(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561347
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】血流シミュレーションのための血流解析機器、その方法及びコンピュータソフトウエアプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20190808BHJP
【FI】
A61B5/00 G
【請求項の数】27
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-553163(P2016-553163)
(86)(22)【出願日】2015年10月8日
(86)【国際出願番号】JP2015078693
(87)【国際公開番号】WO2016056641
(87)【国際公開日】20160414
【審査請求日】2018年8月22日
(31)【優先権主張番号】62/061,418
(32)【優先日】2014年10月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508195545
【氏名又は名称】イービーエム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】八木 高伸
(72)【発明者】
【氏名】朴 栄光
【審査官】
伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−321390(JP,A)
【文献】
特開2003−144395(JP,A)
【文献】
特開2013−208158(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/31741(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/31742(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/31743(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/31744(WO,A1)
【文献】
特開2014−113264(JP,A)
【文献】
特開2015−171486(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2017/360311(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
A61B 5/02 − 5/03
A61B 5/055
A61B 6/00 − 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象血管部位の血流の数値流体解析を実行して、その解析結果を表示するための血流解析方法であって、
コンピュータが、解析対象血管部位を含む医用画像から、解析対象血管部位の入口及び/若しくは出口の血管径(d)を求める工程と、
コンピュータが、前記血管径(d)に基づいて、当該入口及び/若しくは出口における推定流量(Q)を求める工程と、
コンピュータが、前記推定流量(Q)を、前記解析対象部位の血流特性パターンに適用して、当該解析対象部位の当該入口及び/若しくは出口における血流特性を出力する工程と、
を有することを特徴とする血流解析方法。
【請求項2】
請求項1記載の血流解析方法は、さらに、
コンピュータが、ユーザに血流解析対象の患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別を選択的に入力させる工程を有し、
前記血流特性パターンは、前記ユーザに入力させた患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別に応じて用意された個別のパターンであり、
血流特性を出力する工程は、前記ユーザに入力させた患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別に応じた前記血流特性パターンを用いて前記血流特性を出力するものである
ことを特徴とする血流解析方法。
【請求項3】
請求項1記載の血流解析方法において、
前記血流特性パターンは、1つの軸を無次元流量、他の軸を無次元時間として両者の関係を規定するものとして提供されたものである
ことを特徴とする血流解析方法。
【請求項4】
請求項1記載の血流解析方法において、
前記推定流量(Q)を求める工程は、
血管径の3乗(d3)に基づいて前記推定流量(Q)を求めるものである
ことを特徴とする血流解析方法。
【請求項5】
請求項4記載の血流解析方法において、
前記推定流量(Q)を求める工程は、次式:
Q=(τxπ/32μ)d3
(ここでτは適正壁面せん断応力、μは血液粘度)
に基づいて前記推定流量(Q)を求めるものである
ことを特徴とする血流解析方法。
【請求項6】
請求項5記載の血流解析方法は、さらに、
コンピュータが、ユーザに血流解析対象の患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別を入力させる工程と、
コンピュータが、ユーザが入力した血流解析対象の患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別に基づいて、前記適正壁面せん断応力(τ)及び/若しくは血液粘度(μ)を決定する工程と
を有する、
ことを特徴とする血流解析方法。
【請求項7】
請求項6記載の血流解析方法において、
前記適正壁面せん断応力(τ)及び/若しくは血液粘度(μ)を決定する工程は、患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別ごとに規格化された適正せん断応力テンプレー及び/若しくは血液特性テンプレートを用いるものである
ことを特徴とする血流解析方法。
【請求項8】
請求項1記載の血流解析方法において、
前記血管径(d)は、コンピュータが、血管の中心線に直交する面で計測された面積と同一な円を想定した場合の等価直径として算出するものであり、等価直径は、平均値または中央値を用いるものである
ことを特徴とする血流解析方法。
【請求項9】
請求項1記載の血流解析方法において、
前記血流特性パターンは、時間変動流量パターンであり、前記血流特性は、時間変動流量である
ことを特徴とする血流解析方法。
【請求項10】
対象血管部位の血流の数値流体解析を実行して、その解析結果を表示する血流解析機器であって、
コンピュータが、解析対象血管部位を含む医用画像から、解析対象血管部位の入口及び/若しくは出口の血管径(d)を求める血管径算出部と、
コンピュータが、前記血管径(d)に基づいて、当該入口及び/若しくは出口における推定流量(Q)を求める血管特性演算部と、
コンピュータが、前記推定流量(Q)を、前記解析対象部位の血流特性パターンに適用して、当該解析対象部位の当該入口及び/若しくは出口における血流特性を出力する血流特性演算部と、
を有する、
ことを特徴とする血流解析機器。
【請求項11】
請求項10記載の血流解析機器は、さらに、
コンピュータが、ユーザに血流解析対象の患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別を選択的に入力させる入力部を有し、
前記血流特性パターンは、前記ユーザに入力させた患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別に応じて用意された個別のパターンであり、
前記血流特性を出力する血流特性演算部は、前記ユーザに入力させた患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別に応じた前記血流特性パターンを用いて前記血流特性を出力するものである
ことを特徴とする血流解析機器。
【請求項12】
請求項10記載の血流解析機器において、
前記血流特性パターンは、1つの軸を無次元流量、他の軸を無次元時間として両者の関係を規定するものとして提供されたものである
ことを特徴とする血流解析機器。
【請求項13】
請求項10記載の血流解析機器において、
前記推定流量(Q)を求める血管特性演算部は、
血管径の3乗(d3)に基づいて前記推定流量(Q)を求めるものである
ことを特徴とする血流解析機器。
【請求項14】
請求項13記載の血流解析機器において、
前記推定流量(Q)を求める血管特性演算部は、次式:
Q=(τxπ/32μ)d3
(ここでτは適正壁面せん断応力、μは血液粘度)
に基づいて前記推定流量(Q)を求めるものである
ことを特徴とする血流解析機器。
【請求項15】
請求項14記載の血流解析機器は、さらに、
コンピュータが、ユーザに血流解析対象の患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別を選択的に入力させる入力部を有し、
コンピュータが、ユーザが入力した血流解析対象の患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別に基づいて、前記適正壁面せん断応力(τ)を決定する適正壁面せん断応力演算部及び/若しくは血液粘度(μ)を決定する血液特性演算部と
を有する、
ことを特徴とする血流解析機器。
【請求項16】
請求項15記載の血流解析機器において、
前記適正壁面せん断応力(τ)を決定する適正壁面せん断応力演算部及び/若しくは血液粘度(μ)を決定する血液特性演算部は、患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別ごとに規格化された適正せん断応力テンプレー及び/若しくは血液特性テンプレートを用いるものである
ことを特徴とする血流解析機器。
【請求項17】
請求項10記載の血流解析機器において、
前記血管径(d)は、コンピュータが、血管の中心線に直交する面で計測された面積と同一な円を想定した場合の等価直径として算出するものであり、等価直径は、平均値または中央値を用いるものである
ことを特徴とする血流解析機器。
【請求項18】
請求項10記載の血流解析機器において、
前記血流特性パターンは、時間変動流量パターンであり、前記血流特性は、時間変動流量である
ことを特徴とする血流解析機器。
【請求項19】
対象血管部位の血流の数値流体解析を実行して、その解析結果を表示するためのコンピュータソフトウエアプログラムであって、以下の工程:
コンピュータが、解析対象血管部位を含む医用画像から、解析対象血管部位の入口及び/若しくは出口の血管径(d)を求める工程と、
コンピュータが、前記血管径(d)に基づいて、当該入口及び/若しくは出口における推定流量(Q)を求める工程と、
コンピュータが、前記推定流量(Q)を、前記解析対象部位の血流特性パターンに適用して、当該解析対象部位の当該入口及び/若しくは出口における血流特性を出力する工程と、
を実行させる命令を含む
ことを特徴とするコンピュータソフトウエアプログラム。
【請求項20】
請求項19記載のコンピュータソフトウエアプログラムは、さらに、
コンピュータが、ユーザに血流解析対象の患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別を選択的に入力させる工程を実行させる命令を有し、
前記血流特性パターンは、前記ユーザに入力させた患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別に応じて用意された個別のパターンであり、
血流特性を出力する工程は、前記ユーザに入力させた患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別に応じた前記血流特性パターンを用いて前記血流特性を出力するものである
ことを特徴とするコンピュータソフトウエアプログラム。
【請求項21】
請求項19記載のコンピュータソフトウエアプログラムにおいて、
前記血流特性パターンは、1つの軸を無次元流量、他の軸を無次元時間として両者の関係を規定するものとして提供されたものである
ことを特徴とするコンピュータソフトウエアプログラム。
【請求項22】
請求項19記載のコンピュータソフトウエアプログラムにおいて、
前記推定流量(Q)を求める工程は、
血管径の3乗(d3)に基づいて前記推定流量(Q)を求めるものである
ことを特徴とするコンピュータソフトウエアプログラム。
【請求項23】
請求項22記載のコンピュータソフトウエアプログラムにおいて、
前記推定流量(Q)を求める工程は、次式:
Q=(τxπ/32μ)d3
(ここでτは適正壁面せん断応力、μは血液粘度)
に基づいて前記推定流量(Q)を求めるものである
ことを特徴とするコンピュータソフトウエアプログラム。
【請求項24】
請求項23記載のコンピュータソフトウエアプログラムは、さらに、
コンピュータが、ユーザに血流解析対象の患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別を入力させる工程と、
コンピュータが、ユーザが入力した血流解析対象の患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別に基づいて、前記適正壁面せん断応力(τ)及び/若しくは血液粘度(μ)を決定する工程と
を実行させる命令を有する、
ことを特徴とするコンピュータソフトウエアプログラム。
【請求項25】
請求項24記載のコンピュータソフトウエアプログラムにおいて、
前記適正壁面せん断応力(τ)及び/若しくは血液粘度(μ)を決定する工程は、患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別ごとに規格化された適正せん断応力テンプレー及び/若しくは血液特性テンプレートを用いるものである
ことを特徴とするコンピュータソフトウエアプログラム。
【請求項26】
請求項19記載のコンピュータソフトウエアプログラムにおいて、
前記血管径(d)は、コンピュータが、血管の中心線に直交する面で計測された面積と同一な円を想定した場合の等価直径として算出するものであり、等価直径は、平均値または中央値を用いるものである
ことを特徴とするコンピュータソフトウエアプログラム。
【請求項27】
請求項19記載のコンピュータソフトウエアプログラムにおいて、
前記血流特性パターンは、時間変動流量パターンであり、前記血流特性は、時間変動流量である
ことを特徴とするコンピュータソフトウエアプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値流体力学(Computational Fluid Dynamics、CFD)による血流解析の入力の一つである境界条件を推定する方法、それに基づいて境界条件を自動設定する機能を有する血流解析機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、血流解析が行われている。この血流解析を行う一つの手法として数値流体力学(Computational Fluid Dynamics、CFD)を用いてコンピュータ処理により行う方法がある。CFDをコンピュータ処理で行う場合、血流解析の入力である境界条件を自動設定する機能を有するプログラム等はなく、各患者の各血管における実測値を手動で設定入力する必要があった。
【0003】
一般に、血流解析における境界条件は、(1)位相コントラストMRI法や超音波ドップラー法による実測値、及び(2)前記計測に基づいた統計平均値により与えられる。
【0004】
しかしながら、(1)は時間・費用がかかり、(2)はボランティアによって提供された標準値が知られているのみであり患者への適用の有効性が実証されていないという問題があった。したがって、手動で設定するとしても、限界があった。
【0005】
このため、CFDの境界条件を自動で設定する新たな技術が求められており、そのための様々な開発が種々行われてきた。
【0006】
しかしながら、血管内の血流は時間とともに変動する拍動流である。血管は柔軟性をもつ管路であり、時間変動する特徴は個々の血管で異なる。例えば、大動脈では、心臓の収縮期のみに血流が輸送され、拡張期では血流はほぼゼロである。一方、脳動脈では、血管の収縮・拡張がポンプ作用となることで収縮期でも血流がゼロになることはない。血流のこのような拍動流や時間変動、また個々の血管の違いを考慮した境界条件設定を血流解析機で自動設定することは困難であった。
【0007】
例えば、境界条件の設定には以下のようなことを考慮しなければならない。
【0008】
一般に、血管内腔面には血管内皮細胞がある。血管内皮細胞は、血流の力学的刺激を感受する機能をもち、その値に応じて細胞の生化学的反応を変化させるという機能をもつことが知られている。より具体的には、内皮細胞には適正な壁面せん断応力が存在すると考えられており、その値が正常値から逸脱すれば、血管径を収縮・弛緩することで形状調整するものである。
【0009】
境界条件の設定には、前述の血管生理機能を考慮する必要があるが、その方法としては、動物実験的に境界条件の普遍性を検証したものに限られている(文献1)。文献1によれば、壁面せん断応力の適正値はおおよそ1.5Pa程度であることが知られている。しかしながら、この適正値の利用範囲に関しては明らかとなっていない。例えば、文献1では1.5Paという値を適正値として報告しているが、その導出には血液粘度μ=3.5cPを暗黙に前提としている。また、対象もサルをベースにした動物実験の結果にすぎない。実際の患者の血行動態は、加齢や病態による影響により内皮細胞の機能や血液粘度そのものが変性していることが分かっており適用範囲には限界がある。
【0010】
本発明者らは、上記壁面せん断応力の適切な設定について、ヒト臨床研究から誠意開発し、その結果、血流解析の境界条件を自動で設定しうるシステム及び方法を完成するに至ったものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】K.Zarins et al、Shear stress regulation of artery lumen diameter in experimental atherogenesis、J of VASCULAR SURGERY、1985
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明の第一の主要な観点によれば、対象血管部位の血流の数値流体解析を実行して、その解析結果を表示するための血流解析方法であって、コンピュータが、解析対象血管部位を含む医用画像から、解析対象血管部位の入口及び/若しくは出口の血管径(d)を求める工程と、コンピュータが、前記血管径(d)に基づいて、当該入口及び/若しくは出口における推定流量(Q)を求める工程と、コンピュータが、前記推定流量(Q)を、前記解析対象部位の血流特性パターンに適用して、当該解析対象部位の当該入口及び/若しくは出口における血流特性を出力する工程と、を有することを特徴とする血流解析方法が提供される。
【0013】
この発明の一の実施態様によれば、この方法は、さらに、コンピュータが、ユーザに血流解析対象の患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別を選択的に入力させる工程を有し、前記血流特性パターンは、前記ユーザに入力させた患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別に応じて用意された個別のパターンであり、血流特性を出力する工程は、前記ユーザに入力させた患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別に応じた前記血流特性パターンを用いて前記血流特性を出力するものである。
【0014】
別の一の実施態様によれば、前記血流特性パターンは、1つの軸を無次元流量、他の軸を無次元時間として両者の関係を規定するものとして提供されたものである。
【0015】
この発明のさらに別の一の実施態様によれば、前記推定流量(Q)を求める工程は、血管径の3乗(d
3)に基づいて前記推定流量(Q)を求めるものである。
この場合、前記推定流量(Q)を求める工程は、次式:
Q=(τxπ/32μ)d
3
(ここでτは適正壁面せん断応力、μは血液粘度)に基づいて前記推定流量(Q)を求めるのが好ましい。
また、このシステムは、さらに、コンピュータが、ユーザに血流解析対象の患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別を入力させる工程と、コンピュータが、ユーザが入力した血流解析対象の患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別に基づいて、前記適正壁面せん断応力(τ)及び/若しくは血液粘度(μ)を決定する工程とを有すことが好ましい。
【0016】
また、前記適正壁面せん断応力(τ)及び/若しくは血液粘度(μ)を決定する工程は、患者の加齢、病態、心拍数及び/または対象血管種別ごとに規格化された適正せん断応力テンプレー及び/若しくは血液特性テンプレートを用いることが好ましい。
【0017】
この発明のさらに別の一の実施態様によれば、前記血管径(d)は、コンピュータが、血管の中心線に直交する面で計測された面積と同一な円を想定した場合の等価直径として算出するものであり、等価直径は、平均値または中央値を用いるものである。
【0018】
別の一の実施態様によれば、前記血流特性パターンは、時間変動流量パターンであり、前記血流特性は、時間変動流量である。
【0019】
この発明の第2の主要な観点によれば、対象血管部位の血流の数値流体解析を実行して、その解析結果を表示する血流解析機器であって、コンピュータが、解析対象血管部位を含む医用画像から、解析対象血管部位の入口及び/若しくは出口の血管径(d)を求める血管径算出部と、コンピュータが、前記血管径(d)に基づいて、当該入口及び/若しくは出口における推定流量(Q)を求める血管特性演算部と、コンピュータが、前記推定流量(Q)を、前記解析対象部位の血流特性パターンに適用して、当該解析対象部位の当該入口及び/若しくは出口における血流特性を出力する血流特性演算部と、を有することを特徴とする血流解析機器が提供される。
【0020】
この発明の第3の主要な観点によれば、対象血管部位の血流の数値流体解析を実行して、その解析結果を表示するためのコンピュータソフトウエアプログラムであって、以下の工程:コンピュータが、解析対象血管部位を含む医用画像から、解析対象血管部位の入口及び/若しくは出口の血管径(d)を求める工程と、コンピュータが、前記血管径(d)に基づいて、当該入口及び/若しくは出口における推定流量(Q)を求める工程と、コンピュータが、前記推定流量(Q)を、前記解析対象部位の血流特性パターンに適用して、当該解析対象部位の当該入口及び/若しくは出口における血流特性を出力する工程と、を実行させる命令を含むことを特徴とするコンピュータソフトウエアプログラムが提供される。
【0021】
なお、上記で挙げていない本発明の特徴は、この後に説明する発明の実施形態及び図面中に当業者が実施可能に提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における処理ステップを示すフローチャートである。
【
図3】
図3(a)〜(f)は、医用画像から血管径を算出する工程を説明する図である。
【
図4】
図4(a)は、壁面せん断応力を説明する模式図である。(b)は、本発明の一実施形態における適正壁面せん断応力テンプレートの一例である。
【
図5】
図5(a)は、本発明の一実施形態における血液特性テンプレートの一例である。(b)は、対象血管と非ニュートン係数の関係を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態における平均流量の算出例を示す図である。
【
図7】
図7は、血管径と流量の実証データを示す図である。
【
図8】
図8(a)及び(b)は、血管特性演算部の算出値と実証データの比較を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、血流特性テンプレートの一例である。
図9(b)は、心拍数テンプレートの一例である。
図9(c)〜(e)は、時間変動流量パターンの例を示す図である。
【
図10】
図10(a)は、血流特性演算部の算出結果を対象血管部位に重ねて出力した一例である。
図10(b)〜(e)は、血流特性演算部の算出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0024】
図1は、この実施形態に係る血流解析装置を示す概略構成図である。
【0025】
前記血流解析装置1は、CPU2、メモリ3及び入出力部4が接続されたバス5に、プログラム格納部6と各種テンプレート等のデータ格納部7が接続されてなる。プログラム格納部6は、血管形状情報21から対象血管の血管径を算出する血管径算出部11と、適切せん断応力演算部12と、血液特性演算部13と、血管特性演算部14と、血流特性演算部15と、血流解析実行部16と、入力インタフェース生成部17を備えている。データ格納部7は、血管形状情報21と、適正せん断応力テンプレート22と、血液特性テンプレート23と、血管特性テンプレート24と、血流特性テンプレート25と、拍動数テンプレート26を備えている。
【0026】
前記構成要件(血管径算出部11、適切せん断応力演算部12、血液特性演算部13、血管特性演算部14、血流特性演算部15、及び血流解析実行部16、入力インタフェース生成部17)は、実際にはハードディスクの記憶領域に格納されたコンピュータソフトウエアによって構成され、前記CPU2によって呼び出されメモリ3上に展開されて実行されることによって、この発明の各構成要素として構成され機能するようになっている。
【0027】
ここで、上記各構成要素11〜16の概略的な機能を説明すると、まず、前記血管径算出部11は、図示されていない画像撮影装置から取得された医用画像21から(ステップS1−1)対象血管部位の入口・出口血管の血管径を算出するものである(ステップS1−2)。前記適切せん断応力演算部12は適切せん断応力テンプレート22を用いて(ステップS2−1)、ユーザが指定した条件に基づいて前記対象血管部位に働く適正せん断応力を算出する(ステップS2−2)ものである。次に、前記血液特性演算部13は血液特性テンプレートを用いて(ステップS3−1)ユーザが指定した条件に基づいて前記対象血管部位の血液特性を算出する(ステップS3−2)ものである。上記各ステップS1〜S3で求められた血管径、適正せん断応力、及び血液特性は、前記血管特性演算部14に渡される。この血管特性演算部14は、上記受け取った情報を血管特性テンプレートに適用する(ステップS4−1)ことで、前記対象血管部位の入口・出口血管の平均流量を算出する(ステップS4−2)。対象血管部位の入口・出口血管の平均流量が求まると、次に前記血流特性演算部15がこれに基づいて、対象血管部位の血流特性、具体的には入口・出口血管の時間変動流量を算出する。具体的には、前記血流特性演算部15は、ユーザが指定した条件(具体的には病態、患者の年齢等)に基づいて用意された血流特性テンプレート及び/または拍動数テンプレートを用い(ステップS5−1,S5−2)、これを対象血管部位の入口・出口血管の平均流量を適用することで、前記対象血管部位の入口・出口血管の時間変動流量を算出する(ステップS5−3)。この後、前記血流解析実行部16は、ステップS5で算出された入口・出口血管の時間変動流量をインプットとして使用して対象血管部位の血流解析を実行するようになっている。
【0028】
なお、上述の実施形態では、各ステップでユーザが条件を指定するように構成されているが、入力インタフェース生成部16を用いて、各テンプレートでユーザによる指定が必要な条件を一度に指定可能な入力インタフェースが生成されるように構成してもよい。
【0029】
次に
図3〜10を参照して各構成要件によって実行される動作について、ステップを追って詳細に説明する。
【0030】
(血管径算出部(ステップS1))
図3(a)〜(f)は、血管径算出部11の処理を示す概略図である。
【0031】
この血管径算出部11は、まず、画像撮像装置から対象血管を含む医用画像を取得する(
図3(a))。ここで画像撮像装置とは、MRA(磁気共鳴画像)、CTA(X線コンピュータ断層撮影画像)、DSA(血管造影画像)、IVUS(血管内超音波画像)、OCT(近赤外画像)などであるが、血管の3次元形状を抽出できるものであれば問わない。
【0032】
次に医用画像から、3次元ボリュームレンダリングにより血管部を抽出する(
図3(b))。血管特異的な信号を抽出するが、信号の値そのものを用いた閾値法や、信号の空間変化を利用した勾配法など、方法は問わない。
【0033】
次に、血流解析に用いる対象血管を抽出する(
図3(c))。この抽出はユーザの指定(マウス等により)若しくは自動(対象血管領域の自動判定)で行うようにする。この例では脳動脈が指定されている。また、この指定により、対象血管の入口と出口が決まることになる。
【0034】
次に、マーチングキューブ法等を用いて血管の曲面を形成する(
図3(d))。これにより画像のボクセル空間からポリゴン空間に移行する。すなわち、この時点で血管壁面は微小三角形要素から構成されている。
【0035】
次に、各血管に対して中心線を構築する(
図3(e))。中心線を抽出する方法は数多く報告されているがここで限定することはない。次に、入口出口の血管に名称を付与する(
図3(e))。
【0036】
名称を付与した後に血管形状を計測する(
図3(f))。計測に際しては、ここでは中心線の各点において直交断面を作成し、その面積の変化を各血管ごとに算出する。各面積値と同等な円を想定して得られる直径(等価直径)をベースに入口・出口の血管径を決める。ここでは、端面の径としてもいいし、中央値や平均値を用いても良い。
【0037】
(適正せん断応力演算部(ステップS2))
適正せん断応力演算部12では、コンピュータが用意した適正せん断応力テンプレート22からユーザが所定の条件を選択することで適正せん断応力を決定する。
【0038】
ここで、せん断応力について、
図4(a)に基づいて説明すると、図示した血管内面にある内皮細胞は血流のせん断応力をセンシングして血管径の収縮・拡張を司る。すなわち、内皮細胞は、その状態に応じて適正せん断応力となるように血管径を調整するものである。そして、この場合のせん断応力は、
図4(a)の数式のように、血液の粘度μと速度勾配du/dyの積によって算出できる。
【0039】
この実施形態では、
図4(b)で示すように適正せん断応力(Pa)を、「加齢・病態」と関連付けた適正せん断応力テンプレート22によって提供する。テンプレートの数値は実験から算出した統計平均値である。前記適正せん断応力テンプレート22は、ベースラインとなる標準値を基本とし、各標準値は加齢と関連づけられている。前記適正せん断応力テンプレート22は、さらに病態の有無を選択する。ここでは、動脈硬化、高血圧の程度に応じてベースライン値を修正することで適正せん断応力を取得する。患者に応じて、例えば、標準値Cと、低度の高血圧(図中++)を選択した場合は、標準値5.0x1.3=6.5と計算されて適正せん断応力が得られる。
【0040】
したがって、この適正せん断応力演算部12は、上記適正せん断応力テンプレート22を選択するため、ユーザ(患者、医師、若しくはシステムの操作者)に、「加齢」及び「病態」の入力インタフェースを例えば選択候補と共に提供することが好ましい。あるいは、システムが自動入力するようにしても良い。ここで入力された「加齢」及び「病態」の入力(選択)情報は、後の血液特性演算部13および血流特性演算部15でも使用する。
【0041】
(血液特性演算部(ステップS3))
血液特性演算部13では、
図5(a)で示すようなコンピュータが用意した血液特性テンプレート23からユーザが所定の条件を選択することで血液特性を算出する。血液特性とは、血液の密度と粘度である。ここでは、血液特性を、加齢・病態と関連付けた血液特性テンプレート23を提供する。テンプレートの数値は実験から算出した統計平均値である。
【0042】
前記血液特性テンプレート23は、ベースラインとなる標準値を基本とするもので、各標準値は加齢と関連づけられている。
【0043】
したがって、前記血液特性テンプレート23の選択のために、この実施形態では、さらに血液疾患の有無、疾患の種類(本実施形態では高脂血症、糖尿病)、薬剤投与の有無・程度(本実施形態では抗血小板剤、抗凝固剤)、対象血管(ここでは対象血管は大中動脈、小動脈、細動脈)をユーザ等に選択させるインタフェースを提供する。
【0044】
なお、対象血管と粘度の関係を説明すると、標準粘度(ベースラインのこと)とは血液粘度がせん断速度に依存しない高せん断領域での血液粘度である。それに対し、血液粘度はせん断速度が低下すると粘度を増加させることが分かっている。すなわち、血管の流量が低下する小さい血管になればなるほど粘度が増大することになる。したがって、対象血管を選択することは、この点を補正することになる。標準粘度を1とした場合の相対値を提供している。これを非ニュートン係数と称す。
図5(b)を参照すると、例えば、小動脈を選択した場合、小動脈領域のせん断速度領域における平均係数が利用される。
【0045】
(血管特性演算部(ステップS4))
血管特性演算部14では、コンピュータが用意した血管特性テンプレート24(この例では、下記モデル式(
図6))に、上記ステップS1〜S3で算出した値(血管径、せん断応力、粘度)を提供することで対象血管の入口・出口血管の平均流量を算出する。
【0046】
ここで、前記モデル式は、適正せん断応力、血液特性(密度と粘度)、血管径などの因子と平均流量を関連付けたものである。各因子は、それぞれ前述の通りに事前に値を出力してあり、モデル式に代入することで使用する。
【0047】
すなわち、対象血管の入口径、出口径からそれぞれ入口流量、出口流量を算出することが可能となるのである。例えば、粘度μ=3cP、適正せん断応力τ=1.5Pa、d=4.24mmとすると、上記モデル式より、平均流量Q=225ml/minと算出される。
【0048】
(血管特性演算部の実証試験A)
図7のグラフは、血管径の3乗と流量が比例関係にあることの実証を示すものである。ここでは、健康なボランティアの脳血管を対象とした。被験者数は3名である。各被験者において、5〜7か所の血管を対象とした。例えば、中大脳動脈、前大脳動脈などである。流量の計測には位相コントラストMRI法を使用した。血管径も同様にMRI法により、等価直径を用いて表現している。各被験者において、傾きは異なるが流量と血管径3乗は比例関係にあることが示されている。
【0049】
(血管特性演算部の実証試験B)
図8(a)及び(b)のデータは、前記のステップS1〜S4により求められた推定平均流量が有効であることの実証を示すものである。ここでは、ある被験者に対して算出された平均流量を文献値と比較している。文献値は、複数のボランティアによる各血管の平均流量である。まず、平均値をみれば、血管ICA、MCA、ACAともに文献値と算出値は良好に一致する。ここでMCAは
図8(a)に示す、3つの分枝(MCA1、MCA2、及びMCA3)の合計として算出されている。さらに前述の通り、血管径3乗と流量は比例するということも流量分配比を見ると有効性が示されている。すなわち、ACAに対しての流量分配比を文献値と算出値で比較すれば両者は良好な一致を示すことが明らである。
【0050】
(血流特性演算部ステップS5))
前記血流特性演算部15は、上記ステップS4で出力された推定平均流量に基づいて、対象血管部位の血流特性、具体的には入口・出口血管の時間変動流量を算出する。具体的には、前記血流特性演算部15は、ユーザが指定した条件(具体的には病態、患者の年齢等)に基づいて用意された血流特性テンプレート25及び/または拍動数テンプレート26を用い(ステップS5−1,S5−2)、これを対象血管部位の入口・出口血管の平均流量を適用することで、前記対象血管部位の入口・出口血管の時間変動流量を算出する(ステップS5−3)。
【0051】
この例では、血管の入口及び出口における時間変動流量を、血管部位・加齢・病態と関連付けた血流特性テンプレート(時間変動流量のパターン)を用いる。血流特性テンプレート26は、
図9(c)〜(e)で示すように横軸を無次元時間、縦軸を無次元流量とした規格データである。横軸、縦軸の数値は実験データを無次元化することで得られたものであり、統計平均値である時間血流量変動パターンである。ここで横軸の無次元化は、被験者によって異なる心拍数を考慮するために心拍動の一周期で無次元化している。ここで縦軸の無次元化は、被験者によって異なる平均流量を考慮するために平均流量で無次元化している。
【0052】
ステップS5−1において、このシステムは、まず、ユーザが入力した血管部位種別(脳動脈、頸動脈、大動脈等)に基づきベースラインを選択する。
図9(c)〜(e)に実線で示されるようにベースラインとは脳動脈や頸動脈などの部位ごとに異なる時間変動流量を規格値として提供するものである。
【0053】
ついで、このシステムは、ユーザが入力した加齢・病態情報(動脈硬化、高血圧)を関連付けた加齢・病態情報テンプレートと、心拍数を関連付けた心拍数テンプレート化した心拍数テンプレートを使用することでベースラインを
図9(c)〜(e)に破線で示すように補正する。
【0054】
この例では、ユーザが選択入力可能な加齢・病態情報として、
図9(a)に示すように動脈硬化(2種類)と高血圧(2種類)、心拍数情報として、
図9(b)に示すように標準、低心拍(2種類)、高心拍(2種類))の5種を提供している。
【0055】
このようにして加齢・病態、心拍数が選択されることで、ステップS4で取得した平均流量に適用する血流変動流量のテンプレート(
図9(c)〜(e)に示す破線)を取得することができる(ステップS5−3)。
【0056】
(血流特性演算部の出力(脳動脈の場合))
そして、最後に、上記ステップS4で求めた対象血管の入口及び出口の推定平均流量を、上記で決定した血流変動流量のテンプレート(
図9(c)〜(e)に示す破線)の平均流量として適用することで
図10(b)〜(e)に示すように、対象血管部位の各入口及び出口の時間変動流量を求めることができる。なお、
図10(b)〜(e)の例は、健常値をベースに脳動脈を対象としている。
【0057】
その他、本発明は、さまざまに変形可能であることは言うまでもなく、上述した一実施形態に限定されず、発明の要旨を変更しない範囲で種々変形可能である。