【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)「環境中病原性微生物の迅速定量装置の実用化開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
  往復式流路タイプの反応容器によるPCRでは、試料を流路中で往復式に移動させることによって試料にサーマルサイクルを与えるために、流路上にそれぞれ異なる温度に維持された複数の温度領域が設定される。試料に適切にサーマルサイクルを与えるためには、試料がそれぞれの温度領域に正確に停止する必要がある。停止位置がばらつくと、反応が起こらなかったり、反応の進度が試料の場所でばらついたり、DNAの増幅等の反応が不正確になり、ひいては作業者や業務従事者の判断ミスを招来するおそれがある。
【0007】
  本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、異なる温度領域が設定されている流路内で試料を往復式に移動させることにより、試料にサーマルサイクルを与えることができる反応処理装置において、試料を温度領域の所定の位置に正確に停止させることのできる技術を提供することにある。
 
【課題を解決するための手段】
【0008】
  上記課題を解決するために、本発明のある態様の反応処理装置は、試料が移動する流路が形成された反応処理容器と、試料を流路内で移動および停止させる送液手段と、流路に、第1温度に維持された第1温度領域と、第1温度よりも低い第2温度に維持された第2温度領域を提供する温度制御手段と、流路の第1温度領域と第2温度領域の間に設定された検出領域を通過する試料を検出する検出手段と、検出手段によって検出された信号に基づいて、送液手段を制御する制御手段と、を備える。試料が第2温度領域から第1温度領域に移動するとき、制御手段は、検出手段により試料の検出領域の通過が検出された時刻から、所定の第1待機時間が経過したとき、送液手段に試料の停止を指示する。試料が第1温度領域から第2温度領域に移動するとき、制御手段は、検出手段により試料の検出領域の通過が検出された時刻から、第1待機時間とは独立して設定された所定の第2待機時間が経過したとき、送液手段に試料の停止を指示する。
【0009】
  本発明の別の態様も反応処理装置である。この反応処理装置は、試料が移動する流路が形成された反応処理容器と、試料を流路内で移動および停止させる送液手段と、流路に、第1温度に維持された第1温度領域と、第1温度よりも低い第2温度に維持された第2温度領域を提供する温度制御手段と、流路の第1温度領域と第2温度領域の間に設定された検出領域を通過する試料を検出する検出手段と、検出手段によって検出された信号に基づいて、送液手段を制御する制御手段と、を備える。試料が第2温度領域から第1温度領域に移動するとき、試料の検出領域における移動速度を第1移動速度v
1とし、流路内の所定の位置に停止する試料の最も検出領域に近い端部と検出領域の中心との距離をX
01とし、試料が第1温度領域から第2温度領域に移動するとき、試料の検出領域における移動速度を第2移動速度v
2とし、流路内の所定の位置に停止する試料の最も検出領域に近い端部と検出領域の中心との距離をX
02とし、当該反応処理装置に固有の一定の時間をt
Cとしたときに、制御手段は、試料が第2温度領域から第1温度領域に移動するときには、t
d2/1=X
01/v
1−t
Cで規定される第1待機時間が経過したとき、試料が第1温度領域から第2温度領域に移動するときには、t
d2/2=X
02/v
2−t
Cで規定される第2待機時間が経過したとき、送液手段に試料の停止を指示する。
【0010】
  本発明の別の態様も反応処理装置である。この反応処理装置は、試料が移動する流路が形成された反応処理容器と、試料を流路内で移動および停止させる送液手段と、流路に、第1温度に維持された第1温度領域と、第1温度よりも低い第2温度に維持された第2温度領域を提供する温度制御手段と、流路の第1温度領域と第2温度領域の間に設定された検出領域を通過する試料を検出する検出手段と、検出手段によって検出された信号に基づいて、送液手段を制御する制御手段と、を備える。試料が第2温度領域から第1温度領域に移動するとき、試料の検出領域における移動速度を第1移動速度v
1とし、流路内の所定の位置に停止する試料の最も検出領域に近い端部と検出領域の中心との距離をX
01とし、試料が第1温度領域から第2温度領域に移動するとき、試料の検出領域における移動速度を第2移動速度v
2とし、流路内の所定の位置に停止する試料の最も検出領域に近い端部と検出領域の中心との距離をX
02とし、当該反応処理装置に固有の一定の時間をt
Cとし、αおよびβを補正係数としたときに、制御手段は、試料が第2温度領域から第1温度領域に移動するときには、t
d2/1=α×(X
01/v
1)−t
Cで規定される第1待機時間が経過したとき、試料が第1温度領域から第2温度領域に移動するときには、t
d2/2=β×(X
02/v
2)−t
Cで規定される第2待機時間が経過したとき、送液手段に試料の停止を指示する。
【0011】
  t
Cは、試料が検出領域を実際に通過した時刻と、検出手段が試料が検出領域を通過したことを検出した時刻との差に相当する時間であってもよい。
【0012】
  試料は、DNAと、PCR試薬と、蛍光を発する試薬を含んでもよい。検出手段は、試料から発せられる蛍光を検出する蛍光検出器を含んでもよい。試料が第2温度領域から第1温度領域に移動するときの試料の検出領域を通過する時間を第1通過時間t
p1とし、試料が第1温度領域から第2温度領域に移動するときの試料の検出領域を通過する時間を第2通過時間t
p2としたとき、制御手段は、蛍光検出器からの信号または当該信号に対して所定の演算処理をした値と、所定の閾値とに基づいて、第1通過時間t
p1および第2通過時間t
p2を求め、制御手段は、第1通過時間t
p1と試料の長さLとから第1移動速度v
1=L/t
p1、第2通過時間t
p2と試料の長さLとから第2移動速度v
2=L/t
p2を演算してもよい。
【0013】
  制御手段は、試料の反応の進捗に応じて、閾値を変化させてもよい。
【0014】
  制御手段は、第1通過時間t
p1および第2通過時間t
p2が所定の目標通過時間となるよう送液手段を制御してもよい。
【0015】
  本発明のさらに別の態様は、試料が移動する流路が形成された反応処理容器と、試料を流路内で移動および停止させる送液手段と、流路に、第1温度に維持された第1温度領域と、第1温度よりも低い第2温度に維持された第2温度領域を提供する温度制御手段と、流路の第1温度領域と第2温度領域の間に設定された検出領域を通過する試料を検出する検出手段と、を備える反応処理装置の制御方法である。この制御方法は、試料が第2温度領域から第1温度領域に移動するとき、検出手段により試料の検出領域の通過が検出された時刻から、所定の第1待機時間が経過したとき、送液手段に試料の停止を指示することと、試料が第1温度領域から第2温度領域に移動するとき、検出手段により試料の検出領域の通過が検出された時刻から、第1待機時間とは独立して設定された所定の第2待機時間が経過したとき、送液手段に試料の停止を指示することを備える。
【0016】
  本発明のさらに別の態様も、試料が移動する流路が形成された反応処理容器と、試料を流路内で移動および停止させる送液手段と、流路に、第1温度に維持された第1温度領域と、第1温度よりも低い第2温度に維持された第2温度領域を提供する温度制御手段と、流路の第1温度領域と第2温度領域の間に設定された検出領域を通過する試料を検出する検出手段と、を備える反応処理装置の制御方法である。この制御方法は、試料が第2温度領域から第1温度領域に移動するとき、試料の検出領域における移動速度を第1移動速度v
1とし、流路内の所定の位置に停止する試料の最も検出領域に近い端部と検出領域の中心との距離をX
01とし、試料が第1温度領域から第2温度領域に移動するとき、試料の検出領域における移動速度を第2移動速度v
2とし、流路内の所定の位置に停止する試料の最も検出領域に近い端部と検出領域の中心との距離をX
02とし、当該反応処理装置に固有の一定の時間をt
Cとしたときに、制御手段は、試料が第2温度領域から第1温度領域に移動するときには、t
d2/1=X
01/v
1−t
Cで規定される第1待機時間が経過したとき、試料が第1温度領域から第2温度領域に移動するときには、t
d2/2=X
02/v
2−t
Cで規定される第2待機時間が経過したとき、送液手段に試料の停止を指示することを含む。
【0017】
  本発明のさらに別の態様も、試料が移動する流路が形成された反応処理容器と、試料を流路内で移動および停止させる送液手段と、流路に、第1温度に維持された第1温度領域と、第1温度よりも低い第2温度に維持された第2温度領域を提供する温度制御手段と、流路の第1温度領域と第2温度領域の間に設定された検出領域を通過する試料を検出する検出手段と、を備える反応処理装置の制御方法である。この制御方法は、試料が第2温度領域から第1温度領域に移動するとき、試料の検出領域における移動速度を第1移動速度v
1とし、流路内の所定の位置に停止する試料の最も検出領域に近い端部と検出領域の中心との距離をX
01とし、試料が第1温度領域から第2温度領域に移動するとき、試料の検出領域における移動速度を第2移動速度v
2とし、流路内の所定の位置に停止する試料の最も検出領域に近い端部と検出領域の中心との距離をX
02とし、当該反応処理装置に固有の一定の時間をt
Cとし、αおよびβを補正係数としたときに、制御手段は、試料が第2温度領域から第1温度領域に移動するときには、t
d2/1=α×(X
01/v
1)−t
Cで規定される第1待機時間が経過したとき、試料が第1温度領域から第2温度領域に移動するときには、t
d2/2=β×(X
02/v
2)−t
Cで規定される第2待機時間が経過したとき、送液手段に試料の停止を指示することを含む。
【0018】
  上記の「試料が検出領域を通過」について説明する。PCRに供される試料は一定の体積があるため、流路内で空気との界面によって区画された所定の長さを有する。PCRに供される試料がある方向に移動するときには先頭の界面を含む先端部と最後尾の界面を含む後端部を有する。「試料が検出領域を通過した」とは、試料がある一定の方向に移動しているとき、試料の先端部が検出領域に進入し、後端部が検出領域を退出したことをいう。
【0019】
  「試料が検出領域を通過した時刻」とは、試料の後端部が検出領域を退出した時刻をいう。また、「試料の(検出領域の)通過時間」とは、試料の先端部が検出領域に進入した時刻から試料の後端部が検出領域を退出した時刻(試料が検出領域を通過した時刻)までの時間をいい、所定の長さを有する試料が検出領域の通過に要する時間である。
【0020】
  次に「試料の位置」について説明する。本明細書等において、流路内の試料が、検出領域を通過して離れていく方向に移動、または離れていく方向に移動して停止する場合には、検出領域に最も近い試料の端部に属する界面と検出領域の中心との距離Xによって「試料の位置」を表すこととする。
 
【発明の効果】
【0021】
  本発明によれば、異なる温度領域が設定されている流路内で試料を往復式に移動させることにより、試料にサーマルサイクルを与えることができる反応処理装置において、試料を温度領域の所定の位置に正確に停止させることのできる技術を提供できる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0023】
  以下、本発明の実施形態に係る反応処理装置について説明する。この反応処理装置は、PCRを行うための装置である。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
 
【0024】
  図1(a)および
図1(b)は、本発明の実施形態に係る反応処理装置で使用可能な反応処理容器10を説明するための図である。
図1(a)は、反応処理容器10の平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)に示す反応処理容器10のA−A断面図である。
 
【0025】
  図1(a)および
図1(b)に示すように、反応処理容器10は、基板14と、流路封止フィルム16とから成る。
 
【0026】
  基板14は、温度変化に対して安定で、使用される試料溶液に対して侵されにくい材質から形成されることが好ましい。さらに、基板14は、成形性がよく、透明性やバリア性が良好で、且つ、低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが好ましい。このような材質としては、ガラス、シリコン(Si)等の無機材料をはじめ、アクリル、ポリエステル、シリコーンなどの樹脂、中でもシクロオレフィンが好適である。基板14の寸法の一例は、長辺75mm、短辺25mm、厚み4mmである。
 
【0027】
  基板14の下面14aには溝状の流路12が形成されており、この流路12は、流路封止フィルム16により封止されている。基板14の下面14aに形成される流路12の寸法の一例は、幅0.7mm、深さ0.7mmである。基板14における流路12の一端の位置には、外部と連通する第1連通口17が形成されている。基板14における流路12の他端の位置には、第2連通口18が形成されている。流路12の両端に形成された一対の第1連通口17および第2連通口18は、基板14の上面14bに露出するように形成されている。このような基板は射出成形やNC加工機などによる切削加工によって作製することができる。
 
【0028】
  基板14の下面14a上には、流路封止フィルム16が貼られている。実施形態に係る反応処理容器10において、流路12の大部分は基板14の下面14aに露出した溝状に形成されている。金型等を用いた射出成形により容易に成形できるようにするためである。この溝を封止して流路として活用するために、基板14の下面14a上に流路封止フィルム16が貼られる。
 
【0029】
  流路封止フィルム16は、一方の主面が粘着性を備えていてもよいし、押圧や紫外線などのエネルギー照射、加熱等により粘着性や接着性を発揮する機能層が一方の主面に形成されていてもよく、容易に基板14の下面14aと密着して一体化できる機能を備える。流路封止フィルム16は、粘着剤も含めて低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また、流路封止フィルム16は、板状のガラスや樹脂から形成されてもよい。この場合はリジッド性が期待できることから、反応処理容器10の反りや変形防止に役立つ。
 
【0030】
  流路12は、後述する反応処理装置により複数水準の温度の制御が可能な反応領域を備える。複数水準の温度が維持された反応領域を連続的に往復するように試料を移動させることにより、試料にサーマルサイクルを与えることができる。
図1(a)および
図1(b)に示す流路12は、直線状に形成されている。後述の反応処理装置に反応処理容器10が搭載された際に、流路12の紙面右側が比較的高温(約95℃)の反応領域(以下、「高温領域」と称する)となり、流路12の左側がそれより低温(約55℃)の領域(以下、「低温領域」と称する)となることが予定されている。
 
【0031】
  図1(a)および
図1(b)では流路12の反応領域は直線状に形成されているが、反応領域の形態はこれに限定されず、例えば曲線部と直線部とを組み合わせたいわゆる連続的に折り返す蛇行状に形成されてもよい。この場合、後述の温度制御手段を構成するヒータ等の実効面積を有効に使うことができ、反応領域内での温度のばらつきを低減することが容易であるとともに、反応処理容器の実体的な大きさを小さくでき、反応処理装置を小さくできるという利点がある。
 
【0032】
  図1(a)および
図1(b)は、試料20が反応処理容器10の流路内に導入された様子を示す。試料20は、第1連通口17および第2連通口18のいずれか一方から流路12に導入される。導入の方法はこれらに限られないが、例えばピペットやスポイト、シリンジ等で該連通口から適量の試料を直接導入してもよい。あるいは、多孔質のPTFEやポリエチレンからなるフィルタが内蔵してあるコーン形状のニードルチップを介してコンタミネーションを防止しながらの導入方法であってもよい。このようなニードルチップは一般的に数多くの種類のものが販売され容易に入手でき、ピペットやスポイト、シリンジ等の先端に取り付けて使用することが可能である。さらにピペットやスポイト、シリンジ等による試料の吐出、導入後、さらに加圧して推すことにより流路の所定の場所まで試料を移動させてもよい。
 
【0033】
  試料20としては、例えば、一または二以上の種類のDNAを含む混合物に、PCR試薬として蛍光プローブ、耐熱性酵素および4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を添加したものがあげられる。さらに反応処理対象のDNAに特異的に反応するプライマーを混合する。市販されているリアルタイムPCR用試薬キット等も使用することができる。
 
【0034】
  図2は、本発明の実施形態に係る反応処理装置30を説明するための模式図である。
 
【0035】
  本実施形態に係る反応処理装置30は、反応処理容器10が載置される反応処理容器載置部(図示せず)と、温度制御システム32と、CPU36とを備える。温度制御システム32は、
図2に示すように、反応処理容器載置部に載置される反応処理容器10に対して、反応処理容器10の流路12における紙面右側の領域を約95℃(高温領域)、紙面左側の領域を約55℃(低温領域)に精度よく維持、制御できるように構成されている。
 
【0036】
  温度制御システム32は、サーマルサイクル領域の各温度領域の温度を維持するものであって、具体的には、流路12の高温領域を加熱するための高温用ヒータ60と、流路12の低温領域を加熱するための低温用ヒータ62と、各温度領域の実温度を計測するための例えば熱電対等の温度センサ(図示せず)と、高温用ヒータ60の温度を制御する高温用ヒータドライバ33と、低温用ヒータ62の温度を制御する低温用ヒータドライバ35とを備える。温度センサによって計測された実温度情報は、CPU36に送られる。CPU36は、各温度領域の実温度情報に基づいて、各ヒータの温度が所定の温度となるよう各ヒータドライバを制御する。各ヒータは例えば抵抗加熱素子やペルチェ素子等であってよい。温度制御システム32はさらに、各温度領域の温度制御性を向上させるための他の要素部品を備えてもよい。
 
【0037】
  本実施形態に係る反応処理装置30は、さらに、試料20を反応処理容器10の流路内で移動させるための送液システム37を備える。送液システム37は、第1ポンプ39と、第2ポンプ40と、第1ポンプ39を駆動するための第1ポンプドライバ41と、第2ポンプ40を駆動するための第2ポンプドライバ42と、第1チューブ43と、第2チューブ44とを備える。
 
【0038】
  反応処理容器10の第1連通口17には、第1チューブ43の一端が接続される。第1連通口17と第1チューブ43の一端の接続部には、気密性を確保するためのパッキン45やシールが配置されることが好ましい。第1チューブ43の他端は、第1ポンプ39の出力に接続される。同様に、反応処理容器10の第2連通口18には、第2チューブ44の一端が接続される。第2連通口18と第2チューブ44の一端の接続部には、気密性を確保するためのパッキン46やシールが配置されることが好ましい。第2チューブ44の他端は、第2ポンプ40の出力に接続される。
 
【0039】
  第1ポンプ39、第2ポンプ40は、例えばダイアフラムポンプからなるマイクロブロアポンプであってよい。第1ポンプ39、第2ポンプ40としては、例えば株式会社村田製作所製のマイクロブロアポンプ(型式MZB1001T02)などを使用することができる。このマイクロブロアポンプは、動作時に一次側より二次側の圧力を高めることができるが、停止した瞬間または停止時には一次側と二次側の圧力が等しくなる。
 
【0040】
  CPU36は、第1ポンプドライバ41、第2ポンプドライバ42を介して、第1ポンプ39、第2ポンプ40からの送風や加圧を制御する。第1ポンプ39、第2ポンプ40からの送風や加圧は、第1連通口17、第2連通口18を通じて流路内の試料20に作用し、推進力となって試料20を移動させる。より詳細には、第1ポンプ39、第2ポンプ40を交互に動作させることにより、試料20のいずれかの端面にかかる圧力が他端にかかる圧力より大きくなるため、試料20の移動に係る推進力が得られる。第1ポンプ39、第2ポンプ40を交互に動作させることによって、試料20を流路内で往復式に移動させて、反応処理容器10の流路12の各温度領域を通過させることができ、その結果、試料20にサーマルサイクルを与えることが可能となる。より具体的には、高温領域において変性、低温領域においてアニーリング・伸長の各工程を繰り返し与えることにより、試料20中の目的のDNAを選択的に増幅させる。言い換えれば高温領域は変性温度域、低温領域はアニーリング・伸長温度域とみなすことができる。また各温度領域に滞留する時間は、試料20が各温度領域の所定の位置で停止する時間を変えることによって適宜設定することができる。
 
【0041】
  本実施形態に係る反応処理装置30は、さらに、蛍光検出器50を備える。上述したように、試料20には所定の蛍光プローブが添加されている。DNAの増幅が進むにつれ試料20から発せられる蛍光信号の強度が増加するので、その蛍光信号の強度値をPCRの進捗や反応の終端の判定材料としての指標とすることができる。
 
【0042】
  蛍光検出器50としては、非常にコンパクトな光学系で、迅速に測定でき、かつ明るい場所か暗い場所かにもかかわらず、蛍光を検出することができる日本板硝子株式会社製の光ファイバ型蛍光検出器FLE−510を使用することができる。この光ファイバ型蛍光検出器は、その励起光/蛍光の波長特性を試料20の発する蛍光特性に適するようにチューニングしておくことができ、様々な特性を有する試料について最適な光学・検出系を提供することが可能であり、さらに光ファイバ型蛍光検出器によってもたらされる光線の径の小ささから、流路などの小さいまたは細い領域に存在する試料からの蛍光を検出するのに適している。
 
【0043】
  光ファイバ型の蛍光検出器50は、光学ヘッド51と、蛍光検出器ドライバ52と、光学ヘッド51と蛍光検出器ドライバ52とを接続する光ファイバ53とを備える。蛍光検出器ドライバ52には励起光用光源(LED、レーザその他特定の波長を出射するように調整された光源)、光ファイバ型合分波器及び光電変換素子(PD,APD又はフォトマル等の光検出器)(いずれも図示せず)等が含まれており、これらを制御するためのドライバ等からなる。光学ヘッド51はレンズ等の光学系からなり、励起光の試料への指向性照射と試料から発せられる蛍光の集光の機能を担う。集光された蛍光は光ファイバ53を通じて蛍光検出器ドライバ52内の光ファイバ型合分波器により励起光と分けられ、光電変換素子によって電気信号に変換される。
 
【0044】
  本実施形態に係る反応処理装置30においては、高温領域と低温領域とを接続する流路内の試料20からの蛍光を検出することができるように光学ヘッド51が配置される。試料20は流路内を繰り返し往復移動させられることで反応が進み、試料20に含まれる所定のDNAが増幅するので、検出された蛍光の量の変動をモニタリングすることで、DNAの増幅の進度をリアルタイムで知ることができる。また、本実施形態に係る反応処理装置30においては、後述するように、蛍光検出器50からの出力値を利用して、試料20の移動制御に活用する。蛍光検出器は、試料からの蛍光を検出する機能を発揮するものであれば光ファイバ型蛍光検出器に限定されない。
 
【0045】
  図3(a)および
図3(b)は、試料の停止位置について説明するための図である。上述したように、本実施形態に係る反応処理装置30においては、試料20を流路中で往復式に移動させることによって試料20にサーマルサイクルを与えるために、流路12上にそれぞれ異なる温度に維持された複数の温度領域(すなわち、高温領域および低温領域)が設定される。試料20に適切にサーマルサイクルを与えるためには、試料20がそれぞれの温度領域内に正確に停止する必要がある。停止位置がばらつくと、反応が起こらなかったり、反応が試料の場所でばらついたり、DNAの増幅等の反応が不正確になり、ひいては作業者、業務従事者の判断ミスを招来するおそれがある。
 
【0046】
  図3(b)に示すように、流路12は、高温領域と低温領域の間に両者を接続する接続領域を備える。蛍光検出器50の光学ヘッド51は、この接続領域内の一部の領域65(「蛍光検出領域65」と称する)を通過する試料20から蛍光を検出するように設けられている。蛍光検出器50は、蛍光検出領域65にある試料20からの蛍光信号を検出し、その信号を0.01秒毎にCPU36に送信する。CPU36は、蛍光信号を受信し、蛍光信号値のスムージングや移動平均のような平均化等の演算処理や予め決められた閾値との比較等(以降まとめて「評価等」という場合もある)を行い、その結果に基づいて送液システム37に停止または作動信号を与える。
 
【0047】
  図3(a)および
図3(b)では、蛍光検出領域65を、高温領域と低温領域との中間付近に配置したがこれに限られるものではない。例えば、高温領域側あるいは低温領域側にその配置が偏っていてもよい。低温領域に配される低温用ヒータ62は高温領域に配される高温用ヒータ60よりも出力が低くてよいので、その分小型あるいは薄型のヒータ部品を使用することができ、その場合は光学ヘッド51を低温領域寄りに偏って配置することもできる。
 
【0048】
  ここで、蛍光検出領域65の中心から所定距離だけ離間した位置に試料20を停止させることを考える。停止させたい試料20の位置(目標停止位置)に対応する距離Xを距離X
0で表すこととする。距離X
0は、試料20が蛍光検出領域65を通過して目標停止位置に停止したとき、蛍光検出領域65に最も近い試料20の端部に属する界面と蛍光検出領域65の中心との距離である。この距離X
0で表される位置に試料20があるときに、試料20が最も適切に所定の温度に加熱、維持され、この位置は装置の温度領域の範囲や位置、反応処理容器10の構成から定まる。
 
【0049】
  先述のように、蛍光検出領域65の位置が、高温領域あるいは低温領域のいずれかの側に偏っている場合などは、高温領域側の目標停止位置に対応する距離と低温領域側の目標停止位置に対応する距離とは異なる。以下、一般的に目標停止位置について検討する場合は単にX
0と記載するが、上記のように高温領域側の目標停止位置に対応する距離と低温領域側の目標停止位置に対応する距離とは同じでなくてもよいということに留意されたい。本明細書においては、高温領域側の目標停止位置に対応する距離をX
01、低温領域側の目標停止位置に対応する距離をX
02とする。
 
【0050】
  試料20を停止させる際のフローを以下に示す。
(1)試料20が蛍光検出領域65を通過する(蛍光検出器50は蛍光信号をCPU36に送信している)
(2)蛍光検出器50からの蛍光信号に基づきCPU36が試料20の通過したことを検知する
(3)CPU36が、第1ポンプドライバ41に対して第1ポンプ39の停止信号を送信する、または第2ポンプドライバ42に対して第2ポンプ40の停止信号を送信する
(4)第1ポンプ39または第2ポンプ40が停止する
(5)試料20が停止する
 
【0051】
  速度v(mm/s)で流路12を移動している試料20が、蛍光検出領域65を通過し所定の時間後に距離X
0(mm)に対応する目標停止位置に停止する態様を
図4のチャート図を使って説明する。
図4のチャート図は、上記のような制御系の場合の一般的に生じる態様について模式的に表したものである。この説明では流路12上の高温領域及び低温領域の区別がなく、試料20の移動範囲内で温度分布がない流路12を考える。
 
【0052】
  図4(a)は、試料20が蛍光検出領域65を通過する際の蛍光信号の態様を模式的に表している(蛍光信号チャート)。
図4(b)は、試料20の位置に対応する距離Xの変化を時系的に表している(試料位置チャート)。
図4(c)は、試料20の移動速度の変化を時系的に表している(試料速度チャート)。なお、蛍光検出領域65は、ここでは実体的な面積が非常に小さいものとみなしている。蛍光検出領域65の面積は、対物レンズで集光された励起光の照射面積に相当するので、直径1mm以下であり、さらに試料20の長さや距離X
0と比較して非常に小さいからである。
 
【0053】
  図4(a)は、流路12内である一定の長さを有する試料20が蛍光検出領域65を通過する際に蛍光検出器50が検出した蛍光信号をCPU36の移動平均化処理等の演算によって得られた蛍光信号を実線で示している。蛍光検出器50やCPU36等に時間的な遅れがない理想的な場合は、点線で描かれるような略矩形状の蛍光信号、すなわち
図4(a)において、点A→点B→点C→点Dと点線を辿り、再びベースラインに収束する蛍光信号が検出されるはずである。しかしながら、上述のようにCPU36は、蛍光検出器50から0.01秒毎に蛍光信号を受信し、それらの評価等を行うので、実際には、評価等に要する時間分の遅れを伴う実線で描かれた蛍光信号、すなわち
図4(a)上での点Aから、実線を辿りながら点線から遅れてピークを示し(領域Mに相当)、その後実線を辿りながら点線から遅れて点Eに向かって減少しベースラインに収束する蛍光信号が検出される。
 
【0054】
  本実施形態において、CPU36が検出した
図4(a)のような態様の蛍光信号に基づいて、蛍光信号がどのような状態になった場合に、CPU36が「試料が蛍光検出領域を通過した」と認識するかをあらかじめ決めておく必要がある(以降「試料の通過基準」という)。試料の通過基準についてはこれに限られるものではないが、本実施形態ではベースラインと蛍光信号のピーク値の半値(50%値)を閾値とし、移動平均化処理等の演算によって0.01秒毎に得られる蛍光信号の立ち上がり時にこの閾値と同じになるか上回った点を点Fとし、蛍光信号の立ち下がり時に閾値と同じになるか下回った点を点Gとしたとき、
図4(a)の蛍光信号チャートにおいて点Fおよび点Gに相当する時刻が、それぞれ試料の先端部が蛍光検出領域に進入したとCPU36が検知した時刻および試料の後端部が蛍光検出領域を退出したとCPU36が検知した時刻に相当する。さらに点Cおよび点Gに相当する時刻の差であるt
d1は、試料20が実際に蛍光検出領域65を通過してから、試料20が蛍光検出領域65を通過したとCPU36が検知するまでの遅れ時間とみなすことができる。これはまた上記フローで記載したところの(1)〜(2)までに要した時間であり、制御系や上記のCPU36による評価等の方法に固有のもので試料の移動速度などが変わっても不変である。
 
【0055】
  また
図4(a)の蛍光信号チャートにおいて、時間t
pは、流路12内で一定の長さを有する試料20が蛍光検出領域65を通過するのに要した時間であることに留意する。試料20の移動速度vが変わるとき、例えばvが増大するときはt
pが小さくなり、蛍光信号チャートの略矩形状のパルス状のチャートが、その幅を小さくするような態様に変化する。vが減少するときは逆にその幅が大きくなるような蛍光信号のチャートとなって現れる。
 
【0056】
  図4(a)の蛍光信号チャートにおいては、点Gに相当する時刻からt
d2秒後に送液システム37に対して停止信号を送信する。送液システム37のポンプドライバが停止信号を受信してからポンプが停止するまでの時間は無視することができる。受信信号の評価等も必要ではなく、使用されるポンプは慣性運転するようなタイプのものではない。時間t
d2は上記フローで記載したところの(2)〜(3)に要する時間であり、装置が必然的に有する遅れ時間ではなく、本装置をコントロールするためにすなわち試料20を所定の場所に停止させるための制御のために決定すべき時間である。
 
【0057】
  図4(b)の試料位置チャートと
図4(c)の試料速度チャートにおいては、点Hに相当する時刻にポンプ(第1ポンプ39または第2ポンプ40)が停止してから、点Kに相当する時刻に試料が停止するまでに遅れ時間t
d3が生じる。外部からの推進力を得て(摩擦力などの抵抗を超えて)所定の速度で移動している実体的に質量のある試料等が、その推進力を遮断したところで、同時に停止するとは一般的に考えにくいからである。t
d3は上記フローで記載したところの(3)〜(5)に要する時間である。
 
【0058】
  本実施形態に係る制御系を備える往復流路式PCR装置においては、CPU36等が試料20の蛍光検出領域65を通過したことを検知できるのは
図4(a)の点Gに相当する時刻である。従って、この時刻からt
d2秒後に停止信号を送液システム37のポンプドライバ(41または42)に送信することで、試料20を距離X
0に対応した目標停止位置に停止することができるので、この時間t
d2を具体的に求めることが課題となる。この時間t
d2は、CPUがどの程度の時間を待って停止信号を送信すればよいかを表しているので「待機時間」と呼ぶ。
 
【0059】
  図4(b)、
図4(c)のチャート図から、移動速度×時間=距離なので、以下の(1)式が成り立つ。
  v×t
d1+v×t
d2+v×t
d3/2=X
0  ・・・(1)
  この(1)式を変形すると、以下の(2)式が得られる。
  t
d2=X
0/v−(t
d1+t
d3/2)  ・・・(2)
  この(2)式のうち(t
d1+t
d3/2)は装置や試料等に依存する固有的な時間でありこれを「遅れ時間」t
cとすると(3)式が得られる。
  t
d2=X
0/v−t
c  ・・・(3)
 
【0060】
  この(3)式の意味を考える。一般的に、観察地点を速度vで移動する物体を、観察地点から距離X
0だけ離れた位置に止めようとすると、物体が観察地点を通過してからX
0/vの時間後に物体を停止させればよい。しかしながら、本実施形態においては、
図4(a)からわかるようにCPU36による評価等および送液システム37への停止信号の送信に要する時間、さらにポンプ39または40が停止した後に試料20が完全に停止するまでに要する時間などの合計がいわゆる遅れ時間となり、(3)式にt
cとして現れると考えることができる。
 
【0061】
  待機時間t
d2を具体的に求める前に、試料20の移動速度vの求め方について、実際得られた蛍光信号データに基づいて詳細に説明する。試料20は、流路内で有限の長さL(例えば40mm程度)を有している。従って、試料20が蛍光検出領域65を通過する時間t
pが分かれば、v=L/t
pとして試料20の移動速度vを算出することができる。
 
【0062】
  図5は、蛍光検出器50で検出され、CPU36による移動平均化処理等の演算の結果得られた蛍光信号の変化を示す。図中の記号は、その対応関係に基づいて、時刻と蛍光信号との関係を示した
図4(a)のものと同様のものを使用した。
図5に示す蛍光信号グラフは、反応当初のものである。
図5において、横軸は試料20が蛍光検出領域65に進入する前であって、蛍光信号を検出し始めたときを0とした時刻を示し、縦軸は蛍光検出器ドライバ52から出力される蛍光信号の強度(APD等の光電変換素子を蛍光検出デバイスとして使用した場合、蛍光信号の直接の出力は電圧で表される)を表している。
図5に示すように、蛍光検出領域65を試料20が通過する場合、時間と検出される蛍光信号との関係は、試料20が蛍光検出領域65に進入してくるとともに、蛍光信号がゼロ又はベースラインから増加し、試料20が蛍光検出領域65から退出するとともに、蛍光信号が再びゼロ又はベースラインに低下する。
 
【0063】
  なお、
図5では、試料通過時の蛍光信号の変化を表すグラフとして、略矩形状のもの(台地状のピークを有するもの)を例示した。しかしながら、これ以外にも、例えば試料20に気泡が混入している場合や試料20中に反応のバラツキがある場合などは、急峻な凹みやキンクが生じるなど領域Mの台地状のピークの平坦性に大小の変化が現れる可能性がある。また、流路中の試料20の長さが小さい場合や試料20の移動速度が速い場合は、領域Mの台地状のピークの平坦な部分が狭くなったりするような態様が現れる可能性がある。また、点Aから領域Mへの立ち上がり、領域Mから点Eへの立ち下がりの部分においては、
図4(a)で説明したように、CPU36の評価等に費やされる時間のために、一定の時定数を有することに起因して斜めの態様を示していると考えられる。本実施形態では安定した蛍光信号を得るために、先述のCPU36による評価等の信号処理を行っているが、これは電気的処理または評価の一例であり、このような処理の有無や評価方法に限定されない。
 
【0064】
  図5に示すグラフから、試料20の蛍光検出領域65の通過時間t
pを求める。通過時間t
pは時刻の差であるので、装置の遅れ時間には影響されない。本実施形態における試料の通過基準として、
図4での説明における同様の基準により、ベースラインとピーク値との差の50%を閾値とし、
図5中の点Fに相当する時刻を試料20(の先端部)の進入時刻、点Gに相当する時刻を試料20(の後端部)の退出時刻とし、点Fと点Gに相当する時刻の差を、試料20の通過時間t
pとする。なお、蛍光信号のピーク値とベースラインとの差の何%を閾値とするかは、当業者が適宜自由に設定できる。CPU36は、既知の試料20の長さLと、試料20の通過時間t
pとから、v=L/t
pとして試料20の移動速度vを算出することができる。
 
【0065】
  試料20は反応当初から蛍光を発生させるが、この反応当初における蛍光信号グラフに基づく同一の閾値を用い続けて、反応当初から反応終了まで継続して通過時間t
pを求めることをしなくてもよい。試料20はサーマルサイクルを与えられることにより、所定のDNA等が増幅し必然的に試料20からの蛍光強度、蛍光信号は増大するので、試料20の反応の進捗に応じて、閾値を変化させていってもよい(すなわち、蛍光信号グラフでのベースラインとピーク値との差の増加とともに閾値を増大させていってもよい)。
 
【0066】
  図6は、反応がある程度進んだ時点での蛍光信号の変化を示す。一般的には、反応が進むにつれ試料20から発せられる蛍光信号は強くなるので、反応がある程度進んだ時点でのピークは反応当初の蛍光信号グラフ(
図5参照)のピークに比して7〜10倍、またはそれ以上に達する場合もある。反応当初に、ピーク値とベースラインとの差の50%のラインに設定した閾値は、反応がある程度進んだ時点での蛍光信号グラフにおいては、ベースラインより下回ってしまうか、ピーク形状の裾野のほうに相当してしまうことになり、通過時間t
pを閾値に基づいて算出できなくなってしまうか、通過時間t
pが長くなったと判定してしまうことがある。試料20の反応の進捗に応じて、閾値を変化させることにより、このような事態を回避して、適切に試料20の移動速度vを求めることができる。
 
【0067】
  試料20の通過基準や試料20の進入や退出の根拠となる閾値については、上記のような蛍光信号に直接基づいて決定することに限定されない。例えば、蛍光信号の変化に基づいて試料20の通過基準を決定してもよく、蛍光信号のn階の微分係数、例えば蛍光信号の一階の微分係数(蛍光信号の変化率に相当)を算出し、この微分係数がある閾値を増加してまたは減少して超えることをもって試料20の進入や退出の時刻とし、その差に基づいて試料20の通過時間を決めてもよい。またこの場合は蛍光信号のn階の微分係数に基づいて試料20の通過基準を定めるので、例えばある時刻での蛍光信号の変化率(一階微分係数)が、当該時刻前の時刻における変化率と比較して、所定の差異が生じた場合に試料20が通過したと判断することも可能であり、当該差異のレベルを閾値と設定することも可能である。これは直前の時刻における蛍光信号の変化率と比較することもできるので、試料20の蛍光検出領域への進入や退出を比較的早く検出することができる。
 
【0068】
  次に、待機時間t
d2を求めるために、t
cすなわち時間t
d1と時間t
d3について検討する。まず待機時間t
d2がゼロのとき、つまりCPU36が試料20の蛍光検出領域65の通過を検知したと同時に、送液システム37に停止信号を送信し、送液システム37の第1ポンプ39または第2ポンプ40を停止し試料20を停止させる系について検討する。このときのチャート図を、
図7(a)〜
図7(c)に示す。
図4(a)〜
図4(c)と同様に、
図7(a)は蛍光信号チャート、
図7(b)は試料位置チャート、
図7(c)は試料速度チャートを示す。図中の記号等は
図4(a)〜
図4(c)に使用したものと同じものを使用した。待機時間t
d2がゼロであるので、点Gと点Hに相当する時刻が同時ということになる。従って、試料20の停止位置に対応する距離をX
1とし、試料20の移動速度をvとすると、
図7(b)、
図7(c)のチャートから、以下の(4)式が成り立つ。
  v×t
d1+v×t
d3/2=X
1  ・・・(4)
  この(4)式を変形すると、以下の(5)式が得られる。
  t
d1+t
d3/2=X
1/v  ・・・(5)
  このとき時間t
d1および時間t
d3は、上記の(2)式のものと同一であることに留意されたい。時間t
d1および時間t
d3は、待機時間t
d2の値に関係なく装置に固有の値であるからである。
 
【0069】
  本発明者は、試料20の移動速度vを変化させることのできるポンプへの印加電圧(ポンプ電圧E)をパラメータにして、実際に停止した試料20の位置に対応する距離X
1、通過時間t
p、移動速度v、およびX
1/vを実験または計算によって求めた。結果を表1に示す。
【表1】
 
【0070】
  試料20は十分に高い蛍光を発するものであり、試料20のボリュームはいずれの実験においても流路中の長さLが40mmとなるように正確に調節し、実験中は試料20の温度を40℃の一定に維持して反応が起こらないようにした。距離X
1は蛍光検出領域65の中心からの距離をデジタルノギスによって測定して求めた。測定方法は、レチクロを装備した顕微鏡下の測定や拡大モニタを利用した画面上で測定することも可能であり、これらに限られない。上記で説明したように試料20の通過時間t
pを求め、第1ポンプドライバ41、第2ポンプドライバ42には、試料20が退出したとCPU36が認識したと同時に停止信号を送信した。試料20の移動速度vはv=L/t
pとして求めた。なお、表1中のデータは各ポンプ電圧Eにおいて10回の平均値を採用した。
 
【0071】
  表1の結果から分かるように、ポンプ電圧Eを変えて試料20の移動速度vを変えてもX
1/vは、0.19〜0.21秒(平均約0.2秒)であった。ここでX
1/v=t
d1+t
d3/2=t
Cであるので、下記の(6)式が得られ、待機時間t
d2を具体的に求めることができる。
  t
d2=X
0/v−t
C  ・・・(6)
  本実施形態の場合、t
C=約0.2秒となる。
 
【0072】
  従って、t
d1やt
d3が個別に求めることができないような場合であっても、t
d2を0として移動・停止実験を行うことにより、遅れ時間t
cを求めることが可能である。なお待機時間t
d2は0≦t
d2である必要があることに留意すべきである。CPU36は、試料20の蛍光検出領域65の通過を検知するより前に、送液手段に停止信号を送ることができないからである。
  従って、0≦t
d2となるように、t
Cを考慮して試料20の目標停止位置に対応する距離X
0および試料20の移動速度vを決める必要がある。
  ちなみに、t
d1は、CPU36の評価等および停止信号の送信に要する時間であり、移動速度vにかかわらず一定である。
 
【0073】
  本発明者は、(6)式の妥当性について検証実験を行った。検証実験では、通過時間t
pを計測できる十分な強度の蛍光を発するもので、且つ、流路中の長さLが正確に40mmとなるようなボリュームの試料20を流路12に投入した。実験中は反応が起こらないように試料20の温度を40℃に維持した。さらにポンプ電圧Eを変えて試料20の移動速度vを変化させた。試料20の移動速度vはポンプ電圧E毎に得られる蛍光信号グラフから、ピークとベースラインとの差の50%の閾値に基づいて、試料20の通過時間t
pを求め、v=L/t
pとして算出した。試料20の目標停止位置に対応する距離X
0を30mmとし、t
Cを0.2秒とした上で待機時間t
d2を上記の検討結果に基づいて設定し、実際の試料の停止位置に対応する距離X
1を測定した。測定は上記と同様にデジタルノギスで行い10回の測定の平均値を採用した。実験結果を表2に示す。
【表2】
 
【0074】
  表2に示すように、実際の停止位置に対応する距離X
1は、目標停止位置に対応する距離X
0=30mmに対して、1mm程度のずれが生じているが、この程度のずれであれば、往復流路式PCR装置においては差し支えないものと考えられる。例えばPCRに供される試料20の停止位置が流路中で1mm程度ずれたとしても、試料20が各温度領域に含まれるように、PCRに供される試料の長さを各温度領域に対応する流路の長さより1mm(もしくは余裕をみて数mm)程度小さくすることは、装置等の設計や試料の投入量の調整上容易である。
  また上記停止位置のずれが生じる理由としては、試料20の移動速度vは蛍光検出領域65の通過時間に基づいて算出されるので、蛍光検出領域65を通過していずれかの温度領域に停止するまでの間の試料の移動速度と差異が生じる、または試料20の停止に係る遅れ時間t
d3が、非常に小さい範囲であるがばらつくといった理由が推定できる。
  停止位置のずれを補償する対策の一例として、待機時間t
d2は(6)式の右辺、すなわちX
0/v−t
cに基づいて定めてもよい。具体的には、待機時間t
d2を(6)式の右辺:X
0/v−t
cに基づいて算出して基礎待機時間とし、時間的な補正項t
kを加えて、次の(7)式に基づいて決めてもよい。
t
d2=X
0/v−t
c+t
k・・・(7)
 
【0075】
  上記において、反応当初と反応がある程度進んだときの蛍光信号のピーク強度の差について言及した(
図5および
図6参照)。蛍光信号のピーク強度とベースラインとの差の所定割合(例えば50%)を閾値とし、該閾値に基づいて試料20の蛍光検出領域65の通過時間t
pを求める場合、反応当初の閾値を継続して用いると、反応がある程度進んだときには蛍光信号グラフに基づいて得た通過時間t
pが実際の通過時間より長くなる可能性がある。
 
【0076】
  そこで、本発明の別の実施形態に係る反応処理装置においては、通過時間t
pを求めるための閾値を以下のように設定してもよい。試料20は設定温度の異なる温度領域間を連続的に往復することによってサーマルサイクルを与えられる。そこで、CPU36は、サイクルごとに蛍光信号の時系的な変化を求め、そこから当該サイクルの閾値を求めてよい。これにより、反応の進捗に応じて適切な閾値を求めることができる。
 
【0077】
  さらに、あるサイクルの閾値を、前回のサイクルにおける蛍光信号の時系的な変化に基づいて求めてもよい。上記のようにあるサイクルの閾値を当該サイクルの蛍光信号グラフから求めるという方法は、計算の迅速性が一層求められるため、CPU36の負荷が必然的に大きくなり、その負荷を低減しようとすると試料20の移動速度vを小さい方向に調整しなければならない可能性がある。従って、CPU36を含めた制御系の負荷を小さくするためには、前回のサイクルにおける蛍光信号グラフに基づいて閾値を求める方法が効果的である。たかだか1回前のサイクルにおける蛍光信号との差は非常に小さいものであり、試料20の通過時間t
pの算出に影響を及ぼし、さらに試料20の停止位置に大きくずれを生じさせる蓋然性は非常に小さい。
 
【0078】
  通過時間t
pを求めるための閾値を反応当初の閾値に固定した場合、以下のような弊害が生じる可能性もある。試料20は流路内を連続往復的に移動するが、蛍光検出領域65内であって流路12の内壁に移動に供さない試料の残渣がある場合がある。このような試料の残渣からも蛍光が発生する可能性があるため、その蛍光が反応当初の閾値より大きい場合は、ベースラインが反応当初の閾値を上回ってしまい、試料20の通過を検知できないおそれがある。
 
【0079】
  本発明者は、閾値の求め方を変えた場合の試料20の停止位置の違いについて知見を得るために実験を行った。実験結果を表3に示す。本実験では、DNAや蛍光プローブ等を含む試料20にサーマルサイクルを与え、実際の所定のDNAの増幅を図った場合に、反応当初と反応がある程度進んだとき(反応後期)の試料20の移動速度vを変えたときの試料20が実際に停止した位置に対応するX
1を測定した。ここでは高温領域側および低温領域側の目標停止位置に対応する距離X
01およびX
02をいずれも30mmとした。実際の試料の停止位置に対応する距離X
1は、温度領域の違いによって左右されないように、高温側のX
1を測定した。表3において、閾値が固定制とは、各サイクルの閾値を反応当初の閾値に固定した場合であり、閾値が変動制は、各サイクルの閾値を前回のサイクルの閾値とした場合である。表3から分かるように、閾値が固定制の場合、反応当初と反応後期のX
1にずれが生じている。一方、閾値が変動制の場合、反応当初と反応後期のX
1はほぼ同じとなっている。表3に示す検証実験から分かるように、閾値を変動制とすることは、試料20の停止位置のばらつきを小さくする上で非常に有効である。
【表3】
 
【0080】
  所定のDNA等を増幅するPCRにおいては、一般的にそれを含んだ試料に40〜50サイクル程度のサーマルサイクルを与える場合がある。反応領域の変性領域(高温領域)とアニーリング・伸長領域(低温領域)との間の往復に要する時間について検討する。往路、復路に要する時間が例えば各5秒であるとした場合、PCRに要するサーマルサイクルが50サイクル必要なときは、高温・低温領域間の移動に要する時間は500秒と見積もることができる。また、往路、復路にかかる時間が約1秒に短縮できた場合、高温・低温領域間の移動に要する時間は100秒と見積もることができ、相当の時間の短縮を期待できる。
 
【0081】
  従って、制御系や各ドライバの制約の中で、試料20の移動速度vを大きくすることが求められ、当然のことながら安定した移動速度vを発揮することも求められる。通過時間t
pは試料20の移動速度vとは反比例の関係にあるので、通過時間t
pは小さく且つ一定となることが望ましいことになる。通過時間t
pは試料20の移動に際して蛍光信号グラフから逐次算出することができ、また通過時間t
pはポンプ印加電圧Eの増減に依存するので、通過時間t
pの目標値(目標通過時間)を定め、P制御、PI制御又はPID制御等の公知の制御方法に従ってポンプ電圧Eを変化させることによって、試料20の通過時間t
pを目標通過時間に近づけ、かつ維持することができる。
 
【0082】
  本発明のさらに別の実施形態に係る反応処理装置においては、PID制御等のほか、単純に試料20の蛍光検出領域65の通過時間t
pと目標通過時間の差に応じて、ポンプ電圧Eの増減を定めるようなテーブルを予めCPU36が備えていてもよい。テーブルの一例を表4に示す。
【表4】
 
【0083】
  表4に示すテーブルでは、例示として、基準のポンプ電圧Eを12.5Vとした場合に、試料20の通過時間t
pが表4の左列に示す範囲に該当したとき、それに対応する調整電圧ΔEを、次回のサイクルにおけるポンプ電圧Eに加えるものとしている。ここでは目標通過時間は0.5秒〜0.6秒とした。反応処理装置に必然的に求められる性能として、通過時間t
pは小さい(移動速度vは大きい)ほうが好ましいが、あまりに通過時間t
pが小さすぎると各ドライバの時定数等の制約により不適切な場合が生じる。本実施形態においては、例示として蛍光検出器ドライバからの蛍光信号の送信が0.01秒ごと(100Hz)であり、CPU36による蛍光信号のデータの評価等に基づく時定数もあるため、小さすぎる目標通過時間の設定は意味がなく、t
cの2〜10倍程度とした。
 
【0084】
  また、試料20は水溶液であるので温度によってその粘度が変わる。例えば高温においては粘度が小さくなり流路内を流れやすくなる。従って、試料20が低温領域から高温領域に移動する場合と、高温領域から低温領域に移動する場合とでは、試料20の移動の条件が異なる。そこで、試料20の通過時間t
pをできるだけ一定にするためには、試料20の移動方向に応じて制御を別々にすることが望ましい。
 
【0085】
  本発明のさらに別の実施形態に係る反応処理装置においては、試料20が低温領域から高温領域に移動するときには、前サイクルにおける低温領域から高温領域への第1通過時間t
p1に基づいて、
図2におけるポンプ40(加圧または送風により試料20を低温領域から高温領域に移動させるポンプ)のポンプ電圧Eを変化させることによって、第1通過時間t
p1を目標通過時間に収束させるようにする。一方、試料20が高温領域から低温領域に移動するときには、高温領域から低温領域への第2通過時間t
p2に基づいて、ポンプ39(同、試料20を高温領域から低温領域に移動させるポンプ)のポンプ電圧Eを変化させることによって、第2通過時間t
p2を目標通過時間に収束させるようにする。さらに、このような制御を行うことにより、いずれの通過時間も目標通過時間により早く到達させることが可能となる。
 
【0086】
  図8は、表4のテーブルに則って試料20の第1通過時間t
p1および第2通過時間t
p2を制御した実験結果を示す。目標停止位置についてはそれらの対応する距離について、高温領域側及び低温領域側の目標停止位置に対応する距離をそれぞれX
01及びX
02として、X
01=X
02=30mmとした。
図8の横軸はサーマルサイクルのサイクル数を表し、縦軸は通過時間を表す。通過時間t
pは、試料20の移動速度vとは反比例の関係にある。
図8から、目標とすべき第1通過時間t
p1および第2通過時間t
p2が目標通過時間(0.5秒〜0.6秒)に収束するように制御できていることが分かる。
 
【0087】
  上記の実施形態においては、第1通過時間t
p1および第2通過時間t
p2の目標値が同じ範囲内になるように制御し、結果的にほぼ同じ通過時間によって試料20の往復移動がなされること確認した。しかしながら、第1通過時間t
p1と第2通過時間t
p2の目標通過時間に差があるように制御し、結果的に第1通過時間t
p1と第2通過時間t
p2とが異なるように試料20の往復移動がなされてもよい。例えば試料20のより粘度が大きい低温から高温領域への移動において流路12の内壁等に通過後に残渣が生じる傾向があるときなどは、低温から高温領域への移動に係る第1通過時間t
p1を第2通過時間t
p2より大きく設定し試料20を比較的ゆっくり移動させることによって、このような不具合を解消するような効果も考えられる。
また、試料20の、低温領域から高温領域および高温領域から低温領域に移動する際の移動速度をそれぞれv
1およびv
2とし、試料20の流路内の長さをLとして、第1通過時間t
p1と第2通過時間t
p2からv
1=L/t
p1、v
2=L/t
p2と算出することができる。これから試料20の移動速度を低温領域から高温領域、高温領域から低温領域への移動について、それぞれ独立の移動速度を制御に用いることができる。
具体的には、本発明の別の実施形態に係る反応処理装置は、試料20が低温から高温領域に移動するときの待機時間を第1待機時間t
d2/1とし、試料20が高温から低温領域に移動するときの待機時間を第2待機時間t
d2/2としたとき、第2待機時間t
d2/2を第1待機時間t
d2/1とは独立して設定することを特徴とするものである。
第1待機時間t
d2/1と第2待機時間t
d2/2の算出方法は、これに限られないが、(6)式に基づいて、第1待機時間t
d2/1および第2待機時間t
d2/2について別個に算出してもよく、第1待機時間t
d2/1および第2待機時間t
d2/2は、以下の(8)および(9)式のように算出し、これらの待機時間に基づいて反応処理装置を制御することを特徴とする。
  t
d2/1=X
01/v
1−t
C  ・・・(8)
  t
d2/2=X
02/v
2−t
C  ・・・(9)
 
【0088】
以上のような実施形態に係る反応処理装置によれば、高温領域と低温領域とを繰り返して往復する試料20の温度差に起因する移動速度の違いに対応して、より正確に各温度領域の適切な位置に試料20を停止させることが可能である。
 
【0089】
一方で、蛍光検出領域は、高温領域と低温領域とを接続する接続流路に設けられているので、試料20が低温から高温領域に移動する場合、蛍光検出領域付近を移動する試料20の温度より、高温領域に進入して移動する試料20の温度のほうが高くなるため、高温領域内を移動する試料20の粘度が低くなる。そうすると高温領域を移動する試料20の移動速度は、接続領域内の蛍光検出領域65付近を移動する試料20の速度より大きくなる。試料20を目標停止位置に停止させるために設定される待機時間の検討要素の一つである試料20の移動速度は、蛍光検出領域を通過する試料20の通過時間に基づいて決定されるので、高温領域において予め設定した目標停止位置より行き過ぎた位置に試料20が停止する場合がある。逆に、試料20が高温から低温領域に移動する場合は、低温領域において、予め設定した目標停止位置に達しない位置に試料20が停止する場合がある。したがって試料20が低温から高温領域に移動したときの停止位置と、高温から低温領域に移動したときの停止位置とに差が生じることになる。
 
【0090】
本発明のさらに別の実施形態に係る反応処理装置は、上記のように低温領域から高温領域および高温領域から低温領域への移動に係る一つの行程内においても試料20の移動速度が異なることから、移動速度に対する補正係数を導入し、第1待機時間t
d2/1および第2待機時間t
d2/2を算出することを特徴とする。具体的には試料20の移動速度v
1およびv
2とそれらの補正係数fおよびgとのそれぞれの積を、(8)および(9)式に適用して、次の(10)および(11)式に基づいて第1待機時間t
d2/1および第2待機時間t
d2/2を算出して、これらの待機時間に基づいて反応処理装置を制御することを特徴とする。
また、試料20が低温から高温領域に移動する場合には、高温領域を移動する試料20の速度が接続領域内の蛍光検出領域65付近を移動する試料20の速度より大きくなること、および試料20が高温から低温領域に移動する場合には、低温領域を移動する試料20の速度が接続領域内の蛍光検出領域65付近を移動する試料20の速度より小さくなることから、1<fおよび/またはg<1として第1待機時間t
d2/1および第2待機時間t
d2/2を算出して、これらの待機時間に基づいて反応処理装置を制御することを特徴とする。
t
d2/1=X
01/(f×v
1)−t
C  ・・・(10)
  t
d2/2=X
02/(g×v
2)−t
C  ・・・(11)
 
【0091】
  また、本発明のさらに別の実施形態に係る反応処理装置は、移動速度に対する補正係数を導入する代わりに、高温領域側および低温領域側の目標停止位置に対応する距離X
01およびX
02に対する補正係数を導入し、第1待機時間t
d2/1および第2待機時間t
d2/2を算出することを特徴とする。移動速度は試料20が蛍光検出領域65を通過する毎に算出されるので上記のように都度補正係数を考慮して第1待機時間t
d2/1および第2待機時間t
d2/2を算出するのは煩わしい場合があるが、目標停止位置は装置等に固有の距離で表されるので、反応処理前に一旦補正係数を考慮しておけばこのような煩わしさを除外できる場合があるが、いずれの場合も当業者が適宜選択できるものである。
  具体的には、高温領域側および低温領域側の目標停止位置に対応する距離X
01およびX
02と、それらに対する補正係数kおよびhとのそれぞれの積を、(8)および(9)式に適用して、次の(12)および(13)式に基づいて、第1待機時間t
d2/1および第2待機時間t
d2/2を算出して、これらの待機時間に基づいて反応処理装置を制御することを特徴とするものである。
  また、試料20が低温から高温領域に移動する場合には、高温領域を移動する試料20の速度が接続領域内の蛍光検出領域65付近を移動する試料20の速度より大きくなることから、試料20が目標停止位置に対応するX
01よりも行き過ぎて停止してしまう傾向があること、および試料20が高温から低温領域に移動する場合には、低温領域を移動する試料20の速度が接続領域内の蛍光検出領域65付近を移動する試料20の速度より小さくなることから、試料20が目標停止位置に対応するX
02よりも手前に停止してしまう傾向があることなどから、k<1および/または1<hとして第1待機時間t
d2/1および第2待機時間t
d2/2を算出して、これらの待機時間に基づいて反応処理装置を制御することを特徴とする。
t
d2/1=(k×X
01)/v
1−t
C  ・・・(12)
  t
d2/2=(h×X
02)/v
2−t
C  ・・・(13)
 
【0092】
  以上のような実施形態に係る反応処理装置によれば、蛍光検出領域65と高温領域における流路12内の試料20の移動速度とが異なる場合または蛍光検出領域65と低温領域における流路12内の試料20の移動速度とが異なる場合であっても、試料20の停止位置を補正することが可能であり、さらに正確に各温度領域の適切な位置に試料20を停止させることが可能である。
 
【0093】
  一方で、試料20が最初に移動する場合は、流路12が試料溶液で濡れておらず乾燥しているので、例えば最初に低温領域から高温領域に移動する場合と、2回目以降に低温領域から高温領域に移動する場合とでは、流路12の環境が異なる。従って、低温領域から高温領域への2回目の移動のときには、前回(1回目)の移動に要する通過時間t
pに基づいてポンプ電圧Eを調整しなくてもよい(基準のポンプ電圧E(例えばE=12.5V)で動作)。
 
【0094】
  より具体的には、試料20が低温又は高温領域にある状態を、サイクル数をn(nは整数)として「低温(n)」、「高温(n)」と表した場合、「低温(0)→高温(0)→低温(1)→高温(1)→低温(2)→高温(2)→低温(3)→高温(3)→・・・低温(n)→高温(n)→・・・」のサイクルを仮定したとき、低温(0)→高温(0)→低温(1)→高温(1)の3個の移動においては、基準のポンプ電圧E=12.5Vでポンプを動作させ、高温(1)→低温(2)の移動については高温(0)→低温(1)の移動に要した通過時間t
p2に対応する調整電圧ΔEを加え、低温(2)→高温(2)の移動については低温(1)→高温(1)の移動に要した通過時間t
p1に対応する調整電圧ΔEを加えてもよい。一般的にはnを1以上の整数として、高温(n)→低温(n+1)の移動は高温(n−1)→低温(n)の移動に要した通過時間t
p2に対応する調整電圧ΔEを、低温(n+1)→高温(n+1)の移動は低温(n)→高温(n)の移動に要した通過時間t
p1に対応する調整電圧ΔEを加えてもよい。逆に「高温(0)→低温(0)→高温(1)→低温(1)→高温(2)→低温(2)→高温(3)→低温(3)→・・・高温(n)→低温(n)→・・・」のサイクルを仮定したとき、高温(0)→低温(0)→高温(1)→低温(1)の3個の移動においては、基準のポンプ電圧E=12.5Vでポンプを動作させ、低温(1)→高温(2)の移動については低温(0)→高温(1)の移動に要した通過時間t
p1に対応する調整電圧ΔEを加え、高温(2)→低温(2)の移動については高温(1)→低温(1)の移動に要した通過時間t
p2に対応する調整電圧ΔEを加えてもよい。一般的には、nを1以上の整数として、低温(n)→高温(n+1)の移動については、低温(n−1)→高温(n)の移動に要した通過時間t
p1に対応する調整電圧ΔEを、高温(n+1)→低温(n+1)の移動については、高温(n)→低温(n)の移動に要した通過時間t
p2に対応する調整電圧ΔEを加えてもよい。
 
【0095】
  このような実施形態に係る反応処理装置によれば、低温から高温領域に移動するときには低温から高温領域に移動するときの第1通過時間t
p1に基づいてポンプ40が制御され、高温から低温領域に移動するときには高温から低温領域に移動するときの第2通過時間t
p2に基づいてポンプ39が制御されることにより、それぞれの移動に供される試料20の温度や粘度に適した制御を行うことができ、迅速かつ複雑な機構を必要とせずに、適切な目標通過時間ひいては目標移動速度に到達することが可能となり、状況に応じて異なる第1通過時間t
p1と第2通過時間t
p2を設定することも可能である。さらに、サーマルサイクルの開始から1.5往復分の移動については制御をしないことによって、初期状態の流路12の濡れ性や乾燥等の影響により条件が大きく異なる環境下での通過時間を制御のパラメータから外すことができ、より正確かつ迅速に目標通過時間に到達できる。
 
【0096】
  以上説明したように、上記一連の実施形態に係る反応処理装置30によれば、試料20の蛍光検出領域65の通過が検出された時刻から、上記の(6)式〜(13)式で規定される待機時間t
d2(または第1待機時間t
d2/1および第2待機時間t
d2/2)が経過したとき、送液システム37の第1ポンプドライバ41および第2ポンプドライバ42に試料20の停止を指示することにより、試料20を温度領域の所定の位置に正確に停止させることができる。さらにこれらの実施形態に係る反応処理装置30によれば、様々な物性値の変動により試料20の移動速度vがばらついても、常に所定の位置に試料を停止することができるので、安定したPCRを行うことができる。
 
【0097】
  また、これらの実施形態に係る反応処理装置30では、リアルタイムPCRの進度管理を担う蛍光検出器50を、試料20の位置決めの手段として援用することにより、これ以外の光学測定系を加える必要がないので、装置の小型化に貢献するとともに、装置の製造コストの低減を図ることが可能である。
 
【0098】
  以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。