(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561385
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】船舶用制振材
(51)【国際特許分類】
B63B 43/00 20060101AFI20190808BHJP
B63H 21/30 20060101ALI20190808BHJP
B63H 23/34 20060101ALI20190808BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20190808BHJP
F16M 5/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
B63B43/00 A
B63H21/30 A
B63H23/34 Z
B32B27/20 Z
F16M5/00 D
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-198229(P2017-198229)
(22)【出願日】2017年10月12日
(65)【公開番号】特開2019-73046(P2019-73046A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2019年1月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309022361
【氏名又は名称】ケーエムマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100033
【弁理士】
【氏名又は名称】小杉 武夫
(72)【発明者】
【氏名】大山 勉
【審査官】
稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開平5−318464(JP,A)
【文献】
特開2011−89547(JP,A)
【文献】
特開2011−131421(JP,A)
【文献】
特開2017−39839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/00−43/00
B63H 1/00−25/52
F16F 15/00−15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリックス材料中に(A)強誘電体、(B)導電体、(C)磁性体、の中の何れか一種類の制振充填材を含有する一層の制振層であって、それぞれ異なる制振充填材を含有する二層の前記制振層をそれぞれ積層し、又は、前記制振層を更に連続して複数積層してなる船舶用制振材において、
第1層を形成する高分子マトリックス材料と制振充填材と硬化剤を含む液状組成物を成形型に注入し、次に、第2層を形成する高分子マトリックス材料と制振充填材と硬化剤を含む液状組成物を前記第1層を形成する組成物が完全硬化する以前に前記第1層の組成物の表面に注入し、各層が形成されてなることを特徴とする船舶用制振材の製造方法。
【請求項2】
高分子マトリックス材料中に(A)強誘電体、(B)導電体、(C)磁性体、の中の何れか一種類の制振充填材を含有する一層の制振層であって、それぞれ異なる制振充填材を含有する三層の前記制振層をそれぞれ積層し、又は、前記制振層を更に連続して複数積層してなる船舶用制振材において、
第1層を形成する高分子マトリックス材料と制振充填材と硬化剤を含む液状組成物を成形型に注入し、次に、第2層を形成する高分子マトリックス材料と制振充填材と硬化剤を含む液状組成物を前記第1層を形成する組成物が完全硬化する以前に前記第1層の組成物の表面に注入し、各層が形成されてなることを特徴とする船舶用制振材の製造方法。
【請求項3】
前記高分子マトリックス材料が硬化型エポキシ樹脂からなることを特徴とする請求項1または2に記載された船舶用制振材の製造方法。
【請求項4】
第3層以降も前記第1層並びに第2層と同様に操作を繰り返して各層が形成されてなることを特徴とする請求項1または2に記載された船舶用制振材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用制振材、より詳細には船舶のエンジンやモーターの回転に起因する振動や騒音を防ぐために船舶エンジン固定用台盤だけでなくスクリューに動力を伝えるシャフトライナー固定用台盤等に使用してより制振効果が大きい船舶用制振材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、先行技術文献によれば、振動や騒音を防止する手段として、自由に振動を起こさせ、その後速やかに減衰させるのがよいとする考え方があり、このような振動減衰には、振動体の有する振動エネルギーを熱に変えて消費することにより、振幅を急速に減少させ振動を止める手法が提案され、実施されている。特に、材料自体が有する減衰能を利用する制振材料が各種開発されている。例えば、非圧電性の有機高分子マトリックスに圧電性、誘電性、導電性を有する低分子化合物を分散させてなる有機高分子系制振材料が提案されている。かかる制振材料の作用は、従来の制振作用の原理とは異なる原理によるものであって、振動エネルギーを一度、電気エネルギーに変換し、次いで、熱エネルギーに変換して消費することにより振動を減衰させるものであり、圧電・導電効果に基づく電気エネルギー損失が加わるために、より効率的な振動減衰が可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−115118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記の特許文献1に記載された複合型制振材料は、二枚の制振合金板状部材と二枚の制振合金板状部材の間に配置された有機高分子系制振層とからなり、前記有機高分子系制振層が有機高分マトリックス材料と、その中に含有される制振付与剤とからなる複合型制振材料とあり、有機高分子系制振層については、「該有機高分マトリックス材料に配合された少なくとも一種の制振付与剤とからなるシート状成形体が挙げられるが、他の形態として、互いに異なる制振付与剤を含有するシート状成形体の二層以上からなる積層体を挙げることができる。」(第0053段落)、また、塗膜形成体について、「少なくとも一種の制振制振付与剤を含有する塗料を、制振合金の接着面に塗工することにより形成されるが、互いに異なる有機高分子マトリック材料および互いに異なる制振付与剤を含有する複数の塗料を塗膜形成体が多層構造となるように順次塗工してもよい。」と、記載されている(第0054)。以上の記載から分かるように、前記2層ないし多層に含まれる制振制振付与剤は互いに機能が異なる必要があるが、制振制振付与剤を強誘電体、導電体、磁性体、のように機能ごとに分類し、異なる分類に属することを要する、とする記載は一切ない。
【0005】
これに対して、本願発明者は、制振充填材を(A)誘電体、(B)導電体、(C)磁性体、の中の何れの機能に属するかに分類し、これら機能が異なる無機系制振付与材を組み合わせることによって従来にない制振効果を発揮することを見出して本願発明に至ったものである。組み合わせの形態としては、特に限定するものではないが、一層の中に異なる分類に属する複数の制振充填材を混合する組み合わせと、一層の中に一種類の制振充填材を含有し、その含有する制振充填材の属する種類が異なる複数の層をそれぞれ積層する組み合わせがあり、何れも制振効果は機能の違うものの組み合わせの方が効果が大きく、特に、その含有する制振充填材の属する種類が異なる複数の層をそれぞれ積層する組み合わせの方が制振効果が大きい。一層に属する制振充填材は同一種類に属する限り物質が異なる複数の制振充填材が含まれていてもかまわない。即ち、ただ単に物質が異なる制振充填材を組み合わせるのではなく、制振充填材が(A)強誘電体、(B)導電体、(C)磁性体、の中の何れに属するかに着目し、違う種類に属する制振充填材を含有する制振層を積層することによって、従来にない優れた制振効果を知見して本発明に想到したものであり、本願発明の主たる目的は、かかる優れた制振効果を備えた制振効果が大きい船舶用制振材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明は、高分子マトリックス材料中に(A)強誘電体、(B)導電体、(C)磁性体、の中の何れか異なる二種類の制振充填材をそれぞれ混合した一層の制振層からなることを特徴とする船舶用制振材とする。
【0007】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、高分子マトリックス材料中に(A)強誘電体、(B)導電体、(C)磁性体、の中の何れか異なる三種類の制振充填材をそれぞれ混合した一層の制振層からなることを特徴とする船舶用制振材とする。
【0008】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、高分子マトリックス材料中に(A)強誘電体、(B)導電体、(C)磁性体、の中の何れか一種類の制振充填材を含有する一層の制振層であって、それぞれ異なる制振充填材を含有する二層の前記制振層をそれぞれ積層し、又は、前記制振層を更に連続して複数積層してなることを特徴とする船舶用制振材とする。
【0009】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、高分子マトリックス材料中に(A)強誘電体、(B)導電体、(C)磁性体、の中の何れか一種類の制振充填材を含有する一層の制振層であって、それぞれ異なる制振充填材を含有する三層の前記制振層をそれぞれ積層し、又は、前記制振層を更に連続して複数積層してなることを特徴とする船舶用制振材とする。
【0010】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記高分子マトリックス材料が硬化型エポキシ樹脂からなることを特徴とする前記の船舶用制振材とする。
【0011】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、タテ150mm×ヨコ150mm×厚み12mmのアルミニウム製治具の中間に、タテ100mm×ヨコ100mm×厚み30mmの直方体の試験片を挟み、室温が20〜23℃、共振周波数が1000〜2000Hzの条件で、インピーダンス法に基づいて求めたダンピング比(ζ)が0.03以上となることを特徴とする前記の船舶用制振材とする。
【0012】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、第1層を形成するエポキシ樹脂と制振充填材と硬化剤を含む液状組成物を成形型に注入し、次に、第2層を形成するエポキシ樹脂と制振充填材と硬化剤を含む液状組成物を前記第1層を形成する組成物が完全硬化する以前に前記第1層の組成物の表面に注入し、更に、第3層以降も同様に繰り返して各層が形成されてなることを特徴とする前記の船舶用制振材の製造方法とする。
【発明の効果】
【0013】
本願発明に係る船舶用制振材は、前記のように有機高分子マトリックス材料に制振充填材を含有する船舶用制振材において、異なる種類の制振充填材を含有する複数の制振層を積層することにより、高分子マトリックス材料に単なる制振充填材を混合しただけの従来の船舶用制振材と比較して格段に制振効果が向上する。本発明に係る船舶用制振材に使用する制振充填材は汎用品として取引されるものでよく原料コスト的にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】TiBa/GR系の全充填材量とダンピング比の関係をあらわす表とグラフである。
【0015】
【
図2】MG/GR系の全充填材量とダンピング比の関係をあらわす表とグラフである。
【0016】
【
図3】GR/ZnO系の全充填材量とダンピング比の関係をあらわす表とグラフである。
【0017】
【
図4】MG/ZnO系の全充填材量とダンピング比の関係をあらわす表とグラフである。
【0018】
【
図5】MG/GR/ZnO系の全充填材量とダンピング比の関係をあらわす表とグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願発明を実施するための形態(以下「実施の形態」と称する)について、以下に詳細に説明する。しかし、本願発明は、かかる実施の形態に限定されるものではない。
【0020】
本願請求の範囲第1項又は第2項の船舶用制振材は、高分子マトリックス材料中に(A)強誘電体、(B)導電体、(C)磁性体、の中の異なる何れか二種類又は三種類の制振充填材(以下「充填材」と略称する)をそれぞれ混合した一層の制振層からなることを特徴とする船舶用制振材とする。(A)強誘電体、(B)導電体、(C)磁性体、の中の異なる何れか二種類とは、(A)と(B)、(B)と(C)、(C)と(A)の中の何れかの組み合わせを言う。前記異なる何れか二種類の充填材を高分子マトリックス材料中に混合して一層の制振層を形成する。同様に、三種類の充填材とは、(A)と(B)と(C)の何れか一種類に属する三種類の充填材を言い、前記三種類の充填材を高分子マトリックス材料中に混合して一層の制振層を形成する。
【0021】
本願請求の範囲の第3項又は第4項の船舶用船舶用制振材は、高分子マトリックス材料中に(A)強誘電体、(B)導電体、(C)磁性体、の中の異なる一種の充填材を混合した2層ないし3層の制振層を積層した構成となる。請求項3の「前記制振層を更に連続して複数積層してなる」とは、例えば、・・(A)/(B)/(A)/(B)・・のように、(A)と(B)の2層を交互に連続して積層することを言い、(B)と(C)、(C)と(A)も同様である。更に、請求項4の場合は、(A)と(B)と(C)をこの順に限定するものではないが、例えば、・・・(A)/(B)/(C)/(A)/(B)/(C)・・・のように、(A)/(B)/(C)の順に3層を連続して積層することにより制振効果が高く好ましい。前記充填材において、(A)強誘電体、(B)導電体、(C)磁性体に属する充填材とは特に限定するものではないが、(A)強誘電体は、外から電場をかけることで分極の向きを変えられる物質を言い、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、酸化亜鉛、ロッシェル塩(酒石酸カリウムナトリウム)、BST(バリウム−ストロンチウム−チタン)、SBT(ストロンチウム−ビスマス−タンタル)、PZT(鉛−ジルコニウム−チタン)等から選択可能である。次に、(B)導電体は、前記強誘導体が電流を通さないのと対照的に電流を通す物質、例えば、グラファイト、カーボン粉末、金属粉等、当業者が周知の材料を適宜選択可能である。
【0022】
次に、(C)磁性体としては、自身の持つ磁性によって、高減衰部材中で独自に相互作用を生じて、前記高減衰部材の減衰性能を向上したり、特に低温での強度を維持したりするために機能しうる種々の磁性体からなる粉末がいずれも使用可能である。前記磁性体としては、例えばマグネタイト、マグヘマイト、フェライト、Mn−Znフェライト等の磁性酸化鉄、コバルト、ニッケル、鉄、電磁軟鉄、カルボニル鉄等の金属磁性体、前記金属と他の金属との合金や混合物等の1種または2種以上が挙げられる。また前記他の金属としては、例えばアルミニウム、コバルト、銅、鉛、マグネシウム、スズ、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、ストロンチウム、バナジウム、ネオジム、サマリウム、ジスプロシウム等が挙げられる。
【0023】
前記磁性体の充填材は、例えば八面体状、六面体状、球状、針状、鱗片状、不定形粒状等の種々の立体形状に形成することができる。特に異方性の小さい八面体状、六面体状、球状、不定形粒状等が好ましい。 磁性体粉は、高分子マトリックス中にできるだけ均一に分散させて、当該磁性体粉を配合することによる前記の効果をより一層向上することを考慮すると、平均粒径が2μm以下、特に1.5μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上、特に0.5μm以上であるのが好ましい。
【0024】
全充填材粉の配合割合は後述するとおり、特に限定するものではないが8wt%〜50wt%が好ましい。充填材粉の配合割合が前記範囲を満たさない合には、異なる充填材と充填材を併用することによるダンピング比の向上効果が得られず、高減衰部材の減衰性能が低下したりする。
【0025】
また、逆に充填材粉の配合割合が前記範囲を超える場合には、相対的に高分子マトリックスの配合割合が少なくなりすぎるため、低温だけでなく常温でも耐久性が低下して、振動が加えられた際に割れやすくなってしまう。これに対し、充填材粉の配合割合を前記範囲内とすることで、種類の異なる充填材粉との併用によるダンピング比の向上効果により更に優れた高ダンピング比材を形成できる。
【0026】
なお、前記ダンピング比の向上効果をより一層向上することを考慮すると、充填材の配合割合は、前記の範囲内であって特に、8wt%〜40wt%であることが好ましい。また、より高度のダンピング比の向上効果を得るには15wt%以上若しくは20wt%以上であることが好ましい。なお前記配合割合は、充填材として1種のみを使用する場合は、その充填材の配合割合であり、2種以上を併用する場合は、その合計の配合割合である。
【実施例】
【0027】
以下に実施例並びに比較例を挙げて本願発明について説明するが、本願発明はこれらの実施例等によって何ら限定されるものではない。
【0028】
本実施例乃至比較例に用いる配合例を表1〜表6に示す。本実施例と比較例に用いる樹脂分は、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を用いたもので、エピコート(登録商標(以下同じ)850((株)ディーアイシー製)とエピコート830((株)ディーアイシー製)を混合し、硬化剤としてTETA(トリエチレンテトラアミン)(和光純薬(株)製試薬特級)を用いて硬化してダンピング比測定の試験片を作成した。実施例1〜実施例4は制振シートの構造が1層と2層があり、1層の方は充填材が、A:強誘電体のチタン酸バリウム(TiBa)とB:導電体のグラファイト(GR)を前記エポキシ樹脂に混合して1層に形成したものであり、2層の方は、チタン酸バリウムを混合した制振層とグラファイトを混合した制振層をそれぞれ積層して2層に形成したものである。充填材の組み合わせは以下の通りである。実施例2;マグネシウム(MG)/グラファイト(GR)、実施例3;グラファイト(GR)/酸化亜鉛(ZnO)、実施例4;マグネシウム(MG)/酸化亜鉛(ZnO)。実施例5は、充填材の組み合わせが(MG)/(GR)/(ZnO)の3種類を用い、前記と同様にして1層ないし3層に形成した。
【0029】
前記の実施例1〜4記載の発明で、1層からなる発明は本願請求項1記載の発明を含む発明に該当し、同じく2層からなる発明は本願請求項3記載の2層サンドイッチタイプの発明を含む発明に該当する。実施例5記載の発明で、1層からなる発明は本願請求項2記載の発明を含む発明に該当し、同じく3層からなる発明は本願請求項4記載の3層サンドイッチタイプの発明を含む発明に該当する。また、表1記載の実施例は、配合する充填材の合計が8.2%であり、表2記載の実施例は、配合する充填材の合計が15%であり、表3記載の実施例は、配合する充填材の合計が21.4%である場合を示す。
【0030】
次に、表4〜表6に示す比較例に係る配合例に記載の充填材は、比較対象となる実施例に用いられる充填材の種類に応じて選択される。(A)強誘電体、(B)導電体、(C)磁性体、の中の実施例に対応する何れか一種類を単独でマトリックス材料に混合し、単層に形成される。また、表4記載の比較例は、配合する充填材の合計が8.2%であり、表5記載の比較例は、配合する充填材の合計が15%であり、表6記載の比較例は、配合する充填材の合計が21.4%である場合を示す。
【0031】
なお、本実施例にて使用したグラファイト(GR)は、ジクス工業株式会社にて製造されたSIP材(水圧押し出し品)粉砕品を使用した。本粉砕品はカーボン品位が99.9%、粒径が10〜200ミクロンである。原料カーボンの製造メーカーは、東海カーボン、日本カーボン、東洋炭素である。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
【表6】
【0038】
なお、本実施例のダンピング比の測定に用いた試験機、試験片及は試験条件は以下のとおりである。
試験機:振動試験機(エミック(株)製F−300BM)、デジタルチャージ振動計
(エミック(株)製600−B−CA6)、FFTアナライザー(アジレント 社製35670A)を使用した。
試験は千葉県産業支援技術研究所における試験機にて行った。
試験片:縦100mm×横100mm×高さ30mmの直方体エポキシ樹脂硬化物を 用いて測定した。
試料の共振周波数:1000〜2000Hz
測定温度:室温で20〜23℃
ダンピング比(ζ)は、インピーダンス測定法によって測定した。前記試験片に加速度ピックアップセンサーをセットし、錘を乗せ、前記の振動試験機(F−300BM)、デジタルチャージ振動計(600−B−CA6)、FFTアナライザー(35670A)を用いてダンピング比(ζ)を測定した。
なお、対数減衰比率(δ)よりダンピング比(ζ)及び損失係数(η)を下式により求めることができる。
ζ=δ/2π
η=2ζ=δ/π
【0039】
図1〜
図5は、TiBa/GR系、MG/GR系、GR/ZnO系、MG/ZnO系、MG/GR/ZnO系の合計5件について2種の変量即ち前記インピーダンス測定法によって求めたダンピング比(ζ)×10の3乗(D値)と全充填材量(wt%)をそれぞれ縦軸と横軸としたグラフにそれぞれプロットし、相関関係の有無を直線で表すグラフ図である。
【0040】
このグラフ図から分かるように、ダンピング比と全充填材量には相関性があり、1層ごとに異なる充填材を混合した2層ないし3層の制振層を積層したことによる制振性能が向上する、いわゆる「サンドイッチ効果」が全ての実施例について顕著に見出された。 この「サンドイッチ効果」は、充填材が2種類と3種類の両系で見られるが、2種類よりも3種類系の方がダンピング比が大きい傾向が見出される。例えば、前記グラフ
図5において充填材が(A)、(B)、(C)それぞれ単品からなる比較例では、充填材が8.2wt%で、ダンピング比(ζ)が0.03前後であるのに対して、(A)、(B)、(C)3種混合単一層でダンピング比(ζ)が0.055であり、(A)、(B)、(C)3層の積層品では0.064である。前者は比較例の1.8倍、後者は比較例の2.1倍の制振効果が認められる。単層で充填材複数配合系のものでは、充填材が1種類の比較例と比べると2種類ないし3種類と種類が増えるに従って、ダンピング比が大きくなる傾向が見られた。全充填材量を変量とするダンピング比のピーク値は、充填材が8.2wt%、15.0wt%、21.4wt%の3点の計測値から断定することは困難であるが、単層のグラファイト(GR)系で40wt%のダンピング比を測定したところ、ダンピング比×10の3乗(D値=33)であることから、21wt%〜40wt%の間、より挟幅視にて30wt%〜35wt%の間にピーク値が存在するとものと推定される。なお、損失係数(η)はその値が大きいほど測定材料の制振性が高いとされ、0.05以上の値であれば制振性があると判断されることから、損失係数(η)の0.05の値を、前記η=2ζに代入して、ダンピング比(ζ)=η/2=0.025が得られる。上記式からダンピング比(ζ)が0.025以上であれば制振性があると判断されることとなる。従って、請求項6に記載したダンピング比(ζ)が0.03以上であれば、より制振性に優れるものと判断される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本願発明に係る船舶用制振材は、異なる種類の充填材を含有する複数の制振層を積層することにより、高分子マトリックス材料に単なる充填材を混合しただけの従来の船舶用制振材と比較して格段に制振効果が向上し、経済的にも有用である。