【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明が採用する手段は、推進用の主機関としてガス燃料を主燃料とするガスインジェクションエンジンを搭載した船舶の機関運転方式であり、ガスインジェクションエンジンは、シリンダヘッドに配設されてガス燃料をシリンダ内に高圧で噴射する主ガス燃料噴射弁及び主ガス燃料噴射弁からのガス燃料の噴射前にディーゼル燃料をシリンダ内にパイロット噴射するパイロット燃料噴射弁と、高圧ガス燃料を主ガス燃料噴射弁へ供給する主ガス燃料供給装置と、ガス燃料をガスインジェクションエンジンのシリンダ内に噴射する副ガス燃料噴射弁と、ガス燃料を副ガス燃料噴射弁へ供給する副ガス燃料供給装置と、主ガス燃料供給装置と副ガス燃料供給装置の作動を制御して機関負荷を調節するコントローラとを備え、コントローラは、副ガス燃料供給装置の作動を制御してパイロット燃料噴射弁からディーゼル燃料がパイロット噴射される前に副ガス燃料噴射弁から燃焼に必要とされるガス燃料の全部又は一部を噴射させると共に、パイロット燃料噴射弁からディーゼル燃料がパイロット噴射された後に主ガス燃料噴射弁から燃焼に必要とされるガス燃料の残部をシリンダ内に高圧で噴射させる船舶の機関運転方式において、コントローラは、ガスインジェクションエンジンの機関負荷が所定負荷以下の場合には、燃焼に必要な全ガス燃料に対するパイロット燃料噴射前に副ガス燃料噴射弁からプレ噴射されるガス燃料の質量割合であるプレ噴射率を100%にして、ガスインジェクションエンジンのNOX 排出量を所定値以下に抑制することにある。
【0015】
まず、本発明に係る船舶は、天然ガス等のガス燃料を主燃料とするガスインジェクションエンジンを搭載しており、天然ガス等のガス燃料はディーゼル油等と比較して硫黄分がはるかに少ないから、近年のSOX 規制値や粒子状物質(PM)に関する現行及び間もなく適用が開始される規制値をすべてクリアすることができる。
【0016】
この一方、このガスインジェクションエンジンは副ガス燃料噴射弁を備えており、この副ガス燃料噴射弁は、パイロット燃料噴射弁からディーゼル燃料がパイロット噴射される前に、燃焼に必要とされるガス燃料の全部又は一部を副ガス燃料供給装置から供給されてシリンダ内にプレ噴射する。そして、主ガス燃料噴射弁は、パイロット噴射後に燃焼に必要とされるガス燃料の残部をシリンダ内に高圧で噴射する。
【0017】
上述したように、ガスインジェクションエンジンにおいて、熱効率を向上させるためには、より高圧のガス燃料を短期間にシリンダ内に噴射することが求められている。しかしながら、本発明のガスインジェクションエンジンにおいては、燃焼に必要とされる発生熱量の多くがパイロット燃料噴射前に副ガス燃料噴射弁から噴射され、それによりパイロット燃料噴射による着火及びその後のガス温度上昇を最適なものになり、パイロット燃料噴射後の主ガス燃料噴射弁から噴射されるガス燃料の量を減少させることができるから、ガス燃料の噴射圧力をこれ以上高圧にしなくても、必要で充分なガス燃料を短時間でシリンダ内に噴射することができる。これにより、熱効率を向上させることができる。
【0018】
また、このようにガス燃料の全部又は一部をパイロット噴射前に噴射してパイロット噴射により着火するようにすれば、その燃焼はディーゼルエンジンにおける希薄予混合燃焼に同様のリーンバーン燃焼となり、これによりNOx の発生を確実に減少させることができる。
【0019】
特に、このガスインジェクションエンジンは、その機関負荷が所定負荷以下の場合には、燃焼に必要な全ガス燃料に対する、パイロット燃料噴射前に副ガス燃料噴射弁からプレ噴射されるガス燃料の質量割合であるプレ噴射率を100%にするから、所定負荷以下の低負荷時にはリーンバーン燃焼が行われ、NOX 排出量を極めて低く抑えることができる。
【0020】
一方、従来の予混合のガスエンジンは、低負荷領域では、ガス噴射に伴うノッキングの発生が少ないという特性がある。したがって、このガスインジェクションエンジンにおいて低負荷時に比較的多量のガス燃料をプレ噴射しても、ノッキングが発生する可能性は極めて低い。
【0021】
すなわち、この船舶のガスインジェクションエンジンに対して、機関負荷が所定負荷以下となる低負荷運転を行わせれば、熱効率を向上しつつ、またノッキングの発生の可能性を減少させつつ、NOX 排出量を極めて低い所定値以下に抑制することができる。
【0022】
上記船舶の機関運転方式において、コントローラは、ガスインジェクションエンジンの機関負荷が所定負荷を超える場合には、プレ噴射率を50%以下にすることが望ましい。
上述したように、従来の予混合のガスエンジンは、高負荷領域ではガス噴射に伴うノッキング発生の可能性が高くなることが知られており、高負荷時にはガス燃料のプレ噴射量を一定範囲内に抑える必要がある。したがって、特にプレ噴射率を50%以下にすることによって、ノッキングの発生を防止しつつ、パイロット燃料噴射による着火及びその後のガス温度上昇を最適なものにすることができる。
【0023】
そして、この高負荷運転を、例えば、第3次規制よりも前の規制が適用される海域で行うようにすれば、NOX 排出量に関する現行及び間もなく適用が開始される規制値をすべてクリアすることができる。
【0024】
また、上記の課題を解決するために、本発明が採用する手段は、推進用の主機関としてガス燃料を主燃料とするガスインジェクションエンジンを搭載した船舶の機関運転方式であり、ガスインジェクションエンジンは、シリンダヘッドに配設されてガス燃料をシリンダ内に高圧で噴射する主ガス燃料噴射弁及び主ガス燃料噴射弁からのガス燃料の噴射前にディーゼル燃料をシリンダ内にパイロット噴射するパイロット燃料噴射弁と、高圧ガス燃料を主ガス燃料噴射弁へ供給する主ガス燃料供給装置と、ガス燃料をガスインジェクションエンジンのシリンダ内に噴射する副ガス燃料噴射弁と、ガス燃料を副ガス燃料噴射弁へ供給する副ガス燃料供給装置と、主ガス燃料供給装置と副ガス燃料供給装置の作動を制御
して機関負荷を調節するコントローラとを備え、コントローラは、副ガス燃料供給装置の作動を制御してパイロット燃料噴射弁からディーゼル燃料がパイロット噴射される前に副ガス燃料噴射弁から燃焼に必要とされるガス燃料の全部又は一部を噴射させると共に、パイロット燃料噴射弁からディーゼル燃料がパイロット噴射された後に主ガス燃料噴射弁から燃焼に必要とされるガス燃料の残部をシリンダ内に高圧で噴射させる船舶の機関運転方式において、船舶は、GPS受信機をさらに備え、コントローラは、GPS受信機から供給された位置情報に基づいて船舶が所定海域内を航行していると判定した場合には機関負荷を所定負荷以下に調節すると共に、燃焼に必要な全ガス燃料に対するパイロット燃料噴射前に副ガス燃料噴射弁からプレ噴射されるガス燃料の質量割合であるプレ噴射率を100%にして、ガスインジェクションエンジンのNOX 排出量を所定値以下に抑制することにある。
【0025】
このように、コントローラがGPS受信機から供給された位置情報に基づいて船舶が所定海域内を航行していると判定した場合には、機関負荷を所定負荷以下に調節すると共に、燃焼に必要な全ガス燃料に対する、パイロット燃料噴射前に副ガス燃料噴射弁からプレ噴射されるガス燃料の質量割合であるプレ噴射率を100%にして、ガスインジェクションエンジンのNOX 排出量を所定値以下に抑制することにより、所定海域においてはNOX 排出量を自動的に極めて低い量にまで、例えば、NOX 排出量の第3次規制値である3.4g/kWh以下に抑制することができる。その他は、上述の別の本発明が採用する手段の場合と同様である。
【0026】
上記船舶の機関運転方式において、コントローラは、GPS受信機から供給された位置情報に基づいて船舶が所定海域外を航行していると判定した場合であって、かつ機関負荷が所定負荷以下の場合には、プレ噴射率を50%以上にすることが望ましい。
【0027】
船舶が所定海域外を航行していると判定した場合であって、かつ必要とする機関負荷が所定負荷以下の場合には、ガスインジェクションエンジンの本来の性能に応じたプレ噴射を行うことが望ましく、プレ噴射率を50%以上にすることによってそれを達成することができる。
【0028】
上述のように、この所定海域が、例えばNOX 排出量の第3次規制が適用される海域である場合には、NOX 排出量を極力少ない量にまで減少させるための特別のプレ噴射を行なう必要があるが、それ以外の海域においては、このようにガスインジェクションエンジンの本来の性能に応じたプレ噴射を行っても、現行及び間もなく適用が開始される規制値をすべてクリアすることができる。
【0029】
上記船舶の機関運転方式において、コントローラは、ガスインジェクションエンジンの始動直後の低負荷時にプレ噴射率を100%にすると共に、機関負荷が所定負荷に上昇するまでに上記プレ噴射率を100%から50%へ順次減少させる一方、負荷上昇時に100%から100%未満のプレ噴射率へ減少させる負荷点を、負荷減少時に100%未満から100%のプレ噴射率へ増加させる負荷点よりも高くすることが望ましい。
【0030】
このように、負荷上昇時に100%から100%未満のプレ噴射率へ減少させる負荷点と、負荷減少時に100%未満から100%のプレ噴射率へ増加させる負荷点との間に一定のヒステリシスを設けることにより、ガス燃料のプレ噴射に関する制御を安定化することができる。
【0031】
上記船舶の機関運転方式において、コントローラは、GPS受信機から供給された位置情報に基づいて船舶が所定海域外を航行していると判定した場合であって、かつ機関負荷が所定負荷を超える場合には、上記プレ噴射率を50%以下にすることが望ましい。
【0032】
上述したように、従来の予混合のガスエンジンは、高負荷領域ではガス噴射に伴うノッキング発生の可能性が高くなることが知られており、高負荷時にはガス燃料のプレ噴射量を一定範囲内に抑える必要がある。したがって、特に燃焼に必要なガス燃料の質量割合で50%以下の量のガス燃料をシリンダ内にプレ噴射させるようにすることにより、ノッキングの発生を防止しつつ、パイロット燃料噴射による着火及びその後のガス温度上昇をさらに最適なものにすることができる。
【0033】
そして、この高負荷運転を所定海域外、例えばNOX 排出量の第3次規制よりも前の規制が適用される海域で行うようにすれば、NOX 排出量に関する現行及び間もなく適用が開始される規制値をすべてクリアすることができる。
【0034】
上記船舶の機関運転方式において、機関負荷の上記所定負荷は、例えば負荷50〜70%の範囲内に設定されることが望ましい。
【0035】
負荷が50%未満では船舶の航行に支障をきたす恐れがあり、また、負荷が70%を超えると、上述のようにリーンバーンエンジンで見受けられるノッキングの発生が懸念され、また、パイロット燃料噴射による着火及びその後のガス温度上昇を最適なものにすることができなくなるからである。
【0036】
上記船舶の機関運転方式において、NOX 排出量の上記所定値は、例えば機関回転数が130rpm未満の機関に対する第3次規制値である、3.4g/kWhとすることが望ましい。このように、NOX 排出量の所定値は、例えば機関回転数が130rpm未満の機関に対する第3次規制値の3.4g/kWhとすることにより、NOX 排出量に関する第3次規制を確実にクリアすることができる。
【0037】
上記船舶の機関運転方式において、ガスインジェクションエンジンの副ガス燃料噴射弁は、シリンダの側部に配設されて低圧のガス燃料をシリンダ内に噴射することが望ましい。
【0038】
このように、ガスインジェクションエンジンの副ガス燃料噴射弁をシリンダの側部に配設して、副ガス燃料噴射弁から低圧のガス燃料をシリンダ内に噴射させることにより、プレ噴射として必要かつ十分な燃焼が得られると共に、高圧ガスとして取り扱わなければならないガス燃料の量を確実に減少させることができ、安全性が高められる。また、ガス燃料を高圧化するために必要な動力エネルギを抑制させることができ、コスト削減を図ることができる。
【0039】
上記船舶の機関運転方式において、ガスインジェクションエンジンの副ガス燃料噴射弁は、5〜15barの低圧でガス燃料をシリンダ内にプレ噴射することが望ましい。
【0040】
このように、ガスインジェクションエンジンの副ガス燃料噴射弁から5〜15barの低圧でガス燃料をシリンダ内にプレ噴射することにより、パイロット燃料噴射による着火、及びその後のガス温度上昇を最適なものにすることができる。
【0041】
上記船舶の機関運転方式において、ガスインジェクションエンジンの副ガス燃料噴射弁は、ガス燃料をクランク角で下死点後の80°〜120°の範囲内の所定時期にシリンダ内にプレ噴射することが望ましい。
【0042】
このように、プレ噴射が低圧噴射の場合には、ガス燃料をシリンダ内に副ガス燃料噴射弁からクランク角で下死点後の80°〜120°の範囲内の所定時期にプレ噴射させるこ
とにより、パイロット燃料噴射による着火、及びその後のガス温度上昇を最適なものにすることができる。
【0043】
上記船舶の機関運転方式において、ガスインジェクションエンジンの副ガス燃料噴射弁は、シリンダヘッドに配設されて主ガス燃料をシリンダ内に高圧で噴射する主ガス燃料噴射弁からなり、副ガス燃料供給装置は、主ガス燃料噴射弁へ高圧ガス燃料を供給する主ガス燃料供給装置からなることが望ましい。
【0044】
パイロット燃料噴射前に副ガス燃料噴射弁から噴射されるガス燃料は、必ずしも低圧とする必要はなく、主ガス燃料噴射弁からの高圧噴射によっても燃焼初期の熱発生を理想的なものに近づけることができる。このように、主ガス燃料噴射弁からの高圧のガス燃料噴射をパイロット燃料噴射の前後に行うことにより、ガス燃料のさらなる高圧化を行なうことなく、熱効率を向上させることができることができる。
【0045】
特に、副ガス燃料噴射弁を、シリンダヘッドに設けられて主ガス燃料をシリンダ内に高圧で噴射する主ガス燃料噴射弁とすることにより、プレ噴射のためのガス燃料噴射弁、及びこのガス燃料噴射弁へガス燃料を供給するためのガス燃料供給機構を別途設ける必要がなくなり、コスト増を回避することができる。
【0046】
上記船舶の機関運転方式において、ガスインジェクションエンジンの副ガス燃料噴射弁は、ガス燃料を200〜300barの高圧でシリンダ内にプレ噴射することが望ましい。
【0047】
このように、副ガス燃料噴射弁から200〜300barの高圧でガス燃料をシリンダ内にプレ噴射することにより、パイロット燃料噴射による着火、及びその後のガス温度上昇を最適なものにすることができる。
【0048】
上記船舶の機関運転方式において、ガスインジェクションエンジンの副ガス燃料噴射弁は、ガス燃料をシリンダ内にクランク角で下死点後の120°〜160°の範囲内の所定時期にプレ噴射することが望ましい。
【0049】
このように、プレ噴射が高圧噴射の場合には、副ガス燃料噴射弁からガス燃料をクランク角で下死点後の120°〜160°の範囲内の所定時期にシリンダ内にプレ噴射することにより、パイロット燃料噴射による着火、及びその後のガス温度上昇を最適なものにすることができる。
【0050】
上記船舶の機関運転方式において、ガスインジェクションエンジンの副ガス燃料供給装置は、副ガス燃料噴射弁からガス燃料を所定時間を超えて噴射させないようにするインターロック機構を備えていることが望ましい。
【0051】
このように、ガスインジェクションエンジンの副ガス燃料供給装置は、副ガス燃料噴射弁からガス燃料を所定時間を超えて噴射させないようにするインターロック機構を備えているから、異常発生時の副ガス燃料噴射弁からのガス燃料の連続噴射が確実に防止され、安全性が高められる。