特許第6561777号(P6561777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6561777波長変換素子の製造方法並びに波長変換素子及び発光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561777
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】波長変換素子の製造方法並びに波長変換素子及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20190808BHJP
   F21V 29/502 20150101ALI20190808BHJP
   F21V 29/70 20150101ALI20190808BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20190808BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20190808BHJP
   H01S 5/022 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   H01L33/50
   F21V29/502 100
   F21V29/70
   C09K11/02 Z
   G02B5/20
   H01S5/022
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-214240(P2015-214240)
(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2017-85039(P2017-85039A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古山 忠仁
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】清水 寛之
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−305936(JP,A)
【文献】 特開2015−029034(JP,A)
【文献】 特開2005−215231(JP,A)
【文献】 特開2007−147841(JP,A)
【文献】 特表2013−539477(JP,A)
【文献】 米国特許第07196354(US,B1)
【文献】 特開2014−204071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
H01S 5/00− 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する放熱部材と、前記貫通孔内に配置される波長変換部材とを備える波長変換素子を製造する方法であって、
前記貫通孔内に前記波長変換部材を配置し、ガラス材を前記波長変換部材の上に載置する工程と、
前記ガラス材を加熱しながら前記波長変換部材側にプレスし、前記ガラス材によって前記波長変換部材を前記貫通孔内に融着固定する工程とを備え
前記ガラス材をプレスする際、軟化流動した前記ガラス材を、前記波長変換部材と前記貫通孔の間に浸透させる、波長変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス材が、低融点ガラスである、請求項1に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス材が、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、スズリン酸塩ガラス、ビスマス酸塩ガラス及びホウケイ酸鉛ガラスから選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記貫通孔は、一方端から他方端に向かって拡がるテーパー状に形成されている、請求項1〜のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記貫通孔に対応した形状を有する前記波長変換部材を、前記他方端側から前記貫通孔内に配置する、請求項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記波長変換部材が、無機バインダー中に蛍光体の粉末を分散して形成されたものである、請求項1〜のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記波長変換部材が、多結晶セラミック蛍光体または単結晶セラミック蛍光体からなる、請求項1〜のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記波長変換部材が、蛍光体層と、前記蛍光体層より高い熱伝導率を有する透光性放熱層とを交互に積層させた積層体である、請求項1〜のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項9】
前記透光性放熱層が、透光性セラミックからなる、請求項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項10】
前記放熱部材が、金属またはセラミックから形成されている、請求項1〜のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項11】
一方端から他方端に向かって拡がるテーパー状に形成されている貫通孔を有する放熱部材と、
前記貫通孔内に配置され、側面が前記貫通孔のテーパー状の表面に対応した形状を有している波長変換部材と、
前記貫通孔内に配置され、前記波長変換部材の上に設けられる低融点ガラスからなるガラス材と
前記貫通孔と前記波長変換部材の間の隙間を埋めるように設けられる前記低融点ガラスからなるガラス層とを備え、
前記ガラス材及び前記ガラス層によって前記波長変換部材が前記貫通孔内に融着固定されている、波長変換素子。
【請求項12】
請求項11に記載の波長変換素子と、前記波長変換素子に励起光を照射する光源とを備える、発光装置。
【請求項13】
前記光源がレーザーダイオードである、請求項12に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザーダイオード(LD:Laser Diode)等の発する光の波長を別の波長に変換する波長変換素子の製造方法並びに波長変換素子及び発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光ランプや白熱灯に代わる次世代の発光装置として、低消費電力、小型軽量、容易な光量調節という観点から、LEDやLDを用いた発光装置に対する注目が高まってきている。そのような次世代発光装置の一例として、例えば特許文献1には、青色光を出射するLED上に、LEDからの光の一部を吸収して黄色光に変換する波長変換部材が配置された発光装置が開示されている。この発光装置は、LEDから出射された青色光と、波長変換部材から出射された黄色光との合成光である白色光を発する。
【0003】
波長変換部材としては、従来、樹脂マトリクス中に無機蛍光体粉末を分散させたものが用いられている。しかしながら、当該波長変換部材を用いた場合、LEDからの光により樹脂が劣化し、発光装置の輝度が低くなりやすいという問題がある。特に、LEDが発する熱や高エネルギーの短波長(青色〜紫外)光によってモールド樹脂が劣化し、変色や変形を起こすという問題がある。
【0004】
そこで、樹脂に代えてガラスマトリクス中に蛍光体を分散固定した完全無機固体からなる波長変換部材が提案されている(例えば、特許文献2及び3を参照)。当該波長変換部材は、母材となるガラスがLEDの熱や照射光により劣化しにくく、変色や変形といった問題が生じにくいという特徴を有している。
【0005】
近年、ハイパワー化を目的として、光源として用いるLEDやLDの出力が上昇している。それに伴い、光源の熱や、励起光を照射された蛍光体から発せられる熱により波長変換部材の温度が上昇し、その結果、発光強度が経時的に低下する(温度消光)という問題がある。また、場合によっては、波長変換部材の温度上昇が顕著となり、構成材料(ガラスマトリクス等)が溶解するおそれがある。
【0006】
そこで、波長変換部材からの熱を放熱するため、波長変換部材の周辺部に、当該波長変換部材より高い熱伝導率を有する放熱部材が設けられた波長変換素子が提案されている(例えば、特許文献4を参照)。特許文献4では、波長変換部材をステンレス製の放熱部材に取り付ける方法として、貫通孔を有する放熱部材の嵌合部に切り込みまたは穴部を形成し、切り込みまたは穴部に低融点ガラスを充填することにより取り付ける方法が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−208815号公報
【特許文献2】特開2003−258308号公報
【特許文献3】特開2007−016171号公報
【特許文献4】特開2007−323861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献4に記載の方法では、波長変換部材と放熱部材との間に隙間が形成され、波長変換部材からの熱が放熱部材に伝達されにくい。
【0009】
本発明の目的は、波長変換部材からの熱を効率良く放熱部材に伝達することができる波長変換素子の製造方法並びに波長変換素子及び発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の製造方法は、貫通孔を有する放熱部材と、貫通孔内に配置される波長変換部材とを備える波長変換素子を製造する方法であって、貫通孔内に波長変換部材を配置し、ガラス材を波長変換部材の上に載置する工程と、ガラス材を加熱しながら波長変換部材側にプレスし、ガラス材によって波長変換部材を貫通孔内に融着固定する工程とを備えることを特徴としている。
【0011】
本発明においては、ガラス材をプレスする際、軟化流動したガラス材を、波長変換部材と貫通孔の間に浸透させることが好ましい。
【0012】
ガラス材は、低融点ガラスであることが好ましい。
【0013】
ガラス材としては、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、スズリン酸塩ガラス、ビスマス酸塩ガラス及びホウケイ酸鉛ガラスから選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0014】
貫通孔は、一方端から他方端に向かって拡がるテーパー状に形成されていることが好ましい。この場合、貫通孔に対応した形状を有する波長変換部材を、他方端側から貫通孔内に配置することが好ましい。
【0015】
波長変換部材は、無機バインダー中に蛍光体の粉末を分散して形成されたものであることが好ましい。
【0016】
波長変換部材は、多結晶セラミック蛍光体または単結晶セラミック蛍光体からなるものであってもよい。
【0017】
波長変換部材は、蛍光体層と、蛍光体層より高い熱伝導率を有する透光性放熱層とを交互に積層させた積層体であってもよい。この場合、透光性放熱層が、透光性セラミックからなることが好ましい。
【0018】
本発明において、放熱部材は、金属またはセラミックから形成されていることが好ましい。
【0019】
本発明の波長変換素子は、貫通孔を有する放熱部材と、貫通孔内に配置される波長変換部材と、貫通孔内に配置され、波長変換部材の上に設けられる低融点ガラスからなるガラス材とを備え、ガラス材によって波長変換部材が貫通孔内に融着固定されていることを特徴としている。
【0020】
本発明の波長変換素子は、貫通孔と波長変換部材の間に設けられる低融点ガラスからなるガラス層をさらに備えることが好ましい。
【0021】
本発明の発光装置は、上記本発明の波長変換素子と、波長変換素子に励起光を照射する光源とを備えることを特徴している。
【0022】
光源としては、レーザーダイオードが挙げられる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、波長変換部材からの熱を効率良く放熱部材に伝達することができる波長変換素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態の製造方法で製造される波長変換素子を示す模式的断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図4】本発明の第2の実施形態の製造方法で製造される波長変換素子を示す模式的断面図である。
図5】本発明の第3の実施形態における波長変換部材を示す模式的断面図である。
図6】本発明の第1の実施形態の波長変換素子を用いた発光装置の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0026】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態の製造方法で製造される波長変換素子を示す模式的断面図である。図1に示すように、本実施形態の波長変換素子10は、貫通孔3を有する放熱部材2と、貫通孔3内に配置される波長変換部材1と、貫通孔3内に配置され、波長変換部材1の上に設けられるガラス材4とを備えている。波長変換部材1は、ガラス材4によって貫通孔3内に融着固定されている。本実施形態において、ガラス材4は低融点ガラスから形成されている。また、本実施形態において、波長変換部材1と貫通孔3の間には、ガラス層4aが設けられている。ガラス層4aは、後述するように、軟化流動したガラス材4を、波長変換部材1と貫通孔3の間に浸透させることにより形成することができる。
【0027】
波長変換部材1としては、光源から発せられた励起光により蛍光を発する蛍光体を含むものが挙げられる。このような波長変換部材1としては、無機バインダー中に蛍光体の粉末を分散して形成されたものが挙げられる。無機バインダー中に分散させることにより、蛍光体を均一に分散することができる。無機バインダーとしては、ガラスやポリシラザン等が挙げられる。ガラスとしては、蛍光体の耐熱性を考慮し、軟化点が250℃〜1000℃、さらには300℃〜850℃であるものを用いることが好ましい。ガラスの具体例としては、ホウケイ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス等が挙げられる。
【0028】
蛍光体は、励起光の入射により蛍光を出射するものであれば、特に限定されるものではない。蛍光体の具体例としては、例えば、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、塩化物蛍光体、酸塩化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体、カルコゲン化物蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、ハロリン酸塩化物蛍光体、ガーネット系化合物蛍光体から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。励起光として青色光を用いる場合、例えば、緑色光、黄色光または赤色光を蛍光として出射する蛍光体を用いることができる。
【0029】
蛍光体の平均粒子径(D50)は、1〜50μmであることが好ましく、5〜25μmであることがより好ましい。蛍光体の平均粒子径が小さすぎると、発光強度が低下しやすくなる。一方、蛍光体の平均粒子径が大きすぎると、発光色が不均一になる傾向がある。
【0030】
波長変換部材1中における蛍光体の含有量は、5〜80体積%であることが好ましく、10〜75体積%であることがより好ましく、20〜70体積%であることがさらに好ましい。蛍光体の含有量が少なすぎると、所望の発光強度が得られにくくなる。一方、蛍光体の含有量が多すぎると、波長変換部材1の機械的強度が低下しやすくなる。
【0031】
波長変換部材1は、無機バインダー等を含まない、実質的に蛍光体のみから構成されたものであってもよい。このようなものとして、具体的には多結晶セラミック蛍光体及び単結晶セラミック蛍光体が挙げられる。これらのセラミック蛍光体は耐熱性に非常に優れるため、励起光の出力が大きくなって高温になった場合であっても、溶解等の不具合が発生しにくい。多結晶セラミック蛍光体及び単結晶セラミック蛍光体としては、例えばYAGセラミック蛍光体等のガーネット系セラミック蛍光体が挙げられる。
【0032】
波長変換部材1の厚みは、励起光が確実に蛍光体に吸収されるような厚みである範囲において、薄い方が好ましい。その理由としては、波長変換部材1が厚すぎると、波長変換部材1における光の散乱や吸収が大きくなりすぎ、蛍光の出射効率が低下する傾向があること、及び、波長変換部材1の温度が高くなって、経時的な発光強度の低下や構成材料の溶解が発生しやすくなることが挙げられる。そのため、波長変換部材1の厚みは、2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.8mm以下であることがさらに好ましい。波長変換部材1の厚みの下限値は、通常、0.03mm程度である。また、出射光として白色を得る目的の場合は、励起光と蛍光が適切な割合になるように、波長変換部材1の厚みを制御すればよい。
【0033】
放熱部材2は、波長変換部材1で生じた熱を放熱するため設けられている。したがって、放熱部材2は、高い熱伝導率を有する材質から形成されていることが好ましい。このような観点から、放熱部材2は、金属またはセラミックなどから形成されていることが好ましい。金属としては、例えば、アルミニウムやステンレス等が挙げられる。セラミックとしては、高熱伝導性セラミックを用いることができる。高熱伝導性セラミックとしては、酸化アルミニウム系セラミック、窒化アルミニウム系セラミック、炭化ケイ素系セラミック、窒化ホウ素系セラミック、酸化マグネシウム系セラミック、酸化チタン系セラミック、酸化ニオビウム系セラミック、酸化亜鉛系セラミック、酸化イットリウム系セラミックなどが挙げられる。
【0034】
本実施形態における放熱部材2の貫通孔3は、一方端3bから他方端3cに向かって拡がるテーパー状に形成されている。また、波長変換部材1は貫通孔3に対応した形状を有している。具体的には、波長変換部材1の側面1aは、貫通孔3のテーパー状の表面3aに対応した形状を有している。波長変換部材1の側面1a及び貫通孔3の表面3aが上記形状を有することにより、図2を参照して後述する波長変換素子10の製造工程において、波長変換部材1の側面1aを、貫通孔3の表面3aに均一に圧着させやすくなる。本実施形態において、波長変換部材1の側面1a及び貫通孔3の表面3aは、円錐台形のテーパー状に形成されているが、これに限定されるものではなく、例えば角錐台形のテーパー状に形成されていてもよい。
【0035】
本実施形態の波長変換素子10においては、例えば、一方端3b側から、貫通孔3内の波長変換部材1に励起光を照射し、波長変換部材1で波長変換して、蛍光を他方端3c側から出射させることができる。
【0036】
波長変換部材1から外部に励起光及び蛍光が漏れるのを防止するため、波長変換部材1の側面1a及び/または貫通孔3の表面3aの上に、反射層を設けてもよい。反射層としては、Ag、Al、Pt、Cu等からなる金属層や、アルミナやチタニア等を含むセラミック層が挙げられる。なお、放熱部材2が金属から形成される場合、貫通孔3の表面3aを反射層として機能させることもできる。
【0037】
波長変換部材1の励起光入射側表面に、蛍光の前方取り出し向上を目的として、バンドパスフィルターを設けてもよい。また、波長変換部材1の励起光及び蛍光の出射側表面に、励起光及び蛍光の反射損失低減を目的として反射防止膜を設けてもよい。
【0038】
ガラス材4は、低融点ガラスであることが好ましい。ここで、低融点ガラスは、その軟化点が850℃以下であることが好ましく、700℃以下であることがより好ましく、650℃以下であることが特に好ましい。低融点ガラスの軟化点の下限は特に限定されないが、現実的には150℃以上である。なお、低融点ガラスの軟化点はファイバーエロンゲーション法により得られた値を言う。本実施形態において、ガラス材4は低融点ガラスから形成されている。ガラス材4は、例えば、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、スズリン酸塩ガラス、ビスマス酸塩ガラス及びホウケイ酸鉛ガラスから選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、ホウケイ酸塩系ガラス、スズリン酸塩系ガラスは軟化点が比較的低く低温焼結が可能であり、焼成時における蛍光体の劣化を抑制できるため、特に好ましく用いられる。
【0039】
ガラス材4は、貫通孔3内に配置され、波長変換部材1の上に設けられている。ガラス材4も、波長変換部材1と同様に、貫通孔3のテーパー状の表面3aに対応した形状を有していることが好ましい。ガラス材4が、このような形状を有することにより、ガラス材4を貫通孔3に密着させることができ、ガラス材4を介して波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができる。
【0040】
本実施形態において、波長変換部材1と貫通孔3の間には、ガラス層4aが設けられている。ガラス層4aは、軟化流動したガラス材4を、波長変換部材1と貫通孔3の間に浸透させることにより形成することができる。したがって、ガラス層4aは、ガラス材4と同じ材質から形成されていることが好ましい。
【0041】
ガラス層4aが形成されていない場合には、波長変換部材1の側面1aが、貫通孔3の表面3aに密着していることが好ましい。波長変換部材1の側面1aを貫通孔3の表面3aに密着させることにより、波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができる。しかしながら、波長変換部材1の側面1aまたは貫通孔3の表面3aに微小な凹凸が形成されている場合や、波長変換部材1の側面1aの形状と貫通孔3の表面3aの形状が完全には対応していない場合などには、波長変換部材1の側面1aと貫通孔3の表面3aの間に隙間が形成されてしまう。このような場合には、波長変換部材1の側面1aと貫通孔3の表面3aの間に、ガラス層4aを形成して、隙間をガラス層4aで埋めることにより、波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができる。
【0042】
図2は、本発明の第1の実施形態の製造方法を説明するための模式的断面図である。図2に示すように、放熱部材2の貫通孔3内に波長変換部材1を配置し、ガラス材4を波長変換部材1の上に載置する。図2に示す状態では、波長変換部材1及びガラス材4と、貫通孔3との間に隙間が存在しているが、波長変換部材1及びガラス材4は、貫通孔3と接するような状態で貫通孔3内に配置されていてもよい。
【0043】
次に、図2に示すように、ガラス材4の上に加熱プレス部材5を配置し、ガラス材4を加熱しながら、ガラス材4を矢印A方向にプレスする。加熱温度は、ガラス材4の軟化点より高い温度であることが好ましい。また、加熱温度は、波長変換部材1における蛍光体に熱による劣化が生じないような温度であることが好ましい。加熱温度は、具体的には、軟化点℃〜軟化点+200℃の範囲内であることが好ましく、軟化点+10℃〜軟化点+150℃の範囲内であることが好ましい。
【0044】
ガラス材4を加熱しながらプレスすることにより、ガラス材4の下方に配置された波長変換部材1の側面1aを、貫通孔3の表面3aに圧着させることができる。これにより、波長変換部材1の側面1aと貫通孔3の表面3aの間に形成される隙間を小さくすることができ、波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができるようになる。また、加熱プレスによりガラス材4を軟化流動させ、図1に示すように、軟化流動したガラス材4を、波長変換部材1と貫通孔3の間に浸透させてガラス層4aを形成してもよい。ガラス層4aを形成することにより、波長変換部材1と貫通孔3の間の空隙部分を減少させ、波長変換部材1からの熱をさらに効果的に放熱部材2に伝達させることができる。
【0045】
本実施形態によれば、ガラス材4が波長変換部材1及び貫通孔3に密着しているので、ガラス材4を介して波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができる。また、波長変換部材1と貫通孔3の間の空隙部分を減少することができるので、波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができる。そのため、波長変換素子10の放熱性を高めることができる。
【0046】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態の製造方法を説明するための模式的断面図である。本実施形態においては、貫通孔3が円柱状に形成されている。したがって、波長変換部材1も円柱状に形成されている。本発明における貫通孔3は、必ずしも第1及び第2の実施形態のようにテーパー状に形成されている必要はなく、本実施形態のように柱状の形状を有していてもよい。また、貫通孔3及び波長変換部材1の形状は、角柱状の形状であってもよい。本実施形態の波長変換部材1及び放熱部材2におけるその他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0047】
図3に示すように、本実施形態においては、波長変換部材1の側面1aと貫通孔3の表面3aの間にわずかな隙間が形成されている。本実施形態においては、放熱部材2は、台6の上に載せられている。
【0048】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、ガラス材4を波長変換部材1の上に載置し、ガラス材4の上に加熱プレス部材5を配置してガラス材4を加熱しながら、ガラス材4を矢印A方向にプレスする。ガラス材4は、第1の実施形態と同様のものを用いることができる。ガラス材4を加熱しながらプレスすることにより、ガラス材4を軟化流動させ、軟化流動したガラス材4を、波長変換部材1の側面1aと貫通孔3の表面3aの間の隙間に浸透させる。
【0049】
図4は、本発明の第2の実施形態の製造方法で製造される波長変換素子を示す模式的断面図である。図4に示すように、軟化流動したガラス材4が、波長変換部材1の側面1aと貫通孔3の表面3aの間の隙間に浸透することにより、波長変換部材1と貫通孔3の間にガラス層4aが形成される。ガラス層4aが形成されることにより、波長変換部材1と貫通孔3との間の隙間がガラス層4aで埋められる。これにより、波長変換部材1と貫通孔3の間の空隙部分が減少し、波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができる。
【0050】
第1の実施形態で製造される波長変換素子10と同様に、波長変換部材1から外部に励起光及び蛍光が漏れるのを防止するため、波長変換部材1の側面1a及び/または貫通孔3の表面3aの上に、反射層を設けてもよい。また、波長変換部材1の励起光入射側表面に、蛍光の前方取り出し向上を目的として、バンドパスフィルターを設けてもよい。さらに、波長変換部材1の励起光及び蛍光の出射側表面に、励起光及び蛍光の反射損失低減を目的として反射防止膜を設けてもよい。
【0051】
本実施形態においては、ガラス材4が波長変換部材1及び貫通孔3に密着しているので、ガラス材4を介して波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができる。また、波長変換部材1と貫通孔3の間の空隙部分を減少することができるので、波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができる。そのため、波長変換素子10の放熱性を高めることができる。
【0052】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態における波長変換部材を示す模式的断面図である。本発明における波長変換部材は、図5に示す波長変換部材20のように、蛍光体層21と、蛍光体層21より高い熱伝導率を有する透光性放熱層22とを交互に積層させた積層体から構成されていてもよい。具体的には、本実施形態の波長変換部材20は、蛍光体層21と、その両面に形成された透光性放熱層22とを備えた積層体からなる。本実施形態では、蛍光体層21に励起光が照射されることにより発生した熱は、各透光性放熱層22を通じて外部に効率良く放出される。よって、蛍光体層21の温度が過度に上昇することを抑制することができる。
【0053】
蛍光体層21としては、第1の実施形態の波長変換部材1と同様のものを用いることができる。具体的には、無機バインダー中に蛍光体を分散して形成されたものや、多結晶セラミック蛍光体及び単結晶セラミック蛍光体などを用いることができる。
【0054】
透光性放熱層22は、蛍光体層21より高い熱伝導率を有している。具体的には、5W/m・K以上であることが好ましく、10W/m・K以上であることがより好ましく、20W/m・K以上であることがさらに好ましい。また、励起光、及び蛍光体層21から発せられる蛍光を透過させる。具体的には、透光性放熱層22の波長400〜800nmにおける全光線透過率は10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることが特に好ましく、50%以上であることが最も好ましい。
【0055】
透光性放熱層22としては、酸化アルミニウム系セラミックス、酸化ジルコニア系セラミックス、窒化アルミニウム系セラミックス、炭化ケイ素系セラミックス、窒化ホウ素系セラミックス、酸化マグネシウム系セラミックス、酸化チタン系セラミックス、酸化ニオビウム系セラミックス、酸化亜鉛系セラミックス、酸化イットリウム系セラミックス等の透光性セラミック基板が挙げられる。
【0056】
透光性放熱層22の厚みは、0.05〜1mmであることが好ましく、0.07〜0.8mmであることがより好ましく、0.1〜0.5mmであることがさらに好ましい。透光性放熱層22の厚みが小さすぎると、機械的強度が低下する傾向がある。一方、透光性放熱層22の厚みが大きすぎると、波長変換素子が大型化する傾向がある。
【0057】
なお、蛍光体層21の両面に設けられた2つの透光性放熱層22の厚みは同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、一方の透光性放熱層22の厚みを比較的大きく(例えば0.2mm以上、さらには0.5mm以上)することにより、波長変換部材20としての機械的強度が担保される場合は、他方の透光性放熱層22の厚みを比較的小さく(例えば0.2mm未満、さらには0.1mm以下)してもよい。
【0058】
第1の実施形態で製造される波長変換素子10と同様に、透光性放熱層22の励起光入射側表面に、励起光の反射損失低減や蛍光の前方取り出し向上を目的として、反射防止膜やバンドパスフィルターを設けてもよい。また、透光性放熱層22の励起光及び蛍光の出射側表面に、励起光及び蛍光の反射損失低減を目的として反射防止膜を設けてもよい。さらに、蛍光体層21及び透光性放熱層22から外部に励起光及び蛍光が漏れるのを防止するため、各層の側面に反射層を設けてもよい。
【0059】
本実施形態の波長変換部材20は、例えば以下のようにして作製することができる。
【0060】
ガラス粉末と、蛍光体と、バインダー樹脂や溶剤等の有機成分とを含むスラリーを、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム上にドクターブレード法等により塗布し、加熱乾燥することにより、蛍光体層21用のグリーンシートを作製する。グリーンシートを焼成することにより蛍光体層21を得る。
【0061】
蛍光体層21の両面に透光性放熱層22を積層し、加熱圧着することにより波長変換部材20が得られる。あるいは、ポリシラザン等の無機接着剤を介して蛍光体層21と透光性放熱層22を接合してもよい。また、蛍光体層21がセラミック蛍光体からなり、透光性放熱層22が透光性セラミックからなる場合には、蛍光体層21と透光性放熱層22とを放電プラズマ焼結法により接合してもよい。このようにすれば、蛍光体層21と透光性放熱層22の密着性が良好となり、蛍光体層21で発生した熱が透光性放熱層22に伝達しやすくなる。
【0062】
本実施形態の波長変換部材20は、3層の積層体であるが、これに限定されるものではなく、例えば、蛍光体層21と透光性放熱層22とを交互に積層させた4層以上の積層体であってもよい。
【0063】
本実施形態の波長変換部材20は、第2の実施形態の波長変換部材1のように円柱状や角柱状であってもよい。
【0064】
本実施形態の波長変換部材20を用いた波長変換素子においても、ガラス材4が波長変換部材1及び貫通孔3に密着しているので、ガラス材4を介して波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができる。また、波長変換部材1と貫通孔3の間の空隙部分を減少することができるので、波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができる。そのため、波長変換素子10の放熱性を高めることができる。
【0065】
(発光装置の実施形態)
図6は、本発明の第1の実施形態の波長変換素子を用いた発光装置の一例を示す模式的断面図である。本実施形態の発光装置30は、第1の実施形態の波長変換素子10を用いた発光装置である。本実施形態の発光装置30において、波長変換素子10は、透過型の波長変換素子として用いられている。
【0066】
図6に示すように、発光装置30は、波長変換素子10と光源11を備えている。光源11から出射された励起光12は、貫通孔3の一方端3b側から波長変換素子10に入射する。波長変換素子10に入射した励起光12は、波長変換部材1により、励起光12よりも波長の長い蛍光13に波長変換される。また、励起光12の一部は、波長変換素子10を透過する。このため、波長変換素子10からは、励起光12と蛍光13との合成光14が出射する。例えば、励起光12が青色光であり、蛍光13が黄色光である場合、白色の合成光14を得ることができる。合成光14は、貫通孔3の他方端3c側から出射する。
【0067】
発光装置30において、波長変換素子10は、ガラス材4が波長変換部材1及び貫通孔3に密着しているので、ガラス材4を介して波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができる。また、波長変換部材1と貫通孔3の間の空隙部分が減少しているので、波長変換部材1からの熱を効果的に放熱部材2に伝達させることができる。そのため、波長変換部材1に励起光12が照射されることにより発生した熱は、放熱部材2を通じて外部に効率良く放出される。よって、波長変換部材1の温度上昇を抑制することができる。
【0068】
光源11としては、LEDやLDが挙げられる。発光装置30の発光強度を高める観点からは、光源11は高強度の光を出射できるLDを用いることが好ましい。
【0069】
なお、本実施形態の発光装置において、第1の実施形態の波長変換素子10に代えて、第2及び第3の実施形態の波長変換素子を用いてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…波長変換部材
1a…側面
2…放熱部材
3…貫通孔
3a…表面
3b…一方端
3c…他方端
4…ガラス材
4a…ガラス層
5…加熱プレス部材
6…台
10…波長変換素子
11…光源
12…励起光
13…蛍光
14…合成光
20…波長変換部材
21…蛍光体層
22…透光性放熱層
30…発光装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6