特許第6561654号(P6561654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6561654酸素輸送コード及びそれを用いた空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561654
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】酸素輸送コード及びそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/48 20060101AFI20190808BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20190808BHJP
   B60C 9/04 20060101ALI20190808BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20190808BHJP
   D06M 15/59 20060101ALI20190808BHJP
   D06M 101/16 20060101ALN20190808BHJP
【FI】
   D02G3/48
   B60C9/00 A
   B60C9/04 Z
   B60C13/00 J
   D06M15/59
   D06M101:16
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-146871(P2015-146871)
(22)【出願日】2015年7月24日
(65)【公開番号】特開2017-25447(P2017-25447A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−080905(JP,A)
【文献】 特開2007−191090(JP,A)
【文献】 特開2009−208734(JP,A)
【文献】 特開2012−106728(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/078013(WO,A1)
【文献】 特開2006−351470(JP,A)
【文献】 特開2011−020672(JP,A)
【文献】 米国特許第4159618(US,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0128615(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 3/48
B60C 9/00
B60C 9/04
B60C 13/00
D06M 15/59
D06M 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維マルチフィラメントヤーンに撚りを与えてなるコード本体の表面にポリイミド層を被覆したことを特徴とする酸素輸送コード。
【請求項2】
前記ポリイミド層が前記コード本体の表面側の3〜13層のフィラメント層まで浸透していることを特徴とする請求項1に記載の酸素輸送コード。
【請求項3】
前記ポリイミド層上にレゾルシン・ホルマリン・ラテックスからなる接着層を被覆したことを特徴とする請求項1又は2に記載の酸素輸送コード。
【請求項4】
前記コード本体の長手方向の少なくとも一方の端部をポリイミド層で閉塞したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸素輸送コード。
【請求項5】
有機繊維マルチフィラメントヤーンに撚りを与えてなるコード本体の表面にポリイミド層を被覆した酸素輸送コードをタイヤ内に埋設したこと特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項6】
一対のビード部間に複数本のカーカスコードを含むカーカス層を装架し、トレッド部における前記カーカス層の外周側にベルト層を配置した空気入りタイヤにおいて、前記トレッド部のショルダー領域に前記ベルト層及び前記カーカス層の近傍からタイヤ幅方向外側のタイヤ外表面に向かって延長する少なくとも1本の酸素輸送コードを埋設し、該酸素輸送コードが有機繊維マルチフィラメントヤーンに撚りを与えてなるコード本体の表面にポリイミド層を被覆した構造を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記ポリイミド層が前記コード本体の表面側の3〜13層のフィラメント層まで浸透していることを特徴とする請求項5又は6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記ポリイミド層上にレゾルシン・ホルマリン・ラテックスからなる接着層を被覆したことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記コード本体の長手方向の少なくとも一方の端部を前記ポリイミド層で閉塞したことを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素輸送コード及びそれを用いた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、酸素を優先的に取り込んで輸送する機能を有する酸素輸送コード、及び、その酸素輸送コードを利用して内圧低下を最小限に抑えながらベルト層の酸化劣化を抑制することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、トラック・バス等に使用される重荷重用の空気入りタイヤは、一対のビード部間に複数本のカーカスコードを含むカーカス層を装架し、トレッド部におけるカーカス層の外周側にベルト層を配置した構造を有している。このような構造を有する空気入りタイヤにおいて、タイヤ内部に充填された高圧空気がインナーライナー層を透過してカーカス層に至り、更にカーカス層を透過してベルト層に至ることにより、その空気中の酸素がベルト層のコートゴムを酸化して劣化させる。
【0003】
このようにしてベルト層の酸化劣化が生じると、空気入りタイヤの耐久性が低下するばかりでなく、更生タイヤとしてのケーシング寿命が短くなり、リトレッド可能回数が少なくなるという問題がある。
【0004】
これに対して、インナーライナー層に酸素吸収剤を配合し、その酸素吸収剤によりベルト層への酸素の到達を抑制し、ベルト層の酸化劣化を防止することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この場合、酸素吸収剤による吸収効果には限りがあるので、ベルト層の酸化劣化を長期間にわたって防止することができない。
【0005】
また、ベルト層を樹脂材料の薄膜で包み込むことにより、ベルト層の酸化劣化を防止することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この場合、トレッド部が発熱した状態における薄膜とゴム層との間の接着性が必ずしも保証されないため、ベルト層を樹脂材料の薄膜で包み込んだ構造は実用化されていないのが現状である。
【0006】
更に、インナーライナー層を透過した空気をカーカスコードを利用してタイヤ外部に排出することにより、ベルト層の酸化劣化を防止することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この場合、酸素と同時に窒素もタイヤ外部に排出されるため、空気入りタイヤの内圧低下を助長することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−20672号公報
【特許文献2】特開2009−279973号公報
【特許文献3】特開2007−191090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、酸素を優先的に取り込んで輸送する機能を有する酸素輸送コード、及び、その酸素輸送コードを利用して内圧低下を最小限に抑えながらベルト層の酸化劣化を抑制することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の酸素輸送コードは、有機繊維マルチフィラメントヤーンに撚りを与えてなるコード本体の表面にポリイミド層を被覆したことを特徴とするものである。
【0010】
また、上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、有機繊維マルチフィラメントヤーンに撚りを与えてなるコード本体の表面にポリイミド層を被覆した酸素輸送コードをタイヤ内に埋設したことを特徴とするものである。
【0011】
更に、上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、一対のビード部間に複数本のカーカスコードを含むカーカス層を装架し、トレッド部における前記カーカス層の外周側にベルト層を配置した空気入りタイヤにおいて、前記トレッド部のショルダー領域に前記ベルト層及び前記カーカス層の近傍からタイヤ幅方向外側のタイヤ外表面に向かって延長する少なくとも1本の酸素輸送コードを埋設し、該酸素輸送コードが有機繊維マルチフィラメントヤーンに撚りを与えてなるコード本体の表面にポリイミド層を被覆した構造を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酸素輸送コードは、有機繊維マルチフィラメントヤーンに撚りを与えてなるコード本体の表面にポリイミド層を被覆した構造を有しているが、ポリイミド層は空気中の窒素よりも酸素を透過し易い性質を持っている。そのため、上記酸素輸送コードをゴム中に埋設した場合、ゴム中の酸素をコード内に優先的に取り込んで長手方向に沿って輸送する機能を有するものとなる。
【0013】
そして、上記酸素輸送コードがタイヤ内に埋設された空気入りタイヤは、その酸素輸送コードを排気経路として酸素をタイヤ外部に選択的に排出することができるので、内圧低下を最小限に抑えながらベルト層の酸化劣化を抑制することができる。
【0014】
より具体的には、一対のビード部間に複数本のカーカスコードを含むカーカス層を装架し、トレッド部におけるカーカス層の外周側にベルト層を配置した空気入りタイヤにおいて、トレッド部のショルダー領域にベルト層及びカーカス層の近傍からタイヤ幅方向外側のタイヤ外表面に向かって延長する少なくとも1本の酸素輸送コードを埋設することが好ましい。このような構成によれば、カーカスコードの内部空間に進入した空気に含まれる酸素を酸素輸送コードからなる排気経路を介してタイヤ外部に効果的に排出することができる。特に、トレッド部のショルダー領域はタイヤ走行時の周期的な変形に起因して発熱し、その発熱温度が他の部位に比べて高くなることで空気がゴム中を拡散し易くなるため、酸素の排出経路として最適である。
【0015】
そのため、タイヤ内部に充填された空気がインナーライナー層を透過してカーカス層に至った場合、その空気に含まれる酸素を酸素輸送コードからなる排気経路を介してタイヤ外部に選択的に排出することができ、内圧低下を最小限に抑えながらベルト層の酸化劣化を抑制することができる。その結果、更生タイヤとしてのケーシング寿命を長くしてリトレッド可能回数を増加することが可能になる。
【0016】
本発明において、ポリイミド層はコード本体の表面側の3〜13層のフィラメント層まで浸透していることが好ましい。これにより、酸素を選択的に輸送する機能を十分に発揮することができる。
【0017】
また、ポリイミド層上にはレゾルシン・ホルマリン・ラテックスからなる接着層を被覆することが好ましい。これにより、酸素輸送コードのゴムに対する接着性を十分に確保することができる。
【0018】
更に、コード本体の長手方向の少なくとも一方の端部をポリイミド層で閉塞することが好ましい。これにより、空気中の窒素の流出をより確実に防止し、酸素を選択的に輸送する機能を十分に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態からなる酸素輸送コードを示す横断面図である。
図2図1のX部を拡大して示す断面図である。
図3図1の酸素輸送コードにおける酸素の出入りを示す説明図である。
図4】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線半断面図である。
図5図4の空気入りタイヤを示す側面図である。
図6図4の空気入りタイヤの要部を拡大して示す断面図である。
図7】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤの要部を示す断面図である。
図8図7の空気入りタイヤを示す側面図である。
図9】本発明の空気入りタイヤのカーカス層に使用されるスチールコードの一例を示す横断面図である。
図10】本発明の空気入りタイヤのカーカス層に使用されるスチールコードの他の例を示す横断面図である。
図11】本発明の空気入りタイヤのカーカス層に使用されるスチールコードの更に他の例を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1図3は本発明の実施形態からなる酸素輸送コードを示すものである。図1及び図2に示すように、酸素輸送コード20は、有機繊維マルチフィラメントヤーンに撚りを与えてなるコード本体21の表面にポリイミド層22を被覆した構造を有している。
【0021】
コード本体21を構成する有機繊維マルチフィラメントヤーンとしては、接着性が良好なナイロン66繊維やレーヨン繊維を使用することが好ましい。コード本体21の総繊度は例えば800dtex〜4000dtexの範囲に設定され、各フィラメントの繊度は例えば1.5dtex〜10dtexの範囲に設定されるが、これら範囲に限定されるものではない。
【0022】
上述した酸素輸送コード20において、ポリイミド層22は空気中の窒素よりも酸素を透過し易い性質を持っている。そのため、酸素輸送コード20をゴム中に埋設した場合、ゴム中の酸素を酸素輸送コード20の内部に優先的に取り込んで長手方向に沿って輸送する機能を有するものとなる。
【0023】
このような酸素輸送コード20が空気入りタイヤのゴム中に埋設された場合、図3に示すように、タイヤ空洞部に近く酸素濃度が高い領域Ainでは酸素輸送コード20内に空気中の酸素(O2)が取り込まれ、その酸素がフィラメント間を通って酸素輸送コード20の長手方向に沿って移動し、タイヤ外表面に近く酸素濃度が低い領域Aoutにおいて酸素輸送コード20から酸素(O2)が放出される。そのため、酸素輸送コード20を排気経路として酸素をタイヤ外部に選択的に排出することができる。
【0024】
酸素輸送コード20において、ポリイミド層22はコード本体21の表面側の3〜13層のフィラメント層まで浸透しているのが良い。これにより、酸素を選択的に輸送する機能を十分に発揮することができる。ここで、ポリイミド層22のコード本体21への浸透が3層未満であると、空気中の酸素のみならず窒素もポリイミド層22を透過するようになるので酸素を選択的に輸送する作用が低下する。また、ポリイミド層22のコード本体21への浸透が13層超であると、酸素及び窒素を含む空気がポリイミド層22を透過し難くなるので排気通路としての機能が低下する。なお、ポリイミド層22のコード本体21への浸透層数は、酸素輸送コード20の周上8箇所においてポリイミド層22の厚さを計測して平均厚さを求めたとき、ポリイミド層22の平均厚さのフィラメント径に対する比により特定される。
【0025】
また、図1及び図2に示すように、酸素輸送コード20において、ポリイミド22層上にはレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)からなる接着層23が被覆されている。これにより、酸素輸送コード20のゴムに対する接着性を十分に確保することができる。このような接着層23の被覆はタイヤコードに対して行われる通常の接着処理であるが、接着層23はポリイミド層22による酸素透過を阻害するものではない。
【0026】
更に、酸素輸送コード20において、コード本体21の長手方向の少なくとも一方の端部はポリイミド層22で閉塞すると良い。この場合、酸素輸送コード20の一方の端部から他方の端部へ空気が通過することがなくなるので、空気中の窒素の流出をより確実に防止し、酸素を選択的に輸送する機能を十分に発揮することができる。
【0027】
図4及び図5は本発明の実施形態からなる重荷重用の空気入りタイヤを示すものである。なお、図4はタイヤセンターラインCLの一方側の部分のみを示しているが、この空気入りタイヤはタイヤセンターラインCLの他方側にも対応する構造を有している。
【0028】
図4及び図5に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0029】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本のカーカスコードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられている。各ビード部3には、ビードコア5を包み込むようにカーカス層4に沿って延在するコード補強層6が埋設されている。また、各ビードコア5の外周側にはゴム組成物からなるビードフィラー7が配置されている。更に、タイヤ内面にはカーカス層4に沿ってインナーライナー層8が配設されている。
【0030】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層9A,9B,9C,9Dが埋設されている。これらベルト層9A〜9Dはタイヤ周方向に対して傾斜する複数本のベルトコードを含み、かつ層間でベルトコードが互いに交差するように配置されている。ベルト層9A〜9Dにおいて、ベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜60°の範囲に設定されている。ベルト層9A〜9Dのベルトコードとしては、スチールコードが好ましく使用される。
【0031】
上記空気入りタイヤにおいて、トレッド部1のショルダー領域には、最も広幅なベルト層9B及びカーカス層4の近傍からタイヤ幅方向外側のタイヤ外表面に向かって延長する複数本の酸素輸送コード20が埋設されている。図5に示すように、複数本の酸素輸送コード20はタイヤ周方向に沿って等間隔で配置されている。
【0032】
図6に示すように、酸素輸送コード20は、ベルト層9Bから酸素輸送コード20までの最短距離Dbが8mm以下となり、カーカス層4から酸素輸送コード20までの最短距離Dcが2mm以下となり、かつタイヤ外表面から酸素輸送コード20までの最短距離Dsが2mm以下となるように配置されている。このような距離Db,Dc,Dsを満足する位置に酸素輸送コード20を配置することで、カーカス層4に到達した空気に含まれる酸素をタイヤ外部に効果的に排出することができる。なお、ベルト層9Bから酸素輸送コード20までの最短距離Dbが大き過ぎると発熱による空気拡散効果が低下し、また、カーカス層4から酸素輸送コード20までの最短距離Dc又はタイヤ外表面からタイヤ外表面からの距離Dsが大き過ぎるとカーカス層4から酸素を排出する効果が低下する。
【0033】
上述した空気入りタイヤでは、カーカス層4を構成するカーカスコードの内部空間に進入した空気に含まれる酸素を酸素輸送コード20からなる排気経路を介してタイヤ外部に効果的に排出することができる。特に、トレッド部1のショルダー領域はタイヤ走行時の周期的な変形に起因して発熱し、その発熱温度が他の部位に比べて高くなることで空気がゴム中を拡散し易くなるため、酸素の排出経路として最適である。
【0034】
そのため、上記空気入りタイヤにおいて、タイヤ内部に充填された空気がインナーライナー層8を透過してカーカス層4に至った場合、その空気に含まれる酸素を酸素輸送コード20からなる排気経路を介してタイヤ外部に選択的に排出することができるので、ベルト層9A〜9Dへの酸素の浸透を減らし、ベルト層9A〜9Dの酸化劣化を抑制することができる。その結果、例えば、トラック・バスに使用される重荷重用の空気入りタイヤにおいて、更生タイヤとしてのケーシング寿命を長くしてリトレッド可能回数を増加することが可能になる。しかも、空気に含まれる酸素が選択的に排出されるので、空気入りタイヤの内圧低下を最小限に抑えることができる。
【0035】
図7及び図8は本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。図7において、カーカス層4と酸素輸送コード20との間にはスチレン−ブタジエンゴム(SBR)系のコンパウンドからなるガス透過促進層24が設けられており、そのガス透過促進層24がカーカス層4及び酸素輸送コード20の双方に対して接触するように配置されている。SBR系のコンパウンドは発熱状態において天然ゴムに比べて空気(特に酸素)を透過し易いので、このようなコンパウンドからなるガス透過促進層24をカーカス層4と酸素輸送コード20との間に介在させることで、カーカス層4に到達した空気をタイヤ外部に効果的に排出し、ベルト層9A〜9Dの酸化劣化を効果的に抑制することができる。
【0036】
なお、SBR系のコンパウンドとはポリマー成分の50重量%以上がSBRであるコンパウンドを意味し、この配合量を満足する限りにおいてコンパウンド中にポリマー成分として他のゴムを配合しても良い。勿論、このコンパウンドには、ポリマー成分の他に、充填剤、架橋剤、軟化剤、老化防止剤、加工助剤などの配合剤を適宜添加することができる。
【0037】
図8に示すように、ガス透過促進層24はタイヤ周方向に沿って連続的に延在するように配置されている。このような配置とした場合、タイヤ周方向の全域においてカーカス層4のカーカスコードからガス透過促進層24に空気を取り込み、その空気に含まれる酸素を間欠的に配置された酸素輸送コード20へ導くことができる。ガス透過促進層24はタイヤ周方向に沿って連続的に延在することが好ましいが、タイヤ周方向に沿って間欠的に延在していても良い。
【0038】
上述した各実施形態からなる空気入りタイヤにおいて、カーカス層4を構成するカーカスコードとしては、素線径が0.22mm以下である9本以上の素線31を撚り合わせた構造を有するスチールコード30(図9図11参照)を使用することが好ましい。特に、スチールコード30は複層撚り構造を有することが好ましく、また、タイヤ加硫後の状態において長手方向に連続する内部空間(ゴムが浸透していない部分)を備えることが好ましい。スチールコード30は最密充填構造を有していても良い。このようなスチールコード30は内部空間における空気の移動を許容するものである。素線径が0.22mmよりも大きいとカーカスコードとして柔軟性が悪化し、撚り合わせる素線31の本数が9本よりも少ないと加硫時にコード内部にゴムが浸透し易くなるため内部空間が形成され難くなる。より好ましくは、素線径を0.17mm〜0.22mmとし、撚り合わせる素線31の本数を9本〜30本とするのが良い。図9は3+7構造を示すものであり、図10は3+9構造を示すものであり、図11は1+18構造を示すものであるが、それ以外にも、例えば、3+6構造、3+9+15構造を採用することが可能である。
【0039】
カーカス層4を構成するカーカスコードとして素線径が0.22mm以下である9本以上の素線31を撚り合わせた構造を有するスチールコード30を用いた場合、タイヤ内部に充填された高圧空気がインナーライナー層8を透過してカーカス層4に到達した際に、カーカスコードの内部空間に進入した空気がカーカスコードの長手方向に沿って移動可能となる。その一方で、トレッド部1のショルダー領域にベルト層9B及びカーカス層4の近傍からタイヤ幅方向外側のタイヤ外表面に向かって延長する少なくとも1本の酸素輸送コード20を設けているので、カーカスコードの内部空間に進入した空気が酸素輸送コード20を介してタイヤ外部に効果的に排出されるようになる。但し、カーカス層4を構成するカーカスコードは上記具体例に限定されるものではない。
【0040】
上述した各実施形態では、トレッド部1のショルダー領域にベルト層9B及びカーカス層4の近傍からタイヤ幅方向外側のタイヤ外表面に向かって延長する少なくとも1本の酸素輸送コード20を設けた場合について説明したが、本発明では空気入りタイヤにおける酸素輸送コード20の埋設位置は特に限定されるものではない。この酸素輸送コード20は空気中の酸素を選択的に輸送する能力を有しているので、単独又はカーカス層等の他の部材との協働により空気入りタイヤの任意の位置において酸素の排出経路を形成することができる。
【0041】
また、上述した実施形態では重荷重用の空気入りタイヤの場合について説明したが、本発明は乗用車用を含む各種用途の空気入りタイヤにも適用可能である。
【実施例】
【0042】
有機繊維マルチフィラメントヤーン(ナイロン66)に撚りを与えてなるコード本体の表面にポリイミド層を被覆し、ポリイミド層上にレゾルシン・ホルマリン・ラテックスからなる接着層を被覆し、ポリイミド層のコード本体への浸透層数を表1のように異ならせた酸素輸送コードA〜Cを用意した。また、有機繊維マルチフィラメントヤーン(ナイロン66)に撚りを与えてなるコード本体の表面上にレゾルシン・ホルマリン・ラテックスからなる接着層を被覆した酸素輸送コードD(基準)を用意した。
【0043】
酸素輸送コードA〜Dについて、以下の方法により、酸素透過量及び窒素透過量を調べた。即ち、簾状に配列された複数本のコードをゴム被覆して加硫した後、コードの両端部が露出するように幅75mm、長さ200mmの試験片を作製した。この試験片の表層に対して圧縮空気を供給する一方で、コードの一方の端部からコード内に低圧アルゴンガスを送り込み、コードの他方の端部から排出される混合気体をガスクロマトグラフィにより分析し、酸素透過量及び窒素透過量を求めた。その結果を表1に示す。酸素透過量及び窒素透過量は、酸素輸送コードDを100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど透過量が大きいことを意味する。
【0044】
【表1】
【0045】
表1において、酸素輸送コードDとの対比から判るように、有機繊維マルチフィラメントヤーンに撚りを与えてなるコード本体の表面にポリイミド層を被覆した酸素輸送コードA〜Cは窒素よりも酸素を透過し易い性質を有している。
【0046】
次に、タイヤサイズ215/45R17で、一対のビード部間に複数本のカーカスコードを含むカーカス層を装架し、トレッド部におけるカーカス層の外周側にベルト層を配置した空気入りタイヤにおいて、トレッド部のショルダー領域にベルト層及びカーカス層の近傍からタイヤ幅方向外側のタイヤ外表面に向かって延長する複数本の酸素輸送コードを埋設した比較例1及び実施例1〜4のタイヤを作製した。酸素輸送コードとしては、上述した酸素輸送コードA〜Dのいずれかを用いた。また、ベルト層から酸素輸送コードまでの最短距離Dbを8mmとする一方で、カーカス層から酸素輸送コードまでの最短距離Dc及びタイヤ外表面から酸素輸送コードまでの最短距離Dsは表2のように設定した。
【0047】
比較のため、トレッド部のショルダー領域に酸素輸送コードを埋設していないこと以外は実施例1〜4と同じ構造を有する従来例のタイヤを用意した。
【0048】
これら従来例、比較例1及び実施例1〜4のタイヤについて、下記の評価方法により、空気漏れ性、ベルト部酸化劣化を評価し、その結果を表2に示した。
【0049】
空気漏れ性:
試験タイヤをリムサイズ17×7.5Jのリムに組付けて空気圧を250kPaに調整し、180日後の空気圧を測定し、その減圧量を求めた。評価結果は、減圧量の逆数を求め、従来例を100とする指数値にて示した。この指数値が大きいほど空気漏れが少ないことを意味する。
【0050】
ベルト部酸化劣化:
試験タイヤをリムサイズ17×7.5Jのリムに組付けて空気圧を350kPaに調整し、70℃のオーブン内に14日間保管した後、ベルト層とカーカス層との間の剥離力を測定した。評価結果は、従来例を100とする指数値にて示した。この指数値が大きいほどベルト部の酸化劣化が少ないことを意味する。
【0051】
【表2】
【0052】
表2から判るように、実施例1〜4のタイヤは、いずれも従来例との対比において、内圧低下を最小限に抑えながらベルト部の酸化劣化を抑制することができた。これに対して、比較例1のタイヤは、ベルト部の酸化劣化を抑制可能であるものの、空気入りタイヤの内圧低下が顕著であった。
【符号の説明】
【0053】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
8 インナーライナー層
9A,9B,9C,9D ベルト層
20 酸素輸送コード
21 コード本体
22 ポリイミド層
23 接着層
図1
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図3
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図11