrが含有され半融状態ではなく完全な液体金属を鋳型に鋳造するプロセスの場合、凝固までの温度範囲は広くなり、Zrにかかる化合物が生成したり、引け巣を助長して機械的性質を低下させるおそれがある。
【0008】
また、特許文献2にかかる合金でも、Biを含有するため、上記のようなリサイクルの問題があった。
【0009】
そこでこの発明は、鉛の浸出を抑えるだけでなく、リサイクル性を維持しながら、好適な機械的性質と鋳造性を有する水道部材用銅合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、
Niの含有量を0.5質量%以下とし、Znを12質量%以上21質量%以下、Snを1.4質量%以上4.5質量%以下含有し、ZnとSnとの合計含有率が23.5質量%以下であり、
Pを0.005質量%以上0.15質量%以下、Pbを0.05質量%以上0.30質量%以下含有し、
Biの含有量が0.2質量%未満であり、残部がCuと不可避不純物である銅合金により、上記の課題を解決したのである。
【0011】
Biを0.2質量%未満に制限することで、リサイクルにあたって他の合金と混在しても扱うことができるようになる。一方で、Biが上記のように0.2質量%未満であっても、Pbが0.30質量%以下であれば、鉛の浸出量規制を満足しながら、Pbの添加による切削性などの性質向上効果を発揮させることができる。さらに、ZnとSnの値を複合的に調整することで、リサイクル時に影響が大きいBiを使うことなく、十分な機械的性質を発揮できるような配合となる。
【0012】
また、Niを0.5質量%以下とすることで、引け巣の発生を抑制することができる。
【0013】
さらに、この銅合金は、他の不可避不純物として混入しうる元素を限定的に含んでいてもよい。ただし、その合計量は本発明の効果を阻害しない範囲に留める必要があり、1.0質量%未満であると好ましく、かつ一つの当該元素あたりの含有量が0.5質量%未満であると好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明により、Pbの含有量を制限しつつBiを用いないことで、リサイクル性にも優れ機械的性質が良好な銅合金を得ることができ、より安全性を確保した水道部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例において引張試験評価方法に用いる供試材を採取するJISH 5120で規定するA号の模式図
図2】実施例において引張試験評価方法に用いるJISZ 2241で規定する4号試験片の模式図
図3】エロージョン−コロージョン試験の構造を示す構成図
図4】実施例において湯流れ性試験に用いる渦巻型試験形状鋳型
図5】実施例において引け巣試験に用いる階段状鋳型の構成図
図6】実施例における浸透探傷試験の結果を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、Pbを限定的に用い、Biを使わずに配合した水道部材用の銅合金である。
【0017】
上記銅合金のZn含有量は、12質量%以上である必要があり、13質量%以上であると好ましい。12質量%未満であると、切削粉が巻いた形状となり、切削性が低下してしまう。一方で、21質量%以下である必要があり、20質量%以下であると好ましく、18質量%以下であるとより好ましい。Znが多すぎると機械的性質が低下するだけでなく、亜鉛滓が増加して鋳造が困難となってしまう。
【0018】
上記銅合金のSn含有量は、1.4質量%以上である必要があり、2.0質量%以上であると好ましい。1.4質量%未満であると、Znの効果同様、切削粉が巻いた形状となり切削性が低下してしまう。また、水道用部材の表面を保護する酸化膜が水流にはぎ取られて合金の腐食が進行するエロージョンコロージョンに対する耐性が不十分となってしまう。一方で、4.5質量%以下である必要があり、4.3質量%以下であると好ましく、3.0質量%以下であるとより好ましい。Snが多すぎると伸びが低下してしまったり、砂型鋳造時に引け巣が発生したりするためである。
【0019】
上記銅合金のZnとSnとの合計含有量は、23.5質量%以下である必要があり、好ましくは21.0質量%以下である。Cuに固溶するZnが多くなりすぎると、Snの固溶度が低下し、凝固時の残留液相中にSnが濃縮され、包晶反応によってβ相を晶出しやすくなる。最終的に硬いδ相(Cu31Sn)の中にα相が点在するα+δ相がデンドライト間に生成し、材料強度低下を招く。さらに、このα+δ相近傍にBiが分散して生成することで、相乗的な強度の低下を招く。また、厚肉鋳物や砂型鋳物など、凝固速度が遅い条件で鋳造を行った場合、最終凝固するときに、Snが汗をかいたように滲み出てくるスズ汗と呼ばれる欠陥や引け巣欠陥といった鋳造欠陥が生じてしまうおそれもある。Zn+Snの合計含有量が23.5質量%を越えるとこれらの機械的性質の低下や鋳造欠陥が無視できなくなってしまう。
【0020】
上記銅合金のP含有量は、0.005質量%以上である必要があり、0.01質量%以上であると好ましい。Pは脱酸効果を発揮するので、少なすぎると鋳造時の脱酸効果が低下し、ガス欠陥が増加するだけでなく、溶湯が酸化して湯流れ性が低下してしまう。一方、0.15質量%以下である必要があり、0.05質量%以下であると好ましい。Pが増加しすぎると、鋳型の水分と反応しガス欠陥の発生や引け巣欠陥が増加し、さらには機械的性質も低下してしまう。一方、上記銅合金は、Znを多く含有しているため、Znの脱ガス効果によりガス吸収が少なく、青銅で代表されるJIS H5120 CAC406と比較して、Pが少なくても鋳造欠陥の少ない鋳物が製造できる。
【0021】
上記銅合金のPb含有量は、0.05質量%以上である必要があり、0.07質量%以上であると好ましい。Pbはわずかでも含有されることで切削性が大きく向上するが、0.05質量%未満ではその効果が不十分となるからである。一方、0.30質量%以下である必要があり、0.20質量%以下であると好ましい。Pbは本来浸出をできるだけ抑制すべき元素であり、0.30質量%を越えると、浸出試験において浸出基準値を満足することが困難になってしまう。
【0022】
上記合金のNi含有量は、0.5質量%以下である必要がある。Niは、含有しなくても良いが、安定した機械的性質を発揮する効果があると同時に、引け巣の発生を抑制する効果があり健全な鋳物を作りやすくなる。一方で、Ni含有量が0.5質量%を超えると切削性が低下しやすくなる。
【0023】
上記銅合金は残分としてCuの他に、この発明にかかる効果を阻害しない範囲で、不純物となる上記以外の元素を含有してもよい。ただし、含有する量は原材料や製造時の問題から不可避的に含有される不可避不純物として含まれる程度に抑えることが好ましい。その不可避不純物となる元素の合計量は、1.0質量%未満であると好ましく、0.5質量%未満であるとより好ましい。予期せぬ元素が多すぎると上記の元素の範囲であっても、物性に支障を来すおそれがあるからである。また、一つの元素あたりの含有量は、0.4質量%未満であると好ましい。
【0024】
上記銅合金が含有しうる不可避不純物となる元素のうち、Biの含有量は0.2質量%未満であると好ましく、0.1質量%未満であるとより好ましく、検出限界未満であると最も好ましい。Biは、Cuに固溶せずに分散するため、含有量が多いとそれだけ引張強さなどの強度低下を招きやすい。また、その分散したBiによって砂型鋳造時に引け巣が発生しやすくなる傾向にある。さらに、Biが多すぎると、上記銅合金を用いて製造した水道用部材をリサイクルするにあたり、リサイクルする合金にBiが混入することで生じる機械的性質の低下などの様々なデメリットを生じるため、当該水道用部材を別途回収しなければならなくなってしまう。
【0025】
上記銅合金が含有しうる不可避不純物となる元素のうち、Siの含有量は0.01質量%未満であると好ましく、0.005質量%未満であるとより好ましい。Siが多すぎると引け巣を助長し、健全な鋳物ができなくなってしまう。
【0026】
上記銅合金が含有しうる不可避不純物となる元素のうち、Alの含有量は0.01質量%未満であると好ましく、0.005質量%未満であるとより好ましい。Siと同様に、Alも多すぎると引け巣を助長し、健全な鋳物ができなくなってしまう。
【0027】
上記銅合金が含有しうる不可避不純物となる元素のうち、Sbの含有量は、0.05質量%未満であると好ましく、0.03質量%未満であるとより好ましく、検出限界未満であると最も好ましい。Sbは、Cu−Sn−Sb系の金属間化合物を生成しやすく、靭性が低下しやすいため、機械的性質の低下を招くおそれがある。
【0028】
上記銅合金が含有しうる不可避不純物となる元素のうち、Zrの含有量は、0.01質量%未満であると好ましく、0.0005質量%未満であるとより好ましく、検出限界未満であるとさらに好ましい。Zrが含有されることで、機械的性質の低下および引け巣を助長し、健全な鋳物ができなくなってしまう。
【0029】
上記銅合金が含有しうるその他の不可避不純物となる元素は、いずれも0.4質量%未満であると好ましく、0.2質量%未満であるとより好ましく、検出限界未満であるとさらに好ましい。このような不純物としては、例えば、Fe、Mn、Cr、Mg、Ti、Te、Se、Cdなどが挙げられる。この中でも特に、毒性が知られているSe、Cdは0.1質量%未満であることが望ましく、検出限界未満であるとさらに望ましい。
【0030】
なお、この発明における含有量の値は、原料における比ではなく、鋳造や鍛造など製造した時点における含有量を示す。
【0031】
上記銅合金の残分はCuである。この発明にかかる銅合金は、一般的な銅合金の製造方法で得ることができ、この銅合金で水道部材を製造する際には、一般的な鋳造方法(例えば砂型鋳造)により製造することができる。例えば、重油炉、ガス炉、高周波誘導溶解炉などを用いて合金の溶解を行い、各形状の鋳型に鋳造する方法が挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下、この発明にかかる銅合金を実際に製造した例を挙げて報告する。まず、銅合金に対して行う試験方法について説明する。
【0033】
<機械的性質試験>
JISH 5120で規定するA号供試材の形状に鋳造した試料から、JISZ 2241で規定する4号試験片に加工した。具体的形状は各々図1図2の通りである。このうち、図1におけるA号試験片は図中ハッチの部分であり、寸法の単位はmmである。また、図2における径dは14±0.5mm、試験片の原標点距離Lは50mm、平行部長さLは60mm以上、肩部の半径Rは15mm以上である
【0034】
この試験片について、JIS Z2241に従って引張強さと伸びとを測定した。その結果の数値と、機械的性質としての評価を示す。
・引張強さの評価は、195MPa以上を○、195MPa未満を×とした。
・伸びの評価は、15%以上を○、15%未満を×とした。
なお、この閾値は通常水道部材に用いられるJIS H5120 CAC406の基準値である。
【0035】
<エロージョンコロージョン試験>
Φ20×120mmLの金型に鋳造した試料を図3に記載のように、φ16mmの円柱状に加工したものを試験片12とし、この試験片12に対して隙間を0.4mmあけた位置に、1.6mm口径のノズル11をセットし、ノズル11から試料へ向けて1%CuCl水溶液13を流量0.4L/minの順流で5時間流し続け、試験前後における試料の重量損失(減耗量)及び最大深さを計測した。
・減耗量の評価は、150mg未満を○、150mg以上200mg未満を△、200mg以上を×とした。
・最大深さの評価は、100μm未満を○、100μm以上150μm未満を△、150μm以上を×とした。
【0036】
<切削性試験・穿孔試験>
各々の合金について、ボール盤による穿孔試験を実施した。穿孔試験は、各供試材をφ18mm×20Hの円柱試料に加工し、ボール盤を用いて円柱深部から5mm深さの孔明けにかかる時間を、表1に示す穿孔条件で測定して評価を行った。6sec未満を○、6sec以上7sec未満を△、7sec以上のものを×と評価した。
【0037】
【表1】
【0038】
<湯流れ性試験>
図4に示す渦巻き試験形状鋳型に、加熱して溶解させたそれぞれの実施例及び比較例の銅合金を鋳造し、渦巻き試験片を作製した。鋳込温度は、各々のZn含有量によって凝固開始温度が異なるため、一定の鋳込温度では、合金本来の湯流れ性が評価できない。このため、各々の合金について熱分析法により凝固開始温度を測定した後、凝固開始温度+110℃の温度で鋳造を行った。その後、鋳造した渦巻き試験片の渦巻き部の流動長を測定した。300mm以上のものを〇、280mm以上300mm未満のものを△、280mm未満のものを×と評価した。
【0039】
<鋳造欠陥試験>
<階段状供試材における浸透探傷試験>
各々の合金について、階段状供試材における浸透探傷試験を行い、鋳造欠陥に関する良否を判定した。表中「―」は実施していない例である。具体的には次の通りである。実施する各々の合金について、肉厚を10、20、30mmの3段階に変化させた図5に示すように押湯効果を少なくし鋳造欠陥を生じやすい形状とした階段状のCO鋳型を製作して(鋳込み温度1120℃)、これにより得られた鋳物の中心部を切断し、JIS Z2343浸透探傷試験に従って試験を行い、この浸透探傷試験における鋳造欠陥及び微小空隙の発生状況を観察した。引け巣欠陥やガス欠陥といった欠陥指示模様が、肉厚10、20mm部に観察されないものを〇、肉厚10mm部には観察されず肉厚20mm部に観察されるものを△、肉厚10、20mm部に観察されるものを×とし評価をおこなった。肉厚30mm部は評価対象外とした。
【0040】
<製造方法>
それぞれの元素を構成する材料を混合し、高周波誘導溶解炉にて溶製した後、CO鋳型により鋳造して表2に記載の含有量となる各々の例で供試材を作製した。なお、含有量の値は全て質量%であり、製造後の測定値である。また、比較例12として、従来から用いられていた鉛入りの青銅材料JIS H5120 CAC406を用い、物性の比較対象とした。その含有量も記載する。それぞれの得られた銅合金について、下記の試験を行った。表中「―」は検出限界未満であることを示す。なお、比較例11を除き、いずれの例においても、B、Bi、Sb、Al、Si、Feは検出限界未満であった。総合評価は、試験した項目全てが○であれば○とし、試験した項目のうち一つでも△があれば△とし、一つでも×があれば×とした。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
はじめに、比較例12のCAC406について説明する。CAC406の機械的性質は、JISの規格値である引張強さ195MPa以上、伸び15%以上となっている。また、5.38質量%のPbが含有するため、穿孔試験において良好な結果が得られた。さらに、湯流れ試験では流動長が298mmとなり、評価は△となった。一方、Pbを4〜6質量%含有するため、鉛の浸出に問題がある。
【0044】
まず、Znの含有量を変化させ、Zn以外の元素の含有量を出来るだけ近いものとした比較例1、実施例1〜4を調製した。表2、表3中の第一項目にこれらをZnの含有量順に並べた。機械的性質はいずれも引張強さ195MPa,伸び15%を上回る値を示したが、Znが12質量%未満となる比較例1では、切削にかかる時間が長くなりすぎてしまった。一方、Znが上限の21質量%に近くなる実施例4では、切削性がやや低下する傾向が見られた。
【0045】
次に、実施例2を基準としてSnの含有量を変化させ、Sn以外の元素の含有量を出来るだけ近いものとした比較例2、実施例5、6、7、比較例3を調製した。表2、表3中の第二項目にこれらをSnの含有量順に並べた。Snが下限値に近い1.43質量%である実施例5では耐エロージョン−コロージョン性がやや低下する傾向を示し、Snが0.99質量%である比較例2は耐エロージョン−コロージョン性が著しく不足してしまった。一方、Snが4.5質量%である実施例7は切削性がやや低下する傾向を示し、Snが4.5質量%を超えて4.92質量%である比較例3では伸びと切削性に問題を生じてしまった。
【0046】
次に、表2中にZn+Snの合計含有量の順に実施例5,3,4を並べ、さらにこれらよりもZn+Snの含有量が上回り、23.5質量%を上回る比較例4を調製して、表2、表3中の第三項目にZn+Snの合計含有量順に並べた。比較例4は引張強さと伸びの両方が大きく低下してしまった。
【0047】
次に、実施例2を基準としてPの含有量を変化させ、P以外の元素の含有量を出来るだけ近いものとした比較例5、実施例8,9、比較例6を調製した。表2、表3中の第四項目にこれらをPの含有量順に並べた。Pが0.005質量%未満である比較例5と、Pが0.15質量%を上回る比較例6はいずれも湯流れ性に問題を生じる結果となった。また、浸透探傷試験を行った結果を図6に示す。Pが0.15質量%を上回る比較例6では全体に引け巣を生じてしまった。なお、写真中、肉厚30mmの箇所は評価対象外であり、より薄い部分にまで赤く細かい斑点が生じている点を問題としている。比較例6以外は肉厚20mm以下の箇所には斑点が見られず、良好な結果となった。
【0048】
次に、実施例2を基準として、Pbの含有量を変化させ、Pb以外の含有量を出来るだけ近いものとした比較例7,実施例10,実施例11,比較例8を調製した。表2、表3中の第五項目にこれらをPbの含有量順に並べた。Pbが0.05質量%未満である0.03質量%の比較例7では、切削性に問題を生じることとなった。
【0049】
さらに、実施例2に近い組成で、Niを含有させた実施例13、14、15比較例9、10を調製した。いずれも機械的性質には問題がなかった。ただしNiが0.5質量%を超える比較例9、10は、切削性に問題を生じることとなった。
【0050】
さらに、実施例2に近い組成で、Biを0.3質量%含有させた比較例11を調製した。引張強さが大きく低下して機械的性質に問題を生じてしまった。また、この含有量ではリサイクル上の問題があった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6