(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記補正部は、前記第2の帯域において、前記ヘッドホン伝達特性又は前記逆フィルタの左右の相関係数が所定のしきい値以上である場合に、左右同じ補正パターンを選択する請求項1に記載の頭外定位処理装置。
前記第2の帯域において、前記ヘッドホン伝達特性又は前記逆フィルタの左右の相関係数が所定のしきい値以上である場合に、左右同じ補正パターンを選択する請求項4に記載の頭外定位処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(概要)
本実施の形態にかかる頭外定位処理の概要について説明する。
本実施形態にかかる頭外定位処理は、空間音響伝達特性(空間音響伝達関数ともいう)、及び外耳道伝達特性(外耳道伝達関数ともいう)を用いて頭外定位処理を行うものである。本実施形態では、スピーカから聴取者の耳までの空間音響伝達特性、及びヘッドホンを装着した状態での外耳道伝達特性を用いて頭外定位処理を実現している。
【0015】
空間音響伝達特性としては、受聴者本人の外耳道入口において測定した受音信号を用いることが好ましい。しかしながら、受聴者本人の外耳道入口にマイクロホン(以下、マイクとする)を設置した上での測定は煩雑である。このため、本実施形態では、予めプリセットされた特性から、受聴者が受聴者本人に適しているものを選択する。空間音響伝達特性は、ステレオスピーカから両耳までの伝達特性を含んでいる。
【0016】
具体的には、空間音響伝達特性は、左スピーカから左耳外耳道入口までの伝達特性Ls、左スピーカから右耳外耳道入口までの伝達特性Lo、右スピーカから左耳までの伝達特性Ro、右スピーカから右耳外耳道入口までの伝達特性Rsを含んでいる。そして、予め複数の受聴者、あるいはダミーヘッドの外耳道入口で伝達特性を測定して、統計解析などにより複数セットにカテゴライズしておく。空間音響伝達特性の各セットには、4つの伝達特性Ls、Lo、Ro、Rsが含まれている。空間音響伝達特性を複数セット用意し、受聴者がこれら適切なものを選択することで、空間音響伝達特性を設定する。そして、4つの伝達特性を用いて、頭外定位処理装置が畳み込み処理を行っている。
【0017】
外耳道伝達特性は、本来、外耳道入口に設置したマイクで測定したヘッドホン伝達特性(以下、耳元マイク特性とする)を用いることが望ましい。しかしながら、受聴者本人の外耳道入口にマイクを設置した上での測定は煩雑である。したがって、本実施の形態では、受聴者本人の外耳道入口に設置したマイクで測定した耳元マイク特性ではなく、ヘッドホンに内蔵したマイクで測定したヘッドホン伝達特性(以下、内蔵マイク特性)を用いている。
【0018】
本実施形態では、ヘッドホン内蔵マイクで測定した内蔵マイク特性の逆フィルタを補正している。そして、内蔵マイク特性の逆フィルタを補正した補正フィルタを用いて、畳み込み処理を実行している。
【0019】
例えば、耳元マイク特性をA、内蔵マイク特性をBとする。頭外定位処理で必要な特性は、耳元マイク特性Aの逆フィルタ(1/A)である。しかしながら、外耳道入口にマイクを設置しないで耳元マイク特性Aを測定することはできない。そのため、本実施の形態では、ヘッドホンに内蔵されたマイクで内蔵マイク特性Bが測定される。
【0020】
ここで、ヘッドホンに対して、AとBとの関係性が予め分かっていれば、逆フィルタ(1/A)を求めることができる。例えば、測定した内蔵マイク特性Bの逆フィルタ(1/B)に(B/A)を乗算することで、逆フィルタ(1/A)を得ることができる。ここで、(B/A)はヘッドホン固有のフィルタである。(B/A)を乗算フィルタとする。本実施の形態では、内蔵マイク特性Bの逆フィルタ(1/B)を耳元マイク特性Aの逆フィルタ(1/A)に近づけるよう、逆フィルタ(1/B)が補正される。
【0021】
ある帯域では、乗算フィルタ(B/A)は人によらず一様になり、別の帯域では、個人差がある。したがって、複数の帯域に分けて、帯域毎に逆フィルタ(1/B)の補正方法を変えている。
【0022】
本実施の形態では逆フィルタ(1/B)から補正フィルタを求める場合において、帯域毎に各周波数の振幅値(以下、周波数振幅値と記載)を操作している。逆フィルタ(1/B)の周波数振幅値を増幅又は減衰させることで、補正フィルタを生成している。
【0023】
さらに、本実施の形態では、ユーザが聴感試験を行っている。そして、聴感試験の結果に応じて、複数の補正パターンの中から、ユーザが最適な補正パターンを選択している。選択された最適な補正パターンに対応する補正フィルタが用いられる。
【0024】
また、ユーザの内蔵マイク特性Bの左右の相関に応じて、左右の補正パターンを決定している。具体的には、内蔵マイク特性Bの周波数振幅特性の相関係数を求めている。相関係数がしきい値以上の場合は、左右の逆フィルタにおいて同じ補正パターンで補正している。相関係数がしきい値よりも小さい場合は、左右の逆フィルタにおいて異なる補正パターンを選択できるようにしている。
【0025】
本実施の形態にかかる頭外定位処理装置は、パーソナルコンピュータなどの情報処理装置を有しており、具体的には、プロセッサ等の処理手段、メモリやハードディスクなどの記憶手段、液晶モニタ等の表示手段、タッチパネル、ボタン、キーボード、マウスなどの入力手段、ヘッドホン又はイヤホンを有する出力手段を備えている。あるいは、頭外定位処理装置は、スマートホンやタブレットPCであってもよい。
【0026】
(頭外定位処理装置)
本実施の形態にかかる頭外定位処理装置、及びその処理方法について、
図1〜
図2を用いて説明する。
図1は、頭外定位処理装置100の構成を示すブロック図である。
図2は、内蔵マイク特性Bを測定するための構成を示す図である。
【0027】
頭外定位処理装置100は、ヘッドホン43を装着するユーザUに対して音場を再生する。そのため、頭外定位処理装置100は、左チャンネル(以下Lchと記載する)と右チャンネル(以下Rchと記載する)のステレオ入力信号XL、XRについて、頭外定位処理を行う。LchとRchのステレオ入力信号XL、XRは、CD(Compact Disc)プレーヤなどから出力される音楽再生信号である。なお、頭外定位処理装置100は、物理的に単一な装置に限られるものではなく、一部の処理が異なる装置で行われてもよい。例えば、一部の処理がパソコンなどにより行われ、残りの処理がヘッドホン43に内蔵されたDSP(Digital Signal Processor)などにより行われてもよい。
【0028】
図1に示すように、頭外定位処理装置100は、頭外定位処理部10と、入力部31、逆フィルタ算出部32、補正部33、表示部34、測定部35、フィルタ部41、フィルタ部42、及びヘッドホン43を備えている。
【0029】
頭外定位処理部10は、畳み込み演算部11、12、21、22を備えている。畳み込み演算部11、12、21、22は、空間音響伝達特性を用いた畳み込み処理を行う。頭外定位処理部10には、CDプレーヤなどからのステレオ入力信号XL、XRが入力される。頭外定位処理部10には、空間音響伝達特性が設定されている。頭外定位処理部10は、各チャンネルのステレオ入力信号XL、XRに対し、空間音響伝達特性を畳み込む。
【0030】
例えば、ユーザUが、プリセットされた複数の空間音響伝達特性の中から最適な空間音響伝達特性を選択する。空間音響伝達特性は、左スピーカから左耳外耳道入口までの伝達特性Ls、左スピーカから右耳外耳道入口までの伝達特性Lo、右スピーカから左耳までの伝達特性Ro、右スピーカから右耳外耳道入口までの伝達特性Rsを含んでいる。すなわち、空間音響伝達特性は、4つの伝達特性Ls、Lo、Ro、Rsを有している。
【0031】
そして、畳み込み演算部11は、Lchのステレオ入力信号XLに対して伝達特性Lsを畳み込む。畳み込み演算部11は、畳み込み演算データを加算器24に出力する。畳み込み演算部21は、Rchのステレオ入力信号XRに対して伝達特性Roを畳み込む。畳み込み演算部21は、畳み込み演算データを加算器24に出力する。加算器24は2つの畳み込み演算データを加算して、フィルタ部41に出力する。
【0032】
畳み込み演算部12は、Lchのステレオ入力信号XLに対して伝達特性Loを畳み込む。畳み込み演算部12は、畳み込み演算データを、加算器25に出力する。畳み込み演算部22は、Rchのステレオ入力信号XRに対して伝達特性Rsを畳み込む。畳み込み演算部22は、畳み込み演算データを、加算器25に出力する。加算器25は2つの畳み込み演算データを加算して、フィルタ部42に出力する。
【0033】
フィルタ部41、42には補正フィルタが設定されている。補正フィルタは、後述するように、補正部33で生成されている。すなわち、フィルタ部41、42は、補正部33で生成された補正フィルタを記憶している。
【0034】
フィルタ部41、42は、頭外定位処理部10での処理が施された再生信号に補正フィルタを畳み込む。フィルタ部41で加算器24からのLch信号に対して、補正フィルタを畳み込む。フィルタ部41で補正フィルタが畳み込まれたLch信号は、ヘッドホン43の左の出力ユニット43Lに出力される。同様に、フィルタ部42は加算器25からのRch信号に対して補正フィルタを畳み込む。フィルタ部42で補正フィルタが畳み込まれたRch信号は、ヘッドホン43の右の出力ユニット43Rに出力される。
【0035】
ヘッドホン43の左の出力ユニット43Lは、補正フィルタが畳み込まれたLch信号をユーザUの左耳に向けて出力する。ヘッドホン43の右の出力ユニット43Rは、補正フィルタが畳み込まれたRch信号をユーザUの右耳に向けて出力する。補正フィルタは、ヘッドホン43を装着した場合に、ユーザ各人の外耳道入口とヘッドホンのスピーカユニットとの間の伝達特性をキャンセルする。このようにすることで、ヘッドホン43のヘッドホン伝達特性が補正(キャンセル)される。これにより、ユーザUが受聴する音の音像は、ユーザUの頭外に定位される。
【0036】
表示部34は、液晶モニタなどの表示デバイスを備えている。表示部34は、補正フィルタを設定するための設定画面等を表示する。
【0037】
入力部31は、タッチパネル、ボタン、キーボード、マウスなどの入力デバイスを有しており、ユーザUからの入力を受け付ける。具体的には、入力部31は、補正フィルタを設定するため、設定画面上での入力を受け付ける。
【0038】
本実施の形態では、補正フィルタがヘッドホン43を用いた測定結果に基づいて、生成されている。以下、補正フィルタを生成するための測定について説明する。
【0039】
ヘッドホン43は、
図2に示すように、左右の出力ユニット43L、43Rを備えている。出力ユニット43L、43Rはそれぞれスピーカユニットを有している。さらに、左右の出力ユニット43L、43Rには、それぞれ収音用のマイク2L、2Rが取り付けられている。具体的には、出力ユニット43L、43Rは、それぞれスピーカを有しており、マイク2L、2Rはスピーカ中央よりも少し下に設置されている。ヘッドホン43の出力ユニット43L、43Rのヘッドホン端子は、ステレオオーディオ出力端子に接続される。マイク2L、2Rは、ステレオマイク入力端子に接続される。マイク2Lは、出力ユニット43Lから出力される音を収音する。マイク2Rは、出力ユニット43Rから出力される音を収音する。
【0040】
このように、左右の出力ユニット43L、43Rから出力された音を左右のマイク2L、2Rがそれぞれ収音する。ここでは、左右の出力ユニット43L、43Rとマイク2L、2Rを用いて、インパルス応答測定が行われる。マイク2L、2Rで収音された収音信号は測定部35に出力される。測定部35は、マイク2L、2Rで収音された収音信号に基づいて、左右の内蔵マイク特性Bをそれぞれ測定する。
図1に示すように、測定部35は、測定した内蔵マイク特性Bを逆フィルタ算出部32に出力する。
【0041】
逆フィルタ算出部32は、測定部35で測定した内蔵マイク特性Bの逆特性を逆フィルタ(1/B)として算出する。逆フィルタ算出部32はマイク2Lで収音した収音信号に基づいて、左の逆フィルタを算出する。逆フィルタ算出部32はマイク2Rで収音した収音信号に基づいて、右の逆フィルタを算出する。このように、逆フィルタ算出部32は、左右の逆フィルタを算出する。
【0042】
上記したように、外耳道入口とヘッドホンのスピーカユニットとの間の伝達特性をキャンセルするためには、マイク2L、2Rを外耳道入口に設置することが好ましい。しかしながら、ヘッドホン43に内蔵されたマイク2L、2Rを用いた場合、外耳道入口にマイク2L、2Rを設置することは困難である。そのため、本実施の形態では、内蔵マイク特性の測定結果に基づいて耳元マイク特性の逆フィルタを求めるよう、内蔵マイク特性の逆フィルタを補正している。
【0043】
補正フィルタの役割は、外耳道入口において、周波数振幅特性を平坦にすることになる。すなわち、ヘッドホン伝達特性を打ち消して、目標特性(具体的には、頭部伝達関数HRTF、自由空間伝達関数)を与えることにある。
【0044】
(周波数振幅特性)
内蔵マイク特性Bの逆フィルタ(1/B)の補正について、以下、データを用いて説明する。
【0045】
図3、
図4は、それぞれ左右の耳元に設置したマイクで測定した耳元マイク特性Aを示す。また、
図5、
図6は、ヘッドホン43に内蔵したマイク2L、2Rで測定した内蔵マイク特性Bを示す。
図3〜
図6は、同じヘッドホン43を装着した状態で測定された周波数振幅特性である。そして、
図3、
図4の測定結果と、
図5、
図6の測定結果では、マイクの設置位置のみが異なっている。なお、
図3、
図5は左耳側の周波数振幅特性であり、
図4、
図6は、右耳側の周波数振幅特性である。ここでは、
図3〜
図6は、同じ8名の受聴者の測定結果を示している。
【0046】
図3〜
図6の測定結果においては、5kHzまでは、人によらず、一様な周波数振幅特性を示している(
図3〜
図6中の帯域D参照)。すなわち、5kHzまでの左耳の内蔵マイク特性Bは、人によらず一様となっており、5kHzまでの右耳の内蔵マイク特性Bは、人によらず一様となっている。同様に、5kHzまでの左耳の耳元マイク特性Aは、人によらず一様となっており、5kHzまでの右耳の耳元マイク特性Aは、人によらず一様となっている。なお、マイクの設置位置が異なるため、内蔵マイク特性Bと耳元マイク特性Aは同じとはなっていない。測定で用いたヘッドホン43では5kHzまでが一様の特性となっているが、内蔵マイク特性B、耳元マイク特性Aとも、一様の特性となる周波数範囲は、ヘッドホン43の形状に応じて変化する。すなわち、一様の特性となる周波数範囲は、ヘッドホン43の形状毎に定まる範囲である。
【0047】
一方、5kHz以上では、内蔵マイク特性B、及び耳元マイク特性Aとも個人差がある。すなわち、5kHz以上の内蔵マイク特性Bは、人によって、異なる特性となっている。同様に、5kHz以上の耳元マイク特性Aは、人によって、異なる特性となっている。
【0048】
ここで、約5kHz〜約12kHzの耳元マイク特性の逆フィルタと、内蔵マイク特性の逆フィルタとを比較したところ、次に列挙するパターンの特徴がある。
(1)周波数振幅特性の形、レベルが似ている。
(2)周波数振幅特性の形は似ているが、内蔵マイク特性の逆フィルタが、耳元マイク特性の逆フィルタよりも10dB程度低い。
(3)内蔵マイク特性の逆フィルタと耳元マイク特性の逆フィルタとがほぼ逆特性の関係になっている。
(4)周波数振幅特性の形は似ておらず、耳元マイク特性の逆フィルタがほぼ平坦になっている。
【0049】
図7にパターン(1)での周波数振幅特性の一例を示す。
図8に、パターン(4)での周波数振幅特性の一例を示す。
図9に、パターン(3)での周波数振幅特性の一例を示す。
【0050】
図7〜
図9より、12kHz〜14kHzでは、耳元マイク特性の逆フィルタは、約10dB高いことがわかる。
【0051】
測定部35は、ヘッドホン43に内蔵されたマイク2L、2Rを用いてユーザUに対する内蔵マイク特性Bを測定する。そして、補正部33は、内蔵マイク特性Bの逆フィルタ(1/B)にヘッドホン固有の乗算フィルタ(B/A)を乗算することで、耳元マイク特性Aの逆フィルタ(1/A)を求めることができる。
【0052】
図10、
図11に乗算フィルタ(B/A)を示す。
図10は左耳に対する乗算フィルタ(B/A)であり、
図11は右耳に対する乗算フィルタ(B/A)である。
図10、
図11は、
図3〜
図6に示す測定結果に基づいて計算されたものである。
【0053】
実際には、マイク内蔵ヘッドホンを用いて耳元にマイクを設置することは困難であるため、乗算フィルタAを測定することはできない。よって、補正部33が、逆フィルタ(1/B)の振幅を操作することで、(1/A)となるように逆フィルタ(1/B)を補正している。すなわち、補正部33が、内蔵マイク特性Bの逆フィルタ(1/B)の周波数振幅値を増幅又は減衰させることで、補正フィルタを算出している。このように、帯域毎に補正方法を変えるのは、帯域毎に乗算フィルタ(B/A)の特性に違いがみられるからである。逆フィルタ(1/B)の補正方法については、後述する。
【0054】
(頭外定位処理方法)
次に、補正フィルタを用いた頭外定位処理方法について、
図12を用いて説明する。
図12は、補正フィルタを用いた頭外定位処理方法を示すフローチャートである。
【0055】
まず、測定部35が内蔵マイク特性Bを測定する(S11)。測定部35がインパルス応答測定により、ユーザUの内蔵マイク特性Bを測定する。具体的には、ヘッドホン43の左右の出力ユニット43L、43Rからインパルス音を出力して、マイク2L、2Rがインパルス音を収音する。なお、ヘッドホン43が密閉型である場合、左右のインパルス音を同時に発生することにより、ユーザ1の内蔵マイク特性Bが得られる。ヘッドホン43が開放型である場合、左の出力ユニット43Lからの音が漏れて、右のマイク2Rで受音される場合がある。これをヘッドホン43のクロストーク伝達特性とする。クロストーク伝達特性が、内蔵マイク特性Bよりも30dB以上小さければ、クロストーク伝達特性を無視することができる。
【0056】
ここでは測定部35が時間領域の内蔵マイク特性Bを離散フーリエ変換(DFT)して、周波数領域の内蔵マイク特性Bを算出する。これにより、周波数領域における振幅特性(振幅スペクトル)と位相特性(位相スペクトル)とを求めることができる。なお、本発明における周波数領域と時間領域との各変換処理は、DFTに限らず、FFTやDCT等、種々の変換処理を採用してもよい。
【0057】
逆フィルタ算出部32が内蔵マイク特性Bの逆フィルタ(1/B)を算出する(S12)。具体的には、逆フィルタ算出部32は、内蔵マイク特性Bの振幅特性の逆特性を逆フィルタ(1/B)として算出する。
【0058】
次に、補正部33は、逆フィルタ(1/B)を補正することで、補正フィルタを生成する(S13)。ここでは、補正部33には、複数の補正パターンが設定されている。そして、補正部33は、複数の補正パターン毎に、補正フィルタを生成する。補正部33は、左右それぞれの補正フィルタを生成する。例えば、第1〜第3の補正パターンがある場合、補正部33は、左右それぞれに、3つの補正フィルタ、すなわち合計6つの補正フィルタを生成する。
【0059】
具体的には、補正部33は、逆フィルタ(1/B)の位相は変えずに、振幅を操作している。そして、補正部33は、位相特性と、振幅が操作された振幅特性とを逆離散フーリエ変換(IDFT)することで、補正フィルタを算出している。なお、補正フィルタの生成方法の詳細については、後述する。
【0060】
そして、ユーザUが聴感試験を行って、最適な補正パターンを選択する(S14)。例えば、第1〜第3の補正パターンの補正フィルタが畳み込まれた聴感試験用信号をそれぞれ受聴する。具体的には、フィルタ部41、42がホワイトノイズに第1〜第3の補正パターンでの補正フィルタを畳み込む。そして、ヘッドホン43を用いて、補正フィルタが畳み込まれたホワイトノイズをユーザUが受聴する。
【0061】
ユーザUがホワイトノイズの音質に基づいて、最適な補正パターンを選択する。ユーザに対する聴感試験を行った際のユーザ入力に応じて、最適な補正パターンが選択される。なお、補正フィルタの役割は、マイク位置において、周波数振幅特性を平坦にすることである。すなわち、補正フィルタの役割は、ヘッドホン伝達特性を打ち消して、目標特性(具体的には、頭部伝達関数HRTF、又は自由空間伝達関数)を与えることである。実際には人の耳は、等感曲線にしたがって聴こえることになるが、音質に癖がない(所定の周波数が突出していない)補正パターンを選択することが好ましい。なお、補正パターンの選択方法の詳細については後述する。
【0062】
そして、ユーザが選択した補正パターンに応じた補正フィルタを用いて、畳み込む処理を実行する(S15)。具体的には、畳み込み演算部21が空間音響伝達特性(Ls、Lo、Ro、Rs)を用いて畳み込みを行うとともに、フィルタ部41、42が補正フィルタを用いて畳み込み処理を行う。これにより、再生信号に空間音響伝達特性と補正フィルタが畳み込まれるため、適切に頭外定位処理を行うことができる。
【0063】
外耳道入口にマイクを設置する必要がないため、簡便に補正フィルタを算出することができる。すなわち、ヘッドホン43に内蔵されたマイク2L、2Rで測定した内蔵マイク特性Bを用いて、逆フィルタ、及び補正フィルタを生成することができる。よって、ヘッドホン43に取り付けられたマイク2L、2Rを用いた場合でも、適切に頭外定位処理することができる。換言すると、外耳道入口にマイクを設置する必要がないため、簡便に補正フィルタを生成することができる。また、特許文献1のように適応制御は行う必要がないため、低コスト化を図ることができる。
【0064】
(補正フィルタと補正パターン)
上記したように、帯域毎に、耳元マイク特性Aと内蔵マイク特性Bとの違いが異なっている。このため、帯域毎に、内蔵マイク特性Bの補正方法を変えている。例えば、5kHzまでの帯域(以下、第1の帯域)は、内蔵マイク特性Bの周波数振幅値を、全てのユーザに共通の補正関数で補正する。個人差の大きい、5kHz〜12kHzの帯域(以下、第2の帯域とする)では、パターン分けして補正する。例えば、ユーザが聴感試験に応じて、最適な補正パターンを選択する。12kHz〜14kHzの帯域(以下、第3の帯域とする)では、一定の値(例えば10dB)とする。なお、この一定の値は、ヘッドホン毎に定められる値である。また、14kHz以上の帯域(以下、第4の帯域)では、周波数振幅値を0dBで一定としている。
【0065】
第2の帯域では、複数の補正パターンにパターン分けされている。以下、補正パターンについて説明する。ここでは、第1〜第3の補正パターンに分ける例につい説明する。
【0066】
第1の補正パターンは、内蔵マイク特性Bの逆フィルタ(1/B)をそのまま補正フィルタとして用いるものである。第1の補正パターンは、上記したパターン(1)に対応する。すなわち、パターン(1)では、周波数振幅特性の形、レベルが似ていることから、内蔵マイク特性Bの逆フィルタ(1/B)をそのまま補正フィルタとして利用することができる。
【0067】
第2の補正パターンは、後述する具体的一例のように、補正フィルタの周波数振幅値を一定の値にするものである。ここでは、第2の帯域における周波数振幅値を0dBとしている。なお、周波数振幅値は0dBに限らず、任意の値であってもよい。
【0068】
第3の補正パターンは、逆フィルタ(1/B)の周波数振幅値を増幅又は減衰させるものである。すなわち、補正部33が、各帯域の周波数振幅値が連続するように逆フィルタ(1/B)の周波数振幅値をレベルシフトさせる。例えば、第2の帯域における逆フィルタ(1/B)の周波数振幅値を一定の値だけ増加、又は減少させて、補正フィルタの周波数振幅値とする。
【0069】
上記のように、ユーザUは、聴感試験を行って、第1〜第3の補正パターンから最適な補正パターンを選択する。そして、選択された補正パターンに応じた補正フィルタが再生信号に畳み込まれる。
【0070】
以下、補正フィルタの生成方法の具体的一例について説明する。以下の説明では、第2の補正パターンが選択された場合の生成方法を示している。以下の説明において、iをDFTの周波数インデックス、freq[i]を周波数インデックスiにおける周波数(Hz)、tmp_dB[i]を周波数インデックスiにおける補正フィルタの周波数における音圧レベル(dB)、amp_dB[i]を測定した内蔵マイク特性の逆フィルタ(1/B)の周波数における音圧レベル(dB)とする。また、以下の補正例に示す数値、補正関数は、測定で用いたヘッドホンにおける一例であり、本発明は以下の具体的な数値、補正関数に限定されるものではない。
【0071】
(I)内蔵マイク特性の低域周波数の位相が左右で、正負逆である場合、左右の位相値を揃える。本実施の形態では、DFTで分析できる最低周波数での左右の位相に応じて、左右の位相値を揃えている。
【0072】
第1の帯域(最低周波数〜5kHz)
(II)最低周波数〜1kHzまでは、補正フィルタの周波数振幅値tmp_dB[i]を一定値amp1k_dBに設定する。なお、一定値amp1k_dBは、1kHzにおける内蔵マイク特性の逆フィルタ(1/B)の周波数振幅値である。また、最低周波数は例えば10Hzである。
【0073】
(III)1kHz〜2kHzの範囲では周波数振幅値を以下の補正式(1)で示す値に設定する。
tmp_dB[i]
=amp_dB[i]+freq[i]*(−0.0035)+3.5 ・・・(1)
【0074】
(IV)2kHz〜4kHzの範囲では、周波数振幅値を以下の補正式(2)で示す値に設定する。
tmp_dB[i]
=amp_dB[i]+freq[i]*(−0.002)+0.5 ・・・(2)
【0075】
(V)4kHz〜5kHzの範囲では、周波数振幅値を以下の補正式(3)で示す値に設定する。
tmp_dB[i]
=amp_dB[i]+freq[i]*(−3.5/800)+10 ・・・(3)
【0076】
第2の帯域(5kHz〜12kHz)
(VI)第2の帯域では、tmp_dB[i]を一定値に設定する。第2の帯域では、tmp_dB[i]=0dBにしている。
【0077】
第3の帯域(12kHz〜14kHz)
(VII)第3の帯域では、tmp_dB[i]を一定値に設定する。第3の帯域では、tmp_dB[i]=10dBにしている。
【0078】
第4の帯域(14kHz〜最高周波数)
(VIII)第4の帯域では、tmp_dB[i]を一定値に設定する。第4の帯域では、tmp_dB[i]=0dBにしている。
【0079】
以上のように、補正部33は、逆フィルタ(1/B)に基づいて、補正フィルタを生成する。第1の帯域では、補正関数を用いて、内蔵マイク特性の周波数振幅値を、補正関数で補正する。補正関数は、ヘッドホン固有のものであり、全ユーザ共通とする。したがって、同じタイプ(形状)のヘッドホンであれば、同じ補正関数が設定される。第2の帯域では、補正パターンに応じた補正が行われる。第3の帯域、第4の帯域では、補正フィルタの周波数振幅値がそれぞれ一定値に設定される。
【0080】
次に、
図13を用いて、補正フィルタを生成するステップ(S13)について詳細に説明する。
図13は補正フィルタの生成ステップの詳細を示すフローチャートである。
【0081】
まず、逆フィルタ(1/B)をDFT処理して、周波数領域の振幅特性と位相特性を算出する(S21)。次に、第1の帯域(最低周波数〜5kHz)における振幅操作を行う(S22)。最低周波数は例えば、10Hzである。第1の帯域では、上記のように、全ユーザに共通する補正関数に応じて、周波数振幅値を増幅又は減衰する。なお、補正関数は、ヘッドホン毎に異なっている。すなわち、異なるタイプ(形状)のヘッドホンでは、異なる補正関数が用いられ、同じタイプ(形状)のヘッドホンでは同じ補正関数が用いられる。したがって、ヘッドホンのタイプ毎に補正関数を設定すればよい。なお、補正関数は、
図10に示すような周波数特性から直線又は任意の曲線を用いて近似式を算出すればよい。
【0082】
次に、第1〜第3の補正パターンに応じて、第2の帯域(5kHz〜12kHz)の振幅を操作する(S23〜S25)。第1の補正パターンでは、5kHz〜12kHzの補正フィルタの周波数振幅値を5〜12kHzの内蔵マイク特性Bの逆フィルタ(1/B)に置き換える(S23)。すなわち、内蔵マイク特性Bの逆フィルタ(1/B)の周波数振幅値がそのまま補正フィルタの周波数振幅値として用いられる。
【0083】
第2の補正パターンでは、5kHz〜12kHzの周波数振幅値が0dBと設定される(S24)。第3の補正パターンでは、各帯域で周波数振幅値が連続するように、5kHz〜12kHzの逆フィルタ(1/B)の周波数振幅値をレベルシフトさせる(S25)。例えば、逆フィルタ(1/B)の周波数振幅値を一定値だけ増幅又は減衰させて、補正フィルタの周波数振幅値とする。
【0084】
次に、第3の帯域(12kHz〜14kHz)の周波数振幅値を10dBに設定する(S26)。第4の帯域(14kHz〜最高周波数)の周波数振幅値を0dBに設定する(S27)。そして、逆離散フーリエ変換(IDFT)を行う(S28)。これにより、補正パターン毎に、補正フィルタを求めることができる。なお、逆離散フーリエ変換に用いられる周波数位相特性は、逆フィルタ(1/B)の周波数位相特性をそのまま用いることができる。
【0085】
図13に示す処理を左右それぞれに対して実行することで、左右の補正フィルタが生成される。具体的には、左右のそれぞれに3つの補正パターンがあるため、補正部33は、合計6つの補正フィルタが生成される。ここで、第1の補正パターンに対応する補正フィルタを第1の補正フィルタとする。第2の補正パターンに対応する補正フィルタを第2の補正フィルタとし、第3の補正パターンに対応する補正フィルタを第3の補正フィルタとする。
【0086】
(補正パターンの選択)
次に、補正パターンの選択ステップの詳細について、
図14〜
図16を用いて説明する。
図14は、補正パターンの選択ステップの詳細を示すフローチャートである。
図15、
図16は、左右の内蔵マイク特性Bを示す図である。
図15は、左右の内蔵マイク特性Bの相関係数が高い場合の周波数振幅特性を示す図である。
図16は、左右の内蔵マイク特性Bの相関係数が低い場合の周波数振幅特性を示す図である。具体的には、
図15では相関係数が0.91であり、
図16では相関係数が0.41となっている。相関係数は、(左右の内蔵マイク特性の共分散)を(左右の内蔵マイク特性の標準偏差の積)で除した値となる。なお、左右の内蔵マイク特性Bの相関係数は、第2の帯域(
図15、
図16のC2の範囲)のみで算出すればよい。
【0087】
本実施の形態では、左右の内蔵マイク特性Bの相関係数に応じて、左右の補正パターンの選択方法を変えている。具体的には、補正部33は、第2の帯域における内蔵マイク特性Bの左右の相関係数を求める。そして、相関係数を所定のしきい値と比較する。なお、しきい値は、0.75としている。そして、相関係数がしきい値以上であれば、左右同じ補正パターンを選択し、しきい値未満であれば、左右異なる補正パターンを選択できるようにする。
【0088】
まず、補正部33が相関係数を求め、しきい値以上となっているかを判定する(S31)。なお、相関係数の算出はいずれのタイミングで行われてもよい。例えば、
図12のステップS11〜S13のいずれで行ってもよい。また、表示部34が相関係数を表示してもよい。
【0089】
相関係数がしきい値以上の場合(S31のYES)、ホワイトノイズを左右交互に入力する(S32)。そして、フィルタ部41、42が第1〜第3の補正パターンの補正フィルタを順番に切り替えて畳み込み処理を行う(S33)。例えば、フィルタ部41、42がホワイトノイズに補正フィルタを畳み込む。そして、補正フィルタが畳み込まれたホワイトノイズをヘッドホン43が出力する。ここでは、ユーザUが3回の聴感試験を行う。
【0090】
1回目の聴感試験では、左右のフィルタ部41、42が第1の補正フィルタを畳み込む。そして、ヘッドホン43が、第1の補正フィルタが畳み込まれたホワイトノイズを左右交互に出力する。2回目の聴感試験では、左右のフィルタ部41、42が第2の補正フィルタを畳み込む。そして、ヘッドホン43が第2の補正フィルタが畳み込まれたホワイトノイズを左右交互に出力する。3回目の聴感試験では、左右のフィルタ部41、42が第3の補正フィルタを畳み込む。そして、ヘッドホン43が第3の補正フィルタが畳み込まれたホワイトノイズを左右交互に出力する。
【0091】
もちろん、第1〜第3の補正フィルタを畳み込む順番は特に限定されるものではない。なお、補正パターンは自動で切り替えられてもよく、手動で切り替えられてもよい。手動切替を行う場合、例えば、ユーザUが入力部31の切替ボタンを押せばよい。自動切り替えを行う場合、一定の時間毎に各補正パターンでの聴感試験を切り替えればよい。
【0092】
次に、ユーザが音質に癖のない補正パターンを選択する(S34)。3回の聴感試験のうち、最も音質に癖がなく聴こえるときの補正パターンが選択される。具体的には、ユーザUが入力部31のボタンを押すことで、最適な補正パターンが入力される。入力部31はユーザUの入力を受け付けて、補正部33に出力する。これにより、最適な補正パターンが選択される。なお、ユーザ入力はボタンに限らず、タッチパネル入力や音声入力などであってもよい。
【0093】
一方、相関係数がしきい値未満の場合(S31のNO)、ホワイトノイズを片chのみホワイトノイズを入力する(S35)。ここでは、まずLchのみホワイトノイズを入力する。そして、フィルタ部41が第1〜第3の補正パターンの補正フィルタを順番に切り替えて畳み込み処理を行う(S36)。例えば、フィルタ部41がホワイトノイズに補正フィルタを畳み込む。そして、補正フィルタが畳み込まれたホワイトノイズをヘッドホン43が出力する。ここでは、ユーザUが3回の聴感試験を行う。
【0094】
1回目の聴感試験では、左のフィルタ部41が第1の補正フィルタを畳み込む。そして、ヘッドホン43の左の出力ユニット43Lが第1の補正フィルタが畳み込まれたホワイトノイズを出力する。2回目の聴感試験では、左のフィルタ部41が第2の補正フィルタを畳み込む。そして、ヘッドホン43の左の出力ユニット43Lが第2の補正フィルタが畳み込まれたホワイトノイズを出力する。3回目の聴感試験では、左のフィルタ部41が第3の補正フィルタを畳み込む。そして、ヘッドホン43の左の出力ユニット43Lが第3の補正フィルタが畳み込まれたホワイトノイズを出力する。もちろん、第1〜第3の補正フィルタを畳み込む順番は特に限定されるものではない。
【0095】
次に、ユーザが音質に癖のない補正パターンを選択する(S37)。すなわち、3回の聴感試験のうち、最も音質に癖がなく聴こえるときの補正パターンが選択される。具体的には、ユーザUが入力部31のボタンを押すことで、最適な補正パターンが入力される。入力部31はユーザUの入力を受け付けて、補正部33に出力する。これにより、Lchに対して最適な補正パターンが選択される。なお、ユーザ入力はボタンに限らず、タッチパネル入力や音声入力などであってもよい。
【0096】
次に、左右の選択が終了したか否かを判定する(S38)。ここでは、右の選択が終了していないので(S38のNO)、右Lchのみホワイトノイズを入力する。そして、左chと同様に、右chに対しても、フィルタ部42が第1〜第3の補正フィルタを順番に畳み込み処理を行う(S36)。これにより、右耳に対しても3回の聴感試験が行われる。そして、ユーザUが入力部31を操作して、音質に癖のない補正パターンを選択する(S37)。左右とも選択が終了すると(S38のYES)、選択を終了する。
【0097】
なお、上記の説明では、左右の内蔵マイク特性Bの相関係数がしきい値以上である場合に、左右同じ補正パターンを選択するようにしたが、逆フィルタ(1/B)の相関係数を用いてもよい。すなわち、内蔵マイク特性B又は逆フィルタ(1/B)の左右の相関係数がしきい値以上である場合に、左右同じ補正パターンを選択するようにしてもよい。
【0098】
また、相関係数のしきい値の値は、0.75に限られるものでない。ヘッドホン43に応じて適切なしきい値を設定すればよい。また、相関係数がしきい値よりも低い場合において、上記の説明では左の聴感試験を行った後、右の聴感試験を行ったが、右の聴感試験を行った後、左の聴感試験を行ってもよい。
【0099】
(補正部33)
次に、補正フィルタを生成するために、逆フィルタを補正する補正部33の構成について
図17を用いて説明する。
図17は、補正部33の一例を示すブロック図である。補正部33は、相関係数算出部51、DFT部52、振幅操作部53、及びIDFT部54を備えている。
【0100】
相関係数算出部51には、逆フィルタ算出部32から左右の逆フィルタ(1/B)が入力されている。相関係数算出部51は、左右の逆フィルタ(1/B)の相関係数を算出する。相関係数算出部51は、第2の帯域における左右の相関係数を算出する。相関係数算出部51は、算出した相関係数を表示部34に出力する。表示部34は相関係数を表示する。もちろん、逆フィルタ(1/B)の相関係数ではなく、内蔵マイク特性Bの相関係数を算出してもよい。
【0101】
DFT部52には、逆フィルタ(1/B)が入力されている。DFT部52は、時間領域の逆フィルタ(1/B)を離散フーリエ変換する。これにより、周波数振幅特性と周波数位相特性が算出される。振幅操作部53は、逆フィルタ(1/B)の振幅を操作する。上記したように、帯域に応じて、振幅を変更する。
【0102】
IDFT部54は、振幅が変更された周波数振幅特性と位相特性とに対して逆離散フーリエ変換を行う。これにより、時間領域の補正フィルタが生成される。補正フィルタは、フィルタ部41、フィルタ部42に出力される。そして、この補正フィルタが上記したように再生信号に畳み込まれる。
【0103】
なお、上記の説明では、内蔵マイク特性B、逆フィルタ(1/B)、補正フィルタの振幅スペクトルを算出していたが、パワースペクトルを求めてもよい。そして、逆フィルタ(1/B)のパワースペクトルのパワー値を操作することで、補正フィルタを求めてもよい。すなわち、逆フィルタ(振幅値、又はパワー値)を操作することで、補正フィルタを算出するようにしてもよい。
【0104】
また、補正部33における具体的な補正処理は、ヘッドホン43毎に変えることができる。すなわち、同じタイプのヘッドホン43では同じ補正関数や一定値を用いて、振幅を操作することができる。もちろん、異なるタイプのヘッドホン43では、それぞれ最適な補正関数や一定値を設定すればよい。具体的には、あるタイプのヘッドホン43において、製造者が、耳元マイク特性(A)と内蔵マイク特性(B)とを測定する。そして、耳元マイク特性(A)と内蔵マイク特性(B)の測定結果を分析することで、補正パターン、各帯域の上限周波数と下限周波数、各帯域における振幅の設定値、補正関数などを決定する。マイク内蔵ヘッドホンを購入したユーザに補正及び頭外定位処理を実行するコンピュータプログラムを提供する。そして、ユーザがコンピュータプログラムを実行することで、逆フィルタの補正処理、及び頭外定位処理が実行される。
【0105】
上記信号処理のうちの一部又は全部は、コンピュータプログラムによって実行されてもよい。上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non−transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0106】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。