特許第6561581号(P6561581)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561581
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】リターダ装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 57/00 20060101AFI20190808BHJP
   B60T 10/00 20060101ALI20190808BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   F16D57/00
   B60T10/00
   B60T17/18
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-105826(P2015-105826)
(22)【出願日】2015年5月25日
(65)【公開番号】特開2016-215948(P2016-215948A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】日吉 武男
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−285425(JP,A)
【文献】 実開平05−072628(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 57/00
B60T 10/00
B60T 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるリターダ装置であって、
第1の制動トルクおよび前記第1の制動トルクよりも大きい第2の制動トルクを発生させるリターダ部と、
前記第1の制動トルク、または前記第2の制動トルクを選択可能であって、選択された制動トルクに対応するトルク要求信号を出力するリターダスイッチと、
制御部と、
を有し、
前記リターダスイッチは、前記第1の制動トルクが選択された場合は前記第1の制動トルクに対応する第1のトルク要求信号を出力し、前記第2の制動トルクが選択された場合は前記第1のトルク要求信号と前記第2の制動トルクに対応する第2のトルク要求信号の両方を出力し、
前記制御部は、前記リターダスイッチから前記第1のトルク要求信号が入力され、前記第2のトルク要求信号が入力されなかった場合は、前記第1の制動トルクを発生させるよう前記リターダ部を制御し、前記第1のトルク要求信号と、前記第2のトルク要求信号の両方が入力された場合は、前記第2の制動トルクを発生させるよう前記リターダ部を制御し、前記第2のトルク要求信号が入力され、前記第1のトルク要求信号が入力されなかった場合は、所定時間だけ前記第1の制動トルクを発生させた後、前記第2の制動トルクを発生させるように前記リターダ部を制御す
ターダ装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第2のトルク要求信号が入力され、前記第1のトルク要求信号が入力されなかった場合、所定の待機時間だけ待機し、当該所定の待機時間中に前記リターダスイッチから前記第1のトルク要求信号が入力された場合は、前記第2の制動トルクを発生させるよう前記リターダ部を制御し、当該所定の待機時間中に前記リターダスイッチから前記第1のトルク要求信号が入力されなかった場合は、所定時間だけ前記第1の制動トルクを発生させた後、前記第2の制動トルクを発生させるように前記リターダ部を制御する、
請求項1に記載のリターダ装置。
【請求項3】
車両に搭載され、第1の制動トルクおよび前記第1の制動トルクよりも大きい第2の制動トルクを発生させるリターダ装置の制御方法であって、
前記第1の制動トルク、または前記第2の制動トルクを選択可能であって、前記第1の制動トルクが選択された場合は前記第1の制動トルクに対応する第1のトルク要求信号を出力し、前記第2の制動トルクが選択された場合は前記第1のトルク要求信号と前記第2の制動トルクに対応する第2のトルク要求信号の両方を出力するリターダスイッチから前記第1のトルク要求信号が制御部に入力され、前記第2のトルク要求信号前記制御部に入力されなかった場合に、前記第1の制動トルクを発生させるよう前記リターダ装置を制御する第1制御ステップと、
前記第1のトルク要求信号と、前記第2のトルク要求信号の両方が前記制御部に入力された場合に、前記第2の制動トルクを発生させるよう前記リターダ装置を制御する第2制御ステップと、
前記第2のトルク要求信号が前記制御部に入力され、前記第1のトルク要求信号が前記制御部に入力されなかった場合に、所定時間だけ前記第1の制動トルクを発生させた後、前記第2の制動トルクを発生させるように前記リターダ装置を制御する第3制御ステップと、
を有するリターダ装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の補助ブレーキとして制動トルクを供給するリターダ装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばバスやトラック等の大型の車両では、主制動装置となるフットブレーキの他に、制動力を高めるための補助制動装置として、排気ブレーキやリターダ装置等の補助ブレーキが一般に使用されている。特にリターダ装置はディーゼルエンジン車以外にも適用できるので、広く使用されている。
【0003】
一般に用いられているリターダ装置は、2段階以上の制動トルクが得られるように構成されているものが多い。例えば「Low」、「High」の2段階のトルクを選択できるスイッチ等が車両の運転席に設けられ、リターダ装置は当該スイッチの選択に応じて、得られる制動トルクを変動させている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−22804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなリターダ装置において、スイッチが短絡故障してしまうと、運転者の意図とは関係なくリターダ装置が制動トルクを発生し、運転者が車両を随意に運転することができなくなってしまう。例えば、特許文献1では、故障の場合、制動力を減少させる処理を行うため、車両が加速してしまう事態が生じうる。また、例えば強い制動トルクを供給する「High」を選択するスイッチが短絡故障すると、以後リターダ装置は強い制動トルクを常に供給することになるため、強い減速が生じ、運転が難しくなってしまう。
【0006】
本発明の目的は、このような事態を回避するために、制動トルクの選択スイッチがショート故障した場合でも、運転手の意図に沿わない急加減速を生じないようにするリターダ装置およびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のリターダ装置は、車両に搭載されるリターダ装置であって、第1の制動トルクおよび前記第1の制動トルクよりも大きい第2の制動トルクを発生させるリターダ部と、前記第1の制動トルク、または前記第2の制動トルクを選択可能であって、選択された制動トルクに対応するトルク要求信号を出力するリターダスイッチと、制御部と、を有し、前記リターダスイッチは、前記第1の制動トルクが選択された場合は前記第1の制動トルクに対応する第1のトルク要求信号を出力し、前記第2の制動トルクが選択された場合は前記第1のトルク要求信号と前記第2の制動トルクに対応する第2のトルク要求信号の両方を出力し、前記制御部は、前記リターダスイッチから前記第1のトルク要求信号が入力され、前記第2のトルク要求信号が入力されなかった場合は、前記第1の制動トルクを発生させるよう前記リターダ部を制御し、前記第1のトルク要求信号と、前記第2のトルク要求信号の両方が入力された場合は、前記第2の制動トルクを発生させるよう前記リターダ部を制御し、前記第2のトルク要求信号が入力され、前記第1のトルク要求信号が入力されなかった場合は、所定時間だけ前記第1の制動トルクを発生させた後、前記第2の制動トルクを発生させるように前記リターダ部を制御する。
【0008】
本発明のリターダ装置の制御方法は、車両に搭載され、第1の制動トルクおよび前記第1の制動トルクよりも大きい第2の制動トルクを発生させるリターダ装置の制御方法であって、前記第1の制動トルク、または前記第2の制動トルクを選択可能であって、前記第1の制動トルクが選択された場合は前記第1の制動トルクに対応する第1のトルク要求信号を出力し、前記第2の制動トルクが選択された場合は前記第1のトルク要求信号と前記第2の制動トルクに対応する第2のトルク要求信号の両方を出力するリターダスイッチから前記第1のトルク要求信号が制御部に入力され、前記第2のトルク要求信号前記制御部に入力されなかった場合に、前記第1の制動トルクを発生させるよう前記リターダ装置を制御する第1制御ステップと、前記第1のトルク要求信号と、前記第2のトルク要求信号の両方が前記制御部に入力された場合に、前記第2の制動トルクを発生させるよう前記リターダ装置を制御する第2制御ステップと、前記第2のトルク要求信号が前記制御部に入力され、前記第1のトルク要求信号が前記制御部に入力されなかった場合に、所定時間だけ前記第1の制動トルクを発生させた後、前記第2の制動トルクを発生させるように前記リターダ装置を制御する第3制御ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、制動トルクの選択スイッチがショート故障した場合にも、運転手の意図に沿わない急加減速を生じないようにするリターダ装置およびその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】リターダ装置の構成の一例を示す図
図2】第2制御モジュールの制動トルク決定処理について説明するためのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態のリターダ装置100の構成の一例を示す図である。
【0012】
図1に示すように、本実施の形態のリターダ装置100は、リターダスイッチ1、リターダ制御部2、リターダ3を有する。リターダ装置100は、例えばトラックやバス等の大型車両に取り付けられることが想定されている。
【0013】
[リターダスイッチ1]
リターダスイッチ1は、例えば車両の運転席の周囲等に設けられたリターダ制御用のスイッチである。リターダスイッチ1は、例えば車両のハンドルの周囲に設けられたコンビネーションスイッチである。リターダスイッチ1は、例えばセレクタによって、「Off」、「Low」、「High」等の複数種類のリターダ出力を選択できるように構成されている。これらの複数種類のリターダ出力は、段階的に選択されるように構成されている。すなわち、「Off」からセレクタが動かされることにより、「Low」が選択され、さらにそこからセレクタを動かされると、「High」が選択される。そして、リターダスイッチ1は、選択されたリターダ出力に応じたリターダ要求信号「S_Lo」または「S_Hi」を後述するリターダ制御部2に出力する。
【0014】
リターダスイッチ1は、「Low」が選択された場合、リターダ要求信号S_Loを出力する。そして、そこからさらに運転手等によってセレクタが動かされ、「High」が選択された場合、リターダ要求信号S_Loを継続して出力したまま、さらにリターダ要求信号S_Hiを出力する。すなわち、「High」が選択された場合、リターダスイッチ1は、リターダ要求信号S_Loとリターダ要求信号S_Hiの両方を出力する。その理由については、リターダ制御部2の第2制御モジュール22の[制動トルク決定処理]の項において説明する。なお、リターダスイッチ1は、「Off」が選択された場合は、リターダ要求信号を出力しない。
【0015】
ここで、リターダスイッチ1は、信号線L1を介してリターダ要求信号S_Loを、信号線L2を介してリターダ要求信号S_Hiを、それぞれリターダ制御部2に対して出力する。
【0016】
信号線L1は、例えばCAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを構成し、バス通信により信号のやりとりを行う通信線である。一方、信号線L2は、ハードワイヤ接続により直接接続された通信線である。これらの通信方法の相違から、信号線L1を介した通信には、信号線L2を介した通信と比較して、バス通信に起因する遅延が生じる。このため、リターダスイッチ1が同時にリターダ要求信号S_LoおよびS_Hiを出力したとしても、リターダ制御部2に入力されるタイミングはリターダ要求信号S_Hiの方が早くなる。
【0017】
[リターダ制御部2]
リターダ制御部2は、リターダスイッチ1から出力されたリターダ要求信号に応じて、リターダ3を制御する。図1に示すように、リターダ制御部2は、第1制御モジュール21と、第2制御モジュール22と、動作制御モジュール23と、を有する。
【0018】
第1制御モジュール21は、信号線L1を介して上述したリターダスイッチ1から出力されたリターダ要求信号S_Loを受信し、当該リターダ要求信号S_Loを第2制御モジュール22に対して出力する。ここで、第1制御モジュール21は、受信したリターダ要求信号S_Loをそのまま出力してもよいし、リターダ要求信号S_Loに相当する信号を出力してもよい。
【0019】
第2制御モジュール22は、信号線L2を介して上述したリターダスイッチ1から出力されたリターダ要求信号S_Hiを受信する。また、第2制御モジュール22は、上述した第1制御モジュール21から転送されたリターダ要求信号S_Loを受信する。そして、第2制御モジュール22は、受信したリターダ要求信号に基づいて、後述するリターダ3に要求する制動トルクを決定し、決定した制動トルクの生成を要求するトルク要求信号S_Reqを動作制御モジュール23に対して出力する。第2制御モジュール22がリターダ3に要求する制動トルクを決定する制動トルク決定処理については、後に詳しく説明する。
【0020】
動作制御モジュール23は、第2制御モジュール22から出力されたトルク要求信号S_Reqおよびリターダ3の動作状態を示す信号S_Conを受信し、当該信号S_Conに基づき、リターダ3の動作を制御する制御信号S_Ctlを生成する。動作制御モジュール23は、生成した制御信号S_Ctlをリターダ3に出力する。リターダ3の動作状態を示す信号S_Conには、例えばリターダ3の作動流体の温度等の情報を示す信号が含まれる。
【0021】
[リターダ3]
リターダ3は、上述したリターダ制御部2の動作制御モジュール23の制御に応じて制動トルクを発生させる補助制動装置である。車両には、図1には図示しないが、運転席に設けられたフットブレーキや、パーキングブレーキに接続された主制動装置が別途用意されており、リターダ3はこれらの主制動装置に対して補助的な役割を果たすものである。リターダ3は、上述したリターダスイッチ1に対する車両の運転手の操作に応じて動作制御モジュール23から出力される制御信号S_Ctlに基づき制動トルクを発生させる。
【0022】
[第2制御モジュール22の制動トルク決定処理]
次に、第2制御モジュール22の制動トルク決定処理について詳細に説明する。まず、第2制御モジュール22に入力されたリターダ要求信号に応じて、リターダ3に要求する制動トルクを決定する条件について説明する。
【0023】
<リターダ要求信号が入力されない場合>
第2制御モジュール22は、リターダスイッチ1、あるいは第1制御モジュール21から、リターダ要求信号が入力されない場合は、リターダ3に制動トルクの生成も要求しない。
【0024】
<リターダ要求信号S_Loのみ入力される場合>
第2制御モジュール22は、第1制御モジュール21からリターダ要求信号S_Loが入力され、リターダスイッチ1からリターダ要求信号S_Hiが入力されていない場合、Lowの制動トルク(第1の制動トルク)の生成を要求するように決定する。
【0025】
<リターダ要求信号S_LoとS_Hiの両方が入力される場合>
また、第2制御モジュール22は、第1制御モジュール21からリターダ要求信号S_Loが入力され、且つ、リターダスイッチ1からリターダ要求信号S_Hiが入力されている場合、Highの制動トルク(第2の制動トルク)の生成を要求するように決定する。
【0026】
なお、Lowの制動トルク(第1の制動トルク)とは、具体的には、例えばリターダ3が発生することができる総有効トルクの15%である。また、Highの制動トルク(第2の制動トルク)とは、例えば総有効トルクの60%である。なお、これらの値は一例であり、自由に設定することができる。
【0027】
すなわち、本実施の形態のリターダ装置100では、第2制御モジュール22は、リターダ要求信号S_Hiのみが入力されただけではHighの制動トルクを要求するように決定しない。第2制御モジュール22は、LowとHighのリターダ要求信号S_LoとS_Hiの両方が入力されたとき、Highの制動トルクの生成を要求するように決定する。
【0028】
<リターダ要求信号S_Hiのみ入力される場合>
第2制御モジュール22は、第1制御モジュール21からリターダ要求信号S_Loが入力されず、且つ、リターダスイッチ1からリターダ要求信号S_Hiが入力された場合、リターダ要求信号S_Hiが入力され始めてから所定の待機時間Twだけ待機する。そして、待機時間Twだけ待機している間に第1制御モジュール21からリターダ要求信号S_Loが入力された場合は、Highの制動トルクを要求するように決定する。一方、待機時間Twだけ待機しても、第1制御モジュール21からリターダ要求信号S_Loが入力されなかった場合、第2制御モジュール22は、所定時間T1だけLowの制動トルクの生成を要求し、所定時間T1が経過した後、Highの制動トルクの生成を要求するように決定する。
【0029】
この待機時間Twは、例えばリターダスイッチ1からリターダ要求信号S_Hiと同時に出力された信号S_Loが第1制御モジュール21を経由して第2制御モジュール22に到達した場合の、信号S_Hiに対する遅延時間の推定値とほぼ同様の値に設定される。この遅延時間は、CANのバス通信等に起因して生じるものである。本実施の形態では、この待機時間Twを、経験的に例えば0.1秒と設定している。また、所定時間T1は、具体的には運転手に対して意図しない制動トルクに気づかせるための時間であり、本実施の形態では、例えば3秒間と設定している。
【0030】
<制動トルクの決定条件の設定理由>
以下、第2制御モジュール22の制動トルクの決定条件を上記したように設定した理由について説明する。図1に示すように、リターダスイッチ1において「Low」が選択されたときには、リターダ要求信号S_Loが信号線L1を通って第1制御モジュール21に入力され、その後、第2制御モジュール22に転送される。このとき、リターダスイッチ1はリターダ要求信号S_Hiを出力しない。この場合、上述したように、第2制御モジュール22は、Lowの制動トルクの生成を要求するように決定する。
【0031】
一方、リターダスイッチ1において「High」が選択されたときには、上述したように、第2制御モジュール22には、リターダ要求信号S_LoとS_Hiの両方が入力されるように構成されている。リターダスイッチ1において、比較的ゆっくりとセレクタが動かされることにより、セレクタ「Off」、「Low」、「High」が時間をおいて順次選択されることになる。このため、第2制御モジュール22には、リターダスイッチ1のセレクタが「Low」を経由したときからリターダ要求信号S_Loが入力され始め、リターダスイッチ1のセレクタが「High」まで動かされたとき、リターダ要求信号S_Hiが入力され始める。
【0032】
しかしながら、運転手によっては、リターダスイッチ1の「Off」から「High」まで短時間で一気にセレクタが動かされる場合がある。このような場合には、リターダスイッチ1からリターダ要求信号S_LoとS_Hiの両方がほぼ同時に出力され始めることになる。
【0033】
ここで、リターダ要求信号S_Loは、上述したように、CANのバス通信用の信号線L1を通って第1制御モジュール21に入力され、その後、第2制御モジュール22に転送される。一方、リターダ要求信号S_Hiはハードワイヤ接続で直接接続された信号線L2を通って第2制御モジュール22に入力される。従って、リターダスイッチ1からリターダ要求信号S_LoとS_Hiとが同時に出力されたときには、ハードワイヤ接続であり、且つ、途中に何も接続されていない信号線L2を通るリターダ要求信号S_Hiの方が第2制御モジュール22に先に入力されることになる。
【0034】
しかしながら、上述したように、第2制御モジュール22は、リターダ要求信号S_LoとS_Hiの両方が入力されなければHighの制動トルクの生成を要求しないように構成されている。このため、上述したように、第2制御モジュール22は、リターダ要求信号S_Hiのみが入力された場合、待機時間Twだけ待機することにより、リターダスイッチ1において「High」が選択されているか否かを判定するように構成されている。
【0035】
本実施の形態のリターダ装置100では、このような構成により、リターダ要求信号S_Hiが入力されてから待機時間Twだけ待機する間にリターダ要求信号S_Loが入力されるか否かに応じて、リターダスイッチ1に対する操作を以下のように判定する。待機時間Twだけ待機している間にリターダ要求信号S_Loが入力された場合には、第2制御モジュール22は、リターダスイッチ1を「Off」から「High」まで短時間で一気に操作されたと判定する。すなわち、第2制御モジュール22は、リターダスイッチ1において「High」が選択されたと判定し、Highの制動トルクの生成を要求するように決定する。
【0036】
一方、待機時間Twだけ待機している間にリターダ要求信号S_Loが入力されなかった場合とは、すなわち、リターダ要求信号S_Hiのみが第2制御モジュール22に入力され続けている場合である。リターダ装置100が正常に動作している限り、このようにリターダ要求信号S_Hiのみが入力され続ける事態は生じないので、この場合、リターダ装置100の故障、例えば、リターダスイッチ1のセレクタ「High」の短絡故障等が疑われる。
【0037】
そこで、このような場合には、上述したように、第2制御モジュール22は所定時間T1だけLowの制動トルクの生成を要求し、所定時間T1が経過した後、Highの制動トルクの生成を要求するように決定する。仮にリターダスイッチ1のセレクタ「High」の短絡故障が生じている場合、第2制御モジュール22にリターダ要求信号S_Hiのみが入力され続けるということは、実際にはリターダスイッチ1が「Off」であることを意味する。この場合でも、本発明では、リターダ装置100は所定時間T1だけLowの制動トルクを発生させた後、Highの制動トルクを生じさせる。その理由は、以下の通りである。
【0038】
車両の運転手は、自らが意図していない、すなわちリターダスイッチ1に対して操作していないにもかかわらず、主制動装置以外の制動トルクが発生すると、リターダ装置100が故障している可能性に気づくことができる。このため、リターダ装置100では、運転手の操作とは異なる制動トルクを発生させることにより運転手に異常を通知している。
【0039】
ここで、運転手に異常を通知するためには、強い制動力、すなわちHighの制動トルクを発生させた方がよい。しかしながら、運転手の意図しないタイミングで急激に強い制動トルクが発生すると、運転手が車両を制御しきれなくなる恐れがある。このため、本実施形態のリターダ装置100では、まず弱いLowの制動トルクを発生させてから所定時間T1経過後、Highの制動トルクを発生させることにより、段階的に車両の挙動を変化させることができる。これにより、運転手が制動トルクに対して対応できるようにしている。
【0040】
<第2制御モジュール22の制動トルク決定処理の具体的な動作例>
次に、第2制御モジュール22の制動トルク決定処理の具体的な動作例について説明する。図2は、第2制御モジュール22の制動トルク決定処理について説明するためのフローチャートである。
【0041】
ステップS1において、第2制御モジュール22は、第1制御モジュール21あるいはリターダスイッチ1からリターダ要求信号S_LoあるいはS_Hiが入力されたか否かを判定する。入力されたと判定した場合、フローはステップS2に進み、そうでない場合、ステップS1の処理を繰り返す。
【0042】
ステップS1においてリターダ要求信号S_LoあるいはS_Hiが入力されたと判定された場合、ステップS2において、第2制御モジュール22は、ステップS1において入力されたと判定したリターダ要求信号がS_Hiであるか否かを判定する。S_Hiであると判定した場合、フローはステップS4に進み、そうでない場合ステップS3に進む。
【0043】
ステップS2において入力されたリターダ要求信号がS_Hiではないと判定された場合、すなわち、第2制御モジュール22に入力されたリターダ要求信号がS_Loであった場合、ステップS3において、第2制御モジュール22はLowの制動トルクの生成を要求するトルク要求信号S_Reqを動作制御モジュール23に対して出力する。これにより、動作制御モジュール23はLowの制動トルクの生成を要求する制御信号S_Ctlをリターダ3に出力する。すると、リターダ3はLowの制動トルクを発生させ、次に第2制御モジュール22に対して新たにリターダ要求信号が入力されるまで、制動トルク決定処理を終了する。
【0044】
一方、ステップS2において入力された信号がS_Hiであると判定された場合、ステップS4において、第2制御モジュール22は、リターダ要求信号S_Hiが入力された後、待機時間Tw内にリターダ要求信号S_Loが入力されたか否かを判定する。入力されたと判定した場合、フローはステップS5に進み、そうでない場合、ステップS6に進む。待機時間Twは、上述したように例えば0.1秒間である。
【0045】
ステップS4において待機時間Tw内にリターダ要求信号S_Loが入力されたと判定された場合、ステップS5において、第2制御モジュール22はHighの制動トルクの生成を要求するトルク要求信号S_Reqを動作制御モジュール23に対して出力する。すると、動作制御モジュール23の制御信号S_Ctlに応じてリターダ3はHighの制動トルクを発生させ、第2制御モジュール22に対して新たにリターダ要求信号が入力されるまで、制動トルク決定処理を終了する。
【0046】
一方、ステップS4において待機時間Tw内にリターダ要求信号S_Loが入力されなかったと判定された場合、ステップS6において、第2制御モジュール22は、所定時間T1だけLowの制動トルクの生成を要求するトルク要求信号S_Reqを動作制御モジュール23に対して出力する。すると、リターダ3はLowの制動トルクを発生させ、次に第1制御モジュール21あるいはリターダスイッチ1から第2制御モジュール22に対して新たにリターダ要求信号が入力されるまで、制動トルク決定処理を終了する。所定時間T1は、上述したように例えば3秒間である。
【0047】
ステップS7において、第2制御モジュール22は、ステップS6においてLowの制動トルクの生成を要求するトルク要求信号S_Reqを出力してから所定時間T1が経過したか否かを判定する。所定時間T1が経過したと判定した場合、フローはステップS8に進み、そうでない場合、所定時間T1が経過するまで本ステップS7を繰り返す。
【0048】
ステップS7において所定時間T1が経過したと判定された場合、ステップS8において、第2制御モジュール22はHighの制動トルクの生成を要求するトルク要求信号S_Reqを動作制御モジュール23に対して出力する。すると、動作制御モジュール23の制御信号S_Ctlに応じてリターダ3はHighの制動トルクを発生させ、第2制御モジュール22に対して新たにリターダ要求信号が入力されるまで、制動トルク決定処理を終了する。
【0049】
以上説明したように、本実施形態のリターダ装置100によれば、第2制御モジュール22は、リターダスイッチ1からLow(第1の制動トルク)のトルク要求信号が入力され、Highのトルク要求が入力されなかった場合は、Lowの制動トルクを発生させるよう決定し、Lowのトルク要求信号と、High(第2の制動トルク)のトルク要求信号の両方が入力された場合は、Highの制動トルクを発生させるよう決定し、Highのトルク要求信号が入力され、Lowのトルク要求が入力されなかった場合は、所定時間だけ第1の制動トルクを発生させた後、第2の制動トルクを発生させるように決定し、動作制御モジュール23が決定した制動トルクを発生させる制御信号S_Ctlをリターダ3に出力する。
【0050】
このような構成により、例えリターダスイッチ1のHighが短絡故障していたとしても、所定時間T1、例えば3秒間はLowの制動トルクを発生し、その後Highの制動トルクを発生するので、運転手に意図していない制動トルクが発生していることを明確に認識させることができるとともに、急激に強い制動トルクが発生することにより、車両が制御できなくなる等の事態を回避することができる。
【0051】
また、本実施形態のリターダ装置100によれば、第2制御モジュール22は、Highのトルク要求信号のみが入力された場合、所定の待機時間Twだけ待機し、当該所定の待機時間Tw中にLowのトルク要求信号が入力された場合は、Highの制動トルクを発生させるように決定し、当該所定の待機時間Tw中にLowのトルク要求信号が入力されなかった場合は、所定時間T1だけLowの制動トルクを発生させた後、Highの制動トルクを発生させるように決定する。
【0052】
このような構成により、リターダスイッチ1において「High」が選択されたとき、通信遅延のため、Highのトルク要求信号のみが先に第2制御モジュール22に入力され、Lowのトルク要求信号が遅延して入力した場合でも、第2制御モジュール22は、Highのトルク要求信号のみが入力されてから通信遅延を見込んだ待機時間Twだけ待機するので、リターダスイッチ1の短絡故障によりLowのトルク要求がない場合と、通信遅延によりLowのトルク要求が遅れて入力される場合と、を明確に区別し、運転手の操作に応じた的確な制動トルクをリターダ3に発生させることができる。
【0053】
なお、上述した実施の形態において、リターダ3は流体式リターダであると説明したが、本発明は之には限定されない。リターダ3は、流体式リターダ以外のリターダでもよく、例えば車輪(車軸)に合わせて回転する金属板を永久磁石の磁界内に置くことにより金属板に過電流を生じさせ、この過電流によって発生する反抗磁界により制動トルクを得る磁気式リターダであってもよい。
【符号の説明】
【0054】
100 リターダ装置
1 リターダスイッチ
2 リターダ制御部
21 第1制御モジュール
22 第2制御モジュール
23 動作制御モジュール
3 リターダ
図1
図2