(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0010】
[車両]
図1は、この発明の実施の形態にかかる車両を示す側面図である。
図2は、
図1に記載した車両を示すA視断面図である。
図3は、
図2に記載した車両のB視断面図である。これらの図は、乗用車のフロント部の概略図を示している。
【0011】
なお、この実施の形態において、車両前進方向とは、前進走行時における車両1の進行方向、例えば、オートマチックトランスミッションを採用する車両であれば、シフトポジションが「D」ポジションにあるときの進行方向をいう。車幅方向とは、車両1の幅方向をいう。車高方向とは、車両1の高さ方向をいう。
【0012】
この車両1は、特に、乗用車、トラック・バスなどを適用対象とする。また、車両1は、車体の左右に車輪を備える車両、特に四輪以上の車輪を備える車両を適用対象とする。したがって、例えば、オートバイのような二輪車は除外される。また、車両1は、単輪構造および複輪構造のいずれを備えても良い。
【0013】
図1〜
図3に示すように、車両1は、左右の車輪2、2と、車体3とを備える。ここでは、一例として、乗用車のフロント部について説明するが、リア部についても同様の構成を採用できる(図示省略)。
【0014】
車輪2は、空気入りタイヤ10を装着し、車軸(図示省略)を介して車体3に取り付けられる。また、少なくとも左右一対の車輪2、2が、車両1の左右に配置される。例えば、
図1の構成では、車両1が、前輪である左右一対の車輪2、2をフロント部に備えている。また、
図2および
図3に示すように、左右の車輪2、2の回転軸Oが、操舵角およびキャンバ角(図示省略)を0[deg]としたときに、同軸上にある。なお、車輪2は、操舵輪および駆動輪のいずれであっても良い。
【0015】
車体3は、車両1のボディであり、左右の車輪2、2を囲むタイヤハウス31、31をそれぞれ有する。
【0016】
タイヤハウス31は、空気入りタイヤ10を装着した車輪2を転動可能に収容する部分であり、空気入りタイヤ10の外周を囲む半閉空間を形成する。このとき、タイヤハウス31の内壁面が、空気入りタイヤ10の外周面のうち、少なくとも、タイヤ子午線方向の断面視(後述する
図5参照)における一方のリムチェックラインLCからタイヤ赤道面CLまでの領域、かつ、サイドウォール部の平面視(後述する
図4参照)におけるタイヤ周方向に120[deg]の領域を連続して囲むことを要する。なお、泥跳ね防止や空気抵抗低減を目的としたフェンダー(図示省略)は、車体3に一体化されてタイヤハウス31から連続的に延在することを条件として、タイヤハウス31の一部を構成する。
【0017】
車両1が複輪構造を備える構成(図示省略)では、タイヤハウス31が、少なくとも車幅方向の最も内側にある車輪2を上記のように囲めば良い。
【0018】
例えば、
図1の構成では、
図2および
図3に示すように、車両1が、フロント部の左右に前輪である車輪2、2を備えている。また、車体3が、左右の車輪2、2に対応する位置に、タイヤハウス31、31をそれぞれ有している。タイヤハウス31が、車幅方向に奥行きをもって車輪2の外周を囲む半閉空間を形成している。具体的には、タイヤハウス31が、車輪2の車幅方向内側、車高方向上側および車両前進方向の前後を連続して囲む内壁面を有している。また、タイヤハウス31の内壁面が、タイヤ転動時および操舵時にて車輪2に干渉しないように、車輪2に対して所定間隔をあけて配置されている。また、タイヤハウス31の内壁面が、車輪2の車幅方向内側に、車軸を貫通させるための開口部(図示省略)を有している。また、タイヤハウス31が、車輪2の車幅方向外側および車高方向下側に開口部を有している。また、車輪2が、タイヤハウス31の車幅方向外側の開口部から車体3の側面に露出し、車高方向下側の開口部から突出して路面に接地している。
【0019】
[空気入りタイヤ]
図4は、
図1に記載した車両の空気入りタイヤを示す平面図である。
図5は、
図4に記載した空気入りタイヤを示すC−C視断面図である。また、
図4は、サイドウォール部全体の平面図を示し、
図5は、空気入りタイヤ10のタイヤ径方向の片側領域における子午断面図を示している。
【0020】
また、これらの図において、タイヤ子午線方向の断面とは、タイヤ回転軸(図示省略)を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。また、符号CLは、タイヤ赤道面であり、タイヤ回転軸方向にかかるタイヤの中心点を通りタイヤ回転軸に垂直な平面をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向をいう。
【0021】
なお、この実施の形態では、空気入りタイヤ10の一例として、乗用車用ラジアルタイヤについて説明する。しかし、これに限らず、車両1の車種に応じたタイヤ、例えば、レーシング用タイヤ、トラック・バス用タイヤなどにおいても、同様の構成を採用できる(図示省略)。
【0022】
空気入りタイヤ10は、タイヤ回転軸を中心とする環状構造を有し、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16と、一対のリムクッションゴム17、17とを備える(
図5参照)。
【0023】
一対のビードコア11、11は、複数のビードワイヤを束ねて成る環状部材であり、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を構成する。
【0024】
カーカス層13は、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。また、カーカス層13は、スチールあるいは有機繊維材(例えば、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で80[deg]以上95[deg]以下のカーカス角度(タイヤ周方向に対するカーカスコードの繊維方向の傾斜角)を有する。
【0025】
ベルト層14は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143とを積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される。一対の交差ベルト141、142は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で20[deg]以上40[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対の交差ベルト141、142は、相互に異符号のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの繊維方向の傾斜角)を有し、ベルトコードの繊維方向を相互に交差させて積層される(クロスプライ構造)。ベルトカバー143は、コートゴムで被覆されたスチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードを圧延加工して構成され、タイヤ周方向に対して略平行(±5度の範囲内)に配置される。また、ベルトカバー143は、交差ベルト141、142のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
【0026】
トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。一対のリムクッションゴム17、17は、左右のビードコア11、11およびカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側にそれぞれ配置されて、リムフランジに対する左右のビード部の接触面を構成する。
【0027】
[タイヤサイド部]
ここで、タイヤ接地端TLからリムチェックラインLCまでの領域を、タイヤサイド部Sと呼ぶ(
図5参照)。このタイヤサイド部Sには、タイヤのサイドウォール部、ショルダー部の一部およびビード部の一部が含まれる。
【0028】
タイヤ接地端TLとは、タイヤが規定リムに装着されて規定内圧を付与されると共に静止状態にて平板に対して垂直に置かれて規定荷重に対応する負荷を加えられたときのタイヤと平板との接触面におけるタイヤ軸方向の最大幅位置をいう。
【0029】
リムチェックラインLCとは、タイヤのリム組み状態を確認するためのラインであり、一般に、ビード部の表側面に表示される。
【0030】
なお、規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
【0031】
[タイヤサイド部の凸部]
図6は、
図4に記載した空気入りタイヤを示すD−D視断面図である。同図は、タイヤサイド部Sに配置された凸部6pの拡大断面図を示している。
【0032】
図4および
図5に示すように、空気入りタイヤ10は、複数の凸部6pをタイヤサイド部Sの表面に備える。これらの凸部6pは、タイヤサイド部Sの基準面から突出し、タイヤ転動時にて、タイヤ周辺の空気の流通を促進し、また、整流する作用を有する。あるいは、凸部6pは、タイヤ転動時にて、タイヤサイド部Sの表面に乱流を発生させる作用を有する。
【0033】
タイヤサイド部Sの基準面とは、タイヤサイド部Sの模様、文字、凹凸などを除いた面をいい、JATMA規定のタイヤ断面幅の測定に用いられる。
【0034】
凸部6pは、タイヤサイド部Sの平面視にて、タイヤ径方向に長尺な形状を有する。凸部6pの平面形状は、タイヤ径方向に長尺な形状を有することを条件として、特に限定がない。例えば、凸部6pの平面形状として、矩形状(
図4参照)、V字状、円弧状、S字状、波状などの屈曲形状(図示省略)を採用できる。また、凸部6pの長手方向とタイヤ径方向とのなす角が45[deg]以下であれば、凸部6pがタイヤ径方向に長尺な形状を有するといえる。
【0035】
また、凸部6pは、凸部6pの長手方向に垂直な断面視にて、任意の断面形状を有し得る。例えば、凸部6pの断面形状として、矩形状(
図6参照)、三角形状、半円形状(図示省略)などを採用できる。また、凸部6pのエッジ部がラウンド形状を有することにより、凸部6pの加硫成形工程が容易化される。
【0036】
また、複数の凸部6pが、タイヤサイド部Sに沿ってタイヤ周方向に所定間隔で配列される。このため、複数の凸部6pが、タイヤ回転軸を中心として放射状に配列される。かかる凸部6pは、タイヤ加硫成形工程にて、タイヤ成形金型によりタイヤサイド部Sに一体形成される。また、凸部6pは、左右のタイヤサイド部S、Sのうち、少なくとも車幅方向内側のタイヤサイド部Sに配置される(
図2および
図3参照)。
【0037】
凸部6pのタイヤ径方向の長さLH(
図5参照)は、タイヤ断面高さSHに対して、0.10≦LH/SHの関係を有することが好ましい。これにより、凸部6pのタイヤ径方向の長さLHが適正化されて、タイヤ回転時における凸部6pによる空気の流通促進作用および整流作用が向上する。LH/SHの上限は、特に限定がないが、タイヤ重量との関係で制約を受ける。
【0038】
凸部6pの長さLHは、タイヤサイド部Sの基準面に対する凸部6pの立ち上がり部を基準として測定される。
【0039】
タイヤ断面高さSHは、タイヤ外径とリム径との差の1/2をいい、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
【0040】
凸部6pの高さHp(
図6参照)は、1[mm]≦Hp≦10[mm]の範囲にあることが好ましい。これにより、凸部6pによる空気の流通促進作用および整流作用が確保され、また、凸部6pによる空気抵抗の増加が抑制されてタイヤの転がり抵抗の悪化が抑制される。
【0041】
凸部6pの高さHpは、タイヤサイド部Sの基準面から凸部6pの頂面までの距離の最大値として測定される。
【0042】
凸部6pの幅Wp(
図6参照)は、0.5[mm]≦Wp≦5[mm]の範囲にあることが好ましい。これにより、凸部6pの強度が確保され、また、凸部6pによる重量の増加が抑制されてタイヤの転がり抵抗の悪化が抑制される。
【0043】
凸部6pの幅Wpは、凸部6pの長手方向に垂直な断面視における左右の側面間の距離の最大値として測定される。
【0044】
凸部6pの個数Npは、10≦Np≦50の範囲にあることが好ましい。これにより、凸部6pによる空気の流通促進作用および整流作用が確保され、また、凸部6pによる重量の増加が抑制されてタイヤの転がり抵抗の悪化が抑制される。
【0045】
凸部6pの個数Npは、任意の径方向位置におけるタイヤ周方向の凸部6pの配列数の最大値としてカウントされる。
【0046】
また、凸部6pの高さHp、幅Wpおよび個数Npが、5≦Np×Hp/Wp≦200の関係を有することが好ましい。これにより、凸部6pによる空気の流通促進作用および整流作用が適正に効果的に向上する。
【0047】
[タイヤハウスの内壁面構造]
図7および
図8は、
図1に記載した車両のタイヤハウスを示す説明図である。これらの図において、
図7は、車幅方向かつ車高方向の断面視におけるタイヤハウス31の拡大図を示し、
図8は、車両前進方向かつ車幅方向の断面視におけるタイヤハウス31の拡大図を示している。また、図中の一点鎖線Oは、操舵角およびキャンバ角を0[deg]としたときの車輪2の回転軸を示している。
【0048】
上記のように、車両1は、空気入りタイヤ10を装着した車輪2と、車輪2を囲むタイヤハウス31を有する車体3とを備える(
図1〜
図3参照)。また、空気入りタイヤ10が、サイドウォール部に複数の凸部6pを有する(
図4〜
図6参照)。かかる構成では、タイヤ転動時にて凸部6pがタイヤ周辺の空気の流通を促進し、また、整流することにより、車両1の空気抵抗が低減して車両1の燃費が向上する。
【0049】
ここで、操舵角およびキャンバ角を0[deg]とした状態にて、空気入りタイヤ10を車輪2の回転軸O方向に投影する(
図7および
図8参照)。そして、この投影した領域内にあるタイヤハウス31の内壁面の部分を、タイヤハウス側面311と呼ぶ。このタイヤハウス側面311は、タイヤハウス31の内壁面のうち空気入りタイヤ10のサイドウォール部に対向する壁面部となる。
【0050】
図7および
図8の構成では、タイヤハウス31が、車輪2の車幅方向内側に内壁面を有している。このため、車輪2の車幅方向内側に、タイヤハウス側面311が形成される。なお、タイヤハウス31が車軸を貫通させるための開口部(図示省略)を有する場合には、この開口部は、壁面ではないため、タイヤハウス側面311を構成しない。また、車両1が複輪構造を有する場合には、車幅方向の最も内側にある車輪2の空気入りタイヤ10とタイヤハウス31の内壁面との関係で、上記のタイヤハウス側面311が定義される。
【0051】
このとき、
図7および
図8に示すように、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが、車輪2の回転軸Oに対して傾斜する。
【0052】
タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVは、タイヤハウス側面311の全域における法線ベクトルの平均値として算出される。タイヤハウス側面311が曲率や凹凸をもつ壁面形状を有する場合には、例えば、タイヤハウス側面311に3点以上の代表点を設定し、これらの代表点における法線ベクトルの平均値を用いて、平均法線ベクトルVを近似しても良い。
【0053】
この車両1では、車両走行時にてタイヤが転動すると、サイドウォール部の凸部6pによる空気の流通促進作用および整流作用が生じて、タイヤ10とタイヤハウス側面311との間に負圧が形成される。すると、この負圧により、車体3がタイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVの方向に引っ張られる。このとき、平均法線ベクトルVが車輪2の回転軸Oに対して傾斜することにより、車体3に対して付加的な作用を生じさせ得る。これにより、車両1の走行性能を向上させ得る。
【0054】
例えば、
図7の構成では、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが、車輪2の回転軸Oに対して路面方向(車高方向下側)に傾斜する。すると、タイヤ10とタイヤハウス側面311との間の負圧により、車体3が路面側に引っ張られる。これにより、ダウンフォースが形成されて、車両1のリフトが抑制される。この作用は、例えば、車両1の空気抵抗の低減、あるいは、車両1の操縦安定性能の向上に寄与する。
【0055】
また、
図7の構成では、平均法線ベクトルVの路面方向への傾斜角θが、3[deg]≦θ≦45[deg]の範囲にあることが好ましく、5[deg]≦θ≦30[deg]の範囲にあることがより好ましい。これにより、車両1のリフトが効果的に抑制される。
【0056】
また、例えば、
図8の構成では、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが、車輪2の回転軸Oに対して車両前進方向に傾斜する。すると、タイヤ10とタイヤハウス側面311との間の負圧により、車体3が車両前方に引っ張られる。この作用は、例えば、車両1の空気抵抗の低減に寄与する。
【0057】
また、
図8の構成では、平均法線ベクトルVの車両前進方向への傾斜角φが、3[deg]≦φ≦45[deg]の範囲にあることが好ましく、5[deg]≦φ≦30[deg]の範囲にあることがより好ましい。これにより、車両1の空気抵抗が効果的に低減される。
【0058】
また、この車両1は、
図1〜
図3に示すように、
図7および
図8の構造を併用する。すなわち、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが、車輪2の回転軸Oに対して路面方向かつ車両前進方向に傾斜する。これにより、車両1の操縦安定性能を向上させつつ車両1の空気抵抗を低減できる。特に、タイヤハウス側面311を所定方向に傾斜させることにより、簡易な構成にて両者を調整できる点で好ましい。
【0059】
なお、
図7および
図8の構成では、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが車幅方向外側に向くため、タイヤ10とタイヤハウス側面311との間の負圧により、車体3が車幅方向外側に引っ張られる。このとき、
図2および
図3に示すように、車両1の左右のタイヤハウス31、31が左右対称な構造を有することにより、左右のタイヤハウス側面311、311における車幅方向外側への引張力が相互に打ち消される。
【0060】
なお、タイヤハウス側面311と空気入りタイヤ10のサイドウォール部との距離が狭いほど、上記の負圧による作用が効率的に得られる。一方で、車輪2の回転や操舵に必要なクリアランスを適正に確保する必要もある。したがって、タイヤハウス側面311と空気入りタイヤ10のサイドウォール部との距離は、かかる観点から適宜調整されることが好ましい。
【0061】
[変形例]
図9および
図10は、
図1に記載した車両の変形例を示す説明図である。これらの図において、
図9は、空気入りタイヤ10の車幅方向外側のサイドウォール部の平面図を示し、
図10は、
図9に記載した空気入りタイヤ10の凹部6dの断面図を示している。
【0062】
図4および
図5の構成では、空気入りタイヤ10が、車幅方向内側のサイドウォール部に複数の凸部6pを備えている。
【0063】
さらに、空気入りタイヤ10は、
図4および
図5の構成において、車幅方向外側のサイドウォール部に複数の凹部6dを備えることが好ましい。すなわち、空気入りタイヤ10が、車幅方向内側のサイドウォール部に複数の凸部6pを備え、且つ、車幅方向外側のサイドウォール部に複数の凹部6dを備える。例えば、
図9の構成では、空気入りタイヤ10のタイヤサイド部Sに、複数の凹部6dが配置されている。また、これらの凹部6dが、相互に所定間隔をあけつつ格子状に配列されている。
【0064】
凹部6dは、タイヤサイド部Sの基準面から陥没し、タイヤ転動時にて、タイヤ周辺の空気の流通を促進し、また、整流する作用を有する。あるいは、凹部6dは、タイヤ転動時にて、タイヤサイド部Sの表面に乱流を発生させる作用を有する。
【0065】
凹部6dの形状は、特に限定がなく、例えば、半球形状(
図9および
図10参照)、円錐形状あるいは角錐形状、円柱形状あるいは角柱形状など(図示省略)の任意の形状を採用できる。
【0066】
凹部6dの深さHd(
図10参照)は、0.3[mm]≦Hd≦2[mm]の範囲にあることが好ましい。これにより、凹部6dによる空気の流通促進作用および整流作用が確保され、また、凹部6dによる空気抵抗の増加が抑制されてタイヤの転がり抵抗の悪化が抑制される。
【0067】
凹部6dの深さHdは、タイヤサイド部Sの基準面から凹部6dの最大深さ位置までの距離として測定される。
【0068】
凹部6dの大きさWd(
図10参照)は、0.5[mm]≦Wd≦10[mm]の範囲にあることが好ましい。これにより、凹部6dによる空気の流通促進作用および整流作用が確保され、また、凹部6dによる空気抵抗の増加が抑制されてタイヤの転がり抵抗の悪化が抑制される。
【0069】
凹部6dの大きさWdは、凹部6dの開口部の最大径(差し渡し寸法)として測定される。
【0070】
凹部6dの個数Ndは、50≦Nd≦300の範囲にあることが好ましい。これにより、凹部6dによる空気の流通促進作用および整流作用が確保され、また、凹部6dによる空気抵抗の増加が抑制されてタイヤの転がり抵抗の悪化が抑制される。
【0071】
凹部6dの個数Ndは、任意の径方向位置におけるタイヤ周方向の凹部6dの配列数の最大値としてカウントされる。
【0072】
また、凹部6dの深さHd、大きさWdおよび個数Ndが、5≦Nd×Hd/Wd≦100000の関係を有することが好ましい。これにより、凹部6dによる空気の流通促進作用および整流作用が効果的に向上する。
【0073】
図11および
図12は、
図1に記載した車両の変形例を示す説明図である。これらの図において、
図11は、車幅方向かつ車高方向の断面視におけるタイヤハウス31の拡大図を示し、
図12は、車両前進方向かつ車幅方向の断面視におけるタイヤハウス31の拡大図を示している。また、図中の一点鎖線Oは、操舵角およびキャンバ角を0[deg]としたときの車輪2の回転軸を示している。
【0074】
図7の構成では、上記のように、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが、車輪2の回転軸Oに対して路面方向(車高方向下側)に傾斜する。かかる構成では、車両1にダウンフォースが作用するので、車両1のリフトが抑制される。
【0075】
これに対して、
図11の構成では、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが、車輪2の回転軸Oに対して車高方向(車両1の天井側)に傾斜する。かかる構成では、タイヤ10とタイヤハウス側面311との間の負圧により、車体3が車高方向に引っ張られる。これにより、例えば、タイヤに作用する荷重が低減して、転がり抵抗が低減する。
【0076】
また、
図8の構成では、上記のように、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが、車輪2の回転軸Oに対して車両前進方向に傾斜する。かかる構成では、車体3が車両前方に引っ張られるので、車両1の空気抵抗が減少する。
【0077】
これに対して、
図12の構成では、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが、車輪2の回転軸Oに対して車両前進方向の逆側(車両後退方向)に傾斜する。かかる構成では、タイヤ10とタイヤハウス側面311との間の負圧により、車体3が車両前進方向の逆側に引っ張られる。これにより、例えば、車両1の制動性が向上する。
【0078】
上記のように、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが、車輪2の回転軸Oに対して傾斜することにより、付加的かつ多様な作用が得られる。これにより、車両1の走行性能を多面的に向上できる。
【0079】
また、
図1の構成では、上記のように、
図7および
図8の構成が組み合わされて用いられている。具体的には、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが、車輪2の回転軸Oに対して路面方向かつ車両前進方向に傾斜する。
【0080】
しかし、これに限らず、
図7および
図11と、
図8および
図12との構成を自在に組み合わせ得る。例えば、(1)上記した
図7および
図8の構成の組み合わせ、(2)
図7および
図12の組み合わせ、(3)
図11および
図8の組み合わせ、ならびに、(4)
図11および
図12の組み合わせを任意に採用できる。これにより、付加的かつ多様な作用が得られるので、車両1の走行性能を多面的に向上できる。
【0081】
図13および
図14は、
図4に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。これらの図は、空気入りタイヤ10の車幅方向内側のサイドウォール部の平面図を示している。
【0082】
図4の構成では、空気入りタイヤ10が、直線形状かつ複数の凸部6pをタイヤサイド部Sに備え、また、これらの凸部6pが長手方向をタイヤ径方向に平行に向けて配置されている。
【0083】
しかし、これに限らず、凸部6pは、上記した流通促進作用、整流作用あるいは乱流発生作用を有する限り、任意の形状および配置構造を有し得る。
【0084】
例えば、
図13に示すように、サイドウォール部の平面視にて、複数の凸部6pが、直線形状を有し、長手方向をタイヤ径方向に対して傾斜させて配置されても良い。このとき、隣り合う凸部6pが、相互に異なる方向に傾斜しても良いし(
図13参照)、同一方向に傾斜しても良い(図示省略)。また、各凸部6pが、同一の傾斜角を有しても良いし、相互に異なる傾斜角を有しても良い。
【0085】
また、例えば、サイドウォール部の平面視にて、複数の凸部6pが、円弧状、S字状などの湾曲形状を有しても良いし(
図14参照)、V字状、N字状、W字状などの屈曲形状を有しても良い(図示省略)。また、隣り合う凸部6pが、湾曲方向あるいは屈曲方向を相互に異なる方向に向けて配置されても良いし(
図14参照)、同一方向に向けて配置されても良い(図示省略)。また、サイドウォール部の平面視における凸部6pの曲率や屈折角は、凸部6pの流通促進作用、整流作用あるいは乱流発生作用との関係で最適化できる。
【0086】
また、
図4、
図13および
図14の構成では、凸部6pが、タイヤサイド部Sの全域に渡ってタイヤ径方向に連続して延在する長尺構造を有している。
【0087】
しかし、これに限らず、例えば、短尺かつ複数の凸部6pが、タイヤ径方向に配置されても良い(図示省略)。このとき、これらの短尺な凸部6pが、タイヤ径方向に相互にラップして配置されても良いし、相互に離間して配置されても良い(図示省略)。
【0088】
[効果]
以上説明したように、この車両1は、空気入りタイヤ10を装着した車輪2と、車輪2を囲むタイヤハウス31を有する車体3とを備える(
図1〜
図3参照)。また、空気入りタイヤ10が、所定のタイヤハウス側面311に対向するサイドウォール部に複数の凸部6pを有する(
図4〜
図6参照)。また、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが、車輪2の回転軸Oに対して傾斜する(
図7および
図8参照)。
【0089】
かかる構成では、車両走行時にてタイヤが転動すると、サイドウォール部の凸部6pにより空気の流通促進作用あるいは整流作用が生じて、タイヤとタイヤハウス側面311との間に負圧が形成される。すると、この負圧により、車体3がタイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVの方向に引っ張られる。このとき、平均法線ベクトルVが車輪2の回転軸Oに対して傾斜することにより、車体3に対して付加的な作用を生じさせ得る。これにより、車両1の走行性能を向上させ得る利点がある。
【0090】
また、この車両1では、タイヤハウス31の内壁面が、空気入りタイヤ10の外周のうち、少なくとも、タイヤ子午線方向の断面視(
図5参照)における一方のリムチェックラインLCからタイヤ赤道面CLまでの領域、かつ、サイドウォール部の平面視(
図4参照)におけるタイヤ周方向に120[deg]の領域を連続して囲む。かかる構成では、タイヤハウス31がタイヤ10の外周を適正に囲むので、タイヤ10とタイヤハウス側面311との間に効率的に負圧を形成できる利点がある。
【0091】
また、この車両1では、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが、車輪2の回転軸Oに対して路面方向に傾斜する(
図2および
図7参照)。かかる構成では、タイヤ10とタイヤハウス側面311との間の負圧により、車両1にダウンフォースが作用する。これにより、車両1のリフトが抑制されて、例えば、タイヤの空気抵抗が低減され、あるいは、タイヤの操縦安定性能が向上する利点がある。
【0092】
また、この車両1では、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVの路面方向への傾斜角θが、3[deg]≦θ≦45[deg]の範囲にある(
図7参照)。これにより、車両1のリフトが適正に抑制される利点がある。
【0093】
また、この車両1では、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが、車輪2の回転軸Oに対して車両前進方向に傾斜する(
図3および
図8参照)。かかる構成では、タイヤ10とタイヤハウス側面311との間の負圧により、車体3を前進方向に引っ張る力が作用する。これにより、例えば、車両1の空気抵抗が低減される利点がある。
【0094】
また、この車両1では、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVの車両前進方向への傾斜角φが、3[deg]≦φ≦45[deg]の範囲にある(
図8参照)。これにより、車体3を前進方向に引っ張る力が適正に得られる利点がある。
【0095】
また、この車両1では、複数の凸部6pが、タイヤ径方向に長尺な形状を有すると共にタイヤ周方向に所定間隔で配置され(
図4参照)、且つ、凸部6pの高さHp、幅Wpおよび個数Npが、5≦Np×Hp/Wp≦200の関係を有する。これにより、凸部6pの高さHp、幅Wpおよび個数Npの関係が適正化されて、凸部6pによる空気の流通促進作用および整流作用を効果的に得られる利点がある。
【0096】
また、この車両1では、タイヤハウス側面311が、空気入りタイヤ10に対して車幅方向内側にある(
図2および
図3参照)。これにより、タイヤハウス側面311が、空気入りタイヤ10に対して車幅方向外側にある構成(図示省略)と比較して、タイヤ10とタイヤハウス側面311との間に発生した負圧を、車体3に対して効率的に作用させ得る利点がある。
【0097】
また、この車両1では、空気入りタイヤ10が、車幅方向外側のサイドウォール部に複数の凹部6dを有する(
図9および
図10参照)。かかる構成では、タイヤ転動時にて、凹部6dによる空気の流通促進作用および整流作用が生じて、車両1の空気抵抗が低減される利点がある。
【0098】
また、この車両1では、凹部6dの深さHd、大きさWdおよび個数Ndが、5≦Nd×Hd/Wd≦100000の関係を有する。これにより、凹部6dによる空気の流通促進作用および整流作用を効果的に得られる利点がある。
【実施例】
【0099】
図15は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
図16および
図17は、従来例2の車両を示す説明図である。
【0100】
この性能試験では、相互に異なる複数の車両モデルについて、車両に作用する(1)空気抵抗および(2)リフトに関するシミュレーション試験が行われた。このシミュレーション試験では、モータアシスト付き乗用車のボディモデルに195/65R15のタイヤサイズのタイヤモデルを装着した各種の車両モデルが作成される。そして、走行速度80[km/h]にて車両モデルに作用する空力抵抗およびリフトが、格子ボルツマン法による流体解析ソフトウェアを用いて算出される。そして、この算出結果に基づいて、従来例1を基準とした指数評価が行われる。この評価は、数値が小さいほど空気抵抗およびリフトが小さく、好ましい。
【0101】
実施例1〜9の車両モデルでは、タイヤハウス31の内壁面が車輪2の車幅方向内側にあり、空気入りタイヤ10が
図4〜
図6の構成を備える。また、実施例1、2の車両モデルは、
図2の構成を有するが、
図3の構成を有していない。このため、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが路面方向にのみ傾斜する。実施例3、4の車両モデルは、
図3の構成を有するが、
図2の構成を有していない。このため、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが車両前進方向にのみ傾斜する。実施例5〜9の車両モデルは、
図2および
図3の双方の構成を有する。このため、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが路面方向かつ車両前進方向に傾斜する。実施例10の車両モデルでは、空気入りタイヤ10が、
図9および
図10の構成を備え、車幅方向外側のサイドウォール部に凹部6dを有する。
【0102】
従来例1の車両モデルでは、空気入りタイヤがサイドウォール部に凸部および凹部を有しておらず、また、タイヤハウス側面の平均法線ベクトルが車輪の回転軸に対して平行である。従来例2の車両モデルでは、空気入りタイヤが
図4〜
図6の構成を備えるが、タイヤハウス側面の平均法線ベクトルが車輪の回転軸に対して平行である。
【0103】
シミュレーション結果が示すように、実施例1〜10の車両モデルでは、タイヤハウス側面311の平均法線ベクトルVが車輪2の回転軸Oに対して傾斜することにより、車両1の空気抵抗が低下し、また、リフトが抑制されることが分かる。