(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
  しかし、上記特許文献記載の発明では、例えばプラウ牽引による耕耘などの高負荷走行時には、クラッチ圧力が下がった瞬間に速度が急激に落ちるため、変速時にショックが発生するなど、変速フィーリングが悪化する原因となっていた。また、路上走行時などの低負荷走行時における変速では、さらに滑らかに変速できるように調整可能な構成とすることが求められていた。
 
【課題を解決するための手段】
【0005】
  上述した課題を解決するために、本発明は、エンジンから出力される回転駆動を多段階に変速する多段変速装置と、該多段変速装置により変速された駆動力を伝達又は遮断する油圧クラッチ
と、該油圧クラッチのクラッチ圧力を制御する制御部を有し、該制御部は変速時に前記クラッチ圧力を
動力伝達しない程度の中立圧まで
減圧した後、規定の接続時間で中立圧から
減圧前の接続圧まで昇圧させる
標準昇圧パターンを有する作業車両の走行伝動装置において、昇圧調整ダイヤルを設け、
前記昇圧調整ダイヤルによる前記調整値は、その値に応じて接続時間調整領域と標準昇圧領域と接続圧力調整領域とを有し、前記制御部は、前記標準昇圧領域であるときは前記標準昇圧パターンで昇圧し、前記接続時間調整領域であるときは前記標準昇圧パターンの前記接続時間を変更して得られる昇圧パターンにより昇圧し、前記接続圧力調整領域であるときは前記標準昇圧パターンを高圧側又は低圧側に平行移動させて得られる昇圧パターンにより昇圧することを第1の特徴とする。
【0006】
  また、本発明は、第1の特徴を有する発明において、
前記油圧クラッチの作動油温度を計測する油温センサを設け、油温が所定の温度以下である場合は、前記調整値に関わらず、前記標準昇圧パターンで昇圧することを第2の特徴とする。
  また、本発明は、第1の特徴または第2の特徴を有する発明において、
前記制御部は、前記昇圧調整ダイヤルが最大位置にあるときは、減圧を行わずに変速することを第3の特徴とする。
 
【発明の効果】
【0007】
  第1の特徴を有する発明によると、昇圧調整ダイヤルにより油圧クラッチが中立圧まで下げられた後、接続圧まで昇圧する時間を調整することが可能となるため、高負荷走行時には短い時間で昇圧させ、低負荷走行時には長い時間で昇圧させるなど、作業者が状況や好みに応じて変速フィーリングを変更することが可能となる。
【0008】
  また、昇圧調整ダイヤルによる昇圧パターンの調整を、調整値により昇圧時間の変更と昇圧パターンの平行移動とを切り替えて実行することで、状況に応じて適切な変速フィーリング調整を行うことができる。
【0009】
  第
2の特徴を有する発明によると、
第1の特徴を有する発明の効果に加え、油圧クラッチの作動油は温度によって粘性が変わるため、昇圧調整ダイヤルにより昇圧パターンを変更しても変速フィーリングを正常に調整することができず、運転者の意に反して変速フィーリングが悪化することがある。油温が所定の温度以下になると、調整値を無視することで、これを防止できる。
  
また、第3の特徴を有する発明によると、高負荷作業の場合にショックなく変速することができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0011】
  この発明の実施例を図面に基づき説明する。
 
【0012】
  図1は、作業車両の一例として乗用型トラクタを示すものであり、この走行車体1前部にボンネット2により覆われているエンジンルームが配置され、その内部にはエンジンEが搭載されている。エンジンEの回転動力はミッションケース3内の走行伝動装置に伝え、この走行伝動装置で減速された回転動力を前輪4及び後輪5に伝えるようになっている。
 
【0013】
  車体後部のキャビン6内には運転席7が設置され、その前方には、前輪4,4を操舵するステアリングハンドル8が装備されている。前記ステアリングハンドル8の前側には、メータパネル9が設置されている。トラクタの機体後部には、ロータリ作業機等を装備するが、ミッションケース3から後方へ突出するPTO軸111によって駆動するようになっている。
 
【0014】
  図2に示すようにミッションケース内の動力伝達機構について説明すると、エンジンEの出力軸20の回転が入力軸21に伝動され、この入力軸に固着の第1入力ギヤ22と第2入力ギヤ23がそれぞれ第1高・低クラッチ24の第1低速ギヤ26と第2高・低クラッチ25の第2低速ギヤ27及び第1高・低クラッチ24の第1高速ギヤ30と第2高・低クラッチ25の第2高速ギヤ31に噛み合って回転駆動するようになっている。
 
【0015】
  第1高・低クラッチ24と第2高・低クラッチ25は、同一の油圧多板クラッチで、それぞれ入力軸21の回転を同一減速比で高・低の二段に減速して第1クラッチ軸28と第2クラッチ軸29に伝動することになる。
 
【0016】
  低速伝動軸34と高速伝動軸32の回転がそれぞれ第1シンクロチェンジ42と第2シンクロチェンジ36に伝動され、第1シンクロ小ギヤ43と第2シンクロ小ギヤ37が第1伝動軸39の第5ギヤ40と噛みあい、第1シンクロ大ギヤ44と第2シンクロ大ギヤ38が第1伝動軸39の第6ギヤ41と噛み合って伝動する。これにより、第1入力軸21の回転が第1伝動軸39で低速4段と高速4段に変速されることになる。
 
【0017】
  ここまでの多段変速装置150で主変速部を構成し、操縦者が操作する主変速レバー15の変速位置を読み取って、走行系ECU120で自動的に第1・第2高・低油圧多板クラッチ24,25と第1・第2シンクロチェンジ36,42を制御して低速4段と高速4段まで変速される。
 
【0018】
  第1伝動軸39は、第2伝動軸45に連結され、第2伝動軸45には、第7ギヤ46と第8ギヤ47が固着され、正逆クラッチ48の正転クラッチギヤ49と逆転軸52の逆転ギヤ51に噛み合わされ、逆転ギヤ51が逆転クラッチギヤ50と噛み合っている。従って、正逆クラッチ48を正転クラッチギヤ49に繋ぐと、正転状態で逆転クラッチ48に連結の副変速軸53に伝動され、正逆クラッチ48を逆転クラッチギヤ50に繋ぐと、逆転状態で副変速軸53に伝動される。
 
【0019】
  副変速軸53には、第9ギヤ54と第10ギヤ55が固着され、それぞれ第3シンクロチェンジ58の第3シンクロ小ギヤ56と第3シンクロ大ギヤ59に噛み合っている。第3シンクロチェンジ58を第3シンクロ小ギヤ56側に繋ぐと、第9ギヤ54から第3シンクロ小ギヤ56に伝動した回転で第5伝動軸60が増速して高速で駆動され、第3シンクロチェンジ58を第3シンクロ大ギヤ59に繋ぐと、第10ギヤ55から第3シンクロ大ギヤ59に伝動した回転で第5伝動軸60が減速して中速で駆動される。
 
【0020】
  第3シンクロチェンジ58を中立にすると、第10ギヤ55の回転が第3シンクロ大ギヤ59に伝動され、第3シンクロ小ギヤ59側に固着の第11ギヤ57から第4シンクロ小ギヤ69に伝動されるようになっている。
 
【0021】
  第4シンクロチェンジ71を第4シンクロ小ギヤ69側に繋ぐと、第4シンクロ小ギヤ69の回転が第16ギヤ74の回転となって低速となり、第4シンクロチェンジ71を第4シンクロ大ギヤ72側に繋ぐと、第4シンクロ小ギヤ69の回転が第15ギヤ70から第17ギヤ75と第18ギヤ76と第4シンクロ大ギヤ72に伝動されて第16ギヤ74が超低速となる。
 
【0022】
  さらに、第16ギヤ74は、前記第5伝動軸60に固着の第12ギヤ61と噛み合って第5伝動軸60を駆動する。この第5伝動軸60の軸端に固着の第1ベベルギヤ62がリヤベベルギヤケース64の第2ベベルギヤ63と噛み合っていて、リヤベベルギヤケース64のベベル出力軸65から第13ギヤ66と第14ギヤ67を介して後輪出力軸68を回転して後輪5を駆動する。
 
【0023】
  また、第5伝動軸60には、第21ギヤ117が固着され、副変速軸53に軸支された第3筒軸119に固着の第22ギヤ118と第23ギヤ148を介して第1前輪駆動軸78の第19ギヤ77に伝動して、前記第5伝動軸60の低速16段と高速16段の回転が第1前輪駆動軸78に伝動されている。
 
【0024】
  この第1前輪駆動軸78から前輪増速クラッチ79を介して第2前輪駆動軸85に伝動し、第3前輪駆動軸86と第4前輪駆動軸87と前輪駆動ベベル軸88に引き継いで伝動し、前輪駆動ベベル軸88の軸端に固着の第1前ベベルギヤ89がフロントベベルケース90の第2フロントベベルギヤ115と噛み合っていて、フロントベベルケース90のフロントベベル出力軸91から第1フロントベベルギヤ92と前輪駆動軸116と第2ベベルギヤ組93を介して前輪出力軸94を回転して前輪4を駆動する。
 
【0025】
  前輪増速クラッチ79を前輪等速ギヤ82側に接続すると、第1前輪駆動軸78の回転駆動がそのまま第2前輪駆動軸85に伝達されて通常の4輪駆動となり、前輪増速クラッチ79を前輪増速ギヤ84側に接続すると、第1前輪駆動軸78の回転駆動が前輪等速ギヤ82から第一増速ギヤ81、第二増速ギヤ83を介して増速された回転が第2前輪駆動軸85に伝達されて前輪増速4輪駆動となる。さらに前輪増速クラッチ79を中立状態にすると、前輪4に動力は伝達されないため、後輪の2輪駆動となる。
 
【0026】
  前記第2入力ギヤ23にPTOメインクラッチ97のメインクラッチギヤ96を噛み合わせてPTOメインクラッチ97でPTO出力軸111への動力断続を行うようにしている。
 
【0027】
  第1PTO軸95には、PTO変速部157が設けられ、第1PTOギヤ98と第2PTOギヤ99と第5シンクロチェンジ151の第5シンクロ小ギヤ100と第5シンクロ大ギヤ101を装着し、第2PTO軸107には、第20ギヤ102と第24ギヤ152と第26ギヤ103と第25ギヤ153を固着し、カウンタ軸106にPTO逆転ギヤ105を軸支している。
 
【0028】
  第1PTOギヤ98をスライドして第20ギヤ102に噛み合わせると、第2PTO軸107が2速になり、第1PTOギヤ98をスライドして第2PTOギヤ99に係合すると、第1PTO軸95の回転が第2PTOギヤ99と第24ギヤ152を介して第2PTO軸107に伝わって4速となり、第5シンクロチェンジ151を第5シンクロ小ギヤ100に繋ぐと、第5シンクロ小ギヤ100から第26ギヤ103に伝動して1速となり、第5シンクロチェンジ151を第5シンクロ大ギヤ101に繋ぐと、第5シンクロ大ギヤ101から第25ギヤ153に伝動して3速となり、PTO逆転ギヤ105を第1PTOギヤ98と第20ギヤ102に噛み合わせると、第1PTO軸95の回転が第1PTOギヤ98からPTO逆転ギヤ105を経て第20ギヤ102に伝動されて第2PTO軸107に伝わって逆回転となる。
 
【0029】
  第2PTO軸107の回転は、第3PTO軸156を介して第4PTO軸108に伝動し、第1PTO出力ギヤ109と第2PTO出力ギヤ110でさらに減速してPTO出力軸111を駆動する。
 
【0030】
  図3は、トラクタ各部の作動を制御する制御ブロック図で、エンジンEの出力を制御するエンジンECU190と作業機の昇降を制御する作業機昇降系ECU191と前輪4と後輪5の回転を制御して走行速度を制御する走行系ECU120とで構成し、CAN通信で制御信号の交信を行っている。
 
【0031】
  エンジンECU190への制御データの入力は、エンジンモード選択スイッチ192からの選択モードと、エンジン排気温度センサ207からの排気温度と、エンジン回転センサ121からのエンジン出力軸20の回転数と、エンジンオイル圧力センサ193からのオイル圧力と、エンジン水温センサ194からのラジエータ水温と、レール圧力センサ198からのコモンレールの燃料圧力と、アクセル操作位置検出センサ195のアクセルペダル18の踏み込み信号等で、エンジンECU190からの制御出力は、燃料高圧ポンプ196へのレール圧と、高圧インジェクタ197への噴射信号である。
 
【0032】
  作業機昇降系ECU191のへの制御データの入力は、作業機の昇降を行うポジションコントロールレバー13によるポジションコントロールセンサ199からの操作信号と、リフトアームセンサ200からのリフト位置信号と、上げ位置規制ダイヤル201と下げ速度調整ダイヤル202の調整信号等で、作業機昇降系ECU191からの制御出力は、油圧昇降シリンダのメイン上昇ソレノイド204とメイン下降ソレノイド205への上昇或は下降信号である。
 
【0033】
  走行系ECU120への制御データの入力は、第1クラッチLo側圧力スイッチ122と第1クラッチHi側圧力スイッチ123と第2クラッチLo側圧力スイッチ124と第2クラッチHi側圧力スイッチ125と前進クラッチ圧力センサ128と昇圧調整ダイヤル129の各信号と、前後進レバー11の前後進レバー操作位置センサ130の操作位置と、副変速レバーの副変速位置センサ131の操作位置と、主変速レバー15の主変速レバー位置センサ136の操作位置と、ミッションケース内オイルの油温センサ133のオイル温度と、第1主変速機構位置センサ137及び第2主変速機構138の変速位置と、ブレーキ連結検出スイッチ139の左右のブレーキペダル12L,12Rの連結具合と、車速センサ140の走行速度と、PTO回転センサ220の回転数と、PTO入り切りスイッチ221の入切信号と、PTO自動−手動切換スイッチ222の切換信号と、走行−作業切換スイッチ223の切換信号等である。
 
【0034】
  走行系ECU120からの制御出力は、前進切換ソレノイド141F及び後進切換ソレノイド141Rと、前後進昇圧ソレノイド142と、第1主変速第1ソレノイド207・第1主変速第2ソレノイド208・第2主変速第1ソレノイド209・第2主変速第2ソレノイド210と、第1Lo側ソレノイド211a・第1Hi側ソレノイド211bと、第2Lo側ソレノイド212a・第2Hi側ソレノイド212bと、4WDソレノイド213と、前輪増速ソレノイド214と、ブザー215と、PTOクラッチソレノイド216等である。
 
【0035】
  図4はトラクタの油圧回路を示す図である。エンジン動力により作動するメインポンプ250とサブポンプ251がミッションケース3内の潤滑油を、サクションフィルタ252を通して吸い上げ、油圧回路内に作動油として圧油が供給される。サブポンプ251からはパワーステアリング装置253に圧油が供給され、前輪4が操作される。パワーステアリング装置253から排出された作動油は、第1高・低クラッチ24、第2高・低クラッチ25、及び正逆クラッチ48の潤滑・冷却用の油として利用され、ミッションケース3内に戻される。
 
【0036】
  メインポンプ250からは作業機系油圧装置254と走行系油圧装置255に圧油が供給される。主変速レバー15が1速に操作されると、第1主変速第1ソレノイド207に電流が流されてバルブが動き、第1主変速シリンダ256のLo側油室256Lから圧油が抜けて、第1シンクロチェンジ42が第1シンクロ小ギヤ43側に接続される。さらに、第1Lo側ソレノイド211aに電流が流されてバルブが動き、第1高・低クラッチ24の低速側の油室に圧油が供給され、第1低速ギヤ26側に接続される。
 
【0037】
  主変速レバー15が1速から2速に操作されると、第1主変速第1ソレノイド207の状態は変わらず、第1シンクロチェンジ42が第1シンクロ小ギヤ43側に接続された状態で、第1Lo側ソレノイド211a第1Hi側ソレノイド211bに電流が流されてそれぞれのバルブが動き、第1高・低クラッチ24の高速側の油室に圧油が供給され、第1高速ギヤ30側に接続される。
 
【0038】
  主変速レバー15が2速から3速に操作されると、第1主変速第1ソレノイド207の電流が停止して、第2主変速第1ソレノイド209に電流が流され、第1シンクロチェンジ42の接続が切れて、第2シンクロチェンジ36が第2シンクロ小ギヤ37側に接続される。さらに、第1Hi側ソレノイド211bの電流が停止して第2Lo側ソレノイド212aに電流が流されてそれぞれのバルブが動き、第2高・低クラッチ25の低速側の油室に圧油が供給され、第2低速ギヤ27側に接続される。
 
【0039】
  以降同様に、4速では第2シンクロ小ギヤ37と第2高速ギヤ31、5速では第1シンクロ大ギヤ44と第1低速ギヤ26、6速では第1シンクロ大ギヤ44と第1高速ギヤ30、7速では第2シンクロ大ギヤ38と第2低速ギヤ27、8速では第2シンクロ大ギヤ38と第2高速ギヤ31がそれぞれ接続されて主変速操作が行われる。
 
【0040】
  これらの変速時や車両の発進時には前後進クラッチ48の接続圧が調整されて、変速ショックや発進時のショックが抑えられている。前後進レバー14が前進または後進にそうされると、操作位置を前後進レバーセンサ130が読み取って、前進切換ソレノイド141Fまたは後進切換ソレノイド141Rに電流が流されてバルブが動き、油路が選択される。比例ソレノイドである前後進昇圧ソレノイド142に流される電流の大きさにより前後進リリーフバルブ142aのリリーフ圧を決める流量が調節されることで、前後進油路142bの圧力を任意の圧力に調整できる構成となっている。
 
【0041】
  図5は前後進クラッチ48の断面図である。正転クラッチギヤ49と一体になっているクラッチ軸48aは第二軸受B1及び第三軸受B2により副変速軸53に回動自在に支持されており、後部には複数の内側クラッチ板48bを有している。クラッチ軸48aの後部はクラッチケース48dで覆われており、クラッチケース48dの前部内側に固定されている押え板48eが複数の内側クラッチ板48bの前端の前方に位置している。
 
【0042】
  クラッチケース48d内部の内側には複数の外側クラッチ板48cが内側クラッチ板48bどうしの間に挟まれるように交互に配置されおり、内側クラッチ板48bは内側に複数の歯を有しているためクラッチ軸48aと一体となって回転し、外側クラッチ板48cは外側に複数の歯を有しているためクラッチケース48dと一体となって回転する。
 
【0043】
  クラッチケース48dの内部でクラッチ軸48aの後部にはクラッチピストン48fを有し、ばね48gにより後方へ付勢されていて、クラッチピストン48fの後部は圧油が供給されるシリンダ部48hの空間がある。前後進クラッチ48はシリンダ部48hに圧油が供給され、その圧力がばね48gの弾性力を上回るとクラッチピストン48fが前進し、内側クラッチ板48bと外側クラッチ板48cを押え板48eとの間で挟圧する。挾圧された内側クラッチ板48bと外側クラッチ板48cは摩擦により互いに駆動力を伝達するようになり、正転クラッチギヤ49から伝達してきた駆動力がクラッチケース48dに伝達され、クラッチケース48dにスプライン嵌合している副変速軸53が回転する。
 
【0044】
  シリンダ部48hに圧油が供給されず、圧力がかかっていない状態では、クラッチピストン48fはばね48gの弾性力によって後方に押されるため、内側クラッチ板48bと外側クラッチ板48cは挾圧されない。この状態では内側クラッチ板48b及び外側クラッチ48cは互いに駆動力を伝達しないので、PTOクラッチ48は動力伝達を遮断した状態となり、正転クラッチギヤ49が回転しても、副変速軸53は回転しない。クラッチケース48dを挟んで反対側には逆転クラッチギヤ50が備えられ、同様の構成で後進側動力の伝達、遮断が行われる。
 
【0045】
  図6は主変速を1速から2速へ操作した時の各クラッチの動きを表すタイミングチャートである。前後進レバー14を前進、主変速レバー15を1速で前進走行中において2速に操作した場合は、第1高・低クラッチ24は低速側から高速側に切換え、この時前後進クラッチを前進で一旦動力伝達しない程度の低い圧力まで減圧し、徐々に昇圧して変速ショックを軽減させている。その一方、第2高・低クラッチ25は中立、第1主変速シリンダは、第1シンクロチェンジ42を第1シンクロ小ギヤ43に接続のまま、第2主変速シリンダ257は3速の準備のため第2シンクロチェンジ36を第2シンクロ小ギヤ37に接続する。この場合、レバー操作時間t3には移動速度による操作完了判定時間t4を含み、レバー操作時間t3とクラッチピストンの移動時間t1を経て第1の該当クラッチが接続開始し、その一定時間t5前(略10ミリ秒前)に前後進クラッチ48をオフにして二重噛みを防止する。その他の変速時や車両発進時も同様にして前後進クラッチ48は徐々に昇圧するように調整されて、運転時のショックを低減している。
 
【0046】
  図7は主変速レバー15周辺の斜視図である。主変速レバー15はその変速位置に応じて手動変速域15s、中立域15n、オート変速域15dを有し、手動変速域15sでは、手動で1速から8速まで変速することができ、それぞれの変速位置で適切なギヤの組み合わせが制御部により自動で選択されて接続される。中立域15nでは、多段変速装置150の動力伝達が遮断され、オート変速域15dにレバーが操作されているときは、アクセルの状況によって自動で変速が行われる。昇圧調整ダイヤル129は運転席右側のレバーガイド上に設けられ、前後進クラッチ48の昇圧特性を調整することにより、変速感度を調整できる構成となっている。
 
【0047】
  図8は昇圧調整ダイヤル129の調整位置と前後進クラッチ48の昇圧カーブ300の変化を示す図である。ダイヤル位置が標準昇圧領域129nであるときは、制御部である走行系ECU120にあらかじめ記憶されている標準昇圧カーブ300nに従って昇圧される。また、ダイヤル位置が高圧側接続圧力調整領域129hであるときは標準昇圧カーブ300nがダイヤル位置に応じて高圧側に平行移動された高圧調整昇圧カーブ300hに従って昇圧される。最大位置まで昇圧調整ダイヤル129が回されると、最大圧力線300mで圧力調整され、減圧が行われない。
 
【0048】
  また、ダイヤル位置が低圧側接続圧力調整領域129hであるときは標準昇圧カーブ300nがダイヤル位置に応じて低圧側に平行移動された低圧調整昇圧カーブ300lに従って昇圧される。また、ダイヤル位置が接続時間調整領域129oであるときは、接続時間を標準昇圧カーブ300nの規定接続時間t10からダイヤル位置に応じて調整接続時間t11に長くして、緩やかに接続するように調整された時間調整昇圧カーブ300oに従って昇圧される。
 
【0049】
  これらの調整により、例えばプラウ耕などの高負荷作業の場合は素早く前後進クラッチ48を接続するように設定して、スムーズに変速または発進できるように調整でき、路上走行などの低負荷の走行時には前後進クラッチ48の接続を緩やかにしてショックなく変速、発進できるよう、好みに応じて調整することが可能となる。
 
【0050】
  また、油温センサ133により走行系ECU120は油圧クラッチの作動油温度を取得し、油温が一定温度以下である場合は、上記昇圧調整ダイヤル129のダイヤル位置に関わらず、標準昇圧カーブ300nに従って昇圧される。作動油は例えば20度付近で大きく粘性が変わる特性を持つものを使用することがあるため、所定の油温以下では昇圧カーブを変更すると、クラッチが正常に作動しないことがある。油温が一定温度以下である場合は、昇圧カーブを変更しないようにすることで、これを防ぐことができる。