(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561318
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】木製車輪
(51)【国際特許分類】
B27H 7/00 20060101AFI20190808BHJP
B60B 5/04 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
B27H7/00
B60B5/04
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-143971(P2016-143971)
(22)【出願日】2016年7月22日
(65)【公開番号】特開2018-12284(P2018-12284A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2018年2月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年4月17日の久米田池世界灌漑施設遺産登録記念曳行にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年6月17日Facebook(井上英明)にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】516220376
【氏名又は名称】株式会社井上工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100157428
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 聞平
(72)【発明者】
【氏名】井上 英明
【審査官】
川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】
実公昭07−011101(JP,Y1)
【文献】
独国特許発明第00359189(DE,C2)
【文献】
仏国特許出願公開第00461373(FR,A1)
【文献】
登録実用新案第3187763(JP,U)
【文献】
特開2013−154844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27H 1/00− 7/00
B27J 1/00− 7/00
B27M 1/00− 3/38
B60B 1/00−11/10
B60B 17/00−19/14
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略筒状に形成され、軸受金具の筒体が挿入される中心穴が形成された金属製の車輪中心部と、
路面に接触する駒状の部分であって、前記車輪中心部の外周面上に周方向に連続して並べられた状態で一体化された複数の木製ブロックによって構成された車輪本体部と、
前記車輪中心部の外周面から突出し、前記木製ブロックにおいて内周面から外周面に向かって形成された貫通孔に挿入された突出部材と、
前記貫通孔内において前記突出部材に取り付けられて、前記木製ブロックを内側に押し付けて前記車輪中心部に固定する固定部材とを備え、
前記車輪本体部の片方の側面には、前記軸受金具の板状部を嵌め込む窪みが形成されていることを特徴とする、地車用の木製車輪。
【請求項2】
前記木製ブロックは、径方向に重ねられた複数の木片により構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の地車用の木製車輪。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材を主材料として用いた木製車輪に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地車などの車輪に木製車輪が用いられている。地車の場合、近年は、曳き手の減少などの理由から、路面との摩擦が少なく転がりが良い木製車輪が望まれるようになってきている。木材を乾燥させることで表面が硬化し、転がりが良い木製車輪を得ることができる。1つの木材(無垢材)から切削加工によって製造した木製車輪(「生駒」という。)の場合は、比較的大きな木材を用いるため、木材を乾燥させるとひび割れが生じやすく、転がりが良い木製車輪を製造することが難しい。また、直径が大きな木材を入手することも困難になってきている。そのため、生駒に比べて小さい複数の木片を乾燥させて集成させた木製車輪(「集成駒」という。)を用いることが増えてきている。
【0003】
特許文献1には、多数の木製セグメントを周方向に連続して接合した木製車輪が記載されている。この木製車輪は、多数の木製セグメントを接合した後に形成された中心孔に、「ドビ」と呼ばれる軸受金具が嵌め込まれる。そして、「心棒」と呼ばれる地車の車軸を軸受金具に取り付けて使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3173020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来は、多数の木製セグメントを位置合わせしながら円形に接合する必要があり、この作業が容易ではなかった。また、多数の木製セグメントを強固に一体化する場合には、各木製セグメントにおける接着剤の塗布面に、波型にフィンガージョイントを形成しており、この作業も容易ではなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、複数の木片を集成させた木製車輪において、製造が容易で強固に一体化された木製車輪を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するべく、第1の発明は、略筒状に形成された金属製の車輪中心部と、路面に接触する駒状の部分であって、車輪中心部の外周面上に周方向に連続して並べられた状態で一体化された複数の木製ブロックによって構成された車輪本体部と、車輪中心部の外周面から突出し、木製ブロックにおいて内周面から外周面に向かって形成された貫通孔に挿入された突出部材と、貫通孔内において突出部材に取り付けられて、木製ブロックを内側に押し付けて車輪中心部に固定する固定部材とを備えている木製車輪である。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、木製ブロックが、径方向に重ねられた複数の木片により構成されている。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明では、略筒状の車輪中心部の外周面上に、車輪本体部を構成する複数の木製ブロックを並べた構成である。そのため、車輪中心部の外周面を基準にして、複数の木製ブロックを適切な位置に容易に並べることができる。また、車輪中心部の外周面から突出する突出部材を設け、木製ブロックに貫通孔を形成している。そして、突出部材を貫通孔に挿入して車輪中心部の外周面上に木製ブロックを設けて、突出部材に取り付けた固定部材によって木製ブロックを車輪中心部に固定している。すなわち、車輪中心部を用いて車輪本体部における複数の木製ブロックを一体化している。以上により、製造が容易で強固に一体化された木製車輪を提供することができる。
【0010】
第2の発明では、木製ブロックを1つの木片によって構成する場合に比べて、各木片が小さくなる。そのため、木片を乾燥させた時に、木片を使用できないほどのひび割れが生じにくく、多くの木材を有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】実施の形態に係る木製車輪の製造方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、
図1−
図3を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0013】
[1.木製車輪の構成について]
木製車輪10は、地車などの山車に用いられる車輪である。木製車輪10は、複数の木材を接着剤で一体化して集成させた木製の車輪本体部12を用いた集成駒である。木製車輪10の直径は、例えば60cm程度である。また、車輪本体部12の材料には松の木を用いる。但し、木製車輪10の直径及び材料は、この段落の記載に限定されない。
【0014】
木製車輪10は、
図1及び
図2に示すように、略円筒状に形成された金属製(例えば、鋼鉄製)の車輪中心部14(
図3(b)参照)と、車輪中心部14の外周面上に周方向に隙間なく連続して並べられた状態で一体化された複数(本実施の形態では12個)の木製ブロック20によって構成された車輪本体部12とを備えている。木製車輪10を使用する際は、車輪中心部14の中心穴に軸受金具30(「ドビ」という。)が差し込まれてボルトによって固定される。そして、地車の車軸(「心棒」という。)が軸受金具30の中心穴に取り付けられた状態で、木製車輪10が使用される。なお、木製ブロック20の個数は、12個に限定されず、例えば10個であってもよい。また、以下では、各部品について、木製車輪10の軸心方向を「幅方向」という。
【0015】
具体的に、車輪本体部12は、路面に接触する駒状の部分であり、円形の中心穴を有する。車輪本体部12の外周面は、滑らかな円柱面に削られ、幅方向の両側が面取りされている。車輪本体部12を構成する複数の木製ブロック20は、同じ形状で同じ大きさである。各木製ブロック20は、略扇状の断面形状(扇形の中心側から小径の扇形を取り除いた断面形状)を有する、1つの柱状木片によって構成されている。車輪本体部12では、各木製ブロック20の内周面全体が車輪中心部14の外周面に接触して、各木製ブロック20が後述する棒部材15及びナット16によって車輪中心部14に固定されている。隣り合う木製ブロック20同士は、接触面に塗布された接着剤によって互いに固定されている。なお、車輪本体部12は、複数の木製ブロック20が同じ形状で同じ大きさであるものに限定されず、例えば、中心角が互いに異なる木製ブロック20を含んでいてもよい。また、略扇状以外の断面形状を有する木製ブロック20を用いてもよい。
【0016】
各木製ブロック20では、幅方向の両端面(木製車輪10の側面を構成する面)に木口面の木目が表れ、木材繊維が幅方向に延びている。各木製ブロック20の木目は、周方向に沿うように形成されている。また、各木製ブロック20には、内周面から外周面に向かって略径方向に延びる複数(本実施の形態では2つ)の貫通孔26が形成されている。各木製ブロック20の外周面では、2つの貫通孔26が幅方向に間隔を空けて形成されている(
図3(c)参照)。各貫通孔26は、外周側が大径(内周側に比べて断面積が大きな穴)に形成されて段差面26aが形成されている。各貫通孔26の外周側には、貫通孔26を埋めて目立たなくするための木片28が嵌め込まれている。
【0017】
車輪中心部14は、テーパー状の中心穴を有する円筒体である。中心穴がテーパー状であるために、軸受金具30の筒体30a(外周面がテーパー状の筒体)を容易に嵌め込むことができる。車輪中心部14は、幅が車輪本体部12より少し小さい。車輪中心部14の各端面は、車輪本体部12の各側面よりも内側に位置している。車輪中心部14の片方の端面には、複数のボルト取付穴14aが形成されている。木製車輪10では、軸受部材30の板状部30bを車輪中心部14に接触させてボルト止めできるように、車輪本体部12の片方の側面に、軸受金具30の板状部30bを嵌め込む窪み29が形成されている。
【0018】
車輪中心部14の外周面には、複数の棒部材15(棒ネジ)が取り付けられている。各棒部材15は、真っすぐな棒体の外周面に雄ネジが形成された金属製の部材である。各棒部材15は、車輪中心部14の外周面に形成された雌ネジ穴27に取り付けられている(
図3(b)参照)。車輪中心部14の外周面では、周方向において、木製ブロック20の中心角度に対応した角度間隔(等角度間隔)で複数の棒部材15が取り付けられ、幅方向では、複数(木製ブロック20の貫通孔26と同数)の棒部材15が間隔を空けて取り付けられている。各棒部材15は、車輪中心部14の外周面から突出する突出部材に相当する。
【0019】
各木製ブロック20は、各貫通孔26に各棒部材15が挿入された状態で、車輪中心部14の外周面上に設置されている。各棒部材15は、木製ブロック20の径方向の厚さよりも短く、木製ブロック20に埋設されている。貫通孔26内では、各棒部材15の外側部分に取り付けられた各ナット16が締め付けられて、木製ブロック20における貫通孔26の段差面26aに各ナット16が押し付けられている。ナット16の締め付けによって、各木製ブロック20が車輪中心部14に強固に固定されている。各ナット16は、木製ブロック20を内側に押し付けて車輪中心部14に固定する固定部材に相当する。
【0020】
[2.木製車輪の製造方法について]
図3を参照しながら、木製車輪10の製造方法について説明する。なお、以下に記載する製造方法は、あくまで一例である。
【0021】
まず、木材から、木製車輪10に用いる木製ブロック20の数の分だけ、木製ブロック20よりも一回り大きい柱状の一次木片18を切り出し、各一次木片18を乾燥(完全乾燥)させる。そして、
図3(a)に示すように、乾燥後の各一次木片18から、等脚台形の内側(短い方の底辺)を円弧状にした断面形状を有する柱状の二次木片19を切り出す。
【0022】
また、略円筒状の車輪中心部14を準備し、
図3(b)に示すように、車輪中心部14の外周面に形成された複数の雌ネジ穴27のうち幅方向に並ぶ2つに、棒部材15を取り付ける。なお、棒部材15は、溶接等の他の固定方法によって車輪中心部14の外周面に固定してもよい。そして、2本の棒部材15における幅方向の間隔に合わせて、
図3(c)に示すように、各二次木片19に、略径方向に延びる2つの貫通孔26を形成する。各貫通孔26は、外周側を大径に形成して段差面26aを設ける。
【0023】
次に、車輪中心部14の外周面上に、各貫通孔26に各棒部材15を挿通させて1つ目の二次木片19を設置する。そして、各棒部材15の外側部分(先端部)に各ナット16を取り付け、
図3(d)に示すように、各ナット16を締め付けて段差面26aに押し付け、1つ目の二次木片19を車輪中心部14に固定する。
【0024】
2つ目以降の二次木片19は、1つ目の二次木片19の隣から周方向に順番に設置していく。1つ目と同様に、固定用の棒部材15を取り付けて、二次木片19を設置してナット16によって固定する。但し、1つ目とは異なり、2つ目以降の二次木片19は、車輪中心部14の外周面上に設置する前に、片方の斜面(既に車輪中心部14に固定済みの二次木片19に接する斜面)に接着剤を塗布する。
図3(e)に示すように、全ての二次木片19が固定された後に接着剤が硬化することで、12個の二次木片19が一体化される。
【0025】
次に、各貫通孔26に木片(旋盤加工後に木片28となる木片)を挿入し、車輪中心部14に固定された12個の二次木片19の外周面を旋盤加工によって円形に削ることによって、各二次木片19が略扇状の木製ブロック20となり、車輪本体部12の側面に、四角形の窪み29を形成して、
図1及び
図2に示す木製車輪10が完成する。
【0026】
[3.実施の形態の効果等]
本実施の形態では、略円筒状の車輪中心部14の外周面上に、車輪本体部12を構成する複数の木製ブロック20を並べた構成である。そのため、車輪中心部14の外周面を基準にして、複数の木製ブロック20を適切な位置に容易に並べることができる。また、車輪中心部14の外周面から突出する棒部材15を設け、木製ブロック20に貫通孔26を形成している。そして、棒部材15を貫通孔26に挿入して車輪中心部14の外周面上に各木製ブロック20を設けて、棒部材15の外側部分に取り付けられたナット16の締め付けによって各木製ブロック20を車輪中心部14に固定している。すなわち、車輪中心部14を用いて車輪本体部12における複数の木製ブロック20を一体化している。従って、車輪本体部12において木製ブロック20を強固に一体化することができる。
【0027】
また、本実施の形態では、車輪中心部14が金属製である。ここで、従来の木製車輪は、軸受金具30を木製車輪の一部としない場合、全てが木製であった。それに対し、本実施の形態では、木製車輪10の一部に金属製の車輪中心部14を用いているため、従来に比べて木製車輪10の重量を重くすることができる。従って、木製車輪10を用いた地車の重心位置が下がり、地車を倒れにくくすることができる。
【0028】
また、本実施の形態では、1つの車輪本体部12を構成する複数の木製ブロック20が、1本の材木から切り出されている。そのため、複数の木製ブロック20の間では硬さに大きな差がない。そのため、周方向に硬さが均一で、転がり安定性が優れた木製車輪10を得ることができる。
【0029】
[4.変形例1]
変形例1に係る木製車輪10は、
図4に示すように、各木製ブロック20が、複数の柱状木片21〜23を径方向に重ねた積層体である。なお、本変形例では木製ブロック20を構成する木片の数が、3つであるが、例えば2つであってもよいし、4つ以下であってもよい。
【0030】
各木製ブロック20は、複数個の柱状木片21〜23が径方向に重ねられて接着剤で一体化されている。最も内側の柱状木片21は、等脚台形の短い方の底辺を円弧状にした断面形状を有し、最も外側の柱状木片23は、等脚台形の長い方の底辺を円弧状にした断面形状を有し、真ん中の柱状木片22は、断面形状が等脚台形である。
【0031】
木製車輪10の製造では、断面形状が等脚台形の複数の柱状木片を重ね合わせて、二次木片19と同じ形状の積層体を製作する。そして、この後は、この積層体を二次木片19に置き換えた上記実施の形態の方法で、木製車輪10を製造する。
【0032】
本変形例では、木製ブロック20を1つの木片によって構成する場合に比べて、各木片が小さくなる。そのため、木片を乾燥させた時に、木片を使用できないほどのひび割れが生じにくく、多くの木材を有効利用することができる。
【0033】
[5.その他の変形例]
上記実施の形態では、断面視において車輪中心部14の外周が円形であるが、多角形(例えば正十二角形)であってもよい。この場合、木製ブロック20の製造の際に、二次木片19の内側は円弧状に削らずに直線のままにする。
【0034】
また、上記実施の形態では、全ての木製ブロック20を棒部材15及びナット16によって車輪中心部14に固定しているが、一部の木製ブロック20だけを棒部材15及びナット16によって車輪中心部14に固定してもよい。
【0035】
[6.参考形態]
上記実施の形態では、車輪中心部14が、車輪本体部12を補強する車輪補強部として機能しているが、車輪中心部14を設ける代わりに、車輪本体部12の両側面に円環状の補強板40を貼り付けてもよい。この場合に、
図5に示すように、補強板40は略扇状の木片に分断されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、木材を主材料として用いた木製車輪等に適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
10 木製車輪
12 車輪本体部
14 車輪中心部
15 棒部材(突出部材)
16 ナット(固定部材)
20 木製ブロック
26 貫通孔