【実施例】
【0029】
以下、実験例、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実験例1)
まず、
酵素毎の木材の処理効果を確認するため、pHを調整した
酵素水溶液を作成し、10℃から90℃の温度において木材の処理を行った。木材は
酵素水溶液に浸漬し実施した。
酵素水溶液の濃度は水溶液に対し1重量%とした。木材は、針葉樹から選択された杉材(重量5g)と広葉樹から選択された桜材(重量5g)をそれぞれ被処理材として用いた。
処理時間を5時間とし、処理後の表面の電子顕微鏡撮影結果及び処理前後の木材の重量変化から効果の検証を行い、木材の処理効果が確認された温度範囲とpH範囲及び相対的な処理効果(最低0、最高100)を得た。この
酵素の処理効果を各
酵素の種類毎に表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
実験例で木材の処理効果が確認された条件において、木材の処理を行った。
【0033】
(実施例1)
最初に本発明の実施例1及び比較例1を以下のように行った。予備乾燥として恒温槽(エスペックミック社製)を用いて乾燥した杉平板(切り出し加工時寸法として、厚さ5mm×幅100mm×長さ150mm)について、
図2及び
図3に示すように長さ方向の一端面を位置決め機能付きテーブル6に取り付け、上から押さえ治具9で固定した後、もう一方の端面下部のテーブル上面からの距離を測定した。この木材の幅100mmに対するテーブル上面との間の長さは3.5mmでありこの板材の反り率を3.5%とした。同様の寸法の他の杉板を選択し、反り率を測定したところ3.5%であることを確認して、この2枚の杉板を実施例1及び比較例1に用いた。実施例1及び比較例1の杉板材の含水率を測定したところ両方とも8%であった。
【0034】
酵素水溶液の
酵素としてキシラナーゼ1を選択し、イオン交換水を用いて0.4重量%の
酵素水溶液を作成した。水溶液のpHは5.5、温度は25℃であった。この水溶液に前記木材を浸漬し、温度60℃の恒温槽内に2時間静置した。その後、軽く水洗した後、60℃の恒温槽にて6時間乾燥した。この時の板材は反り率0.5%であり、86%が改善した。この時の表面の電子顕微鏡撮影を行ったところ、道管同士の接合が減少し、繊維がほどけて内部応力の原因となる状態が一部解消されていることが確認された(
図4)。また、処理した後の木材の表面積を比表面積測定装置による測定したところ、0.59m
2/gであり、処理前の0.01m
2/gに比べ59倍も増加していることが確認された。
また、この時確認された本発明の処理方法の評価は実験例の結果から想定された評価と同等であった。その後、この木材について表面全体に株式会社ワークステーション製レーザー加工機を用いてレーザー加工を施して、レーザー加工の1時間後及び1週間後にそれぞれ測定された反り率はそれぞれ0.5%であり、レーザー加工によっても新たな反りが発生しないことを確認した。
【0035】
(比較例1)
酵素を加えない以外は全て実施例1と同じ方法で木材に対して処理を行った。この処理を行った場合の板材の反り率は3.5%であり、処理前と比較して変形の大きさの差異は確認できなかった。この時の表面の電子顕微鏡撮影を行ったところ、道管同士の接合がそのまま残っていることが確認された(
図5)。この時、この木材の反り率は3.5%であり、この処理による反りの改善効果は確認されなかった。
その後、実施例1と同じ条件でこの木材の表面全体にレーザー加工を施して、レーザー加工の1時間後及び1週間後に測定された反り率は、それぞれ3.5%及び4.5%であり、レーザー加工によって、新たな反りの発生を確認した。
【0036】
上記実施例1及び比較例1により、本発明の
酵素水溶液による木材の内部応力除去効果、及び内部応力を除去した木材に対するレーザー加工による新たな反りの発生抑止の効果を確認した。
【0037】
次に本発明の実施例2及び比較例2を以下のように行った。予備乾燥を行った杉平板(厚さ5mm×幅100mm×長さ150mm)について、
図2及び
図3に示すように長さ方向の一端面を位置決め機能付きテーブル6に付け上から押さえ治具9で押さえつけた後、もう一方の端面下部のテーブル上面からの距離を測定した。幅100mmに対するテーブル上面と間の長さは2.0mmでありこの板材の反り率を2.0%とした。同様の寸法の杉板を選択し、反り率を測定したところ2.0%であった。この2枚の杉板を実施例2及び比較例2にそれぞれ用いた。実施例2及び比較例2の杉板材の含水率を測定したところ両方とも8%であった。
【0038】
(実施例2)
酵素水溶液の
酵素としてキシナラーゼ1を選択し、イオン交換水を用いて0.4重量%の
酵素水溶液を作成した(pH4.0)。この水溶液に木材を浸漬し、温度60℃の恒温槽内に2時間静置し、その後、軽く水洗した後、60℃の恒温槽にて3時間乾燥した。この木材の反り率を測定したところ0.5%であり、反り率として75%以上改善した。また、この時確認された本発明の処理方法の評価は、実験例の結果から想定された評価と同等であった。その後、熱プレス機(東洋精機製MP−WCL)にて60℃で2分間のプレス乾燥を行なった。この時の板材は反り率0.2%以下だった。この結果からプレス加工により更に反りが改善する事が確認された。
その後、この木材について表面全体に実施例1と同じ条件でレーザー加工を施して、レーザー加工1時間後及び1週間後に測定された反り率はそれぞれ0.2%以下であり、レーザー加工によっても新たな反りが発生しないことを確認した。
【0039】
(比較例2)
酵素を加えない以外は全て実施例2と同じ方法で木材に対して処理を行った。水により処理した後の板材は反り率2.0%であり、処理前との比較で変化は確認できなかった。この時の表面の電子顕微鏡撮影を行ったところ、道管同士の接合状態がそのまま残っていることが確認された。この結果から、この条件での反りの改善効果は確認されなかった。
この木材に対し、60℃の恒温槽にて3時間の乾燥後、熱プレス機(東洋精機製MP−WCL)にて60℃2分間のプレス乾燥をした。この時の木材の反り率は0.5%以下であり、反り率として75%以上改善した。
その後、この木材について表面全体に実施例1と同じ条件でレーザー加工を施して、レーザー加工1時間後及び1週間後に測定された反りはそれぞれ反り率0.5%及び3.5%であり、レーザー加工によって新たな反りの発生を確認した。
【0040】
(実験例2)
次に本発明の処理方法による木材の内部応力の除去効果が実験例で行われた評価と一致することを確認するため、
酵素としてキシラナーゼ1を選択し、pH及び処理温度を制御し、内部応力の除去効果を検証した。
11回の試験を行った結果、
図6に示したように、実験例で得られた処理能力の評価(電子顕微鏡撮影から得られた結果と木材の処理前後の重量変化から5段階評価した)と内部応力除去効果(反り率の改善%)は、良い相関を示した。
また、実施例の評価が3以下だった処理条件において、処理時間を増して処理を行った所、反り率がより改善されることを確認した。反り率のさらなる改善が確認された事から、同じ処理条件であった場合、処理時間を増やすことにより、反り率の改善を制御できることが確認できた。
これらの実験結果から、本発明の処理方法による木材の内部応力の除去効果が実験例で行われた評価と一致することを確認した。
【0041】
実施例3から実施例9を以下のように行った。予備乾燥を行った平板(厚さ5mm×幅100mm×長さ150mm)について、長さ方向の一端面を位置決め機能付きテーブル6に設置し、もう一方の端面下部のテーブル上面からの距離を測定した。この幅100mmに対するテーブル上面との間の距離は3.0mmでありこの板材の反り率を3.0%とした。
同様の寸法の杉板を選択し、反り率を測定したところ反り率3.0%であることを確認した。このように4枚の杉板を選び実施例3から実施例6に用いた。実施例7には、同様の反り率%を示した桜材を用いた。これら杉板材及び桜板材の含水率を測定したところ、5枚とも10%であった。
【0042】
(実施例3)
酵素水溶液の
酵素としてプロテアーゼを選択し、イオン交換水を用いて10重量%の
酵素水溶液を作成した(水溶液のpHは5.0)。この水溶液に木材を浸漬し、温度50℃の恒温槽内に30分間静置した。その後、軽く水洗した後、60℃の恒温槽にて3時間の乾燥後、反り率を測定したところ0.5%で反り率として83%改善した。また、この時確認した本発明の処理方法の評価は実験例の結果から想定された評価と同等であった。
その後、この木材について表面全体に実施例1と同じ条件でレーザー加工を施して、レーザー加工1時間後及び1週間後に測定された反り率はそれぞれ0.5%以下であり、レーザー加工によっても新たな反りが発生しないことを確認した。
【0043】
(実施例4)
酵素水溶液の
酵素としてガラクタナーゼを選択し、イオン交換水を用いて10重量%の
酵素水溶液を作成した(水溶液のpHは4.5)。この水溶液に前記木材を浸漬し、温度40℃の恒温槽内に10時間静置した。その後、軽く水洗した後、60℃の恒温槽にて3時間の乾燥後、反り率を測定したところ0.6%で反り率として80%、改善した。また、この時確認された本発明の処理方法の評価は実験例の結果から想定された評価と同等であった。
その後、この木材について表面全体に実施例1と同じ条件でレーザー加工を施して、レーザー加工1時間後及び1週間後に測定された反り率はそれぞれ0.6%以下であり、レーザー加工によっても新たな反りが発生しないことを確認した。
【0044】
(実施例5)
酵素水溶液の
酵素としてセルラーゼを選択し、イオン交換水を用いて3重量%の
酵素水溶液を作成した(水溶液のpHは5.0)。この水溶液に前記木材を浸漬し、温度45℃の恒温槽内に5時間静置した。その後、軽く水洗した後、60℃の恒温槽にて3時間の乾燥後、反り率を測定したところ0.3%で反り率として90%程度、改善した。また、この時確認した本発明の処理方法の評価は実験例の結果から想定された評価と同等であった。
その後、この木材について表面全体に実施例1と同じ条件でレーザー加工を施して、レーザー加工1時間後及び1週間後に測定された反り率はそれぞれ0.3%以下であり、レーザー加工によっても新たな反りが発生しないことを確認した。
【0045】
(実施例6)
酵素水溶液の
酵素としてペクチナーゼを選択し、イオン交換水を用いて2重量%の
酵素水溶液を作成した(水溶液のpHは4.0)。この水溶液に前記木材を浸漬し、温度50℃の恒温槽内に4時間静置した。その後、軽く水洗した後、60℃の恒温槽にて3時間の乾燥後、反り率を測定したところ0.4%で反り率として85%以上、改善した。また、この時確認された本発明の処理方法の評価は実験例の結果から想定された評価と同等であった。
その後、この木材について表面全体に実施例1と同じ条件でレーザー加工を施して、レーザー加工1時間後及び1週間後に測定された反り率はそれぞれ0.4%以下であり、レーザー加工によっても新たな反りが発生しないことを確認した。
【0046】
(実施例7)
酵素水溶液の
酵素としてキシラナーゼ2を選択し、イオン交換水を用いて2重量%の
酵素水溶液を作成した。この溶液にはシクロデキストリンを0.5重量%添加することで粘度を増した(水溶液のpHは5.0)。この水溶液に桜板材を浸漬し、温度60℃の恒温槽に4時間静置した。その後、軽く水洗した後、60℃の恒温槽にて3時間の乾燥後、反り率を測定したところ0.4%で反り率として85%以上改善した。また、この時確認された本発明の処理方法の評価は実験例の結果から想定された評価と同等であった。
その後、この桜板材について表面全体に実施例1と同じ条件でレーザー加工を施して、レーザー加工1時間後及び1週間後に測定された反り率はそれぞれ0.4%以下であり、レーザー加工によっても新たな反りが発生しないことを確認した。
【0047】
(実施例8)
酵素水溶液の
酵素としてキシラナーゼ2を選択し、イオン交換水を用いて2重量%の
酵素水溶液を作成した。この溶液には、シクロデキストリンを0.5重量%添加し、粘度を増した(水溶液のpHは5.0)。この水溶液を反り率2%、含水率8%である木材の反りが生じやすい面3の道管の方向と平行にポリエチレン製のブラシで塗布した。この木材の反りが生じやすい面3は、木材の側面4及び反りが生じやすい面3の画像から判断した。
この
酵素水溶液を処理した木材を温度60℃の恒温槽内に4時間静置した。その後、軽く水洗した後、60℃の恒温槽にて3時間の乾燥後、反り率を測定したところ0.5%で反り率として75%以上改善した。この時確認された本発明の処理方法の評価は実験例の結果から想定された評価と同等であった。
その後、この木材について表面全体に実施例1と同じ条件でレーザー加工を施して、レーザー加工1時間後及び1週間後に測定された反り率はそれぞれ0.5%以下であり、レーザー加工によっても新たな反りが発生しないことを確認した。
【0048】
(実施例9)
酵素水溶液の
酵素としてキシラナーゼ2を選択し、イオン交換水を用いて2重量%の
酵素水溶液を作成した(水溶液のpHは5.0)。この水溶液を反り率2%、含水率10%である木材の反りが生じやすい面3の道管の方向と平行にエアーブラシ(アネスト岩田社製IS−800)で塗布した。塗布箇所を任意に選択するため、塗布箇所以外には、マスキングテープによるマスキングを施した。この時、エアーブラシから塗布した
酵素水溶液の濃度及びpHは、前記濃度及びpHと変化がないことを確認した。木材の反りが生じやすい面3は、木材の側面4及び反りが生じやすい面3の年輪の現れかたの画像から判断した。
この
酵素水溶液を処理した木材を温度60℃の恒温槽に4時間静置した。その後、軽く水洗した後、60℃の恒温槽にて3時間の乾燥後、反り率を測定したところ0.5%で反り率として75%以上改善した。また、この時確認された本発明の処理方法の評価は実験例1の結果から想定された評価と同等であった。更にまた、マスキングを施した箇所では、電子顕微鏡撮影の結果から、
酵素による処理効果が低いことを確認した。
その後、この木材について表面全体に実施例1と同じ条件でレーザー加工を施して、レーザー加工1時間後及び1週間後に測定された反り率はそれぞれ0.5%以下であり、レーザー加工によっても新たな反りが発生しないことを確認した。
【0049】
【表2】