(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
本明細書において、nまたはpは、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nまたはpの右肩に記載した+または−について、+はそれが記載されていないものよりもキャリア濃度が高く、−はそれが記載されていないものよりもキャリア濃度が低いことを意味する。また、本明細書に記載した例では、第1導電型はn型を意味し第2導電型はp型を意味するが、他の例においては、第1導電型がp型を意味し第2導電型がn型を意味してもよい。
【0021】
図1は、本発明の実施形態におけるIGBT100の断面を示す図である。半導体装置としてのIGBT100は、半導体基板10と、半導体基板10のおもて19に接して設けられたエミッタ電極52および層間絶縁膜36と、半導体基板10の裏面に接して設けられたコレクタ電極54とを備える。
【0022】
半導体基板10は、第1導電型の半導体層としてのn
−型のドリフト層12と、第2導電型の半導体層としてのp型のベース層18とを有する。ドリフト層12は、第1の面14と第2の面16とを有する。第1の面14は、ドリフト層12とベース層18との接合界面でもある。なお、第2の面16は、第1の面14の反対側に位置し、上述の半導体基板10における裏面に一致する。ベース層18は、第1の面14に接して設けられる。ベース層18は、第1の面14(接合界面)とは反対側に位置するおもて面19を有する。なお、
図1において、ベース層18のおもて面19には、コンタクト領域42およびエミッタ領域44が位置する。おもて面19は半導体基板10のおもて面でもある。
【0023】
ドリフト層12は、第2の面16の側に半導体層20を有する。半導体層20は、ドリフト層12の第2の面16から不純物をドープすることにより形成される。半導体層20は、第1方向の異なる位置において、複数の不純物濃度ピークを有する。本明細書においてピークとは、第1導電型または第2導電型の不純物濃度のピークを意味する。半導体層20は、第1導電型のFS層22と、第1導電型のバッファ層24と、第2導電型のコレクタ層26とを有する。FS層22、バッファ層24およびコレクタ層26は、この順で第1方向に並んで設けられる。第1方向とは、第1の面14から第2の面16へ向かう方向である。第1方向は、エミッタ電極52からコレクタ電極54へ向かう、半導体基板10の厚み方向と読み替えてもよい。
【0024】
第1導電型のFS層22は、第1方向の異なる位置において3つの不純物濃度ピークを有する。本例のFS層22は、空乏層の広がりを止める機能を有する。つまり、FS層22は、第1の面14近傍から伸長する空乏層を第2の面16まで伸長させないという機能を有する。本例のFS層22は、プロトン(H
+)をドープした領域であり、第1方向の異なる位置においてプロトン(H
+)のドープに起因する3つの不純物濃度のピークを有する領域である。プロトンのドープに起因する不純物濃度のピークを構成するドナーは、プロトンの注入により導入された水素(H)、同じく注入時に結晶欠陥として形成された空孔(V)、半導体基板10内に存在する酸素(O)との複合欠陥、すなわちVOH欠陥による複合ドナーである。このVOH欠陥による複合ドナーを、水素関連ドナーとも言う。
【0025】
第1導電型のバッファ層24は、FS層22よりも高い第1導電型の不純物濃度を有する層である。つまり、本例において、FS層22はn型であり、バッファ層24はn
+型である。バッファ層24もFS層22と同様に空乏層の広がりを止める機能を有してよい。本例のバッファ層24は、プロトン以外の第1導電型の不純物濃度ピークを有する。本例のバッファ層24は、リン(P)をドープした領域である。しかし、バッファ層24は、リン(P)に代えて、FS層22よりも高い不純物濃度を有するようにプロトン(H
+)がドープされた層であってもよい。
【0026】
第2導電型のコレクタ層26は、半導体基板10からホールを供給する機能を有する。コレクタ層26は、バッファ層24の不純物濃度ピークよりも高い不純物濃度ピークを有する層である。本例のコレクタ層26は、ボロン(B)をドープした領域である。
【0027】
半導体基板10は、トレンチ型のゲート電極32と、ゲート絶縁膜34と、第1導電型のエミッタ領域44と、第2導電型のコンタクト領域42とをさらに有する。ゲート絶縁膜34は、少なくともベース層18の一部において、トレンチ状に設けられる。ゲート電極32は、ゲート絶縁膜34に接して設けられる。
【0028】
なお、他の例において、IGBT100はプレーナー型のゲート電極およびゲート絶縁膜を有してもよい。プレーナー型よりもトレンチ型の方が、エミッタ電極52からコレクタ電極54へ入る電子の量が多い。それゆえ、コレクタ層26からホールを供給して、コレクタ電極54側の電界集中を緩和する本例の半導体層20の構成は、プレーナー型よりもトレンチ型において、効果的である。
【0029】
ゲート電極32は、おもて面19に接して設けられた層間絶縁膜36によってエミッタ電極52とは電気的に分離される。複数のゲート電極32には、ゲート端子50を介して電圧が印加される。エミッタ電極52にはエミッタ端子51が電気的に接続され、コレクタ電極54にはコレクタ端子53が電気的に接続される。
【0030】
ゲート電極32がオン状態となると、ゲート電極32の近傍のベース層18にチャネル領域が形成される。このとき、エミッタ電極52およびコレクタ電極54間に適切な電位差が形成されるとコレクタ電極54からエミッタ電極52に電流が流れる。エミッタ領域44は、チャネル形成領域に接続した電流経路を提供する領域である。
【0031】
コンタクト領域42は、エミッタ電極52と半導体基板10との低接触抵抗を提供する領域である。IGBT100が通電する場合、コレクタ電極54からエミッタ領域44およびコンタクト領域42を経てエミッタ電極52に電流が流れる。
【0032】
図2の(a)〜(d)は、IGBT100の製造工程を示す図である。(a)は、ドリフト層12を有する半導体基板10のおもて面19にベース層18を形成する工程を示す。半導体基板10は、n型のフロートゾーン(FZ)法による単結晶基板、チョクラルスキー(CZ)法による単結晶基板、磁場印加型チョクラルスキー(MCZ)法による単結晶基板であってもよい。また、半導体基板10は、厚さ100[μm]以上、かつ、比抵抗50[Ωcm]以上であってよい。本例の半導体基板10は、厚さ110[μm]、かつ、比抵抗70[Ωcm]以上である。
【0033】
(b)は、ゲート電極32、ゲート絶縁膜34、コンタクト領域42およびエミッタ領域44を形成し、その後、半導体基板10のおもて面19に層間絶縁膜36およびエミッタ電極52を形成する工程を示す。ゲート電極32はポリシリコンであってよく、ゲート絶縁膜34は酸化シリコンであってよい。また、コンタクト領域42は、第2導電型の不純物としてのボロン(B)がドープされた領域であってよい。エミッタ領域44は、第1導電型の不純物としての砒素(As)またはリン(P)がドープされた領域であってよい。層間絶縁膜36は酸化シリコンであってよく、エミッタ電極52はアルミニウムとシリコンとの合金(Al‐Si)であってよい。
【0034】
(c)は、ドリフト層12の第2の面16から不純物をドープすることにより、FS層22、バッファ層24およびコレクタ層26を形成する工程を示す。本例の(c)に示す工程では、まず、プロトン(H
+)をドープすることにより第1方向の異なる位置に3つのピークを有するFS層22を形成する。プロトンの加速電圧を調整することにより、不純物濃度のピーク位置を調整することができる。
【0035】
本例では、第2の面16から15μm離れた位置に第1ピークを形成するべく、ドーズ量1.0E13cm
−2および加速電圧1.00MeVでプロトン(H
+)をドープする。また、第2の面16から10μm離れた位置に第2ピークを形成するべく、ドーズ量7.0E12cm
−2および加速電圧0.80MeVでプロトン(H
+)をドープする。さらに、第2の面16から4.2μm離れた位置に第3ピークを形成するべく、ドーズ量1.0E13cm
−2および加速電圧0.40MeVでプロトン(H
+)をドープする。ただし、活性化アニールを経て後にピークが形成される位置は、上述の設定位置から多少ずれる。なお、Eは10の冪を意味し、例えば1.0E13とは、1.0×10
13の意味である。
【0036】
FS層22を形成した後、リン(P)をドープすることによりバッファ層24を形成する。本例では、第2の面16から0.7μm離れた位置にピークを形成するべく、ドーズ量1.7E12cm
−2および加速電圧640keVでリン(P)をドープする。バッファ層24を形成した後、ボロン(B)を2.0E13cm
−2でドープすることによりコレクタ層26を形成する。
【0037】
(d)は、第2の面16に接してコレクタ電極54を形成する工程を示す。コレクタ電極54は、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)および金(Au)をこの順で積層して形成してよい。その後、ゲート端子50、エミッタ端子51およびコレクタ端子53を設ける。これにより、IGBT100を完成する。
【0038】
図3は、第1実施形態におけるA1‐A2間の不純物濃度ピーク(P
x)と不純物濃度ピーク間の境界(V
y)とを示す図である。本明細書において、P
x(x=1〜5)は不純物濃度のピークを示す。ピークP
xは、不純物濃度の極大値である。ピークP
xの位置および不純物濃度の高さは、ドープする不純物の加速電圧および不純物濃度によって、設定することができる。V
y(y=1〜4)は2つのP間における境界を示す。境界V
yは2つのピークP
x間における不純物濃度の最小値である。
【0039】
図3において、縦軸は不純物濃度[/cm
3]を示し、第1導電型および第2導電型を合わせた正味の不純物濃度(ネットドーピング)を示す。
図3は、
図1のA1‐A2における不純物濃度に対応する。横軸は、半導体基板10の第1方向における位置を示す。おもて面19を位置0[μm]とし、第2の面16を位置110[μm]とする。位置0[μm]と位置10[μm]との間には、ドリフト層12における第1の面14が位置する。
【0040】
本例は、耐圧1,200VのIGBT100における不純物濃度のドープパターンである。本例では、A1‐A2は、おもて面19から第2の面16までに至る第1方向に沿った領域である。
【0041】
本明細書では、複数の不純物濃度ピークのうち第1の面14に1番目に近い第1番目の不純物濃度ピークを第1のピークP
1と称する。同様に、第1の面14に2番目に近いものを第2のピークP
2、3番目に近いものを第3のピークP
3、4番目に近いものを第4のピークP
4とそれぞれ称する。さらに、最も第2の面16に近いピークを第5のピークP
5とする。本例では、ピークP1〜P3は、プロトン(H
+)のピークである。第3のピークP
3よりも第2の面16側における第4のピークP
4は、プロトン以外のピークである。また、第5のピークP
5は第2の面16と第4のピークP
4との間に位置し、第4のピークP
4よりも高い不純物濃度ピークP
5を有する。
【0042】
また、ピークP
1とP
2との間に境界V
1を有する。同様に、ピークP
2とP
3との間に境界V
2を有し、ピークP
3とP
4との間に境界V
3を有し、ピークP
4とP
5との間に境界V
4を有する。
【0043】
本例では、ピークP
3において不純物濃度が低い順に、第1〜第4のドープパターンと称する。なお、後述する積分濃度は、第1〜第4のドープパターンの順に低い。ピークP
3の不純物濃度は第1〜第4のドープパターンにおいて異なるが、ピークP
3の位置は第1〜第4のドープパターンにおいて同じである。
【0044】
図3は、4種類の異なるドープパターンを1つのグラフに示した図である。異なる種類のドープパターンは、異なるIGBT100に対応する。完成物としての1つのIGBT100は、1種類のドープパターンを有する。第1のドープパターンのトータルのドーズ量を1とした場合に、第2のドープパターンのトータルのドーズ量は1.4であり、第3のドープパターンのトータルのドーズ量は2.6であり、第4のドープパターンのトータルのドーズ量は4.5である。トータルのドーズ量の違いは、第3のピークおよび第3の境界近傍において特に顕著となる。
【0045】
4種類の異なる第1〜第4のドープパターンは、第3のピークP
3−1、P
3−2、P
3−3およびP
3−4、ならびに、第3の境界V
3−1、V
3−2、V
3−3およびV
3−4近傍において異なる不純物濃度を有する。しかし、その他の領域における4種類の異なるドープパターンは、一致する。たとえば、位置0[μm]から位置100[μm]までの領域では、4種類の異なるドープパターンは一致している。例えば、P
4、V
4およびP
5においても、第1〜第4のドープパターンは一致している。なお、第3のピークはP
3−1、P
3−2、P
3−3およびP
3−4の順に不純物濃度が高くなり、第3の境界はV
3−1、V
3−2、V
3−3およびV
3−4の順に不純物濃度が高くなる。
【0046】
図4は、
図3の位置80[μm]から位置110[μm]までを示す拡大図である。
図4からわかるように、4種類の異なるドープパターンは、第2の境界V
2から第4のピークP
4以外の範囲では完全に一致している。
【0047】
なお、第2の境界V
2と第1のドープパターンにおける第3のピークP
3−1との間には、第3のピークP
3−1よりも小さい不純物濃度の極大値と不純物濃度の最小値とが観察される。しかしながら、第2の境界V
2と第3のピークP
3−1との間における不純物濃度の極小値および極大値は、ドープする不純物の加速電圧および不純物濃度によって意図的に形成したものではない。それゆえ、これらは本明細書において、ピークPおよび境界Vではないものとする。
【0048】
本例において、ピークP
1の位置は、94[μm]より大きく97[μm]より小さい範囲にある。また、ピークP
2の位置は、97[μm]より大きく100[μm]より小さい範囲にある。さらに、ピークP
3の位置は、105[μm]より大きく108[μm]より小さい範囲にある。加えて、ピークP
4の位置は、108[μm]より大きく110[μm]より小さい範囲にある。
【0049】
本例において、ドリフト層12およびベース層18の第1方向における長さを基板長さLと称すると、上述の範囲は次のように言い換えることができる。基板長さLに対する0[μm]の位置からピークP
1の位置までの割合は、85%より大きく89%より小さい範囲である。また、基板長さLに対する0[μm]の位置から、ピークP
2の位置までの割合は、89%より大きく91%より小さい範囲である。さらに、基板長さLに対する0[μm]の位置から、ピークP
3の位置までの割合は、96%より大きく98%より小さい範囲であり。加えて、基板長さLに対する0[μm]の位置から、ピークP
4の位置までの割合は、98%より大きく100%より小さい範囲である。
【0050】
図5は、第1実施形態におけるA1‐A2間の不純物濃度ピーク(P
x)と臨界積分濃度との関係を示す図である。縦軸は積分濃度[/cm
2]を示し、横軸は
図3および
図4と同じく、半導体基板10の第1方向における位置を示す。本例では、スケールの関係上、110[μm]近傍のグラフは省略している。
【0051】
本明細書では、ドリフト層12とベース層18との接合界面である第1の面14からドリフト層12の特定の位置まで、第1方向に沿って不純物濃度を積分した値を、積分濃度と称する。さらに、本明細書では、コレクタ電極54およびエミッタ電極52間に順バイアスが印加され、電界強度の最大値が臨界電界強度に達してアバランシェ降伏が発生した場合であって、第1の面14から第1方向におけるドリフト層12の特定位置までが空乏化する場合に、当該特定位置における不純物濃度の積分した値が臨界積分濃度に達すると称する。なお、IGBT100において、コレクタ電極54およびエミッタ電極52の間に順バイアスが印加されるとは、コレクタ電極54の電位がエミッタ電極52の電位よりも高いことを意味する。
【0052】
順バイアス印加時に、臨界積分濃度に達する特定位置までのドリフト層12は空乏化するが、当該特定位置よりも第1方向の先の領域は空乏化しない。本例では、4つのドープパターンにおけるFS層22のピーク位置(ピークP
1〜ピークP
3)を調節することにより、ドリフト層12における臨界積分濃度の位置を調節することができる。臨界積分濃度は、1.2E12[/cm
2]と2.0E12[/cm
2]との間に位置してよい。本例の臨界積分濃度は、約1.4E12[/cm
2]である。
【0053】
本例では、第1〜第4のドープパターンにおいて、第1方向における第1の面14から、境界V
1までにおける積分濃度が、臨界積分濃度以下である。また、第1〜第4のドープパターンにおいて、第1方向における第1の面14から、境界V
2までの積分濃度が、臨界積分濃度以下である。
【0054】
さらに本例では、第1のドープパターンにおいて、第1方向における第1の面14から境界V
3−1までの積分濃度が、臨界積分濃度以下である。また、第2のドープパターンにおいても、第1方向における第1の面14から境界V
3−2までの積分濃度が、臨界積分濃度以下である。しかし、第3〜第4のドープパターンにおいては、第1方向における第1の面14から、境界V
3までの積分濃度は臨界積分濃度を超える。なお、第2のドープパターンにおいては、第1方向における第1の面14から、ピークP
3−2までの積分濃度が、臨界積分濃度以下である。
【0055】
図6は、
図5の位置80[μm]から位置110[μm]までを示す拡大図である。本例では、ピークP
1、P
2およびP
3の3つのピークによりFS層22を形成する。FS層22の第1のピークP
1においては臨界積分濃度に達しないので、FS層22を比較的エミッタ電極52寄りに比較的高い濃度で設けることができる。これによりスイッチング時の発振を抑制することができる。また本例では、FS層22またはバッファ層24において臨界積分濃度に達するので、FS層22またはバッファ層24において空乏層の伸びを抑えることができる。
【0056】
本例では、さらに、FS層22よりも高濃度のバッファ層24(ピークP
4)と、バッファ層24よりも高濃度のコレクタ層26(ピークP
5)を有する。FS層22の不純物濃度が1.0E14〜1.0E16であるのに対して、ピークP
4の不純物濃度は1.0E16〜1.0E17であり、ピークP
5の不純物濃度は1.0E17〜1.0E18である。それゆえ、ピークP
4およびピークP
5は、
図6に図示されていない。本例ではバッファ層24およびコレクタ層26により、キャリアの注入特性を制御することができる。例えば、コレクタ層26によりドリフト層12へのホールの注入特性を向上させることができる。これにより、ターンオフ時にキャリアを空乏層に供給できるので、コレクタ側における電界の上昇を緩和することができる。よって、大電流短絡耐量を向上させることができる。このように、本例の構造を採用することにより、スイッチング時の発振の抑制等と大電流短絡耐量の向上等とを両立することができる。
【0057】
本例では、コレクタ電圧Vcc=680[V]、ゲートオン抵抗Rgon=4.1[Ω]、ゲートオフ抵抗Rgoff=20[Ω]、ゲート入力パルス時間=2[μs]、チップ接合温度Tj=25[℃]とし、ゲート・エミッタ間電位Vgeを15[V]から次第に上昇させて大電流短絡耐量試験を行った。本例のIGBT100は、コレクタ・エミッタ間電流Ic=4,300[A/cm
2]でも破壊されなかった。なお、装置限界により、Ic=4,300[A/cm
2]で通電をストップした。コレクタ電圧Vccは、コレクタ端子53に印加する電圧である。ゲート・エミッタ間電位Vgeは、ゲート端子50とエミッタ端子51との電位差である。コレクタ・エミッタ間電流Icは、コレクタ端子53とエミッタ端子51との間に流れる電流である。
【0058】
また、本例では、コレクタ電圧Vcc=870[V]、コレクタ・エミッタ間電流Ice=300[A/cm
2]、ゲートオン抵抗Rgon=1[Ω]、ゲートオフ抵抗Rgoff=1[Ω]、浮遊インダクタンスLs=70[nH]、チップ接合温度Tj=25[℃]とし、ゲート・エミッタ間電位Vgeを15[V]から0[V]へターンオフして、ターンオフサージ試験を行った。本例のIGBT100はターンオフ時のコレクタ・エミッタ間電圧Vceのピークが1,125[V]となった。これは、ターンオフ時のサージ電圧が従来よりも抑えられたことを意味する。加えて、ターンオフ振動もまた従来よりも抑えられた。
【0059】
図7は、第2実施形態におけるA1‐A2間の不純物濃度ピーク(P
x)と不純物濃度ピーク間の境界(V
y)とを示す図である。縦軸および横軸は
図3と同じである。本例では、第2の面16が位置70[μm]に対応する。本例のIGBT100は、ドリフト層12の厚みが第1実施形態よりも薄く、耐圧600Vを有する。本例では、ピークP
xの位置が第1実施形態と異なる。他の点は、第1実施形態と同じであってよい。なお、本例は、1種類のドープパターンを示す。
【0060】
図8は、
図6の位置40[μm]から位置70[μm]までを示す拡大図である。本例において、ピークP
1の位置は、54[μm]より大きく57[μm]より小さい範囲にある。また、ピークP
2の位置は、57[μm]より大きく60[μm]より小さい範囲にある。さらに、ピークP
3の位置は、65[μm]より大きく68[μm]より小さい範囲にある。加えて、ピークP
4の位置は、68[μm]より大きく70[μm]より小さい範囲にある。
【0061】
本例において、ドリフト層12およびベース層18の第1方向における長さを基板長さLと称すると、上述の範囲は次のように言い換えることができる。基板長さLに対する0[μm]の位置からピークP
1の位置までの割合は、77%より大きく81%より小さい範囲である。また、基板長さLに対する0[μm]の位置からピークP
2の位置までの割合は、81%より大きく86%より小さい範囲である。さらに、基板長さLに対する0[μm]の位置からピークP
3の位置までの割合は、93%より大きく97%より小さい範囲である。加えて、基板長さLに対する0[μm]の位置からピークP
4の位置までの割合は、97%より大きく100%より小さい範囲である。
【0062】
図9は、第2実施形態におけるA1‐A2間の不純物濃度ピーク(P
x)と臨界積分濃度との関係を示す図である。本例では、第1方向における第1の面14から境界V
1までにおける積分濃度は、臨界積分濃度以下である。また、第1方向における第1の面14からピークP
2までの積分濃度は、臨界積分濃度以下である。加えて、第1方向における第1の面14から境界V
2までの積分濃度も臨界積分濃度以下である。しかし、第1方向における第1の面14からピークP
3までの積分濃度は臨界積分濃度を超える。
【0063】
第2実施形態におけるIGBT100の製造工程は、第1実施形態と基本的に同じである。相違点を下記に列挙する。第2実施形態における半導体基板10は、厚さ100[μm]未満、かつ、比抵抗50[Ωcm]未満であってよい。本例の半導体基板10は、厚さ70[μm]、かつ、比抵抗30[Ωcm]である。FS層22の製造工程では、第2の面16から4.2μm離れた位置に第3ピークを形成するべく、ドーズ量1.0E14cm
−2および加速電圧0.40MeVでプロトンをドープする。他の点は、第1実施形態と同じである。本例においても、第1実施形態と同じ効果を得ることができる。
【0064】
本例では、コレクタ電圧Vcc=360[V]、ゲートオン抵抗Rgon=1[Ω]、ゲートオフ抵抗Rgoff=90[Ω]、ゲート入力パルス時間=2[μs]、チップ接合温度Tj=−40[℃]とし、ゲート・エミッタ間電位Vgeを15[V]から次第に上昇させて大電流短絡耐量試験を行った。本例のIGBT100は、コレクタ・エミッタ間電流Ic=4,300[A/cm
2]でも破壊されなかった。なお、装置限界により、Ic=4,300[A/cm
2]で通電をストップした。
【0065】
また、本例では、コレクタ電圧Vcc=410[V]、コレクタ・エミッタ間電流Ice=310[A/cm
2]、ゲートオン抵抗Rgon=3.9[Ω]、ゲートオフ抵抗Rgoff=3.9[Ω]、浮遊インダクタンスLs=70[nH]、チップ接合温度Tj=175[℃]とし、ゲート・エミッタ間電位Vgeを15[V]から0[V]へターンオフして、ターンオフサージ試験を行った。本例のIGBT100はターンオフ時のコレクタ・エミッタ間電圧Vceのピークが約700[V]となった。ターンオフ時のサージ電圧が従来よりも抑えられた。加えて、ターンオフ振動もまた従来よりも抑えられた。
【0066】
さらに、本例では、コレクタ電圧Vcc=350[V]、コレクタ・エミッタ間電流Ice=490[A/cm
2]とし、他の条件は上述のターンオフサージ試験と同じにして、ターンオフサージ試験を行った。本例のIGBT100はターンオフ時のコレクタ・エミッタ間電圧Vceのピークが約750[V]となった。ターンオフ時のサージ電圧が従来よりも抑えられた。加えて、ターンオフ振動もまた従来よりも抑えられた。
【0067】
図10は、ドナー濃度に対する臨界電界強度E
cおよび臨界積分濃度n
cの関係を示す図である。横軸は、ドナー濃度(n型の不純物濃度)[/cm
3]であり、縦軸左側は臨界電界強度E
c[V/cm]であり、縦軸右側は臨界積分濃度n
c[/cm
2]である。以降では、ドナー濃度に対する臨界電界強度E
cと臨界積分濃度n
cとが対応関係にあることを説明する。
【0068】
平面pn接合において、p型層の濃度がn型層の濃度よりも数桁高い片側階段接合を考える。片側階段接合の場合、pn接合に逆バイアス電圧を印加すると、空乏層はn型層にのみ広がると見なすことができる。逆バイアス電圧の印加により空乏層が広がるとともに、pn接合近傍で電界強度は最大値となる。この電界強度の最大値が所定値に達すると、インパクトイオン化によりアバランシェ降伏が発生する。
【0069】
なお、第1および第2実施形態においては、当該n型層がドリフト層12に対応し、当該p型層がベース層18に対応する。また、pn接合に逆バイアス電圧を印加することは、コレクタ電極54の電位がエミッタ電極52の電位よりも高い、順バイアスをIGBT100に印加することに対応する。
【0070】
アバランシェ降伏が発生する電界強度の値は、臨界電界強度(Critical Electric Field Strength)と呼ばれる。アバランシェ降伏は、半導体の構成元素と、半導体にドーピングされた不純物と、不純物の濃度とに依存する。ドナー濃度をN
D、臨界電界強度をE
Cとすると、シリコン(Si)におけるインパクトイオン化係数を用いてイオン化積分をすると、臨界電界強度E
Cは数式1で表される。
【0072】
数式1からわかるように、ドナー濃度N
Dが決まれば、臨界電界強度E
Cは定まる。また、ポアソンの式は、1次元方向(x方向とする)のみを考慮した場合、数式2で表される。
【0074】
ここで、qは電荷素量(
1.602×10−19[C])、ε
0は真空の誘電率(8.854×10
−14[F/cm])、ε
rは物質の比誘電率である。シリコンの場合は、ε
r=11.9である。pは正孔濃度、nは電子濃度、N
Aはアクセプタ濃度である。片側階段接合でn型層のみを考慮するのでアクセプタが存在しない(N
A=0)とする。さらに、正孔および電子が存在しない完全空乏化された(n=p=0)空乏層を仮定すると、数式2を深さxで積分すれば、数式3が得られる。
【0076】
pn接合の位置を原点0、n型層においてpn接合とは反対側の位置における空乏層の端部の位置をx
0とする。そして、空乏層全体を0からx
0で積分すると、数式3のEは、電界強度分布の最大値となる。これをE
mとすると、E
mは数式4で表される。
【0078】
電界強度分布の最大値E
mが、臨界電界強度E
cに達したとすると、数式4は数式5で表される。
【0080】
数式5は、両辺とも定数である。数式5の右辺は、n型層において完全空乏化した範囲であるので、本明細書において記載した定義より、臨界積分濃度n
cと表す。これにより次の数式6を得る。数式6は、臨界積分濃度n
cと臨界電界強度E
cとの対応を示す。このように、臨界積分濃度n
cは、臨界電界強度E
cに対応する定数となす。
【0082】
なお、
図10においては、ドナー濃度N
Dはn型層のx方向の濃度分布が一様であると仮定している。臨界電界強度E
cはn型層のドナー濃度N
Dに依存するので(数式5参照)、臨界積分濃度n
cもn型層のドナー濃度にN
Dに依存する。ドナー濃度N
Dが1×10
13〜1×10
15(/cm
3)の範囲では、臨界積分濃度n
cは1.1×10
12〜2.0×10
12(/cm
2)となる。ドナー濃度が数桁に亘る濃度範囲であることを踏まえると、臨界積分濃度n
cはほぼ定数であると見なすことができる。
【0083】
例えば、第1実施形態の1,200Vの例では、ドリフト層12のドナー濃度N
Dを6.1×10
13(/cm
3)とすると(
図3および
図4参照)、数式6から臨界積分濃度n
cは約1.4×10
12(/cm
2)と評価できる。また、第2実施形態の600Vの例では、ドリフト層12のドナー濃度N
Dを1.4×10
14(/cm
3)とすると(
図7および
図8参照)、数式6から臨界積分濃度n
cは約1.55×10
12(/cm
2)と評価できる。
【0084】
第1および第2実施形態では、ピークP
xの位置を調節することにより、臨界積分濃度n
cの位置を調節する。FS層22において臨界積分濃度n
cに達するので、FS層22を比較的エミッタ電極52寄りに比較的高い濃度で設けることができる。これによりスイッチング時の発振を抑制することができる。また、漏れ電流も抑制でき、RBSOAも改良できる。さらに、FS層22よりも不純物濃度が高いコレクタ層26によりホール注入特性を制御することで、臨界積分濃度n
cの位置における臨界電界強度E
cを抑えることができる。これにより、FS層22を従来よりもコレクタ電極54に寄せることなく、かつ、FS層22の濃度を従来よりも低くすることなく、大電流短絡耐量を向上させることができる。また、耐圧も向上させることができる。このように、大電流短絡耐量の向上とスイッチング時の発振等の抑制とを両立することができる。
【0085】
なお、本願のように、複数の不純物濃度のピークを有するFS層22を備える場合、ドリフト層12のドナー濃度N
DはFS層22内では一様とはならない。ただし、臨界積分濃度n
cは、空乏層が広がる第1方向における積分量であるので、FS層22における不純物濃度の増減は積分量に吸収される。
【0086】
また、上述の臨界総不純物量の議論は、シリコンに限らず、炭化シリコン(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイアモンド、酸化ガリウム(Ga
2O
3)等のワイドバンドギャップ半導体にも適用可能である。すなわち、数式1を導出するためにはインパクトイオン化係数に、数式2においては比誘電率に、各物質の値を用いれば良い。
【0087】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0088】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。