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特許6562087ワイヤーハーネス及びワイヤーハーネスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562087
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス及びワイヤーハーネスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20190808BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20190808BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20190808BHJP
   H01B 13/012 20060101ALI20190808BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20190808BHJP
【FI】
   C22C21/00 A
   C22F1/04 D
   H01B1/02 B
   H01B13/012 Z
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 627
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686B
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-559210(P2017-559210)
(86)(22)【出願日】2016年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2016088910
(87)【国際公開番号】WO2017115801
(87)【国際公開日】20170706
【審査請求日】2018年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-257102(P2015-257102)
(32)【優先日】2015年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
(72)【発明者】
【氏名】大和田 安志
(72)【発明者】
【氏名】穴見 敏也
(72)【発明者】
【氏名】松島 博実
(72)【発明者】
【氏名】塩田 正彦
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−248857(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/155817(WO,A1)
【文献】 特開平02−129335(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/088825(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
H01B 1/02
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金組成が、0.6質量%以上2.5質量%以下のNiと、0.1質量%以上0.7質量%以下のMgと、0.2質量%以上0.7質量%以下のSiと、残部がAlと不可避不純物からなる導電線を有するワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記合金組成が、
0.1質量%以上0.4質量%以下のCuと、
0.01質量%以上0.05質量%以下のTiと、
0.001質量%以上0.01質量%以下のBと、
からなる群から選択された1種以上の元素を含む、請求項1に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
0.6質量%以上2.5質量%以下のNiと、0.1質量%以上0.7質量%以下のMgと、0.2質量%以上0.7質量%以下のSiと、残部がAlと不可避不純物とからなるアルミニウム合金の撚り線を形成し、
前記撚り線に対して溶体化処理及び時効処理後、
前記撚り線表面に絶縁樹脂を被覆し、
被覆後の前記撚り線を所定の長さに切断した後、切断された前記撚り線の両端に端子を設ける、ワイヤーハーネスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電線用アルミニウム合金、導電線及びワイヤーハーネスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電線に用いられる材料として、特許文献1に開示されているようなアルミニウム合金が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−336549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているようなアルミニウム合金では、固液共存領域の温度範囲が狭く鋳造欠陥を抑制するには、鋳造の際の鋳込み温度の管理を、厳密に行う必要がある。
【0005】
本発明の態様は、鋳造欠陥が抑制される導電線用アルミニウム合金、導電線及びワイヤーハーネスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に係る導電線用アルミニウム合金は、0.6質量%以上2.5質量%以下のNiと、0.1質量%以上0.7質量%以下のMgと、0.2質量%以上0.7質量%以下のSiと、残部がAlと不可避不純物からなる。
【0007】
本発明の態様によれば、固液共存領域の温度範囲が広がり鋳造欠陥が抑制される導電線用アルミニウム合金が提供される。
【0008】
本発明の一態様として、0.1質量%以上0.4質量%以下のCuと、0.01質量%以上0.05質量%以下のTiと、0.001質量%以上0.01質量%以下のBと、からなる群から選択された1種以上の元素が含有されてもよい。これにより、機械的強度が高まる導電線用アルミニウム合金が提供される。
【0009】
本発明の態様によれば、固液共存領域の温度範囲が広がり鋳造欠陥が抑制される導電線用アルミニウム合金が提供される。
【0010】
本発明の他の態様として、導電線は、合金組成が、0.6質量%以上2.5質量%以下のNiと、0.1質量%以上0.7質量%以下のMgと、0.2質量%以上0.7質量%以下のSiと、残部がAlと不可避不純物からなる。
【0011】
望ましい態様として、前記合金組成が、0.1質量%以上0.4質量%以下のCuと、0.01質量%以上0.05質量%以下のTiと、0.001質量%以上0.01質量%以下のBと、からなる群から選択された1種以上の元素を含んでもよい。
【0012】
本発明の他の態様として、ワイヤーハーネスの製造方法は、0.6質量%以上2.5質量%以下のNiと、0.1質量%以上0.7質量%以下のMgと、0.2質量%以上0.7質量%以下のSiと、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金の撚り線を形成し、前記撚り線に対して溶体化処理及び時効処理後、前記撚り線表面に絶縁樹脂を被覆し、被覆後の前記撚り線を所定の長さに切断した後、切断された前記撚り線の両端に端子を設ける。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る態様によれば、鋳造欠陥が抑制される導電線用アルミニウム合金、導電線及びワイヤーハーネスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本実施形態に係るアルミニウム合金の平衡状態図の一例を示す図である。
図2図2は、本実施形態に係るアルミニウム合金の平衡状態図の一例を示す図である。
図3図3は、本実施形態に係るアルミニウム合金の平衡状態図の一例を示す図である。
図4図4は、比較例に係るアルミニウム合金の平衡状態図の一例を示す図である。
図5図5は、プロペルチ連続鋳造圧延機の鋳造機の部分であるベルトアンドホイール鋳造機の全体構造を模式的に説明する説明図である。
図6図6は、円周溝の構造を説明する部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。また、以下で説明する実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0016】
[ワイヤーハーネス]
自動車、電車などの車両、飛行機、ロボットなどの産業機器には、電流又は電気信号を流すための導電線に端子(コネクタ)を取り付けたワイヤーハーネスが用いられている。ワイヤーハーネスの導電線には、導電性のよい銅(Cu)が良く用いられてきた。これに対して、ワイヤーハーネスの導電線が含むアルミニウム(Al)の含有比率を高めると、CuよりもAlの方が鉄合金の特性に影響を与えにくいので、Feのリサイクル(解体時の分別)性が向上する。その結果、産業機器を解体した場合、コストが低減できる。また、Alは、Cuよりも比重が小さいので、ワイヤーハーネスが軽量となり、車両、飛行機などの輸送費用が低減できる。ワイヤーハーネスの導電線が含むAlの含有比率を高めると、Cuの資源枯渇を抑制することができる。
【0017】
ワイヤーハーネスは、送電用電線とは異なり、限られたスペースを縫うように配線されることが多く、そのため線の取り回し(配線のしやすさ)が、重要となる。また、車両のドア部等に用いられるワイヤーハーネスは、ドアの開け閉めのたびに、屈曲するので、耐屈曲性も要求される。ワイヤーハーネスにおいて、φ1mm以下の導電線が撚り加工された撚り線であると、導電線の取り回しが容易となる。また、ワイヤーハーネスにおいて、φ1mm以下の導電線が撚り加工された撚り線であると、導電線の耐屈曲性が高まる。そして、ワイヤーハーネスが撚り線であることにより、同じ断面積を有する1本の線より、表面積を多くできるので、導電率が高くなる。
【0018】
[導電線用アルミニウム合金]
本実施形態の導電線用アルミニウム合金は、0.6質量%以上2.5質量%以下のニッケル(Ni)と、0.1質量%以上0.7質量%以下のマグネシウム(Mg)と、0.2質量%以上0.7質量%以下のシリコン(Si)と、残部がAlと不可避不純物からなる。
【0019】
Al合金において、NiがAlの母相中にはあまり固溶せず、Ni−Al系晶出物(NiAl等)を形成し、導電線の機械的強度の向上に寄与する。機械的強度が向上することにより、伸線加工や撚り加工を行う際に、導電線の断線が起きにくくなる。また、Niは、Al合金に添加した際の電気抵抗を増加させる作用が小さく、更に、Alの母相中にはあまり固溶しないので、導電率の低下も少ない。
【0020】
図1から図3は、本実施形態に係るアルミニウム合金の平衡状態図の一例である。図4は、比較例に係るアルミニウム合金の平衡状態図の一例である。図1に示すアルミニウム合金は、Niが0.7質量%含有され、残部がAlである。図2に示すアルミニウム合金は、Niが1.0質量%含有され、残部がAlである。図3に示すアルミニウム合金は、Niが1.5質量%含有され、残部がAlである。図4に示すアルミニウム合金は、鉄(Fe)が1.5質量%含有され、残部がAlである。
【0021】
例えば、図4に示すアルミニウム合金において、固液共存領域(液相線と固相線間の温度範囲)が654℃以上655℃以下である。これに対して、図1に示すアルミニウム合金は、0.7質量%のNiが含まれると、固液共存領域が640℃以上658℃以下である。このように、本実施形態のアルミニウム合金は、Niが0.7質量%以上含まれると、比較例よりも固液共存領域が大きくなる。
【0022】
図2に示すアルミニウム合金は、1.0質量%のNiが含まれ、固液共存領域が640℃以上657℃以下である。図3に示すアルミニウム合金は、1.5質量%のNiが含まれ、固液共存領域が640℃以上656℃以下である。このように、本実施形態のアルミニウム合金は、0.7質量%以上1.5質量%以下のNiが含有されれば、固液共存領域が16℃以上18℃以下となり、Niの含有量に対して、固液共存領域の変化が小さい。液相温度は、純Alがもっとも高く、Ni含有量がAl−Ni系合金の共晶組成へ相変態する目安である5.5質量%に近づくと液相温度が徐々に低下する。Ni含有量が、5.5質量%を超えると逆に液相温度が高くなっていく傾向にある。本実施形態の導電線用アルミニウム合金組成の場合、Niは共晶組成より少ない亜共晶組成範囲なので、Ni含有量が増加すると液相温度が低下する傾向にある。
【0023】
本実施形態のアルミニウム合金では、比較例のアルミニウム合金よりも固液共存領域が大きいので、鋳造の際の鋳込み温度の管理が容易となり、鋳造欠陥が抑制される。その結果、本実施形態のアルミニウム合金は、比較例のアルミニウム合金よりも鋳造性が向上する。
【0024】
本実施形態のアルミニウム合金において、Niが2.5質量%を超えて含有されると、伸線加工の際に破断の起点となる可能性のある粗大なNi−Al系晶出物ができやすくなる。このため、本実施形態のアルミニウム合金においては、Niが2.5質量%以下であることで、伸線加工の際の破断が抑制されている。本実施形態のアルミニウム合金は、Niが2.0質量%以下であることで、粗大なNi−Al系晶出物が少なくなり、より伸線加工の際の破断が抑制されるので、より好ましい。Niが2.5質量%以下であると、Al母相中へのNiの固溶量が少ないので、純Alの導電率と比較しても導電率の低下が小さい。
【0025】
MgとSiとは、時効処理を行うとともにMg−Si系析出物(MgSi等)を形成し、機械的強度の向上に寄与する。機械的強度が向上することにより、伸線加工や撚り加工を行う際に、導電線の断線が起きにくくなる。本実施形態の導電線用アルミニウム合金において、0.1質量%以上のMgが含有され、0.2質量%以上のSiが含有されると機械的強度増加の効果が顕著となる。本実施形態の導電線用アルミニウム合金において、0.7質量%を超えるMgが含有されると、伸線加工の際に破断の起点となる可能性のある粗大なMg−Si系晶出物ができやすくなる。本実施形態の導電線用アルミニウム合金において、Mgが含有される量を0.7質量%以下とすることで、Alの母相中のMgの固溶量が少なくなり、導電率の低下を抑制できる。本実施形態の導電線用アルミニウム合金において、0.7質量%を超えるSiが含有されると、伸線加工の際に破断の起点となる可能性のある粗大なMg−Si系晶出物ができやすくなる。本実施形態の導電線用アルミニウム合金において、Mgが含有される量を0.7質量%以下とすることで、Alの母相中のMgの固溶量が少なくなり、導電率の低下を抑制できる。
【0026】
本実施形態の導電線用アルミニウム合金では、さらにCuを含有してもよい。Cuは、機械的強度を向上させる作用を有し、さらに時効処理を行うとAl−Cu系析出物(AlCu等)を形成し、さらに機械的強度の向上に寄与する。本実施形態の導電線用アルミニウム合金において、0.1質量%以上のCuが含有されると機械的強度増加の効果が顕著となる。本実施形態の導電線用アルミニウム合金において、0.4質量%を超えるCuが含有されると、変形抵抗性が大きくなり、導電線の伸線性が低下する可能性がある。
【0027】
本実施形態の導電線用アルミニウム合金では、さらにチタン(Ti)及びボロン(B)の少なくとも1種以上を含有してもよい。Ti又はBは、鋳造組織の微細化に寄与する作用を有し、鋳造性及び加工性を向上させる作用を有する。本実施形態の導電線用アルミニウム合金において、0.01質量%以上のTi又は0.001質量%以上のBが含有されると鋳造組織の微細化の作用が顕著となる。本実施形態の導電線用アルミニウム合金において、0.05質量%を超えてTiを含有したり0.01質量%を超えてBを含有したりすると導電性の低下が著しくなる。
【0028】
例えば、本実施形態の導電線用アルミニウム合金は、実質的に、0.6質量%以上2.5質量%以下のNiと、0.1質量%以上0.7質量%以下のMgと、0.2質量%以上0.7質量%以下のSiと、残部のAlとからなる。本実施形態の導電線用アルミニウム合金において、不可避不純物を含んでもよい。本実施形態の導電線用アルミニウム合金は、0.6質量%以上2.5質量%以下のNiと、0.1質量%以上0.7質量%以下のMgと、0.2質量%以上0.7質量%以下のSiと、残部のAlと不可避不純物からなる。
【0029】
不可避不純物は、意図的に添加したものではなく、原料中又は製造工程において不可避的に混入される可能性のある物質である。不可避不純物としては、Fe及びバナジウム(V)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)等がある。
【0030】
Feは、Al合金に含有されると、Al合金の機械的強度を向上する作用を有するが、Feの含有量が多いと導電率を低下させる。Feは、Al−Fe−Si系晶出物を形成し、強度の向上に寄与するMg−Si系析出物の析出を抑制するので、本実施形態のアルミニウム合金では、Feが含有されていてもよいが0.4質量%以下の含有量とする。本実施形態のアルミニウム合金では、Feが含有されていてもよいが、0.1質量%未満のFeとすることで導電率を向上させることができる。
【0031】
Vは、導電性に与える影響が特に大きく、本実施形態の導電線用アルミニウム合金において、0.002質量%を超えるVが含有されると、導電率の低下が大きくなる。本実施形態のアルミニウム合金では、Vが含有されていてもよいが、0.002質量%以下のVとすることで導電率を向上させることができる。不可避不純物には、その他の元素も含まれるが、その他の元素も含有量が多くなると導電率を低下させるので、0.1質量%未満、好ましくは0.05質量%以下に規制することが好ましい。
【0032】
[製造方法]
以下に、上述した実施態様のアルミニウム合金を用いて、ワイヤーハーネスを製造する工程の一例を説明する。
【0033】
(溶解工程)
JIS H2110規格の電気用アルミニウム地金は、添加元素の母合金が添加された後、アルミニウム合金溶湯として溶解される。但し、Ti、Bが微細化材として添加される場合、Ti、Bの母合金が鋳造直前にアルミニウム合金溶湯に添加される。
【0034】
(鋳造工程)
得られたアルミニウム合金溶湯は、成分調整、除滓、脱ガス処理等の溶湯処理が施される。Ti、Bが微細化材として添加される場合、Al−Ti―B合金で形成されたロッドハードナー(微細化材)が鋳造前にアルミニウム合金溶湯に添加される。連続鋳造圧延機は、鋳型部分にアルミニウム合金溶湯を注湯し、実施態様のアルミニウム合金を鋳造すると共に連続圧延を行いφ9.5mmの荒引き線形状に鋳造圧延する。
【0035】
以下、図5及び図6を用いて、鋳造圧延について、詳細に説明する。図5は、プロペルチ連続鋳造圧延機の鋳造機の部分であるベルトアンドホイール鋳造機の全体構造を模式的に説明する説明図である。図5に示すように、ベルトアンドホイール鋳造機と、回転鋳造輪1と、円周溝2と、無端ベルト3と、スパウト4と、ロール5とを備えている。回転鋳造輪1の周面に円周溝2が形成されており、この円周溝2を約200度の角度範囲にわたって蓋をするように、回転鋳造輪1の周面に接触して無端ベルト3が走行される。なお、上記角度範囲は、装置により適宜変更される。
【0036】
図6は、円周溝の構造を説明する部分断面図である。図6に示すように、ロール5により無端ベルト3が回転鋳造輪1の外周面に押し付けられ、無端ベルト3により蓋をされた状態の円周溝2内が鋳造キャビティとなる。
【0037】
後述する組成のアルミニウム合金溶湯がスパウト4により鋳造キャビティ内に連続的に供給される。図示されていない冷却水の供給等の補助により、供給された溶湯は回転鋳造輪1及び無端ベルト3によって冷却され、凝固される。鋳造キャビティに供給されるアルミニウム合金溶湯の温度が高すぎるとうまく凝固せず、鋳造失敗や鋳造欠陥の原因となる。逆に、鋳造キャビティに供給されるアルミニウム合金溶湯の温度が低すぎると鋳造キャビティへ供給する途中で、凝固してしまい、これも鋳造失敗や鋳造欠陥の原因となる。このため、鋳造キャビティへアルミニウム合金溶湯を供給する温度の管理は重要となるが、本実施形態の導電線用アルミニウム合金の場合、固液共存の温度領域が比較的広いので、鋳造時のアルミニウム合金溶湯の温度管理が、容易になる。
【0038】
回転鋳造輪1の回転に伴って、無端ベルト3が円周溝2から外れると、鋳造体6も円周溝2から外れる。そして、円周溝2から完全に離れた時点で鋳造体6の先端部分を少し(10〜20度程度)曲げると、鋳造が進むにつれて、無端ベルト3に再び接触することなく鋳造体6は連続鋳造機から、取り出されていく。このようにして製造された鋳造体6は、鋳造時に酸化物等の巻き込みが少なく、空気に触れて凝固した自由凝固面がないため、全体として酸化物の極めて少ない製品が得られ、次の熱延工程に送られる。
【0039】
連続鋳造機から取り出された鋳造体6は、図示されていない圧延機に導かれる。なお、回転鋳造輪1から取り出された鋳造体6は、円周溝2の曲面に沿って凝固し曲っているので、圧延機に導く前にロール矯正機を通して、鋳造体を真直ぐに矯正することが好ましい。
【0040】
圧延機に導かれた鋳造体6は、まだ相当に高温状態を維持しているので、通常はそのまま熱間圧延して、荒引き線を製造する。圧延機入り口での温度が低すぎる場合、圧延機の前に加熱装置を設けて温度が上昇するように調整することも可能であるが、連続鋳造機での冷却状況を調整し、連続鋳造機の出口での温度を制御することが、コスト的にも好ましい。
【0041】
圧延時には、冷却を兼ねた潤滑剤エマルジョンを使用してもよい。圧延時の断面減少率が小さいと鋳塊中の鋳巣を十分に潰すことができず、荒引き線材の巻き取り時や荒引き線材の巻き取り後の伸線加工時に割れが発生しやすくなる。また、断面減少率が大きいと圧延中の鋳塊の温度低下が激しくなり、荒引き線材が圧延しにくくなる。このため、圧延は、断面減少率60%以上98%以下の範囲で行うことが好ましい。
【0042】
なお、連続鋳造機及び圧延機を用いず、DC鋳造にて円柱状の鋳塊(ビレット)にアルミニウム合金溶湯が鋳造された後、押出加工により、φ9.5mmの中実丸棒に成形してもよい。
【0043】
(伸線加工工程)
上述した鋳造工程により得られた荒引き線が、所定の線径になるように、伸線加工される。伸線加工工程において、必要に応じて所定温度の焼鈍工程を介在させると、伸線加工が行いやすくなる。なお、必要に応じて伸線加工の前、伸線加工の中間、伸線加工終了後に、焼鈍処理が行われる。圧延後、荒引き線を一旦巻き取った後に、再び焼鈍と冷間伸線加工が行われるようにしてもよい。焼鈍処理は、バッチ処理で行っても良いし、通電による連続焼鈍を行っても良い。
【0044】
(撚り加工工程)
伸線加工工程により得られた伸線を複数本撚り合わせる撚り加工工程が行われる。次に、得られた撚り線が所定の断面積になるように圧縮加工が行われる。
【0045】
(溶体化処理工程)
撚り加工工程により得られた撚り線が、溶体化処理された後、水焼き入れが行われる。
【0046】
撚り線が溶体化処理されることにより、鋳造の際に晶出したMg−Si系化合物、又はAl−Cu系化合物が、母相中に固溶し、母相中のMg、Si及びCuの固溶量が増加する。
【0047】
そして、撚り線が水焼き入れにより急冷されることにより、Mg、Si及びCuから選択される1種以上の元素が冷却時に析出することが抑制され、Mg、Si及びCuから選択される1種以上の元素の固溶量が高い状態が維持される。
【0048】
なお、溶体化処理条件としては、0.5時間(hr)以上12時間(hr)以下の間、520℃以上560℃以下の溶体化処理温度を保持することが好ましい。溶体化処理温度が520℃未満の温度であったり、温度保持時間が0.5時間(hr)未満であったりすると、溶体化の効果が小さい。溶体化処理温度が560℃より高温になると局部溶融が発生する可能性がある。また、温度保持時間が12時間(hr)を超えても、Mg、Si及びCuから選択される1種以上の元素の固溶量の変化は見られず、コスト増となる。
【0049】
(時効処理工程)
溶体化処理工程で、溶体化処理をされた撚り線に、時効処理を行う。時効処理を行うことにより、強度向上に寄与する微細なMg−Si系化合物、又はAl−Cu系化合物が析出し、強度が向上するとともに、母相中のMg、Si及びCuの固溶量が低下し、導電率も向上する。好ましい時効条件としては、時効処理温度が150℃以上200℃以下であり、温度保持時間が0.5時間(hr)以上14時間(hr)以下である。時効処理温度が150℃未満であったり、温度保持時間が0.5時間(hr)未満では、析出が十分でない。また、時効処理温度が200℃を超えたり、温度保持時間が14時間(hr)を超えると析出物が粗大化し、伸線性が低下する可能性がある。
【0050】
(被覆)
時効処理を行った撚り線には、絶縁樹脂の被覆が行なわれる。絶縁樹脂の被覆後、撚り線が所定の長さに切断される。撚り線の両端には、端子が設けられ、ワイヤーハーネスが製造される。
【0051】
[実施例]
次に、本発明に係る実施例について説明する。表1に示す組成を有するアルミニウム合金の溶湯を用意し、除滓、脱ガス等の溶湯処理を行った。溶湯処理後、CFF(セラミックフォームフィルター)で、ろ過処理し、連続鋳造圧延法により、φ9.5mmの荒引き線を得た。
【0052】
【表1】
【0053】
得られた荒引き線が、φ3.2mmまで伸線加工された後、焼鈍温度が300℃かつ10時間(hr)で、焼鈍がされる。次に得られた荒引き線が、φ1.0mmまで伸線加工された。得られた導電線には、溶体化処理温度540℃、保持時間10時間(hr)の溶体化処理工程が処理され、水冷される。溶体化処理工程の後、時効処理温度180℃、保持時間10時間(hr)の時効処理工程が処理され、φ1.0mmの導電線の試料を得た。
【0054】
表1に示すように、組成が異なる20種類の導電性用アルミニウム合金について、φ1.0mmの導電線の試料(本願発明の実施例である試料1から12、比較例である試料13から20)を用意し、それら試料のそれぞれについての性能を評価した。なお、各材料の組成は、回転鋳造輪1の直前で採取したアルミニウム合金溶湯を凝固させたサンプルをJIS H1305規格に基づく発光分析法で分析することにより分析可能である。
【0055】
第1の性能評価としては、JIS Z 2241号(1998年)試験に基づき、引張試験が行なわれ、抗張力(Ultimate Tensile Strength,UTS)及び伸びを、測定した。抗張力、伸びの結果が表1に示されている。
【0056】
引張強さは、抗張力を評価し、抗張力が150[MPa]を超える試料を「Y」と評価し、抗張力が150[MPa]以下の試料を「N」と評価した。引張強さの結果が表1に示されている。
【0057】
また、第2の性能評価としては、JIS H0505の試験法により、導電率を測定し、導電率の結果も表1に示されている。導電率が50[%IACS]以上の試料を「Y」と評価し、導電率が50[%IACS]未満の試料を「N」と評価した。
【0058】
また、第3の性能評価としては、φ3.2mmからφ1.0mmに伸線加工する際に、伸線性も確認し、8,000kgのφ3.2mm線をφ1.0mmに伸線する際に断線が起こった試料を「N」、起こらなかったものを「Y」と評価した。
【0059】
実施例1から実施例12は、上述した本実施形態に係る導電線用アルミニウム合金に相当する。
【0060】
比較例13の導電線用アルミニウム合金は、本願発明の実施例1から実施例12の導電線用アルミニウム合金よりも、Ni、Si、Mgの含有量が少なく、引張強さの評価が「N」となる課題がある。
【0061】
比較例14の導電線用アルミニウム合金は、本願発明の実施例である1から12の導電線用アルミニウム合金よりも、Siの含有量が少ないので、Mg−Si系析出物(MgSi等)の形成が少なく、引張強さの評価が「N」となる課題がある。Siの含有量に対して、Mgの含有量が大きく、Alの母相に対してMgの固溶量が大きくなり、導電率の評価が「N」となる課題がある。
【0062】
比較例15の導電線用アルミニウム合金は、本願発明の実施例である1から12の導電線用アルミニウム合金よりも、Mgの含有量が少ないので、Mg−Si系析出物(MgSi等)の形成が少なく、引張強さの評価が「N」となる課題がある。
【0063】
比較例16の導電線用アルミニウム合金は、本願発明の実施例である1から12の導電線用アルミニウム合金よりも、Mgの含有量が多いので、Siの含有量に対して、Mgの含有量が大きく、Alの母相に対してMgの固溶量が大きくなり、導電性の評価が「N」となる課題がある。伸線性の評価が「N」となっているのは、0.7質量%を超えるMgが含有され、伸線加工の際に破断の起点となる可能性のある粗大なMg−Si系晶出物ができやすくなるためと考えられる。
【0064】
比較例17の導電線用アルミニウム合金は、本願発明の実施例である1から12の導電線用アルミニウム合金よりも、Siの含有量が多い。このため、伸線性の評価が「N」となっているのは、0.7質量%を超えるSiが含有され、伸線加工の際に破断の起点となる可能性のある粗大なMg−Si系晶出物ができやすくなるためと考えられる。
【0065】
比較例18の導電線用アルミニウム合金は、本願発明の実施例である1から12の導電線用アルミニウム合金よりも、Niの含有量が多く、Niが2.5質量%を超えて含有される。伸線性の評価が「N」となっているのは、伸線加工の際に破断の起点となる可能性のある粗大なNi−Al系晶出物ができやすくなるためと考えられる。
【0066】
比較例19の導電線用アルミニウム合金は、本願発明の実施例である1から12の導電線用アルミニウム合金よりも、Cuの含有量が多く、Cuが0.4質量%を超えて含有される。伸線性の評価が「N」となっているのは、変形抵抗性が大きくなり、導電線の伸線性が低下するためと考えられる。また、比較例19の導電線用アルミニウム合金は、Cuの含有量が大きく、Alの母相に対してCuの固溶量が大きくなり、導電性の評価が「N」となる課題がある。
【0067】
比較例20の導電線用アルミニウム合金は、本願発明の実施例である1から12の導電線用アルミニウム合金よりも、Feの含有量が多く、Feが0.4質量%を超えて含有される。引張強さの評価が「N」となっているのは、Al−Fe−Si系晶出物を形成し、強度の向上に寄与するMg−Si系析出物の析出を抑制するためと考えられる。
【0068】
以上説明したように、本願発明の実施例1から実施例12の導電線用アルミニウム合金は、0.6質量%以上2.5質量%以下のニッケル(Ni)と、0.1質量%以上0.7質量%以下のマグネシウム(Mg)と、0.2質量%以上0.7質量%以下のシリコン(Si)と、残部がAlと不可避不純物からなる。これにより、実施例1から実施例12の導電線用アルミニウム合金は、機械的強度、伸線性及び導電率が優れている。さらに、Niと、Mgと、Siとの合計含有量は、1.1質量%以上であることが好ましい。Niと、Mgと、Siとの合計含有量は、1.1質量%以上であると、機械的強度の特性を向上させることができる。
【0069】
そして、本願発明の実施例1から実施例12の導電線用アルミニウム合金で形成された導電線は、耐屈曲性も向上する。本願発明の実施例である1から12の導電線用アルミニウム合金で形成された導電線が、φ1mm以下とされ、撚り加工された撚り線であると、ワイヤーハーネスに使用した場合、導電線の取り回しが容易となる。また、ワイヤーハーネスにおいて、φ1mm以下の導電線が撚り加工された撚り線であると、導電線の耐屈曲性が高まる。そして、ワイヤーハーネスが撚り線であることにより、同じ断面積を有する1本の線より、表面積を多くできるので、導電率が高くなる。
【0070】
本願発明の実施例である1から12の導電線用アルミニウム合金は、上述した特許文献1のアルミニウム合金よりも固液共存領域の温度範囲が広がり、鋳造の際の鋳込み温度の管理が容易となり、鋳造欠陥が抑制される。
【0071】
以上、本願発明の種々の有用な実施例を示し、かつ、説明を施した。本願発明は、上述した種々の実施例や変形例に限定されること無く、この発明の要旨や添付する特許請求の範囲に記載された内容を逸脱しない範囲で種々変形可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0072】
1 回転鋳造輪
2 円周溝
3 無端ベルト
4 スパウト
5 ロール
6 鋳造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6