(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の成形材料は、(A)強化繊維に、(B)ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリアリレートおよびポリフェニレンエーテルからなる群より選択される1種以上の熱可塑性樹脂および(C)下記一般式(1)で表される環状ポリアリーレンスルフィドを含む(D)樹脂組成物を含浸してなる。
【0015】
上記一般式(1)中、Arはアリーレン基、mは2〜50の範囲を表す。
【0016】
まず、これらの構成要素について説明する。
【0017】
本発明に用いられる(A)強化繊維としては、特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度、高弾性率繊維が挙げられる。これらは1種または2種以上を併用してもよい。(A)強化繊維を配合することで、成形品の弾性率や強度などの機械特性を飛躍的に向上させることができる。中でも、得られる成形品の機械特性をより向上させる観点および成形品の軽量化効果の観点から、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が好ましく、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。また、導電性を付与する目的では、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
【0018】
(A)強化繊維の配合量は、成形材料の形態に応じて選択することができるが、前記成分(A)〜(C)の合計100重量部に対して、1〜80重量部である。(A)強化繊維の配合量が1重量部未満では、(A)強化繊維の有する機械特性を十分に奏されず、成形品の機械特性が低下する。機械特性をより向上させる観点から、5重量部以上が好ましく、8重量部以上がさらに好ましい。一方、(A)強化繊維の配合量が80重量部を超えると、相対的にマトリックス樹脂量が少なくなることにより未含浸部が発生しやすくなり、成形品の機械特性が低下することがある。好ましくは70重量部以下、さらに好ましくは65重量部以下である。
【0019】
本発明で用いられる成分(B)は、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリアリレートおよびポリフェニレンエーテルからなる群より選択される1種以上の熱可塑性樹脂である。これらの熱可塑性樹脂を配合することで、樹脂の靭性により成形品の機械特性を向上させることができる。
【0020】
ポリエステルとしては、特に限定されるものではないが、ジカルボン酸とジオールとを主成分とする縮合反応により得られる重合体または共重合体が挙げられる。具体的には、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、液晶ポリエステルなどが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。ポリブチレンテレフタレートとしては、ウィンテックポリマー(株)製“ジュラネックス”(登録商標)、東レ(株)製“トレコン”(登録商標)、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製“ノバデュラン”などとして上市されているものを入手して用いることもできる。ポリエチレンテレフタレートとしては、(株)カネカ製“カネカハイパーライト”(登録商標)、デュポン(株)製“ライナイト”(登録商標)、東洋紡績(株)“バイロペット”(登録商標)などとして上市されているものを入手して用いることもできる。ポリ乳酸としては、三井化学(株)製“レイシア”(登録商標)、東レ(株)製“エコディア”(登録商標)などとして上市されているものを入手して用いることもできる。液晶ポリエステルとしては、東レ(株)製“シベラス”(登録商標)、住友化学(株)製“スミカスーパー”(登録商標)LCP、セラニーズジャパン(株)製“ベクトラ”(登録商標)などとして上市されているものを入手して用いることもできる。
【0021】
ポリアミドとしては、特に限定されるものではないが、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主成分とする縮合反応により得られる重合体または共重合体が挙げられる。具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6T、ナイロン9Tおよびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。また、東レ(株)製“アミラン”(登録商標)、東洋紡績(株)製“グラマイド”(登録商標)、デュポン(株)製“ザイテル”(登録商標)、(株)クラレ製“ジェネスタ”(登録商標)などとして上市されているものを入手して用いることもできる。
【0022】
ポリカーボネートとしては、特に限定されるものではないが、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られる、主鎖中に炭酸エステル構造を有する重合体または共重合体が挙げられる。例えば、ホスゲン法、エステル交換法あるいは固相重合法などで製造することができる。また、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製“ユーピロン”(登録商標)、“ノバレックス”(登録商標)、帝人化成(株)製“パンライト”(登録商標)、出光石油化学(株)製“タフロン”(登録商標)などとして上市されているものを入手して用いることもできる。
【0023】
ポリエーテルエーテルケトンは、ベンゼン環をエーテル結合、エーテル結合、ケトン結合を介して配した重合体である。例えば、ダイセル・エボニック(株)製“ベスタキープ”(登録商標)、ビクトレックス・ジャパン(株)製“VICTREX”(登録商標)などとして上市されているものを入手して用いることもできる。
【0024】
ポリエーテルケトンケトンは、ベンゼン環をエーテル結合、ケトン結合、ケトン結合を介して配した重合体である。特に限定されるものではないが、Cytec Fiberite(株)製“Cypek”、アルケマ(株)製“KEPSTAN”(登録商標)などとして上市されているものを入手して用いることもできる。
【0025】
ポリエーテルイミドは、イミド結合とエーテル結合を有する重合体である。特に限定されるものではないが、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン製“ウルテム”(登録商標)、三井化学(株)製“オーラム”(登録商標)などとして上市されているものを入手して用いることもできる。
【0026】
ポリスルホンは、スルホニル基を含む繰り返し単位を持つ重合体である。例えば、ソルベイ社製“ユーデル”(登録商標)、住友化学(株)製“スミカエクセル”(登録商標)などとして上市されているものを入手して用いることができる。
【0027】
ポリアリレートとしては、特に限定されるものではないが、ビスフェノール系化合物とフタル酸化合物との重縮合により得られる芳香族ポリエステル重合体が挙げられる。例えば、ユニチカ(株)製“Uポリマー”(登録商標)などとして上市されているものを入手して用いることができる。
【0028】
ポリフェニレンエーテルは、下記一般式(14)で表される繰り返し単位を主要構成単位とする重合体であり、下記一般式(14)で表される繰り返し単位を全繰り返し単位中80モル%以上含有することが好ましい。
【0030】
上記一般式(14)中、R6〜R9は、水素、ハロゲン、置換されていてもよい炭化水素基を表し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。炭化水素基の炭素数は1〜3であることが好ましい。nは2〜50の範囲を表し、nは10〜30であることが好ましい。
【0031】
ポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されるものではないが、2,6−キシレノールの酸化重合によって得られる芳香族ポリエーテル重合体が挙げられ、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2、6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)などが挙げられる。また、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体などのポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。なかでも、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)および2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)がより好ましい。例えば、旭化成ケミカルズ(株)製“ザイロン”(登録商標)、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製“ユピエース”(登録商標)、などとして上市されているものを入手して用いることができる。
【0032】
耐熱性、耐久性の観点から、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテルが好ましく、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテルがより好ましく、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリフェニレンエーテルがさらに好ましい。
【0033】
本発明において、PEKKは、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。なお、下記一般式(2)中、Phは、炭素原子数1〜8のアルキル基で置換されていてもよい1,4−フェニレン基または1,3−フェニレン基を示す。複数の繰り返し単位におけるPhは同じでも異なってもよい。全繰り返し単位中、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を50重量%以上有することが好ましく、70重量%以上有することがより好ましい。
【0035】
また、PEKKのガラス転移温度は150〜170℃であることが好ましい。ガラス転移温度が150℃以上であれば、得られる成形品の耐熱性を向上させることができる。一方、ガラス転移温度が170℃以下であれば、成形品の靭性をより向上させることができる。
【0036】
PEKKの融点は、280〜400℃が好ましい。融点が280℃以上であれば、成形品の耐熱性を向上させることができる。290℃以上がより好ましい。一方、融点が400℃以下であれば、成形加工性に優れる。370℃以下がより好ましい。
【0037】
また、本発明において、成分(B)の溶融粘度は特に限定されないが、320℃における溶融粘度が50〜5000Pa・sであることが好ましい。ここで、320℃に着目するのは、以下の理由によるものである。一般的には、熱可塑性樹脂は温度が高いほど溶融粘度が低くなる。一方で、後述するように成分(C)は、加熱することで(E)ポリアリーレンスルフィドに転化するため、高い温度では成分(C)の重合が進み、結果として(D)樹脂組成物の溶融粘度が高くなることがある。そのため、成分(B)と成分(C)が溶融する温度範囲で、成分(C)の重合進行しにくい温度である320℃に着目した。320℃における溶融粘度が50Pa・s以上であれば、得られる成形品の機械特性をより向上させることができる。100Pa・s以上がより好ましく、500Pa・s以上がさらに好ましい。一方、320℃における溶融粘度が5000Pa・s以下であれば、一般的な含浸方法により、安定して(A)強化繊維束の内部まで含浸させることができ、含浸性をより向上させることができる。3000Pa・s以下がより好ましく、2000Pa・s以下がさらに好ましい。なお、ここでは、320℃における成分(B)の溶融粘度に着目したが、後述するように、(D)熱可塑性樹脂組成物を製造または含浸させる時の温度は適宜選択することができる。
【0038】
なお、成分(B)の溶融粘度は、粘弾性測定器を用いて、40mmのパラレルプレートを使用し、0.5Hz、320℃の条件下で測定することができる。
【0039】
また、成分(B)のガラス転移温度は特に限定されないが、ガラス転移温度が高いほど、得られる成形品の耐熱性の向上効果が高くなる傾向にあることから、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。上限としては、後述の環状ポリアリーレンスルフィドとの相溶性および加工性の観点から、350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましい。
【0040】
本発明で用いられる前記一般式(1)で表される環状ポリアリーレンスルフィドは、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とし、好ましくは当該繰り返し単位を全繰り返し単位中80モル%以上含有する。ここで、Arはアリーレン基、Sはスルフィド、mは2〜50の範囲を表す。
【0041】
ここで、成分(C)はいわゆるオリゴマーであり、溶融粘度が低く、(A)強化繊維への含浸性に優れる。また、後述するように加熱により(E)ポリアリーレンスルフィドに転化することができるため、得られる成形品の機械特性を飛躍的に向上させることができる。
【0042】
一般式(1)におけるArとしては、例えば、下記一般式(3)〜(11)などで表される基などが挙げられる。中でも下記一般式(3)で表される基が好ましい。
【0044】
上記一般式(3)〜(11)中、R1およびR2は、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基またはハロゲン基を表し、R1およびR2は同一でも異なっていてもよい。複数のR1およびR2はそれぞれ同一でも異なってもよい。R3およびR4は、水素原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基またはハロゲン基を表し、同一でも異なっていてもよい。R5は、炭素原子数1〜12の飽和炭化水素基である。また、aおよびbは0〜2の範囲を表し、同一でも異なっていてもよい。Aは、カルボニル基、スルホニル基またはエーテル結合を表す。)
【0045】
なお、前記一般式(1)においては、異なる−(Ar−S)−の繰り返し単位をランダムに含んでもよいし、ブロックで含んでもよく、それらを両方含んでもよい。また、Arとして、前記一般式(3)〜(11)で表される基を2種以上含んでもよい。
【0046】
前記一般式(1)で表される環状ポリアリーレンスルフィドの代表的なものとして、環状ポリアリーレンスルフィド、環状ポリアリーレンスルフィドスルホン、環状ポリアリーレンスルフィドケトンや、これらの繰り返し単位を含む環状ランダム共重合体、環状ブロック共重合体などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。これらの中でも、下記構造式(12)で表されるp−フェニレンスルフィド由来の単位を全繰り返し単位中80モル%以上含有する環状ポリフェニレンスルフィドがより好ましく、90モル%以上含有する環状ポリフェニレンスルフィドがさらに好ましい。
【0048】
前記一般式(1)中の繰り返し数mは、2〜50である。後述するように成分(C)の加熱による(E)ポリアリーレンスルフィドへの転化は、成分(C)が溶融する温度以上で行うことが好ましいが、mが大きくなると成分(C)の溶融解温度が高くなる傾向にあるため、成分(C)の成分(E)への転化をより低い温度で行うことができるようになるとの観点から、mを50以下とする。mは25以下が好ましく、20以下がさらに好ましい。一方、mは3以上が好ましい。ここで、前記一般式(1)における繰り返し数mは、NMRおよび質量解析により構造解析を行うことで求めることができる。
【0049】
また、成分(C)は、前記一般式(1)で表される化合物として、単一の繰り返し数mを有する単独化合物、異なる繰り返し数mを有する環式化合物の混合物のいずれであってもよいが、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低い傾向にあり、成分(E)への転化を行う際の温度をより低くできるため好ましい。
【0050】
前記成分(C)は、例えば、少なくともスルフィド化剤(イオウ成分)、ジハロゲン化芳香族化合物(アリーレン成分)および有機極性溶媒を含む反応混合物を加熱して反応させることにより得ることができる。スルフィド化剤としては、例えば、硫化ナトリウムなどのアルカリ金属の硫化物が挙げられる。ジハロゲン化芳香族化合物としては、例えば、ジクロロベンゼンなどが挙げられる。有機極性溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0051】
成分(C)を効率よく製造する観点から、反応混合物の常圧下における還流温度を超えて加熱することが望ましい。反応温度は180〜320℃が好ましく、225〜300℃がより好ましい。また、一定温度で反応させる1段階反応、段階的に温度を上げて反応させる多段反応、連続的に温度を変化させて反応させる形式のいずれでもかまわない。
【0052】
反応時間は0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。一方、反応時間に特に上限はなく、40時間以内でも十分に反応が進行し、6時間以内が好ましい。
【0053】
また、反応時の圧力に特に制限はなく、ゲージ圧で0.05MPa以上が好ましく、0.3MPa以上がより好ましい。前記好ましい反応温度においては反応混合物の自圧による圧力上昇が発生するため、この様な反応温度における圧力は、ゲージ圧で0.25MPa以上が好ましく、0.3MPa以上がより好ましい。一方、反応時の圧力は10MPa以下が好ましく、5MPa以下がより好ましい。反応時の圧力を前記好ましい範囲とするために、反応を開始する前や反応中など任意の段階で、好ましくは反応を開始する前に、不活性ガスにより反応系内を加圧することも好ましい方法である。なお、ここでゲージ圧とは大気圧を基準とした相対圧力のことであり、絶対圧から大気圧を差し引いた圧力差と同意である。
【0054】
本発明においては、反応混合物を反応させる過程の全過程に渡って有機カルボン酸金属塩を存在させてもよいし、一部の過程においてのみ有機カルボン酸金属塩を存在させてもよい。
【0055】
本発明の成形材料は、上記成分(B)および(C)を含む(D)樹脂組成物を(A)強化繊維に含浸してなる。(D)樹脂組成物中、成分(B)と成分(C)の重量比((B)/(C))は10/90〜40/60である。成分(B)の重量比が10未満では、成形品の靭性などの機械特性が低下する場合がある。成分Bの重量比は15以上が好ましい。一方、成分(B)の重量比が40を超えると(A)強化繊維への含浸性が低下し、成形品の靭性などの機械特性が低下する。成分Bの重量比は35以下が好ましい。
【0056】
本発明の成形材料は、320℃において、(D)樹脂組成物中、成分(B)と成分(C)が相溶していることが好ましい。なお、相溶している状態とは、320℃の(D)樹脂組成物を、光学顕微鏡を用いて100倍に拡大して観察した際に、未溶解の塊状物や凝集物が確認できない状態のことを指す。成分(B)と成分(C)が相溶し、均一成分であると、成分(D)を成分(A)に含浸させる際に、より安定して含浸させることができる。
【0057】
ここで、320℃に着目するのは、以下の理由によるものである。熱可塑性樹脂は温度が高いほど、溶融粘度は低いが、一方で後述するように成分(C)は、加熱することで、(E)ポリアリーレンスルフィドに転化するため、高い温度では成分(B)と成分(C)を混合した場合に、成分(C)の重合が進み、結果として混合した樹脂組成物の溶融粘度が高くなることがある。そのため、成分(B)と成分(C)が溶融する温度範囲で、成分(C)の重合が進行しにくい温度である320℃が重要となる。なお、ここでは、320℃における成分(B)と成分(C)の相溶性に着目したが、後述するように、(D)熱可塑性樹脂組成物を製造または含浸させる時の温度は適宜選択することができる。
【0058】
成分(B)と成分(C)を相溶させる手段は特に限定されないが、例えば、320℃において、成分(B)と成分(C)が溶融している状態で混練することが好ましい。双方が溶融していることで、均一に分散しやすく、相溶させやすくなる。混練装置としては、特に限定されないが、押出機、ニーダーなどを挙げることができる。また、成分(B)として、320℃における溶融粘度が上述したように50〜5000Pa・sにあるものを選択することも、成分(B)と成分(C)を均一に分散させやすくなり、相溶させやすいため、好ましい。
【0059】
本発明の成形材料には、本発明の目的を損なわない範囲で、前記成分(A)〜(C)以外の充填材や添加剤を配合してもよい。これらの例としては、前記強化繊維(B)以外の無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤などが挙げられ、これらを前記成分(B)および(C)とともに(D)樹脂組成物中に含有してもよい。
【0060】
次に、本発明の成形材料の製造方法について説明する。(1)成分(B)と成分(C)を混合して(D)樹脂組成物を得る工程、(2)(D)樹脂組成物を成分(A)に含浸させる工程をこの順に有する方法が好ましい。
【0061】
工程(1)としては、特に限定されず、上記成分(B)および成分((C)を均一に分散させる方法であればよい。均一に分散させる方法として、例えば、成分(B)、成分((C)および必要によりその他成分を加熱溶融させて分散させる方法、機械的に分散させる方法、溶媒を用いて分散させる方法などが挙げられる。好ましくは、成分(B)、成分((C)および必要によりその他成分を加熱溶融させて分散させる方法である。加熱溶融させて分散させる装置としては、例えば、押出機、ニーダー等が挙げられる。加熱温度は、成分(B)と成分(C)を相溶させることができれば特に限定されないが、成分(C)の意図しない重合を抑制する観点から、350℃以下が好ましい。一方、成分(B)および成分((C)を溶融させる観点から、250℃以上が好ましい。
【0062】
次に、工程(1)で得られた(D)樹脂組成物を成分(A)に含浸させる工程(2)を経ることで、成形材料を得ることができる。工程(1)で得られた(D)樹脂組成物を含浸させる方法としては、特に限定されないが、例えば、溶融した(D)樹脂組成物に成分(A)を浸し含浸させる方法や、溶媒に溶解させた(D)樹脂組成物に成分(A)を浸し、溶媒を揮発させることで含浸させる方法などが挙げられる。(D)樹脂組成物が320℃において成分(B)と成分(C)が相溶している場合、より均一に含浸させることができる。
【0063】
次に、本発明の成形材料を用いた成形品の製造方法について説明する。前記本発明の成形材料を加熱することにより、成分(C)を(E)ポリアリーレンスルフィドに転化させ、成形品を得ることができる。
【0064】
(E)ポリアリーレンスルフィドとは、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を全繰り返し単位中80モル%以上含有する重合体または共重合体である。ここで、Arはアリーレン基を表す。Arとしては、例えば、前記一般式(3)〜(11)などで表される基などが挙げられる。中でも前記一般式(3)で表される基が特に好ましい。
【0065】
−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記一般式(13)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0067】
本発明における成分(E)は、異なる−(Ar−S)−の繰り返し単位をランダムに含んでもよいし、ブロックで含んでもよく、それらを両方含んでもよい。また、Arとして、前記一般式(3)〜(11)で表される基を2種以上含んでもよい。
【0068】
成分(E)のとして、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンおよびこれらのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。全繰り返し単位中、上記構造式(12)で表されるp−フェニレンスルフィド由来の単位を80モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが好ましく、90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドがより好ましい。
【0069】
成分(E)の重量平均分子量は10,000以上が好ましく、成形品の機械特性をより向上させることができる。15,000以上がより好ましく、17,000以上がさらに好ましい。ここで、ポリフェニレンスルフィドの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて求めることができる。
【0070】
また、成分(C)の成分(E)への転化率は70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。低分子量である成分(C)の成分(E)への転化率を70%以上にすることで、得られる成形品の機械特性をより向上させることができる。
【0071】
成形材料の加熱温度は、(D)樹脂組成物の組成や分子量、加熱時の環境に応じて適宜選択することができる。より短時間で成分(C)を成分(E)に転化する観点から、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましく、280℃以上がさらに好ましい。一方、分解反応等の副反応を抑制する観点から、加熱温度は450℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。
【0072】
加熱時間は、(D)樹脂組成物の各種特性、加熱温度などの条件に応じて適宜選択することができる。成分(C)を成分(E)に十分添加する観点から、加熱時間は0.01時間以上が好ましく、0.05時間以上がより好ましい。一方、分解反応等の副反応を抑制する観点から、100時間以下が好ましく20時間以下がより好ましく、10時間以下がさらに好ましく、6時間以下がさらに好ましく、3時間以下がさらに好ましい。
【0073】
本発明の成形品の成形方法としては、特に限定しないが、例えば、射出成形、オートクレーブ成形、プレス成形、フィラメントワインディング成形、スタンピング成形などの生産性に優れた成形方法が挙げられ、これらを組み合わせて用いることができる。
【0074】
次に、本発明の成形品について説明する。成形品中、前記成分(B)および成分(E)を含む(F)樹脂組成物の相分離構造については、特に限定されず、成分(B)と(E)が相溶した均一な構造であってもよいし、両相連続構造や分散構造であってもよい。中でも、成分(B)が海相であり、成分(E)が島相である、いわゆる海島構造が好ましく、成分(B)の靭性をより効果的に発現し、成形品の機械特性をより向上させることができる。ここで、海島構造とは、片方の樹脂成分が主成分であるマトリックス(海相)の中に、もう片方の樹脂成分が主成分である粒子(島相)が点在している相分離構造のことを指す。
【0075】
ここで、相分離構造を形成する方法は、(F)樹脂組成物を構成する成分の種類や配合比、成形品の形状などに応じて適宜選択することができ、例えば、成分(C)の成分(E)への転化後の固化速度を調整する方法などを挙げることができる。成分(C)の成分(E)への転化により、安定領域にあった系は急速に不安定領域になるため、相溶状態であった(D)樹脂組成物は、スピノーダル分解を経て、それぞれの成分が連続相を形成し、互いに3次元的に絡み合った構造、すなわち共連続構造を形成する。この状態から、氷水等を用いて急冷するなど固化速度を高くすると、成分(C)が成分(E)に転化した状態で構造が固定化されるため、均一構造または両相連続構造になりやすい傾向がある。一方、さらに加熱を続けて溶融時間を長くする、樹脂組成物を徐冷して固化速度を低くする、などの方法により相分離構造を発展させることで、海島構造を形成することができる。このため、例えば、成分(C)を加熱により成分(E)に転化した後、ゆっくり冷却することにより、海島構造を形成させることができる。冷却速度は20℃/分以下が好ましい。また、320℃における溶融粘度が前述の好ましい範囲にある成分(B)を用いることによっても、海島構造を形成させやすくなる。
【0076】
相溶状態にある(D)樹脂組成物中の成分の転化によって相分離構造を形成することにより、転化する成分を島相とすることができる。すなわち、本発明においては、成分(C)を成分(E)に転化することで、成分(E)が島相、成分(B)が海相である海島構造を形成することができる。靭性の高い成分(B)を海相とすることにより、成形品の靭性をより向上させることができる。
【0077】
また、前記海島構造において、島相同士の粒子間距離は0.01〜10μmが好ましい。粒子間距離が0.01μm以上であれば、それぞれの樹脂の特性が発現され、成形品の靭性を向上させることができる。0.1μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。一方、粒子間距離が10μm以下であれば、成形品の機械特性をより向上させることができる。5μm以下がより好ましい。
【0078】
ここで、粒子間距離を上記範囲に調整する方法は、(F)樹脂組成物を構成する成分の種類や配合比、成形品の形状などに応じて適宜選択することができ、例えば、成分(B)の成分(E)への転化後の固化速度を調整する方法などを挙げることができる。上述するように、成分(E)への転化とともに、島である成分(E)の相構造が成長するために、固化速度を調整することで、粒子間距離を所望の範囲に調整することができる。固化速度を遅くする手段としては、例えば、ガラス転移温度や融点の低い成分(B)を選択する方法や、成分(B)を成分(E)に転化した後、冷却速度を遅くする方法などが挙げられる。また、成分(C)の成分(E)への転化速度を調整することで、島相である成分(E)の相構造の成長を調整することもできる。すなわち、重合速度を速めることにより相構造が成長する前に成分(C)の成分(E)への転化を完了させ、これを冷却することにより、相構造を小さくすることができる。また、成分(C)の成分(E)への転化前に成分(B)と(C)を相溶させておくことによっても、相構造を小さくすることができる。
【0079】
ここで、本発明における成形品の島相同士の粒子間距離は、成形品断面を透過型電子顕微鏡により観察することで、例えば以下の方法により測定することができる。まず、正方形の電子顕微鏡観察写真に無作為に10本の直線を描き、いずれの直線にも10個以上100個未満の島相が接するよう、適切な観察倍率に調整する。かかる適切な観察倍率において、観察像に無作為に描かれた直線の像の端から端までの線分の距離を接する島の数で割る。10本の直線について同様の作業を行う。かかる作業を、成形品断面から無作為に選択した10カ所の電子顕微鏡観察写真において実施し、それらの数平均値を算出することによって、粒子間距離を求めることができる。なお、ここでいう線分の距離とは、実際の距離のことであり、観察写真中のスケールバーを基準に実際の距離を求めることができる。
【0080】
本発明の成形品は、インストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナ、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品、部材および外板、ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、部材および外板、モンキー、レンチ等の工具類、電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、光ディスク、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品、パーソナルコンピューター、携帯電話などに使用される筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表される電気・電子機器用部材などの用途に好適に適用できる。
【実施例】
【0081】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0082】
各実施例および比較例の原料としては、下記のものを使用した。
(B)ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリアリレートおよびポリフェニレンエーテルからなる群より選択される1種以上の熱可塑性樹脂
(B−1)アルケマ(株)製“KEPSTAN”(登録商標)6003:ポリエーテルケトンケトン(ガラス転移温度:161℃、融点:303℃)
(B−2)帝人(株)製“パンライト”(登録商標)L1225L:ポリカーボネート(ガラス転移温度:148℃、融点:250℃)
(B−3)東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM1010:ポリアミド(ガラス転移温度:50℃、融点:225℃)
(B−4)サビック(株)製“ULTEM”(登録商標)1010:ポリエーテルイミド(ガラス転移温度:217℃、融点:明確な融点なし)
(B−5)ビクトレックス(株)製150P:ポリエーテルエーテルケトン(ガラス転移温度:143℃、融点:343℃)
(B−6)ソルベイ社製“ユーデル”(登録商標)P−3500:ポリスルホン(ガラス転移温度:190℃、融点:明確な融点なし)
(B−7)ユニチカ(株)製“Uポリマー”(登録商標)U−100:ポリアリレート(ガラス転移温度:195℃、融点:明確な融点なし)
(B−8)三菱ガス化学(株)製 YPX−100F:ポリフェニレンエーテル(ガラス転移温度:210℃、融点:明確な融点なし)
各実施例および比較例における評価は以下の方法により行った。
【0083】
(1)320℃における相溶状態の観察
各実施例および比較例に用いた成分(B)と(C)を各実施例および比較例所定の量配合した(D)樹脂組成物を金属製容器中で混合し、320℃オーブン中で時々撹拌しながら5分間加熱した。得られた(D)樹脂組成物の一部をカバーグラス上に採取し、上から別のカバーグラスを被せ、プレパラートを作製した。プレパラートを、ホットステージ(リンカム製、形式10002)上で320℃に加熱しながら、光学顕微鏡を用いて観察倍率100倍で観察した。塊状物や凝集物が観察されない場合を「相溶」、観察された場合を「非相溶」とした。
【0084】
(2)成分(B)の粘度測定
各実施例および比較例に用いた成分(B)について、粘弾性測定器を用いて、40mmのパラレルプレートを使用し、0.5Hz、320℃の条件下で粘度を測定した。
【0085】
(3)成形材料の空隙率測定
ASTM D2734(1997)試験法に準拠して、成形材料の空隙率(%)を算出した。成形材料の空隙率の判定は以下の基準でおこない、A〜Cを合格とした。
A:0〜10%未満
B:10%以上20%未満
C:20%以上40%未満
D:40%以上。
【0086】
(4)成形品の強度測定
各実施例および比較例により得られた成形品を万力により固定した状態で、ダイヤモンドカッターを用いて、長さ50mm、幅10mm、厚さ0.5mmの試験片を切り出した。得られた試験片を用いて、チャック間距離10mmにて、クロスヘッドスピード5mm/minで、強化繊維の長手方向に対して90°方向に引張試験を行い、引張強度を測定した。測定は各5本の試験片について実施し、平均値を算出した。
【0087】
(5)(F)樹脂組成物の相分離構造観察
各実施例および比較例により得られた成形品から、ライカ製ウルトラミクロトーム(EM UC7)を用い、ダイヤモンドナイフにより約2mm×約1mmの断面観察用サンプルを作製した。透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製H−7100)により、加速電圧100kVとして、1000〜10000倍にて、観察用サンプルの断面の相構造を観察した。海島構造を形成しているサンプルについては、以下の方法で島相同士の粒子間距離を求めた。なお、海島構造とは、片方の成分が主成分である粒子状に形成した部分と、もう片方の成分が主成分であるマトリックスとが存在し、そのマトリックスの中に粒子が点在した構造のことを指す。
【0088】
まず、正方形の電子顕微鏡観察写真に無作為に10本の直線を描き、いずれの直線にも10個以上100個未満の島相が接するよう、適切な観察倍率に調整した。かかる適切な観察倍率において、観察像に無作為に描かれた直線の像の端から端までの線分の距離を接する島の数で割った。10本の直線について同様の作業を行った。かかる作業をサンプル上の無作為に選択した10カ所の電子顕微鏡観察写真において実施し、それらの数平均値を算出することによって、島相同士の粒子間距離を求めた。なお、ここでいう、線分の距離とは、実際の距離のことであり、観察写真中のスケールバーを基準に実際の距離を求めた。
【0089】
(6)島相成分の評価
前記(5)に記載の透過型電子顕微鏡観察において海島構造を形成した成形品について、(5)に記載の断面観察用サンプルと同様の方法で作製したサンプルを95%硫酸に1分間浸漬し、取り出した後、流水で10分間表面を洗浄した。次いで、60℃熱風乾燥機内で1時間乾燥させた後、電界放出形走査型電子顕微鏡(JEOL製 JSM−6301NF)により、加速電圧5kV、エミッション電流12μAとして、サンプル表面の観察を行い、サンプル表面を観察した。残存している成分は硫酸に侵されない(E)ポリフェニレンスルフィドであり、本表面観察により島相成分が(E)ポリフェニレンスルフィドか否かを判別した。
【0090】
(7)耐熱性評価
各実施例および比較例により得られた成形品を万力により固定した状態で、ダイヤモンドカッターを用いて、長さ50mm、幅10mm、厚さ0.1mmの試験片を切り出した。このとき、試験片の長さ方向が、強化繊維の長手方向に対して90°方向となるようにした。得られた試験片の片端20mmを保持して試験片が水平になるように片持ち状態で固定し、110℃のオーブン中に4分間静置した後、保持した部分と反対側の先端が自重によって垂れ下がった変化量(水平距離)を測定し、耐熱性を評価した。測定は各5本の試験片について実施し、平均値を算出した。変化量が小さいほど耐熱性に優れる。
【0091】
参考例1 成分(C)−1(環状ポリフェニレンスルフィド(PPS)の調製)
撹拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を14.03g(0.120モル)、96重量%水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水酸化ナトリウム水溶液12.50g(0.144モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)615.0g(6.20モル)およびp−ジクロロベンゼン(p−DCB)18.08g(0.123モル)を仕込んだ。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素ガス下に密封した。
【0092】
400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約1時間かけて昇温した。この段階で、反応容器内の圧力はゲージ圧で0.35MPaであった。次いで200℃から270℃まで約30分間かけて昇温した。この段階の反応容器内の圧力はゲージ圧で1.05MPaであった。270℃で1時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
【0093】
得られた内容物をガスクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、モノマーのp−DCBの消費率は93%、反応混合物中のイオウ成分がすべて環状PPSに転化すると仮定した場合の環状PPS生成率は18.5%であることがわかった。
【0094】
得られた内容物500gを約1500gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16μmのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約300gのイオン交換水に分散させ、70℃で30分間撹拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計3回行い、白色固体を得た。これを80℃で一晩真空乾燥し、乾燥固体を得た。
【0095】
得られた固形物を円筒濾紙に仕込み、溶剤としてクロロホルムを用いて約5時間ソックスレー抽出を行うことにより、固形分に含まれる低分子量成分を分離した。
【0096】
抽出操作後に円筒濾紙内に残留した固形成分を70℃で一晩減圧乾燥しオフホワイト色の固体を約6.98g得た。分析の結果、赤外分光分析における吸収スペクトルよりこれはフェニレンスルフィド構造からなる化合物であり、また、重量平均分子量は6,300であった。
【0097】
クロロホルム抽出操作にて得られた抽出液から溶媒を除去した後、約5gのクロロホルムを加えてスラリーを調製し、これを約300gのメタノールに撹拌しながら滴下した。これにより得られた沈殿物を濾過回収し、70℃で5時間真空乾燥を行い、1.19gの白色粉末を得た。この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末はp−フェニレンスルフィド単位を主要構成単位とし繰り返し単位数4〜13の環式化合物を約99重量%含むことが判明した。なお、GPC測定を行った結果、(C)−1は室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であった。
【0098】
実施例1
ニーダー中にて、成分(B)としてポリエーテルケトンケトン(B)−1(アルケマ(株)製KEPSTAN6003)15質量%、成分(C)として参考例1で得られた(C)−1 85質量%を320℃まで昇温し、5分間混練することで、(D)樹脂組成物を得た。320℃における相溶状態を観察したところ、相溶していることが分かった。次いで、CF−1(東レ(株)製炭素繊維:T700S−24K)を一方向に設置した100mm×100mmの金型内に(D)樹脂組成物を流し込み、360℃に加熱された加熱プレス機にて、1.5MPaで5分間加熱することにより、成形材料を得た。得られた成形材料を、360℃に加熱された加熱プレス機にて、1.5MPaでさらに2時間加熱し、10℃/分の速度で徐々に降温し、室温まで冷却することにより、100mm×100mm×0.5mmの成形品および100mm×100mm×0.1mmの成形品を得た。評価結果をまとめて表1に示した。
【0099】
実施例2〜
8、10〜12、比較例1〜3
、参考例1
各成分の種類と配合量、成形温度と成形時間を表1〜3に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物および成形品を得た。評価結果をまとめて表1〜3に示した。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
以上のように、実施例1〜
8、10〜12において得られた成形材料は含浸性に優れ、また機械特性に優れた成形品が得られた。
【0104】
一方、比較例1および3において得られた成形材料は含浸性が不足し、良好な成形材料は得られなかった。比較例2において得られた成形材料を用いた成形品は、機械特性が不十分であった。