(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6561220
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】粒子材料及び熱伝導物質
(51)【国際特許分類】
C01F 7/02 20060101AFI20190805BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20190805BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20190805BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
C01F7/02 G
C09K5/14 E
C08L101/00
C08K3/22
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-531838(P2019-531838)
(86)(22)【出願日】2019年2月18日
(86)【国際出願番号】JP2019005860
【審査請求日】2019年6月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】野口 真宜
(72)【発明者】
【氏名】倉木 優
(72)【発明者】
【氏名】中村 展歩
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/133904(WO,A1)
【文献】
特開2017−190267(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/053536(WO,A1)
【文献】
特開2011−098841(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/017170(WO,A1)
【文献】
中国特許出願公開第107555455(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/02
C08K 3/22
C08L 101/00
C09K 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナを主成分とし、体積平均粒径が70〜200μm、球形度が0.89以上0.96以下で、α化率40〜85%であって、
設備摩耗試験の結果が0.017g以下である粒子材料。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子材料と、
前記粒子材料を分散する樹脂材料と、
を有する熱伝導物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子材料及び熱伝導物質に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の微細化の進展に従い多大な熱の生成が問題になっている。生成した熱は半導体素子から速やかに外部に伝達されることが要求されている。そのために高い熱伝導性をもつ熱伝導物質が望まれている。
【0003】
従来の熱伝導物質は、シリコーン樹脂などの樹脂材料中にアルミナなどからなる粒子材料を分散させた樹脂組成物が汎用されている(例えば、特許文献1参照)。
アルミナはα化率が高いほど熱伝導性に優れているため特許文献1にもα化率をできるだけ高くすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−190267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、熱伝導性が高い粒子材料、及びその粒子材料を含有する熱伝導物質を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行った結果、熱伝導物質に採用するアルミナからなる粒子材料として僅かに球形度が低いものを採用することで粒子材料を構成する粒子間の接触点が増加でき高い熱伝導性を示すことが判明した。しかしながら、粒子材料の球形度を僅かに低下させると粒子材料の表面に凹凸が生起し、粒子材料やその粒子材料を含有する熱伝導物質を取り扱う設備への攻撃性が高くなるという問題があった。
【0007】
本発明者らは粒子材料を構成するアルミナのα化率を一定範囲に制御することにより粒子材料の球形度を熱伝導性に優れた範囲としても熱伝導性と設備への攻撃性の低下とが両立できる粒子材料ができることを見出し以下の発明を完成した。
【0008】
(1)上記課題を解決する本発明の粒子材料は、アルミナを主成分とし、体積平均粒径が70〜200μm、球形度が0.89以上0.99未満で、α化率40〜85%であって、設備摩耗試験の結果が0.017g以下である。
α化率及び球形度を上述の範囲に制御することで熱伝導性が向上できると共に、設備への攻撃性も低下できる。特にα化率が上述の範囲であると、熱伝導性を充分に発揮できると共に攻撃性も充分に低下できる。
【0009】
(2)上記課題を解決する本発明の熱伝導物質は、上述の(1)の粒子材料と、その粒子材料を分散する樹脂材料とを有する。含有する粒子材料の熱伝導性の高さと設備への攻撃性の低さとが両立するため得られた熱伝導物質についても高い熱伝導性と設備への低い攻撃性とが両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例にて測定した試験例1〜4(体積平均粒径90μm)の粘度のシェアレート依存性を示すグラフである。
【
図2】実施例にて測定した試験例5〜7(体積平均粒径70μm)の粘度のシェアレート依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の粒子材料及び熱伝導物質について実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。本実施形態の粒子材料は樹脂材料中に分散させることで本実施形態の熱伝導物質を形成することができる。
【0012】
・粒子材料
本実施形態の粒子材料は、アルミナを主成分とする。アルミナを主成分とするとは全体の質量を基準として50%以上含有することを意味し、60%以上、80%以上、90%以上、95%以上、又は99%以上含有する場合が好ましく、不可避不純物以外全てアルミナとすることがより好ましい。アルミナ以外に含有できる材料としてはアルミナ以外の無機材料などが挙げられる。アルミナ以外の無機材料としては、シリカ、ジルコニア、チタニア、窒化ホウ素などが挙げられる。これらの無機材料は混合物として含有していても良いし、1つの粒子中に含有していても良い。
【0013】
アルミナは、α化率が40〜85%である。特に上限値として75%、77%、80%、下限値として50%、48%、45%が採用できる。これらの上限値と下限値とはそれぞれ独立して組み合わせ可能である。α化率を上限値以下にすることにより設備への攻撃性が低減でき、下限値以上にすることにより熱伝導性が向上できる。なお、α化率とは、粒子材料中に含有されるアルミナ全体の質量を基準として算出された、α結晶相のアルミナの質量の割合である。
【0014】
本実施形態の粒子材料は、体積平均粒径が70〜200μmである。体積平均粒径の上限値としては170μm、180μm、190μmが採用でき、下限値としては100μm、90μm、80μmが採用できる。これらの上限値と下限値とはそれぞれ独立して組み合わせ可能である。体積平均粒径を上限値以下にすることにより樹脂材料中に分散させて製造された熱伝導物質を微細な隙間に充填することが容易になり、下限値以上にすることにより粒子材料間の接触数が低減できて熱伝導性が向上できる。
【0015】
本実施形態の粒子材料は、球形度が0.89以上0.99未満である。球形度の上限値としては0.96、0.97、0.98が採用でき、下限値としては0.92、0.91、0.90が採用できる。これらの上限値と下限値とはそれぞれ独立して組み合わせ可能である。球形度を下限値以上にすることで樹脂材料中に分散させたときの流動性及び熱伝導性が向上でき、上限値以下にすることにより熱伝導性を向上することができる。
【0016】
球形度はSEMで写真を撮り、その観察される粒子の面積と周囲長から、(球形度)={4π×(面積)÷(周囲長)
2}で算出される値として算出する。1に近づくほど真球に近い。具体的には画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社:A像くん)を用いて100個の粒子について測定した平均値を採用する。
【0017】
本実施形態の粒子材料は、設備摩耗試験の結果が0.017g以下であり、0.015g以下であることが好ましく、0.010g以下であることがより好ましい。
【0018】
本明細書における「設備摩耗試験」は、直径5mmの材質SUS304の鋼球(型番:1−9762−02、ミスミ製)10g程度(9.5g〜10.5g)と、鋼球と同質量(10g程度)の前記粒子材料とをアイボーイ広口びん250mL(直径62mm、長さ132mm、アズワン製)の円筒容器に入れ、円筒容器の円筒の中心軸を回転軸として60rpmで56h回転させた後、篩目1mmの篩で鋼球とアルミナ粉体を分級し、鋼球を水洗・乾燥させ、摩耗試験前後における10gあたりの鋼球の質量減少量を計測する。
【0019】
本実施形態の粒子材料は、表面処理が為されていても良い。例えば、後述する熱伝導物質が含有する樹脂材料との親和性向上のために樹脂材料と反応可能な官能基が導入できる表面処理剤にて処理したり、粒子材料の凝集性を抑制するためにオルガノシランからなる表面処理剤にて処理したりできる。表面処理に用いることができる表面処理剤としては、シラン化合物や、シラザン類などが挙げられる。
【0020】
・粒子材料の製造方法
粒子材料は、金属アルミニウム粉末を酸化雰囲気中で酸化・燃焼させた後、急冷する爆燃法(VMC法)、アルミナからなる粉末を加熱溶融した後、急冷する溶融法、ゾルゲル法などにより球形度の高いアルミナ粒子を製造する。その後、必要な程度にまでα相に変換することで製造できる。α相への変換はα化が進行する高温に曝す時間により制御でき、適正なα化率になるように時間を制御する。加熱による粒子形状の変化が小さくなるように僅かな亜鉛(1ppm〜5000ppm)を添加しても良い。またVMC法,溶融法で供給する原料,燃料,酸素の量や炉内の雰囲気を調整することでも製造できる。
【0021】
・熱伝導物質
本実施形態の熱伝導物質は、上述の粒子材料と、その粒子材料を分散する樹脂材料とからなる。樹脂材料としては熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の何れを採用しても良い。更に使用状態において固体であっても液体であっても構わない。樹脂材料としては硬化前のモノマーなどの前駆体を採用してもよく、その場合には使用状態において重合させることができる。樹脂材料としては、シリコーン樹脂(前駆体)、エポキシ樹脂(前駆体)などが好ましいものとして挙げられる。
【0022】
樹脂材料と粒子材料との間は密着していることが望ましく、樹脂材料により粒子材料間の間隙を充填することで熱伝導性が向上できる。
【0023】
粒子材料と樹脂材料との混合比は特に限定しないが、粒子材料と樹脂材料との総和を基準として粒子材料が40質量%〜97質量%程度で混合することが好ましい。特に上限値として95質量%、90質量%が採用でき、下限値として45質量%、50質量%が採用できる。これらの上限値及び下限値は任意に組み合わせることが可能である。粒子材料の混合量が下限値以上にすることで熱伝導性が向上でき、上限値以下にすることで流動性が向上できる。
【実施例】
【0024】
本発明の粒子材料及び熱伝導物質について実施例に基づき以下詳細に説明を行う。体積平均粒径90μmのアルミナ粒子について火炎中に投入した後、急冷することで表1に示すようにα化率及び円形度が異なる各試験例の試験試料である粒子材料を得た。α化率は燃料供給量を下げ,支燃性ガスの供給量を燃料との理論空燃比の1.5倍ほどとし,原料投入量を上げることで高くすることができた。円形度は燃料供給量を上げ,支燃性ガスの供給量を理論空燃比とし,原料投入量を下げることで高くすることができた。
【0025】
・試験1:粘度及び熱伝導率の測定
体積平均粒径が90μmの各試験例の試験試料について、樹脂材料としてのシリコーンオイル(シリコーン樹脂、信越化学工業製:KF96−500CS)中に全体の質量を基準として80質量%となるように分散させて樹脂組成物を調製し、各試験例の熱伝導物質とした。体積平均粒径が70μmの各試験例に関しては75質量%となるように樹脂組成物を調整した.各熱伝導物質について、粘度、熱伝導率を測定した。粘度は共軸円筒型粘度計にて粘度のシェアレート依存性の測定を行った。体積平均粒径が90μmの結果を
図1に,体積平均粒径が70μmの結果は
図2に示す。熱伝導率は円板熱流計法にて測定を行った。熱伝導率の値と評価(◎:とても優れている、〇:優れている、△:良好である、×:普通。以下評価について同じ)を表1に併せて示す。なお、試験例3及び4の樹脂組成物は混合した後、ある程度の期間において均一な分散を保っていたが、試験例1及び2の樹脂組成物よりも早期に分離する傾向にあった。
【0026】
・試験2:設備摩耗試験
鋼球(直径5mm:ミスミ製、型番:1−9762−02)10g程度と共に、各試験例の試験試料(鋼球と同じ質量)を直径62mm、長さ132mm、アズワン製の円筒容器に入れ、60rpmで56h、円筒容器の円筒の中心軸を回転軸として回転させた後、篩目1mmの篩で鋼球とアルミナ粉体を分級し、鋼球を水洗・乾燥させ、摩耗試験10gあたりの質量減少量を計測した。鋼球のみでの試験も行い、鋼球のみでの質量増減値に対する相対値とした。結果を表1に併せて示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1の結果から明らかなように、α化率は80%未満であることが好ましいことが分かった。詳細は示さないが、α化率は40%以上85%以下にすることで充分な熱伝導率を示すことが分かっている。α化率が80%以上85%以下の範囲についても試験例3の結果にかかわらず円形度を0.89以上にすることで設備摩耗試験の値も満足することが分かった。なお、電子顕微鏡による表面観察の結果から、α化率が85%を超えると、表面にファセットが現れ、粗くなり設備への攻撃性が高くなり、更に樹脂と混ぜた際の粘度特性も高くなることが分かった。
【0029】
円形度については表1の結果からは、0.83超、0.99未満であることが好ましいが、熱伝導率及び粘度の観点からは0.89以上である必要があることがわかった。
【0030】
従って、以上、まとめるとα化率は40%以上、85%以下、円形度が0.89以上0.99未満であることが好ましいことが分かった。
【0031】
・試験3
体積平均粒径70μmのアルミナ粒子について、体積平均粒径90μmのアルミナ粒子と同様に熱処理を行って表2に示すα化率と円形度をもつ試験試料を得た。
【0032】
【表2】
【0033】
粒径が70μmの場合についても、表2より明らかなように、α化率は91%未満、72%超であることが好ましく、77%以上であることがより好ましいことが分かり、円形度は0.85超、0.99未満であることが好ましく、0.96以上であることがより好ましいことが分かった。
【要約】
熱伝導性が高い粒子材料及びその粒子材料を含有する熱伝導物質の提供。
熱伝導物質に採用するアルミナからなる粒子材料として僅かに球形度が低いものを採用することで粒子材料を構成する粒子間の接触点が増加でき高い熱伝導性を示す。更に粒子材料を構成するアルミナのα化率を一定範囲に制御することにより熱伝導性と設備への攻撃性の低下とが両立できる粒子材料ができることを見出した。本発明の粒子材料は、アルミナを主成分とし、体積平均粒径が70〜200μm、球形度が0.89以上0.99未満で、α化率40〜85%であって、設備摩耗試験の結果が0.017g以下である。α化率及び球形度を上述の範囲に制御することで熱伝導性が向上できると共に、設備への攻撃性も低下できる。