【文献】
Shu, Z. et al.,Hematopoietic SCT with cryopreserved grafts: adverse reactions after transplantation and cryoprotectant removal before infusion,Bone Marrow Transplant.,2014年,Vol. 49,pp. 469-476
【文献】
[12]ジメチルスルホキシド,化学物質の環境リスク評価 第7巻[online],2009年 3月,[retrieved on 4.11.2019],URL,https://www.env.go.jp/chemi/report/h21-01/pdf/chpt1/1-2-2-12.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2.0〜6.0(w/v)%のトレハロース若しくはその誘導体又はそれらの塩と、4.0〜7.0(w/v)%のデキストラン若しくはその誘導体又はそれらの塩と、ジメチルスルホキシド又はグリセリンとを含む等張液からなる哺乳動物細胞凍結保存液からなることを特徴とする哺乳動物細胞投与用液であって、前記ジメチルスルホキシドの濃度が、15(v/v)%以下である、前記哺乳動物細胞投与用液。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の哺乳動物細胞凍結保存液は、「哺乳動物細胞を凍結保存するため」という用途に限定された、トレハロース類とデキストラン類とDMSO及び/又はグリセリンとを含む等張液(以下、「本件凍結保存液」ということがある)からなる液である。
【0015】
上記等張液としては、体液や細胞液の浸透圧とほぼ同じになるようにナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等によって塩濃度や糖濃度等を調整した等張液であれば特に制限されず、具体的には生理食塩水や、緩衝効果のある生理食塩水(リン酸緩衝生理食塩水[Phosphate buffered saline;PBS]、トリス緩衝生理食塩水[Tris Buffered Saline;TBS]、HEPES緩衝生理食塩水等)、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、5%グルコース水溶液、動物細胞培養用基礎培地(DMEM、EMEM、RPMI−1640、α−MEM、F−12、F−10、M−199等)、等張剤(ブドウ糖、D−ソルビトール、D−マンニトール、ラクトース、塩化ナトリウム等)などを挙げることができ、これらの中でも乳酸リンゲル液が好ましい。等張液は、市販のものであっても、自ら調製したものであってもよい。市販のものとしては、大塚生食注(大塚製薬工場社製)(生理食塩液)、リンゲル液「オーツカ」(大塚製薬工場社製)(リンゲル液)、ラクテック(登録商標)注(大塚製薬工場社製)(乳酸リンゲル液)、乳酸リンゲル液「KS」(共立製薬社製)(乳酸リンゲル液)、ヴィーンF輸液(興和興和創薬社製)(酢酸リンゲル液)、大塚糖液5%(大塚製薬工場社製)(5%グルコース水溶液)、ビカネイト輸液(大塚製薬工場社製)(重炭酸リンゲル液)を挙げることができる。本明細書において「等張」とは、浸透圧が250〜380mOsm/Lの範囲内であることを意味する。
【0016】
上記トレハロース類におけるトレハロースとしては、2つのα-グルコースが1,1−グリコシド結合した二糖類であるα,α−トレハロースの他に、α-グルコースとβ−グルコースとが1,1−グリコシド結合した二糖類であるα,β−トレハロースや、2つのβ−グルコースが1,1−グリコシド結合した二糖類であるβ,β−トレハロースを挙げることができるが、これらの中でもα,α−トレハロースが好ましい。これらトレハロースは、化学合成、微生物による生産、酵素による生産等のいずれの公知の方法によっても製造することができるが、市販品を用いることもできる。例えば、α,α−トレハロース(株式会社林原社製)、α,α−トレハロース(和光純薬社製)等の市販品を挙げることができる。
【0017】
上記トレハロース類におけるトレハロース誘導体としては、二糖類のトレハロースに1又は複数の糖単位が結合したグリコシルトレハロース類であれば特に制限されず、グリコシルトレハロース類には、グルコシルトレハロース、マルトシルトレハロース、マルトトリオシルトレハロース等が含まれる。
【0018】
上記トレハロース類におけるトレハロースやその誘導体の塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩や、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などを挙げることができる。なお、これらの塩は使用時において溶液として用いられ、その作用は、トレハロースの場合と同効なものが好ましい。これらの塩類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0019】
上記デキストラン類におけるデキストランとしては、D−グルコースからなる多糖(C
6H
10O
5)
nであって、α1→6結合を主鎖とするものであれば特に制限されず、デキストランの重量平均分子量(Mw)としては、例えば、デキストラン40(Mw=40000)、デキストラン70(Mw=70000)などを挙げることができる。これらデキストランは、化学合成、微生物による生産、酵素による生産等のいずれの公知の方法で製造することができるが、市販品を用いることもできる。例えば、デキストラン40(東京化成工業社製)、デキストラン70(東京化成工業社製)等の市販品を挙げることができる。
【0020】
上記デキストラン類におけるデキストラン誘導体としては、デキストラン硫酸、カルボキシル化デキストラン、ジエチルアミノエチル(DEAE)−デキストランなどが含まれる。
【0021】
上記デキストラン類におけるデキストランやその誘導体の塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩や、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などを挙げることができる。なお、これらの塩は使用時において溶液として用いられ、その作用は、デキストランの場合と同効なものが好ましい。これらの塩類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0022】
本件凍結保存液中のトレハロース類の濃度としては、2.0〜6.0(w/v)%の範囲内であればよく、例えば、2.0〜5.6(w/v)%、2.0〜5.2(w/v)%、2.0〜4.8(w/v)%、2.0〜4.4(w/v)%、2.0〜4.0(w/v)%、2.0〜3.6(w/v)%、2.0〜3.2(w/v)%、2.0〜3.0(w/v)%、2.4〜6.0(w/v)%、2.8〜6.0(w/v)%、3.2〜6.0(w/v)%、3.6〜6.0(w/v)%、4.0〜6.0(w/v)%、4.4〜6.0(w/v)%、4.8〜6.0(w/v)%、5.0〜6.0(w/v)%、2.4〜6.0(w/v)%、2.4〜5.6(w/v)%、2.4〜5.2(w/v)%、2.4〜4.8(w/v)%、2.4〜4.4(w/v)%、2.4〜4.0(w/v)%、2.4〜3.6(w/v)%、2.4〜3.2(w/v)%、2.4〜3.0(w/v)%を挙げることができ、2.4〜3.0(w/v)%が好ましい。
【0023】
本件凍結保存液中のデキストラン類の濃度としては、4.0〜7.0(w/v)%の範囲内であればよく、例えば、4.0〜6.6(w/v)%、4.0〜6.2(w/v)%、4.0〜5.8(w/v)%、4.0〜5.4(w/v)%、4.0〜5.0(w/v)%、4.4〜7.0(w/v)%、4.8〜7.0(w/v)%、5.2〜7.0(w/v)%、5.6〜7.0(w/v)%、6.0〜7.0(w/v)%を挙げることができ、4.0〜5.0(w/v)%が好ましい。
【0024】
本件凍結保存液中のDMSOの濃度は、通常0.1(v/v)%以上、好ましくは0.3(v/v)%以上、より好ましくは0.6(v/v)%以上、さらに好ましくは1.0(v/v)%以上であり、また、細胞毒性を回避する観点から、通常30(v/v)%以下、好ましくは25(v/v)%以下、より好ましくは20(v/v)%以下、さらに好ましくは15(v/v)%以下である。したがって、本件凍結保存液中のDMSOの濃度としては、通常0.1〜30(v/v)%の範囲内であり、好ましくは0.3〜25(v/v)%であり、より好ましくは0.6〜20(v/v)%であり、さらに好ましくは1.0〜15(v/v)%である。DMSOは、化学合成により製造することができるが、市販品を用いることもできる。例えば、和光純薬工業社製、ナカライテスク社製等の市販品を挙げることができる。
【0025】
本件凍結保存液中のグリセリンの濃度は、通常0.1(v/v)%以上、好ましくは0.3(v/v)%以上、より好ましくは0.6(v/v)%以上、さらに好ましくは1.0(v/v)%以上であり、また、本件凍結保存液の調製のしやすさを考慮すると、通常50(v/v)%以下、好ましくは40(v/v)%以下、より好ましくは30(v/v)%以下、さらに好ましくは20(v/v)%以下である。したがって、本件凍結保存液中のグリセリンの濃度としては、通常0.1〜50(v/v)%の範囲内であり、好ましくは0.3〜45(v/v)%であり、より好ましくは0.6〜30(v/v)%であり、さらに好ましくは1.0〜20(v/v)%である。グリセリンは、化学合成により製造することができるが、市販品を用いることもできる。例えば、和光純薬工業社製、ナカライテスク社製等の市販品を挙げることができる。
【0026】
本件凍結保存液は、哺乳動物細胞を凍結保存し、その後融解したときの細胞死を抑制する有効成分(凍結保護成分)として、トレハロース類と、デキストラン類と、DMSO及び/又はグリセリン(以下、これらを総称して「本件凍結保護成分」ということがある)とを含むものである。本件凍結保存液が、哺乳動物細胞を凍結保存し、その後融解したときの細胞死を抑制できるものであることは、トリパンブルー(Trypan Blue)染色法、TUNEL法、Nexin法、FLICA法などの細胞死を検出できる公知の方法を用いて確認することができる。
【0027】
本件凍結保存液における任意成分としては、本件凍結保護成分以外の凍結保護成分(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、セリシン、イソマルトオリゴ糖)、等張剤(例えば、ブドウ糖、D−ソルビトール、D−マンニトール、ラクトース、塩化ナトリウム等)、キレート剤(例えば、EDTA、EGTA、クエン酸、サリチレート)、溶解補助剤、保存剤、酸化防止剤、アミノ酸(例えば、プロリン、グルタミン)などを挙げることができる。本明細書において「任意成分」とは、含んでもよいし含まなくてもよい成分のことを意味する。
また、本件凍結保存液は、ヒト、ウシ等由来の血清又は血清由来成分(例えば、アルブミン)を含まない。
【0028】
本発明の哺乳動物細胞投与用液は、「哺乳動物細胞を哺乳動物に投与するため」という用途に限定された本件凍結保存液、すなわち、「哺乳動物細胞を凍結保存するため」という用途、及び「哺乳動物細胞を哺乳動物に投与するため」という用途に限定された、トレハロース類とデキストラン類とDMSO及び/又はグリセリンとを含む等張液である。本件凍結保存液(好ましくは、上記血清又は血清由来成分がほとんど又は全く含まれないもの)は、哺乳動物の生体内へそのまま投与(例えば、静脈投与)しても、哺乳動物の生体に悪影響を及ぼさない。このため、本件凍結保存液(好ましくは、上記血清又は血清由来成分がほとんど又は全く含まれないもの)は、「哺乳動物細胞を凍結保存し、融解後に、哺乳動物細胞を哺乳動物に投与(例えば、静脈投与)するための」液として有利に用いることができる。
【0029】
本発明の哺乳動物細胞の凍結保存方法としては、哺乳動物細胞を本件凍結保存液中に凍結保存する工程、すなわち、哺乳動物細胞を含有する本件凍結保存液を凍結保存する工程を備えたものであれば特に制限されず、緩慢凍結法であっても、急速凍結法(ガラス化法)であってもよい。かかる緩慢凍結法としては、例えば、哺乳動物細胞を含有する本件凍結保存液を、低温フリーザーや超低温フリーザー(通常−20℃〜−150℃の範囲内)中で凍結し、その後、液体窒素(通常−150℃〜−196℃の範囲内)中で保存する方法を挙げることができる。上記急速凍結法としては、例えば、哺乳動物細胞を本件凍結保存液中に懸濁後、必要に応じてストロー内に移し、液体窒素(通常−150℃〜−196℃の範囲内)中で急速冷凍し、保存する方法を挙げることができる。哺乳動物細胞を凍結保存し、その後融解したときの細胞生存率は、哺乳動物細胞の種類によって異なることがある。このため、凍結保存対象の細胞に応じて、凍結融解後の細胞生存率がより高い凍結保存方法を選択することが好ましい。
【0030】
上記哺乳動物細胞としては、再生医療等に血管経由で投与される哺乳動物幹細胞の他に、I型糖尿病患者に経静脈投与される哺乳動物の膵島細胞、がん患者に経静脈投与される哺乳動物の樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、アルファ・ベータ(αβ)T細胞、ガンマ・デルタ(γδ)T細胞、細胞障害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte;CTL)等を例示することができる。本明細書において、哺乳動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を例示することができ、中でも、マウス、ブタ、ヒトを好適に例示することができる。
【0031】
また上記「幹細胞」とは、自己複製能及び分化・増殖能を有する未熟な細胞を意味する。幹細胞には、分化能力に応じて、多能性幹細胞(pluripotent stem ce11)、複能性幹細胞(multipotent stem ce11)、単能性幹細胞(unipotent stem ce11)等の亜集団が含まれる。多能性幹細胞とは、それ自体では個体になることができないが、生体を構成する全ての組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。複能性幹細胞とは、全ての種類ではないが、複数種の組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。単能性幹細胞とは、特定の組織や細胞へ分化し得る能力を有する細胞を意味する。
【0032】
多能性幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、EG細胞、iPS細胞等を挙げることができる。ES細胞は、内部細胞塊をフィーダー細胞上又はLIFを含む培地中で培養することにより製造することができる。ES細胞の製造方法は、例えば、WO96/22362、WO02/101057、US5,843,780、US6,200,806、US6,280,718等に記載されている。EG細胞は、始原生殖細胞をmSCF、LIF及びbFGFを含む培地中で培養することにより製造することができる(Ce11,70:841-847,1992)。iPS細胞は、体細胞(例えば線維芽細胞、皮膚細胞等)にOct3/4、Sox2及びKlf4(必要に応じてさらにc−Myc又はn−Myc)等のリプログラミング因子を導入することにより製造することができる(Ce11,126:p.663-676,2006;Nature,448:p.313-317,2007;Nat Biotechno1,26;p,101-106,2008;Cel1 131:p.861‐872,2007;Science,318:p.1917-1920,2007;Ce11 Stem Cells 1:p.55-70,2007;Nat Biotechnol,25:p.1177-1181,2007;Nature,448:p.318-324,2007;Cell Stem Cells 2:p.10-12,2008;Nature451:p.141-146,2008;Science,318:p.1917-1920,2007)。また、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立した幹細胞も、多能性幹細胞として好ましい(Nature,385,810(1997);Science,280,1256(1998);Nature Biotechnology,17,456(1999);Nature,394,369(1998);Nature Genetics,22,127(1999);Proc.Nat1. Acad.Sci.USA,96,14984(1999))、Rideout IIIら(Nature Genetics,24,109(2000))。
【0033】
複能性幹細胞としては、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞等の細胞に分化可能な間葉系幹細胞;白血球、赤血球、血小板等の血球系細胞に分化可能な造血系幹細胞;ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト等の細胞に分化可能な神経系幹細胞;骨髄幹細胞、生殖幹細胞等の体性幹細胞;等を挙げることができる。複能性幹細胞は、好ましくは間葉系幹細胞である。間葉系幹細胞とは、骨芽細胞、軟骨芽細胞及び脂肪芽細胞の全て又はいくつかへの分化が可能な幹細胞を意味する。複能性幹細胞は、自体公知の方法により、生体から単離することができる。例えば、間葉系幹細胞は、哺乳動物の骨髄、脂肪組織、末梢血、臍帯血等から公知の一般的な方法で採取することができる。また、骨髄穿刺後の造血幹細胞等の培養、継代によりヒト間葉系幹細胞を単離することができる(Journal of Autoimmunity,30(2008)163-171)。複能性幹細胞は、上記多能性幹細胞を適切な誘導条件下で培養することによっても得ることができる。間葉系幹細胞は、好ましくはヒト脂肪由来の間葉系幹細胞である。
【0034】
本件凍結保存液中に保存する哺乳動物細胞として、付着性の細胞を例示することができる。本明細書中、「付着性」細胞とは、足場に接着することで生存、増殖、物質の生産を行なうことができる足場依存性の細胞を意味する。付着性幹細胞としては、多能性幹細胞、間葉系幹細胞、神経系幹細胞、骨髄幹細胞、生殖幹細胞等を挙げることができる。付着性幹細胞は、好ましくは、間葉系幹細胞である。
【0035】
本件凍結保存液中に保存する哺乳動物細胞(集団)は、生体内から分離されたものであっても、インビトロで継代培養されたものであってもよいが、単離又は精製されていることが好ましい。本明細書中、「単離又は精製」とは、目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。単離又は精製された哺乳動物細胞の純度(全細胞数に対する、哺乳動物幹細胞数等の目的とする細胞の割合)は、通常30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば100%)である。
【0036】
本件凍結保存液中に保存する哺乳動物細胞(集団)は、単一細胞(シングルセル)の状態であることが好ましい。本明細書において、「単一細胞の状態」とは、他の細胞と寄り集まって塊を形成していないこと(即ち、凝集していない状態)を意味する。単一細胞の状態の哺乳動物細胞は、インビトロで培養した哺乳動物細胞をトリプシン/EDTA等で酵素処理した後、ピペッティングやタッピング等の当該技術分野における周知の方法により細胞を懸濁することにより調製することができる。哺乳動物細胞中に含まれる単一細胞の状態の哺乳動物細胞の割合は、通常70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上(例えば100%)である。単一細胞の状態の細胞の割合は、哺乳動物細胞をPBSに分散し、これを顕微鏡下で観察し、無作為に選択された複数個(例えば、1000個)の細胞について凝集の有無を調べることにより決定することができる。
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、3(w/v)%トレハロース及び5(w/v)%デキストラン40を含む乳酸リンゲル液を、便宜上「TDR液」ということがある。
【実施例1】
【0038】
1.本件凍結保存液が、哺乳動物細胞凍結保存液として有用であることの確認
本件凍結保存液が、哺乳動物細胞凍結保存液として有用であることを確認するために、哺乳動物細胞を、DMSO又はグリセリンと、TDR液との混合液中に凍結保存し、融解後の細胞生存率を解析した。
1−1 材料及び方法
[哺乳動物細胞]
試験には、以下の表1に記載のヒト脂肪由来間葉系幹細胞(hAD−MSC;Human Adipose derived Mesenchymal Stem Cell)を用いた。
【0039】
【表1】
【0040】
[TDR液]
TDR液は、トレハロース(株式会社林原社製)、低分子デキストランL注(10[w/v]%デキストラン含有ラクテック注)(大塚製薬工場社製)、及びラクテック注(大塚製薬工場社製)を用いて調製した。
【0041】
[哺乳動物細胞の培養]
hAD−MSCは定法にしたがって培養した。すなわち、hAD−MSCを、ヒト脂肪由来幹細胞添加因子セット(Lonza Walkersville社製、PT-4503)を含むADSC−BM(Adipose Derived Stem Cell Basal Medium)(Lonza Walkersville社製、PT-3273)(以下、単に「培養液」という)を添加した75cm
2フラスコに入れ、CO
2インキュベーター(37℃条件下)内で継代培養した。また、培養液の交換は3日毎行った。
【0042】
[哺乳動物細胞含有凍結保存液の調製及び凍結]
哺乳動物細胞含有凍結保存液の調製及び凍結は、以下の〔1〕〜〔12〕の手順にしたがって行った。
〔1〕パーソナルインキュベーターを37±2℃に加温しておいた。
〔2〕hAD−MSCを培養している75cm
2フラスコを、CO
2インキュベーターから取り出した。
〔3〕倒立顕微鏡下で細胞の状態を観察し、約90%(80〜100%)コンフルエントのものを使用した。
〔4〕培養液を吸引し、PBS(−)を各75cm
2フラスコに8mLずつ添加した。
〔5〕PBS(−)を吸引後、トリプシン/EDTA(CC-5012、Lonza Walkersville社製)をフラスコに4mLずつ添加し、パーソナルインキュベーターにて37±2℃条件下で5分間インキュベートした。
〔6〕細胞が90%程度剥離するまで倒立顕微鏡下で観察しながら、ゆっくりと揺らした。
〔7〕トリプシン反応を停止させるために、トリプシン中和液(TNS;CC-5002、LonzaWalkersville社製)を8mLずつ加えて、ピペッティングにより細胞を剥離し、50mLのコニカルチューブに移した。
〔8〕遠心(遠心機の設定条件:210×g、遠心時間5分間、20℃)処理後、上清を除去し、一定量(各75cm
2フラスコ当たり2mL)のPBS(−)を添加し、細胞を懸濁した。
〔9〕細胞懸濁液から一部(20μL)分取し、20μLのトリパンブルー染色液(Gibco社製)と混合し、細胞計数盤で全細胞数及び死細胞数を計測した。なお、計測細胞数は、細胞計数盤を用いて、1ヵ所の細胞計数部における四隅の細胞計数室のエリアの合計細胞数とした。
〔10〕残りの細胞懸濁液を、フィンピペット(100−1000μL)を用いて、15mLクラリファインドポリプロピレンコニカルチューブに一定量ずつ分注し、210×g、5分間、25℃で遠心処理した。
〔11〕上清を除去し、3.0×10
6細胞/mLとなるように各種細胞凍結保存液(0、0.5、1.0、2.0、5.0、若しくは10(v/v)%DMSO(和光純薬工業社製)又は10(v/v)%グリセリン(和光純薬工業社製)を含むTDR液、或いはSTEM-CELLBANKER[日本全薬工業社製])中に細胞を懸濁した。
〔12〕専用のバイアルに1mLずつ細胞懸濁液を分注し、バイセル凍結処理容器(日本フリーザー社製)に入れて、−80℃にて細胞を凍結(3時間以上)し、その後すみやかに液体窒素タンクに移した。
【0043】
[評価法]
哺乳動物細胞含有凍結保存液を凍結融解後、生細胞率及び細胞増殖率の評価は、以下の手順〔1〕〜〔6〕にしたがって行った。
〔1〕恒温槽を37℃に設定し、加温しておいた。
〔2〕培養に必要な個数の75cm
2フラスコに、培養液を添加して、CO
2インキュベーター内で30分以上静置し、平衡化した。
〔3〕液体窒素タンクから凍結した細胞を含むバイアルを取り出し、素早く37℃に設定した恒温槽に移し、軽く撹拌しながら融解した。
〔4〕緩やかに攪拌(ピペッティングを5回)し、細胞が懸濁した状態で、その一部(20μL)を、予めトリパンブルー染色液20μLを添加した1.5mLマイクロチューブに分取した。トリパンブルー染色液と混和した細胞懸濁液を、細胞計数盤に分取し、全細胞数及びトリパンブルー陽性細胞(死細胞)数を計測することにより、凍結融解直後の細胞生存率(表2[n=1]及び表4[n=3])を算出した。
〔5〕残りの細胞懸濁液を用いて、3.0×10
6細胞/mLとなるように、予め用意した培養液を含む75cm
2フラスコに播種し、CO
2インキュベーター内で培養した。また、一部残った細胞懸濁液は、25℃で6時間及び24時間静置した後、上記[哺乳動物細胞含有凍結保存液の調製及び凍結]の項目に記載の手順〔9〕にしたがって、全細胞数及び死細胞数を計測することにより、凍結融解後に25℃で6時間及び24時間静置したときの細胞生存率(表5[n=3]及び表6[n=3])を算出した。
〔6〕培養後1、3、5、及び7日目に、上記[哺乳動物細胞含有凍結保存液の調製及び凍結]の項目に記載の手順〔1〕〜〔9〕にしたがって、細胞を回収後、全細胞数を計測することにより、凍結融解後に1、3、5、及び7日間培養したときの細胞増加率(表3[n=2]及び表7[n=3])を算出した。
【0044】
1−2 結果
まず、TDR液に加えるDMSOの濃度について検討した。その結果、1.0〜10%のDMSOを含むTDR液中に細胞を凍結保存すると、融解直後の細胞生存率(表2)や細胞増殖率(表3)は、いずれも高いものであった。これらの結果から、以下の実験においては、TDR液に加えるDMSOの濃度は、10%に固定した。
【0045】
次に既存の細胞凍結保存液であるSTEM-CELLBANKER(日本全薬工業社製)との比較実験を行った。その結果、10%DMSOを含むTDR液中に細胞を凍結保存したときの融解直後の細胞生存率は、STEM-CELLBANKERと同レベルの高い値を示した(表4)。また、凍結融解後に25℃で6時間及び24時間静置したときの細胞生存率は、10%DMSOを含むTDR液中に細胞を凍結保存した方が、STEM-CELLBANKER中に細胞を凍結保存した場合よりも高かった(表5及び6)。さらに、DMSOに代えてグリセリンをTDR液に添加した細胞凍結保存液を用いた場合も同様の効果が得られた(表5及び6)。なお、DMSO又はグリセリンをTDR液に混合後、トレハロース濃度は2.7%であり、デキストラン濃度は4.5%であった。一方、10%DMSO又は10%グリセリンを含むTDR液中に細胞を凍結保存したときの細胞増殖効率は、STEM-CELLBANKERと同レベルの高い値を示した(表7)。
以上の結果は、2.7%前後(2.0〜6.0%)のトレハロース及び4.5%前後(4.0〜7.0%)のデキストランと、DMSOやグリセリンとを含む等張液中に哺乳動物細胞を凍結保存すると、既存の哺乳動物細胞凍結保存液(STEM-CELLBANKER)を用いた場合と同程度の増殖効率が得られることを示すとともに、凍結融解後の細胞生存率については、既存の哺乳動物細胞凍結保存液(STEM-CELLBANKER)を用いた場合よりも高いという優れた効果が得られることを示している。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
表中の数値(細胞数)は、各濃度のDMSOで保存した細胞において、(凍結)融解直後の細胞数を100としたときの相対値として示す。
【0048】
【表4】
表中の数値は、凍結融解直後の細胞生存率(%)を示す。
【0049】
【表5】
表中の数値は、凍結融解後に25℃で6時間静置したときの細胞生存率(%)を示す。
【0050】
【表6】
表中の数値は、凍結融解後に25℃で24時間静置したときの細胞生存率(%)を示す。
【0051】
【表7】
表中の数値(細胞数)は、各種細胞凍結保存液において、播種時(凍結融解直後)の細胞数を100としたときの相対値として示す。また、1日目〜7日目の値は平均値±標準偏差(SD)である。
【実施例2】
【0052】
2.トレハロース及びデキストランの併用による凍結保護効果、並びに哺乳動物細胞凍結保存液中のトレハロース及びデキストラン濃度の検討
トレハロース及びデキストランの併用による凍結保護効果、並びに哺乳動物細胞凍結保存液中のトレハロース及びデキストラン濃度を検討するために、実施例1に記載の方法に従って、3%のトレハロース、及び0〜10%のデキストランを含む乳酸リンゲル液と、10%のDMSOとの混合液(表8)や、0〜10%のトレハロース、及び5%のデキストランを含む乳酸リンゲル液と、10%のDMSOとの混合液(表9)を調製し、これら混合液中にhAD−MSCを凍結保存し、融解後の細胞生存率(表8及び9)を算出した。
その結果、トレハロース及びデキストランを併用した方が、トレハロース又はデキストランを単独で用いた場合と比べ、凍結融解後の細胞生存率は高くなることが示された。また、トレハロース及びデキストランの濃度は、それぞれ少なくとも0.9%あれば、9割以上の細胞が生存することが示された(表8及び9)。
【0053】
【表8】
表中のトレハロース及びデキストラン濃度は、DMSO混合前の濃度(%)を示し、括弧内には、DMSO混合後の濃度(%)を示す。また、表中の生存率は、凍結融解直後の細胞生存率(平均値±標準偏差[SD]、n=3)(%)を示す。
【0054】
【表9】
表中のトレハロース及びデキストラン濃度は、DMSO混合前の濃度(%)を示し、括弧内には、DMSO混合後の濃度(%)を示す。また、表中の生存率は、凍結融解直後の細胞生存率(平均値±標準偏差[SD]、n=3)(%)を示す。