(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力音声信号を少なくとも相対的に低域の第1成分に分割する第1フィルタ要素及び相対的に高域の第2成分に分割する第2フィルタ要素を備え、前記第1フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を前記第2フィルタ要素の低域側カットオフ周波数より小さくするとともに所定の減衰量において前記第1成分と前記第2成分の減衰量がクロスするように分割する分割部と、
前記入力音声信号を少なくとも相対的に低域の第3成分に分割する第3フィルタ要素及び相対的に高域の第4成分に分割する第4フィルタ要素を備え、前記第3フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を前記第4フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上として前記第3成分と前記第4成分が互いにオーバラップするように分割し、前記第3成分に応じて第1コントロールゲインを設定するとともに、前記第4成分に応じて第2コントロールゲインを設定し、前記第1コントロールゲインを用いて前記第1成分のレベルを制限し、前記第2コントロールゲインを用いて前記第2成分のレベルを制限するリミット処理を行うリミット部と、
リミット処理された第1成分及びリミット処理された第2成分を合成して出力する合成部と、
を備えるマルチバンドリミッタ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、マルチバンドリミッタの課題は、周波数帯域を分割する際のフィルタのスロープである。隣接する周波数帯域を切り出すためのフィルタは、通常−6dBでクロスするようにする(以下、これを「クロスオーバフィルタ」と称する)ことで、分割した各周波数帯域の合成後において周波数特性がフラットになるようにしている。
【0007】
しかしながら、このようなクロスオーバフィルタによるフィルタ処理では、クロスする周波数の前後の周波数帯域でリミッタが効かない、いわゆる不感帯が生じてしまう。これは、フィルタによって入力音のレベルが減衰してしまい、本来であれば閾値(スレッショルド)を超えるためゲインを小さくすべきところ、減衰後の信号レベルが閾値以下となりゲインを小さくできないからである。また、フィルタのスロープが急峻でない場合には、同じ周波数の信号が隣り合う周波数帯域の両方に存在することとなり、このとき一方にはリミッタが効くがもう一方にはリミッタが効かず、これらが合成時に加算されると、結果的にリミッタが効いていない周波数帯域が生じ、更に不感帯を拡げてしまう問題がある。
【0008】
図4A及び
図4Bは、従来のマルチバンドリミッタの周波数特性を示す。周波数帯域を低域(Low)、中域(Middle)、高域(High)に3分割し、各帯域のフィルタを−6dBでクロスするようにして信号を分割し(
図4A)、各帯域毎にリミット処理を実行し(
図4B)、その後に各帯域の信号を加算して合成する。すなわち、
周波数帯域分割(−6dBクロス)→帯域毎のリミット処理→合成
という流れである。
【0009】
しかしながら、
図4Aに示すように、隣接する周波数帯域近傍の周波数帯域において信号が減衰するため、本来であれば閾値、つまりリミッタレベルによってリミット処理されるべき信号がリミット処理されないことになり、リミッタが効かなくなってしまう。
図4Bに、このようにして生じるリミッタの不感帯を示す。リミッタの不感帯が生じると、この部分に音量のピークレベルが存在する場合にこれを制限できず、音量ピークオーバによる録音失敗が生じ得る。
【0010】
本発明は、マルチバンドリミッタの不感帯を除去しつつ、周波数特性がフラットなマルチバンドリミット機能を備えるマルチバンドリミッタ、録音装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、入力音声信号を少なくとも相対的に低域の第1成分に分割する第1フィルタ要素及び相対的に高域の第2成分に分割する第2フィルタ要素を備え、前記第1フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を前記第2フィルタ要素の低域側カットオフ周波数より小さくするとともに所定の減衰量において前記第1成分と前記第2成分の減衰量がクロスするように分割する分割部と、前記入力音声信号を少なくとも相対的に低域の第3成分に分割する第3フィルタ要素及び相対的に高域の第4成分に分割する第4フィルタ要素を備え、前記第3フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を前記第4フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上として前記第3成分と前記第4成分が互いにオーバラップするように分割し、前記第3成分に応じて第1コントロールゲインを設定するとともに、前記第4成分に応じて第2コントロールゲインを設定し、前記第1コントロールゲインを用いて前記第1成分のレベルを制限し、前記第2コントロールゲインを用いて前記第2成分のレベルを制限するリミット処理を行うリミット部と、リミット処理された第1成分及びリミット処理された第2成分を合成して出力する合成部を備えるマルチバンドリミッタである。
【0012】
本発明の1つの実施形態では、前記分割部は、前記入力音声信号を低域成分、中域成分、高域成分にそれぞれ分割し、前記リミット部は、前記入力音声信号を低域成分、中域成分、高域成分にそれぞれ分割する低域フィルタ要素、中域フィルタ要素及び高域フィルタ要素を備え、前記低域フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を前記中域フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上とし、かつ前記中域フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を前記高域フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上として前記低域成分と前記中域成分が互いにオーバラップするとともに前記中域成分と前記高域成分が互いにオーバラップするように分割し、前記低域成分、前記中域成分及び前記高域成分それぞれにおいてコントロールゲインを設定してリミット処理を行い、前記合成部は、リミット処理された低域成分、中域成分及び高域成分を合成して出力する。
【0013】
本発明の他の実施形態では、前記分割部は、前記所定の減衰量を−6dBとする。
【0014】
また、本発明は、上記のマルチバンドリミッタと、前記マルチバンドリミッタからの出力信号を記録する記録部とを備える録音装置である。
【0015】
また、本発明は、コンピュータのプロセッサを、入力音声信号を少なくとも相対的に低域の第1成分に分割する第1フィルタ要素及び相対的に高域の第2成分に分割する第2フィルタ要素を備え、前記第1フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を前記第2フィルタ要素の低域側カットオフ周波数より小さくするとともに所定の減衰量において前記第1成分と前記第2成分の減衰量がクロスするように分割する分割部と、前記入力音声信号を少なくとも相対的に低域の第3成分に分割する第3フィルタ要素及び相対的に高域の第4成分に分割する第4フィルタ要素を備え、前記第3フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を前記第4フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上として前記第3成分と前記第4成分が互いにオーバラップするように分割し、前記第3成分に応じて第1コントロールゲインを設定するとともに、前記第4成分に応じて第2コントロールゲインを設定し、前記第1コントロールゲインを用いて前記第1成分のレベルを制限し、前記第2コントロールゲインを用いて前記第2成分のレベルを制限するリミット処理を行うリミット部と、リミット処理された第1成分及びリミット処理された第2成分を合成して出力する合成部として機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、不感帯を除去しつつ、周波数特性がフラットなマルチバンドリミット機能を備えるマルチバンドリミッタ、録音装置及びプログラムを得ることができる。本発明によれば、例えばフィールドレコーディング等において、音量レベルのピークオーバによる録音失敗を防ぎつつ、録音すべき音を明瞭に録音し得る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0019】
<基本原理>
まず、本実施形態の基本原理について説明する。
【0020】
既述したように、一般に、マルチバンドリミッタでは、隣接する周波数帯域を切り出すためのフィルタは、−6dBでクロスするようにする。つまり、各周波数帯域で6dBだけ減衰してクロスポイントに達することで、分割した各周波数帯域の信号を合成した後に周波数特性がほぼフラットになる(ハイパスとローパスのクロス点で各々−6dBの減衰量を持たせることで、優れた全体特性とともにクロス周波数でのハイパス側とローパス側の出力が同相になることは公知である)が、他方で、−6dBでクロスするようにすると、フィルタが効かなくなる不感帯が生じてしまう。このことは、入力音声信号を2分割する2wayクロスオーバ、あるいは入力音声信号を3分割する3wayクロスオーバを問わない。
【0021】
そこで、本実施形態では、複数の周波数帯域に分割するためのフィルタとして、従来と同様に−6dBでクロスするようなクロスオーバフィルタを用いるとともに、各周波数帯域におけるリミットレベルを、隣接する周波数帯域で互いにオーバラップするようなフィルタ(以下、これを「オーバラップフィルタ」と称する)を用いて信号を分割(抽出)し、これらの信号に基づいて設定する。オーバラップフィルタを用いることで不感帯を除去し、リミットレベルを適切に設定できる。オーバラップフィルタでは、入力音声信号を少なくとも相対的に低域の第1成分に分割する第1フィルタ要素及び相対的に高域の第2成分に分割する第2フィルタ要素を備え、第1フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を第2フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上として第1成分と第2成分が互いにオーバラップするように分割する。勿論、分割すべき周波数帯域は2つ以上とすることができ、3つに分割する場合には、入力音声信号を低域成分、中域成分、高域成分にそれぞれ分割する低域フィルタ要素、中域フィルタ要素及び高域フィルタ要素を備え、低域フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を中域フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上とし、かつ中域フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を高域フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上として低域成分と中域成分が互いにオーバラップするとともに中域成分と高域成分が互いにオーバラップするように分割する。
【0022】
そして、オーバラップフィルタで周波数帯域毎にリミットレベルを設定し、従来のクロスオーバフィルタで入力音声信号を少なくとも相対的に低域の第1成分と相対的に高域の第2成分に分割し、周波数帯域毎に設定されたリミットレベルでリミット処理を実行する。各周波数帯域でリミット処理を実行した後、各周波数帯域の信号を合成する。
【0023】
以上のように、クロスオーバフィルタとオーバラップフィルタを組み合わせることで、不感帯を除去しつつ、周波数特性がフラットなマルチバンドリミット機能を実現できる。
【0024】
なお、マルチバンドリミッタを録音後の編集作業等で使用する場合には、予め入力される音の特性が分かっているので、クロスする周波数をユーザが変更できる設計とすることで不感帯の影響を避けることが可能ともいえるが、例えばフィールド録音等の現場では予め入力される音の特性がわかっていないので、予めクロスする周波数を設定することはできない。本実施形態は、必ずしもこれに限定されるものではないが、フィールド録音等のように予め入力される音の特性が分かっていない場合に特に有効である。
【0025】
<構成>
次に、本実施形態に係る録音装置の具体的な構成について、HDMI端子を備えた録音装置を例にとり説明する。但し、本発明においてHDMI端子は必須の構成要素ではない。
【0026】
録音装置は、PCMレコーダであり、音声信号を非可逆圧縮しないリニアPCM:WAVフォーマットで記録する。但し、MP3等の非可逆圧縮形式に対応していてもよい。録音装置は、例えばHDMI接続されたカメラからのHDMI信号に含まれる映像信号を受信し、映像信号についてはHDMIリピータ機器としてそのままHDMI接続されたバックアップ録画機等に出力する。他方、録音装置は、接続されたマイクから入力されたアナログオーディオ信号をデジタル信号に変換し、カメラからのHDMI信号のオーディオCHにエンベデッドしてHDMI接続されたバックアップ録画機等に出力する。
【0027】
バックアップ録画機は、HDMI接続された録音装置から、カメラで撮影された映像信号と、録音装置で録音されるオーディオ信号をともにHDMIで受信することとなり、たとえ音声入力端子としてアナログ音声入力端子しか備えていなくとも、HDMI入力端子から高品質のオーディオ信号を入力することができる。
【0028】
図1は、録音装置の全体構成ブロック図である。録音装置は、HDMI入力端子(HDMIIN)130、HDMI出力端子(HDMIOUT)132、HDMIレシーバ103、HDMIトランスミッタ140、CPU102、CPLD(コンプレックスプログラマブルロジックデバイス)134、オーディオCODEC104、及びPGA(プログラマブルゲインアンプ(PGA)136を備える。
【0029】
HDMI入力端子130は、HDMIケーブルを介してカメラと接続される。
【0030】
HDMIレシーバ103は、HDMIケーブルを介してカメラから伝送されたTMDS信号、TMDSクロック信号から、LRCK信号、BCLK(又はSCLK)信号、データ信号、及びMCLK信号を出力する。HDMIレシーバ103には、I2CバスでCPU102が接続され、CPU102はHDMIレシーバ103の動作を制御する。HDMIレシーバ103は、HDMIリピータ機器としてデータ信号に含まれる映像信号をそのままHDMIトランスミッタ140に出力する。他方、HDMIレシーバ103は、データ信号に含まれるオーディオ信号をCPLD134に供給する。CPLD134は、HDMIレシーバ103から出力されるオーディオ信号を受け取ってマルチプレクサ(MUX)136に入力するとともにCPU102に出力する。
【0031】
他方、マイクから入力されたアナログオーディオ信号は、PGA136でゲイン調整され、オーディオCODEC104でデジタル信号に変換されてCPLD134に供給される。PGA136のゲインは、CPU102で制御される。CPLD134は、マイクから入力されたアナログオーディオ信号をCPU102に供給し、CPU102においてマルチバンドリミット処理を施して録音する他、必要に応じてHDMIレシーバ103からのオーディオ信号にエンベデッド処理する。エンベデッド(多重化)された信号は、HDMIトランスミッタ140に出力される。HDMIトランスミッタ140は、HDMIレシーバ103からの映像信号、及びCPLD134でマイクオーディオ信号がエンベデッドされたオーディオ信号をHDMI出力端子132に供給する。
【0032】
以下では、マイクから入力されデジタル信号に変換されたオーディオ信号をCPU102で処理し(マルチバンドリミット処理を含む)、オーディオデータとしてSDカードメモリ等の半導体メモリに録音する場合の処理について説明する。
【0033】
CPU102は、フラッシュメモリ110及びSDRAM111をそれぞれプログラムメモリ及びワーキングメモリとして、処理プログラムを読み出してマルチバンドリミット処理を実行する。CPU102は、フラッシュメモリ110、あるいは図示しないSDカードコネクタに装着されたSDカードメモリに処理したオーディオデータを記録することで録音する。
【0034】
図2は、CPU102が処理プログラムを実行することで実現されるマルチバンドリミット処理の機能ブロック図を示す。従って、
図2の各機能は、具体的なハードウェア回路として実現されるのではなく、CPU102が処理プログラムの各機能モジュールを実行することで実現される。
【0035】
マルチバンドリミット機能は、クロスオーバフィルタ部200と、オーバラップフィルタ部202と、コントロールゲイン(CG)204,206,208と、乗算部210,212,214と、加算部216から構成される。クロスオーバフィルタ部200は入力音声信号を低域成分、中域成分、高域成分に分割する分割部として機能し、オーバラップフィルタ部202,CG204,206,208、及び乗算部210,212,214はリミッタ部として機能し、加算部216は3つの信号成分を合成する合成部として機能する。
【0036】
クロスオーバフィルタ部200は、従来と同様に、隣接する周波数帯域と−6dBでクロスするようなフィルタ特性で入力音声信号を低域(L)、中域(M)、高域(H)に分割する。低域成分は乗算部210に出力され、中域成分は乗算部212に出力され、高域成分は乗算部214に出力される。
【0037】
オーバラップフィルタ部202は、同様に、入力音声信号を低域、中域及び高域に分割するが、クロスオーバフィルタ部200のように−6dBでクロスするようなフィルタ特性ではなく、隣接する周波数帯域で互いにオーバラップするようなフィルタ特性を有する。
【0038】
低域成分はCG204に出力され、中域成分はCG206に出力され、高域成分はCG208に出力される。
【0039】
CG204は、低域成分からコントロールゲインを設定し、乗算部210に出力する。具体的には、低域成分の信号レベルを閾値(スレッショルド)と比較し、信号レベルが閾値を超える場合にこれを制限すべくゲイン係数を小さく設定して乗算部210に出力する。
【0040】
低域成分は、オーバラップフィルタ部202からの信号であるから、従来のように減衰された後の信号レベルを閾値と比較することがなく、信号レベルが閾値を超える場合に確実にゲイン係数を小さく設定できる。
【0041】
乗算部210は、CG204からのコントロールゲイン係数を低域成分に乗算することでそのレベルを制限し、低域リミッタとして動作する。
【0042】
CG206は、中域成分からコントロールゲインを設定し、乗算部212に出力する。具体的には、中域成分の信号レベルを閾値(スレッショルド)と比較し、信号レベルが閾値を超える場合にこれを制限すべくゲイン係数を小さく設定して乗算部212に出力する。
【0043】
中域成分も、オーバラップフィルタ部202からの信号であるから、従来のように減衰された後の信号レベルを閾値と比較することがなく、信号レベルが閾値を超える場合に確実にゲイン係数を小さく設定できる。乗算部212は、CG206からのコントロールゲイン係数を中域成分に乗算することでそのレベルを制限し、中域リミッタとして動作する。
【0044】
CG208は、高域成分からコントロールゲインを設定し、乗算部214に出力する。具体的には、高域成分の信号レベルを閾値(スレッショルド)と比較し、信号レベルが閾値を超える場合にこれを制限すべくゲイン係数を小さく設定して乗算部214に出力する。
【0045】
高域成分も、オーバラップフィルタ部202からの信号であるから、従来のように減衰された後の信号レベルを閾値と比較することがなく、信号レベルが閾値を超える場合に確実にゲイン係数を小さく設定できる。乗算部214は、CG208からのコントロールゲイン係数を高域成分に乗算することでそのレベルを制限し、高域リミッタとして動作する。
【0046】
乗算部204からのリミット処理された低域成分、乗算部210からのリミット処理された中域成分、及び乗算部214からのリミット処理された高域成分は、加算部216で合成されて出力される。
【0047】
図3A及び
図3Bは、本実施形態のマルチバンドリミット処理の特性図である。
図3Aは、クロスオーバフィルタ部200のフィルタ特性である。
図4Aと同様に、隣接する周波数帯域と−6dBでクロスする特性である。
【0048】
他方、
図3Bは、オーバラップフィルタ部202のフィルタ特性であり、周波数帯域を低域、中域、高域にそれぞれ分割する低域フィルタ、中域フィルタ、高域フィルタにおいて、低域フィルタと中域フィルタはハッチングで示すオーバラップ部300で互いにオーバラップし、中域フィルタと高域フィルタはハッチングで示すオーバラップ部400で互いにオーバラップする。すなわち、オーバラップ部300の周波数帯域の信号成分は、低域フィルタで抽出されるとともに中域フィルタでも抽出され、オーバラップ部400の周波数帯域の信号成分は、中域フィルタで抽出されるとともに高域フィルタでも抽出される。低域フィルタのカットオフ周波数をfLc、中域フィルタの低域側カットオフ周波数をfMLc、高域側カットオフ周波数をfMHc、高域フィルタのカットオフ周波数をfHcとすると、オーバラップフィルタ部202では、
fMLc≦fLc
fHc≦fMHc
が成立する。より特定的には、
fMLc≦fLc<fHc≦fMHc
である。
【0049】
なお、クロスオーバフィルタ部200における低域フィルタのカットオフ周波数をfLc’、中域フィルタの低域側カットオフ周波数をfMLc’、高域側カットオフ周波数をfMHc’、高域フィルタのカットオフ周波数をfHc’とすると、
fLc’<fMLc’
fMHc’<fHc’
である。
【0050】
図3Cは、オーバラップフィルタ部202を構成するフィルタ要素である低域フィルタ(L)、中域フィルタ(M)、高域フィルタ(H)の周波数特性をそれぞれ分けて示す。また、それぞれのフィルタのカットオフ周波数の大小関係を示す。さらに、クロスオーバフィルタ部200のフィルタ要素もこれと併せて示す。
【0051】
オーバラップフィルタ部202の低域フィルタにより低域成分が抽出され、中域フィルタにより中域成分が抽出され、高域フィルタにより高域成分が抽出され、それぞれの周波数帯域でコントロールゲインが決定されてリミット処理が実行される。オーバラップ部300,400が存在し、この部分では信号成分は減衰しないので、適切なリミッタレベルが設定され、不感帯のないリミッタレベルが得られる。
【0052】
図3A〜
図3Cに示されるように、本実施形態では、従来のように
周波数帯域分割(−6dBクロス)→帯域毎のリミット処理→合成
という処理の流れではなく、
周波数帯域分割(−6dBクロス)→周波数帯域分割(オーバラップ)→コントロールゲイン設定→帯域毎のリミット処理→合成
という処理の流れである。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0054】
例えば、本実施形態では、CPU102がプログラムメモリに記憶された処理プログラムを読み出して実行することでマルチバンドリミット処理を実現しており、CPU102をマルチバンドリミッタとして機能させているが、DSPで実現してもよく、あるいはデジタルフィルタ回路等の特定のハードウェア回路として実現してもよい。フィルタとしては、位相特性の線形性が維持されるFIR(有限インパルス応答)フィルタを使用するのが好適であるが、これに限定されない。但し、FIRフィルタは、必要な特性を得るためには次数を高くする必要があり、処理能力が相対的に低いCPUあるいはDSPでは実現することが困難な場合ある。このような場合、FIRフィルタではなくIIR(無限インパルス応答)フィルタを用いることが好適であり、IIRフィルタではFIRフィルタに比べて位相特性が線形でないため分割後に合成を行うと周波数特性がフラットでなくなるが、本実施形態のようにオーバラップフィルタ部202で分割された音声信号からコントロールゲインだけを設定し、実際のリミット処理はクロスオーバフィルタ部200で分割された信号に対して実行することで周波数特性をフラットに維持できる。
【0055】
2次IIRフィルタによるLPF(ローパスフィルタ)を通過した信号は、LPFのカットオフ周波数と一致する周波数の信号に対して位相が90度遅れる。同様に、2次IIRフィルタによるHPF(ハイパスフィルタ)を通過した信号は、HPFのカットオフ周波数と一致する周波数の信号に対して位相が90度進む。このとき、カットオフ周波数は3dB低下する。よって、オーバラップフィルタとトリミングフィルタを直列に通すと、各フィルタのカットオフ周波数の違いから、位相関係が崩れてしまう。オーバラップフィルタは、リミッタのコントロールゲインを算出するためであり、レベルさえ検出できればよい。クロスオーバフィルタにおいても、位相関係を考慮すると、カットオフ周波数でクロスさせることが望ましい。しかし、カットオフ周波数でクロスさせると、−3dBのポイントであるため、再合成時にゲインアップしてしまう。そこで、LPFとHPFを、それぞれ同じカットオフ周波数で2段直列に接続する。同じカットオフ周波数で2段通過させると、カットオフ周波数において6dB低下するとともに、90度×2=180度の位相ずれが生じる。位相関係が明確なカットオフ周波数において、かつ、それが−6dBのポイントでクロスさせることができる。また、LPF×2で180度の遅れ、HPF×2=180度の進みとなるため、再合成時に位相関係が元に戻る。
【0056】
なお、処理プログラムは、予めフラッシュメモリに記憶しておく他に、インターネット等のネットワーク経由でサーバからダウンロードして録音装置のメモリに格納してもよい。処理プログラムは録音用のアプリケーションとして提供されてもよく、この場合には当該録音用のアプリケーションをダウンロードして実行する機器は専用の録音装置である必要はなく、CPU、メモリ、入出力インタフェース、通信インタフェースを備える任意の携帯情報端末、例えばスマートフォンであってもよい。
【0057】
また、本実施形態において、CPLD134は、エンベデッド処理等に必要であるが、単に録音する場合にはCPLD134は不要である。
【0058】
また、本実施形態では、クロスオーバフィルタ部200及びオーバラップフィルタ部202で入力音を低域、中域、高域の3つの周波数帯域に分割しているが、これに限定されるものではなく、2つの周波数帯域に分割してもよく、あるいは4つ以上の周波数帯域に分割してもよい。2つに分割する場合、
図2の構成においてクロスオーバフィルタ部200で入力信号を低域成分及び高域成分に分割し、オーバラップフィルタ部202で入力音声信号を低域成分及び高域成分に分割し、CG204、208でそれぞれ低域及び高域のコントロールゲインを設定し、乗算部210でクロスオーバフィルタ部200からの低域成分のレベルをCG204からのコントロールゲインで制限し、乗算部214でクロスオーバフィルタ部200からの高域成分のレベルをCG208からのコントロールゲインで制限すればよい。この場合において、第1フィルタ要素及び第2フィルタ要素はクロスオーバフィルタ部200での低域フィルタ及び高域フィルタにそれぞれ対応し、第3フィルタ要素及び第4フィルタ要素はオーバラップフィルタ部202での低域フィルタ及び高域フィルタにそれぞれ対応する。クロスオーバフィルタ部200での帯域分割数とオーバラップフィルタ部202での帯域分割数は同一である。