特許第6561607号(P6561607)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6561607微細繊維状セルロース濃縮物の製造方法、および微細繊維状セルロースを含む組成物
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  • 特許6561607-微細繊維状セルロース濃縮物の製造方法、および微細繊維状セルロースを含む組成物 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561607
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】微細繊維状セルロース濃縮物の製造方法、および微細繊維状セルロースを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C08B 5/00 20060101AFI20190808BHJP
   C08B 3/00 20060101ALI20190808BHJP
   C08B 11/14 20060101ALI20190808BHJP
   C08B 5/14 20060101ALI20190808BHJP
   C08B 3/20 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   C08B5/00
   C08B3/00
   C08B11/14
   C08B5/14
   C08B3/20
【請求項の数】12
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-119587(P2015-119587)
(22)【出願日】2015年6月12日
(65)【公開番号】特開2017-2231(P2017-2231A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2017年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕一
(72)【発明者】
【氏名】本間 郁絵
(72)【発明者】
【氏名】堤 ▲祥▼行
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/111612(WO,A1)
【文献】 特開2013−241702(JP,A)
【文献】 特開2012−021081(JP,A)
【文献】 特開2011−127067(JP,A)
【文献】 特開2011−140738(JP,A)
【文献】 特開2015−101694(JP,A)
【文献】 特表2003−528935(JP,A)
【文献】 Fujisawa, S. et al.,Cellulose,2012年,vol.19, no.2,459-466
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
C08L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)イオン性置換基と、炭素数がn(但しnは1以上の整数)である対イオンAと、を有するセルロース繊維を、25℃における比誘電率が70以下の溶媒中で微細化し、微細繊維状セルロース分散液を得る工程;および
(2)微細繊維状セルロース分散液に含まれる対イオンAの一部または全部を、炭素数がn−1以下である対イオンBに置換して、微細繊維状セルロースの濃縮物を得る工程
を含む、微細繊維状セルロース濃縮物の製造方法。
【請求項2】
イオン性置換基が、アニオン性置換基を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アニオン性置換基が、リン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される1種または2種以上を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
対イオンAが、テトラアルキルアンモニウムイオンを含む、請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
イオン性置換基が、カチオン性置換基含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
カチオン性置換基が、4級アンモニウム塩由来の基およびホスホニウム塩由来の基のうちの1種または2種を含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
対イオンBが、1価のイオンである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースと、
炭素数n(ただしnは1以上の整数)である対イオンAと、
炭素数n−1以下である対イオンBと、
有機溶媒と、
を含む組成物であって、微細繊維状セルロース繊維の平均繊維幅が2〜1000nmであり、前記対イオンBが、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオン、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、酢酸イオン、臭化物イオン、又はヨウ化物イオンである、組成物。
【請求項9】
組成物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が、5質量%以上である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
微細繊維状セルロースが、イオン性置換基としてリン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される1種または2種以上を有する、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項11】
微細繊維状セルロースが、イオン性置換基として4級アンモニウム塩由来の基およびホスホニウム塩由来の基のうちの1種または2種を有する、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項12】
組成物が、有機溶媒を含有する溶媒であって25℃における比誘電率が70以下である溶媒中に微細繊維状セルロースを含む形態である、請求項8〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細繊維状セルロース濃縮物の製造方法、および微細繊維状セルロースを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10〜50μmのセルロース繊維、とりわけ木材由来のセルロース繊維(パルプ)は主に紙製品としてこれまでにも幅広く使用されてきた。
【0003】
また、セルロース繊維としては、繊維径が1μm以下の微細セルロース繊維も知られている。微細セルロース繊維を含有するシートや複合体は、繊維同士の接点が著しく増加することから、引張強度が大きく向上する。また、繊維幅が可視光の波長より短くなることで、透明度が大きく向上する。例えば、特許文献1には、温度条件や波長等に影響を受けることなく、常に高い透明性が維持され、かつ、繊維とマトリクス材料との複合化により様々な機能性が付与された繊維強化複合材料が開示されている。
【0004】
微細繊維状セルロースは、例えば、叩解したパルプを解繊する方法(特許文献2)、セルロース原料をN−オキシルおよび次亜塩素酸ナトリウム等の共酸化剤で処理した後に解繊する方法(特許文献3)により製造される。
【0005】
特許文献2,3に記載の製造方法では、微細繊維状セルロースは分散液(スラリー)の状態で得られる。そのため、微細繊維状セルロースの分散液を製造する工場と、微細繊維状セルロースを用いた製品を製造する工場とが離れている場合、微細繊維状セルロースのスラリーを容器に充填して輸送することになる。しかし、微細繊維状セルロースの分散液は、分散安定性を確保するために低濃度にされているため、輸送される物の殆どは水等の液体である。そのため、微細繊維状セルロース当たりの輸送コスト及び保管コストが高くなる傾向にあった。
【0006】
これに対し、微細繊維状セルロースの濃縮方法、再分散方法が検討されつつある。例えば、微細繊維状セルロースに、酸、塩基や、塩、多価イオン、凝集剤、界面活性剤を添加することにより凝集させ、濃縮物を得る方法、また、その濃縮物を、pH調整した水中で再分散させる方法が各種開示されている。例えば、特許文献4は、平均繊維幅が2nm〜50nmの微細繊維状セルロースと、水及び有機溶剤の少なくとも一方からなる液状化合物とを含有し、前記微細繊維状セルロースの含有量が微細繊維状セルロース凝集物全体の質量に対して6質量%〜80質量%、前記液状化合物の含有量が微細繊維状セルロース凝集物全体の質量に対して15質量%以上である、微細繊維状セルロース凝集物を提供するものであるが、凝集物の製造に際しては、凝集物を得るために、多価金属の塩、酸/アルカリ、界面活性剤、高分子凝集剤を使用する。また特許文献5、6は、いずれも2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)酸化セルロース微細繊維に関するものであるが、それぞれ有機溶剤や酸を利用して微細繊維状セルロースを濃縮することを提案している。また特許文献7は、バクテリアセルロースの分散性および懸濁安定性向上のために、バクテリアセルロースの水性懸濁液を、いったん所定の濃度にまで濃縮することを提案している。
【0007】
一方、樹脂中での分散性を高めること等を目的に、特許文献8は、カチオン性セルロースナノファイバーのカチオン基をアニオン性添加剤で中和して変性することを提案する。また、非特許文献1では、TEMPO酸化セルロース微細繊維の分散性を高めるために、バルキーな4級アンモニウムイオンを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−24788号公報
【特許文献2】特開2012−036529号公報
【特許文献3】特開2011−184825号公報
【特許文献4】WO2014/024876
【特許文献5】WO2012/107642
【特許文献6】WO2013/121086
【特許文献7】特開平9−316102
【特許文献8】W2012/124652(特許第5150792号公報)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Biomacromolecules 2014, 15, 1904-1090
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の濃縮方法のうち、大量の塩や、多価イオン、界面活性剤を添加することで濃縮した場合は、得られた濃縮物は、再度水(pH調整していない清水)に分散させようとしても分散しにくい。一方で、アルコール等を用いた方法は、水への再分散性が良いが、低濃度の微細繊維状セルロース分散物にアルコール等を加えて濃縮する方法においては、多量の溶剤が必要となる。多量の溶剤を用いると、微細繊維状セルロース対比で用いる溶媒の全量が必然的に増加する。含水した溶剤を再利用することが、経済面で極めて重要であるが、蒸留等の手法で再利用を図る際、処理対象の溶媒が大量にあると、再利用コストが高くなるという欠点があった。
【0011】
再分散時にpH調整の必要が無く、微細繊維状セルロース対比で用いる溶媒の全量が少ない、微細繊維状セルロースの濃縮物製造方法があれば望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下を提供する。
[1](1)イオン性置換基と、炭素数がn(但しnは1以上の整数)である対イオンAと、を有するセルロース繊維を、25℃における比誘電率が70以下の溶媒中で微細化し、微細繊維状セルロース分散液を得る工程;および
(2)微細繊維状セルロース分散液に含まれる対イオンAの一部または全部を、炭素数がn−1以下である対イオンBに置換して、微細繊維状セルロースの濃縮物を得る工程
を含む、微細繊維状セルロース濃縮物の製造方法。
[2] イオン性置換基が、アニオン性置換基を含む、1に記載の製造方法。
[3] アニオン性置換基が、リン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される1種または2種以上を含む、2に記載の製造方法。
[4] 対イオンAが、テトラアルキルアンモニウムイオンを含む、2または3に記載の製造方法。
[5] イオン性置換基が、カチオン性置換基含む、1に記載の製造方法。
[6] カチオン性置換基が、4級アンモニウム塩由来の基およびホスホニウム塩由来の基のうちの1種または2種を含む、5に記載の製造方法。
[7] 対イオンBが、1価のイオンである、1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
[8] イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースと、
炭素数n(ただしnは1以上の整数)である対イオンAと、
炭素数n−1以下である対イオンBと、
有機溶媒と、
を含む組成物。
[9] 組成物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が、5質量%以上である8に記載の組成物。
[10] 微細繊維状セルロースが、イオン性置換基としてリン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される1種または2種以上を有する、8または9に記載の組成物。
[11] 微細繊維状セルロースが、イオン性置換基として4級アンモニウム塩由来の基およびホスホニウム塩由来の基のうちの1種または2種を有する、8または9に記載の組成物。
[12] 対イオンBが、1価のイオンである、8〜11のいずれか1項に記載の組成物。
[13] 組成物が、有機溶媒を含有する溶媒であって25℃における比誘電率が70以下である溶媒中に微細繊維状セルロースを含む形態である、8〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明により得られる微細繊維状セルロース濃縮物は、水系溶媒に良好に分散ができる。分散の際、pHを調整しなくてもよい。
本発明により、溶剤の使用量が削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は伝導度滴定法による置換基量測定における、3つの領域を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
「部」および「%」は、特に記載した場合を除き、質量に基づく割合(質量部、質量%)を表す。セルロース等の繊維の質量に関する値は、特に記載した場合を除き、絶乾質量(固形分)に基づく。また数値範囲「X〜Y」は、特に記載した場合を除き、両端の値を含む。「Aおよび/またはB」は、特に記載した場合を除き、AとBの少なくとも一方であることを指し、Aのみであってもよく、Bのみであってもよく、AとBとの双方であってもよい意である。
【0016】
本発明は、イオン性置換基が導入された微細繊維状セルロース濃縮物の製造方法、それにより得られる微細繊維状セルロース濃縮物に関する。本発明の微細繊維状セルロース濃縮物の製造方法は、少なくとも下記の工程を含む:
(1)イオン性置換基と、炭素数がn(但しnは1以上の整数)である対イオンAと、を有するセルロース繊維を、25℃における比誘電率が70以下の溶媒中で微細化し、微細繊維状セルロース分散液を得る工程;および
(2)微細繊維状セルロース分散液に含まれる対イオンAの一部または全部を、炭素数がn−1以下である対イオンBに置換して、微細繊維状セルロースの濃縮物を得る工程。
【0017】
[イオン性置換基を有するセルロース繊維]
工程(1)では、イオン性置換基が導入されたセルロース繊維が原料として用いられる。
【0018】
<セルロース繊維原料>
イオン性置換基が導入されたセルロース繊維得るためのセルロース繊維原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプから選ばれる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細セルロース繊維の収率が高く、また、パルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細セルロース繊維が得られる点で特に好ましいが、特に限定されない。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択されるが、特に限定されない。この軸比の大きい長繊維の微細セルロース繊維を含有するシートは高強度が得られる。
【0019】
<イオン性置換基の導入>
セルロース繊維には、イオン性置換基が導入される。繊維への置換基を導入する方法は、特に限定されないが、例えば、酸化処理、セルロース中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理などが挙げられる。酸化処理とは、セルロース中のヒドロキシ基をアルデヒド基やカルボキシ基に変換する処理であり、例えばTEMPO酸化処理や各種酸化剤(亜塩素酸ナトリウム、オゾンなど)を用いた処理が挙げられる。
【0020】
酸化処理の一例としては、Biomacromolecules 8、2485−2491、2007(Saitoら)に記載されている方法を挙げることができるが、特に限定されない。
【0021】
化合物による処理は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に、該繊維原料と反応するような化合物を混合することにより、繊維原料に上記置換基を導入することにより実施できる。導入時の反応を促進するため、加熱する方法が特に有効である。置換基の導入における加熱処理温度は特に限定されないが、該繊維原料の熱分解や加水分解等が起こりにくい温度帯であることが好ましい。例えば、セルロースの熱分解温度の観点から、250℃以下であることが好ましく、セルロースの加水分解を抑える観点から、100〜170℃で加熱処理することが好ましい。
【0022】
繊維原料と反応する化合物としては、微細繊維を得ることができ、かつイオン性置換基を導入するものである限り、特に限定されない。
アニオン性置換基を導入する場合、繊維原料と反応する化合物としては、例えば、リン酸由来の基を有する化合物、カルボン酸由来の基を有する化合物、硫酸由来の基を有する化合物、スルホン酸由来の基を有する化合物等が挙げられる。取扱いの容易さ、繊維との反応性から、リン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される少なくとも1種を有する化合物が好ましい。これらの化合物が繊維とエステルまたは/およびエーテルを形成することがより好ましいが、特に限定されない。
【0023】
アニオン性置換基導入繊維における置換基の導入量(滴定法による。)は特に限定されないが、繊維1g(質量)あたり0.005α〜0.11αが好ましく、0.01α〜0.08αがより好ましい。置換基の導入量が0.005α以上であれば、繊維原料の微細化(解繊)が容易になり、置換基の導入量が0.11α以下であれば、繊維の溶解が抑制できる。ただし、αは繊維材料と反応する化合物が反応しうる官能基、例えばヒドロキシル基やアミノ基が繊維材料1gあたりに含まれる量(単位:mmol/g)である。
なお、繊維表面の置換基の導入量(滴定法)の測定は、特に記載した場合を除き、次の方法で行うことができる:
絶乾質量で0.04g程度の固形分を含む微細繊維含有スラリーを分取し、イオン交換水を用いて50g程度に希釈する。この溶液を撹拌しながら、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下した場合の電気伝導度の値の変化を測定し、その値が極小となる時の0.01N水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を、滴定終点における滴下量とする。セルロース表面の置換基量XはX(mmol/g)=0.01(mol/l)×V(ml)/W(g)で表される。ここで、V:0.01N水酸化ナトリウム水溶液の滴下量(ml)、W:微細セルロース繊維含有スラリーが含む固形分(g)である。
【0024】
導入される置換基が、リン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される少なくとも1種である場合、置換基導入量は、特に限定されないが、0.001〜5.0mmol/gとすることができる。0.005〜4.0mmol/gとしてもよく、0.01〜2.0mmol/gとしてもよい。
【0025】
繊維原料と反応するような化合物として、リン酸由来の基を有する化合物を用いる場合、特に限定されないが、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらの塩またはエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である。これらの中でも、低コストであり、扱いやすく、また、繊維原料にリン酸基を導入して微細化(解繊)効率をより向上できることから、リン酸基を有する化合物が好ましいが、特に限定されない。
【0026】
リン酸基を有する化合物としては特に限定されないが、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウムが挙げられる。更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムが挙げられる。更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウムが挙げられる。更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。
これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましいが、特に限定されない。
【0027】
また、反応の均一性およびリン酸由来の基の導入効率が高いことから化合物は水溶液として用いることが好ましいが、特に限定されない。化合物の水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基導入の効率が高いことから7以下であることが好ましい。繊維の加水分解を抑える観点からpH3〜7が特に好ましいが、特に限定されない。
【0028】
繊維原料と反応するような化合物として、カルボン酸由来の基を有する化合物を用いる場合、特に限定されないが、カルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0029】
カルボキシ基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等トリカルボン酸化合物が挙げられる。
【0030】
カルボキシ基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
【0031】
カルボキシ基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0032】
カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
【0033】
上記カルボン酸由来の基を有する化合物のうち、工業的に適用しやすく、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましいが、特に限定されない。
【0034】
繊維原料と反応するような化合物として、硫酸由来の基を有する化合物を用いる場合、特に限定されないが、無水硫酸、硫酸ならびにこれらの塩およびエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である。これらの中でも、低コストであり、また、繊維原料に硫酸基を導入して微細化(解繊)効率をより向上できることから、硫酸が好ましいが、特に限定されない。
【0035】
カチオン性置換基を導入する場合、繊維原料と反応する化合物としては、例えば、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩などのオニウム塩由来の基を有する化合物が挙げられる。具体的には一級アンモニウム塩、二級アンモニウム塩、三級アンモニウム塩、4級アンモニウム塩などのアンモニウム、ホスホニウム、スルホニウムを含む基を有する化合物が挙げられる。取扱いの容易さ、繊維との反応性から、4級アンモニウム塩由来の基、およびホスホニウム塩由来の基が挙げられる。
【0036】
本実施形態においては、例えば繊維原料にカチオン化剤およびアルカリ化合物を添加して反応させることにより、繊維原料にカチオン性置換基を導入することができる。カチオン化剤としては、4級アンモニウム基と、セルロースのヒドロキシ基と反応する基とを有するものを用いることができる。セルロースのヒドロキシ基と反応する基としては、エポキシ基、ハロヒドリンの構造を有する官能基、ビニル基、ハロゲン基等が挙げられる。
カチオン化剤の具体例としては、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどのグリシジルトリアルキルアンモニウムハライド或いはそのハロヒドリン型の化合物が挙げられる。
【0037】
カチオン化工程に使用するアルカリ化合物は、カチオン化反応の促進に寄与するものである。アルカリ化合物は、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。
【0038】
無機アルカリ化合物としては、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩またはアルカリ土類金属のリン酸塩が挙げられる。
アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化カルシウムが挙げられる。
アルカリ金属の炭酸塩としては炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。アルカリ土類金属の炭酸塩としては、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
アルカリ金属のリン酸塩としては、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸水素2ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属のリン酸塩としては、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウムなどが挙げられる。
【0039】
有機アルカリ化合物としては、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物およびその水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等が挙げられる。例えば、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、シクロヘキシルアミン、アニリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム等が挙げられる。
上記アルカリ化合物は1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0040】
上記アルカリ化合物の中でも、カチオン化反応がより起こりやすくなり、且つ、低コストであることから、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。アルカリ化合物の量はアルカリ化合物の種類に応じて異なるが、例えば、パルプ絶乾質量に対して1〜10質量%の範囲内とされる。
【0041】
カチオン化剤およびアルカリ化合物は、パルプに容易に添加できることから、溶液化することが好ましい。溶液化する場合に使用する溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよいが、極性溶媒(水、アルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
【0042】
本製造方法では、カチオン化反応開始時のパルプ絶乾質量1gあたりの溶媒物質量を5〜150mmolにすることが好ましい。該溶媒の物質量は、5〜80mmolにすることがより好ましく、5〜60mmolにすることがさらに好ましい。カチオン化反応時のパルプの含有量を前記範囲にするためには、例えば、含有量が高い(すなわち、水分が少ない)パルプを用いればよい。また、カチオン化剤およびアルカリ化合物の溶液に含まれる溶媒量を少なくすることが好ましい。
【0043】
カチオン化工程における反応温度は、20〜200℃の範囲内であることが好ましく、40〜100℃の範囲内であることがより好ましい。反応温度が前記下限値以上であれば、充分な反応性が得られ、前記上限値以下であれば、反応を容易に制御できる。また、反応後のパルプの着色を抑える効果もある。カチオン化反応の時間は、パルプやカチオン化剤の種類、パルプ含有量、反応温度等によって異なるが、通常、0.5〜3時間の範囲内である。
【0044】
カチオン化反応は密閉系で行ってもよいし、開放系で行っても構わない。また、反応中に溶媒を蒸散させ、反応終了時のパルプ絶乾質量1gあたりの溶媒物質量が反応開始時に比べて低くなっても構わない。
【0045】
繊維原料に置換基を導入することにより溶液中における繊維の分散性が向上し、解繊効率を高めることができる。
【0046】
<酸処理または塩基処理>
必要に応じ、イオン性置換基を導入した後であって後述する対イオンAを付加する工程の前において、アニオン性セルロースに対しては酸処理を、カチオン性セルロースに対しては塩基処理を行うことができる。酸処理に用いられる酸は、セルロースに導入されたアニオン性置換基以上の電離度を有する酸を用いることが好ましいが、特に限定されない。。酸処理は、例えば、塩酸、硝酸および硫酸からなる群より選択される1種または2種以上を用いて行うことができる。また塩基処理に用いられる塩基は、セルロースに導入されたカチオン性置換基以上の電離度を有する塩基を用いることが好ましいが、特に限定されない。塩基処理は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウムおよび水酸化カルシウムからなる群より選択される1種または2種以上を用いて行うことができる。このような処理より、導入されたイオン性置換基が十分にH型またはOH型となり、後述する対イオンAを、イオン性置換基に対してより容易に付加させることが可能となる。
【0047】
酸処理または塩基処理の方法は、例えば、酸溶液または塩基溶液中に、置換基導入セルロース繊維を浸漬することにより実施できる。酸溶液または塩基溶液における溶媒は、水および/または有機溶媒を用いることができる。極性のあるもの(水、アルコール等の極性有機溶剤)が好ましく、水を含む水系溶媒がより好ましい。酸溶液の特に好ましい例は塩酸であり、塩基溶液の特に好ましい例は水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液である。
【0048】
酸処理の場合、酸溶液の25℃におけるpHは、適宜とすることができるが、4以下であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。塩基処理の場合、塩基溶液の25℃におけるpHは、適宜とすることができるが、9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、11以上であることがさらに好ましい。
【0049】
酸または塩基の使用量を減らすために、酸処理または塩基処理工程の前に、置換基導入セルロース繊維を洗浄してもよい。洗浄には、水および/または有機溶剤を用いることができる。また、酸処理または塩基処理後に、処理済み置換基導入セルロース繊維を、水および/または有機溶剤で洗浄してもよい。いずれの場合も、洗浄操作は繰り返し行うことができる。
【0050】
[対イオンAの付加]
工程(1)では、イオン性置換基が導入されたセルロース繊維は、炭素数がnであるイオン性置換基の対イオンAが付加される。
【0051】
<対イオンA>
本発明においては、対イオンAとして、炭素数がnであるものが用いられる。nは1以上の整数であり、次の微細化処理が十分に行える限り特に限定されないが、4以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、16以上であることがさらに好ましい。nの数が大きく、ある程度嵩高いものが微細化処理上、効果的だからである。
【0052】
アニオン性置換基が導入された場合の対イオンAは、次の微細化処理が十分に行える限り特に限定されないが、次の式(1)で表される有機オニウムイオンであることが好ましい。
【0053】
【化1】
【0054】
式中:
Mは、窒素原子またはリン原子であり;
1〜R4は、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素水素基であり、同一でもよく、それぞれ異なっていてもよい。R1〜R4の炭素数の合計は4以上であり、次の微細化処理が十分に行える限り特に限定されない。8以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、16以上であることがさらに好ましい。nの数が大きく、ある程度嵩高いものが微細繊維分散上、効果的だからである。
【0055】
このような有機オニウムイオンの特に好ましい例は、テトラアルキルアンモニウムイオンである。より具体的には、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオンおよびテトラブチルアンモニウムイオンである。なお、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンというときは、特に記載した場合を除き、それぞれテトラn−プロピルアンモニウムイオン、テトラn−ブチルアンモニウムイオンを指す。
【0056】
<対イオンAの付加>
イオン性置換基への対イオンAの付加のための条件は、対イオンAが十分に付加される限り特に限定されない。例えば、上述の工程により得られたイオン性置換基が導入されたセルロース繊維を適切な溶媒に分散し、必要に応じ攪拌しながら対イオンAを含む溶液を添加することにより、行うことができる。
【0057】
イオン性置換基が導入されたセルロース繊維を溶媒に分散する場合の溶媒としては、水および/または有機溶媒を用いることができ、水を含む水系溶媒がより好ましい。分散濃度は適宜とすることができるが、例えば、絶乾質量として繊維100質量部を100〜100,000質量部、好ましくは500〜5,0000の溶媒に分散することができる。
【0058】
対イオンAの使用量は、イオン性置換基が導入されたセルロース繊維において、導入置換基の多くがイオン対を形成可能な量、用いることが好ましい。例えば、導入置換基の少なくとも50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上がイオン対を形成可能な量、用いることができる。導入置換基の多くをイオン対を形成可能とするためには、過剰量の対イオンAを用いてもよい。対イオンAを溶液としてイオン性置換基導入セルロース繊維の分散液に添加して用いる場合、濃度は適宜とすることができる。例えば、対イオンを含む化合物の溶液の濃度は、1〜30質量%、好ましくは2〜20%、より好ましくは5〜15%とすることができる。対イオンAの添加量は、イオン性置換基が導入されたセルロース繊維の分散液のpHに基づき、決定することもできる。例えば、アニオン性置換基が導入されており、対イオンAがカチオンである場合、対イオンAの溶液は、セルロース繊維の分散液ののpHが9〜13となるのに必要な量、好ましくはpHが10〜12となるのに必要な量、添加することができる。
【0059】
対イオンAの付加により得られるイオン性置換基導入セルロース繊維の対イオンA型は、必要に応じ、脱溶媒および溶媒への再分散を繰り返すことにより、余剰の対イオンAを除くことができる。
【0060】
[セルロース繊維の微細化処理]
工程(1)では、上述の工程で得られたイオン性置換基導入セルロース繊維の対イオンA型のものが、微細化(解繊)処理に供される。
【0061】
<機械処理>
微細化処理に際し、セルロース繊維は溶媒に分散される。使用される溶媒については、後述する。分散濃度は、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。含有量が前記下限値以上であれば、解繊処理の効率が向上し、前記上限値以下であれば、解繊処理装置内での閉塞を防止できるからである。
【0062】
解繊処理装置としては特に限定されない。例えば、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、クレアミックス、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナーが挙げられる。また、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーター等、湿式粉砕する装置等を適宜使用することができる。
【0063】
微細化処理により、微細繊維状セルロース繊維の分散液(スラリー)が得られる。得られる微細繊維状セルロース繊維の平均繊維幅は特に限定されないが、例えば1〜1000nmとすることができ、好ましくは2〜1000nm、より好ましくは2〜500nm、さらに好ましくは3〜100nmである。微細繊維の平均繊維幅が1nm以上であると、分子の水への溶解が抑えられるため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が十分に発現される。一方、平均繊維幅が1000nm以下であれば、微細繊維としての特長(高透明、高弾性率、低線膨張係数、フレキシブル性)が発揮されやすくなる。なお、得られた微細繊維状セルロース分散液は、繊維幅が1000nmを超えるセルロース繊維を含んでいてもよいが、繊維幅が1000nmを超えるセルロース繊維を含まないほうが好ましい。
【0064】
微細繊維に透明性が求められる用途においては、平均繊維幅が30nm以下であれば、可視光の波長の1/10に近づき、マトリクス材料と複合した場合には界面で可視光の屈折および散乱が生じにくく、透明性が高いものが得られる傾向がある。そのため、平均繊維幅は特に限定されないが、2nm〜30nmが好ましく、2〜20nmがより好ましい。前記のような微細繊維から得られる複合体は、一般的に緻密な構造体となるために強度が高く、可視光の散乱が少ないため高い透明性も得られる。
【0065】
平均繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05〜0.1質量%の微細繊維含有スラリーを調製し、該スラリーを親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅広の繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍、20000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。平均繊維幅とはこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0066】
繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上が好ましい。繊維長が0.1μm以上であれば、後述のシートを製造した際、シートの引裂強度が十分である点で好ましい。繊維長は、TEMやSEM、AFMの画像解析より求めることができる。上記繊維長は、微細繊維の30質量%以上を占める繊維長である。
【0067】
繊維の軸比(繊維長/繊維幅)は特に限定されないが、20〜10000の範囲であることが好ましい。軸比が20以上であれば微細繊維含有シートを形成しやすい点で好ましい。軸比が10000以下であればスラリー粘度が低くなる点で好ましい。
【0068】
微細化処理処理により、上述のような微細繊維状セルロースの分散液が得られる。ここでの微細繊維状セルロースの濃度は、例えば0.1〜20質量%であり、また0.5〜10質量%であり得る。
【0069】
<溶媒>
微細化処理の際のセルロース繊維を分散させる溶媒は、25℃における比誘電率が70以下であるものを用いる。これにより、次の工程で対イオンAを対イオンBに置換したときに、微細繊維状セルロースを濃縮することができるからである。溶媒の比誘電率は、好ましくは60以下であり、より好ましくは50以下である。溶媒の比誘電率の下限値は特に限定されないが、例えば20以上のものを用いることができる。なお、比誘電率の値を示すときは、特に記載した場合を除き、25℃における値である。比誘電率は、誘電率の電気定数(真空の誘電率)に対する比である。純粋な溶媒の誘電率および比誘電率はよく知られている。混合溶媒の誘電率は、液体用誘電率計等の公知の方法で測定することができる。混合溶媒のおよその誘電率および比誘電率としては混合比に基づく比例計算で求めた値を参考としてもよい。
【0070】
溶媒の種類は、特に限定されないが、水(25℃における比誘電率78)に有機溶媒を混合したものを使用することができる。有機溶媒としては、意図した比誘電率を確保できる限り特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。さらにアセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。有機溶媒は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0071】
[対イオンAの対イオンBへの置換(対イオンの炭素数の低減)、微細繊維状セルロース濃縮]
工程(2)では、得られた微細繊維状セルロース分散液に含まれる対イオンAの一部または全部が対イオンBに置換される。これにより、対イオンAの作用により分散していた微細繊維状セルロースが濃縮され、目的の微細繊維状セルロースの濃縮物が得られる。
【0072】
<対イオンB>
対イオンBは、微細繊維状セルロースに導入されているイオン性置換基とイオン対を形成可能であり、炭素数がn−1以下(ここで、nは対イオンAに関して述べたとおり、1以上の整数である。)のものである。対イオンA(炭素数n)がいずれの場合であっても、対イオンBの炭素数はn−1以下である限り特に限定されない。微細繊維状セルロースに導入された置換基がアニオン性置換基である場合、対イオンBとしては、例えば、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオンなどが挙げられるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースに導入された置換基がカチオン性置換基である場合、対イオンBとしては、例えば、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、酢酸イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどが挙げられるが、特に限定されない。本実施形態においては、対イオンBの炭素数は、例えば3以下であることがより好ましく、2以下であることがとくに好ましい。
【0073】
対イオンBはまた、1価のイオンであることが好ましい。微細繊維状セルロースに導入された置換基がアニオン性置換基である場合、炭素数が0であり、かつ1価の対イオンBの特に好ましい例は、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンなどが挙げられるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースに導入された置換基がカチオン性置換基である場合、炭素数が0であり、かつ1価の対イオンBの特に好ましい例としては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオンなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0074】
<対イオンBへの置換>
対イオンAの対イオンBへの置換は、置換が十分に行われる限り特に限定されず、例えば、上述の工程により得られた対イオンA型のイオン性置換基が導入されたセルロース繊維の分散液に対し、必要に応じ攪拌しながら対イオンBを含む溶液を添加することにより、行うことができる。なお、対イオンAを対イオンBにより置換できる理由は定かではないが、炭素数の少ない対イオンBのほうが対イオンAよりも立体障害が小さいこと、対イオンBとして対イオンAよりも強酸または強塩基を使用すること等が寄与していると推測される。
また、対イオンBを含む溶液とともに、有機溶媒を添加してもよい。有機溶媒としては、例えば微細化処理工程において用いたものを使用できる。本工程において有機溶媒を添加する場合、添加される有機溶媒の量は、微細繊維状セルロース分散液中のセルロース全体に対して1000質量%以下であることが好ましく、100質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。なお、本工程においては、有機溶媒は添加しなくともよい。
【0075】
対イオンBの使用量は、適宜とすることができるが、対イオンAが微細繊維状セルロースの凝集を抑制する方向に働いていると考えられることから、目的の濃縮が十分に行われるためには、対イオンAの多くが対イオンBに置換される量、用いることが好ましい。例えば、対イオンAの少なくとも50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上が対イオンBに置換される量、用いることが好ましい。対イオンAの多くを対イオンBに置換するためには、過剰量の対イオンBを用いてもよい。
【0076】
対イオンBへの置換の際の、組成物中の微細繊維状セルロース繊維の含有量は、置換が十分に行われる限り特に限定されず、例えば0.2〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%、より好ましくは1〜3質量%とすることができる。また添加される対イオンBを含む溶液中の対イオンBを含む化合物の濃度もまた、置換が十分に行われる限り特に限定されず、例えば1〜25質量%、好ましくは2〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%とすることができる。添加は、必要に応じ攪拌しながら行うことができる。
【0077】
<濃縮物の調製>
対イオンBを添加することにより、微細繊維状セルロースを凝集させることができる。この際、凝集を促進させる観点から、微細繊維状セルロースの分散液を撹拌することができる。撹拌時間は、特に限定されないが、例えば1分以上2時間以下とすることができる。微細繊維状セルロースが凝集した液から、適切な方法で必要な程度、溶媒を除去することにより、微細繊維状セルロースの濃縮物を得ることができる。従来法では、再分散性が良好な濃縮物を得るためには、微細繊維状セルロースを凝集させるために大量のアルコール等の有機溶媒を要したが、本実施態様によれば、その必要はない。
【0078】
溶媒を除去するための手段は特に限定されず、固液分離のための種々の方法が適用できる。濃縮後の、濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量は、運搬の効率化等の目的に応じ、適宜とすることができる。例えば、5質量以上%とすることができ、10質量%以上とすることができ、20質量%以上とすることができ、30質量%以上とすることができる。このような高濃度に濃縮した場合であっても、本実施態様の方法により濃縮された微細繊維状セルロースは、水系溶媒に良好に再分散することができる。
【0079】
[微細繊維状セルロース含有組成物]
このような、本実施態様により得られる、イオン性置換基が導入された微細繊維状セルロースの濃縮物は、新規なものである。この濃縮物は、イオン性置換基の対イオンBを含み、場合によりイオン性置換基の対イオンAを含んでいてもよい。また本実施態様により得られる、イオン性置換基が導入された微細繊維状セルロースの濃縮物は、水系溶媒に分散可能である。なお、濃縮物中に対イオンAおよび対イオンBが含まれるか否かは、例えば、イオンクロマトグラフィ、微量窒素分析装置、蛍光X線分析、またはICP発光分析により確認することができる。
【0080】
本実施態様により、新規な微細繊維状セルロース含有組成物が提供される。組成物は、イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースと、炭素数n(ただしnは1以上の整数)である対イオンAと、炭素数n−1以下である対イオンBと、有機溶媒とを含む。あるいは、組成物は、イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースと、炭素数n−1以下(ただしnは1以上の整数)である対イオンBと溶媒とを含み、微細繊維状セルロースの含有量が0.7質量%となるように水系溶媒に分散可能である。いずれの場合においても、組成物における微細繊維状セルロースの含有量は、5質量以上%とすることができ、10質量%以上とすることができ、20質量%以上とすることができ、30%質量以上とすることができる。なお、組成物は、25℃において液体状であってもよく、固体状であってもよい。
【0081】
組成物における、イオン性置換基、対イオンA、対イオンBに関する要件および好ましい態様に関しては、上述の微細繊維状セルロース濃縮物の製造方法に関して説明した内容が、そのまま当てはまる。組成物に用いられる有機溶媒としては、水と混合可能であれば特に限定されない。例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。さらにアセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。有機溶媒は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0082】
組成物は、典型的には、有機溶媒を含有する溶媒中に、微細繊維状セルロースを含む形態である。このとき微細繊維状セルロースは、凝集物であってもよい。好ましい液体として、水と1種または2種以上の有機溶媒との混合溶媒であって、比誘電率が70以下であるものを挙げることができる。液体の比誘電率は、好ましくは60以下であり、より好ましくは50以下である。液体の比誘電率の下限値は特に限定されないが、例えば20以上のものを用いることができる。
【0083】
<再分散>
得られた微細繊維状セルロースを含有する組成物は、水系溶媒に再分散することができる。水系溶媒は、できる限り有機溶媒を含まないことが好ましい。水系溶媒中の有機溶媒の量は、例えば10%以下であり、5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。水系溶媒として、有機溶媒を含まない水を用い得る。再分散液における繊維の含有量は、特に限定されないが、0.02〜10質量%とすることができ、0.1〜5質量%とすることもできる。このような濃度の微細繊維状セルロースは、シートを得るために好ましく、塗工の際の取り扱いおよび分散安定性に優れる。なお、水系溶媒としては、pHの調整が行われていないものを用いることができる。このような水系溶媒のpHは、特に限定されないが、例えばpH5〜7である。
【0084】
濃縮物の分散性は、微細繊維状セルロースの含有量が0.7質量%となるように水に分散できるか否かにより判断することができる。このときpHの調整は行わない。分散できるとは、ホモディスパー等による分散処理を施し、その直後の液を目視で観察して、沈殿が認められない場合をいう。
【0085】
<他の成分>
工程(1)で得られる微細セルロース繊維の分散液、工程(2)で得られる濃縮物、または濃縮物からの再分散液には、界面活性剤が含まれてもよい。微細セルロース繊維の含有液に界面活性剤が含まれると、表面張力が低下して、工程基材に対する濡れ性を高めることができ、微細セルロース繊維含有シートをより容易に形成できる。具体的に、微細セルロース繊維含有液の表面張力は25〜45mN/mであることが好ましく、27〜40mN/mであることがより好ましく、30〜38mN/mであることが最も好ましい。微細セルロース繊維含有液の表面張力が前記下限値以上であれば、水を保持しやすい界面活性剤による微細セルロース繊維含有液の乾燥性の低下を防ぐことができ、前記上限値以下であれば、工程基材に対する微細セルロース繊維含有液の濡れ性を充分に向上させることができる。
【0086】
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤を使用することができるが、セルロースがアニオン性である場合、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤が好ましく、セルロースがカチオン性である場合、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤が好ましい。
【0087】
工程(1)で得られる微細セルロース繊維の分散液、工程(2)で得られる濃縮物、または濃縮物からの再分散液は、微細繊維状セルロース以外の繊維(以下、「追加繊維」という)を少なくとも1種以上混合して調製することもできる。追加繊維としては、例えば、無機繊維、有機繊維、合成繊維等、半合成繊維、再生繊維が挙げられるが、特に限定されない。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、岩石繊維、金属繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。有機繊維としては、例えば、セルロース、炭素繊維、パルプ、キチン、キトサン等の天然物由来の繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。合成繊維としては、例えば、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリウレタン、アクリル、ポリ塩化ビニル、アラミド等が挙げられるがこれらに限定されない。半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス等が挙げられるがこれらに限定されない。再生繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、ポリノジックレーヨン、リヨセル、テンセル等が挙げられるがこれらに限定されない。前記追加繊維は、必要に応じて化学的処理、解繊処理等の処理を施すことができる。追加繊維に化学的処理、解繊処理等の処理を施す場合、微細繊維と混合してから化学的処理、解繊処理等の処理を施すこともできるし、追加繊維に化学的処理、解繊処理等の処理を施してから微細繊維と混合することもできる。追加繊維を混合する場合、微細繊維と追加繊維の合計量における追加繊維の添加量は特に限定されないが、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。特に好ましくは20質量%以下である。
【0088】
工程(1)で得られる微細セルロース繊維の分散液、工程(2)で得られる濃縮物、または濃縮物からの再分散液には、親水性高分子を添加してもよい。親水性高分子としては、特に限定されない。例えば、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース,カルボキシエチルセルロース,カルボキシメチルセルロース等)、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉等が挙げられる。また、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)が挙げられる。さらにポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体等が挙げられる。
【0089】
また親水性高分子の代わりに親水性の低分子化合物を用いることもできる。親水性の低分子化合物としては、特に限定されない。例えば、グリセリン、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、ガラクチトール、マンニトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール等が挙げられる。親水性高分子、または親水性の低分子化合物を添加する場合の添加量は、特に限定されない。例えば、微細繊維の固形分100質量部に対し、1〜200質量部、好ましくは1〜150質量部、より好ましくは2〜120質量部、さらに好ましくは3から100質量部である。
【実施例】
【0090】
(製造例1)リン酸化パルプ(H型)の製造
・リン酸基の導入
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93% 米坪208g/mシート状 離解してJIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用した。上記針葉樹クラフトパルプの絶乾質量として100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム49質量部、尿素130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
【0091】
・リン酸化パルプの洗浄
得られたリン酸化パルプの絶乾質量として100質量部に対して10000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返し、リン酸化パルプの脱水シートAを得た。
【0092】
・複数回リン酸化
得られたリン酸化パルプの脱水シートAを原料にし、先と同様にして、リン酸基を導入する工程、濾過脱水する工程をさらに2回繰り返して(リン酸化および濾過脱水の合計回数は3回)、リン酸化パルプの脱水シートBを得た。
【0093】
・導入された置換基量
該リン酸化パルプの脱水シートBは、次に示す滴定法で求められるリン酸基の導入量が1.435mmol/gであった。
【0094】
[置換基導入量(リン酸基導入量)の測定]
置換基導入量は、繊維原料へのリン酸基の導入量であり、この値が大きいほど、多くのリン酸基が導入されている。置換基導入量は、対象となる微細繊維状セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%セルロース繊維含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後のセルロース繊維含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。
【0095】
・リン酸化パルプの塩型変換 H型
リン酸化パルプの脱水シートBの絶乾質量として100質量部に5000質量部のイオン交換水を加え、希釈した。次いで、攪拌しながら、1N塩酸を少しずつ添加し、pHが2〜3のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた。次いで、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流し、リン酸化パルプ(H型)を得た。
【0096】
(製造例2)リン酸化パルプ(TBA型)の製造
製造例1で得られたリン酸化パルプ(H型)の絶乾質量として100質量部に5000質量部のイオン交換水を加え、希釈した。次いで、攪拌しながら、10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を少しずつ添加し、pHが10〜12のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた。次いで、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を十分に洗い流し、リン酸化パルプ(TBA型)(対イオンの炭素数16)を得た。
【0097】
(製造例3)リン酸化パルプ(Na型)の製造
10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液の代わりに、1N NaOH水溶液を用いた以外は製造例2と同様にして、リン酸化パルプ(Na型)(対イオンの炭素数0)を得た。
【0098】
(製造例4)リン酸化パルプ(TPA型)の製造
10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液の代わりに、10%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いた以外は製造例2と同様にして、リン酸化パルプ(TPA型)(対イオンの炭素数12)を得た。
【0099】
(製造例5)リン酸化パルプ(TEA型)の製造
10%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液の代わりに、10%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いた以外は製造例2と同様にして、リン酸化パルプ(TEA型)(対イオンの炭素数8)を得た。
【0100】
(製造例6)TEMPO酸化パルプ(TBA型)の製造
・TEMPO酸化反応
乾燥質量100質量部相当の未乾燥の針葉樹晒クラフトパルプとTEMPO1.25質量部と、臭化ナトリウム12.5質量部とを水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が8.0mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10〜11に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
【0101】
・TEMPO酸化パルプの洗浄
その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。
【0102】
・導入された置換基量
滴定法により測定される置換基(カルボキシ基)の導入量は1.5mmol/gであった。
【0103】
・TEMPO酸化パルプ(H型)の製造
さらに、得られた脱水シートに、5000質量部のイオン交換水を加えて希釈した。次いで、攪拌しながら、1N塩酸を少しずつ添加し、pHが2〜3のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた。次いで、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流し、TEMPO酸化パルプ(H型)を得た。
【0104】
・TEMPO酸化パルプ(TBA型)の製造
得られたTEMPO酸化パルプ(H型)の絶乾質量として100質量部に5000質量部のイオン交換水を加え、希釈した。次いで、攪拌しながら、10% テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を少しずつ添加し、pHが10〜12のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた。次いで、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を十分に洗い流し、TEMPO酸化パルプ(TBA型)(対イオンの炭素数16)を得た。
【0105】
(製造例7)カチオン化パルプ(DBP型)の製造
・パルプのフラッフィング
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を抄き上げたシート(パルプ含有量90質量%)をハンドミキサー(大阪ケミカル製、ラボミルサーPLUS)を用い、回転数20,000rpmで15秒処理して綿状のフラッフィングパルプ(パルプ含有量90質量%)にした。
【0106】
・カチオン化反応
次いで、カチオン化剤(カチオマスターG、四日市合成株式会社製、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、純分73.1質量%、含水率20.2質量%)100質量部と1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液70質量部とを混合したカチオン化剤混合液を、スプレーを用いて、前記フラッフィングパルプ100質量部に添加し、ポリ塩化ビニリデン製の袋の中に入れ、その袋を手で揉むことにより、混合液をパルプに均一に浸透させて、反応用試料を調製した。
その後、袋内の空気を除去し、80℃で1時間反応させ、カチオン化パルプAを得た。
【0107】
・複数回カチオン化
得られたカチオン化パルプAに、前記カチオン化剤混合液を、前記同様に添加し、前記同様に反応させカチオン化パルプBを得た。
【0108】
・カチオン化パルプの洗浄
得られたカチオン化パルプBに5000質量部のイオン交換水を加え、攪拌しながら洗浄した後、脱水した。その洗浄・脱水の処理を4回繰り返し、洗浄済カチオン化パルプを得た。
【0109】
・導入された置換基量
微量窒素分析法により、洗浄済みカチオン化パルプに含まれるカチオン基量を測定したところ、1.1mmol/gであった。
【0110】
・カチオン化パルプ(OH型)の製造
得られた洗浄済みカチオン化パルプに5000質量部のイオン交換水を加え、さらに1NNaOH水溶液を少しずつ加え、pH11〜12のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた。次いで、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い流し、カチオン化パルプ(OH型)を得た。
【0111】
・カチオン化パルプ(DBP型)の製造
得られたカチオン化パルプ(OH型)の絶乾質量として100質量部に5000質量部のイオン交換水を加え、希釈した。次いで、攪拌しながら、ジブチルリン酸溶液を少しずつ添加し、pHが2〜3のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた。次いで、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰のジブチルリン酸溶液を十分に洗い流し、カチオン化パルプ(DBP型)(対イオンの炭素数8)を得た。
【0112】
(実施例1)
・微細化前希釈
得られたリン酸化パルプ(TBA型)に、イソプロパノール(IPA)/水質量比率が70/30、リン酸化パルプ(TBA)の含有量が0.7質量%となるようイソプロパノール(対パルプ9900%)、およびイオン交換水(対パルプ4300%)を添加し、微細化前スラリーを得た。
【0113】
なお、対パルプ%とは、パルプスラリー中における、セルロース繊維(パルプ)全体に対する溶媒の比率を百分率で表した値である。例えばパルプ含有量がa質量%のスラリーである場合、溶媒X/溶媒Yの質量比率がx/yであるとき、溶媒Xの対パルプ%は、下式で計算できる。
【0114】
【数1】
【0115】
・微細化
得られた微細化前スラリーAを、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社「Panda Plus 2000」)で、操作圧力60MPaで5パス処理を行い、微細繊維状セルローススラリーを得た。
【0116】
・対イオンの炭素数の低減
得られた微細繊維状セルローススラリーA100質量部(0.7質量%)に、撹拌しながら48%水酸化ナトリウム水溶液(炭素数0)0.17質量部、イオン交換水0.6質量部(対パルプ0.9%)、イソプロパノール1.8質量部(対パルプ2.6%)の混合液を加えた。
【0117】
・凝集物の生成、濃縮物の回収
さらに30分撹拌を続けたところ、微細繊維状セルロースの濃縮物の凝集物が認められた。凝集物が生じた微細繊維状セルローススラリーを、良く撹拌しながら116.6g分取し、フィルターホルダーに装着したメンブレンフィルター(ADVANTEC、φ90mm、PTFE、孔径0.5μm)をろ紙を敷き、アスピレーターで減圧ろ別し、微細繊維状セルロースの濃縮物(濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が5質量%以上)を得た。また、濃縮物中に含まれる溶媒の25℃における比誘電率が70以下であることを確認した。なお、得られた濃縮物中のNa量はイオンクロマトで、TBA量は微量窒素分析装置で確認した(実施例2において同じ。)。
【0118】
・再分散
得られた微細繊維状セルロースの濃縮物を、含有量が0.7質量%となるように、イオン交換水で希釈し、ホモディスパー(特殊機化工業製 4000rpm 3分)処理で再分散させた。
【0119】
・評価
表1、表2に、微細化時の溶媒の比誘電率、パルプ重量に対して使用した溶媒量、微細化後のスラリーの全光線透過率、およびヘーズ、凝集物のろ別に掛かった時間、再分散後のスラリーの全光線透過率、およびヘーズを記載した。
【0120】
なお、全光線透過率、ヘーズ、および水への再分散性は下記の方法で評価した。
【0121】
[全光線透過率の測定]
JIS規格K7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製「HM−150」)を用いて全光線透過率を測定した。
【0122】
[ヘーズの測定]
JIS規格K7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製「HM−150」)を用いてヘーズを測定した。
【0123】
[再分散性の評価]
上述のようにホモディスパー(特殊機化工業製 8000rpm 3分)処理で再分散処理した直後液を、目視により評価した。
良好:沈殿が認められない。
不良:沈殿が認められる。
【0124】
(実施例2)
微細化前希釈に際し、 分散溶媒をイソプロパノール/水比率が50/50となるようにした以外は実施例1と同様にして、微細繊維状セルロースの濃縮物(微細繊維状セルロースの含有量5質量%以上)を得た。また、濃縮物中に含まれる溶媒の25℃における比誘電率が70以下であることを確認した。さらに、再分散性の評価を行った。結果を表1、表2に記載した。
【0125】
(実施例3)
48%水酸化ナトリウム水溶液(炭素数0)0.17質量部の代わりに、水酸化リチウム0.05質量部、イオン交換水0.6質量部(対パルプ0.9%)、イソプロパノール1.8質量部(対パルプ2.6%)の混合液を加えた以外は実施例1と同様にして、微細繊維状セルロースの濃縮物(濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が5質量%以上)を得た。また、濃縮物中に含まれる溶媒の25℃における比誘電率が70以下であることを確認した。結果を表1に記載した。
得られた濃縮物のイオン交換水に対する再分散性(目視)も良好であった(表2)。
【0126】
(実施例4)
48%水酸化ナトリウム水溶液(炭素数0)0.17質量部の代わりに、水酸化カリウム0.11質量部、イオン交換水0.6質量部(対パルプ0.9%)、イソプロパノール1.8質量部(対パルプ2.6%)の混合液を加えた以外は実施例1と同様にして、微細繊維状セルロースの濃縮物(濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が5質量%以上)を得た。また、濃縮物中に含まれる溶媒の25℃における比誘電率が70以下であることを確認した。結果を表1に記載した。
得られた濃縮物のイオン交換水に対する再分散性(目視)も良好であった(表2)。
【0127】
(実施例5)
48%水酸化ナトリウム水溶液(炭素数0)0.17質量部の代わりに、1N塩酸2質量部を加え、対イオンの炭素数低減時にイオン交換水とイソプロパノールを加えなかった以外は実施例1と同様にして、微細繊維状セルロースの濃縮物(濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が5質量%以上)を得た。また、濃縮物中に含まれる溶媒の25℃における比誘電率が70以下であることを確認した。結果を表1に記載した。
得られた濃縮物のイオン交換水に対する再分散性(目視)も良好であった(表2)。
【0128】
(実施例6)
リン酸化パルプ(TBA型)の代わりにリン酸化パルプ(TEA型)を用い、高圧ホモジナイザーの操作圧力を120MPaとした以外は、実施例1と同様にして微細繊維状セルロースの濃縮物(濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が5質量%以上)を得た。また、濃縮物中に含まれる溶媒の25℃における比誘電率が70以下であることを確認した。結果を表1に記載した。
得られた濃縮物のイオン交換水に対する再分散性(目視)も良好であった(表2)。
【0129】
(実施例7)
リン酸化パルプ(TBA型)の代わりにリン酸化パルプ(TPA型)を用い、高圧ホモジナイザーの操作圧力を120MPaとした以外は、実施例1と同様にして微細繊維状セルロースの濃縮物(濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が5質量%以上)を得た。また、濃縮物中に含まれる溶媒の25℃における比誘電率が70以下であることを確認した。結果を表1に記載した。
得られた濃縮物のイオン交換水に対する再分散性(目視)も良好であった(表2)。
【0130】
(実施例8)
リン酸化パルプ(TBA型)の代わりにTEMPO酸化パルプ(TBA型)を用い、高圧ホモジナイザーの操作圧力を120MPaとした以外は、実施例1と同様にして微細繊維状セルロースの濃縮物(濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が5質量%以上)を得た。また、濃縮物中に含まれる溶媒の25℃における比誘電率が70以下であることを確認した。結果を表1に記載した。
得られた濃縮物のイオン交換水に対する再分散性(目視)も良好であった(表2)。
【0131】
(実施例9)
リン酸化パルプ(TBA型)の代わりにカチオン化パルプ(DBP型)を用い、高圧ホモジナイザーの操作圧力を120MPaとし、さらに、対イオンの炭素数低減時に酢酸ナトリウム0.1質量部、イオン交換水0.5質量部を添加した以外は、実施例1と同様にして微細繊維状セルロースの濃縮物(濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が5質量%以上)を得た。また、濃縮物中に含まれる溶媒の25℃における比誘電率が70以下であることを確認した。結果を表1に記載した。
得られた濃縮物のイオン交換水に対する再分散性(目視)も良好であった(表2)。
【0132】
(実施例10)
対イオンの炭素数低減時に塩酸0.04質量部を添加した以外は、実施例9と同様にして微細繊維状セルロースの濃縮物(濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が5質量%以上)を得た。また、濃縮物中に含まれる溶媒の25℃における比誘電率が70以下であることを確認した。結果を表1に記載した。
得られた濃縮物のイオン交換水に対する再分散性(目視)も良好であった(表2)。
【0133】
(実施例11)
対イオンの炭素数低減時に水酸化ナトリウム0.05質量部、イオン交換水0.5質量部を添加した以外は、実施例9と同様にして微細繊維状セルロースの濃縮物(濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が5質量%以上)を得た。また、濃縮物中に含まれる溶媒の25℃における比誘電率が70以下であることを確認した。結果を表1に記載した。
得られた濃縮物のイオン交換水に対する再分散性(目視)も良好であった(表2)。
【0134】
(比較例1)
対イオンの炭素数の低減工程を省略した以外は実施例1と同様にしたところ、凝集物は生成せず、極めて濾水性が悪く、濾過時間は1時間以上であった。このため、比較例1では、濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が5質量%以上である濃縮物は得られなかった。
【0135】
(比較例2)
リン酸化パルプ(TBA型)の代わりにリン酸化パルプ(Na型)を用いた以外は実施例1と同様にしたところ、微細化時に、高圧ホモジナイザーの閉塞が頻発したため、微細化処理が出来なかった。
【0136】
(比較例3)
微細化前の希釈段階で、有機溶媒(イソプロパノール)を用いず、溶媒を水のみとした以外は、実施例1と同様にしたところ、凝集物が生成せず、極めて濾水性が悪く、濾過時間は1時間以上であった。このため、比較例3では、濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が5質量%以上である濃縮物は得られなかった。
【0137】
(比較例4)
リン酸化パルプ(TBA型)の代わりにリン酸化パルプ(Na型)を用い、微細化前の希釈段階で、有機溶媒(イソプロパノール)を用いず、溶媒を水のみとし、炭素数の低減工程の代わりに、微細繊維状セルローススラリーに、有機溶媒(イソプロパノール)を298質量部(対パルプ28400質量%)加えた以外は実施例1と同様にし、微細繊維状セルロースの濃縮物を得て、再分散性の評価を行った。結果を表1、表2に記載した。
【0138】
(比較例5)
微細繊維状セルローススラリーに有機溶媒(イソプロパノール)を71.3質量部(対パルプ9900質量%)加えた以外は比較例4と同様にしたところ、僅かに凝集が生じたが、極めて濾水性が悪く、濾過時間は1時間以上であった。このため、比較例5では、濃縮物全体に対する微細繊維状セルロースの含有量が5質量%以上である濃縮物は得られなかった。
【0139】
(比較例6)
微細繊維状セルローススラリーに、有機溶媒(イソプロパノール)を加える代わりに、塩化アルミニウムを固体で0.08質量部加えた以外は比較例4と同様にし、微細繊維状セルロースの濃縮物を得て、再分散性の評価を行ったが、凝集物は再分散しなかった。結果を表1、表2に記載した。
【0140】
【表1】
【0141】
【表2】
図1