特許第6561187号(P6561187)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6561187
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20190805BHJP
【FI】
   B23K20/12 340
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-183133(P2018-183133)
(22)【出願日】2018年9月28日
【審査請求日】2018年9月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(73)【特許権者】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592015271
【氏名又は名称】テクノエイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石黒 幸一
(72)【発明者】
【氏名】篠原 俊
(72)【発明者】
【氏名】船原 恒平
(72)【発明者】
【氏名】小田倉 富夫
(72)【発明者】
【氏名】大山 好則
(72)【発明者】
【氏名】碇山 剛介
(72)【発明者】
【氏名】小林 義章
【審査官】 岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/163481(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0073409(US,A1)
【文献】 特開2005−199337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合部材に挿入されて回転しながら進行し、当該被接合部材を接合する接合ツールと、
前記接合ツールを保持する接合ヘッドと、
前記接合ヘッドを保持し、前記接合ツールを回転させると共に、前記接合ツールを進行させる装置本体と、
前記接合ヘッドの所定の位置である第一の基準点と、前記被接合部材を載置する載置台上で前記第一の基準点と鉛直方向において対向する第二の基準点との距離を計測する距離計測手段と、
制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記接合ツールにより前記被接合部材を摩擦攪拌接合する前の接合前段階において、前記第一の基準点と前記第二の基準点との距離である基準距離を前記距離計測手段から取得する基準距離計測モードを有し、
前記基準距離計測モードを実行後で、かつ、前記接合ツールにより前記被接合部材を摩擦攪拌接合後、前記第一の基準点と前記第二の基準点との距離である現在距離を前記距離計測手段から取得する現在距離計測モードを有し、
前記現在距離計測モードを実行後、前記基準距離と前記現在距離との偏差を算出し、
当該偏差が所定の閾値に到達した場合、前記偏差を前記所定の閾値より小さくなるように、前記接合ヘッドの鉛直方向位置を移動する指令信号を前記装置本体に出力する制御モードを有し、
前記装置本体は、前記指令信号に基づき、所定の移動率で前記接合ヘッドの鉛直方向の位置を移動することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項2】
請求項に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記制御装置は、前記現在距離計測モードと前記制御モードとを交互に繰り返すことを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項3】
請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記距離計測手段は、非接触の変位センサであることを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項4】
被接合部材を摩擦攪拌接合により接合する摩擦攪拌接合方法であって、
装置本体に電源を投入し、被接合部材を接合する前の接合前段階において、接合ヘッドの所定の位置である第一の基準点と、前記被接合部材を載置する載置台上で前記第一の基準点と鉛直方向において対向する第二の基準点との間の基準距離を計測する基準距離計測ステップと、
前記基準距離計測ステップを実行後で、かつ、接合ツールにより前記被接合部材を摩擦攪拌接合後、前記第一の基準点と前記第二の基準点との間の現在距離を計測する現在距離計測ステップと、
前記基準距離と前記現在距離との偏差が所定の閾値に到達した場合、前記偏差が前記所定の閾値より小さくなるように前記接合ヘッドの鉛直方向の位置を補正する位置補正ステップと、
を有し、
前記装置本体は、前記位置補正ステップにおいて、所定の移動率で前記接合ヘッドの鉛直方向の位置を移動することを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項5】
請求項に記載の摩擦攪拌接合方法であって、
前記現在距離計測ステップと前記位置補正ステップとを交互に繰り返すことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合部材同士を摩擦攪拌接合により接合する摩擦攪拌接合装置と摩擦攪拌接合方法に係り、特に、高品質(高精度)な接合が要求される被接合部材の接合に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
円柱状の接合ツールを回転させて発生する摩擦熱で被接合材料を軟化させ、その部分を攪拌することで被接合材料同士を接合する摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)は、材料以外の素材を用いないため、疲労強度が高く、材料も溶融しないことから溶接変形(ひずみ)の少ない接合が可能であり、航空機や自動車のボディなど、幅広い分野での応用が期待されている。
【0003】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には「接合条件(接合ヘッドのZ軸方向の位置、回転速度、進行速度)を、接合ツールを被接合部材に挿入する前に設定し、接合ツールを被接合部材に挿入し、摩擦攪拌接合を開始した後は、接合部位近傍の接合温度を略一定に保持するように、回転速度及び/又は進行速度を制御する技術」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5883978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
摩擦攪拌接合装置(FSW装置)を用いて、自動車部材等の薄板を摩擦攪拌接合する際には、被接合部材を載置する載置台のZ軸方向(鉛直方向)の変動が摩擦攪拌接合時に影響し、被接合部材(接合)の品質低下を招くことになる。
【0006】
載置台のZ軸方向(鉛直方向)位置が変動する要因としては、摩擦攪拌接合時の被接合部材からの入熱や載置台の周辺温度の上昇などが考えられる。
【0007】
この載置台のZ軸方向(鉛直方向)の変動について、接合ツール先端位置と載置台との距離に着目すると、接合後に載置台のZ軸方向(鉛直方向)位置が変動することにより、接合前と比べて、接合ツール先端位置と載置台間の距離が近くなる。つまり、接合ツール先端位置がZ軸下方向に変動したことと同意となる。
【0008】
昨今の被接合部材は、板厚が薄くなる傾向にあり、接合ツール先端位置のZ軸下方向への変動が無視できなくなってきており、特に、軽量化が求められている自動車分野では顕著である。
【0009】
上記特許文献1においては、接合温度を略一定に保持するために、摩擦攪拌接合を開始した後に、リアルタイムで回転速度、進行速度を制御しているが、摩擦攪拌接合装置の載置台の変動(熱による延伸)に対しては一切考慮がされていない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、接合ツールを被接合部材に挿入する前段階である接合条件設定段階において、接合ツールのZ軸方向(鉛直方向)の初期位置を精度よく設定可能な摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、被接合部材に挿入されて回転しながら進行し、当該被接合部材を接合する接合ツールと、前記接合ツールを保持する接合ヘッドと、前記接合ヘッドを保持し、前記接合ツールを回転させると共に、前記接合ツールを進行させる装置本体と、前記接合ヘッドの所定の位置である第一の基準点と、前記被接合部材を載置する載置台上で前記第一の基準点と鉛直方向において対向する第二の基準点との距離を計測する距離計測手段と、制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記接合ツールにより前記被接合部材を摩擦攪拌接合する前の接合前段階において、前記第一の基準点と前記第二の基準点との距離である基準距離を前記距離計測手段から取得する基準距離計測モードを有し、前記基準距離計測モードを実行後で、かつ、前記接合ツールにより前記被接合部材を摩擦攪拌接合後、前記第一の基準点と前記第二の基準点との距離である現在距離を前記距離計測手段から取得する現在距離計測モードを有し、前記現在距離計測モードを実行後、前記基準距離と前記現在距離との偏差を算出し、当該偏差が所定の閾値に到達した場合、前記偏差を前記所定の閾値より小さくなるように、前記接合ヘッドの鉛直方向位置を移動する指令信号を前記装置本体に出力する制御モードを有し、前記装置本体は、前記指令信号に基づき、所定の移動率で前記接合ヘッドの鉛直方向の位置を移動することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、被接合部材を摩擦攪拌接合により接合する摩擦攪拌接合方法であって、装置本体に電源を投入し、被接合部材を接合する前の接合前段階において、接合ヘッドの所定の位置である第一の基準点と、前記被接合部材を載置する載置台上で前記第一の基準点と鉛直方向において対向する第二の基準点との間の基準距離を計測する基準距離計測ステップと、前記基準距離計測ステップを実行後で、かつ、接合ツールにより前記被接合部材を摩擦攪拌接合後、前記第一の基準点と前記第二の基準点との間の現在距離を計測する現在距離計測ステップと、前記基準距離と前記現在距離との偏差が所定の閾値に到達した場合、前記偏差が前記所定の閾値より小さくなるように前記接合ヘッドの鉛直方向の位置を補正する位置補正ステップと、を有し、前記装置本体は、前記位置補正ステップにおいて、所定の移動率で前記接合ヘッドの鉛直方向の位置を移動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接合ツールを被接合部材に挿入する前段階である接合条件設定段階において、接合ツールのZ軸方向(鉛直方向)の初期位置を精度よく設定可能な摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法を実現することができる。
【0014】
これにより、接合ツールのZ軸方向(鉛直方向)の高精度な位置設定が可能となり、高品質(高精度)な摩擦攪拌接合が可能となる。
【0015】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合装置の全体概要を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合装置の動作(作用)を概念的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において、同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例1】
【0018】
図1から図3を参照して、本発明の実施例1の摩擦攪拌接合装置および摩擦攪拌接合方法について説明する。図1は本実施例の摩擦攪拌接合装置1の全体概要を示す図であり、図2はその動作(作用)を概念的に示す図である。図3は本実施例による代表的な摩擦攪拌接合方法(制御方法)を示すフローチャートである。
【0019】
本実施例の摩擦攪拌接合装置1は、図1に示すように、主要な構成として、装置本体2、上下動駆動機構部3を介して装置本体2に接続されるホルダ部(接合ヘッド)保持部4、ホルダ部(接合ヘッド)保持部4に接続(保持)されるホルダ部(接合ヘッド)5、ホルダ部(接合ヘッド)5により保持される接合ツール部6を備えている。上下動駆動機構部3には、図1に例示するように、例えばボールスクリューなどが用いられる。接合ツール部6はショルダ部7およびプローブ部(接合ピン)8で構成され、ショルダ部7を介してプローブ部(接合ピン)8がホルダ部(接合ヘッド)5に保持される。装置本体2はホルダ部(接合ヘッド)5を保持し、接合ツール部6を回転させると共に、接合ツール部6を図1のX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動させる。
【0020】
このプローブ部(接合ピン)8が載置台9上に載置された複数の被接合部材同士の突き合せ部(図示せず)に挿入され、高速回転することでプローブ部(接合ピン)8と被接合部材の間に摩擦熱が発生し、摩擦熱により被接合部材内で塑性流動が生じ、接合部が攪拌される。プローブ部(接合ピン)8が移動すると攪拌部(接合部)が冷却されて、被接合部材同士が接合される。
【0021】
なお、図1では、ホルダ部5および接合ツール部6がホルダ部保持部4および上下動駆動機構部3を介して装置本体2に接続(保持)される構成を示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、上下動駆動機構部3のみを介して装置本体2に接続(保持)される構成や、他の可動手段を介して装置本体2に接続(保持)される構成、ホルダ部5および接合ツール部6が直接装置本体2に接続(保持)される構成、或いは、図1の構成に、さらにホルダ部5と装置本体2の間にC型フレームを設ける構成、多軸ロボットアームを有する装置本体2に接続(保持)される構成も本実施例の範囲に含むものとする。
【0022】
ホルダ部(接合ヘッド)5には、距離計測センサ10が設けられている。この距離計測センサ10は、接合時のホルダ部(接合ヘッド)5の進行方向(接合方向)とは反対側に配設されており、ホルダ部(接合ヘッド)5(距離計測センサ10)の所定の位置(第一の基準点と呼ぶ)と被接合部材を載置する載置台9の所定の位置(第二の基準点と呼ぶ)との間の距離を計測する。第一の基準点と第二の基準点は鉛直方向において互いに対向する位置に配置(設定)される。
【0023】
図1のように、接合ツール部6が原点位置(接合ツールを被接合部材に挿入するための動作を開始する前の位置、すなわち接合前段階の位置)にある状態で、距離計測センサ10は第一の基準点と第二の基準点との間の距離である基準距離(L0)を計測する。この基準距離(L0)は、装置本体2に電源を投入した際のホルダ部(接合ヘッド)5のZ軸方向(鉛直方向)の原点位置である。
【0024】
距離計測センサ10には、例えば、レーザーを利用するレーザー変位センサなどの非接触式の変位センサを用いる。或いは、距離計測や摩擦攪拌接合処理に影響が出なければ、リニアゲージなどの接触式の変位センサを用いてもよい。レーザー変位センサを用いた場合、第一の基準点は、図1に示すように距離計測センサ10の距離計測信号照射点となり、第二の基準点は、距離計測センサ10の距離計測信号受信点となる。
【0025】
装置本体2には、摩擦攪拌接合装置1の動作を制御する制御部(制御装置)11が設置されている。制御部(制御装置)11は、接合ツール部6による接合条件を決定する接合条件信号や上下動駆動機構部3による接合ツール部6の高さ方向(Z方向)の保持位置(接合ピン8の挿入量)を決定する保持位置決定信号、接合ヘッド5(接合ツール部6)の変更位置信号などの接合パラメータ(FSW接合条件)を記憶する記憶部(図示せず)を備えている。
【0026】
また、装置本体2には、X軸方向に駆動可能なリニア駆動機構部12およびY軸方向に駆動可能なリニア駆動機構部14がそれぞれ設けられており、装置本体2の上部をX軸方向に設けられたリニアガイドのレール13、Y軸方向に設けられたリニアガイドのレール15に沿ってそれぞれ移動させることで、ホルダ部(接合ヘッド)5をX軸方向(接合方向)、Y軸方向(X軸方向と直交する方向)へ移動させることができる。
【0027】
上述したように、本実施例の摩擦攪拌接合装置1は、被接合部材に挿入されて回転しながら進行し、被接合部材を接合する接合ツール部6と、接合ツール部6を保持するホルダ部(接合ヘッド)5と、ホルダ部(接合ヘッド)5を保持し、接合ツール部6を回転させると共に、接合ツール部6を進行させる装置本体2と、ホルダ部(接合ヘッド)5の所定の位置である第一の基準点と、被接合部材を載置する載置台9上で第一の基準点と鉛直方向において対向する第二の基準点との距離を計測する距離計測センサ10を備えている。また、接合ツール部6の動作を制御する制御部(制御装置)11を備えている。
【0028】
図2および図3を用いて、上記で説明した距離計測センサ10を用いた代表的な摩擦攪拌接合方法(制御方法)を説明する。
【0029】
先ず、制御部(制御装置)11からの指令により、摩擦攪拌接合前段階(熱による載置台9の変動が無い状態)で、距離計測センサ10によりホルダ部(接合ヘッド)5(距離計測センサ10)の所定の位置(第一の基準点)と被接合部材を載置する載置台9の所定の位置(第二の基準点)との間の距離である基準距離(L0)を計測し、その際の接合ヘッド5(接合ツール部6)のZ軸上の位置(基準位置:Z0)を制御部(制御装置)11の記憶部に記憶する。(ステップS1)ここで、接合開始前(接合前段階)に、第一の基準点と第二の基準点との間の距離である基準距離(L0)を距離計測センサ10から取得するステップ(動作)を「基準距離計測モード」と呼ぶ。
【0030】
なお、Z軸上の基準位置(Z0)は、上記したように、接合前段階において、基準距離(L0)を計測した際のZ軸上の装置の位置であり、装置のZ軸可動範囲内で、装置がどの位置にあるのかを特定するための位置情報である。例えば、PLC制御(Programmable Logic Controller)により自動で位置合わせを行い、その繰り返し精度は±0.01mm程度に制御するのが好適である。
【0031】
次に、制御部(制御装置)11からの指令により、接合ツール部6を複数の被接合部材同士の接合部へ挿入し、接合ツール部6の移動量(経過時間)が所定の値(位置・時間)に達した時点で接合ツール部6を被接合部材の接合部から引き抜く。(ステップS2)ここで、このステップS2を「一接合工程」と呼ぶ。
【0032】
続いて、制御部(制御装置)11からの指令により、接合ヘッド5(接合ツール部6)をステップS1で記憶したZ軸上の位置(基準位置:Z0)に合わせる。(ステップS3)
続いて、制御部(制御装置)11からの指令により、接合による熱の影響で載置台9の高さが変動している状態で、距離計測センサ10によりホルダ部(接合ヘッド)5(距離計測センサ10)の所定の位置(第一の基準点)と被接合部材を載置する載置台9の所定の位置(第二の基準点)との間の距離である現在距離(L1)を計測する。(ステップS4)ここで、このステップS4を「現在距離計測モード」と呼ぶ。
【0033】
続いて、制御部(制御装置)11において、ステップS4で計測した現在距離(L1)とステップS1で計測・記憶した基準距離(L0)の偏差(ΔL)を算出し、予め設定した所定の値(閾値:Lt)と比較する。(ステップS5)この偏差(ΔL)は、ΔL=現在距離(L1)−基準距離(L0)であり、摩擦攪拌接合時の入熱や外気温の上昇などの熱の影響により変動した載置台9の変動量(Z軸方向の延伸量)である。
【0034】
現在距離(L1)と基準距離(L0)の偏差(ΔL)が閾値(Lt)に到達した場合(ΔL≧Lt)、制御部(制御装置)11の指令により、算出した偏差(ΔL)が所定の値(閾値:Lt)より小さくなるように接合ヘッド5(接合ツール部6)のZ軸方向(鉛直方向)の位置を移動する指令信号を装置本体2へ出力する。装置本体2は、接合ヘッド5(接合ツール部6)のZ軸方向(鉛直方向)の位置を所定の変化率(移動速度)で制御しながら設定する。(ステップS6)
ここで、このステップS6を「制御モード」と呼ぶ。制御部(制御装置)11は、この「制御モード」において、ステップS5で算出した偏差(ΔL)が小さくなるように偏差分(ΔL)を補正するホルダ部(接合ヘッド)5の変更位置信号(指令信号)を生成し、装置本体2に出力する。
【0035】
この変更位置信号(指令信号)は、例えば、ホルダ部(接合ヘッド)5を単位時間当たり所定の距離を移動させ、偏差(ΔL)が所定の値(閾値:Lt)よりも小さくなるまで装置本体2に継続出力する。装置本体2は、制御部(制御装置)11から取得する変更位置信号(指令信号)に基づき、ホルダ部(接合ヘッド)5のZ軸方向(鉛直方向)の位置を設定して所定の変化率(移動速度)でホルダ部(接合ヘッド)5を移動させる。
【0036】
一方、現在距離(L1)と基準距離(L0)の偏差(ΔL)が所定の値(閾値:Lt)未満である場合(ΔL<Lt)、接合ツール部6のZ軸方向(鉛直方向)の位置設定を行わずに、現在距離(L1)を計測した際の接合条件を維持したまま、被接合部材の摩擦攪拌接合を継続する。(ステップS7)
その後、制御部(制御装置)11からの指令により、接合ツール部6の移動量(経過時間)が所定の値(位置・時間)に達した時点で接合ツール部6を被接合部材の接合部から引き抜いて、摩擦攪拌接合処理を終了する。(ステップS8)
上述したように、本実施例の摩擦攪拌接合方法は、装置本体2に電源を投入し、被接合部材を接合する前の接合前段階において、ホルダ部(接合ヘッド)5の所定の位置である第一の基準点と、被接合部材を載置する載置台9上で第一の基準点と鉛直方向において対向する第二の基準点との間の基準距離(L0)を計測する基準距離計測ステップと、基準距離計測ステップを実行後で、かつ、接合ツール部6により被接合部材を摩擦攪拌接合後、第一の基準点と第二の基準点との間の現在距離(L1)を計測する現在距離計測ステップと、基準距離(L0)と現在距離(L1)との偏差(ΔL)が所定の閾値(Lt)に到達した場合、偏差(ΔL)が所定の閾値(Lt)より小さくなるようにホルダ部(接合ヘッド)5の鉛直方向の位置を補正する位置補正ステップを有している。
【0037】
以上説明したように、本実施例の摩擦攪拌接合装置および摩擦攪拌接合方法によれば、接合開始前(接合前段階)において第一の基準点と第二の基準点との距離である基準距離(L0)を計測し、摩擦攪拌接合後に接合による熱の影響で載置台9の高さが変動している状態で第一の基準点と第二の基準点との距離である現在距離(L1)を計測し、現在距離(L1)と基準距離(L0)の偏差(ΔL)が所定の閾値より小さくなるように(所定の範囲内になるように)ホルダ部(接合ヘッド)5(接合ツール部6)のZ軸方向(鉛直方向)の位置を設定することで、熱の影響により変動(変位)した載置台9の変動量(変位量)を補正することができる。
【0038】
これにより、接合ツールのZ軸方向(鉛直方向)の高精度な位置設定が可能となり、被接合部材同士の高品質(高精度)な接合が可能となる。
【0039】
なお、上記の「現在距離計測モード」と「制御モード」を交互に繰り返すことで、より高品質(高精度)な接合を行うことができる。
【0040】
また、図3のステップS2およびステップS8において、被接合部材の一端から摩擦攪拌接合を開始し、被接合部材の他端まで連続的に摩擦攪拌接合を行う、いわゆる「線接合」を行うことで、接合の質(信頼性)をより高めることができる。
【0041】
また、図1図2では、距離計測センサ10を接合時のホルダ部(接合ヘッド)5の進行方向(接合方向)とは反対側に配設する例を示したが、距離計測センサ10を接合時のホルダ部(接合ヘッド)5の進行方向(接合方向)側に配設してもよい。
【0042】
また、本実施例の摩擦攪拌接合装置および摩擦攪拌接合方法により、接合ツールを被接合部材に挿入する前段階である接合条件設定段階において、接合ツールのZ軸方向(鉛直方向)の初期位置を精度よく設定できるため、載置台9を複数備えるマルチステーション方式の摩擦攪拌接合装置に本発明を適用することで、載置台9毎に接合ツールのZ軸方向(鉛直方向)の初期位置を精度よく設定することができ、全ての載置台9において高品質(高精度)な接合を行うことができる。
【0043】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…摩擦攪拌接合装置、2…装置本体、3…上下動駆動機構部(ボールスクリュー)、4…ホルダ部(接合ヘッド)保持部、5…ホルダ部(接合ヘッド)、6…接合ツール部、7…ショルダ部、8…プローブ部(接合ピン)、9…載置台、10…距離計測センサ、11…制御部(制御装置)、12…(X軸方向)リニア駆動機構部、13…リニアガイドのレール(X軸)、14…(Y軸方向)リニア駆動機構部、15…リニアガイドのレール(Y軸)。
【要約】
【課題】
接合ツールのZ軸方向(鉛直方向)の高精度な位置設定が可能な摩擦攪拌接合装置及び摩擦攪拌接合方法を提供する。
【解決手段】
被接合部材に挿入されて回転しながら進行し、当該被接合部材を接合する接合ツールと、前記接合ツールを保持する接合ヘッドと、前記接合ヘッドを保持し、前記接合ツールを回転させると共に、前記接合ツールを進行させる装置本体と、前記接合ヘッドの所定の位置である第一の基準点と、前記被接合部材を載置する載置台上で前記第一の基準点と鉛直方向において対向する第二の基準点との距離を計測する距離計測手段と、を備えることを特徴とする。
【選択図】 図1
図1
図2
図3