特許第6561206号(P6561206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561206
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】薄膜ベースの熱基準源
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/02 20060101AFI20190805BHJP
【FI】
   G01K7/02 A
【請求項の数】20
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-515507(P2018-515507)
(86)(22)【出願日】2016年8月15日
(65)【公表番号】特表2018-529957(P2018-529957A)
(43)【公表日】2018年10月11日
(86)【国際出願番号】US2016046961
(87)【国際公開番号】WO2017065865
(87)【国際公開日】20170420
【審査請求日】2018年3月30日
(31)【優先権主張番号】14/884,459
(32)【優先日】2015年10月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503455363
【氏名又は名称】レイセオン カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,ジェームズ アール.
(72)【発明者】
【氏名】タウンセンド,カール ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】ケトラ,カート エス.
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/026674(WO,A2)
【文献】 特開2015−070250(JP,A)
【文献】 特開2011−064513(JP,A)
【文献】 特開2014−204122(JP,A)
【文献】 特開2000−230867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒体放射スペクトルを生成する薄膜デバイスであって、
印加電圧に応答して熱を生成するように構成された第1のカーボンナノチューブ層と、
前記第1のカーボンナノチューブ層からの前記熱に応答して前記黒体放射スペクトルを生成するように構成された第2のカーボンナノチューブ層と、
前記第2のカーボンナノチューブ層における温度を測定する、前記第1のカーボンナノチューブ層と前記第2のカーボンナノチューブ層との間の熱電対と、
を有する薄膜デバイス。
【請求項2】
前記熱電対は更に、銅−カーボンナノチューブ熱電対層を有する、請求項1に記載の薄膜デバイス。
【請求項3】
前記銅−カーボンナノチューブ熱電対層は、
前記第2のカーボンナノチューブ層に近接した本体と、カーボンナノチューブテール部とを有するカーボンナノチューブ材料と、
前記カーボンナノチューブ材料の前記本体に取り付けられたジャンクション端と、前記カーボンナノチューブ材料の前記本体から遠位のコンタクト端とを有する銅電極と
を含む、請求項2に記載の薄膜デバイス。
【請求項4】
前記銅電極は更に、複数の銅電極を有し、各銅電極が、前記カーボンナノチューブ材料の本体に取り付けられたジャンクション端と、前記カーボンナノチューブ材料の前記本体から遠位のコンタクト端とを含み、前記熱電対は、前記第2のカーボンナノチューブ層の様々な位置で温度を測定する、請求項3に記載の薄膜デバイス。
【請求項5】
前記熱電対は、前記第2のカーボンナノチューブ層上に堆積されたアルメルのストリップと、前記第2のカーボンナノチューブ層上に堆積されたクロメルのストリップとを含み、前記アルメルのストリップの一端が、前記クロメルのストリップの一端と接触している、請求項1に記載の薄膜デバイス。
【請求項6】
前記熱電対は、前記第2のカーボンナノチューブ層における前記温度の局所的変動を+/−約0.5ケルビン未満にする、請求項1に記載の薄膜デバイス。
【請求項7】
当該薄膜デバイスは更に、前記第1のカーボンナノチューブ層と前記第2のカーボンナノチューブ層との間に熱拡散層を有し、前記熱電対は、前記熱拡散層と前記第2のカーボンナノチューブ層との間にある、請求項1に記載の薄膜デバイス。
【請求項8】
前記熱電対にかかる電圧差を測定して前記第2のカーボンナノチューブ層における前記温度を決定する電圧計と、前記決定された温度に応答して前記第1のカーボンナノチューブ層を通る電流を制御するように構成されたコントローラと、を更に有する請求項1に記載の薄膜デバイス。
【請求項9】
黒体放射スペクトルを生成する方法であって、
印加電圧に応答して熱を生成するように構成された第1のカーボンナノチューブ層と、前記第1のカーボンナノチューブ層からの前記熱に応答して黒体放射スペクトルを生成するように構成された第2のカーボンナノチューブ層と、前記第2のカーボンナノチューブ層における温度を測定する、前記第1のカーボンナノチューブ層と前記第2のカーボンナノチューブ層との間の熱電対と、を有する薄膜デバイスを用意することと、
前記第1のカーボンナノチューブ層を通る電流を供給して前記第1のカーボンナノチューブ層内で熱を生成することと、
前記熱電対を用いて前記第2のカーボンナノチューブ層における前記温度を測定することと、
前記黒体放射スペクトルを生成するために、前記第2のカーボンナノチューブ層の選択された温度を供するように、前記第1のカーボンナノチューブ層における前記電流を制御することと、
を有する方法。
【請求項10】
前記熱電対は更に、銅−カーボンナノチューブ熱電対を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記銅−カーボンナノチューブ熱電対は、前記第2のカーボンナノチューブ層に近接した本体と、前記第2のカーボンナノチューブ層から遠位の、基準ジャンクションを持つカーボンナノチューブテール部とを形成するカーボンナノチューブ材料を含み、且つ、前記本体に取り付けられたジャンクション端と、前記本体から遠位のコンタクト端とを有する銅電極を含み、前記温度は、前記カーボンナノチューブテール部の前記基準ジャンクションと前記銅電極の前記コンタクト端との間の電圧差に関係付けられる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記熱電対は、前記第2のカーボンナノチューブ層上に堆積されたアルメルのストリップと、前記第2のカーボンナノチューブ層上に堆積されたクロメルのストリップとを含み、前記アルメルのストリップの端部が、前記クロメルのストリップの端部と接触している、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記熱電対は更に、+/−約0.5ケルビン未満の前記第2のカーボンナノチューブ層における前記温度の局所的変動を提供しながら、前記第2のカーボンナノチューブ層における前記温度を測定するように構成される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記第2のカーボンナノチューブ層は、平坦表面と複数のカーボンナノチューブとを含み、選択されたカーボンナノチューブが、前記平坦表面に対して実質的に垂直に向けられた長手方向軸を有し、且つ、前記第1のカーボンナノチューブ層からの前記熱に応答して、前記長手方向軸に沿って向けられた光子を放出する、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記第1のカーボンナノチューブ層と前記熱電対との間のグラフェンスタックを用いて、前記第1のカーボンナノチューブ層からの前記熱を横方向に拡散させること、を更に有する請求項9に記載の方法。
【請求項16】
温度を測定するデバイスであって、
第1のカーボンナノチューブ層と第2のカーボンナノチューブ層との間の第1の位置に配置される本体と、前記本体から延在するカーボンナノチューブテール部とを含むカーボンナノチューブ材料の薄膜層であり、前記第1の位置は第1の温度を持ち、前記本体から遠位の前記カーボンナノチューブテール部の端部が、第2の温度を持つ第2の位置に配置されて基準ジャンクションを形成している、薄膜層と、
前記カーボンナノチューブ材料の前記本体に結合されたジャンクション端と、前記カーボンナノチューブ材料の前記本体から離れたコンタクト端とを有する電極と、
を有するデバイス。
【請求項17】
前記電極の前記ジャンクション端と前記カーボンナノチューブ材料の前記本体との結合位置において、温度測定値が取得される、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記電極は更に、複数の電極を有し、各電極が、前記カーボンナノチューブ材料の本体に結合されたジャンクション端と、前記本体から遠位のコンタクト端とを有する、請求項16に記載のデバイス。
【請求項19】
前記電極の厚さは、約0.025mm未満である、請求項16に記載のデバイス。
【請求項20】
前記電極は、(i)電気析出及び(ii)無電解析出のうちの一方によって前記本体に取り付けられている、請求項16に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射スペクトルを生成する薄膜デバイスに関し、特に、薄膜デバイスにて放射スペクトルに対応する温度を測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な光学システムにおいて、光センサにて、光信号が物体から受け取られ、光センサにて、光信号の測定結果が得られて、物体の特性が決定されている。正確な測定結果を得るために、しばしば、1つ以上の基準波長で既知の光子束を用いて光センサを較正することが必要である。基準波長にある光子束を提供するための1つの方法は、選択された温度まで1つ以上の黒体放射体を加熱し、光学フィルタを用いて較正波長を選択することを含む。しかしながら、光センサを較正するのに伝統的な黒体源を使用することは、サイズ、重量、及び電力(size, weight, and power;SWaP)の課題をもたらす。これらの課題を克服しながら黒体放射スペクトルを作り出すために、薄膜デバイスが使用されている。これらの薄膜デバイスは、例えば10センチメートル(cm)×10cmなど、延在した放射表面を持つ傾向にある。効果的な較正は、放射表面に沿って、約0.5ケルビン以内まで均一な温度プロファイルを必要とする。故に、放射表面における温度を測定することが望ましい。しかしながら、温度センサは、その熱質量及び熱伝導性に起因して局所的な温度を変化させる傾向にあり、それにより、放射表面にわたる温度均一性に影響を及ぼす。本開示は、放射表面における温度の均一性に実質的に影響を及ぼすことなく、薄膜黒体源の温度を測定する方法及び装置を提供する。
【発明の概要】
【0003】
本開示の一実施形態によれば、黒体スペクトルを生成する薄膜デバイスが開示され、当該デバイスは、印加電圧に応答して熱を生成するように構成された第1の層と、第1の層からの熱に応答して黒体放射スペクトルを生成するように構成された第2の層と、第2の層における温度を測定する、第1の層と第2の層との間の熱電対とを含む。
【0004】
本開示の他の一実施形態によれば、黒体放射スペクトルを生成する方法が開示され、当該方法は、印加電圧に応答して熱を生成するように構成された材料の第1の層と、第1の層からの熱に応答して黒体放射スペクトルを生成するように構成された材料の第2の層と、第2の層における温度を測定する、第1の層と前記第2の層との間の熱電対と、を有する薄膜デバイスを用意することと、第1の層を通る電流を供給して第1の層内で熱を生成することと、熱電対を用いて第2の層における温度を測定することと、黒体放射スペクトルを生成するために、第2の層の選択された温度を供するように、第1の層における電流を制御することとを含む。
【0005】
更なる他の一実施形態によれば、温度を測定するデバイスが開示され、当該デバイスは、第1の温度を持つ第1の位置に配置される本体と、該本体から延在するカーボンナノチューブテール部とを含むカーボンナノチューブ材料の薄膜層であり、該本体から遠位のカーボンナノチューブテール部の端部が、第2の温度を持つ第2の位置に配置されて基準ジャンクションを形成している、薄膜層と、カーボンナノチューブ材料の本体に結合されたジャンクション端と、カーボンナノチューブ材料の本体から離れたコンタクト端とを有する電極とを含む。
【0006】
更なる特徴及び利点が、本開示の技術を通じて実現される。本開示の他の実施形態及び態様が、ここに詳細に記載され、特許請求される開示の一部と見なされる。これらの利点及び特徴を持つ本開示のより十分な理解のため、明細書及び図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
開示と見なされる主題は、本明細書の結びにある特許請求の範囲にて特定的に指摘されて明瞭に特許請求される。本開示の以上の及びその他の特徴及び利点は、添付の図面とともに取り入れられる以下の詳細な説明から明らかである。
図1】本開示の一実施形態における光センサを較正するための例示的な光学システムを示している。
図2】一実施形態における本開示の例示的な薄膜デバイスの斜視図を示している。
図3図2の例示的な薄膜デバイスの頂部の側面図を示している。
図4】別の実施形態における薄膜デバイスの頂部の側面図を示している。
図5】別の実施形態における薄膜デバイスの頂部の側面図を示している。
図6】本発明の一実施形態における薄膜デバイスの熱電対層を形成する例示的な熱電対を示している。
図7】第2の層における温度と電源からの印加電力とのグラフを示している。
図8】本開示の他の一実施形態におけるアルメル−クロメル熱電対を示している。
図9】様々な断面幅を有するアルメル−クロメル熱電対についての温度に対する温度誤差のグラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本開示の一実施形態における、例えば光センサ又は光検出器などの光センサ102を較正するための例示的な光学システム100を示している。光学システム100は、センサ102の見通し線106に出入りするように動かされることができる薄膜デバイス104を含んでいる。薄膜デバイス104は、黒体放射スペクトルの形態でセンサ102に光を提供する。薄膜デバイス104は、光センサ102の方に面するように向けられた放射表面110を有する。放射表面110は均一な温度に加熱され、それにより放射表面110にて黒体放射を生成する。選択された波長ウィンドウ内の光子束が光センサ102に到達することを可能にするために、薄膜デバイス104と光センサ102との間にフィルタ108を配置することができる。選択される波長ウィンドウは、一般に、光センサ102を較正するために使用される較正波長に対応する。
【0009】
選択された温度まで放射表面110を加熱するために、電源112が薄膜デバイス104に電流を供給する。放射表面110における温度を測定するために、放射表面110に熱電対114が結合されている。例示的な一実施形態において、熱電対114は、可能な限り放射表面110に近い位置で温度を測定する。
【0010】
光学システム100は、放射源104の様々な動作を制御するコントローラ120を含んでいる。コントローラ120は、プロセッサ122及びメモリ記憶デバイス124を含んでいる。様々な実施形態において、メモリ記憶デバイス124は、例えばソリッドステートメモリ記憶デバイスなどの、非一時的メモリ記憶デバイスを含む。メモリ記憶デバイス124には、プロセッサ122によってアクセスされるときに放射源104を制御する方法を実行する一組のプログラム126が格納され得る。一態様において、コントローラ120は、熱電対114から温度測定値を受け取り、温度測定値に基づいて、電源112によって放射源に供給される電流の量を変更する。
【0011】
図2は、一実施形態における本開示の例示的な薄膜デバイス104の斜視図を示している。薄膜デバイス104は、第1の層202(ここでは、“第1のカーボンナノチューブ層202”としても参照する)を含んでおり、第1のカーボンナノチューブ層202は、その両端に電極204a、204bを有している。電極204a及び204bは、第1のカーボンナノチューブ層202を通り抜ける電流を供給するために、電源(例えば図1の電源112など)に接続され得る。図2には、図示及び説明の目的で座標系225が与えられている。第1のカーボンナノチューブ層202及び薄膜デバイス200のその他の層が座標系225のx−y平面内に位置すると考える。座標系225は、薄膜構造200の頂部側又は頂面と、薄膜構造200の底部側又は底面とを規定する。任意の所与の層について、頂部側は、一般に、その層に関して正のz方向にある領域を指し、底部側は、一般に、その層に関して負のz方向にある領域を指す。z軸は、薄膜デバイスの縦方向を規定し、z軸に対して垂直な平面は、縦方向に対して横方向であると考え得る。
【0012】
第1のカーボンナノチューブ層202は、第1のカーボンナノチューブ層202の面内に配向したカーボンナノチューブを含む。第1のカーボンナノチューブ層202の頂面202a上に、熱拡散層206が配置されている。熱拡散層206は、熱が第1のカーボンナノチューブ層202からz軸に沿って進行するときに、xy平面を通じて横方向に熱を広げる。熱拡散層206の頂面上に、熱電対層230が配置されている。第2の層208(ここでは、“第2のカーボンナノチューブ層208”としても参照する)が熱電対層230に隣接しており、第1のカーボンナノチューブ層202と第2のカーボンナノチューブ層208との間に熱電対層230及び熱拡散層206が挟み込まれるようにされている。第2のカーボンナノチューブ層208は、x−y平面内に延在する平坦な表面214と、長手方向軸を平坦表面214に垂直に揃えて配向されて(すなわち、z方向に配向されている)平坦表面214の頂部に取り付けられた複数のカーボンナノチューブ216とを含んでいる。一実施形態において、平坦表面214はアルミナ基板(Al)の層である。第2の層208は、図1の放射表面110を形成する。
【0013】
第1のカーボンナノチューブ層202に電圧が印加されるとき、熱が生成され、この熱が、第1のカーボンナノチューブ層202の頂面202a又は第1のカーボンナノチューブ層202の底面202bの何れかから流れ出る。頂面202aから流れる熱は、熱拡散層206及び熱電対層230を通って伝達されて、第2のカーボンナノチューブ層208に到達する。第2のカーボンナノチューブ層208にて、熱が複数のカーボンナノチューブ216から光子を励起し、その光子が、正のz方向に放射されて黒体放射スペクトルを生成する。
【0014】
第1の層202によって生成される熱の空間分布は、x−y平面内でバラつく傾向にある。熱が+z方向に進むにつれて、熱拡散層206がxy平面内のこの熱バラつきを減少させ、それ故に、熱が第2のカーボンナノチューブ層208に到達するときには、熱が第2のカーボンナノチューブ層208の表面にわたって均等に分布される。熱拡散層206の構造は、x−y方向の熱のバラつきを抑制するように選択される。
【0015】
一実施形態において、熱拡散層206は、x−y平面全体にわたって横方向に熱を広げてx−y平面内での熱の均等分布を作り出す複数の熱伝導層を含む。一実施形態において、これらの熱伝導層はグラフェンシートを含む。グラフェンシートは、熱的に高度に異方性の材料であり、x−y平面内で横方向に熱を広げるのに効果的である。一実施形態において、熱拡散層206は、少なくとも第1のグラフェンシート210a及び第2のグラフェンシート210bと、対応する接着層212a−212cとを含む。図2には2つのグラフェンシートが示されているが、理解されることには、如何なる数のグラフェンシートが熱拡散層206に含められてもよい。接着層212a−212cは熱的に絶縁性であり、必ずしも熱的に異方性である必要はないが、z軸に沿った熱伝達を可能にする。第1のグラフェンシート210aは、第1の接着層212aを介して第1の層202に接合されている。第2のグラフェンシート210bと第1のグラフェンシート201aとが、接着層212bによって接合されている。第2のグラフェンシート201bは、接着層212cを介して熱電対層230に接合されている。
【0016】
薄膜構造200は更に、第1のカーボンナノチューブ層202の底面202b上に配置された反射器220を含んでいる。反射器220は、薄膜構造200の背面側での放射によって逃げ出る熱が非常に少ないように、低い熱エミッタンスを有する金属層である。一実施形態において、第1のカーボンナノチューブ層202と反射器220との間に、グラフェンシート222及び接着層224が配置され得る。
【0017】
図3は、図2の例示的な薄膜デバイス104の頂部の側面図を示しており、第1の層202と第2の層204との間の層が示されている。第1の層202の頂面に、接着層306aを介して、第1のグラフェンシート304aが結合されている。第1のグラフェンシート304aの頂面に、接着層306bを介して、第2のグラフェンシート304bが結合されている。第2のグラフェンシート304bに、接着層306cを介して、熱電対層308が結合されている。熱電対層308に、接着層306dを介して、第2の層204が結合されている。
【0018】
第2のカーボンナノチューブ層204は、薄い表面310(概して、アルミナ表面)と、複数のカーボンナノチューブ312a−312mとを含んでおり、複数のカーボンナノチューブ312a−312mの長手方向軸が、薄いアルミナ表面310の平坦表面に対して実質的に垂直を向くように、複数のカーボンナノチューブ312a−312mは配向されている。一般に、第2のカーボンナノチューブ層204にて励起された光子は、放射矢印315によって指し示されるように、第2のカーボンナノチューブ層204の上方の半空間に放出される。様々な実施形態において、第2のカーボンナノチューブ層204における温度は、第2のカーボンナノチューブ層204の表面にわたって1.0ケルビン未満の空間バラつきを有する。他の一実施形態において、この空間バラつきは0.5ケルビン未満である。更なる他の一実施形態において、この空間バラつきは0.1ケルビン未満である。故に、第2のカーボンナノチューブ層306における複数のカーボンナノチューブ312a−312mの各々が、アルミナ表面310から、実質的に同じ量の熱を受け取る。
【0019】
図4は、別の実施形態における薄膜デバイス104の頂部の側面図を示している。第1の層202の頂面に、接着層306aを介して、第1のグラフェンシート304aが結合されている。第1のグラフェンシート304aの頂面に、接着層306bを介して、第2のグラフェンシート304bが結合されている。第2のグラフェンシート304bに、接着層306cを介して、熱電対層308が結合されている。熱電対層308は、第2の層204と直に(すなわち、介在する接着層なしで)接触している。
【0020】
図5は、別の実施形態における薄膜デバイス104の頂部の側面図を示している。第1の層202の頂面に、接着層306aを介して、第1のグラフェンシート304aが結合されている。第1のグラフェンシート304aに、接着層306bを介して、熱電対層308が結合されている。熱電対層308に、接着層306cを介して、第2の層208が結合されている。
【0021】
図6は、本発明の一実施形態における薄膜デバイス104の熱電対層を形成する例示的な熱電対600を示している。例示的な熱電対600は、薄膜デバイス104の層として一体化されるように、薄膜電極の他の層のx及びy寸法と同じx及びy寸法を持つ薄膜層を含んでいる。一実施形態において、本体604が、第2の層208に接し又は隣接している。熱電対600は、概して、第2の層208における空間的な温度差を殆ど又は全く生じさせないように、数ミル(mil)の厚さを持つ薄膜である。一実施形態において、熱電対600の幅は約1.5ミル(0.038mm)である。
【0022】
例示的な熱電対600は銅−CNT熱電対である。銅−CNT熱電対は、本体604及びCNTテール部606を有するカーボンナノチューブ薄膜602を含んでいる。本体604は、薄膜デバイス104の他の層と同じ長さ及び幅である長さ及び幅(x及びy方向)を有している。CNTテール部606は、本体604から遠ざかるように延在した材料のストリップを形成している。CNTテール部606には、本体604から離れた位置で銅電極が取り付けられ、それにより、基準ジャンクション608が形成されている。本体604には、選択された位置で銅電極610が取り付けられる。電極610の厚さは約1ミル(0.025mm)であり、その断面積は小さい。故に、電極610は、殆ど熱質量を持たず、第2の層における横方向の温度均一性を乱さない。銅電極610は、ジャンクション端612と、ジャンクション端612から遠位のコンタクト端614とを含んでいる。ジャンクション端612は、本体604に取り付けられる。一実施形態において、ジャンクション端612は、無電解析出によって本体604に取り付けられる。CNTテール部606の遠位端(すなわち、基準端608)及び銅電極610のコンタクト端614は、実質的に周囲温度又は室温にある。一方、CNTの本体604及び銅電極610のジャンクション端612は、薄膜デバイス104の第2の層208の温度にある。様々な実施形態において、銅電極610及びコンタクト端614は、絶縁材料620によって熱的及び電気的に絶縁されることができる。
【0023】
銅電極610のコンタクト端614とCNTテール部606の遠位基準ジャンクション608との間に電圧計625を配置することによって、温度測定値を得ることができる。電圧測定値を制御システム(図1の120)に送ることができ、そして、制御システムは、薄膜デバイス(図1の104)を通る電流を増加又は減少させることによって、第2の層の温度を、それぞれ、上昇又は低下させることができる。一実施形態において、制御システム(図1の120)は、温度測定値を選択温度又は所望温度と比較し、それに従って電流を変更する。
【0024】
一実施形態において、単一の銅電極610が本体604に取り付けられる。しかしながら、様々な実施形態において、如何なる数の銅電極が本体に取り付けられてもよい。図6に示すように、4つの銅電極610、616、618、620が本体604に取り付けられている。銅電極610、616、618、620の位置は、第2の層208の表面にわたる様々な箇所での温度プロファイルを取得するために選択されることができる。各箇所における温度が、共通の基準ジャンクション608に対してモニタされる。
【0025】
図7は、第2の層208における温度と電源112からの印加電力とのグラフ700を示している。グラフ700は、図6の電極610、616、618、620(グラフ上では、Blue、Brown、Orange、Greenとして記載)の各々からのデータポイントを示している。これらのデータポイントにベストフィットする直線702が引かれている。様々な電極接触位置における重なり合う温度測定値の間に良好な一致が見られる。
【0026】
図8は、本開示の他の一実施形態におけるアルメル−クロメル熱電対800を示している。アルメル−クロメル熱電対800は、第2のカーボン層208のアルミナ基板層214上でのアルメル及びクロメルの(通常は真空中での)気相成長によって形成され得る。マスキングを用いた気相成長及び/又は電気めっきは、電極の幅及び厚さの良好な制御を可能にする。アルメル及びクロメルの層は、厚さにおいて約1ミル(0.025mm)から3ミル(0.076mm)である。一実施形態において、アルメル及びクロメルの層は、幅において1ミルからであるが、図9に関して後述するように他の幅も使用され得る。これらの層の小さい幅は、非常に小さい熱質量に寄与し、それ故に、第2の層において要求される温度均一性に与える乱れを極めて小さくする。薄いストリップ状のアルメル801が1つの位置に形成され、薄いストリップ状のクロメル803が別の位置に形成される。領域805において、アルメル801とクロメル803とが重なってジャンクションを形成する。熱電対800は、本発明の限定としてではなく、単に例示の目的で、アルメル−クロメル熱電対として記述されている。他の実施形態において、熱電対は、アルミナ基板層214上にその他の好適な金属合金を堆積させることで作製されることができる(すなわち、Fe:コンスタンタン、Cu:コンスタンタン)。
【0027】
図9は、様々な断面幅を有するアルメル−クロメル熱電対についての温度に対する温度誤差のグラフ900を示している。縦軸は、熱電対によって測定されたサンプル温度と基準温度との間の差を示し、横軸は、基準温度を示している。これらの熱電対は、約10ミル(0.25mm)から約125ミル(3.18mm)までの幅を有する。基準温度は、約25℃、30℃、40℃、50℃、75℃、100℃、125℃、及び150℃とした。グラフ900が示すことには、様々な幅の熱電対が、約1K以内で、そして多くの例で、約0.5K以内で、基準温度の良好な読み取りを提供する。これは、“大きい”幅の熱電対が使用され得ることを意味するが、より小さい幅を持つ熱電対を使用することが依然として望ましいとし得る。
【0028】
故に、一態様において、黒体スペクトルを生成する薄膜デバイスが開示され、当該デバイスは、印加電圧に応答して熱を生成するように構成された第1の層と、前記第1の層からの前記熱に応答して前記黒体放射スペクトルを生成するように構成された第2の層と、前記第2の層における温度を測定する、前記第1の層と前記第2の層との間の熱電対とを含む。一実施形態において、前記熱電対は更に、銅−カーボンナノチューブ熱電対層を含む。前記銅−カーボンナノチューブ熱電対層は、前記第2の層に近接した本体と、カーボンナノチューブテール部とを有するカーボンナノチューブ材料と、前記カーボンナノチューブ材料の前記本体に取り付けられたジャンクション端と、前記カーボンナノチューブ材料の前記本体から遠位のコンタクト端とを有する銅電極とを含むことができる。一実施形態において、前記銅電極は、複数の銅電極を含み、各銅電極が、前記カーボンナノチューブ材料の本体に取り付けられたジャンクション端と、前記カーボンナノチューブ材料の前記本体から遠位のコンタクト端とを含み、前記熱電対は、前記第2の層の様々な位置で温度を測定する。他の一実施形態において、前記熱電対層は、前記第2の層上に堆積されたアルメルのストリップと、前記第2の層上に堆積されたクロメルのストリップとを含み、前記アルメルのストリップの一端が、前記クロメルのストリップの一端と接触している。様々な実施形態において、前記熱電対は、前記第2の層における前記温度の局所的変動を+/−約0.1ケルビン未満にする。前記第1の層と前記第2の層との間に熱拡散層が置かれてもよく、前記熱電対が前記熱拡散層と前記第2の層との間にあるようにされる。前記熱電対にかかる電圧差を測定して前記第2の層における前記温度を決定するために、電圧計が使用され得る。前記決定された温度に応答して前記第1の層を通る電流を制御するようにために、コントローラが使用され得る。
【0029】
他の一態様において、黒体放射スペクトルを生成する方法が開示され、当該方法は、印加電圧に応答して熱を生成するように構成された材料の第1の層と、前記第1の層からの前記熱に応答して黒体放射スペクトルを生成するように構成された材料の第2の層と、前記第2の層における温度を測定する、前記第1の層と前記第2の層との間の熱電対と、を有する薄膜デバイスを用意することと、前記第1の層を通る電流を供給して前記第1の層内で熱を生成することと、前記熱電対を用いて前記第2の層における前記温度を測定することと、前記黒体放射スペクトルを生成するために、前記第2の層の選択された温度を供するように、前記第1の層における前記電流を制御することとを含む。一実施形態において、前記熱電対は、銅−カーボンナノチューブ熱電対を含む。前記銅−カーボンナノチューブ熱電対は、前記第2の層に近接した本体と、前記第2の層から遠位の、基準ジャンクションを持つカーボンナノチューブテール部とを形成するカーボンナノチューブ材料を含み、且つ、前記本体に取り付けられたジャンクション端と、前記本体から遠位のコンタクト端とを有する銅電極を含み、前記温度は、前記カーボンナノチューブテール部の前記基準ジャンクションと前記銅電極の前記コンタクト端との間の電圧差に関係付けられる。他の一実施形態において、前記熱電対は、前記第2の層上に堆積されたアルメルのストリップと、前記第2の層上に堆積されたクロメルのストリップとを含み、前記アルメルのストリップの端部が、前記クロメルのストリップの端部と接触している。前記熱電対は、+/−約0.5ケルビン未満の前記第2の層における前記温度の局所的変動を提供しながら、前記第2の層における前記温度を測定するように使用され得る。一実施形態において、前記第2の層は、平坦表面と複数のカーボンナノチューブとを含み、選択されたカーボンナノチューブが、前記平坦表面に対して実質的に垂直に向けられた長手方向軸を有し、且つ、前記第1の層からの前記熱に応答して、前記長手方向軸に沿って向けられた光子を放出する。前記第1の層と前記熱電対との間に、前記第1の層からの前記熱を横方向に拡散させるために、グラフェンスタックが使用され得る。
【0030】
更なる他の一実施形態において、温度を測定するデバイスが開示され、当該デバイスは、第1の温度を持つ第1の位置に配置される本体と、前記本体から延在するカーボンナノチューブテール部とを含むカーボンナノチューブ材料の薄膜層であり、前記本体から遠位の前記カーボンナノチューブテール部の端部が、第2の温度を持つ第2の位置に配置されて基準ジャンクションを形成している、薄膜層と、前記カーボンナノチューブ材料の前記本体に結合されたジャンクション端と、前記カーボンナノチューブ材料の前記本体から離れたコンタクト端とを有する電極とを含む。前記電極の前記ジャンクション端と前記カーボンナノチューブ材料の前記本体との結合位置において、温度測定値が取得される。前記電極は、複数の電極を含むことができ、各電極が、前記カーボンナノチューブ材料の本体に結合されたジャンクション端と、前記本体から遠位のコンタクト端とを有する。一実施形態において、前記電極の幅は、約1ミル(0.025mm)未満である、前記電極は、電気析出又は無電解析出の何れかによって前記本体に取り付けられ得る。
【0031】
ここで使用される用語は、単に特定の実施形態を記述する目的でのものであり、発明を限定するものであることを意図するものではない。ここで使用されるとき、単数形の“a”、“an”、及び“the”は、文脈が別のことを明瞭に指し示していない限り、複数形も含むことを意図している。更に理解されることには、用語“有する”及び/又は“有している”は、本明細書で使用されるとき、述べられる機構、整数、ステップ、処理、要素、及び/又はコンポーネントの存在を規定するが、1つ以上のその他の機構、整数、ステップ、処理、要素、コンポーネント、及び/又はこれらの群の存在又は追加を除外しない。
【0032】
以下の請求項中の全てのミーンズ・プラス・ファンクション要素又はステップ・プラス・ファンクション要素の対応する構造、材料、動作、及び均等物は、具体的にクレーム記載される他のクレーム要素と組み合わさってその機能を実行する如何なる構造、材料、又は動作をも含むことが意図される。本発明の記述は、例示及び説明の目的で提示されており、網羅的であること又は開示された形態での発明に限定されることは意図されていない。本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、数多くの変更及び変形が当業者に明らかになる。実施形態は、本発明の原理及び実際の適用を最もよく説明するために、及び当業者が、企図される特定の用途に適した様々な変更とともに例示的な実施形態に関して本発明を理解することを可能にするために、選択されて記述されている。
【0033】
本発明の例示的な実施形態について記述したが、理解されるように、当業者は、現時及び将来の双方において、以下に続く請求項の範囲に入る様々な改善及び改良を為し得る。これらの請求項は、最初に記載された発明に対する適正な保護を維持するように解釈されるべきである。
図1
図2
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図7
図8
図9