(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記平坦面と前記複数の凹部のうち80%以上の所定の湾曲面を有する凹部とは、前記所定の湾曲面の条件を満たすように連結されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機発光ダイオード作製用金型。
基体上に透明な第1電極を有する電極付き基体の前記第1電極が形成された面に、発光層を含む有機半導体層と第2電極とを、塗布工程とその後の真空成膜工程とにより形成する有機発光ダイオードの製造方法であって、
前記塗布工程と前記真空成膜工程との間に、請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機発光ダイオード作製用金型を前記塗布工程で形成した塗布層の最外面に押し当て、前記有機発光ダイオード作製用金型の主面の形状の反転形状を前記塗布層の最外面に形成するスタンパ工程を有することを特徴とする有機発光ダイオードの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一態様に係る金型、有機発光ダイオードおよび有機発光ダイオードの製造方法について、図面を用いてその構成を説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0028】
「金型」
図1は、本発明の一態様に係る金型を模式的に示す斜視図である。本発明の一態様に係る金型10には、主面10Aに複数の平坦面1a〜1nと、複数の凹部2a〜2nとが設けられている。複数の平坦面1a〜1nは、複数の凹部2a〜2nのうち最隣接する凹部によって囲まれた領域内に配設されている。
図1においては、最隣接する凹部の中心点を結ぶと平面視六角形が描かれ、その中央の領域に平坦面が配設されている。最隣接する凹部は互いに密接し、最隣接する凹部の境目は隣接する平坦面1a〜1n同士をつなぐ稜線となっている。
【0029】
図2は、本発明の一態様に係る金型の平坦面の中心点と、この平坦面に隣接する凹部の中心点と、を結ぶ面で切断した断面図である。
図2に示すような断面は、AFM(原子間力顕微鏡)イメージまたは切断サンプルを電子顕微鏡で観察した顕微鏡画像として得ることができる。
【0030】
AFMイメージによる断面は、平均ピッチPの30〜40倍の正方形の領域について撮影したAFMイメージから、平坦面1nの中心点1Anとこの平坦面1nに隣接する凹部2nの中心点2Anとを結ぶ面の断面情報を取り出すことで得ることができる。
【0031】
ここで平均ピッチPとは、複数の凹部2a〜2nのうち最隣接する凹部によって囲まれた第1領域R1と、第1領域R1に隣接し複数の凹部2a〜2nのうち最隣接する凹部によって囲まれた第2領域R2間の距離を意味する。
図1においては、第1領域R1は平坦面1mに対応し、第2領域R2は平坦面1nに対応する。
【0032】
平均ピッチPは、具体的には以下のようにして求めることができる。
まず、金型10の主面10Aにおける無作為に選択された領域で、一辺が平均ピッチPの30〜40倍の正方形のAFMイメージ像を得る。例えば、平均ピッチPが300nm程度の場合、9μm×9μm〜12μm×12μmのイメージ像を得る。そして、得られたイメージ像における複数の凹部のうち最隣接する凹部同士を直線で結ぶ。最隣接する凹部同士を直線で結ぶことで、平面視で所定の多角形となる複数の領域を得る。得られた各領域の中心間距離を計測し、計測した中心間距離を平均することで、得られたイメージ像における各領域間の平均ピッチP
1を求める。このような処理を無作為に選択された合計25カ所以上の同面積のイメージ像について同様に行い、各イメージ像における平均ピッチP
1〜P
25を求める。こうして得られた25カ所以上のイメージ像における平均ピッチP
1〜P
25の平均値が平均ピッチPである。この際、各イメージ像同士は、少なくとも1mm離れて選択されることが好ましく、より好ましくは5mm〜1cm離れて選択される。
【0033】
これに対し、顕微鏡画像による断面は、金型10をFIB(Focused Ion Beam)等を用いて平坦面1nの中心点1Anとこの平坦面1nに隣接する凹部2nの中心点2Anとを結ぶ面を切り出し、その断面を光学顕微鏡で観察することで得ることができる。金型の断面形状が切断により変形する恐れのある場合は、切断に耐えうる材料で凹部表面を覆うかまたは凹部を樹脂等で包埋した上で切断することが好ましい。
【0034】
AFMイメージで測定した断面と、顕微鏡画像で観察した断面のいずれもある場合は、AFMイメージで測定した断面を優先する。これは、AFMイメージで測定した断面の方が、平坦面1nの中心点1Anとこの平坦面1nに隣接する凹部2nの中心点2Anとを結ぶ測定面を得やすく、断面形状を確認しやすいためである。複数の平坦面1a〜1nが規則的に配列している場合は、断面を得るための切断方向を複数の平坦面1a〜1nの配列方向に沿った方向とすることが好ましい。
【0035】
平坦面1a〜1nの中心点1Aa〜1Anは、AFMの測定結果に基づき設定する。具体的には、複数の平坦面1a〜1nのそれぞれに平面視内接する内接円を設ける。この内接円の中心を平坦面1a〜1nの中心点1Aa〜1Anとする。
また凹部2a〜2nの中心点2Aa〜2Anも、AFMの測定結果に基づき設定する。具体的には、基準面と平行に各凹部2a〜2nについて20nm毎に複数の等高線を引き、各等高線の重心点(x座標とy座標で決定される点)を求める。これらの各重心点の平均位置(各x座標の平均とy座標の平均で決定される位点)を、各凹部2a〜2nの中心点2Aa〜2Anとする。基準面は、AFMで測定した傾きを有する画像情報から傾き補正を行った後の測定面である。
【0036】
凹部2a〜2nは、平坦面1a〜1nに対して窪んだ部分である。平坦面1a〜1nは、AFMの測定結果に基づき、その領域内の中心点1Aa〜1Anにおける位置座標と、その領域内における任意の点の位置座標とを結ぶ直線の、AFMの基準面に対する傾きが±5゜以内である領域を意味する。
【0037】
凹部2a〜2nは、金型10の一面に二次元に配置されている。「二次元に配置」とは、複数の凹部が、同一平面上に配置されている状態をいう。複数の凹部の二次元に配置された二次元構造は、周期的であっても非周期的であってもよい。
【0038】
金型10は、有機発光ダイオードの金属からなる電極に生じた表面プラズモンを取り出すための凹凸形状を作製する際に好適に用いることができる。金型10を用いて作製される有機発光ダイオードが狭い周波数帯域の光を発光する場合には、複数の凹部の二次元的な配置は、周期的であることが好ましい。
【0039】
周期的な二次元構造の好ましい具体例として、配向方向が2方向で、その交差角度が90°であるもの(正方格子)、配向方向が3方向で、その交差角度が120°であるもの(三角格子、六方格子)等が挙げられる。
「交差角度が120°の位置関係」とは、具体的には、以下の条件を満たす関係をいう。まず、1つの中心点2Aaから、隣接する中心点2Abの方向に長さが平均ピッチPと等しい長さの線分L1を引く。次いで中心点2Aaから、線分L1に対して、120゜の方向に、平均ピッチPと等しい長さの線分L2を引く。中心点2Aaに隣接する中心点が、中心点2Aaと反対側における各線分L1の終点から、各々平均ピッチPの15%以内の範囲にあれば、交差角度が120°の位置関係にある。交差角度が90度の位置関係とは、上述の「120°」との記載を「90°」と読み替えることで定義される。
【0040】
これに対し、金型10を用いて作製される有機発光ダイオードが、広い周波数帯域の光または互いに異なる複数の周波数帯域の光を発光する場合には、複数の凹部2a〜2nの二次元的な配置は、非周期的であることが好ましい。「非周期な配置」とは、凹部2a〜2nの中心間の間隔および配置方向が一定でない状態をいう。
【0041】
複数の凹部2a〜2nのうち最隣接する凹部によって囲まれた第1領域R1と、第1領域R1に隣接し複数の凹部2a〜2nのうち最隣接する凹部によって囲まれた第2領域R2間の平均ピッチPは、50nm〜5μmであり、50nm〜500nmであることが好ましい。平均ピッチPが当該範囲内であれば、金型10を用いて作製した有機発光ダイオードにおいて、金属電極から表面プラズモンを効率よく取り出すことができる。
【0042】
凹部2a〜2nは、
図3に示すように周期的な構造が各エリアCa〜Cnで形成され、巨視的な全体としては、各エリアCa〜Cnが非周期的に配置された構造となっていてもよい。
図3に示す各エリアCa〜Cnは、各中心点の交差角度が120°の位置関係で整列している領域である。
図3では、各凹部2a〜2nの中心点の位置を、便宜上、その中心点を中心とする円uで示している。円uは、各凹部2a〜2nだけでなく、その周辺の平坦面を含む領域に相当する。
【0043】
各エリアCa〜Cnの最頻面積Q(各エリア面積の最頻値)は、以下の範囲であることが好ましい。
平均ピッチPが500nm未満の時、10μm×10μmのAFMイメージ測定範囲内における最頻面積Qは、0.026μm
2〜6.5μm
2であることが好ましい。
平均ピッチPが500nm以上1μm未満の時、10μm×10μmのAFMイメージ測定範囲内における最頻面積Qは、0.65μm
2〜26μm
2であることが好ましい。
平均ピッチPが1μm以上の時、50μm×50μmのAFMイメージ測定範囲内における最頻面積Qは、2.6μm
2〜650μm
2であることが好ましい。
最頻面積Qが好ましい範囲内であれば、周期的な構造は巨視的には格子方位がランダムな多結晶体となるため、金属表面で表面プラズモンが伝播光に変換されて輻射される際に、平面方向に関して輻射光の放出角度がランダムになり、素子から取り出される発光光が異方性を有することを抑制することができる。
【0044】
各エリアCa〜Cnは、
図3に示すように、面積、形状及び格子方位がランダムである。
面積のランダム性の度合いは、具体的には、以下の条件を満たすことが好ましい。
まず、ひとつのエリアの境界線が外接する最大面積の楕円を描き、その楕円を下記式(1)で表す。
X
2/a
2+Y
2/b
2=1・・・(1)
【0045】
平均ピッチPが500nm未満の時、10μm×10μmのAFMイメージ測定範囲内におけるπabの標準偏差は、0.08μm
2以上であることが好ましい。
平均ピッチPが500nm以上1μm未満の時、10μm×10μmのAFMイメージ測定範囲内におけるπabの標準偏差は、1.95μm
2以上であることが好ましい。
平均ピッチPが1μm以上の時、50μm×50μmのAFMイメージ測定範囲内におけるπabの標準偏差は、8.58μm
2以上であることが好ましい。
πabの標準偏差が好ましい範囲内であれば、金属表面から所定の角度に輻射される表面プラズモンの素子外部への平面方向に関する放出角度を平均化させる効果に優れ、発光光が異方性を有することを抑制することができる。
【0046】
各エリアCa〜Cnの形状のランダム性の度合いは、具体的には、式(1)におけるaとbの比、a/bの標準偏差が0.1以上であることが好ましい。各エリアCa〜Cnの格子方位のランダム性は、具体的には、以下の条件を満たすことが好ましい。
まず、任意のエリア(I)における任意の隣接する2つの凹部の中心点を結ぶ直線K0を画く。次に、該エリア(I)に隣接する1つのエリア(II)を選択し、そのエリア(II)における任意の凹部と、その凹部に隣接する3つの凹部の中心点を結ぶ3本の直線K1〜K3を画く。直線K1〜K3が、直線K0を基準に60°ずつ回転させた6本の直線に対して、いずれも3度以上異なる角度である場合、エリア(I)とエリア(II)との格子方位が異なる、と定義する。
エリア(I)に隣接するエリアの内、格子方位がエリア(I)の格子方位と異なるエリアが2以上存在することが好ましく、3以上存在することが好ましく、5以上存在することがさらに好ましい。
【0047】
このとき凹部は、格子方位が各エリアCa〜Cnの内では揃っているが、巨視的には揃っていない多結晶構造体である。巨視的な格子方位のランダム性は、FFT(高速フーリエ変換)基本波の最大値と最小値の比で評価できる。FFT基本波の最大値と最小値の比は、AFM像を取得し、その2次元フーリエ変換像を求め、基本波の波数だけ原点から離れた円周を作図し、この円周上の最も振幅の大きい点と最も振幅の小さな点を抽出し、その振幅の比として求める。
FFT基本波の最大値と最小値の比が大きい場合は、凹部の格子方位が揃っており、凹部を2次元結晶とみなした場合単結晶性が高い構造と言える。反対に、FFT基本波の最大値と最小値の比が小さい場合は、凹部の格子方位が揃っておらず、凹部を2次元結晶とみなした場合は多結晶構造であると言える。
【0048】
複数の凹部2a〜2nの平均アスペクト比は0.01〜1であり、0.05〜0.5であることが好ましい。平均アスペクト比とは、凹部2a〜2nの平均幅Dに対する凹部2a〜2nの平均高さHを意味する。金型10における平均アスペクト比が0.01以下であると、金型10を用いて作製した有機発光ダイオードにおいて、表面プラズモンを輻射光として取り出す効果を十分に得ることができない。これに対し、平均アスペクト比が1以上であると、凹部を後述する所定の湾曲面で構成することが難しくなる。また有機発光ダイオードの製造時において金型10を用いた形状の転写が難しくなる。
【0049】
凹部2a〜2nの平均アスペクト比は、AFMによって測定される。
まず金型10の主面10Aの無作為に選択された25μm
2(5μm×5μm)の領域1箇所についてAFM像を得る。ついで、得たAFM像の対角線方向に線を引き、この線と交わった複数の凹部2a〜2nのそれぞれの高さと幅を測定する。凹部の高さは平坦面1から凹部の最深点までの距離を意味する。凹部の幅は一つの凹部を平面視した際に外接する外接円を描き、その外接円の直径を意味する。そして、この領域における凹部の高さと幅の平均値を求める。同様の処理を、無作為に選択された合計25カ所の領域について行う。そして得られた25カ所の領域毎の凹部の高さと幅の平均値をさらに平均した値が平均高さと平均幅である。そして、平均高さを平均幅で割った値が、平均アスペクト比である。
【0050】
凹部2a〜2nの80%以上は、
図2に示すような所定の湾曲面により構成されている。複数の凹部のうち所定の湾曲面を有する凹部の割合は、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。所定の湾曲面は以下のように定義される。
凹部2nを構成する湾曲面2Bから任意の1点を第1点p1として選択する。この第1点p1に対する接平面を第1接平面t1とする。また第1点p1から凹部2nの中心点2Anに向かって平均ピッチPの1/10だけずれた点を第2点p2とする。ここで平均ピッチPの1/10だけずれたとは、第1点p1から中心点2Anに向かって平坦面1と平行に移動した距離Lを意味する。この第2点p2に対する接平面を第2接平面t2とする。このとき第1接平面t1に対する第2接平面t2の傾き角をθとする。
凹部2nの湾曲面2Bのどの部分においても、第1接平面t1に対する第2接平面t2の傾き角θが60°以内の関係を満たす場合、凹部2nは所定の湾曲面であるといえる。また所定の湾曲面においては、第1接平面t1に対する第2接平面t2の傾き角θが45°以内であることが好ましく、30°以内であることがさらに好ましい。
【0051】
図4は、
図2に示す金型10を用いて作製した被転写物20の一つの凸部22nを拡大した断面図である。
図4に示すように、所定の湾曲面2Bを有する凹部2nによって転写された凸部22nの湾曲面22Bの形状は、凹部2nの湾曲面2Bの形状の反対形状であり、なだらかである。ここで「なだらか」とは、所定の湾曲面に対して反対形状の湾曲面を有していることを意味する。具体的には、凸部22nの湾曲面22Bの任意の1点における接平面に対する任意の1点から平均ピッチPの1/10だけずれた点における接平面の傾き角が60°以内の関係を満たすことを意味する。
【0052】
図5は、
図4に示す転写物上に、真空成膜法で層を形成した場合の断面模式図である。上述のように、凸部22nは湾曲面22Bを有し、湾曲面22Bはなだらかである。そのため、湾曲面22B上に真空成膜した層26の外表面26Bは、湾曲面22Bの形状を十分反映した形状となっている。ここで、「十分に反映」とは、スタンパ工程で形成した形状を完全に反映させることまでは要しない。実際の有機発光ダイオードにおいては、真空成膜した層26は基体と反対側に向かって窪んだ凹部を有していると見なすことができる。これらの凹部の80%以上が上述した所定の湾曲面の条件を満たすように構成されていれば、真空成膜した層26の外表面26Bはスタンパ工程で形成した形状を十分に反映していると言うことができる。
なお、真空成膜した層26が電極である場合は、湾曲面22Bの形状を十分反映した形状となっている必要はないが、凸部22nが所定の湾曲面の条件を満たすため、層26の厚みが薄くなったり、切断されることはない。
湾曲面22Bや外表面26Bの形状を確認する方法としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察や、観察面を被覆している層を除去した後に三次元電子顕微鏡やAFMによって観察する方法が挙げられる。
【0053】
これに対し、
図6は、所定の湾曲面を有さない金型と、この金型を用いて作製した転写物の断面模式図である。
図6に示す金型230の凹部230aは、形状が急峻に変化する角部235を有する。この角部235では、角部235を挟む2点における接平面が、所定の湾曲面の関係性を満たさない。そのため、金型230を用いて転写された被転写物220の凸部222は、角部235に対応する部分に形状が急峻に変化する突出角部225が形成される。
【0054】
図6の点線で示すように、被転写物220上に層226を真空成膜法で形成すると、突出角部225近傍で層226が切断される場合が生じる。形状が急峻に変化する部分は真空成膜される層が成長しにくい、及び、凸部222を真空成膜方向から見た際の側面222B1にあたる部分は、成膜粒子が付着しにくいためである。有機発光ダイオードにおいて、有機発光ダイオードを構成する各層の一部が切断されていると、切断された部分では有機発光ダイオードが発光しない、または十分な発光特性を示さないという問題が生じる。
また、真空成膜法で形成された層226が突出角部225によって完全に切断されないまでも、突出角部225付近で層226の厚みが薄くなった場合も、有機発光ダイオードは十分な発光特性を示すことはできない。
【0055】
図4に戻って、被転写物20の断面形状において、凸部22nと平坦面21の境界部25では、断面形状が急峻に変化している。境界部25は、真空成膜時における層の成長方向に対して窪んだ部分である。真空成膜時における層の成長方向に対して窪んだ部分では、積層される層の層厚は厚くなることが通常である。そのため、境界部25が有機発光ダイオードの発光特性に与える影響は、突出角部と比較して小さい。したがって、被転写物20の凸部22nが突出角部を有さなければ、境界部25において断面形状が急峻に変化していても許容される。
【0056】
凹部2a〜2nの湾曲面の形状は、
図2の半球状の湾曲面2Bに限られない。
例えば、
図7に示すように、所定の湾曲面32Bは、平坦な底面32B1と、平坦面31a〜31nと底面32B1とを結ぶ傾斜面32B2からなってもよい。底面32B1、傾斜面32B2及び底面32B1と傾斜面32B2の接続部分のいずれもなだらかである。すなわち、底面32B1、傾斜面32B2及び底面32B1と傾斜面32B2の接続部分のいずれにおいても、任意の1点における接平面に対する任意の1点から平均ピッチPの1/10だけずれた点における接平面の傾き角が60°以内の関係を満たす。
【0057】
図8は、
図7の金型30の平坦面の中心点と、この平坦面に隣接する凹部の中心点と、を結ぶ面で切断した断面模式図である。平坦な底面32B1は、平坦面31と平行な面である。具体的には、AFMの測定結果に基づき、その領域内の中心点32Aa〜32Anにおける位置座標と、その領域内における任意の点の位置座標とを結ぶ直線の、AFMの基準面に対する傾きが±5゜以下である領域を意味する。
【0058】
図8に示すように、平坦面31nと凹部32nとは、所定の湾曲面の条件を満たすように連結されていることが好ましい。すなわち、平坦面31nと凹部32nの接続部分もなだらかであることが好ましい。平坦面31nと凹部32nの接続部分がなだらかであれば、金型30を用いて作製された被転写物の凸部と平坦面の間の境界部がなだらかになる。境界部の傾斜がなだらかであれば、境界部上に真空成膜により層を形成した際に、形成される層の層厚が不均一になることをより抑制することができる。
【0059】
平坦面31nと凹部32nの連続部分をなだらかにすることは、凹部32を構成する所定の湾曲部が少なくとも1つ以上の変曲部p
inを有すること、変曲部p
inのうち最も平坦面31n側の第1変曲部p1
inと平坦面31nとを結ぶ曲面が上に凸であることを共に満たすことにより実現できる。変曲部p
inは、凹部の断面における変曲点の集合体であり、上に凸の曲面から下に凸の曲面に変更する部分、又は下に凸の曲面から上に凸の曲面に変更する部分である。
【0060】
第1変曲部p1
inから平坦面31nまでの最近接距離(
図8における符号d
c)は、平均ピッチPの1/10以上であることが好ましく、1/5以上であることがより好ましい。最近接距離d
cとは、凹部32nを平面視した際の第1変曲部p1
1nと平坦面31n間の幅のうち、最も幅の狭い部分の距離である。第1変曲部p1
inから平坦面31nまでの最近接距離d
cが、平均ピッチPの1/10以上であれば、第1傾斜面32Cの傾斜をより緩やかにすることができる。
【0061】
凹部2a〜2nの湾曲面の形状は、所定の湾曲面であればよく、
図2の半球状の湾曲面2B、
図8の底面32B1を有する形状以外の形状でもよい。
図9は、本発明の別の態様にかかる金型の斜視模式図である。
図9に示す所定の湾曲面42Bは、上に凸の第1傾斜面42B1と下に凸の第2傾斜面42B2からなる。第1傾斜面42B1、第2傾斜面42B2、第1傾斜面42B1と第2傾斜面42B2の接続部分、及び、平坦面41と第1傾斜面42B1の接続部分のいずれもなだらかである。すなわち、いずれの部分においても、任意の1点における接平面に対する任意の1点から平均ピッチPの1/10だけずれた点における接平面の傾き角が60°以内の関係を満たす。
【0062】
図10は、
図9の金型40の平坦面の中心点と、この平坦面に隣接する凹部の中心点と、を結ぶ面で切断した断面模式図である。
図10に示すように、金型40も変曲部p
inを有し、変曲部p
inのうち最も平坦面41n側の第1変曲部p1
inと平坦面41nを結ぶ第1傾斜面42B1は上に凸の曲線である。すなわち、金型40を用いて形成された被転写物は、凸部と平坦面の間の境界部がなだらかであり、形成される層の層厚が不均一になることをより抑制することができる。
【0063】
金型40においても、金型30と同様に、第1変曲部p1
inから平坦面41nまでの最近接距離(
図10における符号d
c)は、平均ピッチPの1/10以上であることが好ましく、1/5以上であることがより好ましい。
【0064】
図1に戻って、主面10Aにおける平坦面1の占める面積率は5〜50%であることが好ましく、5%〜30%であることがより好ましい。主面10Aにおける平坦面1の面積率が5%以上であると、この金型を用いて作製した有機発光ダイオードにおいて表面プラズモンを取り出すための凹凸のアスペクト比を小さくすることができる。一方、主面10Aにおける平坦面1の面積率が50%以下であれば、この金型を用いて作製した有機発光ダイオードにおいて表面プラズモンが平坦面に捕捉されることを抑制できる。
【0065】
図11は、平坦面61に突起部63が形成された金型60を用いて、転写物70を作製した場合の模式図である。
平坦面61には、突起部63が形成されていないことが好ましい。ここで突起部63とは、平坦面61に対して、凹部62nと反対方向に突出した部分を意味する。平坦面61に突起部63が形成されていると、金型60により形成される転写物70の平坦面71には突起部63に対応する凹部73が形成される。例えば、金型60を用いて有機発光ダイオードを作製する場合、転写物70の転写面及び転写面と反対側の面には、電極が形成される。凹部73が形成されていると、凹部73が形成される部分で電極間距離が近くなり、短絡による不良等が発生するおそれがある。そこで、金型60の平坦面61に突起部63が形成されていなければ、この金型を用いて作製した有機発光ダイオードにおいて、短絡による不良発生や寿命低減の問題を避けることができる。
突起部63の存在は、金型10の縦20μm×横20μmのAFMイメージを縦横1mm間隔で5×5箇所(25箇所)測定して確認する。測定した全てのエリアの中に突起部が存在しなければ、金型60に突起部63は存在しないと見なす。
【0066】
本発明の一態様に係る金型は、所定の湾曲面を有する凹部を有する。そのため、金型10を用いて作製した有機発光ダイオードは、層厚の薄い部分や層が形成されていない部分を有さず、効率的に表面プラズモンを取り出すことができる。
【0067】
「金型の製造方法」
金型は、電子ビームリソグラフィー、機械式切削加工、レーザーリソグラフィー、レーザー熱リソグラフィー、干渉露光、縮小露光、アルミニウムの陽極酸化法及び粒子マスクを利用した方法等を用いて形成することができる。中でも金型は、粒子マスクを利用した方法を用いて作製することが好ましい。粒子マスクを利用した方法とは、金型の母材の平坦面上に粒子単層膜をエッチングマスクとして形成した後に、エッチング処理を行う方法である。粒子マスクを利用した方法では、エッチング処理を粒子マスクが消失する前に終了させた後に残存した粒子マスクを除去することによって、突出部のない平坦面を金型上に作製することができる。
【0068】
図1、
図7及び
図9に示すような種々の形状の金型は、ドライエッチング条件を変化させることで、所望の形状を得ることができる。ドライエッチングの各条件としては、粒子マスクを構成する粒子の材質、原板の材質、エッチングガスの種類、バイアスパワー、ソースパワー、ガスの流量及び圧力、エッチング時間等が挙げられる。
図1、
図7及び
図9に示すような湾曲面は、例えば、ドライエッチングにおいてプラズマにより生成されたラジカルによる等方性エッチングとイオンによる異方性エッチングとを適宜組み合わせることで作製できる。さらに表面をよりなだらかにするために、母材に対して反応性を有さないガスを用いた物理エッチングを併用してもよい。ガスの種類としてはArやO
2が挙げられる。また、ウェットエッチングを併用してもよい。例えば、
図2のように平坦面1nと所定の湾曲面2Bの界面が急峻な形状はドライエッチングのみで作ることができ、
図10のように平坦面1nと所定の湾曲面2Bの界面がなだらかな形状はドライエッチングした後にウェットエッチングを行うことで得ることができる。
【0069】
凹部の平均ピッチ等は、使用する粒子の粒子径を変更することで自由に変更することができる。また粒子単層膜を利用して非周期構造を形成する場合、粒子径の異なる複数の粒子を用いることで作製することができる。
【0070】
上述の方法で作製した金型は、直接金型として使用してもよいし、作製した金型を原版として作製した複製品を実際に使用する金型として用いてもよい。複製は、作製した金型を偶数回転写することにより作製することができる。具体的には、まず作製した金型を樹脂で転写する。得られた奇数回転写中間体の表面に、電鋳等によりNi等の金属メッキを被覆する。金属メッキが被覆されることで、奇数回転写中間体の硬度が高まり、更なる転写を行うことができる。そして、奇数回転写中間体をさらに転写し、偶数回転写中間体を作製すると、偶数回転写中間体は、作製した金型と同様の形状となる。最後に偶数回転写中間体の表面に、電鋳等によりNi等の金属をメッキすることで、金型の複製が完成する。
また、上述の方法で作製した金型を奇数回転写することによって実際に使用する金型を得てもよい。この場合は、上述の方法によって本発明の一態様に係る金型の主面の形状の反転形状を作り込むことになる。
【0071】
「有機発光ダイオード」
図12は、本発明の一態様に係る有機発光ダイオード素子100の断面模式図である。有機発光ダイオード素子100は、基体110、第1電極120、発光層133を含む有機半導体層130、第2電極140を備える。
図12に示す有機半導体層130は、発光層133に加えて、第1電極120と発光層133の間にホール注入層131、ホール輸送層132を有し、発光層133と第2電極140の間に電子輸送層134、電子注入層135を備える。ホール注入層131、ホール輸送層132、電子輸送層134、電子注入層135のそれぞれは必ずしも備えている必要はなく、無くてもよい。本発明の有機発光ダイオード素子100は本発明の効果を損ねない範囲で、その他の層をさらに備えてもよい。
【0072】
有機発光ダイオードは、第1電極120と第2電極140は、電圧を印加できるようになっている。第1電極120と第2電極140との間に電圧を印加することで、発光層133に電子とホールが注入され、これらが結合することで光が発生する。発生した光は、第1電極120を直接透過して素子外部に取り出されるか、第2電極140で一度反射して素子外部に取り出される。
【0073】
第2電極140は、発光層133側の表面140Aに、複数の凹部142a〜142nが二次元的に配置された二次元構造を有する。二次元構造は、上述の金型と同様に、周期的であっても、非周期的であってもよい。
複数の凹部142a〜142nのうち最隣接する凹部によって囲まれた第1領域と、第1領域に隣接し前記複数の凹部のうち最隣接する凹部によって囲まれた第2領域間の平均ピッチは50nm〜5μmであり、50nm〜500nmであることが好ましい。平均ピッチは、金型における平均ピッチと同様の方法で求めることができる。平均ピッチがこの範囲内であれば、金属電極である第2電極の表面140Aに表面プラズモンとして捕捉されたエネルギーを効率的に輻射し、光として取り出すことができる。
【0074】
複数の凹部142a〜142nの平均アスペクト比は0.01〜1であり、0.05〜0.5であることが好ましい。平均アスペクト比は、金型における平均アスペクト比と同様の方法で求めることができる。第2電極140の発光層側の表面における凹部142a〜142nの平均アスペクト比が、この範囲内であれば、第2電極の表面140Aに表面プラズモンとして捕捉されたエネルギーを効率的に輻射し、光として取り出すことができる。
【0075】
表面プラズモンの捕捉は、以下のような過程で生じる。発光層133で発光分子から発光する際に、ごく近傍に近接場光が発生する。発光層133と第2電極140との距離は非常に近いため、近接場光は第2電極140の表面で伝播型の表面プラズモンのエネルギーに変換される。
金属表面の伝播型表面プラズモンは、入射した電磁波(近接場光など)により生じる自由電子の疎密波が表面電磁場を伴うものである。平坦な金属表面に存在する表面プラズモンの場合、表面プラズモンの分散曲線と光(空間伝播光)の分散直線とは交差しないため、表面プラズモンのエネルギーを光として取り出すことはできない。これに対し、金属表面に二次元周期構造があると、二次元周期構造によって回折された表面プラズモンの分散曲線が空間伝播光の分散曲線と交差するようになり、表面プラズモンのエネルギーを輻射光として取り出すことができる。
このように、二次元周期構造が設けられていることで、表面プラズモンとして失われていた光のエネルギーが取り出される。取り出されたエネルギーは、空間伝播光として第2電極140の表面から輻射される。このとき第2電極140から輻射される光は指向性が高く、その大部分が取出し面に向かう。そのため、取出し面から高強度の光が出射し、取出し効率が向上する。
【0076】
複数の凹部142a〜142fのうち80%以上は、所定の湾曲面を備える。所定の湾曲面は、金型における所定の湾曲面と同様に定義される。
【0077】
第2電極の表面140Aにおいて、複数の凹部142a〜142fの間に、平坦面141が形成されている。平坦面141の占める面積率は5〜50%であることが好ましく、5%〜30%であることがより好ましい。第2電極の表面140Aにおける平坦面141の面積率が5%以上であると、表面プラズモンを取り出すための凹凸のアスペクト比を小さくすることができる。一方、第2電極の表面140Aにおける平坦面141の面積率が50%以下であれば、第2電極の表面140Aに捕捉された表面プラズモンを光に効率的に変換することができる。
【0078】
平坦面141には、第2電極の表面140Aから発光層133側に突出した突起部が形成されていないことが好ましい。
図13は、平坦面141に突起部143が形成されている有機発光ダイオードの断面模式図である。突起部143においては、第1電極120と第2電極140の距離が短い。すなわち、第1電極120と第2電極140間に電圧を印加した際に、突起部143に電荷が集中し、リーク電流の発生、もしくは短絡するおそれがある。平坦面141に突起部143が形成されていなければ、このようなリーク電流の発生、もしくは短絡が発生することが無く、有機発光ダイオードの安定的な動作と、長寿命化を実現することができる。
【0079】
第2電極140は、複素誘電率の実部の絶対値が大きな負の値を持つような材料が好ましく、かつ表面プラズモンの取り出しに有利なプラズマ周波数の高い金属材料を選択することが好ましい。かかる材料としては例えば、金、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム等の単体や、金と銀との合金、銀と銅との合金が挙げられる。有機発光ダイオードの光取り出しを考えると、可視光域全体に関して共鳴周波数を有する金属材料が好ましく、特に銀またはアルミニウムの使用が好ましい。第2電極140は、2層以上の積層構造であってもよい。
第2電極140の厚さは特に限定はされないが、例えば20〜2000nmであり、好ましくは50〜500nmである。20nmより薄いと反射率が低くなり正面輝度が低下し、500nmより厚いと成膜時の熱や放射線によるダメージ、膜応力による機械的ダメージが有機発光層133等の有機物からなる層に蓄積する。
【0080】
有機半導体層130は、有機材料からなる。
図12では、有機半導体層130の発光層133と電子輸送層134の界面及び電子輸送層134と電子注入層135の界面に凹凸形状が形成されている。この凹凸形状は、金型10の主面10Aの反対形状となっている。この凹凸形状は、必ずしも有機半導体層130の発光層133と電子輸送層134の界面及び電子輸送層134と電子注入層135の界面に形成されている必要はない。有機発光ダイオードを製造する方法において詳細を後述するが、凹凸形状は、有機半導体層を構成するいずれかの層の第2電極140側の面に形成されていればよい。凹凸形状が形成された層よりも、第2電極140側の層は、全て凹凸形状を反映した形状を有する。
【0081】
発光層133は、有機発光材料から構成される。有機発光材料としては、たとえば、Tris[1−phenylisoquinoline−C2,N]iridium(III)(Ir(piq)3)、1,4−bis[4−(N,N−diphenylaminostyrylbenzene)](DPAVB)、Bis[2−(2−benzoxazolyl)phenolato]Zinc(II)(ZnPBO)等の色素化合物が挙げられる。また、蛍光性色素化合物やりん光発光性材料を他の物質(ホスト材料)にドープしたものを用いてもよい。この場合、ホスト材料としては、ホール輸送材料、電子輸送材料等が挙げられる。
【0082】
ホール注入層131、ホール輸送層132、電子輸送層134および電子注入層135を構成する材質としては、それぞれ、有機材料が一般的に用いられる。
たとえばホール注入層131を構成する材質(ホール注入材料)としては、たとえば、4,4’,4”−tris(N,N−2−naphthylphenylamino)triphenylamine(2−TNATA)等の化合物などが挙げられる。
ホール輸送層132を構成する材質(ホール輸送材料)としては、たとえば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(1−ナフチル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(NPD)、銅フタロシアニン(CuPc)、N,N’−Diphenyl−N,N’−di(m−tolyl)benzidine(TPD)等の芳香族アミン化合物などが挙げられる。
【0083】
電子輸送層134を構成する材質(電子輸送材料)及び電子注入層135を構成する材質(電子注入材料)としては、たとえば、2,5−Bis(1−naphthyl)−1,3,4−oxadiazole(BND)、2−(4−tert−Butylphenyl)−5−(4−biphenylyl)−1,3,4−oxadiazole(PBD)等のオキサジオール系化合物、Tris(8−quinolinolato)aluminium(Alq)等の金属錯体系化合物などが挙げられる。
発光層133を含めた有機半導体層の全体の厚さは、通常、30〜500nmである。
【0084】
第1電極120には、可視光を透過する透明導電体が用いられる。
第1電極120を構成する透明導電体は、特に限定されず、透明導電材料として公知のものが使用できる。たとえばインジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide(ITO))、インジウム−亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide(IZO))、酸化亜鉛(Zinc Oxide(ZnO))、亜鉛−スズ酸化物(Zinc Tin Oxide(ZTO))等が挙げられる。第1電極120の厚さは、通常、50〜500nmである。
【0085】
基体110は、可視光を透過する透明体が用いられる。基体110を構成する材質としては、無機材料でも有機材料でもよく、それらの組み合わせでもよい。無機材料としては、たとえば、石英ガラス、無アルカリガラス、白板ガラス等の各種ガラス、マイカ等の透明無機鉱物などが挙げられる。有機材料としては、シクロオレフィン系フィルム、ポリエステル系フィルム等の樹脂フィルム、該樹脂フィルム中にセルロースナノファイバー等の微細繊維を混入した繊維強化プラスチック素材などが挙げられる。
用途にもよるが、一般に、基体110は可視光透過率の高いものを使用する。透過率は可視光の範囲(波長380nm〜800nm)でスペクトルに偏りを与えず、透過率70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上のものを用いる。
【0086】
有機発光ダイオード100を構成する各層の厚さは、分光エリプソメーター、接触式段差計、AFM等により測定できる。
【0087】
「有機発光ダイオードの製造方法」
本発明の一態様に係る有機発光ダイオードの製造方法は、基体上に透明な第1電極を有する電極付き基体の第1電極が形成された面に、発光層を含む有機半導体層と第2電極とを、塗布工程とその後の真空成膜工程とにより形成する有機発光ダイオードの製造方法である。塗布工程と真空成膜工程との間には、上述の金型を塗布工程で形成した塗布層の最外面に押し当て、金型の主面の形状の反転形状を塗布層の最外面に形成するスタンパ工程を有する。
【0088】
<電極付き基体の準備工程>
電極付き基体は、透明な基体上に透明な第1電極を形成する。基体及び第1電極は、上述のものを用いることができる。
基体上に第1電極を形成する方法は、公知の手法を用いることができる。例えば、ITO等の透明電極用材料をスパッタにより基体上に形成することができる。また市販の電極付き基体を購入してもよい。
【0089】
<塗布工程>
塗布工程では、有機半導体層を構成する層のうち一部の層、または全ての層を塗布により形成する。一般に塗布工程においては前工程までで既に成膜されている各層を侵すことのないように塗工液の溶媒を選択する必要があるため、塗布によって成膜する層の数が増えるほど適切な溶媒の選択が難しくなる。したがって塗布工程では、有機半導体層を構成する層のうち、発光層まで形成することが好ましい。
【0090】
塗布法は、公知の手法を用いることができ、例えば、スピンコート、バーコート、スリットコート、ダイコート、スプレーコート、インクジェット法等を用いることができる。塗布法は、積層時の環境を真空にする必要が無く、大掛かりな設備が不要である。また真空引き等の時間が不要となるため、有機発光ダイオードを製造するスループットを向上させることができる。
【0091】
<スタンパ工程>
スタンパ工程は、いわゆるインプリント法によって凹凸形状を形成する方法である。塗布工程で形成された塗布層に金型を押し付けると、金型の形状に沿って塗布層を構成する塗工液が追従する。塗工液は、形状を維持できる程度の粘度を有するため、金型を外した後もその形状は維持される。
また、塗工液が乾燥、蒸発した後であっても、成膜層をなす材料にガラス転移点が存在する場合は、成膜層をガラス転移点以上に加熱した状態で金型を押し付けることによって形状を賦与することが可能である。
【0092】
スタンパ工程では、本発明の一態様に係る金型を塗布工程で形成した塗布層の最外層に押し当てる。最外層とは、塗布工程で形成した最後の層であり、塗布工程が終了した段階で基体から最も遠い層である。例えば、
図12における発光層133まで塗布で形成した場合は、発光層133の第2電極140側の面に金型を押し付けて、金型の反転形状を転写する。
上述のように、本発明の一態様に係る金型は、所定の湾曲面を有する複数の凹部と平坦面を有する。そのため、この金型によって塗布層の最外層に転写される形状は、所定の湾曲面を有する複数の凸部と平坦面を有する。すなわち、塗布層の最外層に形成される形状は、なだらかな形状となり、突出角部を有さない。
【0093】
<真空成膜工程>
真空成膜工程では、有機半導体層を構成する層のうち塗布工程で形成しなかった層と第2電極を真空成膜法により形成する。
真空成膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(化学気相成長法)等を用いることができる。有機層へのダメージを少なくするためには、真空成膜法として真空蒸着法を用いることが好ましい。
【0094】
真空成膜法は、下地の形状を反映する反映性が塗布法と比較して高い。そのため、スタンパ工程で塗布層の最外層に形成された凸部と平坦面の形状は、塗布層の最外層上部に積層される層にも反映される。
スタンパ工程で塗布層の最外層に形成された凸部は、突出角部を有さない。そのため、所望の層厚より層厚が極端に薄い部分又は層自体が形成されない部分が発生することを抑制することができ、有機発光ダイオードの発光特性が低下することを抑制できる。
【0095】
金型を押し当てることにより塗布層の最外層に形成される凸部は、少なくとも1つの変曲部を有し、その変曲部のうち最も平坦面側の第1変曲部と平坦面を結ぶ第1傾斜面が下に凸であることが好ましい。この条件を満たすと、転写される塗布層の最外層に形成される凸部と平坦面の境界がなだらかになる。すなわち、真空成膜工程で積層される層の層厚が不均一になることをより抑制することができる。
塗布層の最外層に形成される凸部をこのような形状にすることは、
図4及び
図9に示す金型を塗布層に押し当てることで実現することができる。
図4及び
図9に示す金型とは、凹部の湾曲面が少なくとも1つの変曲部を有し、その変曲部のうち最も平坦面側の第1変曲部と平坦面を結ぶ第1傾斜面が上に凸である金型である。
【0096】
さらに、塗布層の最外層に形成される凸部において、第1変曲部から平坦面までの最近接距離は、平均ピッチの1/10以上であることが好ましく、1/5以上であることがより好ましい。第1変曲部から平坦面までの最近接距離が、平均ピッチの1/10以上であれば、第1傾斜面の傾斜をより緩やかにすることができる。すなわち、真空成膜により形成される層の層厚が不均一になることをより抑制することができる。
【0097】
塗布層の最外層に上述の凸部と平坦面を形成することにより、第2電極の発光層側の面には、
図12に示すように塗布層の最外層と反転した形状が形成される。この形状は、スタンパ工程で押し付けた金型の形状を反映した形状である。
【0098】
本発明の一態様に係る有機発光ダイオードの製造方法では、所定の形状を有する金型を用いたスタンパ工程を有するため、第2電極の発光層側に所望の凹凸を簡便に形成することができる。この方法で製造された有機発光ダイオードは、表面プラズモンを取り出すことができ、高い発光特性を得ることができる。