(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561578
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】リターダ装置および制動トルク変更方法
(51)【国際特許分類】
B60T 10/00 20060101AFI20190808BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20190808BHJP
B60T 17/22 20060101ALI20190808BHJP
B60T 1/087 20060101ALI20190808BHJP
B60Q 1/44 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
B60T10/00
B60T8/00 Z
B60T17/22 Z
B60T1/087
B60Q1/44 B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-102493(P2015-102493)
(22)【出願日】2015年5月20日
(65)【公開番号】特開2016-215809(P2016-215809A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】日吉 武男
【審査官】
山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭53−100641(JP,U)
【文献】
実開平04−134748(JP,U)
【文献】
特開2015−093523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 10/00
B60T 8/00
B60Q 1/44
B60T 1/087
B60T 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる大きさの制動トルクを生成可能なリターダと、
前記リターダによって所定の制動トルクより大きな制動トルクが車輪に対して働いた場合に制動灯を点灯させる制動灯点灯回路と、
前記リターダに要求する制動トルクの大きさを選択する操作を受け付ける操作部と、
当該制動灯点灯回路に異常があるか否かを判定し、異常があると判定した場合、前記操作部が受け付けた操作が前記所定の制動トルク以上の制動トルクを選択する操作であったときには、前記リターダに制動トルクを生成させない制御部と、
を有するリターダ装置。
【請求項2】
異なる大きさの制動トルクを生成可能なリターダと、前記リターダによって所定の制動トルクより大きな制動トルクが車輪に対して働いた場合に制動灯を点灯させる制動灯点灯回路と、前記リターダに要求する制動トルクの大きさを選択する操作を受け付ける操作部と、を有するリターダ装置の制動トルク変更方法であって、
当該制動灯点灯回路に異常があるか否かを判定する判定ステップと、
異常があると判定した場合、前記操作部が受け付けた操作が前記所定の制動トルク以上の制動トルクを選択する操作であったときには、前記リターダに制動トルクを生成させない制御ステップと、
を有するリターダ装置の制動トルク変更方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の補助ブレーキとして制動トルクを供給するリターダ装置および制動トルク変更方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばバスやトラック等の大型の車両では、主制動装置となるフットブレーキの他に、制動トルクを高めるための補助制動装置として、排気ブレーキやリターダ装置等の補助ブレーキが一般に使用されている。特にリターダ装置はディーゼルエンジン車以外にも適用できるので、広く使用されている。
【0003】
ところで、車両の制動機構により車両が制動されるときには、後続車への注意を喚起して追突等を防止する必要がある。例えば特許文献1には、ブレーキランプの点灯指示信号が出ていない場合には、制動トルクを発揮させない技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−140265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている技術では、後続車への注意を喚起し追突を防止するため、衝突予測装置により主制動装置の作動信号が出力された場合に、主制動装置の作動に合わせてブレーキランプを点灯させている。リターダ装置の動作時にも、後続車への注意を喚起し追突を防止するためには、同様にブレーキランプを点灯させることが望ましい。
【0006】
リターダ装置等の補助ブレーキにより所定以上の制動トルクが生成される場合にブレーキランプが点灯しなければならないことは、国土交通省による「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示[2009.07.22]別添10(トラック及びバスの制動装置の技術基準)」に定められている。
【0007】
ところで、このようにリターダ装置の動作時にブレーキランプを点灯するようにした場合、ブレーキランプやブレーキランプを点灯させる回路が故障してしまうと、リターダ装置が動作し、車両に制動トルクが発生しているにもかかわらずブレーキランプが点灯しない、という事態が生じる。このような事態が生じた場合に、リターダ装置が作動し、ブレーキランプが点灯するはずの制動トルクが車両に与えられると、後続車が気づかず車両に接近し、追突する危険性がある。
【0008】
本発明の目的は、このような事態を回避するために、ブレーキランプが故障により点灯しない場合であっても、後続車が追突する危険性を低減することができるリターダ装置および制動トルク変更方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のリターダ装置は、異なる大きさの制動トルクを生成可能なリターダと、
前記リターダによって所定の制動トルクより大きな制動トルクが
車輪に対して働いた場合
に制動灯を点灯させる制動灯点灯回路と、
前記リターダに要求する制動トルクの大きさを選択する操作を受け付ける操作部と、当該制動灯点灯回路に異常があるか否かを判定し、異常があると判定した場合
、前記操作部が受け付けた操作が前記所定の制動トルク
以上の制動トルク
を選択する操作であったときには、前記リターダに制動トルクを生成させない制御部と、を有する。
【0010】
本発明のリターダ装置の制動トルク変更方法は、異なる大きさの制動トルクを生成可能なリターダと、
前記リターダによって所定の制動トルクより大きな制動トルクが
車輪に対して働いた場合
に制動灯を点灯させる制動灯点灯回路と、
前記リターダに要求する制動トルクの大きさを選択する操作を受け付ける操作部と、を有するリターダ装置の制動トルク変更方法であって、当該制動灯点灯回路に異常があるか否かを判定する判定ステップと、異常があると判定した場合
、前記操作部が受け付けた操作が前記所定の制動トルク
以上の制動トルク
を選択する操作であったときには、前記リターダに制動トルクを生成させない制御ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ブレーキランプが故障により点灯しない場合であっても、後続車が追突する危険性を低減することができるリターダ装置および制動トルク変更方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】制動灯、制御部を含み、制動灯点灯回路の詳細を示した図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態のリターダ装置100の構成の一例を示す図である。本実施の形態のリターダ装置100は、例えばトラックやバス等の大型の車両に搭載される。
【0014】
図1に示すように、リターダ装置100は、リターダ1、制動灯2、制動灯点灯回路3、制御部4を有する。
【0015】
リターダ1は、図示しないリターダ用スイッチに対する車両の運転手による操作に応じて、制動トルクを発揮する。車両には、運転席に設けられた図示しないフットブレーキやパーキングブレーキ等の主制動装置が設けられており、車両の制動トルクの大部分は当該主制動装置により与えられるが、これを補助する補助的な副制動装置としてリターダ1は設けられている。リターダ1には、例えば流体式リターダを採用すればよい。
【0016】
制動灯2は、上述した主制動装置やリターダ1が制動トルクを発揮したときに点灯し、車両の周囲に存在する他の車両に対して注意を喚起する。制動灯2は、例えば主制動装置が作動した場合には常に点灯するが、補助制動装置であるリターダ1の作動時には、リターダ1による制動トルクが所定値以上の場合に点灯するように構成されている。当該所定値は、例えば上述した保安基準等に基づいて決定されればよい。この制動灯を点灯させるリターダ1の制動トルクを、以下では制動灯点灯値と称する。
【0017】
制動灯点灯回路3は、制御部4の制御に基づき、上述した制動灯2の点灯または消灯を行う。
【0018】
制御部4は、リターダ装置100の各構成の制御を行う。制御部4が行う処理は、例えば以下の通りである。
【0019】
制御部4が実行する処理の1つ目は、図示しないリターダ用スイッチに対する制動トルクの生成を要求する操作に応じて、リターダ1に対して制動トルクの生成を要求する制動トルク要求処理である。
【0020】
制御部4が実行する処理の2つ目は、リターダ1に対して生成を要求する制動トルクが上述した制動灯点灯値以上の制動トルクであった場合に、制動灯2を点灯させる制御を行う制動灯点灯処理である。
【0021】
制御部4が実行する処理の3つ目は、制動灯点灯回路3に異常が無いか否かを判定する制動灯点灯回路異常判定処理である。
【0022】
制御部4が実行する処理の4つ目は、上述した3つ目の処理において制動灯点灯回路3に異常があると判定された場合に、リターダ1へ生成を要求する制動トルクを変更する制動トルク変更処理である。
【0023】
以下、制御部4が実行する各処理について説明する。
【0024】
[制動トルク要求処理]
制御部4は、図示しないリターダ用スイッチに対して制動トルクの生成を要求する操作に応じて、リターダ1に制動トルクの生成を要求する。例えばリターダ用スイッチは、複数の段階の制動トルクを選択することができるように構成されており、制御部4はリターダ用スイッチにて選択された段階に応じた制動トルクの生成をリターダ1に要求する。具体的には、リターダ用スイッチにおいて、例えば「Low」、「High」の2段階が選択できるように構成される。制御部4は、「High」が選択されたときには「Low」が選択されたときよりも強い制動トルクの生成を要求する。
【0025】
ここで、制御部4がリターダ1に生成を要求する制動トルクは、リターダ1が出力することができる最大の制動トルク(総有効トルク)に対する割合で与えられる。具体的には、リターダ用スイッチにおいて「Low」が選択された場合は、制御部4は、例えば総有効トルクの15%の制動トルクの生成をリターダ1に要求する。また、「High」が選択された場合は、例えば総有効トルクの60%の制動トルクの生成をリターダ1に要求する。なお、これらの値は一例であり、実機を試験して目的に応じた最適値を見つけ出す適合作業(キャリブレーション)により設定されればよい。
【0026】
[制動灯点灯処理]
制御部4は、主制動装置の作動、および、補助制動装置であるリターダ1の作動に応じて、制動灯点灯回路3を制御して制動灯2を点灯させる。以下では、制動灯点灯回路3の構成について説明する。
【0027】
図2は、制動灯2および制御部4を含み、制動灯点灯回路3の詳細を示した図である。
図2に示すように、制動灯点灯回路3は、ブレーキスイッチ31、制動灯用リレー32を有する。ブレーキスイッチ31は、図示しない主制動装置のブレーキペダルに接続されたスイッチであり、ブレーキペダルの所定以上の圧力の踏み込みによりオンにされる。これにより、主制動装置が作動したとき、制動灯用リレー32が通電して制動灯2に電源が供給され、制動灯2が点灯する。
【0028】
また、制動灯用リレー32は、信号線L1によって制御部4と接続されている。リターダ1により制動トルクが生成され、その制動トルクが上述した制動灯点灯値以上の制動トルクであった場合には、制御部4により制動灯用リレー32が通電され、制動灯2に電源が供給されて制動灯2が点灯する。
【0029】
[制動灯点灯回路異常判定処理]
制動灯点灯回路3に異常があると、制動灯2が点灯しないため、後続の他の車両に車両の制動に関する報知が行われず、追突等の恐れがある。このような事態を回避するために、制御部4は制動灯点灯回路3の異常を速やかに判定する制動灯点灯回路異常判定処理を行う。制御部4が制動灯点灯回路3の異常を判定する方法は、以下の通りである。
【0030】
図2に示すように、制動灯点灯回路3は、制動灯用リレー32と制動灯2との接続線と制御部4とを接続する信号線L2を有する。信号線L2により、制御部4は、制動灯用リレー32が通電し制動灯2に電源が供給されているか否かを検出することができる。
【0031】
このような制動灯点灯回路3において、ブレーキペダルが踏み込まれていないとき、すなわちブレーキスイッチ31がオンされていないときに、制御部4が制動灯用リレー32を通電させたとする。制動灯点灯回路3が正常であるならば、制御部4は、制動灯2へ電源が供給されていることを、信号線L2を介して検出することができるはずである。しかし、回路に異常、例えば信号線L1の断線等がある場合には、制動灯2への電源の供給を検出することができない。したがって、制御部4は、信号線L2を介して制動灯2に電力が供給されているか否かを検出することにより、制動灯点灯回路3に異常があるか否かを判定することができる。
【0032】
[制動トルク変更処理]
制御部4は、上述した制動灯点灯回路異常判定処理によって、制動灯点灯回路3に異常があると判定した場合、制動灯2を点灯させる制動トルク、すなわち制動灯点灯値以上の制動トルクを生成させないようにリターダ1を制御する。上述したように、制動灯点灯値とは、この値以上の制動トルクがリターダ1により生成される場合に制御部4が制動灯2を点灯させる値である。
【0033】
以下、制動トルク変更処理の具体例について説明する。
【0034】
(第1の具体例)
第1の具体例では、制動灯点灯値が、例えばリターダ1の総有効トルクの50%であり、「Low」の制動トルクが総有効トルクの15%であり、「High」の制動トルクが総有効トルクの60%である場合について説明する。この場合、「High」の制動トルクは制動灯点灯値を超えてしまう。したがって、第1の具体例では、制御部4はリターダ1に対して「High」の制動トルクを出力することを禁止し、「Low」の制動トルクのみ生成させるように制御する。
【0035】
すなわち、制動灯点灯回路3が異常であると判定された場合、例えリターダ用スイッチで「High」が選択されたとしても、制御部4は、制動灯点灯値以下の段階の制動トルク、すなわちこの場合「Low」の制動トルクを生成させるようにリターダ1を制御する。
【0036】
(第2の具体例)
第2の具体例では、例えばリターダ1が「Low」、「Middle」、「High」の3段階の制動トルクを生成することができる場合について説明する。本第2の具体例では、リターダ1は、例えば「Low」では総有効トルクの10%を、「Middle」では総有効トルクの40%を、「High」では総有効トルクの70%を、それぞれ生成するように制御されるとする。
【0037】
ここで、制動灯点灯値が例えば総有効トルクの30%である場合、「Middle」および「High」の制動トルクは当該制動灯点灯値を超えてしまう。このため、制御部4は、リターダ用スイッチに「Middle」や「High」の制動トルクの生成要求がなされたとしても、「Low」の制動トルクしか生成しないようにリターダ1を制御する。
【0038】
また、制動灯点灯値が例えば総有効トルクの50%である場合、「High」の制動トルクは当該制動灯点灯値を超えてしまうが、「Low」および「Middle」の制動トルクは制動灯点灯値を超えない。このため、制御部4は、リターダ用スイッチに「High」の制動トルクの生成要求がなされたとしても、例えば「Middle」の制動トルクを生成するようにリターダ1を制御する。この場合、例えばより生成を要求された制動トルクである「High」に近い「Middle」の制動トルクを生成している。なお、後続車の追突を防止するため、より弱い制動トルクである「Low」の制動トルクを生成するようにしてもよい。また、制御部4は、「Low」または「Middle」の制動トルクの生成要求がなされた場合には、要求された制動トルクを生成させるようにリターダ1を制御すればよい。
【0039】
このように、制動トルク変更処理においては、制御部4は複数の段階の制動トルクのうち、制動灯点灯値を超えない段階の制動トルクしか生成させないようにリターダ1を制御する。なお、制動灯点灯値を超えない段階の制動トルクが存在しない場合、すなわち、複数段階の制動トルクの内、最も小さい制動トルクよりも制動灯点灯値が低い値であった場合には、制御部4はリターダ1に制動トルクを生成させない。具体的には、例えば「Low」で生成を要求される制動トルクが総有効トルクの15%であり、制動灯点灯値が10%であった場合には、制御部4はリターダ用スイッチにおいてどの段階の制動トルクの生成が要求されたとしても、リターダ1を作動させず、制動トルクを生成させない。
【0040】
以上説明したように、本実施の形態のリターダ装置100は、異なる大きさの制動トルクを生成可能なリターダ1と、車輪に対して所定の制動トルクより大きな制動トルクが働いた場合に点灯する制動灯2を点灯させる制動灯点灯回路3と、当該制動灯点灯回路3に異常があるか否かを判定し、異常があると判定した場合に、リターダ1に生成を要求する制動トルクを、制動灯点灯値未満の段階に変更する制御部4と、を有する。
【0041】
このような構成により、制動灯点灯回路3に異常があり、制動灯2が点灯しない場合には、運転者の操作により例えリターダ1に対して強い制動トルクの生成が要求されていたとしても、制動灯を点灯させる制動トルク(制動灯点灯値)未満の段階の制動トルクしか生成させないように制御部4がリターダ1を制御する。このため、制動灯点灯回路3に異常がある場合には、リターダ1は弱い制動トルクしか生成させないので、後続の他の車両が、制動灯2が点灯しないためにリターダ1による制動に気づかず追突してしまう事態を回避することができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、車両の補助ブレーキとして制動トルクを供給するリターダ装置に好適である。
【符号の説明】
【0043】
100 リターダ装置
1 リターダ
2 制動灯
3 制動灯点灯回路
31 ブレーキスイッチ
32 制動灯用リレー
4 制御部