(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
活性炭繊維(但し、実質的に均一な金属被覆で覆われた活性炭繊維、若しくは、カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノホーンが表面に付着した活性炭繊維を除く。)を含む、通液型キャパシタの電極用脱イオンシートであって、
前記脱イオンシートは、湿式抄紙法により形成されたものであり、
前記脱イオンシートにおける前記活性炭繊維の含有量が45〜95質量%であり、
77.4Kにおける窒素吸着等温線によりDH法で求めた細孔分布において細孔直径20Å以上500Å未満の範囲のメソ細孔容積が0.15〜0.8ml/gであり、かつ、全細孔容積に対する前記メソ細孔容積の割合が20〜80%である、通液型キャパシタの電極用脱イオンシート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の通液型キャパシタ用脱イオンシート、当該脱イオンシートを用いた通液型キャパシタ、当該通液型キャパシタを備える脱イオン液製造装置、及び当該脱イオン液製造装置を用いた脱イオン液の製造方法について詳述する。
【0014】
1.通液型キャパシタ用脱イオンシート
本発明の通液型キャパシタ用脱イオンシートは、活性炭繊維を含む通液型キャパシタの電極用脱イオンシートであって、当該脱イオンシートが、湿式抄紙法により形成されたものであることを特徴とする。
【0015】
本発明の脱イオンシートに含まれる活性炭繊維の種類としては、例えば、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、フェノール樹脂系、石炭ピッチ系、石油ピッチ系等の繊維を不融化し、所望により炭化処理した後、水蒸気、二酸化炭素を含有する雰囲気中、所定温度で所定時間保持することによって賦活することにより製造される任意の活性炭繊維を採用することができる。通液型キャパシタに対して高いイオン除去率と高い通液流量とを付与する観点から、これらの中でも、石炭ピッチ、石油ピッチを原料とした活性炭繊維が好ましい。活性炭繊維は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本発明において、活性炭繊維は、77.4Kにおける窒素吸着等温線によりBJH法で求めた細孔分布において細孔直径20Å以上500Å未満の範囲のメソ細孔容積Vf
mesoが0.02〜0.8ml/gであり、かつ、全細孔容積に対する当該メソ細孔容積の割合Rf
mesoが5〜45%であることが好ましい。活性炭繊維のメソ細孔容積と、全細孔容積に対する当該メソ細孔容積の割合とが上記の範囲にあることにより、通液型キャパシタに対してより高いイオン除去率とより高い通液流量とを付与し得る。なお、「メソ細孔」とは、細孔直径が20Å以上500Å未満の細孔をいい、「ミクロ細孔」とは、細孔直径が20Å未満の細孔をいう。
【0017】
本発明において、活性炭繊維及び通液型キャパシタ用脱イオンシートの細孔分布は、それぞれ、77.4Kにおいて窒素吸着等温線に基づいて算出されるものであり、具体的には次のようにして窒素吸着等温線が作成される。活性炭繊維または通液型キャパシタ用脱イオンシートを77.4K(窒素の沸点)に冷却し、窒素ガスを導入して容量法により窒素ガスの吸着量V[ml/g]を測定する。このとき、導入する窒素ガスの圧力P[mmHg]を徐々に上げ、窒素ガスの飽和蒸気圧P
0[mmHg]で除した値を相対圧力P/P
0として、各相対圧力に対する吸着量をプロットすることにより窒素吸着等温線が作成される。窒素ガスの吸着量は、市販の自動ガス吸着量測定装置(例えば、商品名「AUTOSORB−6」(QUANTCHROME製)や商品名「BELSORP−mini」(日本ベル社製)等)を用いて実施できる。本発明では、窒素吸着等温線に基づき、公知の解析方法に従って細孔分布を求めることができる。この解析は、上記装置に付属する解析プログラム等のような公知の手段を用いることができる。
【0018】
本発明において、活性炭繊維のメソ細孔容積Vf
mesoは、上記の細孔分布に基づきBJH法で計算し、ミクロ細孔容積Vf
microは上記の細孔分布に基づきt−plot法で計算する。また、後述する通液型キャパシタ用脱イオンシートのメソ細孔容積Vs
mesoは、上記の細孔分布に基づきDH法で計算し、ミクロ細孔容積Vs
microは上記の細孔分布に基づきt−plot法で計算する。BJH法は公知の方法であり、具体的には、「J.Amer.Chem.Soc.,73,373(1951))」に開示された方法が採用される。また、DH法は、具体的には、「D.Dollimore, G.R. Heal, J. Colloid Interface Sci., 33 508 (1970)」に開示された方法が採用される。
【0019】
また、本発明において、活性炭繊維の全細孔容積Vf
total及び通液型キャパシタ用脱イオンシートの全細孔容積Vs
totalは、それぞれ、上記の窒素ガスの吸着量の測定結果における窒素の最大吸着量から計算することができる。活性炭繊維の全細孔容積に対する当該メソ細孔容積の割合Rf
mesoは下記式(1)により、また、通液型キャパシタ用脱イオンシートの全細孔容積に対する当該メソ細孔容積の割合Rs
mesoは下記式(2)により算出する。
Rf
meso=Vf
meso/Vf
total×100(%) ・・・(1)
Rs
meso=Vs
meso/Vs
total×100(%) ・・・(2)
【0020】
通液型キャパシタに対して高いイオン除去率と高い通液流量とを付与する観点から、活性炭繊維のメソ細孔容積Vf
mesoとしては、0.15〜0.8ml/g程度であることがより好ましい。また、同様の観点から、活性炭繊維の全細孔容積に対する当該メソ細孔容積の割合Rf
mesoとしては、20〜80%程度がより好ましい。
【0021】
本発明において、活性炭繊維の比表面積(窒素を被吸着物質として用いたBET法(1点法)により測定される値)としては、好ましくは700〜2500m
2/g程度、より好ましくは1000〜2000m
2/g程度が挙げられる。また、活性炭繊維の全細孔容積としては0.30〜1.50ml/g程度、ミクロ細孔容積としては0.25〜1.30ml/g程度、メソ細孔モード直径としては5〜70Å程度であることが好ましい。なお、本発明における「メソ細孔モード直径」とは、前記した細孔分布に基づきBJH法により計算される20〜500Åのメソポア領域における細孔容積分布のピークが位置する細孔直径を意味する。活性炭繊維がこれらの物性を有することにより、通液型キャパシタに対してより高いイオン除去率とより高い通液流量とを付与し得る。
【0022】
本発明において、活性炭繊維は、Mg、Mn、Fe、Y、Pt、及びGdからなる群から選択された少なくとも1種の金属成分を含むことが好ましい。活性炭繊維は、これらの金属成分を含むことによって、特定のメソ細孔モード直径を有する活性炭繊維となり得る。例えば、含有する金属成分の種類に応じて次のような構造・特性を有する活性炭繊維となる。これらの活性炭繊維を用いることにより、通液型キャパシタに対してより高いイオン除去率とより高い通液流量とを付与し得る。
【0023】
(a)Mgを含む場合
77.4Kにおける窒素吸着等温線よりBJH法で求めた細孔分布において細孔直径30Å以上50Å未満の範囲のメソ細孔容積が0.02〜0.40ml/gであり、全細孔容積に対する上記メソ細孔容積の割合が5〜45%であり、かつ、メソ細孔モード直径が30〜36Åである活性炭繊維
【0024】
(b)Mn、Y、Pt、Gdの少なくとも1種を含む場合
77.4Kにおける窒素吸着等温線よりBJH法で求めた細孔分布において細孔直径30Å以上50Å未満の範囲のメソ細孔容積が0.02〜0.40ml/gであり、全細孔容積に対するメソ細孔容積の割合が5〜45%であり、かつ、メソ細孔モード直径が34〜40Åである活性炭繊維
【0025】
(c)Feを含む場合
77.4Kにおける窒素吸着等温線よりBJH法で求めた細孔分布において細孔直径30Å以上50Å未満の範囲のメソ細孔容積が0.02〜0.40ml/gであり、全細孔容積に対するメソ細孔容積の割合が5〜45%であり、かつ、メソ細孔モード直径が40Å〜45Åである活性炭繊維
【0026】
活性炭繊維の平均繊維径としては、好ましくは30μm以下、より好ましくは5〜20μm程度が挙げられる。活性炭繊維の平均繊維径がこのような値を有することにより、通液型キャパシタに対してより高いイオン除去率とより高い通液流量とを付与し得る。また、活性炭繊維の平均繊維長としては、シート状に成形できれば特に制限されないが、0.5〜50mm程度が好ましく、3〜25mm程度がより好ましい。平均繊維長がこのような範囲にあることにより、脱イオンシートに十分な強度が付与することができ、かつ、後述の湿式抄紙法において液体中での分散性が高くなり、均一なシートを形成し易くなる。また、湿式抄紙法により形成された脱イオンシート中の活性炭繊維の繊維長としては、3mm以下が好ましい。3mm以下とするには、叩解機にて叩解することにより容易となる。なお、本発明の活性炭繊維の平均繊維径は、画像処理繊維径測定装置(JIS K 1477に準拠)により測定した値である。また、活性炭繊維の平均繊維長は、画像測定ソフト、商品名「MicroMeasure」(スカラ社製)等)を用いて測定した値である。
【0027】
上記のような活性炭繊維は、公知の方法により製造することができ、例えば、特開2004−182511号公報に記載された方法により製造することができる。また、活性炭繊維の市販品としては、アドール社製のA−15などが挙げられる。
【0028】
本発明の脱イオンシートにおける活性炭繊維の含有量としては、本発明の効果を奏することを限度として特に制限されないが、好ましくは10質量%以上、より好ましくは10〜95質量%程度、さらに好ましくは45〜95質量%程度が挙げられる。本発明の脱イオンシートにおける活性炭繊維の割合がこのような値を有することにより、通液型キャパシタに対してより高いイオン除去率とより高い通液流量とを付与し得る。中でも、脱イオンに供する液体の自重によって通液型キャパシタを自然通液させる場合において特に優れたイオン除去率及び通液流量を付与し得るという観点から、80〜95質量%程度が特に好ましい。
【0029】
本発明の脱イオンシートは、湿式抄紙法により形成されたものである。すなわち、本発明の脱イオンシートは、上記の活性炭繊維を湿式抄紙法によりシート状に成形して得られたものである。本発明の脱イオンシートは、湿式抄紙法により形成されていることにより、従来の脱イオンシートに比して高いイオン除去率と高い通液流量とを両立できる。本発明において、このような格別な効果が奏される機序の詳細は明らかではないが、例えば次のように考えることができる。すなわち、本発明の脱イオンシートが湿式抄紙法により形成されていることにより、活性炭繊維の平均繊維長が短いものとなりやすく、かつ、活性炭繊維が均一に分布する。このため、脱イオンシートにおいて、活性炭繊維を高密度なものとしながら、通液の際にかかる抵抗の小さいシートに成形することができる。さらに、後述するバインダーを用いる場合において、バインダーの融着に起因する活性炭繊維の比表面積の低下が抑制されやすくなる。これらが作用し、単位時間当たりの通液流量の低下を抑制しつつ、単位体積当たりの高いイオン除去率が達成されているものと考えられる。以下、本発明における湿式抄紙法について、具体的に説明する。
【0030】
まず、活性炭繊維を含む投入原料を液体中で分散、混合してスラリーを調製する。これにより、活性炭繊維が分散した状態となる。このとき、予め投入原料を叩解機にて叩解することが好ましい。次に、スラリーを湿式抄紙法により抄紙し、シート状に成形する。すなわち、シートの形成には、抄紙機などを用い、抄紙の要領で水中の固形分をシート状となすように固液分離する。次に、得られた湿ったシートを乾燥させることにより、本発明の脱イオンシートが得られる。活性炭繊維を分散させる液体としては、好ましくは水、アルコールなどが挙げられ、好ましくは水が挙げられる。
【0031】
投入原料中における活性炭繊維の割合としては、スラリー中において活性炭繊維が均一に分散されれば特に制限されず、例えば10〜95質量%程度が挙げられる。通液型キャパシタに対してより高いイオン除去率とより高い通液流量とを付与し得るという観点から、45〜95質量%が好ましい。さらに、脱イオンに供する液体の自重によって通液型キャパシタを自然通液させる場合において特に優れたイオン除去率及び通液流量を付与し得るという観点から、80〜95質量%が特に好ましい。
【0032】
活性炭繊維を含むスラリーを調製する際には、バインダーを混合することが好ましい。バインダーを混合することにより、脱イオンシートの機械的強度を高めることができる。すなわち、本発明の脱イオンシートは、バインダーを含むことが好ましい。湿式抄紙法において、バインダーを混合する場合、固液を分離した湿ったシートを形成した後、バインダーの少なくとも一部が溶融する温度以上の温度で熱処理することにより、脱イオンシートにおける活性炭繊維とバインダーとの結合を強固なものとし、バインダーの機械的強度を高めることができる。
【0033】
投入原料中におけるバインダーの割合としては、スラリー中において活性炭繊維が均一に分散されれば特に制限されず、例えば3〜90質量%程度が挙げられる。通液型キャパシタに対してより高いイオン除去率とより高い通液流量とを付与し得るという観点から、3〜50質量%が好ましい。さらに、脱イオンに供する液体の自重によって通液型キャパシタを自然通液させる場合において特に優れたイオン除去率及び通液流量を付与し得るという観点から、3〜15質量%が特に好ましい。
【0034】
バインダーとしては、脱イオンシートの機械的強度を高める得るものであれば特に制限されないが、好ましくはアクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維などのバインダー繊維が好ましい。バインダーは、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
バインダー繊維としては、好ましくは、融点または軟化点の異なる2成分以上のポリマーで形成された熱融着性の繊維が挙げられ、より好ましくは、高融点ポリマーを芯成分、低融点ポリマーを鞘成分とする芯鞘構造を有する合成繊維が挙げられる。芯鞘構造を有するバインダー繊維の具体例としては、芯部がポリプロピレンで鞘部が変性ポリエチレンにより構成された合成繊維(ポリオレフィン系複合繊維)、芯部がポリエチレンテレフタレートで鞘部がポリオレフィンにより構成されたからなる合成繊維(ポリオレフィン・ポリエステル複合繊維)、芯部がポリエチレンテレフタレートで鞘部が低融点(低軟化点)ポリエステルにより構成された合成繊維(ポリエステル系複合繊維)が挙げられる。芯鞘構造を有する合成繊維としては、市販品を使用することができ、例えば、ユニチカトレーディング株式会社からメルティーの商標で上市されているポリエステル複合繊維が好ましい。芯鞘構造を有するバインダー繊維を用いることにより、高融点ポリマーを芯成分とし、低融点ポリマーを鞘成分とするバインダー繊維とが充分に分散混合されて、両方の繊維が均一に分散して複合化した状態とすることができる。また、芯鞘構造を有するバインダー繊維を用いる際に、上記の固液分離により得られた湿ったシートをバインダー繊維の鞘成分の融点以上、芯成分の融点−20℃以下の温度で熱処理することにより、機械的強度に優れた脱イオンシートが得られる。
【0036】
バインダー繊維の平均繊維長としては、好ましくは1〜50mm程度、より好ましくは3〜25mm程度が挙げられる。また、バインダー繊維の平均繊維径としては、好ましくは2〜100μm程度、より好ましくは5〜50μm程度が挙げられる。バインダー繊維の平均繊維長及び平均繊維径が、それぞれ、これらの範囲にあることにより、脱イオンシートの機械的強度を高めることができ、かつ、スラリー中での活性炭繊維とバインダー繊維との分散性を高めることができる。
【0037】
本発明においては、抄紙後のシートの強度を向上させるために、スラリー中に合成パルプを添加して製造することもできる。合成パルプとは、例えばポリオレフィン系、アクリル系、ポリイミド系、芳香族ポリアミド系、全芳香族ポリエステル系等の熱可塑性ポリマーからなるものや、セルロース系のパルプ状多分岐繊維である。これらの合成パルプは、液体中に分散させた場合に他材料の捕捉力が非常に強力なため、合成パルプの少量の添加で湿式抄紙法により強度の高いシートを作製することができる。合成パルプとしては、市販品を使用することができ、例えば東洋紡社からBiPULの商標で上市されているアクリル系の合成パルプが好ましい。
【0038】
投入原料中における合成パルプの割合としては、スラリー中において活性炭繊維が均一に分散されれば特に制限されず、例えば1〜90質量%程度が挙げられる。通液型キャパシタに対してより高いイオン除去率とより高い通液流量とを付与し得るという観点から、1〜50質量%が好ましい。さらに、脱イオンに供する液体の自重によって通液型キャパシタを自然通液させる場合において特に優れたイオン除去率及び通液流量を付与し得るという観点から、1〜10質量%が特に好ましい。
【0039】
本発明では、必要に応じて、熱処理して得られた活性炭繊維シートの密度を上げるために面圧0.1kgf/cm
2以上のプレス圧力下に加熱し、次いでプレス圧力を保持した状態で冷却することも可能である。
【0040】
スラリーを調製する際には、必要に応じて、例えば結合剤を用いることもできる。結合剤は固体成分で3質量%未満、特に1質量%未満を添加させることが好ましい。結合剤としては、例えば、結合したスルホニウム基、イソチオウロニウム基、ピリジニウム基、第四アンモニウム基、サルフェート基、スルホネート基又はカルボキシレート基を含有するアクリルポリマー又はスチレン・ブタジエンポリマーのような結合した陰イオンもしくは陽イオン電荷を有する実質的に水に不溶な有機ポリマーからなるポリマーラテックス等が挙げられる。
【0041】
さらに、この結合剤を使用する方法では、有機凝集剤を併用することが好ましい。適当な有機凝集剤としては、アルミニウム・ポリクロリド(アルミニウム・ヒドロオキシクロリド)、一部加水分解したポリアクリルアミド、変性陽イオンポリアクリルアミド、ジアリルジエチルアンモニウムクロリド等の種々の有機凝集剤が挙げられる。この凝集剤の添加量はシートの3質量%未満、好ましくは1質量%未満である。また、分散性を向上させるために、例えばキサンタンガム等のスラリー粘度調整剤を用いることもできる。このような増粘剤の添加量は、活性炭繊維シートの2質量%未満であることが好ましい。
【0042】
本発明の脱イオンシートは、77.4Kにおける窒素吸着等温線によりDH法で求めた細孔分布において細孔直径20Å以上500Å未満の範囲のメソ細孔容積Vs
mesoが0.002〜0.8ml/gであり、かつ、全細孔容積に対する前記メソ細孔容積の割合Rs
mesoが1〜80%であることが好ましい。本発明においては、脱イオンシートがこれらの物性値を有することにより、通液型キャパシタに対してより高いイオン除去率とより高い通液流量とを付与し得る。なお、本発明の脱イオンシートのメソ細孔容積Vs
meso、ミクロ細孔容積Vs
micro、全細孔容積に対する当該メソ細孔容積の割合Rs
mesoは、それぞれ、前述した方法により測定される値である。
【0043】
通液型キャパシタに対してさらに高いイオン除去率及び通液流量を付与する観点から、脱イオンシートのメソ細孔容積Vs
mesoとしては、0.15〜0.8ml/g程度であることがより好ましい。また、同様の観点から、全細孔容積に対する当該メソ細孔容積の割合としては、20〜80%程度がより好ましい。
【0044】
同様の観点から、本発明の脱イオンシートは、以下の物性を有することが好ましい。ミクロ細孔容積としては、好ましくは0.2〜1.30ml/g程度、より好ましくは0.5〜1.30ml/g程度である。全細孔容積としては、好ましくは0.5〜1.50ml/g程度、より好ましくは0.7〜1.50ml/g程度である。比表面積(窒素を被吸着物質として用いたBET法(1点法)により測定される値)としては、好ましくは700〜2500m
2/g程度、より好ましくは1000〜2500m
2/g程度である。
【0045】
本発明の脱イオンシートの厚みとしては、好ましくは0.2〜1.2mm程度、より好ましくは0.5〜0.9mm程度が挙げられる。脱イオンシートの厚みがこのような範囲にあることにより、通液型キャパシタに対してより高いイオン除去率及び通液流量を付与し得る。
【0046】
本発明の脱イオンシートを通液型キャパシタとして用いる場合、上記脱イオンシートを厚み方向に対して加圧し圧縮することが好ましく、圧縮後の厚みとしては0.35〜0.60mm程度、より好ましくは0.40〜0.55mm程度が挙げられる。脱イオンシートの厚みがこのような範囲にあることにより、通液型キャパシタに対して特に高いイオン除去率及び通液流量を付与し得る。
【0047】
また、本発明の脱イオンシートの目付としては、好ましくは30〜200g/m
2程度、より好ましくは30〜130g/m
2程度、さらに好ましくは70〜90g/m
2程度が挙げられる。脱イオンシートの目付がこのような範囲にあることにより、通液型キャパシタに対してより高いイオン除去率及び通液流量を付与し得る。
【0048】
後述の通り、本発明の湿式抄紙法により形成された脱イオンシートは、通液型キャパシタ(脱イオン液製造装置)に用いられた場合に、驚くべきことに、脱イオンに供される液体の自重によって自然通液されることにより、特に優れたイオン除去率と通液流量とを発揮することができる。
【0049】
本発明の脱イオンシートは、例えば、通液型キャパシタ、これを備える脱イオン液製造装置に好適に使用することができ、例えば後述のような通液型キャパシタ、脱イオン液製造装置などに適用することができる。
【0050】
2.通液型キャパシタ
本発明の通液型キャパシタは、上記の本発明の脱イオンシートを用いたものである。具体的には、本発明の通液型キャパシタは、電極とセパレータとが交互に積層された積層体を備えており、当該電極が、上記の脱イオンシートを有している。
【0051】
本発明の通液型キャパシタにおいて、電極としては、上記の脱イオンシートを有していれば特に制限されないが、高いイオン除去率及び通液流量を発揮させる観点からは、好ましくは集電極を備えていることが好ましい。
【0052】
本発明の通液型キャパシタの積層構造について、
図1の略図的断面図を用いて説明する。
図1に示される積層体1において、電極2とセパレータ3とが交互に積層されている。電極2において、脱イオンシート21は、集電極22の上に形成されている。複数の脱イオンシート21の間には、絶縁性のセパレータ3が配置されている。通液型キャパシタを構成する積層体1は、
図1に示すように、電極2(集電極21/脱イオンシート22)/セパレータ3/電極2(脱イオンシート21/集電極22)という積層構造を最小単位としており、
図1においては、このような積層構造が連続して2つ形成されている(集電極、脱イオンシート、及びセパレータの合計層数が9層)である場合について示されている。
【0053】
集電極としては、導電性材料により構成されていれば特に制限されず、例えば、銅板、アルミニウム板、カーボン板、フォイル状グラファイトなど、上記の脱イオンシートと密着可能なものを用いることができる。なお、集電極に通液性を付与するために、集電極に通液孔を設けてもよい。集電極の厚みとしては、好ましくは0.01〜1mm程度、より好ましくは0.02〜0.5mm程度が挙げられる。なお、電極間の印加を容易にするため、後述の脱イオン製造装置において、集電極に端子(リード)を設けることが好ましい。
【0054】
セパレータとしては、通液性及び絶縁性を有するものであれば特に制限されず、例えば、ろ紙、不織布などが挙げられる。また、セパレータの厚みとしては、好ましくは30〜300μm程度、より好ましくは50〜250μm程度が挙げられる。なお、本発明の通液型キャパシタにおいては、脱イオンシート、セパレータ、集電極以外の層を1層以上有していてもよい。
【0055】
本発明の通液型キャパシタにおいて、脱イオンシート、セパレータ、集電極などの積層体を構成する層の合計層数としては、目的とする通液型キャパシタの大きさ、単位体積当たりのイオン除去性能、及び単位時間当たりの通液流量に応じて適宜設定することができ、例えば10層以上、好ましくは40〜100層程度が挙げられる。
【0056】
本発明の通液型キャパシタを構成する積層体の高さ(積層方向における厚み)は、目的とする通液型キャパシタの大きさ、イオン除去性能、及び単位時間当たりの通液流量に応じて適宜設定することができ、コンパクト化、イオン除去性能、及び単位時間当たりの通液流量のいずれも向上させる観点から、例えば5mm以上、好ましくは20〜50mm程度が挙げられる。当該積層体の高さは、一般に、積層体を構成する層数及び各層の厚みの増加により高くなるが、積層体の積層方向に圧力を加えることによって、高さを調整することができる。積層体に加える圧力が大きいほど、積層体の高さは低くなり、積層体の密度は高くなるため、単位体積当たりのイオン除去率を高めることができるが、単位時間当たりの通液流量は低下する。
【0057】
本発明の通液型キャパシタにおいて、積層体の高さ方向に対して垂直方向の断面積は、目的とする通液型キャパシタの大きさ、イオン除去性能、及び単位時間当たりの通液流量に応じて適宜設定することができるが、コンパクト化、イオン除去性能、及び単位時間当たりの通液流量のいずれも向上させる観点から、1000〜5000cm
2が好ましい。本発明の通液型キャパシタは、脱イオンシートが湿式抄紙法により形成されたものであるため、通液型キャパシタをコンパクトなものとしても、単位時間当たりの通液流量の低下を抑制しつつ、単位体積当たりの高いイオン除去率が達成することができる。また、コンパクト化を図ることにより、例えばポット型浄水器とした場合に家庭用の冷蔵庫への収納にも対応可能となる。
【0058】
本発明の通液型キャパシタは、脱イオン液製造装置に好適に使用することができ、例えば後述のような脱イオン液製造装置などに適用することができる。
【0059】
3.脱イオン液製造装置
本発明の脱イオン液製造装置は、上記の本発明の通液型キャパシタを備えている。具体的には、本発明の脱イオン液製造装置は、上記の通液型キャパシタと、電源と、容器とを備えている。電源は、通液型キャパシタの上記電極に電気的に接続されている。通液型キャパシタにおいて、電源の正極側が電気的に接続された電極と、負極側が電気的に接続された電極とが、セパレータを介して積層体の積層方向に交互に積層されている。また、容器は、通液型キャパシタを収容している。当該容器内において、通液型キャパシタの積層方向の一方側から他方側に向かって、脱イオンに供される液体が通液される。本発明の脱イオン液製造装置の模式図を
図3に示す。
【0060】
本発明の脱イオン液製造装置において、容器の大きさ及び形状としては、上記の通液型キャパシタを収容できれば特に制限されないが、通液型キャパシタの全ての電極間に脱イオンに供される液体が通液されるために、容器は、積層方向において通液型キャパシタの形状に沿った内部空間を有することが好ましい。
【0061】
本発明の脱イオン液製造装置においては、脱イオンに供される液体の通液は、ポンプなどで通液流量を一定に制御してもよいし、当該液体の自重による自然通液で行ってもよいが、自然通液により行うことが特に好ましい。本発明の脱イオン液製造装置においては、驚くべきことに、自然通液を行うことにより、より高いイオン除去率及び通液流量を発揮させることが可能となる。自然通液によって、より高いイオン除去率及び通液流量を発揮させることが可能となる理由は不明であるが、本発明の脱イオンシートが湿式抄紙法により形成されていることと関連しているものと考えられる。
【0062】
本発明の脱イオン液製造装置において、通液型キャパシタの積層方向に対し垂直な断面の断面積が2500cm
2である場合に、単位時間当たりの通液流量(ml/分)としては、好ましくは20ml/分以上、より好ましくは50〜120ml/分程度が挙げられる。なお、自然通液により行った場合には、当該通液量は、通液開始から通液完了までの平均値である。
【0063】
脱イオンに供される液体としては、イオンを含む液体であれば特に制限されず、例えば、水、海水、廃液などが挙げられ、これらの中でも水道水、硬水などの水が挙げられる。また、除去されるイオン性物質としても、特に制限されず、金属塩、アミン塩、アンモニウム塩、無機酸、有機酸などの液体中でイオンに解離可能な電解質などが挙げられる。本発明の脱イオン液製造装置は、5〜600ppm程度の金属イオンなどを含む硬水の脱イオン水の製造方法として特に好適に使用することができる。
【0064】
本発明の脱イオン液製造装置において、脱イオンに供される液体の通液が脱イオンに供される液体の自重により行われる場合、CaCl
2及びMgCl
2を用い、Mg
2+:Ca
2+=3:1(重量比)となるようにして、下記の式(3)で算出される硬度成分となるイオン濃度が100ppmの硬水を用い、単位時間当たりの通液流量(ml/分)が100ml/分となるように通液をおこない、1.5Vの電圧を印加したときのイオン除去率が75%以上であることが好ましい。これにより、例えば1Lの硬水を短時間で効率的に軟水化することが可能となり、一般家庭で用いられるポット型浄水器として特に適したものとすることができる。上記通液流量及びイオン除去率とするためには、脱イオンシートが湿式抄紙法により形成されたものであることのほか、活性炭繊維の細孔分布、比表面積、平均繊維長、平均繊維径及び含有量、バインダー及び/または合成パルプの含有量、脱イオンシートの厚み及び目付、脱イオンシート、セパレータ、集電極などの積層体を構成する層の合計層数、通液型キャパシタを構成する積層体の高さ等を適宜調整することにより可能となる。
硬度(ppm)=Ca
2+(ppm)×2.5+Mg
2+(ppm)×4.1 (3)
【0065】
4.脱イオン液の製造方法
本発明の脱イオン液の製造方法は、上記の本発明の脱イオン液製造装置を用いて行うことができる。すなわち、脱イオン液製造装置に備え付けられた通液型キャパシタの積層方向の一方側から他方側に向かって、脱イオンに供される液体を通液しながら、通液型キャパシタの電極間に電圧を印加する。これにより、通液中の液体に含まれるカチオンはアノード側の電極に吸着され、アニオンはカソード側に吸着され、液体からイオン性物質が除去されて、脱イオン液が製造される。電極間に印加する電圧としては、特に制限されないが、例えば0.5〜5V程度が挙げられる。電極間に電圧を印可する方法としては、セパレータを介して積層体の積層方向に交互に積層されている電極において、互いに対向する電極の一方側には電源の正極、他方側には電源の負極をそれぞれ電気的に接続して行うことができる。また、電極に吸着したイオン性物質は、無電圧または逆電圧の印加により電極表面から放出できる。このため、電極に吸着したイオン性物質は、高濃度のイオン性物質を含む液体として排出することができる。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0067】
(実施例1)
以下の湿式抄紙法により、脱イオンシートを作製した。活性炭繊維(アドール社製のA−15)87質量部と、バインダーとして鞘部の軟化点が80℃、芯部の融点が250℃の芯鞘構造のポリエステル複合繊維(メルティー4080、2.2dtex×5mm、ユニチカ社製)10質量部と、合成パルプとしてアクリル繊維(BiPUL、東洋紡社製)3質量部を、叩解機を用いて水中で混合、せん断し、均一に分散した水性スラリーを調製した。次に、得られた水性スラリーを所定の流量でワイヤー上に流して水中の固形分をシート状とし、その後、プレスパートを経てドライヤーパートでシートを乾燥した。さらに、カレンダーパートでシート表面を平滑にしてからリールで巻き取り、脱イオンシートを得た。
【0068】
なお、実施例1で用いた活性炭繊維の比表面積は、比表面積1730m
2/gであった。当該比表面積は、窒素を被吸着物質として用いたBET法(1点法)で測定した。活性炭繊維の窒素ガス吸着量は、商品名「AUTOSORB−6」(QUANTCHROME製)を用いて測定した。細孔分布の解析は、付属の解析プログラムで実施した。また、活性炭繊維の全細孔容積Vf
totalは、0.81ml/gであった。当該全細孔容積は、窒素の最大吸着量から計算した。
【0069】
また、実施例1で得られた脱イオンシートの目付(g/m
2)、厚み、活性炭繊維の割合(質量%)、比表面積(m
2/g)、ミクロ細孔容積Vs
micro(ml/g)、メソ細孔容積Vs
meso(ml/g)、全細孔容積Vs
total(ml/g)、全細孔容積に対する前記メソ細孔容積の割合Rs
meso(%)を表1に示す。なお、脱イオンシートの比表面積(m
2/g)、ミクロ細孔容積(ml/g)、メソ細孔容積(ml/g)、全細孔容積(ml/g)は、商品名「BELSORP−mini」(日本ベル社製)を用いて、窒素ガス吸着量を測定し、比表面積はBET法、ミクロ細孔容積Vs
microはt−plot法、メソ細孔容積Vs
mesoはDH法、全細孔容積Vs
totalは窒素の最大吸着量より算出した値である。また、得られた脱イオンシート中の活性炭繊維の最大繊維長は2mmであった(すなわち、脱イオンシート中の活性炭繊維の繊維長は3mm以下であった)。
【0070】
上記で得られた脱イオンシート、セパレータ(アドバンテック社製のろ紙No.5C、厚さ0.22mm)、及びタブを設けた集電極(グラファイトフォイルシート、東洋炭素社製のPERMA−FOIL、厚さ0.05mm)をそれぞれ外径82mm及び内径25mmのリング状に切り出し、該集電極、該脱イオンシート、該セパレータ、該脱イオンシート、該集電極の順に合計54層となるように積層して積層体(通液型キャパシタ)を得た。なお、積層体に対して、およそ5MPaの圧力を積層方向に加えることにより、積層体の高さを25mmに調整した。次に、得られた積層体を、外径140mm、内径125mm、高さ110mmの塩化ビニル樹脂製の円筒型容器に充填し、電源の負極側と正極側とが交互になるようにして、集電極のタブに電極端子を接続して、通液型キャパシタを備える脱イオン液製造装置とした。
【0071】
次に、脱イオンに供する硬水を以下の手順により調製した。CaCl
2及びMgCl
2を用い、Mg
2+:Ca
2+=3:1(重量比)となるようにして、下記の式(3)で算出される硬度成分となるイオン濃度が100ppmの硬水を調製した。
硬度(ppm)=Ca
2+(ppm)×2.5+Mg
2+(ppm)×4.1 (3)
【0072】
次に、上記の脱イオン液製造装置の容器の上に給水用タンク(容積2L)を取り付け、給水用タンク内に上記の硬水を1L充填し、硬水の自重により通液型キャパシタ内を自然通水させた。全ての硬水が通水されるまでの通水流量の平均は、100ml/分であった。なお、硬水を通水させている間、各電極には1.5Vの電圧を印加した。通液型キャパシタを通過した処理水の電気伝導度を測定し、脱イオン対象とした硬水の電気伝導度と当該処理水の電気伝導度から、硬水からのイオン除去率を求めた。結果を表2に示す。
【0073】
(比較例1)
脱イオンシートとして、群栄化学工業社製カイノール(品番ACC−5092−15)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、通液型キャパシタを備える脱イオン液製造装置を得た。カイノールは、湿式抄紙法ではなく、紡織シートを炭化賦活して作製された活性炭繊維シートである。カイノールの目付(g/m
2)、厚み、活性炭繊維の割合(質量%)、比表面積(m
2/g)、ミクロ細孔容積(ml/g)、メソ細孔容積(ml/g)、全細孔容積(ml/g)、全細孔容積に対するメソ細孔容積の割合(%)を表1に示す。なお、脱イオンシートの比表面積(m
2/g)、ミクロ細孔容積(ml/g)、メソ細孔容積(ml/g)、全細孔容積(ml/g)は、それぞれ、上記の方法により算出した値である。
【0074】
次に、比較例1の脱イオン液製造装置を用い、実施例1と同様にして硬水を自然通水し、硬水からのイオン除去率を求めた。結果を表2に示す。なお、比較例1の脱イオン液製造装置において、全ての硬水が通水されるまでの通水流量は、平均で29ml/分であった。
【0075】
(比較例2)
積層体を形成する際に加える圧力を弱め、積層体の高さを36mmに調整したこと以外は、比較例1と同様にして、通液型キャパシタを備える脱イオン液製造装置を得た。次に、実施例1と同様にして硬水を自然通水し、硬水からのイオン除去率を求めた。結果を表2に示す。なお、比較例2の脱イオン液製造装置において、全ての硬水が通水されるまでの通水流量は、平均で100ml/分であった。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
表2に示される結果から明らかな通り、湿式抄紙法で形成した脱イオンシートを用いた実施例1の脱イオン液製造装置によれば、脱イオンシートの活性炭繊維を高密度なものとしながら、通水の際に抵抗の少ないシートに成形することができることに加え、バインダー繊維の融着に起因する活性炭繊維の比表面積の低下が抑制されやすくなり、硬水からの優れたイオン除去率と、自然通水による高い通水流量が得られた。一方、乾式法で形成された市販の活性炭シート(カイノール)を用い、積層体の層数と厚みとを実施例1と同じにした比較例1の脱イオン液製造装置では、イオン除去率は非常に高くなるものの、通水流量が非常に小さくなり、実用できるものではなかった。また、比較例1の脱イオン液製造装置の通水流量を大きくするために、積層体の厚さを大きくして層の密度を小さくした比較例2の脱イオン液製造装置では、通水流量は実施例1と同じ値に高められたものの、イオン除去率が低下してしまった。
【0079】
(実施例2)
積層体を形成する際に加える圧力を実施例1よりも少し弱め、積層体の高さが27mmとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、通液型キャパシタを備える脱イオン液製造装置を得た。次に、実施例1と同様にして硬水を自然通水し、硬水からのイオン除去率を求めた。結果を表3に示す。なお、実施例2の脱イオン液製造装置において、全ての硬水が通水されるまでの通水流量は、平均で130ml/分であった。
【0080】
(実施例3)
積層体を形成する際に加える圧力を実施例2よりもさらに弱め、積層体の高さが30mmとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、通液型キャパシタを備える脱イオン液製造装置を得た。次に、実施例1と同様にして硬水を自然通水し、硬水からのイオン除去率を求めた。結果を表3に示す。なお、実施例3の脱イオン液製造装置において、全ての硬水が通水されるまでの通水流量は、平均で170ml/分であった。
【0081】
(実施例4)
積層体の層数を54層から81層に増やしたこと、及び、積層体の高さが37.5mmとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、通液型キャパシタを備える脱イオン液製造装置を得た。次に、実施例1と同様にして硬水を自然通水し、硬水からのイオン除去率を求めた。結果を表3に示す。なお、実施例4の脱イオン液製造装置において、全ての硬水が通水されるまでの通水流量は、平均で120ml/分であった。
【0082】
【表3】
【0083】
表3に示される結果から明らかな通り、実施例1よりも積層体の厚さを大きくして層の密度を小さくした実施例2の脱イオン液製造装置においては、通水流量の平均を130ml/分にまで高めたにも拘わらず、高いイオン除去率を有していた。また、実施例2よりもさらに積層体の厚さを大きくして層の密度を小さくした実施例3の脱イオン液製造装置においては、通水流量の平均を170ml/分にまで高めたにも拘わらず、比較的高いイオン除去率を有していた。さらに、積層体の層数を増やし、積層体の高さを調整することによって通水流量の平均を120ml/分とした実施例4の脱イオン液製造装置においては、イオン除去率と通水流量を共に非常に高めることができた。
【0084】
(実施例5)
ポンプを用い、実施例1の脱イオン液製造装置において全ての硬水が通水されるまでの硬水の通水流量を一定(100ml/分)に保ったこと以外は、実施例1と同様にして、硬水からのイオン除去率を求めた。結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
表4に示される結果から明らかな通り、ポンプで強制的に通水流量を制御した実施例5では、脱イオンを製造できるものの、自然通水を行った実施例1よりもイオン除去率は低下した。この結果から、湿式抄紙法で形成した脱イオンシートを用いた脱イオン液製造装置においては、ポンプによる強制通水よりも、脱イオンに供される液体の自重による自然通水において特に優れたイオン除去率及び通液流量を付与し得ることが明らかとなった。また、自然通水を行った実施例1〜4の通液型キャパシタは、外径82mmで、高さが25〜37.5mmと非常にコンパクトでもあり、例えばポット型浄水器とした場合に家庭用の冷蔵庫への収納にも十分対応可能なものであった。なお、この結果から、比較例1の脱イオン液製造装置において、実施例5と同様にして、通水流量が100ml/分になるまでポンプで通水した場合には、ほとんど脱イオンができないと考えられる。また、比較例2の脱イオン液製造装置においては、実施例5と同様にして、通水流量が100ml/分になるまでポンプで通水した場合、イオン除去率が非常に小さくなると考えられる。