(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動力源と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、複数の係合装置を備えると共に当該複数の係合装置の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成される変速装置が設けられた車両用駆動伝達装置を制御対象とする制御装置であって、
変速比の異なる変速段に切り替える変速を行うために係合する前記係合装置である係合側係合装置の係合圧を制御する係合側制御部と、
前記変速のために解放する前記係合装置である解放側係合装置の係合圧を制御する解放側制御部と、
前記変速中に、前記駆動力源の側から前記変速装置の入力軸に伝達される入力トルクを変更させる入力トルク変更部と、を有し、
前記変速中に、前記係合側制御部および前記解放側制御部が前記係合側係合装置および前記解放側係合装置の係合圧を制御することで、前記解放側係合装置の係合部材間の回転速度差を増加させ前記係合側係合装置の係合部材間の回転速度差を減少させる回転変化を行うイナーシャ相制御の実行前における、前記係合側係合装置と前記解放側係合装置のトルク伝達の分担を変化させるトルク相制御中に、前記係合側制御部は、前記係合側係合装置の係合圧を変化させる指令値を、変化開始時の変化率が一定の基準変化率よりも大きい変化率となるように変化させる特定係合圧制御を行い、
前記変速中に、前記入力トルクを前記変速の終了後の前記入力トルクまで変化させる期間を入力トルク変化期間として、
前記基準変化率は、前記係合側係合装置と前記解放側係合装置のトルク伝達の分担を変化させた後の前記係合側係合装置の係合圧と当該トルク伝達の分担を変化させる前の前記係合側係合装置の係合圧との偏差を、前記入力トルク変化期間よりも短い期間に設定された係合圧変化期間で除算した値となるように設定された変化率であり、
前記特定係合圧制御では、前記係合側制御部は、前記指令値を、変化開始時から時間経過に従って変化率が次第に小さくなるように変化させる車両用駆動伝達装置の制御装置。
前記車輪に伝達することが要求されるトルクである車輪要求トルクが一定又は増加している状態で、より変速比の低い変速段に切り替える前記変速であるパワーオンアップシフトを行う場合に、前記入力トルク変更部は、前記入力トルクを増加させる方向に変更させ、前記係合側制御部は、前記特定係合圧制御を行う請求項1又は2に記載の車両用駆動伝達装置の制御装置。
前記トルク伝達の分担の変化中における、前記車輪に伝達することが要求されるトルクである車輪要求トルクに対する、前記車輪に伝達されるトルクである出力トルクの落ち込みが、設定量以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置の制御装置。
前記係合側制御部は、前記特定係合圧制御において、前記変速の終了後の前記入力トルクに相当するトルクを前記車輪側に伝達できる係合圧まで前記係合側係合装置の係合圧を変化させる請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置の制御装置。
前記係合側制御部は、前記特定係合圧制御において前記係合側係合装置の係合圧を変化させる指令値を、前記入力トルク変更部による前記入力トルクの変更よりも位相を進めて変化させる請求項1から5のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置の制御装置。
前記入力トルク変更部は、前記入力軸の回転速度の変化中に、前記入力トルクを前記変速の終了後の前記入力トルクに相当するトルクまで変化させる請求項1から7のいずれか一項に記載の車両用駆動伝達装置の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.第1の実施形態
本実施形態に係る車両用駆動伝達装置1の制御装置30(以下、単に制御装置30と称す)について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る車両用駆動伝達装置1及び制御装置30の概略構成を示す模式図である。この図において、実線は駆動力の伝達経路を示し、破線は作動油の供給経路を示し、一点鎖線は信号の伝達経路を示している。車両用駆動伝達装置1には、駆動力源3と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路2に、変速装置TMが備えられている。変速装置TMは、複数の係合装置C1、B1、・・を備えると共に、当該複数の係合装置C1、B1、・・の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成される。
【0010】
本実施形態では、駆動力源3として内燃機関ENGと回転電機MGとが備えられている。そして、内燃機関ENGと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路2に、内燃機関ENGの側から、回転電機MG、変速装置TM、車輪Wの順に設けられている。ここでは、変速装置TMの入力軸Iに回転電機MGが駆動連結され、入力軸Iに第一係合装置SSCを介して内燃機関ENGが駆動連結されている。このように、本実施形態では、内燃機関ENGと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路2に、内燃機関ENGの側から順に、第一係合装置SSC、回転電機MG、及び変速装置TMが設けられている。
【0011】
なお、本願において、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等が含まれていてもよい。
【0012】
ハイブリッド車両には、車両用駆動伝達装置1を制御対象とする制御装置30が備えられている。本実施形態に係わる制御装置30は、回転電機MGの制御を行う回転電機制御ユニット32と、変速装置TM及び第一係合装置SSCの制御を行う動力伝達制御ユニット33と、これらの制御装置を統合して車両用駆動伝達装置1の制御を行う車両制御ユニット34と、を有している。また、ハイブリッド車両には、内燃機関ENGの制御を行う内燃機関制御装置31も備えられている。
【0013】
制御装置30は、
図2に示すように、変速制御部43などの機能部を備えている。変速制御部43は、係合側制御部46、解放側制御部47、及び入力トルク変更部48を有している。係合側制御部46は、変速比の異なる変速段に切り替える変速を行うために係合する係合装置である係合側係合装置の係合圧を制御する。解放側制御部47は、変速のために解放する係合装置である解放側係合装置の係合圧を制御する。入力トルク変更部48は、変速中に、駆動力源3の側から変速装置の入力軸Iに伝達される入力トルクを変更させる。そして、変速中に、係合側制御部46および解放側制御部47が係合側係合装置および解放側係合装置の係合圧を制御することで、係合側係合装置と解放側係合装置のトルク伝達の分担を変化させる際に、係合側制御部46は、係合側係合装置の係合圧を、一定の変化率又は当該一定の変化率よりも変化開始時の変化率が大きい変化率で変化させる特定係合圧制御を行う(
図6参照)。
以下、本実施形態に係る車両用駆動伝達装置1及び制御装置30について、詳細に説明する。
【0014】
1−1.車両用駆動伝達装置1の構成
まず、本実施形態に係るハイブリッド車両の車両用駆動伝達装置1の構成について説明する。
図1に示すように、ハイブリッド車両は、車両の駆動力源3として内燃機関ENG及び回転電機MGを備え、これらの内燃機関ENGと回転電機MGとが直列に駆動連結されるパラレル方式のハイブリッド車両となっている。ハイブリッド車両は、変速装置TMを備えており、当該変速装置TMにより、入力軸Iに伝達された内燃機関ENG及び回転電機MGの回転速度を変速すると共にトルクを変換して出力軸Oに伝達する。
【0015】
内燃機関ENGは、燃料の燃焼により駆動される熱機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種内燃機関を用いることができる。本例では、内燃機関ENGのクランクシャフト等の機関出力軸Eoが、第一係合装置SSCを介して、回転電機MGに駆動連結された入力軸Iと選択的に駆動連結される。すなわち、内燃機関ENGは、摩擦係合装置である第一係合装置SSCを介して回転電機MGに選択的に駆動連結される。また、機関出力軸Eoには、図示しないダンパが備えられており、内燃機関ENGの間欠的な燃焼による出力トルク及び回転速度の変動を減衰して、車輪W側に伝達可能に構成されている。
【0016】
回転電機MGは、車両用駆動伝達装置1を収容するケースCSに固定されたステータStと、このステータと対応する位置で径方向内側に回転自在に支持されたロータRoと、を有している(
図3参照)。この回転電機MGのロータRoは、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。回転電機MGは、直流交流変換を行うインバータを介して蓄電装置としてのバッテリに電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。すなわち、回転電機MGは、インバータを介してバッテリからの電力供給を受けて力行し、或いは内燃機関ENGや車輪Wから伝達される回転駆動力により発電し、発電された電力は、インバータを介してバッテリに蓄電される。
【0017】
駆動力源3が駆動連結される入力軸Iには、変速装置TMが駆動連結されている。本実施形態では、変速装置TMは、変速比(ギヤ比)の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速装置である。変速装置TMは、これら複数の変速段を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構と複数の係合装置C1、B1・・・とを備えている。変速装置TMは、各変速段の変速比で、入力軸Iの回転速度を変速するとともにトルクを変換して、出力軸Oへ伝達する。変速装置TMから出力軸Oへ伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置DFを介して左右二つの車軸AXに分配されて伝達され、各車軸AXに駆動連結された車輪Wに伝達される。ここで、変速比(ギヤ比)は、変速装置TMにおいて各変速段が形成された場合の、出力軸Oの回転速度に対する入力軸Iの回転速度の比であり、本願では入力軸Iの回転速度を出力軸Oの回転速度で除算した値である。すなわち、入力軸Iの回転速度を変速比で除算した回転速度が、出力軸Oの回転速度になる。また、入力軸Iから変速装置TMに伝達されるトルクに、変速比を乗算したトルクが、変速装置TMから出力軸Oに伝達されるトルクになる。
【0018】
本実施形態では、
図4の作動表に示すように、変速装置TMは変速比(減速比)の異なる6つの変速段(第一段1st、第二段2nd、第三段3rd、第四段4th、第五段5th、及び第六段6th)を前進段として備えている。これらの変速段を構成するため、変速装置TMは、第一遊星歯車機構PG1及び第二遊星歯車機構PG2を備えてなる歯車機構と、6つの係合装置C1、C2、C3、B1、B2、OWCと、を備えて構成されている。ワンウェイクラッチOWCを除くこれら複数の係合装置C1、B1・・・の係合及び解放を制御して、第一遊星歯車機構PG1及び第二遊星歯車機構PG2の各回転要素の回転状態を切り替え、複数の係合装置C1、B1・・・を選択的に係合することにより、6つの変速段が切り替えられる。なお、変速装置TMは、上記6つの変速段のほかに、一段の後進段Revも備えている。
【0019】
図4において、「○」は各係合装置が係合状態にあることを示しており、「無印」は、各係合装置が解放状態にあることを示している。「(○)」は、エンジンブレーキを行う場合などにおいて、係合装置が係合した状態にされることを示している。また、「△」は、一方向に回転する場合には解放した状態となり、他方向に回転する場合には係合した状態となることを示している。
【0020】
第一段(1st)は、第一クラッチC1及びワンウェイクラッチOWCが係合されて形成される。エンジンブレーキを行うときなどは、第一段は、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が係合されて形成される。第二段(2nd)は、第一クラッチC1及び第一ブレーキB1が係合されて形成される。第三段(3rd)は、第一クラッチC1及び第三クラッチC3が係合されて形成される。第四段(4th)は、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合されて形成される。第五段(5th)は、第二クラッチC2及び第三クラッチC3が係合されて形成される。第六段(6th)は、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1が係合されて形成される。後進段(Rev)は、第三クラッチC3及び第二ブレーキB2が係合されて形成される。これらの各変速段は、入力軸I(内燃機関ENG)と出力軸Oとの間の変速比(減速比)が大きい順に、第一段、第二段、第三段、第四段、第五段、及び第六段となっている。
【0021】
第一遊星歯車機構PG1は、
図3に示すように、複数のピニオンギヤP1を支持するキャリアCA1と、ピニオンギヤP1にそれぞれ噛み合うサンギヤS1及びリングギヤR1と、の三つの回転要素を有したシングルピニオン型の遊星歯車機構とされている。第二遊星歯車機構PG2は、第一サンギヤS2及び第二サンギヤS3の二つのサンギヤと、リングギヤR2と、第一サンギヤS2及びリングギヤR2の双方に噛み合うロングピニオンギヤP2並びにこのロングピニオンギヤP2及び第二サンギヤS3に噛み合うショートピニオンギヤP3を支持する共通のキャリアCA2と、の四つの回転要素を有したラビニヨ型の遊星歯車機構とされている。
【0022】
第一遊星歯車機構PG1のサンギヤS1は、非回転部材としてのケースCSに固定されている。キャリアCA1は、第三クラッチC3により第二遊星歯車機構PG2の第二サンギヤS3と選択的に一体回転するように駆動連結されるとともに、第一クラッチC1により第二遊星歯車機構PG2の第一サンギヤS2と選択的に一体回転するように駆動連結され、第一ブレーキB1によりケースCSに選択的に固定される。リングギヤR1は、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。
【0023】
第二遊星歯車機構PG2の第一サンギヤS2は、第一クラッチC1により第一遊星歯車機構PG1のキャリアCA1と選択的に一体回転するように駆動連結される。キャリアCA2は、第二クラッチC2により入力軸Iと選択的に一体回転するように駆動連結されるとともに、第二ブレーキB2又はワンウェイクラッチOWCにより非回転部材としてのケースCSに選択的に固定される。ワンウェイクラッチOWCは、一方向の回転のみを阻止することによりキャリアCA2を選択的にケースCSに固定する。リングギヤR2は、出力軸Oと一体回転するように駆動連結されている。第二サンギヤS3は、第三クラッチC3により第一遊星歯車機構PG1のキャリアCA1と選択的に一体回転するように駆動連結されるとともに、第一ブレーキB1によりケースCSに選択的に固定される。
【0024】
本実施形態では、変速装置TMが有するワンウェイクラッチOWCを除く複数の係合装置C1、C2、C3、B1、B2は、いずれも摩擦係合装置とされている。具体的には、これらは油圧により動作する多板式クラッチや多板式ブレーキにより構成されている。これらの係合装置C1、C2、C3、B1、B2は、油圧制御装置PCから供給される油圧により、係合の状態が制御される。なお、第一係合装置SSCも摩擦係合装置である。
【0025】
摩擦係合装置は、その係合部材間の摩擦により、係合部材間でトルクを伝達する。摩擦係合装置の係合部材間に回転速度差(滑り)がある場合は、動摩擦により回転速度の大きい方の部材から小さい方の部材に伝達トルク容量の大きさのトルク(スリップトルク)が伝達される。摩擦係合装置の係合部材間に回転速度差(滑り)がない場合は、摩擦係合装置は、伝達トルク容量の大きさを上限として、静摩擦により摩擦係合装置の係合部材間に作用するトルクを伝達する。ここで、伝達トルク容量とは、摩擦係合装置が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさである。伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合装置の係合圧に比例して変化する。係合圧とは、入力側係合部材(摩擦板)と出力側係合部材(摩擦板)とを相互に押し付け合う圧力(又は力)である。本実施形態では、係合圧は、供給されている油圧の大きさに比例して変化する。すなわち、本実施形態では、伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合装置に供給されている油圧の大きさに比例して変化する。
【0026】
各摩擦係合装置は、リターンばねを備えており、ばねの反力により解放側に付勢されている。そして、各摩擦係合装置の油圧シリンダに供給される油圧により生じる力がばねの反力を上回ると、各摩擦係合装置に伝達トルク容量が生じ始め、各摩擦係合装置は、解放状態から係合状態に変化する。この伝達トルク容量が生じ始めるときの油圧を、ストロークエンド圧と称す。各摩擦係合装置は、供給される油圧がストロークエンド圧を上回った後、油圧の増加に比例して、その伝達トルク容量が増加するように構成されている。なお、摩擦係合装置は、リターンばねを備えておらず、油圧シリンダのピストンの両側にかかる油圧の差圧によって制御させる構造でもよい。
【0027】
本実施形態において、係合状態とは、係合装置に伝達トルク容量が生じている状態であり滑り係合状態と直結係合状態とが含まれる。解放状態とは、係合装置に伝達トルク容量が生じていない状態である。また、滑り係合状態とは、係合装置の係合部材間に回転速度差(滑り)がある係合状態であり、直結係合状態とは、係合装置の係合部材間に回転速度差(滑り)がない係合状態である。また、非直結係合状態とは、直結係合状態以外の係合状態であり、解放状態と滑り係合状態とが含まれる。
【0028】
なお、摩擦係合装置には、制御装置30により伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合でも、係合部材(摩擦部材)同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じる場合がある。例えば、ピストンにより摩擦部材同士が押圧されていない場合でも、摩擦部材同士が接触し、摩擦部材同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じる場合がある。そこで、「解放状態」には、制御装置30が摩擦係合装置に伝達トルク容量を生じさせる指令を出していない場合に、摩擦部材同士の引き摺りにより、伝達トルク容量が生じている状態も含まれるものとする。
【0029】
1−2.油圧制御系の構成
車両用駆動伝達装置1の油圧制御系は、車両の駆動力源3や専用のモータによって駆動される油圧ポンプから供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置PCを備えている。油圧制御装置PCは、各係合装置C1、B1・・・、SSCなどに対して供給される油圧を調整するための複数のリニアソレノイド弁などの油圧制御弁を備えている。油圧制御弁は、制御装置30から供給される油圧指令の信号値に応じて弁の開度を調整することにより、当該信号値に応じた油圧の作動油を各係合装置C1、B1・・・、SSCなどに供給する。制御装置30から各リニアソレノイド弁に供給される信号値は電流値とされている。そして、各リニアソレノイド弁から出力される油圧は、基本的に制御装置30から供給される電流値に比例する。
【0030】
油圧制御装置PCは、油圧調整用のリニアソレノイド弁から出力される油圧(信号圧)に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、変速装置TMが有する複数の係合装置C1、B1・・・及び第一係合装置SSC等に供給される。
【0031】
1−3.制御装置の構成
次に、車両用駆動伝達装置1の制御を行う制御装置30及び内燃機関制御装置31の構成について、
図2を参照して説明する。制御装置30の制御ユニット32〜34及び内燃機関制御装置31は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、制御装置のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置30の各機能部41〜45などが構成されている。また、制御装置30の制御ユニット32〜34及び内燃機関制御装置31は、互いに通信を行うように構成されており、センサの検出情報及び制御パラメータ等の各種情報を共有するとともに協調制御を行い、各機能部41〜45の機能が実現される。
【0032】
また、車両用駆動伝達装置1は、センサSe1〜Se5などのセンサを備えており、各センサから出力される電気信号は制御装置30及び内燃機関制御装置31に入力される。制御装置30及び内燃機関制御装置31は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。
【0033】
入力回転速度センサSe1は、入力軸Iの回転速度を検出するためのセンサである。入力軸Iには回転電機MGのロータRoが一体的に駆動連結されているので、制御装置30は、入力回転速度センサSe1の入力信号に基づいて回転電機MGの回転速度(角速度)、並びに入力軸Iの回転速度を検出する。出力回転速度センサSe2は、出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて出力軸Oの回転速度(角速度)を検出する。また、出力軸Oの回転速度は車速に比例するため、制御装置30は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて車速を算出する。機関回転速度センサSe3は、機関出力軸Eo(内燃機関ENG)の回転速度を検出するためのセンサである。内燃機関制御装置31は、機関回転速度センサSe3の入力信号に基づいて内燃機関ENGの回転速度(角速度)を検出する。
【0034】
シフト位置センサSe4は、運転者により操作されるシフトレバーの選択位置(シフト位置)を検出するためのセンサである。制御装置30は、シフト位置センサSe4の入力信号に基づいてシフト位置を検出する。シフトレバーは、パーキングレンジ(Pレンジ)、後進走行レンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、前進走行レンジ(Dレンジ)などに選択可能とされている。また、シフトレバーは、Dレンジの一種として、形成する前進変速段の範囲を制限する「2レンジ」や「Lレンジ」などの変速段制限レンジが選択可能に構成されている。また、シフトレバーは、Dレンジを選択しているときに、変速装置TMに対してアップシフトを要求する「アップシフト要求スイッチ」やダウンシフトを要求する「ダウンシフト要求スイッチ」を操作可能に構成されている。アクセル開度センサSe5は、アクセルペダルの操作量を検出するためのセンサである。制御装置30は、アクセル開度センサSe5の入力信号に基づいてアクセル開度を検出する。
【0035】
1−3−1.車両制御ユニット34
車両制御ユニット34は、統合制御部45を備えている。統合制御部45は、内燃機関ENG、回転電機MG、変速装置TM、及び第一係合装置SSC等に対して行われる各種トルク制御、及び各係合装置の係合制御等を車両全体として統合する制御を行う。統合制御部45は、アクセル開度、車速、及びバッテリの充電量等に応じて、車輪Wに伝達することが要求されるトルクである車輪要求トルクを算出するとともに、内燃機関ENG及び回転電機MGの運転モードを決定する。ここで、車輪要求トルクは、車輪Wの駆動のために車両用駆動伝達装置1を介して車輪に伝達することが要求されているトルクであって、車両のアクセル開度等の運転者の操作に基づいて決定される。なお、車輪要求トルクが、これ以外に、車両側からの指令、例えば、車両の姿勢制御装置等の車両運動制御部からの指令にも基づいて決定されてもよい。本実施形態では、車輪要求トルクは、変速終了後の入力トルクである変速後入力トルクに対応する出力トルクである変速後出力トルクに合致する。また、本実施形態では、制御装置30は、運転モードとして、回転電機MGのみを駆動力源3として動作させて走行する電動モードと、少なくとも内燃機関ENGを駆動力源3として走行するパラレルモードと、を有する。例えば、アクセル開度が小さく、バッテリの充電量が大きい場合に、運転モードとして電動モードが決定され、それ以外の場合、すなわちアクセル開度が大きい、もしくはバッテリの充電量が小さい場合に、運転モードとしてパラレルモードが決定される。
【0036】
そして、統合制御部45は、車輪要求トルク、運転モード、及びバッテリの充電量等に基づいて、内燃機関ENGに対して要求する出力トルクである内燃機関要求トルク、回転電機MGに対して要求する出力トルクである回転電機要求トルク、第一係合装置SSCに供給する油圧の目標である油圧指令、及び変速装置TMの各係合装置C1、B1・・・に供給する油圧の目標である油圧指令を算出し、それらを他の制御ユニット32、33及び内燃機関制御装置31に指令して統合制御を行う。なお、基本的に、内燃機関要求トルクと回転電機要求トルクの合計が、車輪要求トルクに一致するように設定される。
【0037】
1−3−2.内燃機関制御装置31
内燃機関制御装置31は、内燃機関ENGの動作制御を行う内燃機関制御部41を備えている。本実施形態では、内燃機関制御部41は、統合制御部45又は変速制御部43から内燃機関要求トルクが指令されている場合は、内燃機関ENGが内燃機関要求トルクを出力するように制御するトルク制御を行う。
【0038】
1−3−3.回転電機制御ユニット32
回転電機制御ユニット32は、回転電機MGの動作制御を行う回転電機制御部42を備えている。本実施形態では、回転電機制御部42は、統合制御部45又は変速制御部43から回転電機要求トルクが指令されている場合は、回転電機MGが回転電機要求トルクを出力するように制御する。具体的には、回転電機制御部42は、インバータが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御することにより、回転電機MGの出力トルクを制御する。
【0039】
1−3−4.動力伝達制御ユニット33
動力伝達制御ユニット33は、変速装置TMの制御を行う変速制御部43と、第一係合装置SSCの制御を行う第一係合制御部44と、を備えている。
【0040】
1−3−5.第一係合制御部44
第一係合制御部44は、第一係合装置SSCの係合状態を制御する。本実施形態では、第一係合制御部44は、第一係合装置SSCに供給される油圧が、統合制御部45又は変速制御部43から指令された第一係合装置SSCの油圧指令に一致するように、油圧制御装置PCに備えられた各リニアソレノイド弁に供給される信号値を制御する。
【0041】
1−3−6.変速制御部43
変速制御部43は、複数の係合装置C1、B1、・・の係合及び解放を制御して、変速装置TMに形成する変速段を切り替える変速制御を行う。本実施形態では、変速制御部43は、車速、アクセル開度、及びシフト位置などのセンサ検出情報に基づいて変速装置TMに形成させる目標変速段を決定する。そして、変速制御部43は、油圧制御装置PCを介して変速装置TMに備えられた複数の係合装置C1、B1・・・に供給される油圧を制御することにより、各係合装置C1、B1・・・を係合又は解放して目標とされた変速段を変速装置TMに形成させる。具体的には、変速制御部43は、油圧制御装置PCに各係合装置の油圧指令(目標油圧)を伝達し、油圧制御装置PCは、伝達された油圧指令に応じた油圧を各係合装置に供給する。本実施形態では、変速制御部43は、油圧制御装置PCが備えた各リニアソレノイド弁に供給される信号値を制御することにより、各係合装置に供給される油圧を制御するように構成されている。
【0042】
本実施形態では、変速制御部43は、不図示のメモリに格納された変速マップを参照し、目標変速段を決定する。変速マップは、アクセル開度及び車速と、変速装置TMにおける目標変速段との関係を規定したマップである。変速マップには複数のアップシフト線と複数のダウンシフト線とが設定されており、車速及びアクセル開度が変化して変速マップ上でアップシフト線又はダウンシフト線を跨ぐと、変速制御部43は、変速装置TMにおける新たな目標変速段を決定して変速段を変更すると判定する。また、変速制御部43は、運転者によるシフトレバーの選択位置(シフト位置)の変更により、アップシフト要求又はダウンシフト要求があった場合に、目標変速段を変更する場合がある。なお、ダウンシフトとは変速比の小さい変速段から変速比の大きい変速段への変更を意味し、アップシフトとは変速比の大きい変速段から変速比の小さい変速段への変更を意味する。
【0043】
変速制御部43は、変速段を切り替える変速制御を行なう場合は、各係合装置C1、B1・・・の油圧指令を制御して、各係合装置C1、B1・・・の係合又は解放を行い、変速装置TMに形成させる変速段を目標変速段に切り替える。この際、変速制御部43は、変速のために解放される係合装置である解放側係合装置、及び変速のために係合される係合装置である係合側係合装置を設定する。そして、変速制御部43は、予め計画された変速制御のシーケンスに従い、解放側係合装置を解放させると共に係合側係合装置を係合させる、いわゆるつなぎ替え変速を行う。
【0044】
具体的には、変速制御部43は、変速前の変速段を形成する複数の係合装置の内、変速後の変速段を形成する複数の係合装置との間で共通していない係合装置を解放側係合装置に設定する。変速制御部43は、変速後の変速段を形成する複数の係合装置の内、変速前の変速段を形成する複数の係合装置との間で共通していない係合装置を係合側係合装置に設定する。例えば、変速前の変速段が第二段2ndで、変速後の変速段が第三段3rdである場合は、
図4に示すように、第一ブレーキB1が解放側係合装置に設定され、第三クラッチC3が係合側係合装置に設定される。また、係合側係合装置は、変速制御の開始前は解放され、変速制御により係合される係合装置である。解放側係合装置は、変速制御の開始前は係合され、変速制御により解放される係合装置である。
【0045】
なお、変速制御中は、変速制御部43は、統合制御部45に代わって、内燃機関ENGに対して要求する内燃機関要求トルク、回転電機MGに対して要求する回転電機要求トルク、及び変速装置TMの各係合装置C1、B1・・・に供給する油圧の目標である油圧指令を算出し、それらを他の制御ユニット32、33及び内燃機関制御装置31に指令して統合制御を行う。
【0046】
1−3−7.特定係合圧制御
変速制御部43は、上記したように、係合側制御部46、解放側制御部47、及び入力トルク変更部48を有している。係合側制御部46は、変速比の異なる変速段に切り替える変速を行うために係合する係合装置である係合側係合装置の係合圧を制御する。解放側制御部47は、変速のために解放する係合装置である解放側係合装置の係合圧を制御する。入力トルク変更部48は、変速中に、駆動力源3の側から変速装置の入力軸Iに伝達される入力トルクを変更させる。そして、変速中に、係合側制御部46および解放側制御部47が係合側係合装置および解放側係合装置の係合圧を制御することで、係合側係合装置と解放側係合装置のトルク伝達の分担を変化させる際に、係合側制御部46は、係合側係合装置の係合圧を、一定の変化率又は変化開始時の変化率が当該一定の変化率よりも大きい変化率で変化させる特定係合圧制御を行う(
図6参照)。本実施形態では、係合側制御部46は、この特定係合圧制御において、変速の終了後の入力トルクに相当するトルクを車輪W側に伝達できる係合圧まで係合側係合装置の係合圧を変化させる前倒し係合圧変化制御を行う。以下の説明では、係合側制御部46、解放側制御部47、及び入力トルク変更部48を、変速制御部43にまとめて説明する場合がある。
【0047】
なお、係合装置の係合圧は、上記したように、入力側係合部材と出力側係合部材とを相互に押し付け合う圧力(又は力)であり、係合装置の伝達トルク容量の大きさは、係合圧に比例して変化する。本実施形態では、係合装置の係合圧(伝達トルク容量)は、係合装置に供給されている油圧の大きさに比例して変化する。
【0048】
本実施形態では、変速制御部43は、係合側係合装置の係合圧を増加させると共に解放側係合装置の係合圧を減少させる制御(以下、トルク相制御と称す)を行うことで、係合側係合装置と解放側係合装置のトルク伝達の分担を変化させるように構成されている。すなわち、トルク相制御において、係合側係合装置の係合圧を増加させると、係合側係合装置を伝達する伝達トルクが増加し、解放側係合装置の係合圧を減少させると、解放側係合装置を伝達する伝達トルクが減少し、係合側係合装置と解放側係合装置のトルク伝達の分担が変化する。
【0049】
また、変速制御部43は、解放側係合装置の係合部材間の回転速度差ΔW1を増加させ係合側係合装置の係合部材間の回転速度差ΔW2を減少させる回転変化を行う制御(以下、イナーシャ相制御と称す)を行うことで、入力軸Iの回転変化を行うように構成されている。本実施形態では、変速制御部43は、車輪要求トルクが一定又は増加している状態で、より変速比の低い変速段に切り替える変速であるパワーオンアップシフトを行う場合に、係合側制御部46、解放側制御部47、及び入力トルク変更部48による変速(入力トルク変更制御及び特定係合圧制御)を行うように構成されている。すなわち、パワーオンアップシフトを行う場合に、入力トルク変更部48は、入力トルクを増加させる方向に変更させ、係合側制御部46は、特定係合圧制御を行う。この特定係合圧制御によれば、出力トルクの変動を抑制してスムーズな変速を行わせることができる。そこで、一般的に、車両の運転者は、振動やショックの少ないスムーズな走行を求めると考えられる電動モード(回転電機MGのみを駆動力源3として動作させて走行するモード)において、特定係合圧制御を実行すると好適である。
【0050】
トルク伝達の分担の変化は、入力軸Iの回転変化が生じる前に開始されるように構成されている。すなわち、変速制御部43は、トルク伝達の分担の変化(トルク相制御)の開始後、入力軸Iの回転変化を生じさせる(イナーシャ相制御を行う)ように構成されている。
【0051】
トルク相制御が行われると、トルク伝達の関係は、変速前の変速段から変速後の変速段の状態に移行される。すなわち、トルク相制御の実行前は、入力トルクに変速前の変速段の変速比(ギヤ比)を乗算したトルクが出力軸Oに伝達されるが、トルク相制御の実行後は、入力トルクに変速後の変速段の変速比(ギヤ比)を乗算したトルクが出力軸Oに伝達されるようになる。そのため、変速比が減少するアップシフトの場合は、トルク相制御が行われると、入力軸Iに伝達される同じ入力トルクに対して出力軸Oに伝達されるトルクが減少する。トルク相制御中は、係合側係合装置の係合圧の増加、及び解放側係合装置の係合圧の低下に従って、トルク伝達の関係が変速前の変速段から変速後の変速段の状態に次第に移行していく。このような、トルク相制御における変速比(ギヤ比)の変化を、トルク変換比の変化とも称す。
【0052】
トルク相制御が行われると、解放側係合装置は解放状態にされ、係合側係合装置は滑り係合状態にされる。そのため、駆動力源3から入力軸Iに伝達される入力トルクの内、滑り係合状態の係合側係合装置を介して、入力軸Iから出力軸O側に伝達される伝達トルクは、滑り係合状態の係合側係合装置の伝達トルク容量に応じたトルクになる。そのため、トルク相制御が行われると、出力軸Oに伝達されるトルクは、係合側係合装置の係合圧に応じて変化する。また、トルク相制御中において、解放側係合装置が直結係合状態のままである間は、入力トルクの内、係合側係合装置を介して伝達されるトルクを除いたトルクが、解放側係合装置を介して、入力軸Iから出力軸O側に伝達される。
【0053】
イナーシャ相制御が行われると、回転速度の関係も、変速前の変速段から変速後の変速段の状態に移行される。すなわち、イナーシャ相制御の実行前は、入力軸Iの回転速度を変速前の変速段の変速比(ギヤ比)で除算した回転速度が出力軸Oの回転速度になるが、イナーシャ相制御の実行後は、入力軸Iの回転速度を変速後の変速段の変速比(ギヤ比)で除算した回転速度が出力軸Oの回転速度になる。そのため、変速比が減少するアップシフトの場合は、イナーシャ相制御が行われると、同じ出力軸Oの回転速度に対して入力軸Iの回転速度が減少する。イナーシャ相制御中は、解放側係合装置の回転速度差ΔW1の増加、係合側係合装置の回転速度差ΔW2の減少に従って、回転速度の関係が変速前の変速段から変速後の変速段の状態に次第に移行していく。
【0054】
変速制御部43(入力トルク変更部48)は、変速中に、駆動力源3の側から変速装置TMの入力軸Iに伝達される入力トルクを変更させる。以下、当該入力トルクの変更を入力トルク変更制御と称す。変速制御部43は、トルク伝達の分担を変化させる際に(トルク相制御において)、係合側係合装置の係合圧を、一定の変化率又は変化開始時の変化率が当該一定の変化率よりも大きい変化率で変化させる特定係合圧制御を行う(
図6参照)。更に本実施形態では、係合側制御部46は、この特定係合圧制御において、係合側係合装置の係合圧を、変速の終了後の入力トルクに相当するトルク(以下、変速後入力トルクとも称す)を車輪W側に伝達できる係合圧(以下、変化係合圧とも称す)まで変化(本例では増加)させる前倒し係合圧変化制御を行う。
【0055】
本実施形態では、変速制御部43は、特定係合圧制御(前倒し係合圧変化制御)において、係合側係合装置の係合圧を変化させる指令値(本例では油圧指令)を、入力トルク変更制御(入力トルク変更部48)による入力トルクの変更よりも位相を進めて変化(本例では増加)させるように構成されている。本実施形態では、変速制御部43は、パワーオンアップシフトを行う場合に、係合側制御部46、解放側制御部47、及び入力トルク変更部48による変速(入力トルク変更制御及び特定係合圧制御)を行い、入力トルク変更部48は、入力トルク変更制御において、入力トルクを増加させる方向に変更させるように構成されている。なお、入力トルク変更部48による入力トルクの変更は、駆動力源3としての内燃機関ENG及び回転電機MGの双方の出力トルクを変更することにより行っても良いが、内燃機関ENG及び回転電機MGのいずれか一方のみの出力トルクを変更することにより行っても良い。例えば、入力トルク変更部48による入力トルクの変更を、内燃機関ENGよりも応答性が高い回転電機MGの出力トルクを変更することにより行う構成としても好適である。
【0056】
本実施形態では、変速制御部43は、変速による変速比の変化に起因する、変速装置TMから出力軸Oを介して車輪Wに伝達される出力トルクの変化が減少するように、入力トルクを変更させるように構成されている。例えば、アップシフトの場合は、変速により変速比が減少するため、入力トルクを増加させなければ、出力トルクが減少する。そのため、変速制御部43は、アップシフトの場合は、出力トルクの変動が減少するように、変速中に、入力トルクを増加させる。一方、ダウンシフトの場合は、変速により変速比が増加するため、入力トルクを減少させなければ、出力トルクが増加する。そのため、変速制御部43は、ダウンシフトの場合は、出力トルクの変動が減少するように、変速中に、入力トルクを減少させる。本実施形態では、変速制御部43は、変速の前後で、出力トルクが変動しないように、変速中に、入力トルクを増加又は減少させるように構成されている。変速制御部43は、変速後の入力トルクTinafが、式(1)に示すように、変速の開始前の入力トルクTinbf(以下、変速前入力トルクとも称す)に、変速後の変速比Kafに対する変速前の変速比Kbfの比を乗算したトルクになるように、変速中に、入力トルクを変更させる。
Tinaf=Tinbf×Kbf/Kaf ・・・(1)
【0057】
上記のように、トルク相制御において、解放側係合装置の係合圧を減少させ、係合側係合装置の係合圧を増加させると、入力軸Iに伝達される入力トルクの内、滑り係合状態の係合側係合装置を介して、入力軸Iから出力軸O側に伝達される伝達トルクは、係合側係合装置の伝達トルク容量に応じたトルクになる。トルク相制御において前倒し係合圧変化制御が行われると、滑り係合状態の係合側係合装置を介して入力軸I側から出力軸Oに伝達される出力トルクが、変速の終了後の入力トルクに相当する変速後入力トルクまで増加されるので、トルク相制御中(トルク伝達分担の変化中)から、変速の終了後の入力トルクに相当する変速後入力トルクを出力軸Oに伝達可能になる。そのため、変速中の出力トルクの変動を抑制することができる。
【0058】
また、トルク相制御において特定係合圧制御(前倒し係合圧変化制御)が行われても、駆動力源3から入力軸Iに伝達される入力トルクが同じままであると、係合側係合装置の係合圧が変化係合圧まで増加されるまでの間、解放される前の直結係合状態の解放側係合装置及び滑り係合状態の係合側係合装置を介して入力軸Iから出力軸O側に伝達されるトルクが、車輪Wに伝達することが要求されるトルクである車輪要求トルクから変動する。
更には、滑り係合状態の係合側係合装置及び直結係合状態の解放側係合装置を介して入力軸Iから出力軸O側に伝達されるトルクに対して、駆動力源3から入力軸Iに伝達される入力トルクが不足又は過剰になって入力軸Iの回転速度が変動する。ここで、車輪要求トルクは、変速終了後の入力トルクである変速後入力トルクに対応する、変速の終了後の出力トルク(変速後出力トルク)に合致している。
【0059】
そこで、変速制御部43(入力トルク変更部48)は、入力トルク変更制御において、トルク相制御中(トルク伝達の分担が変化している間)に、入力トルクを変速の終了後の入力トルクに相当する変速後入力トルクまで変更させるように構成されている。この構成によれば、トルク相制御において、係合側係合装置の係合圧が変化係合圧まで増加されるまでの間において、滑り係合状態の係合側係合装置及び直結係合状態の解放側係合装置を介して、出力軸Oに伝達される出力トルクが、車輪要求トルクから変動することを抑制できる。
【0060】
本実施形態では、変速制御部43は、予め設定されたトルク相制御の期間で、入力トルクを、変速前入力トルクから変速後入力トルクまで、次第に(本例では、一定の変化速度で)変化させるように構成されている。ここで、変速制御部43によって、入力トルクの変化速度は、変速後入力トルクと変速前入力トルクとの偏差をトルク相制御の期間で除算した値となるように設定される。変速制御部43は、トルク相制御中に、駆動力源3の制御部(本例では、内燃機関制御部41及び回転電機制御部42、又はこれらを統合制御する統合制御部45)に対して伝達する、駆動力源3の出力トルクの指令(本例では、内燃機関要求トルク、回転電機要求トルク)を次第に変化させて、駆動力源3の出力トルクを次第に変化させるように構成されている。
【0061】
内燃機関ENG及び回転電機MGのそれぞれには、出力可能な最大トルクが設定されており、入力トルクの増加は、それら駆動力源3の最大トルクに制限される。内燃機関ENGの場合は、燃焼室に充填可能な最大空気量や、燃焼室に供給可能な最大燃料量などにより、各運転条件の最大トルクが定まっている。回転電機MGの場合は、回転電機MGの回転速度やバッテリの充電量に応じて、最大トルクが定まっている。そのため、上記式(1)等に基づき、変速による変速比の減少に対応して、入力トルクを増加させようとしても、駆動力源3の最大トルクにより、入力トルクの増加が制限される場合がある。そこで、変速制御部43は、駆動力源3の制御部(本例では、内燃機関制御部41及び回転電機制御部42、又はこれらを統合制御する統合制御部45)から実際に出力可能な変速後入力トルクの情報を受け取るように構成されている。そして、変速制御部43は、トルク相制御中に、駆動力源3の制御部から受け取った、駆動力源3が実際に出力可能な変速後入力トルクまで入力トルクを変更させるように構成されている。
【0062】
より詳細には、変速制御部43は、変速の開始後、上記式(1)に基づく等して、変速による変速比の変化に応じて変化させた目標の変速後入力トルクを、駆動力源3の制御部に伝達するように構成されている。そして、駆動力源3の制御部は、駆動力源3の最大トルク(本例では、内燃機関ENGの最大トルク、回転電機MGの最大トルク)に基づき、変速制御部43から伝達された目標の変速後入力トルクの範囲内で、駆動力源3が実際に出力可能な変速後入力トルクを判定して、変速制御部43に伝達する。駆動力源3の制御部は、目標の変速後入力トルクが、駆動力源3の最大トルクの範囲内である場合は、目標の変速後入力トルクを、そのまま、駆動力源3が実際に出力可能な変速後入力トルクとして変速制御部43に伝達する。一方、駆動力源3の制御部は、目標の変速後入力トルクが、内燃機関ENGの最大トルクの範囲外である場合は、駆動力源3の最大トルクを、駆動力源3が実際に出力可能な変速後入力トルクとして変速制御部43に伝達する。
【0063】
なお、内燃機関制御部41は、内燃機関ENGの出力特性を用い、内燃機関ENGの回転速度などの運転条件に基づいて、内燃機関ENGの最大トルクを算出する。回転電機制御部42は、回転電機MGの出力特性を用い、回転電機MGの回転速度やバッテリの充電量などの運転条件に基づいて、回転電機MGの最大トルクを算出する。そして、変速制御部43は、入力トルク変更制御において、トルク相制御中に、駆動力源3が実際に出力可能な変速後入力トルクまで次第に(本例では一定の変化速度で)入力トルクを変化させるように構成されている。このように、変速制御部43は、駆動力源3の制御部から駆動力源3が実際に出力可能な変速後入力トルクの情報を受け取るので、変速制御部43において、内燃機関ENGや回転電機MGの出力特性マップ等のデータを備えておき、それらの最大トルクを算出する必要がない。そのため、変速制御部43の処理負荷や記憶容量が増加することを抑制できる。また、内燃機関ENGや回転電機MGの種類が変更される毎に、変速制御部43に記憶する内燃機関ENGや回転電機MGの出力特性を変更する必要がなく、製造コストを低減できる。
【0064】
変速制御部43は、上記したように、トルク相制御において、係合側係合装置の係合圧を、一定の変化率又は変化開始時の変化率が当該一定の変化率よりも大きい変化率で変化させる(
図6参照)。そして、係合側係合装置の係合圧を、変速の終了後の入力トルクに相当する変速後入力トルクを車輪W側に伝達できる変化係合圧まで増加させる。本実施形態では、変速制御部43は、変化係合圧を、変速後入力トルクを出力軸Oに伝達可能な係合圧(油圧)に設定している。具体的には、変速制御部43は、変速後入力トルクに、係合側係合装置に作用する歯車の歯数比を乗算して係合側係合装置の伝達トルク容量を算出し、算出した伝達トルク容量を実現する油圧指令を算出する。
【0065】
変速制御部43は、入力トルクの変更と位相を合わせて、係合側係合装置の実際の係合圧が増加するように、係合側係合装置の係合圧を変化させる指令値(本例では、油圧指令)を、入力トルクの変更よりも位相を進めて変化(本例では増加)させるように構成されている。本実施形態では、変速制御部43は、トルク相制御の開始後、入力トルクを変速後入力トルクまで変化させる入力トルク変化期間よりも短い期間に予め設定された係合圧変化期間で、係合側係合装置の油圧指令を変化係合圧まで次第に増加させるように構成されている。本例では、入力トルク変化期間は、トルク相制御の期間と同じ期間に設定されている。係合圧変化期間は、入力トルクの変更の位相と係合側係合装置の実際の係合圧の変化の位相が合うように、実験などにより予め適合され、設定されている。なお、係合圧変化期間は、入力トルク変化期間に対して、1より小さい値に予め設定された係数を乗算して設定されてもよい。ここで、特定係合圧制御において、係合側係合装置の係合圧(油圧)を、一定の変化率で変化させる場合、その変化率は、トルク相制御後の係合側係合装置の係合圧(油圧)とトルク相制御前の係合側係合装置の係合圧(油圧)との偏差を係合圧変化期間で除算した値となるように設定されると好適である。本実施形態では、このように設定された変化率を基準変化率とし、特定係合圧制御において、係合側制御部46は、係合側係合装置の係合圧を一定の基準変化率で変化させる。また、特定係合圧制御において、係合側係合装置の係合圧(油圧)を、変化開始時の変化率が前記一定の変化率よりも大きい変化率で変化させる場合においても、当該一定の変化率は同様に設定される。この場合、本実施形態では、特定係合圧制御において、係合側制御部46は、係合側係合装置の係合圧を基準変化率よりも変化開始時の変化率が大きい変化率で変化させる。
【0066】
<比較例のタイムチャート>
図5に、比較例のタイムチャートを示す。
図5の例では、本実施形態とは異なり、係合側係合装置の油圧指令が、入力トルクの変更に対して位相が遅れて増加されている(時刻T02から時刻T03)。これは、入力トルクの変化に対して油圧指令を追従させるように制御していることによるものである。このため、係合側係合装置の油圧指令は、一定の変化率の直線に対して変化開始時の変化率が小さい弧状(下に凸の弧状)の変化線L3に沿って変化している。これに応じて、係合側係合装置の実際の係合圧も、入力トルクの増加に対して位相が遅れて増加しており、一定の変化率の直線に対して変化開始時の変化率が小さい弧状(下に凸の弧状)の変化線L4に沿って変化している。このような遅れが生じている分だけ、滑り係合状態の係合側係合装置を介して入力軸Iから出力軸O側に伝達されるトルクが、増加されている入力トルクに対して不足しており、出力軸Oに伝達される出力トルクが、車輪要求トルクに対して低下している(時刻T02から時刻T04)。そのため、トルク相中に、車輪要求トルクに対する出力トルクの落ち込みが設定量SPより大きくなっている。従って、運転者に比較的大きいトルク変動を感じさせるおそれがある。出力トルクが車輪要求トルクから乖離してトルクの落ち込みが発生すれば、そのトルク変動が運転者に不快感を与える可能性がある。そこで、設定量SPは、許容できる出力トルクの変動の大きさに応じて予め設定した値とすると好適である。この設定量SPは、車両の特定や性能等に応じて予め設定されるとよい。
【0067】
<本実施形態のタイムチャート>
図6に、本実施形態のタイムチャートを示す。本実施形態では、変速制御部43は、上記したように、トルク相制御中における、入力トルクの変更と位相を合わせて、係合側係合装置の実際の係合圧が増加するように、係合側係合装置の油圧指令を、入力トルクの変更よりも位相を進めて増加させている(時刻T12から時刻T13)。そのため、入力トルクの増加の位相と、係合側係合装置の実際の係合圧の増加の位相とが合わされている。
位相が合わされているため、増加されている入力トルクに対する、滑り係合状態の係合側係合装置を介して入力軸Iから出力軸O側に伝達されるトルクの不足が抑制されている。
これにより、出力軸Oに伝達される出力トルクにおける、車輪要求トルクに対する低下が抑制されており(時刻T12から時刻T13)、運転者にトルク変動を感じさせることを抑制できる。
【0068】
次に、
図6に示すタイムチャートの例を参照して、変速について、詳細に説明する。
図6に示す例は、パワーオンアップシフトにおいて、変速を行う場合の例である。変速制御部43は、車輪要求トルクが一定又は増加している状態において、時刻T11で、目標変速段を変速比のより小さい変速段に変更したため、アップシフトを開始すると判定している。目標変速段は、例えば、車速の増加によりアップシフト線を跨いだ場合や、シフト位置が変更された場合等に変更される。
【0069】
<プレ相制御>
変速制御部43は、時刻T11から時刻T12の期間で、プレ相制御を行い、解放側係合装置及び係合側係合装置の係合圧を予め変化させている。
変速制御部43は、時刻T11から時刻T12の期間で、解放側係合装置の油圧指令を完全係合圧から解放側基準圧まで低下させると共に、係合側係合装置の油圧指令をストロークエンド圧まで増加させている。ここで、完全係合圧は、駆動力源から各係合装置に伝達されるトルクが変動しても滑りのない係合状態を維持するために設定される最大限の係合圧(供給油圧、油圧指令)である。なお、係合側係合装置の供給油圧の立ち上がりを速めるため、係合側係合装置の油圧指令が一時的にステップ的に増加されている。解放側基準圧は、解放側係合装置が変速前入力トルクを出力軸O側に伝達可能な係合圧(油圧)に設定されている。
【0070】
<トルク相>
変速制御部43は、プレ相制御の実行後、時刻T12から時刻T14のトルク相制御の期間で、トルク相制御を行っている。
変速制御部43は、トルク相制御の開始後、駆動力源3の制御部から駆動力源3が実際に出力可能な変速後入力トルクの情報を受け取っている(時刻T12)。そして、変速制御部43は、トルク相制御の期間(時刻T12から時刻T14)で、入力トルクを、変速前入力トルクから変速後入力トルクまで、一定の変化率(変化速度)で増加させている。
図6に示す例では、変速後入力トルクは、上記式(1)に基づき、変速前後の変速比の変化により、変速前後で出力トルクが変動しないようなトルクに設定されている。また、変速後入力トルクは、駆動力源3が実際に出力可能なトルクに設定されている。本実施形態では、変速制御部43は、トルク相制御の期間(時刻T12から時刻T14)で、目標のトルク変換比(変速比)を変速前のトルク変換比(変速比)から変速後のトルク変換比(変速比)まで一定の変化率で変化させるように構成されている。そして、変速制御部43は、目標のトルク変換比の変化に応じて、駆動力源3の制御部に伝達する駆動力源3の出力トルクの指令を次第に変化させて、駆動力源3の出力トルクを次第に変化させるように構成されている。
【0071】
変速制御部43は、トルク相制御の開始後、係合側係合装置の係合圧(油圧)を、一定の変化率で変化させている。本実施形態では、変速制御部43は、入力トルク変化期間(時刻T12から時刻T14)よりも短い期間に予め設定された係合圧変化期間(時刻T12から時刻T13)で、係合側係合装置の油圧指令を、ストロークエンド圧から、変速後入力トルクを伝達できる変化係合圧まで一定の変化率(変化速度)で増加させている。本実施形態では、この変化率が基準変化率である。そして、本例では、変速制御部43は、係合側係合装置の係合圧(油圧)を、一定の基準変化率の変化線L1に沿って変化させている。これにより、係合側係合装置の油圧指令を、入力トルクの増加よりも位相を進めて増加させることができ、入力トルクの増加の位相と、係合側係合装置の実際の係合圧の増加の位相とが合わされている。よって、増加されている入力トルクに対する、係合側係合装置の伝達トルクの不足が抑制されており、車輪要求トルクに対する出力トルクの落ち込み(低下)が抑制されている。
図6に示す例では、車輪要求トルクに対する出力トルクの落ち込みはほぼなく、一定の車輪要求トルクに対して一定の出力トルクが出力されている。すなわち、トルク相中、車輪要求トルクに対する出力トルクの落ち込みは設定量(SP)以下となっている。なお、
図6の例では、車輪要求トルクは一定であるが、車輪要求トルクが増加していれば、出力トルクもそれに応じて増加する。また、変速制御部43は、トルク相制御の開始後、入力トルク変化期間よりも短い期間に予め設定された係合圧減少期間(時刻T12から時刻T13)で、解放側係合装置の油圧指令を、解放側基準圧からストロークエンド圧以下まで次第に減少させている。
【0072】
ところで、入力トルクの増加に対して、係合側係合装置の油圧指令の位相を更に進めて増加させる場合には、トルク相制御の開始後、係合側係合装置の係合圧(油圧)を、変化開始時の変化率が一定の変化率よりも大きい変化率で変化させても好適である。この場合においても、一定の変化率(基準変化率)は、上記と同様に設定できる。本実施形態では、変速制御部43は、特定係合圧制御において、係合側係合装置の係合圧を、一定の基準変化率よりも変化開始時の変化率が大きい弧状(上に凸の弧状)の変化線L2に沿って変化させる。すなわち、本実施形態の場合、
図6に一点鎖線で示すように、変速制御部43は、入力トルク変化期間(時刻T12から時刻T14)よりも短い期間に予め設定された係合圧変化期間(時刻T12から時刻T13)で、係合側係合装置の油圧指令を、ストロークエンド圧から、変速後入力トルクを伝達できる変化係合圧まで変化線L2に沿って増加させる。ここで、変化開始時の変化率は、入力トルクの変更の位相と係合側係合装置の実際の係合圧の変化の位相が合うように、実験などにより予め適合され、設定されていると好適である。或いは、変化開始時の変化率は、基準変化率に対して、1より大きい値に予め設定された係数を乗算して設定されてもよい。ここで、変化線L2の曲線は、例えば、二次曲線状や円弧状とすることができる。
【0073】
<イナーシャ相制御>
変速制御部43は、トルク相制御の開始後(本例では、トルク相制御の終了後)、イナーシャ相制御を開始している(時刻T14)。変速制御部43は、イナーシャ相制御において、解放側係合装置の回転速度差ΔW1を増加させ、係合側係合装置の回転速度差ΔW2を減少させて、入力軸Iの回転速度を変化させる回転変化制御を行う。本実施形態では、変速制御部43は、変速中のイナーシャ相制御において、少なくとも入力トルクを変化させて、入力軸Iの回転速度を変化させるように構成されている。変速制御部43は、入力トルクを変速後入力トルクから変化させて、入力軸Iに回転変化を生じさせるように構成されている。
図6に示すアップシフトの場合は、変速制御部43は、入力トルクを変速後入力トルクからイナーシャトルクΔTinだけ低下させて、入力軸Iの回転速度を変速前同期回転速度から変速後同期回転速度まで低下させている(時刻T14から時刻T15)。一方、ダウンシフトの場合は、図示はしていないが、変速制御部43は、入力トルクを変速後入力トルクからイナーシャトルクΔTinだけ増加させて、入力軸Iの回転速度を変速前同期回転速度から変速後同期回転速度まで増加させる。
【0074】
変速前同期回転速度は、解放側係合装置の係合部材間の回転速度差ΔW1がゼロであると仮定した場合の入力軸Iの回転速度であり、変速制御部43は、出力軸Oの回転速度に変速前の変速比を乗算して、変速前同期回転速度を算出する。入力軸Iの回転速度と変速前同期回転速度との回転速度差は、解放側係合装置の回転速度差ΔW1に比例するため、変速制御部43は、入力軸Iの回転速度と変速前同期回転速度との回転速度差により、解放側係合装置の回転速度差ΔW1を判定するように構成されている。
【0075】
変速後同期回転速度は、係合側係合装置の係合部材間の回転速度差ΔW2がゼロであると仮定した場合の入力軸Iの回転速度であり、変速制御部43は、出力軸Oの回転速度に変速後の変速比を乗算して、変速後同期回転速度を算出する。入力軸Iの回転速度と変速後同期回転速度との回転速度差は、係合側係合装置の回転速度差ΔW2に比例するため、変速制御部43は、入力軸Iの回転速度と変速後同期回転速度との回転速度差により、係合側係合装置の回転速度差ΔW2を判定するように構成されている。
【0076】
変速制御部43は、イナーシャ相制御の期間において、係合側係合装置の係合圧を、変速後入力トルクを伝達できる変化係合圧に維持するように構成されている(時刻T14から時刻T15)。これにより、イナーシャ相制御中も、滑り係合状態の係合側係合装置を介して、変速後入力トルクを出力軸Oに伝達でき、出力トルクを車輪要求トルクに合致するトルクに維持できている。
【0077】
変速制御部43は、時刻T15で、係合側係合装置の回転速度差ΔW2が、予め定めた判定速度差以下になったので、係合側係合装置の係合圧を完全係合圧まで増加させて、係合側係合装置を直結係合状態に移行させ、変速を終了している。
【0078】
<フローチャート>
次に、変速の処理について、
図7のフローチャートを参照して説明する。
まず、変速制御部43は、変速を開始する条件が成立したか否か判定する(ステップ♯01)。変速制御部43は、変速の開始条件が成立した場合(ステップ♯01:Yes)に、上記したように、解放側係合装置及び係合側係合装置の係合圧を予め変化させるプレ相制御を行う(ステップ♯02)。そして、変速制御部43は、プレ相制御の終了後、トルク相制御の開始条件が成立したと判定し(ステップ♯03:Yes)、トルク相制御を開始する。トルク相制御では、変速制御部43は、係合側係合装置および解放側係合装置の係合圧を制御することで、係合側係合装置と解放側係合装置のトルク伝達の分担を変化させる。変速制御部43は、トルク相制御の開始後、駆動力源3の制御部から駆動力源3が実際に出力可能な変速後入力トルクの情報を受け取る(ステップ♯04)。そして、変速制御部43は、トルク相制御の開始後、トルク相制御中に、入力トルクを変速後入力トルクまで変更させる入力トルク変更制御を開始する(ステップ♯05)。また、係合側制御部46は、トルク相制御の開始後、係合側係合装置の係合圧を、一定の変化率又は変化開始時の変化率が当該一定の変化率よりも大きい変化率で変化させる特定係合圧制御を開始する(ステップ♯06)。本実施形態では、変速制御部43は、特定係合圧制御において、入力トルクの変更と位相を合わせて、係合側係合装置の実際の係合圧が増加するように、係合側係合装置の係合圧を変化させる指令値を、入力トルクの変更よりも位相を進めて変化させる前倒し係合圧変化制御を行う。
【0079】
そして、変速制御部43は、トルク相制御の終了後、イナーシャ相制御の開始条件が成立したと判定し(ステップ♯07:Yes)、イナーシャ相制御を開始する。変速制御部43は、イナーシャ相制御の開始後、少なくとも入力トルクを変化させて、入力軸Iの回転速度を変化させる回転変化制御を開始する(ステップ♯08)。変速制御部43は、係合側係合装置の回転速度差ΔW2が、予め定めた判定速度差以下になった場合(ステップ♯09:Yes)に、係合側係合装置の係合圧を完全係合圧まで増加させて(ステップ♯10)、変速を終了する。
【0080】
2.第2の実施形態
上記の第1の実施形態において、変速制御部43は、入力トルク変更制御において、トルク相制御中に、入力トルクを変速後入力トルクまで変更させ、入力トルクの変更と位相を合わせて、係合側係合装置の実際の係合圧が増加するように、係合側係合装置の油圧指令を、入力トルクの変更よりも位相を進めて増加させるように構成されている場合を例として説明した。しかし、これに限定されるものではなく、変速制御部43は、変速中に、駆動力源3から変速装置TMに伝達される入力トルクを変更させる入力トルク変更制御を行えば、入力トルク変更制御の実行時期は、変速中のいずれの時期であってもよい。また、変速制御部43は、係合側係合装置の係合圧を変化させる指令値を、入力トルク変更制御による入力トルクの変更よりも位相を進めて変化させれば、位相の進め度合はどのような度合であってもよい。例えば、変速制御部43は、入力トルク変更制御において、イナーシャ相制御中(入力軸Iの回転速度の変化中)に、入力トルクを変速の終了後の入力トルクに相当する変速後入力トルクまで変更させるように構成されてもよい。
【0081】
この場合について、
図9に示すタイムチャートの例に基づき説明する。
図9は、
図6と同じパワーオンアップシフトの場合の例であり、
図6及び第1の実施形態と共通する部分の説明は省略する。変速制御部43は、イナーシャ相制御中(時刻T34から時刻T35)に、入力トルクを変速後入力トルクまで変更させている。また、変速制御部43は、イナーシャ相制御中に、入力トルクを変化させて、入力軸Iの回転速度を変化させる回転変化制御を実行している。一方、変速制御部43は、トルク相制御において、特定係合圧制御及び前倒し係合圧変化制御を実行している(時刻T32から時刻T34)。そのため、イナーシャ相制御における入力トルクの変更に対して、トルク相制御における係合側係合装置の係合圧を変化させる指令値の変化は、位相が進んでいる。本実施形態でも、特定係合圧制御は、係合側係合装置の係合圧を、一定の変化率又は変化開始時の変化率が当該一定の変化率よりも大きい変化率で変化させる制御である。本例では、上記第一実施形態と同様に、特定係合圧制御において、係合側係合装置の係合圧(油圧)を、一定の基準変化率の変化線L1に沿って変化させ、或いは、一定の基準変化率よりも変化開始時の変化率が大きい弧状(上に凸の弧状)の変化線L2に沿って変化させる。なお、
図9では、弧状の変化線L2を一点鎖線で示している。
【0082】
トルク相制御において、係合側係合装置の係合圧が、変速後入力トルクを車輪W側に伝達できる変化係合圧まで増加されているにもかかわらず、トルク相制御において、入力トルクは、変速前入力トルクから増加されていない(時刻T32から時刻T34)。そのため、トルク相制御において、トルク伝達の関係が、変速前の変速段から変速後の変速段の状態に移行していくに従い、トルク変換比(変速比)が減少し、出力トルクが低下していく(時刻T32から時刻T33)。一方、係合側係合装置の係合圧は、変速前入力トルクより大きい変速後入力トルクを車輪W側に伝達できる変化係合圧まで次第に増加されていく。そして、時刻T33で、直結係合状態の解放側係合装置及び滑り係合状態の係合側係合装置を介して入力軸Iから出力軸O側に伝達されるトルクが、変速前入力トルクを上回ると、解放側係合装置が滑り係合状態になり、入力軸Iの回転速度が、変速前同期回転速度から低下し始める。また、滑り係合状態の解放側係合装置及び滑り係合状態の係合側係合装置を介して、出力軸Oに伝達される出力トルクが、変速前入力トルクに応じたトルクから、車輪要求トルクまで次第に増加していく(時刻T33から時刻T34)。このように、トルク相制御において、入力トルクが変速前入力トルクのままである状態でも、係合側係合装置の係合圧を、変速後入力トルクを伝達できる変化係合圧まで、位相を進めて増加させるので、トルク相制御中に出力トルクが車輪要求トルクから若干減少するものの、トルク相制御の終了後には、出力トルクを車輪要求トルクまで増加させることができる。
図9に示す例では、一定の車輪要求トルクに対して出力トルクの落ち込みは少なく抑えられている。そして、トルク相中、車輪要求トルクに対する出力トルクの落ち込みは設定量(SP)以下となっている。なお、
図9の例では、車輪要求トルクは一定であるが、車輪要求トルクが増加していれば、出力トルクもそれに応じて増加する。
【0083】
解放側係合装置及び係合側係合装置を介して入力軸Iから出力軸O側に伝達されるトルクが、変速前入力トルクを上回ったトルク分は、入力軸Iの回転速度を低下させるイナーシャトルクΔTin2として作用する。そのため、変速制御部43は、係合装置のトルク伝達によるイナーシャトルクΔTin2分だけ、入力軸Iの回転変化のために変化させる入力トルクのイナーシャトルクΔTinを減少させている(時刻T33から時刻T35)。
【0084】
図8に、
図9に対する比較例のタイムチャートを示す。
図8の例では、
図9の場合とは異なり、トルク相制御において、係合側係合装置の係合圧が、変速後入力トルクを伝達できる変化係合圧まで増加されておらず、変速前入力トルクを伝達できる係合圧まで増加されている(時刻T22から時刻23)。そのため、トルク相制御において、係合側係合装置の係合圧が増加していっても、係合側係合装置及び解放側係合装置を介して入力軸Iから出力軸O側に伝達されるトルクが、変速前入力トルクを上回ることはなく、トルク変換比(変速比)が減少するに従い、出力トルクが低下していき、車輪要求トルクに対する出力トルクの低下量が、
図9の場合に比べて大きくなる(時刻T22から時刻T23)。そのため、トルク相中に、車輪要求トルクに対する出力トルクの落ち込みが設定量SPより大きくなっている。また、
図8の例では、イナーシャ相制御において、入力トルクが変速後入力トルクまで増加されるのに合わせて、係合側係合装置の係合圧が、変速前入力トルクを伝達できる係合圧から、変速後入力トルクを伝達できる変化係合圧まで次第に増加されている(時刻T23から時刻24)。そのため、イナーシャ相制御の期間で、出力トルクが変速前入力トルクに対応した出力トルクから車輪要求トルクまで次第に増加している。このように、係合側係合装置の係合圧が、
図9の例のように、トルク相制御において変化係合圧まで増加されていないので、
図9の例に比べて、車輪要求トルクに対する出力トルクの低下量が大きくなると共に、出力トルクの低下期間が長くなっている。このように、
図8の例との比較で、
図9の例における、出力トルクの低減抑制効果が理解できる。
【0085】
次に、
図9の例に示した変速の処理について、
図10のフローチャートを参照して説明する。
まず、変速制御部43は、変速を開始する条件が成立したか否か判定する(ステップ♯21)。変速制御部43は、変速の開始条件が成立した場合(ステップ♯21:Yes)に、上記したように、解放側係合装置及び係合側係合装置の係合圧を予め変化させるプレ相制御を行う(ステップ♯22)。そして、変速制御部43は、プレ相制御の終了後、トルク相制御の開始条件が成立したと判定し(ステップ♯23:Yes)、トルク相制御を開始する。トルク相制御では、変速制御部43は、係合側係合装置および解放側係合装置の係合圧を制御することで、係合側係合装置と解放側係合装置のトルク伝達の分担を変化させる。変速制御部43は、トルク相制御の開始後、駆動力源3の制御部から駆動力源3が実際に出力可能な変速後入力トルクの情報を受け取る(ステップ♯24)。そして、変速制御部43は、トルク相制御の開始後、係合側係合装置の係合圧を、一定の変化率又は変化開始時の変化率が当該一定の変化率よりも大きい変化率で変化させる特定係合圧制御を開始する(ステップ♯25)。
【0086】
そして、変速制御部43は、トルク相制御の終了後、イナーシャ相制御の開始条件が成立したと判定し(ステップ♯26:Yes)、イナーシャ相制御を開始する。変速制御部43は、イナーシャ相制御の開始後、イナーシャ相制御中に、入力トルクを変速後入力トルクまで変化させる入力トルク変更制御を開始すると共に、少なくとも入力トルクを変化させて、入力軸Iの回転速度を変化させる回転変化制御を開始する(ステップ♯27)。
変速制御部43は、係合側係合装置の回転速度差ΔW2が、予め定めた判定速度差以下になった場合(ステップ♯28:Yes)に、係合側係合装置の係合圧を完全係合圧まで増加させて(ステップ♯29)、変速を終了する。
【0087】
3.その他の実施形態
最後に、その他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0088】
(1)上記の実施形態において、制御装置30は、複数の制御ユニット32〜34を備え、これら複数の制御ユニット32〜34が分担して複数の機能部41〜45を備える場合を例として説明した。しかし、これに限定されるものではなく、制御装置30は、上述した複数の制御ユニット32〜34を任意の組み合わせで統合又は分離した制御装置として備えるようにしてもよく、複数の機能部41〜45の分担も任意に設定することができる。
【0089】
(2)上記の実施形態においては、変速装置TMは、2つの遊星歯車機構を有し、6つの係合装置を有し、6つの前進変速段を有し、各変速段は2つの係合装置が係合されることにより形成される場合を例として説明した。しかし、これに限定されるものではなく、変速装置TMは、少なくとも2つ以上の係合装置の係合で形成される変速段を2つ以上有していれば、どのような構成であってもよい。すなわち、変速装置TMは、2つ以上又は1つの遊星歯車機構を有してもよく、3つ以上の係合装置を有してもよく、2つ以上の前進変速段を有してもよく、各変速段は2つの係合装置が係合されることにより、或いは3つ以上の係合装置が係合されることにより形成されてもよい。
【0090】
(3)上記の実施形態において、変速制御部43は、トルク相制御(トルク伝達の分担の変化)の終了後に、イナーシャ相制御(入力軸Iの回転変化)を開始するように構成されている場合を例として説明した。しかし、これに限定されるものではなく、変速制御部43は、トルク伝達の分担の変化は、入力軸Iの回転変化が生じる前に開始されればよく、トルク相制御を行っている間に、イナーシャ相制御が開始されてもよい。
【0091】
(4)上記の実施形態において、変速制御部43は、変速において、パワーオンアップシフトを行う場合に、係合側制御部46、解放側制御部47、及び入力トルク変更部48による変速(入力トルク変更制御及び前倒し係合圧変化制御)を行う場合を例として説明した。しかし、これに限定されるものではなく、変速制御部43は、変速において、入力トルクが車両を減速させる方向の負トルクである状態で、より変速比の高い変速段に切り替える変速であるパワーオフダウンシフトを行う場合に、係合側制御部46、解放側制御部47、及び入力トルク変更部48による変速(入力トルク変更制御及び特定係合圧制御)を行うように構成されてもよい。この場合は、入力トルク変更制御においては、入力トルクを減少させる方向に変更させ、回転変化制御においては、入力軸Iの回転速度が増加される。
【0092】
(5)上記の実施形態において、変速制御部43は、駆動力源3の制御部から駆動力源3が実際に出力可能な変速後入力トルクの情報を受け取るように構成されている場合を例として説明した。しかし、これに限定されるものではなく、変速制御部43は、内燃機関ENG及び回転電機MGの出力特性マップ等のデータを備え、内燃機関ENGの回転速度などの運転条件に基づいて、内燃機関ENGの最大トルクを算出すると共に、回転電機MGの回転速度やバッテリの充電量などの運転条件に基づいて、回転電機MGの最大トルクを算出して、駆動力源3が実際に出力可能な変速後入力トルクの情報を取得するように構成されてもよい。
【0093】
(6)上記の実施形態においては、係合側係合装置及び解放側係合装置は供給油圧(油圧指令)を増加させることで係合圧(伝達トルク容量)が増加するように構成されている場合を例として説明した。しかし、これに限定されるものではなく、係合側係合装置及び解放側係合装置の一方又は双方は、供給油圧(油圧指令)を減少させることで係合圧(伝達トルク容量)が増加するように構成されてもよい。この場合は、例えば、リターンばねが係合側に付勢しており、係合装置への供給油圧が解放側に押圧するように構成されてもよい。この場合は、変速制御部43は、係合側係合装置及び解放側係合装置の一方又は双方の供給油圧(油圧指令)を減少させることで、係合側係合装置及び解放側係合装置の一方又は双方の係合圧を増加させるように構成される。
【0094】
4.上記実施形態の概要
以下、上記において説明した車両用駆動伝達装置(1)の制御装置(30)の概要について説明する。
【0095】
制御装置(30)は、駆動力源(3)と車輪(W)とを結ぶ動力伝達経路(2)に、複数の係合装置を備えると共に当該複数の係合装置の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成される変速装置(TM)が設けられた車両用駆動伝達装置(1)を制御対象とし、変速比の異なる変速段に切り替える変速を行うために係合する係合装置である係合側係合装置の係合圧を制御する係合側制御部(46)と、変速のために解放する係合装置である解放側係合装置の係合圧を制御する解放側制御部(47)と、変速中に、駆動力源(3)の側から変速装置(TM)の入力軸(I)に伝達される入力トルクを変更させる入力トルク変更部(48)と、を有し、変速中に、係合側制御部(46)および解放側制御部(47)が係合側係合装置および解放側係合装置の係合圧を制御することで、係合側係合装置と解放側係合装置のトルク伝達の分担を変化させる際に、係合側制御部(46)は、係合側係合装置の係合圧を
、変化開始時の変化率
が一定の変化率よりも大きい変化率で変化させる特定係合圧制御を行う。
【0096】
このような構成によれば、入力トルク変更部(48)により、変速中に、入力トルクを変更させるので、変速の開始前から終了後までにおける、変速装置(TM)から車輪(W)側に伝達される出力トルクの変化を制御することが可能になる。また、係合側制御部(46)および解放側制御部(47)により、係合側係合装置および解放側係合装置の係合圧が制御されることで、係合側係合装置と解放側係合装置のトルク伝達の分担が変化されると、滑り係合状態の係合側係合装置の係合圧に応じた出力トルクが車輪(W)側に伝達されるようになる。そして、トルク伝達の分担を変化させる際に、係合側制御部(46)は、係合側係合装置の係合圧を、一定の変化率又は変化開始時の変化率が当該一定の変化率よりも大きい変化率で変化させる特定係合圧制御を行う。このような特定係合圧制御は、入力トルク変更部(48)により変更される入力トルクの変速終了後の値に基づいて係合側係合装置の係合圧を変化させることで可能になる。そして、このような特定係合圧制御を行うことにより、変速中の出力トルクの変動を抑制することができる。
【0097】
ここで、前記車輪(W)に伝達することが要求されるトルクである車輪要求トルクが一定又は増加している状態で、より変速比の低い変速段に切り替える変速であるパワーオンアップシフトを行う場合に、入力トルク変更部(48)は、入力トルクを増加させる方向に変更させ、係合側制御部(46)は、前記特定係合圧制御を行うと好適である。
【0098】
この場合、車輪要求トルクが一定又は増加しており車両は加速しているので、上記のように、出力トルクの変動を抑制することにより、スムーズな変速を行わせることができる。また、アップシフトが行われると、変速装置(TM)の変速比が減少するため、同じ入力トルクでは、出力トルクが減少する。上記の構成によれば、入力トルク変更部(48)により入力トルクが増加されるので、変速の開始前と終了後との出力トルクの減少量を低減することができ、スムーズな変速を行わせることができる。
【0099】
また、前記トルク伝達の分担の変化中における、車輪(W)に伝達することが要求されるトルクである車輪要求トルクに対する、車輪(W)に伝達されるトルクである出力トルクの落ち込みが、設定量(SP)以下であると好適である。
【0100】
この構成によれば、車輪要求トルクに対する実際の出力トルクの落ち込みが設定量以下に抑えられるため、変速による出力トルクの変動を抑制してスムーズな変速を行わせることができる。
【0101】
また、係合側制御部(46)は、前記特定係合圧制御において、変速の終了後の入力トルクに相当するトルクを車輪(W)側に伝達できる係合圧まで係合側係合装置の係合圧を変化させると好適である。
【0102】
この構成によれば、入力トルク変更部により変更される入力トルクの変速終了後の値、すなわち変速後入力トルクを車輪側に伝達できる係合圧まで係合側係合装置の係合圧を変化させるので、係合側係合装置と解放側係合装置のトルク伝達の分担の変化中から、変速後入力トルクを出力軸に伝達可能になる。これにより、変速中の出力トルクの変動を抑制することができる。
【0103】
また、トルク伝達の分担の変化は、入力軸(I)の回転変化が生じる前に開始されると好適である。
【0104】
この構成によれば、入力軸(I)の回転変化に対し早期化して、変速後入力トルクを出力軸(O)に伝達可能になる。そのため、変速中の出力トルクの変動を抑制することができる。
【0105】
また、係合側制御部(46)は、前記特定係合圧制御において係合側係合装置の係合圧を変化させる指令値を、入力トルク変更部(48)による入力トルクの変更よりも位相を進めて変化させると好適である。
【0106】
この構成によれば、係合側係合装置の係合圧を変化させる指令値が、入力トルクの変更よりも位相を進めて変化される。そのため、出力トルクを、入力トルクの変更に対して早めて、変速後入力トルクに対応する変速後の出力トルク(車輪要求トルク)まで変化させることができ、変速中の出力トルクの変動を抑制することができる。
【0107】
また、入力トルク変更部(48)は、トルク伝達の分担が変化している間に、駆動力源(3)の側から変速装置(TM)に伝達される入力トルクを変速の終了後の入力トルクに相当するトルクまで変更させ、係合側制御部(46)は、前記特定係合圧制御において、入力トルクの変更と位相を合わせて係合側係合装置の実際の係合圧が変化するように、係合側係合装置の係合圧を変化させる指令値を、入力トルクの変化よりも位相を進めて変化させると好適である。
【0108】
トルク伝達の分担を変化させている間は、トルク伝達の関係が、変速前の変速段から変速後の変速段の状態に移行する過渡状態となる。そのため、入力トルクの変更と、係合側係合装置の係合圧の変化とをタイミングを合わせて変化させないと、出力トルクが変動するおそれがある。しかし、係合装置の実際の係合圧は、指令値の変化に対して遅れて変化するため、入力トルクの変更に対して、係合側係合装置の実際の係合圧の変化の位相が遅れ易い。上記の構成によれば、トルク伝達の分担を変化させている間の入力トルクの変更に位相を合わせて、係合側係合装置の実際の係合圧を変化させることができる。そのため、トルク相制御中に、出力トルクが変動することを抑制できる。
【0109】
また、入力トルク変更部(48)は、入力軸(I)の回転速度の変化中に、入力トルクを変速の終了後の入力トルクに相当するトルクまで変化させると好適である。
【0110】
入力軸(I)の回転速度の変化中に、入力トルクを変速後入力トルクまで変更させたとしても、トルク伝達の分担を変化させている間において、係合側係合装置の係合圧が、変速後入力トルクを伝達できる係合圧まで、位相を進めて変化される。そのため、トルク伝達の分担を変化させている間に出力トルクが車輪要求トルクから変動し易くなるものの、トルク伝達の分担の変化の終了後には、出力トルクを車輪要求トルクまで増加させることができる。よって、入力トルクの変更に対して早めて、出力トルクを車輪要求トルクまで変化させることができ、変速中の出力トルクの変動を抑制することができる。
【0111】
また、前記変速中に、少なくとも入力トルクを変化させて、入力軸(I)の回転速度を変化させると好適である。
【0112】
この構成によれば、入力軸(I)の回転速度の変化中において、少なくとも入力トルクを変化させて、入力軸(I)の回転速度の変化が行われるので、滑り係合状態の係合側係合装置の係合圧に応じて車輪側に伝達される出力トルクが、入力軸(I)の回転変化のために変動することを抑制できる。
【0113】
また、駆動力源(3)は内燃機関(ENG)と回転電機(MG)とを含み、動力伝達経路(2)に沿って、内燃機関(ENG)の側から、回転電機(MG)、変速装置(TM)、車輪(W)の順に設けられており、係合側制御部(46)は、回転電機(MG)のみを駆動力源(3)として動作させている場合に、前記特定係合圧制御を行うと好適である。
【0114】
回転電機(MG)のみを駆動力源(3)として動作させている場合には、一般的に、車両の運転者は、振動やショックの少ないスムーズな走行を求める可能性が高いと考えられる。この構成によれば、このような場合に、出力トルクの変動を抑制することにより、スムーズな変速を行わせることができる。従って、運転者の要望に合致する可能性が高いスムーズな走行が実現できる。