特許第6561599号(P6561599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561599
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブセット
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/00 20150101AFI20190808BHJP
   A63B 53/04 20150101ALI20190808BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20190808BHJP
【FI】
   A63B53/00 A
   A63B53/04 A
   A63B102:32
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-113533(P2015-113533)
(22)【出願日】2015年6月3日
(65)【公開番号】特開2016-221171(P2016-221171A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2017年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100112896
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 宏記
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 知孝
【審査官】 谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0210373(US,A1)
【文献】 特開2015−029628(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0324293(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00−53/06
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロフト角が異なる複数の番手のゴルフクラブにより構成されたゴルフクラブセットであって、
前記各ゴルフクラブは、シャフトと、ゴルフクラブヘッドと、を有し、
前記各ゴルフクラブヘッドは、
クラウン部と、
フェース部と、
ソール部と、
を備え、
前記クラウン部は、
前記ソール部と接する本体部と、
前記フェース部との境界に沿ってトゥ−ヒール方向に延びる隆起部と、
フェース−バック方向において、前記本体部と隆起部との間に形成される段差と、
を備え、
前記ゴルフクラブセットに含まれる複数のゴルフクラブのうち、少なくとも一組の番手の小さいゴルフクラブと番手の大きいゴルフクラブにおいて、当該ゴルフクラブヘッドのスイートスポットと重心とを通過する垂直面に沿う前記段差のフェース−バック方向の長さは、前記番手の大きいゴルフクラブより、前記番手の小さいゴルフクラブの方が長い、ゴルフクラブセット。
【請求項2】
前記少なくとも一組の番手の小さいゴルフクラブと番手の大きいゴルフクラブは、隣接する番手のゴルフクラブである、請求項1に記載のゴルフクラブセット。
【請求項3】
前記ゴルフクラブヘッドのスイートスポットと重心とを通過する垂直面に沿う前記隆起部のフェース−バック方向の長さは、前記番手の小さいゴルフクラブと、前記番手の大きいゴルフクラブとで、同じである、請求項1または2に記載のゴルフクラブセット。
【請求項4】
前記ゴルフクラブセットに含まれる前記ゴルフクラブの少なくとも1つは、ヘッド本体と、フェース用部材とを組立てることで構成され、
前記ヘッド本体は、前記クラウン部及びソール部により構成され、当該クラウン部及びソール部で囲まれた開口を有し、
前記フェース用部材は、ボールを打撃する板状の前記フェース部と、当該フェース部の周縁から延び、前記開口の端面と接合される周縁部と、を有するカップ状に形成され、
前記フェース用部材の周縁部は、前記ヘッド本体の開口において、前記クラウン部及びソール部と接合される、請求項1から3のいずれかに記載のゴルフクラブセット。
【請求項5】
前記各ゴルフクラブのゴルフクラブヘッドにおいては、前記隆起部の高さが略同じである、請求項1から4のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブセットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クラウン部に、フェース部との境界に沿って延びる隆起部を形成したゴルフクラブヘッドが開示されている。このゴルフクラブでは、隆起部によって、フェース部の高さが高くなるため反発性能が向上するとともに、クラウン部において隆起部以外の領域は高さが低くなるため、ヘッドの重心を低くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−160004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなゴルフクラブヘッドを有するゴルフクラブを用いてゴルフクラブセットを構成し、すべての隆起部を概ね同じ寸法で設計した場合には、アドレスに入ったとき、クラブによって隆起部の見え方が相違し、ゴルファーが違和感を持つ可能性がある。特に、番手の低いクラブは、番手の高いクラブに比べて、アドレス時のヘッドの位置が前方になるため、隆起部の段差が目立ちやすく、番手の高いクラブを使用時と同様にしてアドレスに入りにくいという問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、番手の異なるクラブ間で、隆起部の見え方に違和感が生じるのを防止し、番手が変わっても自然にアドレスに入ることが可能なゴルフクラブセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ロフト角が異なる複数の番手のゴルフクラブにより構成されたゴルフクラブセットであって、前記各ゴルフクラブは、シャフトと、ゴルフクラブヘッドと、を有し、前記各ゴルフクラブヘッドは、クラウン部と、フェース部と、ソール部と、を備え、前記クラウン部は、前記ソール部と接する本体部と、前記フェース部との境界に沿ってトゥ−ヒール方向に延び、前記本体部から段差を形成して隆起する隆起部と、を備え、前記ゴルフクラブセットに含まれる複数のゴルフクラブのうち、少なくとも一組の番手の小さいゴルフクラブと番手の大きいゴルフクラブにおいて、当該ゴルフクラブヘッドのスイートスポットと重心とを通過する垂直面に沿う前記段差のフェース−バック方向の長さは、前記番手の大きいゴルフクラブより、前記番手の小さいゴルフクラブの方が長い。
【0007】
上記ゴルフクラブセットにおいて、前記少なくとも一組の番手の小さいゴルフクラブと番手の大きいゴルフクラブは、隣接する番手のゴルフクラブとすることができる。
【0008】
上記各ゴルフクラブセットにおいて、前記ゴルフクラブヘッドのスイートスポットと重心とを通過する垂直面に沿う前記隆起部のフェース−バック方向の長さは、前記番手の小さいゴルフクラブと、前記番手の大きいゴルフクラブとで、同じにすることができる。
【0009】
上記ゴルフクラブセットに含まれる前記ゴルフクラブの少なくとも1つは、ヘッド本体と、フェース用部材とを組立てることで構成され、前記ヘッド本体は、前記クラウン部及びソール部により構成され、当該クラウン部及びソール部で囲まれた開口を有し、前記フェース用部材は、ボールを打撃する板状の前記フェース部と、当該フェース部の周縁から延び、前記開口の端面と接合される周縁部と、を有するカップ状に形成され、前記フェース用部材の周縁部は、前記ヘッド本体の開口において、前記クラウン部及びソール部と接合されるように構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るゴルフクラブセットによれば、番手の異なるクラブ間で、隆起部の見え方に違和感が生じるのを防止し、番手が変わっても自然にアドレスに入ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係るゴルフクラブヘッドの基準状態の斜視図である。
図2図1の平面図である。
図3】フェース部の境界を説明する図である。
図4図1に示すゴルフクラブヘッドの組立を説明する斜視図である。
図5図2のA−A線断面図である。
図6】本実施形態に係るゴルフクラブセットを構成するゴルフクラブヘッドの断面図である。
図7図1に示すゴルフクラブヘッドの組立を説明する断面図である。
図8図1に示すゴルフクラブヘッドの組立を説明する断面図である。
図9図1に示すゴルフクラブヘッドの組立を説明する断面図である。
図10図1に示すゴルフクラブヘッドの組立を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るゴルフクラブセットの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係るゴルフクラブセットを構成するゴルフクラブは、ユーティリティ型のゴルフクラブ(例えば、2番〜7番ユーティリティ)であり、後述するように、主として、ロフト角のほか、クラウン部の隆起部の形状が相違している。以下では、まず、ゴルフクラブの1つを例に取り、共通の構造を概説した後、ゴルフクラブセットにおける、番手ごとのクラウン部の形状について、詳細に説明する。
【0013】
<1.ゴルフクラブヘッドの概要>
図1に示すように、本実施形態に係るゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」ということがある)は、中空構造であり、フェース部1、クラウン部2、ソール部3、サイド部4、及びホーゼル部5によって壁面が形成されている。
【0014】
フェース部1は、ボールを打撃する面であり、クラウン部2はフェース部1と隣接し、ヘッドの上面を構成する。ソール部3は、ヘッドの底面を構成し、フェース部1及びサイド部4と隣接する。また、サイド部4は、クラウン部2とソール部3との間の部位であり、フェース部1のトウ側からヘッドのバック側を通りフェース部1のヒール側へと延びる部位である。さらに、ホーゼル部5は、クラウン部2のヒール側に隣接して設けられる部位であり、ゴルフクラブのシャフト(図示省略)が挿入される挿入孔51を有している。そして、この挿入孔51の中心軸線Zは、シャフトの軸線に一致している。
【0015】
ここで、上述した基準状態について説明する。まず、図2に示すように、上記中心軸線Zが水平面H(設置面、図5参照)に対して垂直な平面P1に含まれ、且つ所定のライ角及びリアルロフト角で水平面H上にヘッドが載置された状態を基準状態と規定する。そして、上記平面P1を基準垂直面P1と称する。また、図2に示すように、上記基準垂直面P1と上記水平面Hとの交線の方向をトウ−ヒール方向と称し、このトウ−ヒール方向に対して垂直であり且つ上記水平面Hに対して平行な方向をフェース−バック方向と称することとする。
【0016】
本実施形態において、クラウン部2とサイド部4との境界は次のように定義することができる。すなわち、クラウン部2とサイド部4との間に稜線が形成されている場合には、これが境界となる。これに対して、明確な稜線が形成されていない場合には、ヘッドを基準状態に設置し、これをヘッドの重心の真上から見たときの輪郭が境界となる。また、クラウン部2とフェース部1との境界についても、同様であり、稜線が形成されている場合には、これが境界となる。一方、明確な稜線が形成されていない場合には、例えば、図3(a)に示されるように、ヘッド重心GとスイートスポットSSとを結ぶ直線Nを含む各断面E1、E2、E3…において、図3(b)に示されるように、フェース外面輪郭線Lfの曲率半径rがスイートスポット側からフェース外側に向かって初めて200mmとなる位置Peがフェース部1の周縁(境界)として定義される。なお、スイートスポットSSとは、ヘッド重心Gを通るフェース面の法線(直線N)とこのフェース面との交点である。
【0017】
また、本実施形態において、ソール部3とフェース部1、及びソール部3とサイド部4の境界は次のように定義することができる。すなわち、ソール部3とフェース部1、及びソール部3とサイド部4の間に稜線が形成されている場合には、これが境界となる。また、本実施形態に係るゴルフクラブヘッドでは、サイド部4を有しているが、例えば、サイド部を有さなかったり、サイド部4が明確に判別できずソール部3に含まれており、ソール部3がクラウン部2と直接連結されているような場合には、ソール部3とクラウン部2との間の稜線が、両者の境界となる。また、明確な稜線が形成されていない場合には、ヘッドを基準状態に設置し、これをヘッドの重心の真上から見たときの輪郭が境界となる。なお、上記のようにサイド部が明確に判断できない場合も考慮して、本発明に係る「ソール部」は、サイド部を含むものとする。
【0018】
このゴルフクラブヘッドの体積は、例えば、90cm3以上であることが好ましく、100cm3以上であることがさらに好ましい。このような体積を有するヘッドは、構えた際の安心感が増し、かつ、スイートエリア及び慣性モーメントを増大させるのに役立つ。なお、ヘッド体積の上限は特に定めないが、実用上、ユーティリティウッド向けとしては例えば130cm3以下が望ましい。
【0019】
また、ヘッドは、例えば、比重がほぼ7.7〜7.8程度のマレージング鋼で形成することができる。また、マレージング鋼以外にも、例えばステンレス鋼、チタン合金、アルミ合金、マグネシウム合金、またはアモルファス合金などの中から1種または2種以上を用いて形成することもできる。
【0020】
<2.ゴルフクラブヘッドの組立構造>
本実施形態に係るヘッドは、図4に示すように、クラウン部2、ソール部3、及びサイド部4を有するヘッド本体10と、フェース部1及びその周縁から延びる周縁部12を有するカップ状に形成されたフェース用部材20と、を組み立てることで構成される。このヘッド本体10は、クラウン部2、ソール部3、及びサイド部4で囲まれた開口を有し、この開口を塞ぐようにフェース用部材20が取り付けられる。すなわち、フェース用部材20の周縁部12の端面が、開口61の端面と突き合わされ、これらが、後述するように溶接によって接合される。そして、フェース用部材20は、ヘッド本体10の開口に取付けられることで、ヘッド本体10と一体化され、これによって、フェース用部材20の周縁部12は、クラウン部2、ソール部3、及びサイド部4の一部として機能する。したがって、フェース用部材20の周縁部12がヘッド本体10に取付けられることで一体的に形成される面が、クラウン部2、ソール部3、及びサイド部4を構成する。そのため、厳密には、ヘッド本体10の各部は、これらの一部ではあるが、以下では、これを区別することなく、ヘッド本体10の各部も、クラウン部2、ソール部3、及びサイド部4と称することがある。
【0021】
<3.クラウン部及びソール部の構造>
続いて、図5も参照しつつ、クラウン部2について説明する。図5図2のA−A線断面図、つまりヘッドのスイートスポット及び重心を通過する垂直面(上述した水平面Hに垂直な面、以下同じ)に沿う断面である。同図に示すように、クラウン部2は、サイド部4と接する本体部21と、フェース部1と接する隆起部22とで構成されている。隆起部22は、フェース部1に沿ってトゥ−ヒール方向に延びる帯状の領域であり、本体部21との境界が段差23となっている。すなわち、図5に示すように、隆起部22は、傾斜するように延びる段差23を介して、本体部21よりも高い位置に形成されている。これにより、隆起部22と本体部21との段差23の分だけ、フェース部1の上下方向の高さが高くなっている。なお、隆起部22と接合されるフェース用部材20の周縁部12も、隆起部22の一部として機能する。
【0022】
隆起部22は、フェース用部材20の周縁部12と接合する第1部位221と、この第1部位221のバック側に一体的に連結される第2部位222とを備えている。第1部位221は、フェース用部材20の周縁部12の端面と接合する部位であり、周縁部12よりも肉厚が大きくなっている。一方、第2部位222は、第1部位221よりも肉厚が小さくなっている。より詳細には、クラウン部2の外面においては、両部位221,222は平坦に接続されているが、クラウン部2の内面において、第2部位222は、第1部位221の後端側で段差を形成して肉厚が小さくなっている。そして、第2部位222の後端部には、上述したように、隆起部22の後端の段差23が形成されている。
【0023】
フェース用部材20の周縁部12及び隆起部22のフェース−バック方向の合計幅Dは、例えば、5〜20mmとすることが好ましく、7〜15mmとすることがさらに好ましい。このうち、第1部位221のフェース−バック方向の幅は、例えば、1〜10mmとすることが好ましく、1〜5mmとすることがさらに好ましい。第1部位221と第2部位222の幅の比は、概ね1:1であることが好ましい。また、隆起部22と本体部21との段差23の高さhは、例えば、1〜5mmとすることが好ましく、1.5〜4mmとすることがさらに好ましい。さらに、隆起部22の第1部位221の肉厚は、例えば、1〜3mmであることが好ましく、1.5〜2.5mmであることがさらに好ましい。また、隆起部22の第2部位222の肉厚は、例えば、0.5〜1.5mmであることが好ましく、0.7〜1.2mmであることがさらに好ましい。この第2部位222の肉厚はクラウン部2の本体部21の肉厚と概ね同じである。なお、これらの寸法は、本実施形態に係るゴルフクラブセットのすべての番手でほぼ同じである。
【0024】
上述したように、隆起部22の第1部位221の肉厚は、フェース用部材20の周縁部12の端面の肉厚よりも大きいが、この点は、ソール部3及びサイド部4についても同じである。例えば、図5に示すように、ソール部3において、開口側の端面の肉厚は、これと接合されるフェース用部材20の周縁部12の肉厚よりも大きくなっている。
【0025】
<4.番手ごとの隆起部の相違>
次に、番手毎の隆起部の相違について説明する。本実施形態に係るゴルフクラブセットを構成するユーティリティタイプのゴルフクラブは、番手ごとにロフト角が相違するのに加え、隆起部と本体部との間の段差のフェース−バック方向の長さL(以下、単に「段差の長さL」という)が相違している。段差の長さLとは、隆起部の後端縁から本体部の先端縁までのフェース−バック方向の長さである。図6に一例を示す。この例では、2番(a)、3番(b)、4番(c)、5番(d)、6番(e)、及び7番(f)のユーティリティタイプのゴルフクラブセットの断面を示しており、図中にロフト角と段差の長さLを表示している。いずれもヘッドのスイートスポット及び重心を通過する垂直面に沿う断面である。
【0026】
図6によれば、2番、3番、4番、5番の順で、段差の長さLが短くなっており、5番、6番、及び7番のクラブは、段差の長さLが同じである。なお、ヘッドの最大高さ、周縁部と隆起部の合計幅D、隆起部の高さhは、すべての番手でほぼ同じである。また、段差の長さLは、上述したヘッドのスイートスポットと重心とを通過する垂直面に沿う長さであって、次に説明するフェース−バック方向の両端部の間の距離である。すなわち、フェース側の端部は、隆起部22のバック側の稜線であり、バック側の端部は、クラウン部2の断面において、下に凸の曲面と上に凸の曲面との変曲点とし、これらの端部の間の距離を隆起部22の長さLとしている。
【0027】
<5.製造方法>
上記のように構成されたゴルフクラブヘッドは、いずれも種々の方法で作製することができるが、例えば、次のように製造することができる。まず、ヘッド本体10は、例えば、公知のロストワックス精密鋳造法などの鋳造によって製造することができる。一方、フェース用部材20は、プレス加工により、製造することができる。そして、ヘッド本体10と、フェース用部材20とは、例えば、次に説明するように、溶接により接合される。上記のように、ヘッド本体10はロストワックス精密鋳造法などで製造できるが、溶接前のヘッド本体用素材の構造は、完成後のヘッド本体10とは若干異なっている。すなわち、図7に示すように、ヘッド本体10の開口周縁の外面、つまりクラウン部2、ソール部3,及びサイド部4の外面には、フェース部側に向けて突出する突出部101が設けられている。すなわち、この突出部101は、開口周縁に沿って環状に形成されている。そして、溶接に先立って、フェース用部材20の周縁部12の端面と、開口の端面とを接合すると、図8に示すように、周縁部12の端部の外面は、環状の突出部101により覆われた状態となる。このとき、フェース用部材20の周縁部12の端面の肉厚は、開口の端面の肉厚よりも小さいため、両端面の間には段差102が形成される。
【0028】
続いて、フェース用部材20の周縁部12の端面とヘッド本体10の開口の端面との境界に沿って、突出部101上に溶接を施す。これによって、図9に示すように、突出部101を介して、端面同士が溶接される。このとき、溶融された端面は、段差102に沿うため、溶接ビード103も段差102に沿って形成される。こうして、溶接が完了すると、図10に示すように、溶融した突出部101を削り取り、フェース用部材20の周縁部12とヘッド本体10の開口との接合部分を平坦にする。その後、塗装などを行うことで、ゴルフクラブヘッドが完成する。
【0029】
<6.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、番手の小さいゴルフクラブの段差の長さが、番手の大きいゴルフクラブの段差の長さよりも長いため、次の効果を得ることができる。例えば、番手の小さいゴルフクラブを用いる場合には、アドレスに入るとき、一般的にヘッドを前方寄りに配置する。これにより、隆起部の段差が見えやすくなり、番手が大きいゴルフクラブと段差の高さ及び長さが同じであっても、段差が目立ち、より高く見える傾向にある。一方、番手の大きいゴルフクラブを用いる場合には、アドレスに入るとき、一般的にヘッドをゴルファーの正面近くに配置する。これにより、隆起部の段差は見えにくくなり、隆起部の高さが視認しがたくなる。このように、番手が小さいゴルフクラブと、大きいゴルフクラブとでは、隆起部の段差の見え方が相違するため、異なる番手のクラブを連続して用いると、違和感を持つことになり、自然にアドレスに入りがたくなる。
【0030】
これに対して、本実施形態に係るゴルフクラブセットでは、上記のように、番手の小さいゴルフクラブでは、段差の長さを長くし、段差の傾斜を緩やかにしている。そのため、段差の高さが目立ちにくくなり、より高く見えるのを抑制することができる。これにより、異なる番手のクラブを使用しても、段差の高さの差を感じるのが抑制され、アドレス時に違和感を持つことなく、自然にアドレスに入ることができる。
【0031】
さらに、次のような効果もある。番手の大きいゴルフクラブヘッドは、ロフト角が大きくなるため、スイートスポットの高さが、番手の小さいゴルフクラブに比べて高い傾向にある。これに対して、本実施形態では、番手の大きいゴルフクラブの段差の長さが短いため、高さの低い本体部21の面積が広くなり、重心を下げることができる。その結果、スイートスポットの高さも低くなり、ロフト角が大きくても、ヘッドの重心を下げることができ、ゴルフボールを上げやすくすることができる。
【0032】
その他、各ゴルフクラブヘッドにおいて、次の効果を得ることもできる。
(1) クラウン部2が、サイド部4と接する本体部21と、フェース部1との境界に沿ってトゥ−ヒール方向に延び、本体部21から段差23を形成して隆起する隆起部22と、を備えている。これにより、クラウン部2において、隆起部22が本体部21よりも、段差23を介して高く形成されているため、隆起部22が高くなった分だけ、フェース部1の高さを高くすることができる。そのため、フェース部1における反発性能を向上することができる。また、クラウン部2においては、隆起部22のみが高く形成され、クラウン部2の大半を占める本体部21は隆起部22よりも低い位置に形成されているため、ヘッドの重心を低くすることができる。
【0033】
(2) フェース用部材20が、板状のフェース部1とその周縁に連結される周縁部12とを備えたカップ状に形成されているため、フェース部1の反発に加え、周縁部12も反発に寄与するため、反発性能を向上することができる。また、このようなカップ状のフェース用部材20を用いると、板状のフェース部を開口に嵌め込むタイプのゴルフクラブヘッドに比べ、溶接ビードの位置が高くなるため、重心が高くなるおそれがある。しかしながら、本実施形態に係るヘッドは、上記のように隆起部22を設け、それ以外の本体部21の高さを低くしているため、全体として、ヘッドの重心を低くすることができる。
【0034】
(3) ヘッド本体10の開口の端面の肉厚が、フェース用部材20の周縁部12の端面の肉厚よりも大きいため、両者を接合時に段差102が生じる。そのため、溶接時に形成される溶接ビード103が、段差102に沿って形成されるため、溶接ビード103が両端面の境界に沿って正確に形成される。そのため、溶接の強度にばらつきが生じず、高い接合強度を実現することができる。また、ヘッド本体10の開口の端面の肉厚が大きいため、剛性が高くなり、その結果、フェース部1からの打撃力に対する機械強度を向上することができる。
【0035】
(4) 鋳造後のヘッド本体素材の開口の外周面には、フェース部側に突出する突出部101が形成されているため、溶接時には、この突出部101の上から溶接を行う。このとき、例えば、突出部が設けられておらず、両端面の境界に対して直接溶接を施すと、ヒケによって凹みが生じるおそれがある。これに対して、突出部101を設けておけば、突出部101に凹みが生じるため、ヘッド本体10やフェース用部材20の周縁部12に直接凹みが生じるのを防止することができる。
【0036】
(5) 隆起部22は、肉厚の大きい第1部位221と、肉厚の小さい第2部位222とで構成されており、第2部位222の肉厚が小さい。そのため、反発性能を高めることができる。
【0037】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。
【0038】
<4.1>
上記実施形態では、図6に、ゴルフクラブセットにおける段差の長さの違いの例を示したが、これは一例に過ぎない。上述した効果を得るためには、ゴルフクラブセットの中で少なくとも1組の番手の小さいゴルフクラブと、番手の大きいゴルフクラブとで、上記のような段差の長さの差があればよい。したがって、すべての番手間で段差の長さの差を設けてもよいし、あるいは、その中のいくつかだけ段差の長さの差を設けてもよい。また、段差の長さの数値も一例であり、適用するゴルフクラブによって変更可能である。
【0039】
<4.2>
上記実施形態では、周縁部及び隆起部の合計幅Dを各番手で同じにしているが、多少変更することもできる。
【0040】
<4.3>
上記実施形態に係るゴルフクラブの態様は、一例であり、クラウン部2に上記のような隆起部22が設けられていれば、他の構成は特には限定されない。例えば、上記ゴルフクラブでは、ヘッド本体10の開口に対し、カップ状のフェース用部材20を接合しているが、板状のフェース部をヘッド本体の開口に嵌め込むことで、ゴルフクラブヘッドを構成することもできる。
【0041】
<4.4>
上記ゴルフクラブセットは、ユーティリティタイプのゴルフクラブによって構成されているが、フェアウェイウッド、ハイブリッド型のゴルフクラブで構成されていてもよい。なお、フェアウェイウッド向けとして、ヘッドの体積は、例えば120cm3以上200cm3以下が望ましい。また、ドライバ向けであれば、ヘッド体積はR&AやUSGAのルール規制に従う場合には460cm3以下が望ましい。
【符号の説明】
【0042】
1 フェース部
2 クラウン部
21 本体部
22 隆起部
23 段差
3 ソール部
L 段差の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10