(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
臨床検査で行われる検体検査では、患者から採取した血液、髄液、尿、便、組織や細胞等を対象とした検体中の蛋白質、酵素、電解質、金属イオン、脂質、糖質、ビタミン等の化学物質を測定することで、例えば、臓器の異常、細菌やウイルスなどによる感染の状態を把握することができることから、病気の診断、治療方針の判断及び治療効果の指標を得るための手段として用いられる。
【0003】
測定対象となる検体中の各種化学物質は、その測定値の基準値に対する多寡がすなわち対象とする臓器の異常を表すため、測定値は濃度で表し、単位として、例えば、mg/dLやmol/Lが用いられる。また、酵素やビタミンについては活性値を表し、単位として酵素単位或いは国際単位、例えば、IU/Lが利用される。
【0004】
測定対象の一つである血糖すなわちグルコースは、糖尿病患者の病態(血糖値が高い状態)を把握するために測定され、その単位には、例えば日本国内ではmg/dLが用いられる。血糖検査では、採血時点における正確な血糖値は把握できるが、血糖値は、常に変動しているため(空腹時の基準値は110mg/dL未満、食後2時間後の基準値は140mg/dL未満)、血糖の変動範囲(血糖の状態)を把握することができない。つまり糖尿病患者の治療として行われる血糖コントロールの効果を把握することができない。
【0005】
そこで、血糖コントロールの効果を把握するために、ある一定期間の血糖の状態を反映する蛋白質の糖化の程度を指標として用いる。指標としては、HbA1cやグリコアルブミンが用いられる。
【0006】
まず、HbA1cについて説明する。Hb(ヘモグロビン)は赤血球中の色素蛋白質であり、αサブユニット、βサブユニットの各2つからなるヘテロ4量体である。赤血球中のHbは、赤血球が体内を循環するうちに、非酵素的、すなわち血糖濃度依存的にグルコースと結合する。こうしてグルコースと結合したHb、糖化HbがすなわちHbA1である。HbA1には、βサブユニットに結合する糖の種類によりいくつかの種類があるが、βサブユニットのN末端にグルコースが結合したものがHbA1cであり、採血時点から過去1〜2ヶ月の血糖の状態を反映する指標として用いられる。測定値として、HbA1cの総Hbに対する割合すなわち相対量、単位として%が用いられる。
【0007】
次に、グリコアルブミンについて説明する。アルブミンは、血中蛋白質の大部分を占め、血液と共に体内を循環するうちにヘモグロビンの場合と同様に、糖と結合し、糖と結合したアルブミン、糖化アルブミンがすなわちグリコアルブミンである。グリコアルブミンは、採血時点から過去2〜3週間の血糖の状態を反映する指標として用いられる。測定値として、グリコアルブミンの総アルブミンに対する割合つまり相対量、単位として%が用いられる。
【0008】
HbA1cやグリコアルブミンの他に、測定値として測定対象物質の比較対象物質に対する割合(相対量)を用いるものとしては、アイソザイム(例えば、乳酸脱水素酵素。その存在する組織、細胞或いは細胞小器官、すなわち由来が異なるアイソザイム)が挙げられる。
【0009】
また、測定値に測定対象物質の比較対象物質に値する割合を用いるのは、比較対象物質の総量が個人、性別、年齢、罹患している疾患等によって幅があるため、測定対象物質の濃度すなわち単位容積あたりの質量等で表記しても、病態を正確に把握することはできないことが理由である。
【0010】
HbA1cを例に説明すると、ヒトの血液中の総Hb濃度は、男性では13.1〜16.6g/dLの範囲であり、女性では12.1〜14.6g/dLの範囲である。このように、総Hb濃度の基準値には男女差、個人差、個体内差がある。また、総Hb濃度は、貧血症状を引き起こす疾患(鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血など)や赤血球増加症、脱水症状などの有無によっても大きく変動する。したがって、仮にHbA1cの濃度で表したとしても、Hbは血糖濃度依存的に糖化されるため、総Hb濃度を見ない限り、すなわちHbA1cと総Hb濃度との関係を同時に把握することのできる表示値を用いない限り、血糖の状態を正確に把握することはできない。言い換えると、HbA1cの濃度は同じでも、総Hb濃度が高いヒトでは、HbA1cの総Hbに対する割合は低くなり、総Hb濃度が低いヒトではHbA1cの総Hbに対する割合は高くなるということである。
【0011】
測定値として測定対象物質の比較対象物質に対する割合を求める方法として、HbA1cを例に説明すると、第一の方法としては、HPLCを用いる方法が知られており、この方法では、測定対象物質及び比較対象物質のピークの面積から、直接、HbA1cの総Hbに対する割合を求める。
【0012】
第二の方法としては、免疫法(凝集法或いは凝集阻止法)が知られており(例えば、特許文献1、2、3参照)、試料中のHbA1c濃度と総Hb濃度をそれぞれ求めておいてから、最後にHbA1cの総Hbに対する割合を求める。
【0013】
具体的には、先ず、試料中のHbA1cとHbを変性させ、次に免疫反応を行い、免疫反応により生じる吸光度変化による試料中のHbA1c濃度と総Hb濃度をそれぞれ求めておいて、最後にHbA1cの総Hbに対する割合を求める。免疫法としては、凝集法や凝集阻止法が知られている。
【0014】
第三の方法としては、酵素法が知られており(非特許文献1、2参照)、試料中のHbA1c濃度と総Hb濃度をそれぞれ求めておいてから、最後にHbA1cの割合を求める。
【0015】
具体的には、先ず、試料中のHbA1cとHbを変性させ、次に、吸光度から総Hb濃度を求め、次に、HbA1cをプロテアーゼ処理して生じたβサブユニットN末端由来の糖化ジペプチドにフルクトシルペプチドオキシダーゼ、更にペルオキシダーゼを作用させて発生させる過酸化水素と発色剤とにより生じる発色反応を利用して吸光度を測定することでHbA1c濃度を求めてから、最後にHbA1cの総Hbに対する割合を求める。
【発明を実施するための形態】
【0033】
免疫法とは、抗原抗体反応を利用する方法であり、検出原理は、凝集法、凝集阻止法のいずれでもよく、また、抗体或いは抗原を担持させる担体を用いてもよく、用いる抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれでもよく、用いる担体としては、ラテックス、金コロイド、ゼラチン粒子など一般的に用いられる素材のものであれば人工担体素材、天然素材のいずれでもよい。凝集法における吸光度変化は、測定対象物質が存在する場合には凝集反応が生じ、吸光度が上昇するものであり、凝集阻止法では、測定対象物質が存在する場合には凝集反応が阻害されるため、吸光度の上昇が抑制されるというものである。また、吸光度の変化の速度や程度は反応系内における測定対象物質が量に応じて異なる。したがって、本発明においては、免疫法を利用した反応により生じる吸光度の増加或いは減少を吸光度変化量として利用することができる。
【0034】
酵素法とは、測定対象物を測定するために酵素と発色試薬を利用し、酵素反応の結果生じる発色に特異的な吸光度を測定することで反応を検出するものであり、使用する酵素は、例えば、HbA1cやグリコアルブミンの総ヘモグロビンや総アルブミンに対する割合を求めるための測定で通常用いられている酵素(例えば、プロテイナーゼ、フルクトシルペプチドオキシダーゼ及びペルオキシダーゼ)であればよく、また、ペルオキシダーゼの基質として一般的に用いられる発色試薬(例えば、4−AA、DMA、OPD、ADOS、TBHBA)であれば何でも使用できる。
【0035】
吸光度変化量とは、測定対象を測定するために利用する免疫法或いは酵素法において生じる反応に特異的な吸収波長における吸光度測定値であって、例えば、単波長の変化量(Δ値)、二波長(主波長と副波長)の差や比(主波長を分子、副波長を分母とした吸光度比、以下、吸光度比或いはRatioと称す。)のいずれでもよい。二波長を利用する場合の利点としては、電圧の変化による吸光度分析装置のドリフト現象による吸光度測定値への影響を回避できるといったことが挙げられる。
【0036】
比較対象物質とは、測定対象物を含む物質群であり、例えば、HbA1cに対してはHb、グリコアルブミンに対してはアルブミン、特定の型のアイソザイムに対しては同じ触媒反応を行う全てのアイソザイムを指す。
【0037】
また、比較対象物質の濃度の測定方法としては、比較対象物質を測定するための反応により生じる吸光度変化を利用する方法であればよく、例えば、Hbの場合は、Hbに特有の吸光度(例えば、420〜430nm、540nm、570nm近傍の吸収波長)の測定値を利用する方法、免疫法(例えば、凝集法、凝集阻止法)による反応で生じる吸光度変化量を利用する方法、或いは、Hbを、例えば、界面活性剤、アジ化ナトリウムやシアン化合物等で処理することで完全に酸化或いは還元した状態にし、酸化或いは還元状態において特有な吸光度の測定値を利用する方法が用いられている。また、アルブミンの場合は、Hbと同様に、免疫法を利用する方法の他に、古典的な方法として、色素結合法(或いは、蛋白誤差法ともいう)を利用して吸光度(発色特異的吸収波長)の測定値を利用する方法が用いられている。色素結合法とは、例えば、ブロムクレゾールパープル、ブロムクレゾールグリーン、pH指示薬が、pH変化とは無関係に、蛋白質の存在によって発色する反応を利用する方法である。
【0038】
比較対象物質の濃度が異なる測定対象物質の希釈系列は、2種類では、濃度係数の回帰式は2点を結んだ直線にしかなり得ず、その精度は低く、逆にその種類が多ければ多い程、本発明により得られる濃度係数の回帰式の精度は高くなるが、その分、吸光度変化量を求める作業において労力が増えるため実際的でない。したがって、本発明を実施するためには、比較対象物質の濃度が異なる測定対象物質の希釈系列を、少なくとも3種類以上、より好ましくは5種類以上用意すると良い。
【0039】
また、比較対象物質の濃度や測定対象物質の希釈系列については、測定対象により、また、免疫法や酵素法を利用した測定系により、それぞれの測定範囲に応じて設定すればよい。
【0040】
発明者らは鋭意検討を行い、次のような手順を踏んで本発明の完成に至った。
【0041】
先ず、異なる比較対象物質の濃度において、測定対象物質の希釈系列を用意し、それぞれについて、免疫法或いは酵素法を利用する反応により生じる吸光度変化量を求めた。
【0042】
次に、x軸を比較対象物質の濃度毎に測定して得られた測定対象物質の希釈系列、y軸を吸光度変化量としてプロットした検量線を作成した。例えば、免疫凝集法の場合には、比較対象物質の濃度毎に右肩上がりのシグモイド曲線をとる検量線となる。しかし、そのままでは比較対象物質の濃度毎に測定対象物質の希釈系列と吸光度との関係を示す個々の検量線としてそれぞれ独立して存在するだけで、検量線同士の関係を把握することはできない。
【0043】
そこで、x軸を[x1]=比較対象物質の濃度と測定対象物質の比較対象物質に対する割合との積、y軸を測定対象物質の吸光度変化量との関数とすることで、比較対象物質の濃度によらない測定対象物質の絶対量と吸光度変化量との関係が明確化すること、更に、
図5ではそれぞれがバラバラに存在していた複数の検量線が、一つの検量線へと収束する傾向が明らかになった。つまり、比較対象物質の濃度依存の小さい第一の検量線が得られることを見出した。
【0044】
このことは、また、比較対象物質の濃度毎の検量線それぞれにおいて係数を任意の整数、例えば1と設定するとき、それぞれの検量線が一つの検量線へと収束する傾向を示したとも言い換えることができる。
【0045】
このことから、更に、比較対象物質の濃度毎の検量線それぞれを一つの検量線へと収束させるように、比較濃度対象物質の濃度毎の検量線それぞれに対して最適化した係数(以下、濃度係数、或いは、Factorと称する)を求めることで、x軸を[x2]=比較対象物質の濃度と測定対象物質の比較対象物質に対する割合と比較対象物質の濃度毎に求めたそれぞれの濃度係数の積、y軸を吸光度変化量との関数で表したところ、比較対象物質濃度毎の複数の検量線は一本の検量線に収束した。つまり、比較対象物質の濃度への依存が第一の検量線よりも小さい第二の検量線(多重検量線)が得られることを見出した。
【0046】
更に、y軸を求めた比較対象物質の濃度毎の濃度係数、x軸を比較対象物質の濃度としてプロットすると、これらのプロットは回帰式で表すことができ、また、この回帰式を用いることで、実測値のないプロット間の(総ヘモグロビン濃度における)濃度係数をも求めることが可能となった。
【0047】
また、[x2]は、すなわち吸光度変化量[X]であり、吸光度変化量[X]は、[X]=(比較対象物質の濃度)×(測定対象物質の比較対象物質に対する割合)×(比較対象物質の濃度毎に求めた濃度係数)の関係式で表すことができることから、さらに、以下の式で表すことができる。
【0048】
測定対象物質の比較対象物質に対する割合(%)=[X]/(濃度係数×比較対象物質の濃度) (1)
したがって、比較対象物質の濃度を得ること、本発明により求めた濃度係数の回帰式と、式(1)とを用いること、及び、測定対象物質の吸光度変化量を測定することで、直接、測定対象物質の比較対象物質に対する割合を求めることができる。
【0049】
以下に、本発明のいくつかの実施の形態を、図面を参照しながら、詳細に説明する。但し、本発明はこれらに実施の形態に記載された具体例に限定されない。
【0050】
また、総Hb濃度、HbA1c、吸光度変化(変化量Δ)或いは吸光度比(Ratio)は、具体例として説明したものであり、これらを上位概念で表現とすると、それぞれ、比較対象物質の濃度、測定対象物質、吸光度変化量である。すなわち、以下の説明(図面を含む)における用語は、本発明を限定するものではない。
(第1の実施の形態)
図1Aは、免疫反応〜吸光度測定までの工程の一例を示す図である。
図1A(a)に示す担体に抗体が結合している状態において、試料である抗原を添加すると、
図1A(b)に示すように、抗原抗体反応が発生する。
図1A(c)に示すように、免疫凝集反応が生じた状態で、
図1A(d)に示すように吸光度測定を行う。このような一般的な抗原抗体反応と吸光度測定とを利用して、同様にHbA1cの濃度を求めることもできる。また、図では担体に2種類の抗体を担持させて、一種類の抗原と反応する例を示したが、抗原と抗体が逆であってもよい。
【0051】
以下に、HbA1cの総Hbに対する割合を求める方法について説明する。
【0052】
図1Bは、本発明の第1の実施の形態によるHbA1c濃度の測定技術を模式的に示す図であり、
図1Cは、HbA1c濃度の測定装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
【0053】
本実施の一つの形態として、HbA1cの総Hbに対する割合を求めるための試薬に、抗HbA1c抗体および抗HbA0抗体を担持させた金コロイドを用いる凝集反応に基づくHbA1c測定試薬が使用できる。
【0054】
図1Bに示すように、金コロイドを用いる凝集反応では、例えば、HbA1cを含む検体(血液)1と、抗HbA1c抗体および抗HbA0抗体による金コロイド凝集反応を生じさせるためのHbA1c測定試薬2を混合して反応をさせる。HbA1c測定試薬2は、抗HbA1c抗体を担持させた金コロイド3と、抗HbA0抗体を担持させた金コロイド5とを含む。検体1とHbA1c測定試薬2とにより、検体1中のHbA1cとの抗原抗体反応による凝集塊7の生成を、例えば光学的手法により検出することができる。
【0055】
金コロイドは、コロイド粒子の表面プラズモン共鳴により呈色し、粒径の変化により色調が変化することが知られており、金コロイドを用いる凝集反応では、これを利用し、凝集塊7の生成を反応液の色調変化(赤色から青色、最終的に金色への変化)、すなわち吸収スペクトルの経時変化として観察、測定することができる。
【0056】
図1Cに示すように、例示的に示す本実施の形態によるHbA1c濃度の測定装置Aは、発光部11と、反応セル15と、受光部21と、発光部11,受光部21を制御する制御部23と、を有している。発光部11からの発光が検体1に照射され、その透過光が受光部21に受光される。制御部23により制御される発光と受光との関係に基づいて、検体1の光学的特性を評価することができる。この例では、発光部11には、発光波長の異なる2つのLED11a、11bが設けられている。
図2以下では、分光分析を行っているが、実際の装置としては、
図1Cに示すような簡単な装置を用いることが好ましい。
【0057】
制御部23は、比較対象物質の濃度が異なる測定対象物質の希釈系列と、前記測定試薬との反応が進行することで生じる前記測定対象物質の希釈系列それぞれの吸光度変化量を求めて得られる複数の検量線が、一つの検量線に収束するような濃度係数を比較対象物質の濃度毎に求める過程において、
測定対象物質の比較対象物質に対する割合(%)=[X]/(濃度係数×比較対象物質の濃度) (1)
を得る第1処理部23a(
図11B等参照)と、比較対象物質の濃度毎の濃度係数と比較対象物質の濃度との関係をあらわす回帰式を求める第2処理部23b(
図12等参照)とを有する。
【0058】
第1処理部23aと第2処理部23bとの処理の詳細については、後述する。
【0059】
尚、測定装置は、吸光度測定(分光分析装置)ができるものであればよく、光源は、LEDや特定の二波長に限定されるものではない。
【0060】
図2は、抗体を担持させた金コロイド凝集反応の吸収スペクトルを分光光度計で測定した結果の一例を示す図である。横軸が波長、縦軸が吸光度であり、経過時間毎の解析結果(測定結果)が示されている。
【0061】
図2に示すように、検体と試薬とを用いて反応させた試料に照射した光の波長525nm付近の吸光度の減少および試料に照射した光の630nm付近の吸光度の上昇がみられた。この吸光度の変化は、金コロイド凝集反応に起因するものであり、吸光度は、凝集度合いの目安になる。
【0062】
波長525nm付近は、金コロイド凝集反応の経時変化において吸光度が低下する波長範囲内であれば、この波長に限定されない。また、波長630nm付近は、金コロイド凝集反応の経時変化において吸光度が上昇する波長範囲内であれば、この波長に限定されない。
【0063】
従って、この吸光度の変化(減少、増加の少なくともいずれか一方)に基づいて、HbA1cの量を求めることができる。但し、吸光度の経時変化の変化量(絶対値)が微少である場合、例えば、アンプなどを用いて信号を増幅し、吸光度の経時変化を精度良く求めることもできる。或いは、2つの波長を利用する方法も考えられる。
【0064】
例えば、
図3は、
図2のデータに基づいて得られる図であり、波長525nmにおける吸光度と波長630nmにおける吸光度の比率、吸光度525nm/吸光度630nm(以下、「吸光度比(Ratio)」と称する。)を求め、反応開始時間(時間=0)からの経過時間依存性を示した図である。
図3に示すように、吸光度の経時的な減少(吸光度比(Ratio)の減少速度)は、HbA1c濃度に依存することがわかる。
【0065】
尚、この場合も、波長525nm付近は、金コロイド凝集反応の経時変化において吸光度が低下する波長範囲内であれば、測定波長はこの波長に限定されない。また、波長630nm付近は、金コロイド凝集反応の経時変化において吸光度が大きくなる波長範囲内であれば、これらの波長に限定されるものではない。
【0066】
図3より、吸光度比(Ratio)の経時変化が顕著に観測できるため、吸光度比(Ratio)を用いることで、測定対象であるHbA1cの総Hbに対する割合を簡単に計測することができる可能性があることが理解できる。
【0067】
測定対象であるHbA1cの総Hbに対する割合は、赤血球中に含まれる総Hbに占める安定型β鎖monoglycated Hb(Hbのβ鎖にグルコースが1分子安定的に結合したHb)の割合で定義される。従って、HbA1cの総Hbに対する割合を算出するためには、分母となる総Hb濃度の算出も必要である。
【0068】
そこで、この点も考慮したHbA1cの総Hbに対する割合の測定技術について、以下に詳細に説明する。
(溶血希釈後の総Hb濃度測定)
図10は、本実施の形態による処理の一例を示すフローチャート図である。
【0069】
まず、検体の前処理として、全血を溶血(赤血球を崩壊させてHbを血球外に溶出させる処理)させる(ステップS1)。
【0070】
次いで、総Hb濃度測定用検量線を、以下のようにして作成した。
【0071】
溶血に用いた前処理液を希釈液として使用し、段階希釈したHb濃度が既知(終濃度0.5〜2.5mg/mL)のキャリブレーターを測定した際の波長405nmにおける吸光度を測定する(ステップS2)。Hbの特徴的な吸収波長(付近)である405nmにおける吸光度を横軸、既知の総Hb濃度を縦軸にとった。
【0072】
図4は、総Hb濃度yと吸光度xとの関係を示す図であり、この相関図から、総Hb濃度測定用検量線を求めることができる。
【0073】
以下の式で表され
図4に例示される検量線が求められ(ステップS3)、この例では、3次回帰線となっている。
【0074】
y=201.67x
3+47.65x
2+15.059x−0.3409、R
2=0.9973 (2)
この検量線により、総Hb濃度を求めることができる(ステップS4)。
(HbA1cの定量測定)
総Hb濃度は、単純な吸光度測定により測定することが可能である。しかしながら、抗原抗体反応によるHbA1c定量測定は、抗原と抗体との量的バランスの中で行われる。また、上記のように、HbA1cの濃度(すなわち、測定反応系内のHbA1cの絶対量)は可変値である総Hb濃度によっても変動する。
【0075】
そこで、以下のように、総Hb濃度が0.5、0.75、1.0、1.5、2.0、2.5mg/mLで、HbA1cの総Hbに対する割合が3.7〜15.3%の検体を用いて測定を行った。
【0076】
図5は、反応開始5分後のHbA1cの総Hbに対する割合と波長525nmにおける吸光度変化(変化量Δ)をプロットしたグラフである。
図5に示すように、HbA1cの総Hbに対する割合と吸光度変化との間に測定反応系内のHbA1cの絶対量への依存が認められる。吸光度変化は、測定反応系内のHbA1cの絶対量に依存しているため、同一のHbA1cの総Hbに対する割合でも総Hb濃度によって異なる吸光度変化を示すことがわかる。
【0077】
図5における横軸はHbA1cの総Hbに対する割合であるが、
図5をみればわかるように、HbA1cの総Hbに対する割合に対する吸光度変化(変化量Δ)は、所定のHbA1c範囲(図では、6%から12%程度)で、総Hb濃度にほぼ比例するようになっていることがわかる。
【0078】
図5より、HbA1cの総Hbに対する割合を決定する(
図10、ステップS5)。
【0079】
以上に説明したように、本実施の形態では、
図5に示すような総Hb濃度に依存する検量線に基づいて、吸光度変化(変化量Δ)に依存するHbA1cの総Hbに対する割合を求めることができる。
【0080】
尚、このような検量線として、後述する
図14に示す検量線を用いることもできる。
(第2の実施の形態)
以下、本発明の第2の実施の形態について詳細に説明する。
【0081】
第1の実施の形態では、
図5のように、総Hb濃度毎に網羅的に検量線を設定する必要があり、HbA1cの濃度決定のための処理が煩雑になる。
【0082】
以下に、上記のような課題を解決するための第1の実施の形態のステップS5に代えて行う処理方法について詳細に説明する。
【0083】
本実施の形態では、吸光度変化(変化量Δ)、例えば、波長525nm(
図2参照)における吸光度の経時変化に基づく手法について説明する。
【0084】
図5は、第1の実施の形態でも説明したように、反応開始5分後のHbA1c濃度と波長525nmにおける吸光度変化(変化量Δ)をプロットしたグラフである。
図5に示すように、吸光度変化がHbA1cの総Hbに対する割合に依存する関係が認められる。吸光度変化(変化量Δ)は、HbA1cの濃度(測定反応系内のHbA1cの絶対量)に依存しているため、同一のHbA1cの割合であっても総Hb濃度によって異なる吸光度変化を示すことがわかる。
【0086】
まず、
図5における横軸はHbA1cの総Hbに対する割合であるが、
図5にみられるように、HbA1cの総Hbに対する割合に対する吸光度変化(変化量Δ)は、総Hb濃度にほぼ比例するようになっていることがわかる。
【0087】
ここで、
図6に示すように、横軸を総Hb濃度×HbA1cの総Hbに対する割合=[x
1]とすると、
図5では総Hb濃度に大きく依存していた吸光度変化(変化量Δ)とHbA1cの割合の関係が、吸光度変化(変化量Δ)と[x
1]とは1つの関係として収束していく傾向を有することがわかった。[x
1]は、総Hb濃度×HbA1cの総Hbに対する割合であり、総Hb濃度を考慮した第1のHbA1c濃度と言うことができる。
【0088】
但し、
図6に示すように、吸光度変化(変化量Δ)が大きい[x
1]の範囲においては、総Hb濃度依存が残っており収束があまり良くないことがわかる。そこで、
図6の収束が良くなるように、すなわち、吸光度変化(変化量Δ)と[x
1]との関係が総Hb濃度に依存せずに相関性が高くなるように、総Hb濃度に依存する補正係数(濃度係数:Factor)をもたせた。
【0089】
ここでは、例示的に
図7Aに示すように、総Hb濃度が1.50mg/mLの時にFactorが1.00となり、総Hb濃度が低くなると高くなり総Hb濃度が高くなると低くなるように、濃度係数Factorを設定した(ステップS6)。
【0090】
そして、
図6に関して、横軸を、[x
2]=総Hb濃度×Factor×HbA1cの総Hbに対する割合=濃度係数Factor×[x
1]とする。そして、吸光度変化(変化量Δ)と[x
2]との関係が1つに収束するように、総Hb濃度毎に濃度係数Factorを求める(ステップS7)。
【0091】
すると、
図7Bに示すように、Hb濃度に関してほぼ単調減少となる濃度係数Factorを求めることができる。
【0092】
図7Bは、総Hb濃度yと濃度係数zとの回帰曲線を示す図であり、以下の回帰式で表すことができる。この例では、3次回帰式となっている。
【0093】
y=−0.1892z
3+1.014z
2−2.0729z+2.492、R
2=0.9792 (3)
この回帰式により、総Hb濃度から、その総Hb濃度における濃度係数を求めることができる。
【0094】
図8は、
図7Bに示す濃度係数Factorを用いて、[x
2]と吸光度変化(変化量Δ)との関係を求めた図である。
図8に示すように、[x
2]の全ての範囲において、総Hb濃度に依存しない[x
2]と吸光度変化(変化量Δ)との関係を求めることができる。
【0095】
[x
2]は、総Hb濃度×HbA1cの総Hbに対する割合×濃度係数(Factor)であり、総Hb濃度とその濃度係数とを考慮した第2のHbA1cの総Hbに対する割合と言うことができる。
【0096】
また、
図8のx軸とy軸とを入れ替えると、
図9に示すように、吸光度変化(変化量Δ)と[x
2]との関係を、総Hb濃度に依存しないようにして一律に求めることができる(ステップS8)。
【0097】
すなわち、
図9に示す検量線を用いることで、下記の式(4)より、HbA1cの総Hbに対する割合を従来よりも簡単な処理によって求めることができる。[x
2]は、すなわち吸光度変化量[X]である。
【0099】
以上のように、本実施の形態によれば、検量線を1つとして、HbA1cの濃度を簡単に求めることができる。
【0100】
尚、濃度係数Factorは、試薬に依存するため、異なるロットの試薬を用いる場合には、
図7Bの関係を新たに求めることが好ましい。
【0101】
図12、
図13は、濃度係数Factorを求める、上記
図11AのS7の処理例を示すフローチャート図である。
【0102】
まず、ステップS7−1において、異なる総Hb濃度毎にHbA1cの希釈系列(希釈した試料)について吸光度を測定する。
【0103】
ステップS7−2において、全ての希釈系列について、測定した吸光度から吸光度変化として吸光度変化(変化量Δ)、或いは、第3の実施の形態において後述する吸光度比(Ratio)を求める。
【0104】
ステップS7−3において、異なる総Hb濃度それぞれの濃度係数Factorをすべて任意の整数に固定するとき、[x
2]と吸光度変化量、或いは、吸光度比(Ratio)のR
2を求める。
【0105】
ステップS7−4において、異なる総Hb濃度毎に濃度係数Factorを最適化する。
【0106】
最適化の手順は、
図13を参照して例示する。
【0107】
ステップS7−5において、総Hb濃度と濃度係数Factorのn次回帰式を作成する。この図が、例えば
図7Bである。
【0108】
図13に示すように、ステップS7−4における、異なる総Hb濃度毎に濃度係数Factorを最適化する処理について以下に説明する。
【0109】
図13において、一巡目、すなわち、n=1においては、以下の通りである。
【0110】
ステップS21−1: 最適化対象の総Hb濃度以外のそれぞれの濃度における濃度係数Factorを任意の整数に固定し、最適化対象の総Hb濃度において[x]と吸光度変化(変化量Δ)或いは吸光度比(Ratio)のR
2が最大になる濃度係数Factorを求める。
【0111】
ステップS21−2: ステップS21−1で最適化対象とした濃度において求めた濃度係数Factorを用い、新たに最適化対象とする濃度を除いた残りの各濃度における濃度係数FactorをステップS21−1で用いた任意の整数に固定し、最適化対象の総Hb濃度において、[x]と吸光度変化(変化量Δ)或いは吸光度比(Ratio)のR
2が最大になる濃度係数Factorを求める。
【0112】
ステップS21−3: ステップS21−1、2で最適化対象としたそれぞれの濃度において求めたFactorを用い、新たに最適化対象とする濃度を除いた残りの各濃度におけるFactorにステップS21−1で用いた任意の整数に固定して、最適化対象の総Hb濃度において[x]と吸光度変化(変化量Δ)或いは吸光度比(Ratio)のR
2が最大になる濃度係数Factorを求める。
【0113】
ステップS21−4以降: 残りの各濃度についても、順次、同様に、前のステップで求めた濃度係数Factorを用いて、各濃度において[x]と吸光度変化(変化量Δ)或いは吸光度比(Ratio)のR
2が最大になる濃度係数Factorを求める。
【0114】
二巡目以降、すなわち、n≧2においては、以下の処理を行う。
【0115】
ステップS22−1: 最適化対象の総Hb濃度以外のそれぞれの濃度における濃度係数Factorに一巡前で求めたそれぞれの濃度係数Factorを用い、最適化対象の総Hb濃度において[x]と吸光度変化(変化量Δ)或いは吸光度比(Ratio)のR
2が最大になる濃度係数Factorを求める。
【0116】
ステップS22−2: ステップS22−1で最適化対象とした濃度においては求めた濃度係数Factorを用い、新たに最適化対象とする濃度を除いた残りの各濃度における濃度係数Factorに一巡前で求めたそれぞれの濃度係数Factorを用い、最適化対象の総Hb濃度において[x]と吸光度変化(変化量Δ)或いは吸光度比(Ratio)のR
2が最大になる濃度係数Factorを求める。
【0117】
ステップS22−3: ステップS22−1、ステップS22−2で対象としたそれぞれの濃度において求めた濃度係数Factorを用い、新たに最適化対象とする濃度を除いた残りの各濃度における濃度係数Factorに一巡前で求めた各濃度におけるそれぞれの濃度係数Factorを用いて、最適化対象の総Hb濃度において、[x]と吸光度変化(変化量Δ)或いは吸光度比(Ratio)のR
2が最大になる濃度係数Factorを求める。
【0118】
ステップS22−4以降: 残りの各濃度についても、順次、同様に、前のステップで求めた濃度係数Factorを用いて、各濃度において[x]と吸光度変化(変化量Δ)或いは吸光度比(Ratio)のR
2が最大になる濃度係数Factorを求める。
【0119】
ステップS22−1からステップS22−4の処理を繰り返す。
【0120】
ステップS23において、最終ステップとして、各総Hb濃度における濃度係数Factorが一巡前の値と同じになるとき、Factorの最適化処理は終了する。
【0121】
以上のように、異なる総Hb濃度毎に濃度係数Factorの最適化処理を行っていき、
図7Bに示すような濃度係数FactorがHb濃度に依存する関係を求めることができる。尚、
図12、13に示した最適化手法以外の手法であっても、異なる総Hb濃度毎に濃度係数Factorを最適化できる処理であれば利用できる。
【0123】
図11Bは、
図11Aに続く図であり、測定値算出の手順をまとめたフローチャート図である。
1)総Hb濃度を測定する(検量線:吸光度405nm vs 総Hb濃度)(ステップS11)。
2)HbA1cを含む試料の金コロイド凝集反応による吸光度変化量(本実施の形態では吸光度変化(変化量Δ))を測定する(ステップS12)。
3)1)(ステップS11)で得られた総Hb濃度と、総Hb濃度と濃度係数の関係を表す回帰式(3)からFactorを算出する(検量線:総Hb濃度 vs Factor)(ステップS13)。
4)上記の式(4)に各値を代入し、HbA1cの総Hbに対する割合を算出する(ステップS14)。
【0124】
以上のようにして、本実施の形態によれば、総Hb濃度に依存しない単一の検量線(多重検量線)を用いることで、吸光度の測定値から、HbA1cの総Hbに対する割合を簡単に求めることができる。
【0125】
以上のように、HbA1cの総Hbに対する割合 vs 吸光度変化量は総Hb濃度毎に独立した曲線を描くが、本実施の形態によれば、総Hb濃度依存的な係数Factorを設定すると、総Hb濃度によらず吸光度変化量vs[X]は1本の曲線に収束する。従って、総Hb濃度毎に何本も網羅的に検量線を作成しなくてもHbA1cの総Hbに対する割合の測定が可能となる。
(第3の実施の形態)
以下、本発明の第3の実施の形態について詳細に説明する。
【0126】
本実施の形態では、吸光度変化の指標として吸光度比(吸光度525nm/吸光度630nm)を変数として、HbA1cの濃度を求めるための検量線を求めた。
【0127】
図14は、総Hb濃度が0.5、0.75、1.0、1.5、2.0、2.5mg/mLで、HbA1cの総Hbに対する割合が3.7〜15.3%の検体を用いて測定を行った際の反応開始5分後のHbA1cの総Hbに対する割合と波長525nmにおける吸光度と波長630nmにおける吸光度の比率、すなわち吸光度比(Ratio)をプロットしたグラフである。
【0128】
まず、
図14における横軸はHbA1cの総Hbに対する割合であるが、
図14をみればわかるように、HbA1cの総Hbに対する割合に対する吸光度比(Ratio)は、総Hb濃度にほぼ反比例するようになっていることがわかる。
【0129】
そこで、
図15に示すように、横軸を総Hb濃度×HbA1cの総Hbに対する割合=[x
1]とすると、図
14では総Hb濃度に大きく依存していた吸光度比(Ratio)とHbA1cの総Hbに対する割合と関係が、吸光度比(Ratio)と[x
1]とは1つの関係として収束していく傾向を有することがわかった。[x
1]は、総Hb濃度×HbA1cの総Hbに対する割合であり、総Hb濃度を考慮した第1のHbA1cの総Hbに対する割合と言うことができる。
【0130】
但し、
図15に示すように、吸光度比(Ratio)の変化が大きい[x
1]の範囲においては、総Hb濃度依存が残っており収束があまり良くないことがわかる。そこで、
図15の収束が良くなるように、すなわち、吸光度比(Ratio)と[x
1]との関係が総Hb濃度に依存せずに相関性が高くなるように、第2の実施の形態と同様に総Hb濃度に依存する補正係数(濃度係数:Factor)をもたせた。
【0131】
ここでは、例示的に
図16Aに示すように、総Hb濃度が1.50mg/mLの時にFactorが1.00となり、総Hb濃度が低くなると高くなり、総Hb濃度が高くなると低くなるように、濃度係数Factorを設定した(
図11A、ステップS6)。
【0132】
そして、
図15に関して、横軸を、[x
2]=総Hb濃度×Factor×HbA1cの総Hbに対する割合=濃度係数Factor×[x
1]とする。そして、吸光度比(Ratio)と[x
2]との関係が1つに収束するように、濃度係数Factorを求める(
図11A、ステップS7)。
【0133】
すると、
図16Bに示すように、Hb濃度に関して単調減少となる濃度係数Factorを求めることができる。
【0134】
図16Bは、総Hb濃度yと濃度係数zとの回帰曲線を示す図であり、以下の回帰式で表すことができる。この例では、3次回帰式となっている。
【0135】
y=−0.0871z
3+0.5819z
2−1.508z+2.2185、R
2=0.9984 (5)
この回帰式により、総Hb濃度から、その総Hb濃度における濃度係数を求めることができる。
【0136】
図17は、
図16Bに示す濃度係数Factorを用いて、[x
2]と吸光度比Ratioとの関係を求めた図である。
図17に示すように、[x
2]の全ての範囲において、総Hb濃度に依存しない[x
2]と吸光度比(Ratio)との関係を求めることができる。
【0137】
[x
2]は、総Hb濃度×HbA1cの総Hbに対する割合×濃度係数(Factor)であり、総Hb濃度とその濃度係数とを考慮した第2のHbA1cの総Hbに対する割合と言うことができる。
【0138】
また、
図17のx軸とy軸とを入れ替えると、
図18に示すように、吸光度比(Ratio)と[x
2]との関係を、総Hb濃度に依存しないようにして一律に求めることができる(
図11A、ステップS8)。
【0139】
すなわち、
図18に示す検量線を用いることで、下記の式(6)より、HbA1cの濃度を従来よりも簡単な処理によって求めることができる。[x
2]は、すなわち吸光度変化量[X]である。
【0141】
本実施の形態においては、吸光度変化量として吸光度比(Ratio)をパラメータとして用いたため、吸光度の変化量が小さい場合でも、変化量を大きくして検量線を作成することができる。また、HbA1cの総Hbに対する割合を精度良く測定することができる。
1)総Hb濃度を測定する(検量線:吸光度405nm vs 総Hb濃度)(
図11B、ステップS11)。
2)HbA1cを含む試料の金コロイド凝集反応による吸光度変化量として吸光度比(Ratio)を測定する(
図11B、ステップS12)。
3)1)(
図11B、ステップS11)で得られた総Hb濃度と、総Hb濃度と濃度係数の関係を表す回帰式(5)からFactorを算出する(検量線:総Hb濃度 vs Factor)(
図11B、ステップS13)。
4)上記の式(6)に各値を代入し、HbA1cの総Hbに対する割合を算出する(
図11B、ステップS14)。
【0142】
以上のようにして、本実施の形態によれば、総Hb濃度に依存しない単一の検量線(多重検量線)を用いることで、吸光度の測定値から、HbA1cの総Hbに対する割合を簡単に求めることができる。
【0143】
以上のように、HbA1cの総Hbに対する割合 vs 吸光度変化量は総Hb濃度毎に独立した曲線を描くが、本実施の形態によれば、総Hb濃度依存的な係数Factorを設定すると、総Hb濃度によらず吸光度変化量vs[X]は1本の曲線に収束する。従って、総Hb濃度毎に何本も網羅的に検量線を作成しなくてもHbA1cの総Hbに対する割合の測定が可能となる。
(第4の実施の形態)
第2の実施の形態と同様に、本発明の第4の実施の形態では、吸光度の変化(変化量Δ)、例えば、波長525nm(
図2参照)における吸光度の経時変化に基づく手法について説明する。但し、濃度の異なる測定対象物質の希釈系列を3種類とした例を示している。
【0144】
図19は、総Hb濃度が1.0、2.0、2.5 mg/mLで、HbA1cの総Hbに対する割合が5.7〜15.3%の検体を用いて測定を行った際の反応開始5分後のHbA1cの総Hbに対する割合と波長525nmにおける吸光度変化(変化量Δ)をプロットしたグラフである。
【0145】
まず、
図19における横軸はHbA1cの総Hbに対する割合であるが、
図19にみられるように、HbA1cの総Hbに対する割合に対する吸光度変化(変化量Δ)は、総Hb濃度にほぼ比例するようになっていることがわかる。
【0146】
そこで、
図20に示すように、横軸を総Hb濃度×HbA1cの総Hbに対する割合=[x
1]とすると、
図19では総Hb濃度に大きく依存していた吸光度変化(変化量Δ)とHbA1cの総Hbに対する割合との関係が、吸光度変化(変化量Δ)と[x
1]とは1つの関係として収束していく傾向を有することがわかった。[x
1]は、総Hb濃度×HbA1cの総Hbに対する割合であり、総Hb濃度を考慮した第1のHbA1cの総Hbに対する割合と言うことができる。
【0147】
但し、
図20に示すように、吸光度変化(変化量Δ)が大きい[x
1]の範囲においては、総Hb濃度依存が残っており収束があまり良くないことがわかる。そこで、
図20の収束が良くなるように、すなわち、吸光度変化(変化量Δ)と[x
1]との関係が総Hb濃度に依存せずに相関性が高くなるように、第2、3の実施の形態と同様に総Hb濃度に依存する補正係数(濃度係数:Factor)をもたせた。
【0148】
ここでは、例示的に
図21Aに示すように、総Hb濃度が2.00mg/mLの時にFactorが1.00となり、総Hb濃度が低くなると高くなり、総Hb濃度が高くなると低くなるように、濃度係数Factorを設定した(
図11A、ステップS6)。
【0149】
そして、
図20に関して、横軸を、[x
2]=総Hb濃度×Factor×HbA1cの総Hbに対する割合=濃度係数Factor×[x
1]とする。そして、吸光度変化(変化量Δ)と[x
2]との関係が1つに収束するように、濃度係数Factorを求める(
図11A、ステップS7)。
【0150】
すると、
図21Bに示すように、Hb濃度に関して単調減少となる濃度係数Factorを求めることができる。
【0151】
図21Bは、総Hb濃度yと濃度係数zとの回帰曲線を示す図であり、以下の回帰式で表すことができる。この例では、2次回帰式となっている。
【0152】
y=0.18z
2−0.93z+2.18、R
2=1 (7)
この回帰式により、総Hb濃度から、その総Hb濃度における濃度係数を求めることができる。
【0153】
図22は、
図21Bに示す濃度係数Factorを用いて、[x
2]と吸光度変化(変化量Δ)との関係を求めた図である。
図22に示すように、[x
2]の全ての範囲において、総Hb濃度に依存しない[x
2]と吸光度変化(変化量Δ)との関係を求めることができる。
【0154】
[x
2]は、総Hb濃度×HbA1cの総Hbに対する割合×濃度係数(Factor)であり、総Hb濃度とその濃度係数とを考慮した第2のHbA1cの総Hbに対する割合と言うことができる。
【0155】
また、
図22のx軸とy軸とを入れ替えると、
図23に示すように、吸光度変化(変化量Δ)と[x
2]との関係を、総Hb濃度に依存しないようにして一律に求めることができる(
図11A、ステップS8)。
【0156】
すなわち、
図22に示す検量線を用いることで、下記の式(8)より、HbA1cの濃度を従来よりも簡単な処理によって求めることができる。[x
2]は、すなわち吸光度変化(変化量Δ)[X]である。
【0158】
以上のようにして、本実施の形態によれば、濃度の異なる測定対象物質の希釈系列を3種類として求めた総Hb濃度に依存しない単一の検量線(多重検量線)を用いることで、吸光度の測定値から、HbA1cの総Hbに対する割合を簡単に求めることができる。
1)総Hb濃度を測定する(検量線:吸光度405nm vs 総Hb濃度)(
図11B、ステップS11)。
2)HbA1cを含む試料の金コロイド凝集反応による吸光度変化量(本実施の形態では吸光度変化(変化量Δ))を測定する(
図11B、ステップS12)。
3)1)(
図11B、ステップS11)で得られた総Hb濃度と、総Hb濃度と濃度係数の関係を表す回帰式(7)からFactorを算出する(検量線:総Hb濃度 vs Factor)(
図11B、ステップS13)。
4)上記の式(8)に各値を代入し、HbA1cの総Hbに対する割合を算出する(
図11B、ステップS14)。
【0159】
以上のように、HbA1cの総Hbに対する割合 vs 吸光度変化量は総Hb濃度毎に独立した曲線を描くが、本実施の形態によれば、総Hb濃度依存的な係数Factorを設定すると、総Hb濃度によらず吸光度変化量vs[X]は1本の曲線に収束する。従って、総Hb濃度毎に何本も網羅的に検量線を作成しなくてもHbA1cの総Hbに対する割合の測定が可能となる。
【0160】
処理および制御は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)によるソフトウェア処理、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)によるハードウェア処理によって実現することができる。
【0161】
また、上記の実施の形態において、添付図面に図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0162】
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
【0163】
例えば、吸光度測定部と制御部とが一体の装置であっても良い。或いは、個別の(独立した)装置でも良い。
【0164】
また、制御部は、測定対象物質の比較対象物質に対する割合を求める方法を実行するプログラム或いは測定対象物質の比較対象物質に対する割合を求める方法により得られた回帰式を、内蔵するようにしても良く、装置の外部から読み込んで実行するようにしても良い。
【0165】
例えば、
図1Cのうち、発光部11と、反応セル15と、受光部21と、を有する携帯形態可能な検査用の端末(検査装置)を制御部とは別体に形成しても良い。そして、検査用の端末により測定された測定値を、図示しない有線又は無線通信部により、管理センタなどに設けられる制御部23に送り、検査結果を管理センタ側で求めるようにしても良い。或いは、検査結果を検査用端末に返信してもらうようにしても良い。
【0166】
このようにすれば、検査用の端末(検査装置)のみを用いて、検体の検査を行うことも可能である。
【0167】
さらに、回帰式の情報は、測定(試験)用チップに内蔵される試薬の製造ロット毎に変化することから、予め本発明の方法により得られた回帰式の情報を測定(試験)用チップに記憶させるようにしても良い。
【0168】
また、本実施の形態で説明した機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。尚、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。