特許第6561539号(P6561539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561539
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】単列玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/60 20060101AFI20190808BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   F16C33/60
   F16C19/16
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-75199(P2015-75199)
(22)【出願日】2015年4月1日
(65)【公開番号】特開2016-194346(P2016-194346A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2018年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 章
(72)【発明者】
【氏名】大井 三佳
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−322148(JP,A)
【文献】 特公昭41−19650(JP,B1)
【文献】 特開平9−324819(JP,A)
【文献】 実開平3−68621(JP,U)
【文献】 特開2005−240898(JP,A)
【文献】 特開2002−21855(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102014205689(DE,A1)
【文献】 特開2014−20559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00− 19/56
F16C 33/30− 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に形成された外輪軌道溝を有する外輪と、
外周面に形成された内輪軌道溝を有する内輪と、
前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝の間に転動自在に配置された複数の玉と、
前記複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器と、
を有し、
前記外輪軌道溝及び前記内輪軌道溝は、曲率中心が互いに異なる2つの円弧面を幅方向中央に対して両側にそれぞれ有し、
静止状態において、前記玉を前記外輪軌道溝に押し付けたときに、前記玉は前記外輪軌道溝に2点で接触し、且つ、前記玉を前記内輪軌道溝に押し付けたときに、前記玉は前記内輪軌道溝に2点で接触する単列玉軸受であって、
前記外輪又は前記内輪は、軸方向に二分割された2つの分割輪からなり、
前記外輪軌道溝において、前記2つの円弧面の曲率半径は互いに等しく、且つ、前記玉を前記外輪軌道溝に2点で接触するように押し付けたとき、前記玉の中心を通り前記単列玉軸受の径方向に延ばした線に対して、前記玉が前記外輪軌道溝に2点で接触するそれぞれの点と前記玉の中心とを結んだそれぞれの線がなす、軸方向両側に形成される接触角は、20°以上35°以下の互いに異なる角度であることを特徴とする単列玉軸受。
【請求項2】
前記外輪軌道溝において、前記玉の中心から前記2つの円弧面の各曲率中心の軸方向位置ずれ量は、互いに異なることを特徴とする請求項1に記載の単列玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単列玉軸受、特に、スクリューコンプレッサー等に使用され、軸方向両側からのアキシアル荷重とラジアル荷重を単列で受けることができる単列玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸方向両側からのアキシアル荷重と軽微なラジアル荷重とを単列で受ける軸受として、4点接触玉軸受が知られている。図5及び図6に示すように、4点接触玉軸受100では、一般に、外輪1と軸方向に二分割された2つの内輪2との間に、複数の玉3が保持器4により円周方向に所定の間隔で転動自在に保持される。外輪1の内周面と内輪2の外周面とには、異なる曲率中心を有する2つの円弧面1a1、1a2、2a1、2a2によって外輪軌道溝1a、内輪軌道溝2aがそれぞれ形成されている。
【0003】
具体的に、図6に示すように、外輪軌道溝1aの2つの円弧面1a1、1a2は、曲率半径re1、re2が等しく、玉中心Oから2つの円弧面1a1、1a2の各曲率中心の軸方向位置ずれ量te1、te2が等しく、2つの円弧面1a1、1a2と玉3とがそれぞれ接触する2点で、軸方向両側に形成される接触角αe1、αe2が等しく設計されている(即ち、re1=re2、te1=te2、αe1=αe2)。
【0004】
同様に、内輪軌道溝2aの2つの円弧面2a1、2a2も、曲率半径ri1、ri2が等しく、玉中心Oから2つの円弧面2a1、2a2の各曲率中心の軸方向位置ずれ量ti1、ti2が等しく、2つの円弧面2a1、2a2と玉3とがそれぞれ接触する2点で、軸方向両側に形成される接触角αi1、αi2が等しく設計されている(即ち、ri1=ri2、ti1=ti2、αi1=αi2)。
即ち、外輪軌道溝1aと内輪軌道溝2aは、軸方向中心に対して左右対称に形成されている。
【0005】
また、4点接触玉軸受が機械装置に組み付けられた状態では、静止状態において、図7(a)に示すように、4点接触玉軸受にはアキシアル荷重が作用している。この状態で、玉3は、外輪軌道溝1aの円弧面1a1と内輪軌道溝2aの円弧面2a1とそれぞれ1点で接触し、外輪1と玉3との接触角はθe、内輪2と玉3との接触角はθiとなる。
なお、図7(a)〜図7(c)では、外輪軌道溝1a及び内輪軌道溝2aの円弧形状を簡略化のため直線形状で表している。
【0006】
図7(a)の状態から回転されると、図7(b)に示すように、玉3に働く遠心力によって、玉3は外輪1に押付けられ、外輪軌道溝1aとの接触点は、外輪軌道溝1aの中央部へ移動し、外輪1と玉3のなす接触角βeはθeより小さくなり(θe>βe)、逆に、内輪軌道溝2aとの接触点は、内輪軌道溝2aの外側へ移動し、内輪2と玉3との接触角βiはθiより大きくなる(θi<βi)。
【0007】
図7(b)の状態で更に高速回転になるか、若しくはアキシアル荷重が小さくなると、図7(c)に示すように、外輪1と玉3のなす接触角βe1は、βeより更に小さくなり(βe>βe1)、逆に、内輪2と玉3のなす接触角βi1は、βiより更に大きくなり(βi<βi1)、ついには、外輪1と玉3は、2点接触となる。また、外輪1と玉3とのなす接触角は、アキシアル荷重方向の接触角をβe1、反アキシアル荷重方向の接触角をβe2とすると、βe1>βe2となる。
【0008】
このように、玉3の運動は軸の回転数と共に変化する接触角によりコントロールされる。4点接触玉軸受がアキシアル荷重Faを受けると、玉3は外輪1及び内輪2におけるスピン摩擦の大小でコントロールされる。
【0009】
つまり、図7(b)に示すように、外輪1及び内輪2のうち、スピン摩擦が大きい軌道輪側では純転がり、他の軌道輪側ではスピン運動と転がり運動が共存する。一般的には、高速になると、外輪コントロールの自転軸O−Oeを中心に、外輪コントロールになる。なお、O−Oiは、内輪コントロールの自転軸を表している。
【0010】
また、図7(c)に示すように、高速回転では、外輪1は、接触面圧が高く、スピン摩擦が大きい円弧面側で純転がり、一方、接触面圧が低く、スピン摩擦が小さい他の円弧面側でスピン運動と転がり運動が共存する。すなわち、スピン摩擦の大きい円弧面1a1側では、外輪1の自転軸O−Oe1を中心とした純転がり運動が行われるが、スピン摩擦の小さい円弧面1a2側では、外輪1の自転軸O−Oe2を中心としたスピン運動と転がり運動が共存する。
なお、図8は、図7(c)の高速回転の状態を、円弧形状の外輪軌道溝1a及び内輪軌道溝2aで表している。
【0011】
2点接触すること自体は特に異常な現象ではないが、それぞれの接触点である外輪軌道溝1aの2つの円弧面1a1、1a2と玉3との径方向接触位置が異なることより、玉3の接触部での周速が異なり、すべりが生じる。すべりが生じても軌道溝と玉間の潤滑状態が良好で油膜が充分形成されていれば軸受損傷には至らないものと考えられる。しかし、すべりが生じることにより発熱が大きくなり、軌道溝と玉間に油膜切れが生じ、早期に軸受損傷に至ることが考えられる。
【0012】
従来の4点接触玉軸受としては、内輪軌道面に対して玉が2点で接触し、外輪軌道面に対して玉が2点で接触し、内輪軌道面及び外輪軌道面が軸受中心に関して、軸方向両側で異なる円弧面からなるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、各円弧面において、玉との接触点において曲率半径を互いに異ならせたり、軸方向両側の軌道面と玉との接触角が互いに異なるように設計することで、純ラジアル荷重だけが働いた場合でも玉にスピン運動を常に起こして、潤滑不良を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−21855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1によれば、あくまで4点での接触による使用を前提としており、アキシアル方向の荷重条件や潤滑状態が良好でないなど、場合によっては、上記と同様に、すべりが生じることにより発熱が大きくなり、軌道溝と玉間に油膜切れが生じ、早期に軸受損傷に至ることが考えられる。
【0015】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高速運転における軌道溝と玉との多点当りを防止することにより、長寿命を達成することが可能な単列玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に形成された外輪軌道溝を有する外輪と、
外周面に形成された内輪軌道溝を有する内輪と、
前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝の間に転動自在に配置された複数の玉と、
前記複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器と、
を有し、
前記外輪軌道溝及び前記内輪軌道溝は、曲率中心が互いに異なる2つの円弧面を幅方向中央に対して両側にそれぞれ有し、
静止状態において、前記玉を前記外輪軌道溝に押し付けたときに、前記玉は前記外輪軌道溝に2点で接触し、且つ、前記玉を前記内輪軌道溝に押し付けたときに、前記玉は前記内輪軌道溝に2点で接触する単列玉軸受であって、
前記外輪又は前記内輪は、軸方向に二分割された2つの分割輪からなり、
前記外輪軌道溝において、前記2つの円弧面の曲率半径は互いに等しく、且つ、前記玉を前記外輪軌道溝に2点で接触するように押し付けたとき、前記玉の中心を通り前記単列玉軸受の径方向に延ばした線に対して、前記玉が前記外輪軌道溝に2点で接触するそれぞれの点と前記玉の中心とを結んだそれぞれの線がなす、軸方向両側に形成される接触角は、20°以上35°以下の互いに異なる角度であることを特徴とする単列玉軸受。
(2) 前記外輪軌道溝において、前記玉の中心から前記2つの円弧面の各曲率中心の軸方向位置ずれ量は、互いに異なることを特徴とする(1)に記載の単列玉軸受。
【発明の効果】
【0017】
本発明の単列玉軸受によれば、外輪軌道溝において、2つの円弧面の曲率半径は互いに等しく、且つ、軸方向両側に形成される接触角が互いに異なるように設計されているので、アキシアル荷重とラジアル荷重が作用し、高速回転で使用されたとしても、軌道溝と玉との多点当りを防止することにより、すべりによる早期軸受損傷が防止でき、長寿命を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る単列玉軸受の断面図である。
図2】(a)は、図1の外輪軌道溝の2つの円弧面の設計寸法を説明するための図であり、(b)は、内輪軌道溝の2つの円弧面の設計寸法を説明するための図である。
図3図1の単列玉軸受を組み立てた状態を示す、軌道溝を簡略化した断面図である。
図4】(a)〜(c)は、図1の単列玉軸受にアキシアル荷重が作用した状態での軌道溝と玉との接触状態を説明するための図である。
図5】従来の4点接触玉軸受の断面図である。
図6】(a)は、図5の外輪軌道溝の2つの円弧面の設計寸法を説明するための図であり、(b)は、図5の内輪軌道溝の2つの円弧面の設計寸法を説明するための図である。
図7】(a)〜(c)は、従来の玉軸受にアキシアル荷重が作用した状態での軌道溝と玉との接触状態を説明するための図である。
図8図5の4点接触玉軸受の断面図を用いて、図7(c)の状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る単列玉軸受の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図5に示した従来の転がり軸受と同一または同等部分については、同一符号を付して、説明を省略或いは簡略化する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の単列玉軸受10は、内周面に外輪軌道溝1aを有する単一の外輪1と、外周面に内輪軌道溝2aをそれぞれ有し、軸方向中間部で軸方向に二分割された2つの分割輪からなる内輪2と、外輪1及び内輪2との間に所定の間隔で転動自在に配置される複数の玉3と、複数の玉3を円周方向に所定の間隔で保持する外輪案内方式の保持器4と、を備える。外輪軌道溝1a、内輪軌道溝2aは、異なる曲率中心を有する2つの円弧面1a1、1a2、2a1、2a2によってそれぞれ形成されている。
【0021】
保持器4の材質としては、黄銅や、ガラス繊維又は炭素繊維を添加した合成樹脂材料であってもよく、例えば、合成樹脂製保持器は、射出成形にて製作されてもよい。
【0022】
ここで、本実施形態では、内輪軌道溝2aは、従来の内輪軌道溝と同様に、軸方向中心に対して左右対称に形成される一方、外輪軌道溝1aは、軸方向中心に対して左右非対称に形成されている。
【0023】
具体的に、図2に示すように、外輪軌道溝1aの2つの円弧面1a1、1a2は、曲率半径re1、re2を等しくする一方、玉中心Oから2つの円弧面1a1、1a2の各曲率中心の軸方向位置ずれ量te1、te2、及び、静止状態において、玉3を外輪軌道溝1aに向け半径方向に押し付けた際、2つの円弧面1a1、1a2と玉3とがそれぞれ接触する2点で、軸方向両側に形成される接触角αe1、αe2を異ならせるように設計する(即ち、re1=re2、te1≠te2、αe1≠αe2)。
【0024】
内輪軌道溝2aの2つの円弧面2a1、2a2は、曲率半径ri1、ri2が等しく、玉中心Oから2つの円弧面2a1、2a2の各曲率中心の軸方向位置ずれ量ti1、ti2が等しく、且つ、静止状態において、玉3を内輪軌道溝2aに向け半径方向に押し付けた際、2つの円弧面2a1、2a2と玉3とがそれぞれ接触する2点で、軸方向両側に形成される接触角αi1、αi2が等しくなるように設計されている(即ち、ri1=ri2、ti1=ti2、αi1=αi2)。
【0025】
本実施形態では、外輪軌道溝1aの2つの円弧面1a1、1a2の曲率半径re1、re2は、玉径をDwとすると、
re1=re2、且つ、0.52Dw≦re1,re2≦0.56Dw
に設定される。
また、外輪軌道溝1aの2つの円弧面1a1、1a2と玉3との接触角αe1、αe2は、
αe1≠αe2、且つ、20°≦αe1,αe2≦35°
に設定される。
さらに、玉中心Oから外輪軌道溝1aの2つの円弧面1a1、1a2の各曲率中心の軸方向位置ずれ量te1、te2は、
te1≠te2、且つ、0.006Dw≦te1,te2≦0.04Dw
に設定される。
【0026】
ここで、図3及び図4を参照して、本実施形態の単列玉軸受10にアキシアル荷重が作用した状態での軌道溝と玉との接触状態を説明する。図3及び図4では、外輪軌道溝1a及び内輪軌道溝2aの円弧形状を簡略化のため直線形状で表している。また、ここでは、各円弧面の曲率半径をre1=re2=ri1=ri2とし、各円弧面の曲率中心の軸方向位置ずれ量をte2<te1=ti1=ti2とし、各接触角をαe2<αe1=αi1=αi2としている。
【0027】
図3に示すように、単列玉軸受を組み立てた状態では、外輪軌道溝1aの円弧面1a1及び円弧面1a2と玉3との間のラジアルすきまをそれぞれΔre1、Δre2とすると、Δre2>Δre1となる。このため、玉3を外輪軌道溝1aに半径方向に押し付けた状態では、外輪1は玉3とラジアルすきまの小さい側(Δre1)で接触し、2点当たりとはならない。
【0028】
そして、図4(a)に示すように、単列玉軸受10にはアキシアル荷重Faが作用すると、玉3は、外輪軌道溝1aの円弧面1a1と内輪軌道溝2aの円弧面2a1とそれぞれ1点で接触し、外輪1と玉3との接触角はθe、内輪2と玉3との接触角はθiとなる。このとき、外輪軌道溝1aの円弧面1a2と玉3との間には、Δθのすきまが与えられる。
【0029】
図4(a)の状態から回転されると、図4(b)に示すように、玉3に働く遠心力によって、玉3は外輪1に押付けられ、外輪軌道溝1aとの接触点は、円弧面1a1の中央部へ移動し、外輪1と玉3のなす接触角βeはθeより小さくなる(θe>βe)。また、外輪軌道溝1aの円弧面1a2と玉3とは接触することはないが、接触角βeが小さくなる分、外輪軌道溝1aの円弧面1a2と玉3との間のすきまΔβは小さくなる(Δθ>Δβ)。
内輪軌道溝2aとの接触点は、円弧面2a1の外側へ移動し、内輪2と玉3との接触角βiはθiより大きくなる(θi<βi)。
このように、玉3の運動は、軸の回転数とともに変化する接触角によってコントロールされる。
【0030】
図4(b)の状態で更に高速回転になるか、若しくはアキシアル荷重Faが小さくなると、図4(c)に示すように、外輪1と玉3のなす接触角βe1は、βeより更に小さくなり(βe>βe1)、外輪軌道溝1aの円弧面1a2と玉3との間のすきまΔβ1はさらに小さくなる(Δβ>Δβ1)。
しかしながら、各曲率中心の軸方向位置ずれ量をte2<te1=ti1=ti2とし、各接触角をαe2<αe1=αi1=αi2としているので、外輪1と玉3とは2点当たりとはならない。なお、内輪2と玉3のなす接触角βi1は、βiより更に大きくなる(βi<βi1)。
【0031】
このように外輪軌道溝1a及び内輪軌道溝2aを設計することで、高速回転においても、外輪1と玉3との2点当たりを回避することが出来、すべりによる早期軸受損傷が防止でき、長寿命を達成することができる。
【実施例】
【0032】
以下、内輪内径φ35mm、外輪外径φ62mm、幅17mmの図1に示す単列玉軸受、及び図5に示す4点接触玉軸受を例とし、以下の試験条件及び内部諸元にて、本発明の効果を確認した。即ち、本発明の実施例では、静止状態において、アキシアル荷重方向の外輪1と玉3の接触角αe1を反アキシアル荷重方向の外輪1と玉3の接触角αe2よりも大きくしている(αe1>αe2)。
【0033】
※試験条件
回転数:22300min-1
アキシアル荷重130kgf
【0034】
図5の4点接触玉軸受の内部諸元(Dw:玉径)
ri1=ri2=re1=re2=0.52Dw
αi1=αi2=31.5°、αe1=αe2=31.5°
ti1=ti2=0.01Dw、te1=te2=0.01Dw
【0035】
図1の玉軸受の内部諸元
ri1=ri2=re1=re2=0.52Dw(Dw:玉径)
αi1=αi2=31.5°、αe1=31.5、αe2=20°
ti1=ti2=0.01Dw、te1=0.01Dw、te2=0.007Dw
【0036】
上記の玉軸受を用いて解析した結果、図5の玉軸受では、外輪1に2点当たりが見られたが、図1の玉軸受では、高速回転においても外輪1に2点当たりは見られなかった。
【0037】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、上記実施形態では、単一の外輪1と、軸方向に二分割された2つの分割輪からなる内輪2を有しているため、保持器4は、外輪案内方式のものが採用されているが、軸方向に二分割された2つの分割輪からなる外輪1と、単一の内輪2を用いる場合には、保持器4は、内輪案内方式であってもよい。
【0038】
また、本実施形態では、外輪軌道溝1aを非対称形状としたが、本発明は、少なくとも外輪軌道溝が非対称形状であればよく、内輪軌道溝も非対称形状、即ち、2つの円弧面の曲率半径は互いに等しく、且つ、軸方向両側に形成される接触角が互いに異なるものであってもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 玉軸受
1 外輪
1a 外輪軌道溝
1a1,1a2 円弧面
2 内輪
2a 内輪軌道溝
2a1,2a2 円弧面
3 玉
4 保持器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8