(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記環状工具の振れ量の振れ量閾値を記憶し、前記環状工具の振れ量が前記振れ量閾値以下となるように前記工具修正装置を制御する、請求項2又は4に記載の切削装置。
前記制御装置は、前記刃先摩耗量及び前記環状工具の刃先角に基づいて修正量を決定し、前記修正量での修正を前記工具修正装置に指令する、請求項6に記載の切削装置。
環状の切れ刃を有する環状工具を取り付け、前記環状工具を当該環状工具の軸線回りに回転させる工具主軸と、前記工具主軸の工具取り付け側に配置されるテーブル上に設けられ、前記環状工具の軸線と直角な軸線回りに回転可能に工作物を保持する工作物保持台と、前記テーブル上に設けられ、前記環状工具の外周を研磨可能なように前記環状工具の軸線に対し傾斜した軸線回りに回転可能に砥石を保持し、前記砥石で前記環状工具の形状を修正する工具修正装置と、を備え、前記工具主軸及び前記工作物保持台を、前記環状工具の外周面がすくい面となり、前記環状工具の端面が逃げ面となる相対位置関係に配置して切削加工可能な切削装置における切削方法であって、
前記工具主軸及び前記工作物保持台が前記相対位置関係に配置された状態で、前記工作物及び前記環状工具を回転させ、前記環状工具の切れ刃の円弧部分で前記工作物の外周を切削加工する切削加工工程と、
前記環状工具を前記工具主軸に取り付けた状態で前記環状工具の工具状態を計測する計測工程と、
前記砥石及び前記環状工具を回転させ、前記計測工程における計測結果に基づいて、前記砥石で前記環状工具の外周面形状を修正する修正工程と、
を備える、切削方法。
環状の切れ刃を有する環状工具を取り付け、前記環状工具を当該環状工具の軸線回りに回転させる工具主軸と、前記工具主軸の工具取り付け側に配置されるテーブル上に設けられ、前記環状工具の軸線と直角な軸線回りに回転可能に工作物を保持する工作物保持台と、前記テーブル上に設けられ、前記環状工具の外周を研磨可能なように前記環状工具の軸線に平行な軸線回りに回転可能に砥石を保持し、前記砥石で前記環状工具の形状を修正する工具修正装置と、を備え、前記工具主軸及び前記工作物保持台を、前記環状工具の外周面がすくい面となり、前記環状工具の端面が逃げ面となる相対位置関係に配置して切削加工可能な切削装置における切削方法であって、
前記工具主軸及び前記工作物保持台が前記相対位置関係に配置された状態で、前記工作物及び前記環状工具を回転させ、前記環状工具の切れ刃の円弧部分で前記工作物の外周を切削加工する切削加工工程と、
前記環状工具を前記工具主軸に取り付けた状態で前記環状工具の工具状態を計測する計測工程と、
前記砥石及び前記環状工具を回転させ、前記計測工程における計測結果に基づいて、前記砥石で前記環状工具の端面形状を修正する修正工程と、
を備える、切削方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.切削装置の機械構成)
切削装置の一例として、5軸立形マシニングセンタを例に挙げ、
図1を参照して説明する。つまり、当該切削装置1は駆動軸として、相互に直交する3つの直進軸(X,Y,Z軸)及び2つの回転軸(A軸、C軸)を有する機械である。
図1に示すように、切削装置1は、ベッド2と、送りテーブル3と、コラム4と、スライダ5と、主軸ヘッド6と、工具主軸7と、チルトテーブル8と、ターンテーブル9(本発明の「工作物保持台」に相当)と、工具修正装置10と、計測装置20と、自動工具交換装置30と、制御装置100等とを備える。
【0012】
ベッド2は、矩形板状に形成され床上に配置される。ベッド2上には、テーブル3及び自動工具交換装置30が配設される。ベッド2の後方側には、コラム4が立設される。
送りテーブル3は、ベッド2上に配設される前後方向(Y軸線方向)に延びるガイド部材31にY軸線方向にスライド可能に設けられる。送りテーブル3をY軸線方向にスライドさせるボールネジ機構32を有する送りテーブル用モータ33は、ガイド部材31に備えられる。
コラム4は、門形状に形成され、コラム4の上部材41には、スライダ5が配設される。
【0013】
スライダ5は、コラム4の上部材41の前面に形成される案内面41aに沿って左右方向(X軸線方向)に移動可能に設けられる。スライダ5をX軸線方向に移動させるボールネジ機構51を有するスライダ用モータ52は、コラム4の上部材41に備えられる。
主軸ヘッド6は、スライダ5の前面に形成される案内面5aに沿って上下方向(Z軸線方向)に移動可能に設けられる。主軸ヘッド6をZ軸線方向に移動させるボールネジ機構61を有する主軸ヘッド用モータ62は、スライダ5に備えられる。
【0014】
工具主軸7は、主軸ヘッド6にZ軸線方向に延在し、且つZ軸線回りで回転可能に支持される。工具主軸7をZ軸線回りで回転させるギヤ機構71を有する主軸用モータ72は、主軸ヘッド6に内蔵される。工具主軸7の下端には、工具ホルダ73が取り付けられ、工具ホルダ73には、工作物Wを切削加工する環状工具90が着脱可能に装着される。つまり、環状工具90は、主軸ヘッド6に対して、Z軸線回りに回転可能に取り付けられる。
【0015】
チルトテーブル8は、クレードル状に形成され、送りテーブル3に対してY軸線と平行なA軸線回りに回転(揺動)可能なように、一対のチルトテーブル支持部81に支持される。チルトテーブル8の上面には、ターンテーブル9が配設される。チルトテーブル8をA軸線回りに回転(揺動)駆動するチルトテーブル用モータ82は、一方のチルトテーブル支持部81に備えられる。
【0016】
ターンテーブル9は、円板状に形成され、チルトテーブル8に対してZ軸線と平行なC軸線回りに回転可能なように、チルトテーブル8に支持される。ターンテーブル9をC軸線回りに回転駆動するターンテーブル用モータ99は、チルトテーブル8に備えられる。ターンテーブル9上には、工作物Wが載置固定される。
【0017】
工具修正装置10は、砥石台11と、一対の砥石台支持部12と、砥石軸13と、砥石14等とを備える。砥石台11は、送りテーブル3に対してY軸線と平行な砥石台軸線Rd回りに回転(揺動)可能なように、一対の砥石台支持部12に支持される。砥石軸13は、砥石台11に対してZ軸線と平行な砥石軸線Rg回りに回転可能なように、砥石台11に支持される。砥石14は、リング状に形成され、砥石軸13の上面に着脱可能に取り付けられる。砥石台11をY軸線と平行な砥石台軸線Rd回りに回転(揺動)駆動する砥石台用モータ15は、一方の砥石台支持部12に備えられる。砥石軸13を砥石14とともにZ軸線と平行な砥石軸線Rg回りに回転駆動する砥石用モータ16は、砥石台11に備えられる。
【0018】
計測装置20は、例えば、環状工具90を撮像可能なビデオマイクロスコープであり、Z軸線方向に撮像可能な第1計測装置21及びX軸線方向に撮像可能な第2計測装置22を備える。
自動工具交換装置30には、図略の複数種の環状工具90が備えられる。そして、自動工具交換装置30は、工具主軸7との間で環状工具90を自動的に交換可能に構成される。
【0019】
制御装置100は、例えば、円筒状の工作物Wの外周面を切削加工する場合、チルトテーブル用モータ82を駆動制御して工作物Wを所定角度に傾斜させ、主軸用モータ72及びターンテーブル用モータ99を駆動制御して、環状工具90を回転させるとともに工作物Wを回転させ、送りテーブル用モータ33、スライダ用モータ52及び主軸ヘッド用モータ62を駆動制御して、環状工具90と工作物WとをX軸線方向、Y軸線方向及びZ軸線方向に相対移動することにより、環状工具90の切れ刃91rを工作物Wの外周面に切り込ませて工作物Wの外周面の切削加工を行う。
【0020】
また、制御装置100は、第1計測装置21で計測した
図2Aに示す環状工具90の回転軸線Rt方向から見た切れ刃91rの刃先の輪郭と、回転軸線Rtと直角でX軸線と平行な直線Hとが交わる2点のうち一方の交点の位置(以下、「逃げ面91c側の刃先位置Q1」という)を求める。また、第2計測装置22で計測した
図2Bに示す環状工具90の回転軸線Rtと直角でY軸線と平行な方向から見た切れ刃91rの刃先の2点のうち一方の点の位置(以下、「すくい面91b側の刃先位置Q2」という)を求める。そして、求めた逃げ面91c側の刃先位置Q1又はすくい面91b側の刃先位置Q2に基づいて、工具状態、すなわち環状工具90の回転振れ量や端面振れ量及び環状工具90の切れ刃91rの刃先摩耗量を求める。
【0021】
そして、制御装置100は、求めた工具状態に基づいて、主軸用モータ72及び砥石用モータ16を駆動制御して、環状工具90を回転させるとともに砥石14を回転させ、必要なときは砥石台用モータ15を駆動制御して砥石14を所定角度に傾斜させ、送りテーブル用モータ33、スライダ用モータ52及び主軸ヘッド用モータ62を駆動制御して、環状工具90と砥石14とをX軸線方向、Y軸線方向及びZ軸線方向に相対移動することにより、機上において、つまり工具主軸7から環状工具90を取り外さないで環状工具90の逃げ面91cやすくい面91bを砥石14で研磨して環状工具90の修正を行う。
【0022】
(2.制御装置の構成)
図1に示すように、制御装置100は、送りテーブル移動制御部101と、スライダ移動制御部102と、ヘッド移動制御部103と、主軸回転制御部104と、チルトテーブル回転制御部105と、ターンテーブル回転制御部106と、砥石台回転制御部107と、砥石回転制御部108と、修正制御部109等とを備える。ここで、各部101〜109は、それぞれ個別のハードウエアにより構成することもできるし、ソフトウエアによりそれぞれ実現する構成とすることもできる。
【0023】
送りテーブル移動制御部101は、送りテーブル用モータ33の回転駆動を制御して送りテーブル3をガイド部材31に沿ってY軸線方向に往復移動させる。
スライダ移動制御部102は、スライダ用モータ52の回転駆動を制御してスライダ5を案内面41aに沿ってX軸線方向に往復移動させる。
ヘッド移動制御部103は、主軸ヘッド用モータ62の回転駆動を制御して主軸ヘッド6を案内面5aに沿ってZ軸線方向に往復移動させる。
主軸回転制御部104は、主軸用モータ72の回転駆動を制御して工具主軸7をZ軸線回りで回転駆動させる。
【0024】
チルトテーブル回転制御部105は、チルトテーブル用モータ82の回転駆動を制御してチルトテーブル8をA軸線回りで所定角度だけ回転(揺動)駆動させる。
ターンテーブル回転制御部106は、ターンテーブル用モータ99の回転駆動を制御してターンテーブル9をC軸線回りで回転駆動もしくは所定角度だけ回転駆動させる。
砥石台回転制御部107は、砥石台用モータ15の回転駆動を制御して砥石台11を砥石台軸線Rd回りで所定角度だけ回転(揺動)駆動させる。
砥石回転制御部108は、砥石用モータ16の回転駆動を制御して砥石14を砥石軸線Rg回りで回転駆動させる。
【0025】
修正制御部109には、環状工具90の端面である逃げ面91cの外径、及び外周面であるすくい面91bを回転軸線Rtと直角な方向から見たときの傾斜線と、逃げ面91cを回転軸線Rtと直角な方向から見たときの直線との成す角である刃先角α(
図2B参照)等の工具情報、環状工具90の刃先摩耗量の摩耗量閾値、環状工具90の回転振れ量の回転振れ量閾値、環状工具90の端面振れ量の端面振れ量閾値等が記憶され、送りテーブル移動制御部101、スライダ移動制御部102、ヘッド移動制御部103、主軸回転制御部104、砥石台回転制御部107及び砥石回転制御部108に対し環状工具90の修正を指令する。
【0026】
(3.環状工具の形状)
図2A及び
図2Bに示すように、環状工具90は、円錐台状の工具本体91と、工具本体91の根元側の小径端面91aから延びる円柱状の工具軸92とで構成される。工具本体91の外周面は、円錐面状のすくい面91bとして形成され、工具本体91の大径端面は、平坦な逃げ面91cとして形成される。そして、工具本体91のすくい面91bと逃げ面91cとのなす稜線は、連続した円形状、すなわち途中で分断されていない円形状の切れ刃91rとして形成される。環状工具90の刃先角αは、切れ刃91rの強度を保持するため、45度以上、好ましくは70度から80度で形成される。
【0027】
(4.環状工具を用いた切削加工方法)
次に、環状工具90を用いた切削方法を、
図4A及び
図4Bを参照して円筒状の工作物Wの外周面Wsを周方向に切削加工する場合、すなわちプランジ方向送りで切削加工する場合について説明する。なお、工作物Wは、工作物Wの端面がターンテーブル9の上面に密着するように載置固定され、チルトテーブル8は、C軸線とZ軸線が平行になるように位置決めされているとする。
【0028】
先ず、制御装置100は、工作物Wの回転軸線Rwを通るZ軸線に平行な直線Lcと環状工具90の回転軸線Rtとが平行になるようにチルトテーブル8を回転させる。具体的には、チルトテーブル回転制御部105は、チルトテーブル用モータ82の回転駆動を制御してチルトテーブル8をA軸線回りで90度回転(揺動)駆動させる。
【0029】
そして、制御装置100は、工作物W及び環状工具90を回転させ、工作物Wの外周面Wsの切削点Ptに環状工具90の切れ刃91rを位置決めし、環状工具90をY軸線方向に移動させて工作物Wの外周面Wsを周方向に切削加工する。具体的には、ターンテーブル回転制御部106は、ターンテーブル用モータ99の回転駆動を制御してターンテーブル9をC軸線回りで回転駆動させ、工作物Wを回転軸線Rw回りで回転方向rwに回転させるとともに、主軸回転制御部104は、主軸用モータ72の回転駆動を制御して工具主軸7を環状工具90とともに回転軸線Rt回りで回転方向rtに回転駆動させる。
【0030】
そして、送りテーブル移動制御部101は、送りテーブル用モータ33の回転駆動を制御して送りテーブル3をガイド部材31に沿ってY軸線方向に移動させ、スライダ移動制御部102は、スライダ用モータ52の回転駆動を制御してスライダ5を案内面41aに沿ってX軸線方向に移動させ、ヘッド移動制御部103は、主軸ヘッド用モータ62の回転駆動を制御して主軸ヘッド6を案内面5aに沿ってZ軸線方向に移動させることで、工作物Wの外周面Wsの切削点Ptに環状工具90の切れ刃91rを位置決めする。
【0031】
そして、送りテーブル移動制御部101は、送りテーブル用モータ33の回転駆動を制御して送りテーブル3をガイド部材31に沿ってY軸線方向に移動させることで、環状工具90をY軸線方向に相対移動させて工作物Wの外周面Wsを周方向に切削加工する。このとき、環状工具90は、切削点Ptにおいて受ける切削抵抗力により僅かに振動するが、その振動方向vtは工作物Wの回転軸線Rwと直角であって切削点Ptを通る直線Ltの方向に対し角度θ回転させた方向、すなわち切削送り方向Gpに対し角度θの補角(180度−θ度)だけ回転させた方向である。よって、環状工具90の切れ刃91rは、振動によって工作物Wの外周面Wsから径方向に周期的に離脱する量が少ないので、工作物Wの外周面Wsには、切削加工時に環状工具90の回転振れの影響が転写され難く、外周面Wsの精度が向上する。
【0032】
また、環状工具90では、工具本体91の工具外周面をすくい面91bとして切削加工を行う。この環状工具90による切削加工では、環状工具90のすくい面91bが回転しながら工作物Wの外周面Wsに対し切り込んでいく引き切り作用、及び切屑Kが回転する環状工具90のすくい面91bに引っ張られて流出する引っ張り作用を示す。このため、上記引き切り作用により切削抵抗力を低減して切れ刃91rの温度を低減できるので、環状工具90の工具寿命の向上を図れる。なお、環状工具90の切れ刃91r又はすくい面91bの周速が、環状工具90の切削速度(環状工具90と工作物Wの相対送り方向の移動速度)より大きく設定されていてもよい。
【0033】
さらに、環状工具90のせん断角δ、すなわち切削送り方向Gpに対する切屑Kの流出方向は、上記引っ張り作用により環状工具90を回転させないで切削加工を行う押し切りのときよりも大きくなる。これにより、環状工具90による切削加工では、切削抵抗力を低減して切れ刃91rの温度を低減できるので、環状工具90の工具寿命の向上を図れる。以上より、環状工具90を用いた切削加工では、切れ刃91rの温度が問題となるチタン合金やインコネル等の難切削材の切削において、より高能率な切削が可能となる。
【0034】
(5.環状工具の修正方法)
次に、環状工具90の修正方法について説明する。環状工具90の修正項目としては、振れ取り、再研磨、刃先処理(チャンファ、ホーニング)がある。振れ取りとは、環状工具90の工具本体91の中心軸線が工具軸92の回転軸線Rtに対しズレて形成された場合等に起因する初期の回転振れを除去することをいい、すくい面91bの研磨によるラジアル方向の初期振れ除去がある。また、振れ取りとは、環状工具90の逃げ面91cがXY平面に対し傾斜して形成された場合等に起因する初期の端面振れを除去することをいい、逃げ面91cの研磨によるアキシャル方向の初期振れ除去がある。再研磨とは、工作物Wに対する切削加工後の環状工具90の刃先近辺の摩耗箇所を除去することをいい、逃げ面91cの研磨による摩耗箇所の除去及びすくい面91bの研磨による摩耗箇所の除去がある。刃先処理とは、高硬度な難切削材を切削加工する際の工具チッピング防止のため、環状工具90の切れ刃91rの刃先をR形状又はC面取り形状に研磨することをいう。
【0035】
詳細には、ラジアル方向の初期の回転振れとして、
図5Aに示すように、環状工具90の工具本体91の中心軸線Rt´が、工具軸92の回転軸線Rtに対し径方向にdeだけズレて形成された場合、
図5Bに示すように、環状工具90のすくい面91bを砥石14の外周面で研磨して回転振れ量deを除去する。具体的には、修正制御部109は、
図5Aに示すように、上記ズレが無いときの環状工具90の回転軸線Rt方向から見た切れ刃91rの輪郭E1(図示一転鎖線)及び計測装置20で計測した環状工具90の回転軸線Rt方向から見た切れ刃91rの輪郭E2(図示実線)と、回転軸線Rtと中心軸線Rt´とを通る直線L1とが交わる逃げ面91c側の刃先位置Pe1,Pe2を入力し、刃先位置Pe1,Pe2間の距離を回転振れ量deとして求める。そして、砥石台回転制御部107は、砥石台用モータ15の回転駆動を制御して砥石台11を砥石台軸線Rd回りで所定角度、すなわち環状工具90のすくい面91bと砥石14の外周面とが平行になる角度(環状工具90の刃先角α)だけ回転(揺動)駆動させる。
【0036】
そして、砥石回転制御部108は、砥石用モータ16の回転駆動を制御して砥石14を砥石軸線Rg回りで回転駆動させるとともに、主軸回転制御部104は、主軸用モータ72の回転駆動を制御して工具主軸7を環状工具90とともに回転軸線Rt回りで回転方向rtに回転駆動させる。そして、前述のように送りテーブル移動制御部101、スライダ移動制御部102及びヘッド移動制御部103の制御により、環状工具90のすくい面91bを砥石14の外周面で回転振れ量de分だけ研磨してラジアル方向の初期の回転振れを除去する。
【0037】
また、アキシャル方向の初期の端面振れとして、
図6Aに示すように、環状工具90の逃げ面91cが、XY平面に対し回転軸線Rt方向に最大でdfだけズレるように傾斜して形成された場合、
図6Bに示すように、環状工具90の逃げ面91cを砥石14の上端面で研磨して端面振れ量dfを除去する。具体的には、修正制御部109は、
図6Aに示すように、上記傾斜が無いときの環状工具90の回転軸線Rt直角でY軸線と平行な方向から見た切れ刃91rのすくい面91b側の刃先位置Pf1と、計測装置20で計測した環状工具90の回転軸線Rtと直角でY軸線と平行な方向から見た切れ刃91rのすくい面91b側の刃先位置Pf2を入力し、刃先位置Pf1,Pf2間の距離を端面振れ量dfとして求める。そして、砥石台回転制御部107は、砥石台用モータ15の回転駆動を制御して砥石台11を砥石軸線がZ軸線と平行になるように砥石台軸線Rd回りで回転(揺動)駆動、すなわち環状工具90の逃げ面91cと砥石14の上端面とが平行になるように回転(揺動)駆動させる。
【0038】
そして、砥石回転制御部108は、砥石用モータ16の回転駆動を制御して砥石14を砥石軸線Rg回りで回転駆動させるとともに、主軸回転制御部104は、主軸用モータ72の回転駆動を制御して工具主軸7を環状工具90とともに回転軸線Rt回りで回転方向rtに回転駆動させる。そして、前述のように送りテーブル移動制御部101、スライダ移動制御部102及びヘッド移動制御部103の制御により、環状工具90の逃げ面91cを砥石14の上端面で回転振れ量df分だけ研磨してアキシャル方向の初期の端面振れを除去する。
【0039】
また、
図7Aに示すように、環状工具90の切れ刃91rの刃先近辺は、研削加工により一点鎖線で示す初期状態から実線で示す摩耗状態になる。この摩耗状態では、環状工具90の逃げ面91c及びすくい面91bが侵食、すなわち逃げ面91c側には切れ刃91rの刃先から径方向に距離drの分の刃先摩耗量が発生し、すくい面91b側には切れ刃91rの刃先から回転軸線Rt方向に距離dhの分の刃先摩耗量が発生している。この場合、
図7Bに示すように、環状工具90の逃げ面91cを、距離dhだけ砥石14の上端面で研磨して摩耗箇所を除去する方法と、
図7Cに示すように、環状工具90のすくい面91bを、距離drだけ砥石14の外周面で研磨して摩耗箇所を除去する方法がある。なお、これらの再研磨の制御動作は、上述の振れ取りの制御動作と同様であるので説明を省略する。
【0040】
また、
図8A及び
図8Bに示すように、環状工具90の切れ刃91rの刃先が一点鎖線で示すように鋭角になっていると欠け易いので、環状工具90の切れ刃91rの刃先を実線で示すR形状又はC面取り形状に研磨する。なお、これらの刃先処理の制御動作は、上述の振れ取りの制御動作と同様であるので説明を省略する。
【0041】
(6.切削加工制御及び修正制御)
次に、環状工具90による切削加工制御及び環状工具90の修正制御の概略について、
図3のフローチャートを参照して説明する。
制御装置100は、環状工具90を回転させ(
図3のステップS1)、計測装置20の計測結果に基づいて環状工具90の回転振れ量及び端面振れ量を求める(
図3のステップS2)。そして、求めた環状工具90の回転振れ量が、予め記憶している回転振れ量閾値以下であるか否かを判断する(
図3のステップS3)。そして、求めた環状工具90の回転振れ量が、回転振れ量閾値を越えたと判断したときは、環状工具90の振れ取りを行い(
図3のステップS4)、ステップS2に戻って上述の処理を行う。
【0042】
一方、制御装置100は、ステップS3において、求めた環状工具90の回転振れ量が、回転振れ量閾値以下であると判断したときは、求めた環状工具90の端面振れ量が、予め記憶している端面振れ量閾値以下であるか否かを判断する(
図3のステップS5)。そして、求めた環状工具90の端面振れ量が、端面振れ量閾値を越えたと判断したときは、環状工具90の振れ取りを行い(
図3のステップS4)、ステップS2に戻って上述の処理を行う。
【0043】
一方、制御装置100は、ステップS5において、求めた環状工具90の端面振れ量が、端面振れ量閾値以下であると判断したときは、当該環状工具90による工作物Wの切削加工を開始する(
図3のステップS6)。そして、工作物Wの切削加工が完了したか否かを判断し(
図3のステップS7)、工作物Wの切削加工が完了したと判断したときは、摩耗検査条件に該当、例えば、工作物Wの切削回数が所定回数を超過したか否かを判断する(
図3のステップS8)。
【0044】
一方、制御装置100は、ステップS8において、摩耗検査条件に該当したと判断したときは、計測装置20の計測結果に基づいて環状工具90の刃先摩耗量を求め(
図3のステップS9)、求めた環状工具90の刃先摩耗量が、予め記憶している摩耗量閾値以下であるか否かを判断する(
図3のステップS10)。そして、求めた環状工具90の刃先摩耗量が、摩耗量閾値を越えたと判断したときは、環状工具90の再研磨を行う(
図3のステップS11)。
【0045】
そして、制御装置100は、ステップS8において、摩耗検査条件に該当していないと判断したとき、ステップS10において、求めた環状工具90の刃先摩耗量が、摩耗量閾値以下であると判断したとき、及びステップS11において、環状工具90の再研磨が完了したときは、次に切削加工すべき工作物Wが有るか否かを判断し(
図3のステップS12)、次に切削加工すべき工作物Wが有ると判断したときは、ステップS6に戻って上述の処理を行う。一方、次に切削加工すべき工作物Wが無いと判断したときは、環状工具90を回転を停止させ(
図3のステップS13)、全ての処理を終了する。
【0046】
なお、環状工具90の切れ刃91rの刃先位置座標は、環状工具90の修正動作により多少変化するため、制御装置100は、切削加工動作開始前に新しい刃先位置座標を求めて当該刃先位置に環状工具90の切れ刃91rを位置決めすることにより、加工精度をさらに向上させるようにしてもよい。環状工具90の修正動作により変化した環状工具90の切れ刃91rの刃先位置座標は、環状工具90の刃先摩耗の修正動作や回転振れ、端面振れの修正動作と並行して検出してもよく、また当該修正動作終了後から切削加工動作開始前までに検出してもよい。また、検出手段としては、撮像装置による画像解析やセンサによる接触検知等で直接的に検出し、又は環状工具90の修正動作時の移動軌跡等から演算や推定により間接的に検出するようにしてもよい。
【0047】
(7.その他)
なお、上述の実施形態では、修正制御部109は、ビデオマイクロスコープの計測結果に基づいて環状工具90の工具状態を計測するように構成したが、主軸用モータ72の駆動電流の変動により切削抵抗を推定して環状工具90の工具状態を予測するように構成してもよい。
また、修正制御部109は、ビデオマイクロスコープの計測結果に基づいてすくい面に及んでいる摩耗分drを求める構成としたが、逃げ面91cに及んでいる摩耗分dhからすくい面に及んでいる摩耗分drを推定するように構成してもよい。
【0048】
また、摩耗検査条件としては、工作物Wの切削回数が所定回数を超過したときとしたが、工作物Wの切削時間が所定時間を経過したとき、工作物Wの切削量が所定量を超えたとき又は工作物Wの切削加工が完了したときとしてもよい。
また、修正制御部109は、環状工具90で工作物Wを切削加工している最中に、加工点と回転軸線Rtを挟んで反対側において砥石14で環状工具90を修正するようにしてもよい。これにより、生産効率を更に高めることができる。
また、修正制御部109は、上記摩耗検査条件に基づいて環状工具90の摩耗量を推定もしくは演算するようにしてもよい。これにより、計測装置20は不要となる。
【0049】
また、環状工具90の工具本体91を円錐台状に形成したが、軸直角断面が円であればよく、例えば円柱状もしくは逆円錐台状に形成してもよい。この場合の環状工具は、すくい面を正とすると逃げ面が工作物Wと干渉するおそれがあるため、すくい面を負とするか逃げ面となる部分を凹ませて工作物Wとの干渉を防止する。
また、本実施形態では、工作物保持台をターンテーブル9とし工作物Wを回転させていたが、工作物Wは回転体に限らず環状工具90と相対的に直線移動する部材であってもよい。
【0050】
(8.効果)
本実施形態の切削装置1は、環状の切れ刃91rを有する環状工具90を取り付け、環状工具90を当該環状工具90の軸線Rt回りに回転させる工具主軸7と、工作物Wを取り付けるターンテーブル9(工作物保持台)と、を備え、工具主軸7及びターンテーブル9を、環状工具90の工具外周面がすくい面91bとなり、環状工具90の工具端面が逃げ面91cとなる相対位置関係に配置可能な切削装置1であって、環状工具90を工具主軸7に取り付けた状態で環状工具90の工具状態を計測する計測装置20と、環状工具90を工具主軸7に取り付けて工具主軸7により回転させた状態で環状工具90の形状を修正する工具修正装置10と、工具主軸7及びターンテーブル9(工作物保持台)が相対位置関係に配置された状態で工作物Wの切削加工動作を制御し、計測装置20の計測結果に基づいて工具修正装置10による環状工具90の修正動作を制御する制御装置100と、を備える。
【0051】
この環状工具90による切削加工では、外周面が回転しながら工作物Wに対し切り込んでいく引き切り作用、及び切屑が回転する外周面に引っ張られて流出する引っ張り作用を示す。よって、この切削加工においては、環状工具90が回転して切れ刃91rに発生する切削熱が外周面全周に分散されることと合わせて上記作用により切削抵抗力を低減して切れ刃91rの温度を低減でき、切れ刃91rの状態悪化を抑制して工作物Wの切削加工面の精度の低下を抑制できる。そして、この切削装置1においては、機上にて環状工具90を修正できるので、工具交換の段取り時間の短縮化を図ることができ、切削加工の効率の低下を抑制できるとともに、環状工具90の修正限度まで使い続けることができ、工具コストの低減を図れる。
【0052】
また、計測装置20は、環状工具90の工具状態としての環状工具90の刃先摩耗量を計測し、工具修正装置10は、刃先摩耗量に応じて環状工具90の形状を修正するので、作業者による環状工具90の摩耗修正作業の負担を軽減できる。
また、制御装置100は、刃先摩耗量の摩耗量閾値を記憶し、刃先摩耗量が摩耗量閾値以下となるように工具修正装置10を制御するので、高精度な工作物Wの切削加工を維持できる。制御装置100は、刃先摩耗量及び環状工具90の刃先角αに基づいて修正量を決定し、修正量での修正を工具修正装置10に指令するので、高精度な環状工具90の修正が可能となる。工具修正装置10は、環状工具90の端面形状を修正するので、容易に修正できる。
【0053】
また、計測装置20は、環状工具90の工具状態としての環状工具90の振れ量を計測し、工具修正装置10は、振れ量に応じて環状工具90の形状を修正するので、作業者による環状工具90の振れ修正作業の負担を軽減できる。
また、制御装置100は、環状工具90の振れ量の振れ量閾値を記憶し、環状工具90の振れ量が振れ量閾値以下となるように工具修正装置10を制御するので、高精度な工作物Wの切削加工を維持できる。具体的には、計測装置20は、環状工具90の回転振れ量を計測し、工具修正装置10は、回転振れ量に応じて環状工具90の外周面形状を修正するので、環状工具90を容易に修正できる。計測装置20は、環状工具90の端面振れ量を計測し、工具修正装置10は、端面振れ量に応じて環状工具90の端面形状を修正するので、環状工具90を容易に修正できる。
【0054】
本実施形態の切削装置1では、環状工具90を回転させるため、必然的に環状工具90の回転振れの影響が加工精度に影響する。加工精度を高めるには、環状工具90の回転振れを小さくする必要がある。ところが、機外の装置で環状工具90の工具形状を修正する場合、工具形状自体に起因する回転振れの影響は小さくできても、工具主軸7への工具取り付けに起因する回転振れが残って加工精度が低下するおそれがある。そして、工具取り付けに起因する回転振れを小さくするための調整工程が必要となり、作業効率が低下する。本実施形態の切削装置1によれば、工具形状自体に起因する回転振れと、工具取り付けに起因する回転振れとを機上で同時に取り除けるため、加工精度及び作業効率を向上できる。
【0055】
また、制御装置100は、環状工具90の刃先処理を工具修正装置10に指令するので、高硬度な難切削材を切削加工する際の工具チッピングを防止できる。
また、制御装置100は、環状工具90の刃先位置を計測装置20で計測しつつ工具修正装置10を制御するので、簡易な修正制御となる。
また、工具修正装置10は、回転砥石14を備えるので、環状工具90の工具端面及び工具外周面を修正できる。
【0056】
本実施形態の切削方法は、環状の切れ刃91rを有する環状工具90を取り付け、環状工具90を当該環状工具90の軸線Rt回りに回転させる工具主軸7と、工作物Wを取り付けるターンテーブル9(工作物保持台)と、を備え、工具主軸7及びターンテーブル9を、環状工具90の外周面がすくい面91bとなり、環状工具90の端面が逃げ面91cとなる相対位置関係に配置して切削加工可能な切削装置1における切削方法であって、環状工具90を工具主軸7に取り付けた状態で環状工具90の工具状態を計測する計測工程と、計測工程における計測結果に基づいて、環状工具90を工具主軸7に取り付けて工具主軸7により回転させた状態で環状工具90の形状を修正する修正工程と、を備える。本実施形態の切削方法によれば、上述した切削装置1における効果と同様の効果を奏する。