特許第6561862号(P6561862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561862
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】フタロシアニン顔料
(51)【国際特許分類】
   C09B 47/10 20060101AFI20190808BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20190808BHJP
   C09B 47/32 20060101ALI20190808BHJP
   C07F 5/06 20060101ALN20190808BHJP
【FI】
   C09B47/10CSP
   C09B67/20 B
   C09B47/32
   !C07F5/06 E
【請求項の数】7
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2016-15391(P2016-15391)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2016-145349(P2016-145349A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2018年8月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-19383(P2015-19383)
(32)【優先日】2015年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北村 健一
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕一
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏明
(72)【発明者】
【氏名】西田 和史
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓也
【審査官】 神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−305862(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/102395(WO,A1)
【文献】 特開2012−247591(JP,A)
【文献】 特開2002−131521(JP,A)
【文献】 特開2013−156397(JP,A)
【文献】 特開2003−176289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるフタロシアニン顔料。
【化1】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、nは、4〜16の整数を表す。ただし、Xで表されるハロゲン原子の置換数の平均値が、6〜15であり、ハロゲン分布幅が、4以上である。Y1は、−OP(=O)R12、−OC(=O)R3または水酸基を表す。R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシル基または置換基を有してもよいアリールオキシ基を表す。R3は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基を表す
【請求項2】
Xが、塩素原子または臭素原子であり、Y1が、−OP(=O)R12であることを特
徴とする請求項1記載のフタロシアニン顔料。
【請求項3】
Xが、臭素原子であり、Y1が、−OP(=O)(OC652であることを特徴とする請求項2記載のフタロシアニン顔料。
【請求項4】
CuKα線によるX線回折パターンが、ブラック角2θ(±0.2)=9.3°、14.5°、15.7°、18.3°、23.5°、24.1°にピークを有する請求項3記載のフタロシアニン顔料。
【請求項5】
CuKα線によるX線回折パターンが、ブラック角2θ(±0.2)=14.0°、23.9°、27.1°にピークを有する請求項3記載のフタロシアニン顔料。
【請求項6】
下記一般式(2)で表されるフタロシアニンをハロゲン化した後、加水分解することを特徴とする下記一般式(3)で表されるフタロシアニン顔料の製造方法。
【化2】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、nは、4〜16の整数を表す。ただし、Xで表されるハロゲン原子の置換数の平均値が、6〜15であり、ハロゲン分布幅が、4以上である。Y2は、ハロゲン原子または水酸基を表す。Y3は、水酸基を表す。)
【請求項7】
下記一般式(3)で表されるフタロシアニン顔料と、Z1P(=O)R122C(=O)R3で表される酸性化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(4)で表されるフタロシアニン顔料の製造方法。
【化3】

(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、nは、4〜16の整数を表す。ただし、Xで表され
るハロゲン原子の置換数の平均値が、6〜15であり、ハロゲン分布幅が、4以上である。Y3は、水酸基を表す。Y4は、−OP(=O)R12−OC(=O)R3を表す。R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシル基または置換基を有してもよいアリールオキシ基を表す。R3は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基を表す12は、それぞれ独立に、ハロゲン原子または水酸基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフタロシアニン顔料とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、画像記録材料としては、特にカラー画像を形成するための材料が主流であり、具体的には、インクジェット方式の記録材料、感熱転写方式の記録材料、電子写真方式の記録材料、転写式ハロゲン化銀感光材料、印刷インキ、記録ペン等が盛んに利用されている。また、撮影機器ではCCD等の撮像素子において、ディスプレーではLCDやPDP、有機エレクトロルミネッセンス、電子紙(電子ペーパー)におけるカラー画像を記録・再現するためにカラーフィルタが使用されている。これらのカラー画像記録材料やカラーフィルタでは、フルカラー画像を表示あるいは記録するために、いわゆる加法混色法や減法混色法の3原色の元素(染料や顔料)が使用されているが、好ましい色再現域を実現できる吸収特性や色彩的特性を有し、さまざまな使用条件に適合する色素がないのが実情であり、改善が強く望まれている。
【0003】
上記の各用途で使用する緑色色素としては、その用途によって求められる色彩的特性や各用途に対する要求品質が異なるが、記録物の耐光性や耐熱性の観点から色素としては主に顔料が使用されており、例えば、カラーフィルタ用途では、C.I.ピグメントグリーンー36、同58等が使用されている。
【0004】
また、カラーフィルタにおける緑色フィルタの製造には、着色剤として種々のフタロシアニン系化合物を使用することが一般的であり、これらを含むカラーフィルタ用組成物の提案が多くなされている。
【0005】
特許文献1には、緑色色素として、少なくとも4個のハロゲン原子で置換されたハロゲン化フタロシアニン顔料を用いたカラーフィルタ用組成物が開示されている。
【0006】
特許文献2には、緑色顔料として、ハロゲン化銅フタロシアニン顔料及び中心金属が、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Ge、及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1 種のハロゲン化異種金属フタロシアニン顔料からなる緑色色素を含むことを特徴とするカラーフィルタ用組成物が開示されている。
【0007】
しかし、これらのフタロシアニン顔料は、いずれも高い明度を与えるカラーフィルタを提供するための材料ではあったが、近年の産業界では、カラーフィルタに対する高明度化への要求は更に高くなり、これらのフタロシアニン顔料を用いた組成物では、所望とする明度が得られないという問題があげられる。
【0008】
特許文献3には、ハロゲンを含有しない青色のアルミニウムフタロシアニン顔料とハロゲンを含有する緑色顔料とを使用することで、鮮明な色相、高耐光性、高耐熱性を維持した顔料組成物が開示されている。
【0009】
また、緑色のカラーフィルタセグメント用の着色組成物については、特許文献4に、主顔料としてアルミニウムフタロシアニン顔料を用い、比較的少ない含有量でも高い色度で高明度が得られ、色濃度及び色純度を両立させた技術が開示されている。
【0010】
また、アルミニウムフタロシアニン顔料としては、特許文献4記載の単量体アルミニウムフタロシアニン顔料の他にも、特許文献5に、アルミニウムフタロシアニン顔料をジフェニルクロロシランで二量体化したビス(フタロシアニルアルミノ)テトラフェニルジシロキサン顔料やフェニルホスホン酸を用いて二量化したビス(フタロシアニルアルミニウム)フェニルホスホネート顔料が開示されている。
【0011】
しかしながら、これら特許文献3〜5に開示されているアルミニウムフタロシアニン顔料を含む顔料組成物は、カラーフィルタに要求される230℃以上での耐熱性、及び長時間の耐光性が十分でなく、加熱や長時間の露光によって分光形状が変化してしまうという問題があった。更に、分散性の悪さによる、着色組成物の高粘度化や、塗膜上への異物の発生などの問題も十分には改善されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−131521号公報
【特許文献2】特開2002−250812号公報
【特許文献3】特開2003−4930号公報
【特許文献4】特開2004−333817号公報
【特許文献5】特開昭57−90058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、堅牢性(耐熱性、耐光性、耐溶剤性)に優れ、カラーフィルタ等に使用した際に色特性(明度)とコントラスト比に優れ、230℃を越える高温の環境下においても分子同士の会合や凝集等による異物発生のないフタロシアニン顔料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、新規なフタロシアニン顔料を得、これらが堅牢性に優れ、色彩的特性に優れるものであることを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるフタロシアニン顔料に関する。
【化1】
【0016】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、nは、4〜16の整数を表す。ただし、Xで表されるハロゲン原子の置換数の平均値が、6〜15であり、ハロゲン分布幅が、4以上である。Y1は、−OP(=O)R12、−OC(=O)R3、−OS(=O)24または水酸基を表す。R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシル基または置換基を有してもよいアリールオキシ基を表す。R3は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基を表す。R4は、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基を表す。)
【0017】
また、本発明は、Xが、塩素原子または臭素原子であり、Y1が、−OP(=O)R12であることを特徴とする前記フタロシアニン顔料に関する。
【0018】
また、本発明は、Xが、臭素原子であり、Y1が、−OP(=O)(OC652であることを特徴とする前記フタロシアニン顔料に関する。
【0019】
また、本発明は、CuKα線によるX線回折パターンが、ブラック角2θ(±0.2)=9.3°、14.5°、15.7°、18.3°、23.5°、24.1°にピークを有する前記フタロシアニン顔料に関する。
【0020】
また、本発明は、CuKα線によるX線回折パターンが、ブラック角2θ(±0.2)=14.0°、23.9°、27.1°にピークを有する前記フタロシアニン顔料に関する。
【0021】
また、本発明は、下記一般式(2)で表されるフタロシアニンをハロゲン化した後、加水分解することを特徴とする下記一般式(3)で表されるフタロシアニン顔料の製造方法に関する。
【化2】
【0022】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、nは、4〜16の整数を表す。ただし、Xで表されるハロゲン原子の置換数の平均値が、6〜15であり、ハロゲン分布幅が、4以上である。Y2は、ハロゲン原子または水酸基を表す。Y3は、水酸基を表す。)
【0023】
また、本発明は、下記一般式(3)で表されるフタロシアニン顔料と、Z1P(=O)R12、Z2C(=O)R3またはZ3S(=O)24で表される酸性化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(4)で表されるフタロシアニン顔料の製造方法に関する。
【化3】
【0024】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、nは、4〜16の整数を表す。ただし、Xで表されるハロゲン原子の置換数の平均値が、6〜15であり、ハロゲン分布幅が、4以上である。Y3は、水酸基を表す。Y4は、−OP(=O)R12、−OC(=O)R3または−OS(=O)24を表す。R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシル基または置換基を有してもよいアリールオキシ基を表す。R3は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基を表す。R4は、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基を表す。Z1、Z2およびZ3は、それぞれ独立に、ハロゲン原子または水酸基を表す。)
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、上記一般式(1)で表されるフタロシアニン顔料は、堅牢性(耐熱性、耐光性、耐溶剤性)に優れ、かつ高明度・高コントラスト比であり、230℃を越える高温の環境下においても分子同士の会合や凝集等による異物発生のない着色剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、実施例10で製造したフタロシアニン顔料(P−10)のCuKα線によるX線回折パターンである。
図2図2は、実施例12で製造したフタロシアニン顔料(P−12)のCuKα線によるX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書では、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル」、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」、又は「(メタ)アクリルアミド」と表記した場合には、特に説明がない限り、それぞれ、「アクリロイル及び/又はメタクリロイル」、「アクリル及び/又はメタクリル」、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」、「アクリレート及び/又はメタクリレート」、又は「アクリルアミド及び/又はメタクリルアミド」を表すものとする。また、本明細書における「C.I.」は、カラーインデックス(C.I.)を意味する。
【0028】
<フタロシアニン顔料>
まず、本発明のフタロシアニン顔料について説明する。本発明のフタロシアニン顔料は、一般式(1)で表され、着色組成物に用いられる着色剤、特に緑色着色剤として好適に用いることができる。
【0029】
一般式(1)
【化4】
【0030】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、nは、4〜16の整数を表す。ただし、Xで表されるハロゲン原子の置換数の平均値が、6〜15であり、ハロゲン分布幅が、4以上である。Y1は、−OP(=O)R12、−OC(=O)R3、−OS(=O)24または水酸基を表す。R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシル基または置換基を有してもよいアリールオキシ基を表す。R3は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基を表す。R4は、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基を表す。)
【0031】
一般式(1)において「ハロゲン」としては、フッ素、臭素、塩素、ヨウ素が挙げられ、臭素および塩素が好ましい。また、使用するハロゲン原子の種類は、上記の置換数の平均値および分布幅の範囲内であれば2種以上併用してもよい。特に、臭素および塩素を併用することが、好ましい。
【0032】
一般式(1)で表されるフタロシアニン顔料におけるXで表されるハロゲン原子の置換数の平均値は、6〜15であり、色相、堅牢性の観点から8〜15が好ましい。また、ハロゲン分布幅は、4以上であり、4〜9が好ましい。ハロゲン分布幅が4以上であると、フタロシアニン分子同士の会合や凝集が著しく抑制されやすくなり、分子同士の会合や凝集に起因する粒径の増大、しいては低コントラスト化の抑制に大きく寄与することが明らかとなった。ここで「ハロゲン分布幅」とは、一般式(1)で表されるフタロシアニン顔料に置換しているハロゲン数の分布である。ハロゲン分布幅は質量分析して得られたマススペクトラムにおいて、各成分に相当する分子イオンピークの信号強度(各ピーク値)と、各ピーク値を積算した値(全ピーク値)とを算出し、全ピーク値に対する各ピーク値の割合が1%以上のピークの数をカウントし、ハロゲン分布幅とした。
【0033】
1〜R4におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、n−オクチル基、ステアリル基、2−エチルへキシル基等の直鎖又は分岐アルキル基が挙げられ、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
置換基を有するアルキル基の置換基としては、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子、メトキシ基等のアルコキシル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ニトロ基等が挙げられる。また、置換基は、複数あっても良い。したがって、置換基を有するアルキル基としては、例えば、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2−ジブロモエチル基、2−エトキシエチル基、2−ブトキシエチル基、2−ニトロプロピル基、べンジル基、4−メチルべンジル基、4−tert−ブチルべンジル基、4−メトキシべンジル基、4−ニトロべンジル基、2,4−ジクロロべンジル基等が挙げられる。
【0034】
1〜R4におけるアリール基としては、フェニル基、p−トリル基等の単環芳香族炭化水素基や、ナフチル基、アンスリル基等の縮合芳香族炭化水素基が挙げられ、単環芳香族炭化水素基が好ましい。また、炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
置換基を有するアリール基の置換基としては、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子、アルコキシル基、アミノ基、ニトロ基等が挙げられる。また、置換基は、複数あっても良い。したがって、置換基を有するアリール基としては、例えば、p−ブロモフェニル基、p−ニトロフェニル基、p−メトキシフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、2−ジメチルアミノフェニル基、2−メチル−4−クロロフェニル基、4−メトキシ−1−ナフチル基、6−メチル−2−ナフチル基、4,5,8−トリクロロ−2−ナフチル基、アントラキノニル基等が挙げられる。
【0035】
1およびR2におけるアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ネオペンチルオキシ基、2,3−ジメチル−3−ペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、ステアリルオキシ基、2−エチルへキシルオキシ基等の直鎖又は分岐アルコキシル基が挙げられ、炭素数1〜6のアルコキシル基が好ましい。
置換基を有するアルコキシル基の置換基としては、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子、アルコキシル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ニトロ基が挙げられる。また、置換基は、複数あっても良い。したがって、置換基を有するアルコキシル基としては、例えば、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ基、2,2−ジトリフルオロメチルプロポキシ基、2−エトキシエトキシ基、2−ブトキシエトキシ基、2−ニトロプロポキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0036】
1およびR2におけるアリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−メチルフェノキシ基等の単環芳香族炭化水素基からなるアリールオキシ基や、ナフタルオキシ基、アンスリルオキシ基等の縮合芳香族炭化水素基からなるアリールオキシ基が挙げられ、単環芳香族炭化水素基からなるアリールオキシ基が好ましい。また、炭素数6〜12のアリールオキシ基が好ましい。
置換基を有するアリールオキシ基の置換基としては、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、ニトロ基等が挙げられる。また、置換基は、複数あっても良い。したがって、置換基を有するアリールオキシ基としては、例えば、p−ニトロフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、2,4−ジクロロフェノキシ基、ペンタフルオロフェノキシ基、2−メチル−4−クロロフェノキシ基等が挙げられる。
【0037】
3におけるシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロへキシル基、2,5−ジメチルシクロペンチル基、4−tert−プチルシクロヘキシル基等の単環脂肪族炭化水素基や、ボルニル基やアダマンチル基等の縮合脂肪族炭化水素基が挙げられる。また、炭素数5〜12のシクロアルキル基が好ましい。
置換基を有するシクロアルキル基の置換基としては、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子、アルキル基、アルコキシル基、水酸基、アミノ基、ニトロ基等が挙げられる。また、置換基は、複数あっても良い。置換基を有するシクロアルキル基としては、例えば、2,5−ジクロロシクロペンチル基、4−ヒドロキシシクロヘキシル基等がある。
【0038】
3およびR4における複素環基としては、ピリジル基、ピラジル基、ピペリジノ基、ピラニル基、モルホリノ基、アクリジニル基等の脂肪族複素環基や芳香族複素環基が挙げられる。また、炭素数4〜12の複素環基が好ましく、環員数5〜13の複素環基が好ましい。
置換基を有する複素環基の置換基としては、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子、アルキル基、アルコキシル基、水酸基、アミノ基、ニトロ基等が挙げられる。また、置換基は、複数あっても良い。置換基を有する複素環基としては、3−メチルピリジル基、N−メチルピペリジル基、N−メチルピロリル基等が挙げられる。
【0039】
一般式(1)で表されるフタロシアニン顔料としては、堅牢性や色特性の観点から、Y1は、−OP(=O)R12または−OC(=O)R3であることが好ましく、−OP(=O)R12であることがより好ましい。また、R1、R2のうちの少なくとも1つが、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよいアリールオキシ基であることが好ましく、R1およびR2が、いずれもアリール基またはアリールオキシ基であることがより好ましく、R1およびR2がいずれもフェニル基またはフェノキシ基であることがさらに好ましい。また、R3およびR4が、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基であることが好ましい。
【0040】
一般式(1)におけるY1の代表的な例として、下記に示す構造が挙げられるが(*は、一般式(1)中のAlとの置換基の結合位置を表す)、本発明は、これらに限定されるものではない。また例示化合物の環化異性体も本発明の好ましい例として含まれる。
【0041】
【化5】
【0042】
本発明のフタロシアニン顔料の好ましい態様としては、一般式(1)におけるXが、臭素原子であり、Y1が、−OP(=O)(OC652であるものが挙げられる。これは幾つかの結晶形態を取り得ることが、本発明者らの研究によって明らかとなったが、中でも、CuKα線によるX線回折パターンが、ブラック角2θ(±0.2)=9.3°、14.5°、15.7°、18.3°、23.5°、24.1°にピークを有するフタロシアニン顔料(以下、アルミニウムフタロシアニン(A)と呼称する場合がある)と、CuKα線によるX線回折パターンが、ブラック角2θ(±0.2)=14.0°、23.9°、27.1°にピークを有するフタロシアニン顔料(以下、アルミニウムフタロシアニン(B)と呼称する場合がある)は、顔料としての性質を有し、着色剤、特に緑色着色剤として好適に用いることができる。
【0043】
<フタロシアニン顔料の製造方法>
続いて、本発明のフタロシアニン顔料の製造方法について説明する。本発明の一般式(1)で表されるフタロシアニン顔料は、一般式(3)または一般式(4)で表されるフタロシアニン顔料の製造方法により得ることができる。
【0044】
一般式(3)で表されるフタロシアニン顔料は、一般式(2)で表されるフタロシアニンをハロゲン化した後、加水分解することで製造することができる。尚、一般式(3)におけるXおよびnは、一般式(1)におけるXおよびnとそれぞれ同義である。
【0045】
一般式(2)で表されるフタロシアニンのハロゲン化は、例えば“The Phthalocyanines Volume II Manufacture and Applications”(CRC Press,Inc.、1983年)等に記載されているクロルスルホン酸法、溶融法等の方法で製造することができる。
【0046】
クロルスルホン酸法としては、一般式(2)で表されるフタロシアニンを、クロロスルホン酸、硫酸等の硫黄酸化物系の溶媒に溶解し、これにハロゲン化剤を仕込みハロゲン化する方法が挙げられる。この際の反応は、温度20〜120℃で行うのが好ましく、1〜10時間の範囲で行うのが好ましい。
【0047】
溶融法としては、例えば、特開昭51−64534号公報(米国特許第4077974号明細書)にある様に、塩化アルミニウム、臭化アルミニウムの様なハロゲン化アルミニウム、四塩化チタンの様なハロゲン化チタン、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等の様なアルカリ金属ハロゲン化物またはアルカリ土類金属ハロゲン化物〔以下、アルカリ(土類)金属ハロゲン化物という〕、塩化チオニル等、各種ハロゲン化剤の一種または二種以上の混合物からなる10〜170℃程度の溶融物中で、一般式(2)で表されるフタロシアニンをハロゲン化する方法が挙げられる。
【0048】
ハロゲン化に用いられるハロゲン化剤とは、フッ素化剤、塩素化剤、臭素化剤およびヨウ素化剤を意味するが、例えばフッ素化剤としては、フルオロキシトリフルオロメタン、フッ化硫酸セシウム、アセチルハイポフルオライト、N−フルオロスルホンアミド、ジエチルアミノサルファトリフルオリド、N−フルオロピリジニウム塩などが挙げられる。
塩素化剤としては、塩素(Cl2)、N−クロロスクシンイミド、スルフリルクロライド、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、2,3,4,5,6,6−ヘキサクロロ−2,4−シクロヘキサジエノン、2,3,4,4,5,6−ヘキサクロロ−2,5−シクロヘキサジエノン、N−クロロトリエチルアンモニウムクロライド、ベンゼンセレネニルクロライドなどが挙げられる。
臭素化剤としては、臭素(Br2)、N−ブロモスクシンイミド、硫酸銀−臭素、テトラメチルアンモニウムトリブロマイド、トリフルオロアセチルハイポブロマイト、ジブロモイソシアヌル酸、2,4,4,6−テトラブロモシクロヘキサ−2,5−ジエンオン、臭化水素−ジメチルスルホキシド、N−ブロモスクシンイミド−ジメチルホルムアミド、2,4−ジアミノー1,3−チアゾールハイドロトリブロマイド、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインなどが挙げられる。
ヨウ素化剤としては、ヨウ素(I2)、1,3−ジヨード−5,5−ジメチルヒダントイン、トリフルオロアセチルハイポヨーダイト、ヨウ素−過ヨウ素酸、エチレンヨードクロライド、N−ヨードスクシンイミドなどが挙げられる。
【0049】
一般式(4)で表されるフタロシアニン顔料は、一般式(3)で表されるフタロシアニン顔料と、Z1P(=O)R12、Z2C(=O)R3またはZ3S(=O)24で表される酸性化合物とを反応させることで製造することができる。
【0050】
ここで、一般式(3)および一般式(4)におけるXおよびnは、一般式(1)におけるXおよびnとそれぞれ同義である。また、一般式(3)、一般式(4)および上記酸性化合物におけるR1〜R4は、一般式(1)におけるR1〜R4とそれぞれ同義である。
【0051】
また、一般式(3)で表されるフタロシアニンは、顔料としての性質を有すため、上記酸性化合物との反応効率を向上させるために、反応に先だって予めアシッドペースティング法やソルベントソルトミリング法等の方法によって微細化したものを使用することが望ましい。一般式(3)で表されるフタロシアニンを予め微細化することにより、それから製造される一般式(4)で表されるフタロシアニン顔料も微細なものを得られ易くなるため、これらを着色組成物として用いた場合、高い明度および高いコントラストを得られ易くなることにつながるという効果がある。
【0052】
また、一般式(3)で表されるフタロシアニンと上記酸性化合物との反応は、例えば、有機溶媒中で混合撹拌することで進行させることができる。次いで、前記有機溶剤を除去することによって一般式(4)で表されるフタロシアニン顔料を得ることができる。
【0053】
一般式(4)で表されるフタロシアニン顔料の製造の際に用いられる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノールに代表される一価のアルコール系溶媒、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、もしくはトリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール系溶媒、1−メチル−2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−ピロリジノン、ε−カプロラクタム、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、尿素、もしくはテトラメチル尿素等のようなアミド系溶媒、その他、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、もしくはトリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級モノアルキルエーテル系溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、もしくはトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)等のポリエーテル系溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド、もしくは3−スルホレン等の含イオウ系溶媒、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能系溶媒、酢酸、マレイン酸、ドコサヘキサエン酸、トリクロロ酢酸、もしくはトリフルオロ酢酸等のカルボン酸系溶媒、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロスルホン酸等のスルホン酸系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられるが、リン酸ジフェニルの溶解が良好であることから、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の一価のアルコール系溶媒や、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリジノン等の非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。これらの有機溶媒は、単独で、若しくは2種以上を混合して用いることができる。
【0054】
反応終了後に有機溶媒を除去する方法としては、業界公知の方法を用いることができるが、吸引濾過または加圧濾過を行った後、使用した有機溶媒と相溶性があり、かつ低沸点の有機溶媒で洗浄した後、乾燥除去することが望ましい。また、水溶性有機溶媒の場合には、水と混合した後、水洗により除去することが望ましい。
【0055】
上述したアルミニウムフタロシアニン(A)を得る方法としては、例えば、臭素原子の置換基数の平均が6〜10のフタロシアニン顔料と酸性化合物とを反応させて粗製顔料(クルード)を得た後、有機溶媒中で加熱するといった方法を挙げることができる。一方、上述したアルミニウムフタロシアニン(B)を得る方法としては、例えば、臭素原子の置換基数の平均が10〜15のフタロシアニン顔料と酸性化合物とを反応させて粗製顔料(クルード)を得た後、有機溶媒中で加熱するといった方法を挙げることができる。
【0056】
<フタロシアニン顔料の微細化>
微細化の方法としては、アシッドペースティング法、ソルベントソルトミリング法等といった一般的な着色剤や顔料の微細化に用いられる業界公知の方法が挙げられる。
【0057】
アシッドペースティング法とは、硫酸中に顔料を加えて溶解した後、大量の水に硫酸溶液を滴下し、析出させることで微細な着色剤を得る方法である。析出させる際に使用する水の量、および温度等を最適化することにより、一次粒子径が非常に微細であり、また、分布の幅がせまく、シャープな粒度分布をもつ顔料粒子を得ることができる。
【0058】
ソルベントソルトミリング法とは、顔料と水溶性無機塩と水溶性有機溶媒との混合物を、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、アトライター、サンドミル等の混練機を用いて、加熱しながら機械的に混練した後、水洗により水溶性無機塩と水溶性有機溶媒を除去する処理である。水溶性無機塩は、破砕助剤として働くものであり、ソルトミリング時に無機塩の硬度の高さを利用して顔料粒子が破砕される。顔料をソルトミリング処理する際の条件を最適化することにより、一次粒子径が非常に微細であり、また、分布の幅がせまく、シャープな粒度分布をもつ顔料を得ることができる。
【0059】
水溶性無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化バリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等を用いることができるが、価格の点から塩化ナトリウム(食塩)を用いるのが好ましい。水溶性無機塩は、処理効率と生産効率の両面から、フタロシアニン顔料の全重量を基準(100重量%)として、50〜2000重量%用いることが好ましく、300〜1000重量%用いることが最も好ましい。
【0060】
水溶性有機溶媒は、顔料及び水溶性無機塩を湿潤する働きをするものであり、水に溶解(混和)し、かつ用いる無機塩を実質的に溶解しないものであれば特に限定されない。ただし、ソルトミリング時に温度が上昇し、溶媒が蒸発し易い状態になるため、安全性の点から、沸点120℃以上の高沸点のものが好ましい。そのようなものとしては、例えば、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、液状のポリエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、液状のポリプロピレングリコール等が用いられる。これら水溶性有機溶媒は、フタロシアニン顔料の全重量を基準(100重量%)として、5〜1000重量%用いることが好ましく、50〜500重量%用いることが最も好ましい。
【0061】
ソルベントソルトミリング処理する際には、必要に応じて樹脂を添加してもよい。ここで、用いられる樹脂の種類は特に限定されず、天然樹脂、変性天然樹脂、合成樹脂、天然樹脂で変性された合成樹脂等を用いることができる。用いられる樹脂は、室温で固体であり、水不溶性であることが好ましく、かつ上記水溶性有機溶媒に一部可溶であることがさらに好ましい。樹脂の使用量は、フタロシアニン顔料の全重量を基準(100重量%)として、2〜200重量%の範囲であることが好ましい。
【0062】
本発明のフタロシアニン顔料は、その使用用途に合わせて、2種類以上のフタロシアニン顔料を併用してもよい。このとき別々に製造したフタロシアニン顔料同士を混合しても良いし、同時に2種類以上のフタロシアニン顔料を合成したり微細化することによって製造して、使用しても良い。
【実施例】
【0063】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。実施例中、特に断りの無い限り「部」とは「質量部」を意味する。
【0064】
なお、本発明のフタロシアニンの同定は、飛行時間型質量分析装置(autoflexIII(TOF−MS)、ブルカー・ダルトニクス社製)を用いて得られたマススペクトラムの分子イオンピークと、計算によって得られる質量数との一致、並びに、元素分析装置(2400CHN元素分析装置、パーキン・エルマー社製)を用いて得られる炭素、水素および窒素の比率と、理論値との一致により行った。
【0065】
顔料中のハロゲン原子の置換数の平均値は、顔料を酸素燃焼フラスコ法にて燃焼させ、該燃焼物を水に吸収させた液体を、イオンクロマトグラフ(ICS−2000イオンクロマトグラフィー、DIONEX社製)により分析してハロゲン量を定量し、ハロゲン原子の置換数の平均値に換算することで得た。
【0066】
顔料中のハロゲン分布幅は、飛行時間型質量分析装置(autoflexIII(TOF−MS)、ブルカー・ダルトニクス社製)を用いて得られたマススペクトラムにおいて、各成分に相当する分子イオンピークの信号強度(各ピーク値)と、各ピーク値を積算した値(全ピーク値)とを算出し、全ピーク値に対する各ピーク値の割合が1%以上のピークの数をカウントし、ハロゲン分布幅とした。
【0067】
本発明のフタロシアニン顔料および黄色着色剤の体積平均一次粒子径(MV)は、日立ハイテクノロジーズ社製透過型電子顕微鏡(TEM)「H−7650」と下記計算式によって求めた。まず、TEMによって着色剤粒子を撮影した。得られた画像にて、顔料または着色剤粒子の任意の100個を選び、その一次粒子の短軸径と長軸径の平均値を着色剤粒子の粒径(d)とし、次いで個々の顔料または着色剤を求めた粒径(d)を有する球とみなして、それぞれ粒子の体積(V)を求め、この作業を100個の顔料または着色剤粒子について行い、そこから下記式(1)を用いて算出した。
【0068】
式(1)
MV=Σ(V・d)/Σ(V)
【0069】
また、CuKα線によるX線回折パターンは、リガク社製卓上型X線回折装置を用いて、ブラック角2θ=3°〜35°の範囲を、X線サンプリング間隔0.02°で測定を行った。
【0070】
<フタロシアニン顔料の製造>
[実施例1]
(フタロシアニン顔料(P−1)の製造)
反応容器中で、n−アミルアルコール1250部にフタロジニトリル225部と塩化アルミニウム無水物78部を混合攪拌した。これに、DBU(1,8−Diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene)266部を加え、昇温し、136℃で5時間還流した。攪拌したまま30℃まで冷却した反応溶液を、メタノール5000部、水10000部からなる混合溶媒中へ攪拌しながら注入し、青色のスラリーを得た。このスラリーを濾過し、メタノール2000部、水4000部からなる混合溶媒で洗浄し、乾燥して、135部の下記化学式(5)で示されるクロロアルミニウムフタロシアニンを得た。得られたクロロアルミニウムフタロシアニンについて元素分析を行ったところ、計算値(C)66.85%、(H)2.80%、(N)19.49%に対して、実測値(C)66.7%、(H)3.0%、(N)19.2%であり、目的の化合物であることを同定した。
【0071】
【化6】
【0072】
次いで、反応容器中で、濃硫酸1500部に上記クロロアルミニウムフタロシアニン100部を氷浴下にて加えた。その後、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン199部を徐々に加え、25℃で6時間撹拌を行った。続けて、この硫酸溶液を3℃の冷水9000部に注入し、生成した析出物をろ過、水洗、1%水酸化ナトリウム水溶液洗浄、水洗の順で処理を行い、乾燥して、165部のフタロシアニン顔料(P−1)を得た。得られたフタロシアニン顔料(P−1)について臭素置換数を算出したところ、平均8.4個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は8であった。得られたフタロシアニン顔料(P−1)の体積平均一次粒子径は43nmであった。
【0073】
[実施例2]
(フタロシアニン顔料(P−2)の製造)
上記フタロシアニン顔料(P−1)の製造において、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン199部をN−ブロモスクシンイミド186部に変更した以外は、実施例1と同様にして143部のフタロシアニン顔料(P−2)を製造した。得られたフタロシアニン顔料(P−2)について臭素置換数を算出したところ、平均6.0個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は5であった。得られたフタロシアニン顔料(P−2)の体積平均一次粒子径は47nmであった。
【0074】
[実施例3]
(フタロシアニン顔料(P−3)の製造)
上記フタロシアニン顔料(P−1)の製造において、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン199部を1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン249部に変更した以外は、実施例1と同様にして187部のフタロシアニン顔料(P−3)を製造した。得られたフタロシアニン顔料(P−3)について臭素置換数を算出したところ、平均10.3個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は7であった。得られたフタロシアニン顔料(P−3)の体積平均一次粒子径は40nmであった。
【0075】
[実施例4]
(フタロシアニン顔料(P−4)の製造)
臭化アルミニウム406部、臭化ナトリウム94部および臭化第二鉄10部を加温して溶融し、140℃で上記クロロアルミニウムフタロシアニン100部を加えた。160℃に昇温して臭素178部を滴下した。水5000部に上記反応液を注入し、濾過、温水洗浄、1%塩酸水溶液洗浄、温水洗浄、1%水酸化ナトリウム水溶液洗浄、温水洗浄の順で処理をし、その後、乾燥して粗製臭素化アルミニウムフタロシアニン236部を得た。得られた粗製臭素化アルミニウムフタロシアニンを濃硫酸1900部に溶解し、50℃で3時間撹拌した。次いで、水12000部に撹拌しながら溶解液を注ぎ入れ、70℃に加熱して、濾過、温水洗浄、1%水酸化ナトリウム水溶液洗浄、温水洗浄、乾燥して224部のフタロシアニン顔料(P−4)を製造した。得られたフタロシアニン顔料(P−4)について臭素置換数を算出したところ、平均12.1個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は9であった。得られたフタロシアニン顔料(P−4)の体積平均一次粒子径は38nmであった。
【0076】
[実施例5]
(フタロシアニン顔料(P−5)の製造)
上記フタロシアニン顔料(P−4)の製造において、臭素178部を臭素208部に変更した以外は、実施例4と同様にして255部のフタロシアニン顔料(P−5)を製造した。得られたフタロシアニン顔料(P−5)について臭素置換数を算出したところ、平均14.2個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は6であった。得られたフタロシアニン顔料(P−5)の体積平均一次粒子径は37nmであった。
【0077】
[実施例6]
(フタロシアニン顔料(P−6)の製造)
上記フタロシアニン顔料(P−1)の製造において、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン199部をトリクロロイソシアヌル酸108部に変更した以外は、実施例1と同様にして101部のフタロシアニン顔料(P−6)を製造した。得られたフタロシアニン顔料(P−6)について塩素置換数を算出したところ、平均7.8個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は7であった。得られたフタロシアニン顔料(P−6)の体積平均一次粒子径は41nmであった。
【0078】
[実施例7]
(フタロシアニン顔料(P−7)の製造)
塩化アルミニウム406部、塩化ナトリウム94部および塩化第二鉄10部を加温して溶融し、140℃で上記クロロアルミニウムフタロシアニン100部を加えた。160℃に昇温して塩素158部を吹き込んだ。水5000部に上記反応液を注入し、濾過、温水洗浄、1%塩酸水溶液洗浄、温水洗浄、1%水酸化ナトリウム水溶液洗浄、温水洗浄の順で処理をし、その後、乾燥して粗製塩素化アルミニウムフタロシアニン160部を得た。得られた粗製塩塩素化アルミニウムフタロシアニンを濃硫酸1200部に溶解し、50℃で3時間撹拌した。次いで、水7200部に撹拌しながら溶解液を注ぎ入れ、70℃に加熱して、濾過、温水洗浄、1%水酸化ナトリウム水溶液洗浄、温水洗浄、乾燥して152部のフタロシアニン顔料(P−7)を製造した。得られたフタロシアニン顔料(P−7)について塩素置換数を算出したところ、平均11.9個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は9であった。得られたフタロシアニン顔料(P−7)の体積平均一次粒子径は39nmであった。
【0079】
[実施例8]
(フタロシアニン顔料(P−8)の製造)
上記フタロシアニン顔料(P−7)の製造において、塩素79部を塩素99部に変更した以外は、実施例7と同様にして168部のフタロシアニン顔料(P−8)を製造した。得られたフタロシアニン顔料(P−8)について塩素置換数を算出したところ、平均15.0個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は4であった。得られたフタロシアニン顔料(P−8)の体積平均一次粒子径は37nmであった。
【0080】
[実施例9]
(フタロシアニン顔料(P−9)の製造)
上記フタロシアニン顔料(P−1)の製造において、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン199部を1,3−ジヨード−5,5−ジメチルヒダントイン198部に変更した以外は、実施例1と同様にして160部のフタロシアニン顔料(P−9)を製造した。得られたフタロシアニン顔料(P−9)についてヨウ素置換数を算出したところ、平均6.2個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は5であった。得られたフタロシアニン顔料(P−9)の体積平均一次粒子径は49nmであった。
【0081】
[実施例10]
(フタロシアニン顔料(P−10)の製造)
反応容器中で、濃硫酸1500部にクロロアルミニウムフタロシアニン100部を氷浴下にて加えた。その後、トリクロロイソシアヌル酸45部を徐々に加え、25℃で3時間撹拌を行った。その後、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン210部を徐々に加え、25℃で5時間撹拌を行った。続けて、この硫酸溶液を3℃の冷水9000部に注入し、生成した析出物をろ過、水洗、1%水酸化ナトリウム水溶液洗浄、水洗の順で処理を行い、乾燥して、166部のフタロシアニン顔料(P−10)を得た。得られたフタロシアニン顔料(P−10)について塩素、臭素の置換数を算出したところ、塩素平均2.1個、臭素平均7.9個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は8であった。得られたフタロシアニン顔料(P−10)の体積平均一次粒子径は40nmであった。
【0082】
[実施例11]
(フタロシアニン顔料(P−11)の製造)
上記フタロシアニン顔料(P−10)の製造において、トリクロロイソシアヌル酸45部をトリクロロイソシアヌル酸125部に、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン210部を1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン155部に変更した以外は、実施例10と同様にして157部のフタロシアニン顔料(P−11)を製造した。得られたフタロシアニン顔料(P−11)について塩素、臭素の置換数を算出したところ、塩素平均5.9個、臭素平均6.0個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は8であった。得られたフタロシアニン顔料(P−11)の体積平均一次粒子径は42nmであった。
【0083】
[実施例12]
(フタロシアニン顔料(P−12)の製造)
上記フタロシアニン顔料(P−10)の製造において、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン210部を1,3−ジヨード−5,5−ジメチルヒダントイン205部に変更した以外は、実施例10と同様にして145部のフタロシアニン顔料(P−12)を製造した。得られたフタロシアニン顔料(P−12)について塩素、ヨウ素の置換数を算出したところ、塩素平均2.0個、ヨウ素平均6.0個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は8であった。得られたフタロシアニン顔料(P−12)の体積平均一次粒子径は45nmであった。
【0084】
[実施例13]
(フタロシアニン顔料(P−13)の製造)
反応容器に、1−メチル−2−ピロリジノン1000部、実施例1で得られたフタロシアニン顔料(P−1)100部、リン酸ジフェニル31部を加えた。85℃で、3時間反応させた後、水8000部中にこの溶液を注入した。反応生成物をろ過し、水16000部で洗浄後、減圧下60℃にて一昼夜乾燥させて、121部の青色生成物を得た。次いで、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート600部に得られた青色生成物を加え、120℃で2時間加熱した。生成物をろ過し、減圧下にて60℃で一昼夜乾燥させて、115部のフタロシアニン顔料(P−13)を得た。得られたフタロシアニン顔料(P−13)について臭素置換数を算出したところ、平均8.3個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は8であった。得られたフタロシアニン顔料(P−13)の体積平均一次粒子径は32nmであった。また、CuKα線によるX線回折パターンを測定したところ、図1に示すようにブラック角2θ=9.3°、14.5°、15.7°、18.3°、23.5°および24.1°にピークを有していた。
【0085】
[実施例14]
(フタロシアニン顔料(P−14)の製造)
反応容器に、1−ペンタノール1000部、実施例2で得られたフタロシアニン顔料(P−2)100部、リン酸ジフェニル29部を加え、5℃まで冷却し、4時間反応させた。続いて、反応液を120℃に昇温し、2時間加熱撹拌を行った。室温まで冷却後、生成物をろ過し、メタノール1000部で洗浄後、減圧下にて40℃で一昼夜乾燥させて、110部のフタロシアニン顔料(P−14)を得た。得られたフタロシアニン顔料(P−14)について臭素置換数を算出したところ、平均6.0個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は5であった。得られたフタロシアニン顔料(P−14)の体積平均一次粒子径は40nmであった。また、CuKα線によるX線回折パターンを測定したところ、図1に示すようにブラック角2θ=9.2°、14.5°、15.7°、18.2°、23.6°、および24.1°にピークを有していた。
【0086】
[実施例15]
(フタロシアニン顔料(P−15)の製造)
反応容器に、1−メチル−2−ピロリジノン1000部、実施例3で得られたフタロシアニン顔料(P−3)100部、リン酸ジフェニル28部を加えた。85℃で、3時間反応させた後、水8000部中にこの溶液を注入した。反応生成物をろ過し、水16000部で洗浄後、減圧下60℃にて一昼夜乾燥させて、105部の青色生成物を得た。次いで、1−ブタノール1000部に得られた青色生成物を加え、110℃で2時間加熱した。生成物をろ過し、減圧下にて60℃で一昼夜乾燥させて、100部のフタロシアニン顔料(P−15)を得た。得られたフタロシアニン顔料(P−15)について臭素置換数を算出したところ、平均10.1個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は7であった。得られたフタロシアニン顔料(P−15)の体積平均一次粒子径は31nmであった。また、CuKα線によるX線回折パターンを測定したところ、図2に示すようにブラック角2θ=14.0°、23.9°、および27.1°にピークを有していた。
【0087】
[実施例16]
(フタロシアニン顔料(P−16)の製造)
反応容器に、1−ヘキサノール1000部、実施例4で得られたフタロシアニン顔料(P−4)100部、リン酸ジフェニル20部を加え、5℃まで冷却し、4時間反応させた。続いて、反応液を145℃に昇温し、2時間加熱撹拌を行った。室温まで冷却後、生成物をろ過し、メタノール1000部で洗浄後、減圧下にて40℃で一昼夜乾燥させて、104部のフタロシアニン顔料(P−16)を得た。得られたフタロシアニン顔料(P−16)について臭素置換数を算出したところ、平均12.0個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は9であった。得られたフタロシアニン顔料(P−16)の体積平均一次粒子径は38nmであった。また、CuKα線によるX線回折パターンを測定したところ、図2に示すようにブラック角2θ=14.0°、23.9°、および26.9°にピークを有していた。
【0088】
[実施例17]
(フタロシアニン顔料(P−17)の製造)
反応容器に、ジメチルスルホキシド2000部、実施例6で得られたフタロシアニン顔料(P−5)100部、リン酸ジフェニル18部を加えた。85℃で、3時間反応させた後、水12000部中にこの溶液を注入した。反応生成物をろ過し、水24000部で洗浄後、減圧下60℃にて一昼夜乾燥させて、102部の青色生成物を得た。次いで、乳酸エチル1000部に得られた青色生成物を加え、140℃で2時間加熱した。生成物をろ過し、メタノール1000部で洗浄後、減圧下にて40℃で一昼夜乾燥させて、97部のフタロシアニン顔料(P−17)を得た。得られたフタロシアニン顔料(P−17)について臭素置換数を算出したところ、平均14.1個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は6であった。得られたフタロシアニン顔料(P−17)の体積平均一次粒子径は33nmであった。また、CuKα線によるX線回折パターンを測定したところ、図2に示すようにブラック角2θ=13.9°、23.8°、および27.1°にピークを有していた。
【0089】
[実施例18〜37]
(フタロシアニン顔料(P−18〜37)の製造)
上記フタロシアニン顔料(P−13)の製造において、原料となるフタロシアニン顔料と酸性化合物を表1に記載した条件にそれぞれ変更した以外は、実施例13と同様な操作を行い、それぞれフタロシアニン顔料(P−18〜37)を得た。収量、Xで表されるハロゲン原子の置換数の平均値、ハロゲン分布幅、体積平均一次粒子径については表2の通りであり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【化7】

【0093】
【化8】
【0094】
【化9】
【0095】
【化10】
【0096】
【化11】
【0097】
<参考例>
以下に、本発明のフタロシアニン顔料を産業的に使用する例として、カラーフィルタ用着色組成物における使用を参考例として説明するが、本発明のフタロシアニン顔料を産業的に使用する形態はこれによって限定されるものではない。なお、例中、「部」および「%」は、「質量部」および「質量%」をそれぞれ表す。また、「PGMAC」とはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを意味する。
【0098】
(樹脂の重合平均分子量(Mw))
樹脂の重合平均分子量(Mw)は、TSKgelカラム(東ソー社製)を用い、RI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC−8120GPC)で、展開溶媒にTHFを用いて測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)である。
【0099】
(樹脂の酸価)
樹脂溶液0.5〜1.0部に、アセトン80mlおよび水10mlを加えて攪拌して均一に溶解させ、0.1mol/LのKOH水溶液を滴定液として、自動滴定装置(「COM−555」平沼産業製)を用いて滴定し、樹脂溶液の酸価を測定した。そして、樹脂溶液の酸価と樹脂溶液の固形分濃度から、樹脂の固形分あたりの酸価を算出した。
【0100】
<バインダー樹脂の製造方法>
(アクリル樹脂溶液1の調整)
セパラブル4口フラスコに温度計、冷却管、窒素ガス導入管、撹拌装置を取り付けた反応容器にシクロヘキサノン70.0部を仕込み、80℃に昇温し、反応容器内を窒素置換した後、滴下管よりn−ブチルメタクリレート13.3部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.6部、メタクリル酸4.3部、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレート(東亞合成株式会社製「アロニックスM110」)7.4部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に3時間反応を継続し、重量平均分子量(Mw)26000のアクリル樹脂の溶液を得た。室温まで冷却した後、樹脂溶液約2gをサンプリングして180℃、20分加熱乾燥して不揮発分を測定し、先に合成した樹脂溶液に不揮発分が20質量%になるようにプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートを添加してアクリル樹脂溶液1を調製した。
【0101】
<比較フタロシアニン顔料の製造方法>
本発明の参考例では、実施例1〜37で製造したフタロシアニン顔料に加え、比較例として、以下の製造方法により製造したフタロシアニン顔料を使用した。
【0102】
[比較例1]
フタロシアニン顔料(P−13)の製造において、原料となるフタロシアニン顔料を上記クロロアルミニウムフタロシアニンに、リン酸ジフェニル31部をリン酸ジフェニル52部に変更したした以外は、実施例13と同様な操作を行い、フタロシアニン顔料(P−38)123部を得た。得られたフタロシアニン顔料の体積平均一次粒子径は37nmであった。
【0103】
[比較例2]
反応容器に、4−ブロモフタルイミド100部、尿素132部、モリブデン酸アンモニウム2.4部、硫酸ナトリウム0.8部、1−クロロナフタレン200部を加え撹拌した。150℃まで加熱後、塩化アルミニウム16.6部、尿素21.2部を加え、250℃、7時間、反応させた。これを室温まで冷却後、生成物をろ過し、メタノールで洗浄後、乾燥させた。次いで三角フラスコに、98%硫酸1000部を加えた。そこへ乾燥させた生成物を加え溶解させ、1時間室温で撹拌した。その後、3℃の氷水6000部に硫酸溶注入し、析出した固体をろ取、水洗、乾燥して、臭素原子の置換数の平均値が4、ハロゲン分布幅が1であるフタロシアニン顔料70.4部を得た。次いで、反応容器に、得られたフタロシアニン顔料と1−メチル−2−ピロリジノン1000部、リン酸ジフェニル24部を加えた。85℃で、3時間反応させた後、水8000部中にこの溶液を注入した。反応生成物をろ過し、水16000部で洗浄後、減圧下60℃にて一昼夜乾燥させて、79部のフタロシアニン顔料(P−39)を得た。得られたフタロシアニン顔料(P−39)について臭素置換数を算出したところ、平均4.0個であり、マススペクトラムからも同一の分子量に相当するピークを確認し、目的の化合物であることを同定した。また、ハロゲン分布幅は1であった。得られたフタロシアニン顔料(P−39)の体積平均一次粒子径は53nmであった。
【0104】
[比較例3]
4−ブロモフタルイミドの代わりに4,5−ジブロモフタル酸100部、リン酸ジフェニル24部の代わりにリン酸ジフェニル15部を使用した以外は、比較例2と同様にして、臭素原子の置換数の平均値が8、ハロゲン分布幅が1であるフタロシアニン顔料(P−40)62部を得た。得られたフタロシアニン顔料(P−40)の体積平均一次粒子径は51nmであった。
【0105】
[比較例4]
4−ブロモフタルイミドの代わりに4,5−ジクロロフタル酸100部、リン酸ジフェニル24部の代わりにリン酸ジフェニル22部を使用した以外は、比較例2と同様にして、塩素原子の置換数の平均値が8、塩素分布幅が1であるフタロシアニン顔料(P−41)66部を得た。得られたフタロシアニン顔料(P−41)の体積平均一次粒子径は56nmであった。
【0106】
【化12】
【0107】
<顔料分散体の製造>
上記で作成した顔料について、着色組成物の一態様である顔料分散体を製造した。
(樹脂型分散剤溶液の調製)
市販の樹脂型分散剤であるBASF社製EFKA4300と、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートとを混合して不揮発分40質量%溶液に調製し、樹脂型分散剤溶液1を得た。
【0108】
[参考例1]
(フタロシアニン・顔料分散体(GP−1))
下記の混合物を均一になるように攪拌混合した後、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて、アイガーミル(アイガージャパン社製「ミニモデルM−250 MKII」)で3時間分散した後、孔径5.0μmのフィルタで濾過し、不揮発成分が20質量%の顔料分散体(GP−1)を作製した。

フタロシアニン顔料(P−1) : 11.0部
アクリル樹脂溶液1 : 17.5部
PGMAC : 66.5部
樹脂型分散剤溶液1 : 5.0部
【0109】
[参考例2〜37、比較例1〜4]
(フタロシアニン・顔料分散体(GP−2〜41))
フタロシアニン顔料(P−1)を、フタロシアニン顔料(P−2)〜(P−41)にそれぞれ変更した以外は、参考例1と同様の方法でフタロシアニン・顔料分散体(GP−2〜41)をそれぞれ作製した。
【0110】
<その他顔料分散体の製造方法>
[PY138・顔料分散体(YP−1)の製造]
キノフタロン系黄色顔料C.I.ピグメント イエロー138(BASF社製「Paliotol Yellow L 0962HD」)200部、塩化ナトリウム1400部、およびジエチレングリコール360部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、80℃で6時間混練した。次にこの混練物を8リットルの温水に投入し、80℃に加熱しながら2時間攪拌してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウムおよびジエチレングリコールを除いた後、85℃で一昼夜乾燥し、微細化黄色顔料(PY138−1)を得た。
フタロシアニン顔料(P−1)を(PY138−1)に変更した以外は、参考例1と同様の方法でPY138・顔料分散体(YP−1)を作製した。
【0111】
<顔料分散体の評価>
(塗膜のコントラスト比(CR)評価)
液晶ディスプレー用バックライトユニットから出た光は、偏光板を通過して偏光され、ガラス基板上に塗布された着色組成物の塗膜を通過し、もう一方の偏光板に到達する。この際、偏光板と偏光板の偏光面が並行であれば、光は偏光板を透過するが、偏光面が直交している場合には光は偏光板により遮断される。しかし、偏光板によって偏光された光が着色組成物の塗膜を通過する際に、着色剤粒子によって散乱等が起こり、偏光面の一部にずれが生じると、偏光板が並行のときは透過する光量が減り、偏光板が直交のときは一部光が透過する。この透過光を偏光板上の輝度として測定し、偏光板が並行の際の輝度と、直交の際の輝度との比を、コントラスト比として算出した。

(コントラスト比)=(並行のときの輝度)/(直交のときの輝度)

従って、塗膜中の着色剤により散乱が起こると、並行のときの輝度が低下し、かつ直交のときの輝度が増加するため、コントラスト比が低くなる。
【0112】
なお、輝度計としては色彩輝度計(トプコン社製「BM−5A」)、偏光板としては偏光板(日東電工社製「NPF−G1220DUN」)を用いた。測定に際しては、測定部分に1cm角の孔を開けた黒色マスクを介して測定した。
【0113】
フタロシアニン・顔料分散体(GP−1〜41)をそれぞれ、100mm×100mm、1.1mm厚のガラス基板上に、スピンコーターを用いて塗布し、次に70℃で20分乾燥し、ついで230℃で60分間加熱、放冷することで塗膜基板を作製した。得られた塗布基板のコントラスト比(CR)を測定した。作製した塗膜基板は、230℃での熱処理後で、膜厚が1.5μmとなるよう調整した。
コントラスト比は、下記基準に従って判定した。結果を表3に示す。
◎:9000以上:極めて良好
○:6000以上〜9000未満:良好
△:3000以上〜6000未満:実用可能
×:3000未満:不良
【0114】
(塗膜の耐熱性評価)
フタロシアニン・顔料分散体(GP−1〜41)をそれぞれ、100mm×100mm、1.1mm厚のガラス基板上に、スピンコーターを用いて塗布し、次に70℃で20分乾燥し、ついで230℃で60分間加熱、放冷することで塗膜基板を作製した。作製した塗膜基板は、230℃での熱処理後で、膜厚が1.5μmとなるよう調整した。得られた塗膜の色度を顕微分光光度計(オリンパス光学社製「OSP−SP100」)を用い、[L*(1)、a*(1)、b*(1)]を測定した。さらに250℃で60分間熱処理を行った後の色度[L*(2)、a*(2)、b*(2)]を測定し、下記式(2)により、色差ΔE*ab
を求めた。
式(2)
ΔE*ab=[[L*(2)−L*(1)]2+[a*(2)−a*(1)]2+[b*(2)−b*(1)]2]1/2
【0115】
耐熱性は、下記基準に従って判定した。結果を表3に示す。
◎:ΔE*ab=1以下:極めて良好
○:ΔE*ab=1〜3:良好
△:ΔE*ab=3〜5:実用可能
×:ΔE*ab=5以上:不良
【0116】
(塗膜の耐光性評価)
フタロシアニン・顔料分散体(GP−1〜41)をそれぞれ、100mm×100mm、1.1mm厚のガラス基板上に、スピンコーターを用いて塗布し、次に70℃で20分乾燥し、ついで230℃で60分間加熱、放冷することで塗膜基板を作製した。作製した塗膜基板は、230℃での熱処理後で、膜厚が1.5μmとなるよう調整した。その基板上に紫外線カットフィルター(ホヤ社製「COLORED OPTICAL GLASS
L38」)を貼り、470W/m2のキセノンランプを用いて紫外光を150時間照射した前後の色を測定し、上記式(1)により、色差ΔE*abを求めた。判断基準は、耐熱性評価の時と同様である。結果を表3に示す。
【0117】
【表3】
【0118】
比較例1のように、フタロシアニン環上にハロゲンが置換されていないものはコントラスト比、堅牢性ともに低い結果であった。また、臭素置換数が4、ハロゲン分布幅が1である比較例2では、コントラスト比、耐熱性ともに低く、比較例3、4のようにハロゲン置換数が8であるが、ハロゲン分布幅が1であるものは、コントラスト比が低い傾向であった。本発明の参考例1〜37のハロゲン置換数の平均値が6〜15、ハロゲン分布幅が4以上のフタロシアニン顔料を含む着色組成物では、高コントラスト比かつ堅牢性(耐熱性、耐光性)に優れる結果となった。この結果より、コントラスト比と堅牢性の両立には、ハロゲン置換数が6以上かつ、ハロゲン分布幅が4以上の組み合わせが良好であることがわかる。
【0119】
<感光性着色組成物の作成と評価>
上記顔料分散体を用いて、感光性着色組成物の作成と評価を行った。
【0120】
[参考例38]
(緑色感光性着色組成物(GR−1))
下記組成の混合物を均一になるように撹拌混合した後、孔径1μmのフィルタで濾過して、緑色感光性着色組成物(GR−1)を作製した。

フタロシアニン・顔料分散体(GP−1) : 22.2部
PY138・顔料分散体(YP−1) : 27.8部
アクリル樹脂溶液1 : 7.5部
光重合性単量体(東亞合成社製「アロニックスM−402」) : 2.0部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
光重合開始剤(BASF社製「イルガキュアー907」) : 1.2部
増感剤(保土谷化学工業社製「EAB−F」) : 0.3部
シクロヘキサノン : 39.0部
【0121】
[参考例39〜74、比較例5〜8]
顔料分散体の合計の50部の内訳を、表4に示す種類・質量部にそれぞれ変更した以外は、参考例38と同様にして、それぞれ緑色感光性着色組成物(GR−2〜41)を得た。
【0122】
(明度の評価)
緑色感光性着色組成物(GR−1〜41)を、100mm×100mm、1.1mm厚のガラス基板上に、スピンコーターを用いて塗布し、70℃で20分乾燥後、さらに230℃で60分加熱して得られた基板の色度が、C光源においてx=0.297、y=0.570になるような塗布基板を得た。得られた基板の明度(Y)を顕微分光光度計(オリンパス光学社製「OSP−SP200」)で測定した。評価基準は下記のとおりである。結果を表4に示す。
◎:66.5以上 : 極めて良好
○:65.9以上66.5未満 : 良好
△:65.3以上65.9未満 : 実用可能
×:65.3未満 : 不良
【0123】
(耐溶剤性の評価)
緑色感光性着色組成物(GR−1〜41)をスピンコート法により、予めブラックマトリックスが形成されているガラス基板に塗工した後、クリーンオーブン中で、70℃で20分乾燥させた。次いで、この基板を室温に冷却した後、超高圧水銀ランプを用い、フォトマスクを介して紫外光を露光した。
その後、この基板を23℃の0.2質量%の炭酸ナトリウム水溶液にて30秒間スプレー現像した後、イオン交換水で洗浄し、乾燥した。さらに、クリーンオーブン中で、230℃で30分加熱処理を行い、基板上にストライプ状の着色画素層を形成した。
得られたストライプ状の緑画素について、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)およびメタノール(MeOH)に15分間浸漬し、浸漬前後での緑色画素部分の色差を測定した。色差の測定方法・算出方法・評価基準は、耐熱性・耐光性評価と同様とした。結果を表4に示す。
【0124】
【表4】
【0125】
比較例5のように、ハロゲンが置換されていないものは明度、耐溶剤性ともに低い結果であった。また、臭素置換数が4、ハロゲン分布幅が1である比較例6では、明度とNMPへの溶剤耐性が低く、比較例7、8のようにハロゲン置換数が8であるが、ハロゲン分布幅が1であるものは、明度が低い傾向であった。本発明の参考例38〜74のハロゲン置換数の平均値が6〜15、ハロゲン分布幅が4以上のフタロシアニン顔料を含む着色組成物では、比較例5〜8に比べ明度が高く、かつ耐溶剤性に優れる結果となった。この結果より、明度と耐溶剤性の両立には、ハロゲン置換数が6以上かつ、ハロゲン分布幅が4以上の組み合わせが良好であることがわかる。
図1
図2