特許第6561784号(P6561784)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6561784-変速機の組付構造 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561784
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】変速機の組付構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/025 20120101AFI20190808BHJP
   F02B 77/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   F16H57/025
   F02B77/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-222132(P2015-222132)
(22)【出願日】2015年11月12日
(65)【公開番号】特開2017-89795(P2017-89795A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】松永 務
(72)【発明者】
【氏名】水上 直樹
(72)【発明者】
【氏名】末岡 大佑
(72)【発明者】
【氏名】橘川 功
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−024130(JP,A)
【文献】 特開2015−175398(JP,A)
【文献】 特開2012−241755(JP,A)
【文献】 特開平01−193069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/025
F02B 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のフライホイールハウジングに形成されたエンジン側接合面と、
変速機のミッションハウジングに形成され、前記エンジン側接合面に接合されるミッション側接合面と、
前記フライホイールハウジングにおける前記エンジン側接合面の近傍箇所に設けられ、前記エンジン側接合面に対し変速機側に突出されたエンジン部品と、
前記フライホイールハウジングにおける前記エンジン側接合面またはその近傍箇所であって、かつ前記エンジン部品の近傍箇所に設けられ、前記エンジン側接合面に対し前記エンジン部品よりも大きく変速機側に向かって突出されたガイド部材と、
前記ミッションハウジングにおける前記ミッション側接合面またはその近傍箇所に設けられ、前記ガイド部材が挿入されるガイド穴と、
を備えたことを特徴とする変速機の組付構造。
【請求項2】
前記ガイド部材がガイドピンである
ことを特徴とする請求項1に記載の変速機の組付構造。
【請求項3】
前記ガイド部材が前記エンジン側接合面に設けられ、前記ガイド穴が前記ミッション側接合面に設けられる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の変速機の組付構造。
【請求項4】
前記エンジン側接合面の外周部に、半径方向内側に窪んだ凹部が形成され、前記エンジン部品が前記凹部内に配置される
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の変速機の組付構造。
【請求項5】
前記エンジン部品が、パワーステアリングポンプである
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の変速機の組付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機を内燃機関に組み付けるための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、変速機(トランスミッション)を内燃機関(エンジン)に組み付ける際には、内燃機関のフライホイールハウジングに形成されたエンジン側接合面に、変速機のミッションハウジングに形成されたミッション側接合面を接合させ、複数のボルトによりミッションハウジングをフライホイールハウジングに締結することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−316625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フライホイールハウジングにおけるエンジン側接合面の近傍箇所に、エンジン側接合面に対し変速機側に突出されたエンジン部品が設けられていることがある。この場合、変速機の組付時にミッション側接合面がエンジン側接合面に当たる前に、エンジン部品に当たってしまい、エンジン部品を損傷させてしまう可能性がある。
【0005】
そこで本発明は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、変速機の組付時におけるエンジン部品の損傷を可及的に防止することができる変速機の組付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様によれば、
内燃機関のフライホイールハウジングに形成されたエンジン側接合面と、
変速機のミッションハウジングに形成され、前記エンジン側接合面に接合されるミッション側接合面と、
前記フライホイールハウジングにおける前記エンジン側接合面の近傍箇所に設けられ、前記エンジン側接合面に対し変速機側に突出されたエンジン部品と、
前記フライホイールハウジングにおける前記エンジン側接合面またはその近傍箇所であって、かつ前記エンジン部品の近傍箇所に設けられ、前記エンジン側接合面に対し前記エンジン部品よりも大きく変速機側に向かって突出されたガイド部材と、
前記ミッションハウジングにおける前記ミッション側接合面またはその近傍箇所に設けられ、前記ガイド部材が挿入されるガイド穴と、
を備えたことを特徴とする変速機の組付構造が提供される。
【0007】
好ましくは、前記ガイド部材がガイドピンである。
【0008】
好ましくは、前記ガイド部材が前記エンジン側接合面に設けられ、前記ガイド穴が前記ミッション側接合面に設けられる。
【0009】
好ましくは、前記エンジン側接合面の外周部に、半径方向内側に窪んだ凹部が形成され、前記エンジン部品が前記凹部内に配置される。
【0010】
好ましくは、前記エンジン部品が、パワーステアリングポンプである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、変速機の組付時におけるエンジン部品の損傷を可及的に防止することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る変速機の組付構造を示す正面図である。
図2図1のII−II断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る変速機の組付構造を示す正面図である。図2図1のII−II断面図である。図示するように、内燃機関(エンジン)1のフライホイールハウジング2にはエンジン側接合面3が形成され、変速機(トランスミッション)4のミッションハウジング5には、エンジン側接合面3に接合されるミッション側接合面6が形成されている。本実施形態における内燃機関は、トラック等の車両に搭載されるディーゼルエンジンであるが、車両および内燃機関の形式、種類、用途等に特に限定はない。図1は、エンジン1を後側、すなわち変速機4側から見たときの正面図である。
【0015】
フライホイールハウジング2内には、フライホイール7が回転可能に収容され、フライホイール7は、クランクシャフト8の後端部に図示しない複数のボルトにより同軸に取り付けられる。クランクシャフト8の中心軸をCで示す。フライホイール7の外周部には、スタータギア15が噛合可能なフライホイールギア9が設けられている。フライホイール7の中心部には、ボールベアリングからなる軸受17が固定して設けられている。軸受17は中心穴10を有する。軸受17および中心穴10はクランクシャフト8と同軸に配置される。
【0016】
フライホイール7の後面部にはクラッチ機構14(図1では省略)が組み付けられている。クラッチ機構14は周知の乾式摩擦クラッチ機構であり、クラッチディスク14A、クラッチカバー14B等のクラッチ部品を含む。クラッチディスク14Aの中心部にはスプライン穴14Cが設けられている。
【0017】
ミッションハウジング5内には、変速機4の入力軸11が回転可能に収容されている。入力軸11の先端部12は、ミッション側接合面6に対し前方すなわちエンジン1側に突出されている。その先端部12には、最先端側(前方側)に位置され中心穴10に嵌合挿入される先端軸部16と、先端軸部16の後方に隣接して位置されクラッチディスク14Aのスプライン穴14Cに嵌合挿入されるスプライン軸部13とが形成されている。スプライン軸部13は先端軸部16より大径とされる。
【0018】
なお本実施形態では、クラッチ機構14がエンジン側接合面3より後方に突出され、変速機4の組付状態においてクラッチ機構14がミッションハウジング5内に収納されるようになっている。本実施形態の変速機4は手動変速機であるが、変速機の種類は任意であり、例えば自動変速機や無段変速機であっても構わない。
【0019】
図1に示すように、エンジン側接合面3には、雌ネジが形成された複数のボルト穴21が設けられている。そしてこれらボルト穴21に対応したミッション側接合面6の各位置に、締結用ボルト(図示せず)を挿通させるための複数のボルト挿通穴(図示せず)が設けられている。ボルト挿通穴は貫通穴である。締結用ボルトを後方からボルト挿通穴に挿通させ、ボルト穴21に締め込むことで、ミッションハウジング5がフライホイールハウジング2に締結固定される。
【0020】
また図1に示すように、エンジン側接合面3には複数のノックピン22が突出して設けられている。そしてこれらノックピン22に対応したミッション側接合面6の各位置に、ノックピン22を嵌合させるための複数のノックピン穴(図示せず)が設けられている。ノックピン穴は有底穴である。ミッション側接合面6をエンジン側接合面3に接合させる際、ノックピン22をノックピン穴に嵌合させることで、ミッションハウジング5が固定前にフライホイールハウジング2に対して回転方向に位置決めされる。
【0021】
フライホイールハウジング2には、エンジン部品としての補機、具体的にはパワーステアリングポンプ(以下「P/Sポンプ」と表記))25が設けられている。P/Sポンプ25は複数のボルト26によりフライホイールハウジング2に取り付けられる。P/Sポンプ25は、図示しないギア機構を介してクランクシャフト8に連結され、クランクシャフト8により駆動される。
【0022】
P/Sポンプ25は、フライホイールハウジング2におけるエンジン側接合面3の近傍箇所に設けられ、エンジン側接合面3に対し後側、すなわち変速機4側に突出されている。より詳細には、P/Sポンプ25は、図1に示すような正面視において、エンジン側接合面3の右上部分27の半径方向外側における近傍箇所に設けられている。ここでエンジン側接合面3の右上部分27の外周部には、半径方向内側に窪んだ凹部28が形成され、この凹部28内にP/Sポンプ25が配置されている。P/Sポンプ25の半径方向内側かつ左右の位置に、P/Sポンプ25に極接近した二つのボルト穴21A、21Bがある。これらボルト穴21A、21Bの間の周方向領域に、凹部28が形成され、かつP/Sポンプ25が配置されている。図2に示すように、P/Sポンプ25は、エンジン側接合面3に対し後側に突出量(最大突出量)L1だけ突出されている。この突出量L1はノックピン22の突出量L2より大きい。
【0023】
さらに、エンジン側接合面3におけるP/Sポンプ25の近傍箇所には、ガイド部材としてのガイドピン30が設けられている。これに対応して、ミッション側接合面6には、ガイドピン30が挿入されるガイド穴31が設けられている。ガイドピン30は、エンジン側接合面3に対し、P/Sポンプ25よりも大きく変速機4側に向かって突出されている。
【0024】
より詳細には、ガイドピン30は、その基端部の雄ネジ部32がエンジン側接合面3のネジ穴に締め込まれることにより、スタッドボルトの如くエンジン側接合面3から突出している。エンジン側接合面3に対するガイドピン30の突出量L3は、P/Sポンプ25の突出量L1より大きい。またガイドピン30は、ボルト穴21A、21Bの間の、凹部28が存在する周方向領域に配置されている。
【0025】
ガイド穴31は、有底の穴であり、ガイドピン30に対応した半径方向位置および周方向位置に配置されている。またガイド穴31は、ガイドピン30の突出量L3より若干長い長さL4を有する。
【0026】
次に、本実施形態における変速機の組付方法を説明する。
【0027】
まず、変速機4を図示しない支持装置で吊り下げ支持すると共に、予め固定されたエンジン1に対しほぼ同軸に位置させ、かつ回転方向にもほぼ同一位置に位置させ、変速機4をエンジン1に徐々に近づけ、ミッション側接合面6をエンジン側接合面3に徐々に接近させる。
【0028】
このとき、ガイドピン30とガイド穴31が同軸関係になければ、まず、エンジン側で最も後方に位置するガイドピン30の先端(後端)が、ミッション側接合面6に当たる。ミッション側接合面6のP/Sポンプ25への衝突を回避できるので、P/Sポンプ25の損傷を可及的に防止することができる。
【0029】
この後、変速機4の位置を微調整し、ガイドピン30の先端をガイド穴31に差し込み、そのまま変速機4をエンジン1側に移動して、ガイドピン30をガイド穴31に深く差し込んでいく。
【0030】
これにより変速機4は、ガイドピン30に案内されながらエンジン1に近づいていく。ガイドピン30により変速機4の移動方向が規制され、変速機4はガイドピン30の軸方向と周方向にのみ、エンジン1に対して移動可能となる。同様にミッション側接合面6も、クランクシャフト8でなく、ガイドピン30の周方向に移動可能となる。
【0031】
ガイドピン30によりガイドさせた状態で、変速機4(ミッション側接合面6)をエンジン1(エンジン側接合面3)に軸方向に近づけつつ、変速機4のガイドピン30周りの回転位置を微調整し、エンジン1側のスプライン穴14Cおよび中心穴10に変速機4側のスプライン軸部13および先端軸部16をそれぞれ挿入し、エンジン1側のノックピン22を変速機4側のノックピン穴に嵌合させる。
【0032】
このとき、微調整に必要な変速機4のガイドピン30周りの回転移動量が極少ないことに加え、P/Sポンプ25に衝突する可能性のある凹部28の内周面部29と、ガイドピン30との距離が短いことから、微調整時における凹部28の内周面部29の回転移動量は少ない。よって、凹部28の内周面部29がP/Sポンプ25に衝突することを確実に回避することができる。
【0033】
こうして、先端軸部16が中心穴10に挿入され、ノックピン22がノックピン穴に嵌合されると、エンジン1に対するクランクシャフト軸回りの変速機4の位置が決まる。よって後は単純に、変速機4をエンジン1に接近させれば、ミッション側接合面6がエンジン側接合面3に接合すなわち面接触するようになる。これによりエンジン1に対するクランクシャフト軸方向の変速機4の位置も決まる。
【0034】
最後に、締結用ボルトを後方から変速機4側のボルト挿通穴に差し込み、エンジン1側のボルト穴21に締め込み、これを繰り返すことで、ミッションハウジング5をフライホイールハウジング2に締結固定する。
【0035】
このように本実施形態によれば、P/Sポンプ25の近傍箇所に、P/Sポンプ25よりも大きく変速機4側に向かって突出するガイドピン30を設けたので、変速機4の組付時にミッションハウジング5およびミッション側接合面6がP/Sポンプ25に衝突するのを確実に回避し、P/Sポンプ25の損傷を可及的に防止することができる。また同時に、P/Sポンプ25との衝突によるミッションハウジング5およびミッション側接合面6の損傷も可及的に防止することができる。さらには、ガイドピン30がガイド穴31に差し込まれた後、変速機4の位置をガイドピン30周りに微調整する際にも、ミッションハウジング5(特に凹部28の内周面部29)がP/Sポンプ25に衝突することを確実に回避できる。
【0036】
また本実施形態では、ガイドピン30をエンジン側接合面3に設け、ガイド穴31をミッション側接合面6に設けたので、ガイドピン30に案内させてミッション側接合面6をエンジン側接合面3に直接的に導くことができ、作業性を向上できる。
【0037】
本実施形態では、ガイドピン30をガイド穴31に差し込んだ後、先端軸部16を中心穴10に挿入したが、その順番は逆でもよい。すなわち本実施形態では、ガイドピン30の後端とガイド穴31の前端との位置が一致したときに、先端軸部16が中心穴10に未だ挿入されないようになっているが、挿入されるようになっていてもよい。この場合、先端軸部16を中心穴10に挿入した後に、ガイドピン30をガイド穴31に差し込むべく、変速機4のクランクシャフト軸回りの位置を微調整することとなる。しかしながらこのとき、ミッション側接合面6がガイドピン30の後端に摺接するだけで、P/Sポンプ25には当たらないので、P/Sポンプ25の損傷を可及的に防止できる。
【0038】
以上、本発明の実施形態を詳細に述べたが、本発明は以下のような他の実施形態も可能である。
【0039】
(1)例えば、上述のガイドピン30に代わり、ガイド部材を、ミッションハウジングの締結用としても利用し得るスタッドボルトから構成してもよい。この場合、ガイド穴は、ミッションハウジング5を貫通する貫通穴で形成され、貫通穴にスタッドボルトが挿通された後、締結用ナットがスタッドボルトに締め付けられる。同様に、上述のボルト穴21をスタッドボルトで置換してもよい。
【0040】
(2)エンジン部品の近傍箇所であれば、ガイド部材はエンジン側接合面の近傍箇所に設けられていてもよい。そしてこれに対応して、ガイド穴もミッション側接合面の近傍箇所に設けられていてもよい。
【0041】
(3)エンジン部品は、P/Sポンプ25に限らず、任意のものであってよい。例えばクランクシャフトに駆動される別の補機であってもよい。
【0042】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 内燃機関
2 フライホイールハウジング
3 エンジン側接合面
4 変速機
5 ミッションハウジング
6 ミッション側接合面
25 パワーステアリングポンプ
28 凹部
30 ガイドピン
31 ガイド穴
図1
図2