(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インサート本体の前記表面と裏面のそれぞれに設けられた円弧状の切れ刃の中心を通る垂直断面にて、前記表面または裏面と前記周側面とがなす角が76〜85°である、請求項2に記載の切削インサート。
前記切れ刃は、前記インサート本体の前記表面と裏面のそれぞれに設けられた切れ刃の中心を通る当該インサート本体の垂直断面に対する垂直視にて、前記表面または裏面に対して3〜15°の角度をなす、請求項2または3に記載の切削インサート。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のごとき従来の切削工具においては、切削加工中に切削インサートがずれ動くことがあるという問題、単機能工具に比較して工具剛性が低いという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、これらの問題を解消することを可能とした切削インサートと該切削インサートを備えたホルダおよび切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、穴あけ加工と旋削加工の両方に用いられる切削インサートであって、
表面および裏面の外郭形状が平行四辺形状であるインサート本体と、
該インサート本体の四辺に配置された周側面と、
前記インサート本体の表面および裏面と前記周側面とのそれぞれの交差稜線に設けられた切れ刃と、
前記表面と前記裏面に対し傾斜して前記インサート本体に設けられている、取付に利用可能な穴と、
を備える、切削インサートである。
【0007】
多機能な切削工具を構成する上記のごとき切削インサートにおいては、対向する周側面を互いに平行あるいはこれに近似した状態の2組の面で構成することができる。このような構成の切削インサートは、インサート厚み(表面と裏面との距離)を確保しやすい。すなわち、側面視台形といったテーパ形状の切削インサートの場合、インサート厚みを増せばそのぶん幅方向には窄んで徐々に幅狭となり穴の周りの厚みが十分でなくなることが起こり得るのに対し、対向する周側面が平行あるいはこれに近似した状態である場合には、穴の周りの厚みが極端に薄くなることを回避しやすい。したがって、穴の周りの厚みが極端に薄くなることを回避しつつインサート厚みを増すことができる。インサート厚みを増すことができれば剛性を高めることができ、例えば、従来のごとき側面視台形の切削インサートに比して欠損等しづらい構成とすることが可能となる。
【0008】
ここで、インサート厚み(穴の周りの厚みを含む)についてのより詳細な説明を以下に記しておく。本発明の一態様の切削インサートにおいては、下記(i)〜(v)に示す事情ないし理由から、インサート厚みを増すことが不利に働きにくく、このため、多機能工具においてインサート厚みを増した切削インサートを実現することに適している。すなわち、
(i) 旋削におけるポジインサートは厚くすると、逃げ面が有する角度(逃げ角)分だけ、切削コーナから支持面が後退する。
(ii) 従来の多くの穴あけ工具は、中心刃と外周刃で二つのインサートを使用し,中心刃側は芯下がり(工具中心より切れ刃が低い)、外周刃側は芯上がり(工具中心より切れ刃が高い)の方が耐欠損性の面で好ましい。
(iii) 本態様の多機能工具においてインサートを2つ使用すると、旋削加工時、単機能工具に比較して工具本体の剛性が極端に下がる。このためインサートは一つの切れ刃上に中心刃、外周刃を搭載する必要が有る。
(iv) 一つの切れ刃上で上記(ii)を満たすためには、工具搭載時に工具中心に向かって切れ刃の高さを低くする必要が有り、インサートは工具外側に向かうほど、切れ刃が高くなるように傾斜することが好ましい。
(v)上記(iv)の切れ刃を有するインサートは中心刃側で十分な厚みを有する必要が有るが、十分な厚みをポジインサートに付与すると穴周りが薄くなる。
【0009】
上記のごとき切削インサートにおいて、表面と裏面に対し傾斜した穴の軸線が、周側面のうちの少なくともいずれか、または周側面の一部分と平行であってもよい。
【0010】
上記のごとき切削インサートにおいて、軸線が、周側面のいずれに対しても平行であってもよい。
【0011】
上記のごとき切削インサートにおいて、切れ刃が、インサート本体の中央の位置を中心に点対称に配置されていてもよい。
【0012】
上記のごとき切削インサートにおいて、インサート本体の表面と裏面のそれぞれに設けられた円弧状の切れ刃の中心を通る垂直断面にて、表面または裏面と周側面とがなす角が76〜85°であってもよい。
【0013】
上記のごとき切削インサートにおいて、切れ刃は、インサート本体の表面と裏面のそれぞれに設けられた切れ刃の中心を通る当該インサート本体の垂直断面に対する垂直視にて、表面または裏面に対して3〜15°の角度をなすものであってもよい。
【0014】
上記のごとき切削インサートにおいて、対向する周側面が互いに平行な面であってもよい。
【0015】
上記のごとき切削インサートにおいて、表面に垂直な平面視または裏面に垂直な底面視にて、少なくとも2辺が切れ刃として機能する形状であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る切削工具の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る切削インサート10は、一つの切削工具で穴あけ加工と旋削加工の両方に用いられるインサートであり、インサート本体11に設けられた切れ刃22、穴28などを備えている(
図1等参照)。
【0019】
本実施形態に係る切削インサート10は、外郭形状が平行四辺形状であるインサート本体11を含み、略菱形板状である(
図1、
図2等参照)。切削インサート10は、対向する2つの略菱形の端面12、14と、これら2つの端面12、14間に延在する周側面16とを有する。
【0020】
周側面16は、インサート本体11の端面12と端面14間の四辺に配置されている。周側面16は、いずれも、端面12、14に対して傾斜している。別言すれば、端面12、14は、周側面16と平行な方向に対して傾斜している。
【0021】
切削インサート10では、2つの端面12、14のうちの一方の端面12は例えば表面(本明細書では上面ともいう。以下の説明及び図中において符号18を付して表す)であり、他方の端面14は裏面(本明細書では下面ともいう。以下の説明及び図中において符号20を付して表す)であって切削工具100のホルダ(切削工具ボデー)101に設けたインサート取付座104の底面に当接する着座面として機能するように構成されている(
図12等参照)。なお、本明細書でいう表面(上面)、裏面(下面)という表現は便宜的なものにすぎず、これによって鉛直方向上下の配置が決まるものではないし、上下を入れ替えて切削インサート10を使用することを妨げるものでもない。また、切削インサート10の部分断面について、本実施形態における特徴のひとつを表す構造を
図8等においてわかりやすく示す。
【0022】
切れ刃22は、表面18の鋭角をなす切削コーナ部18cの稜線部に関し、切削インサート10の表面18にある2つの鋭角部分のうちの一方の切削コーナ部18c、鈍角をなす切削コーナ部18dに形成されており、鋭角をなすコーナ部、鈍角をなすコーナ部、直線部を有する。なお、本発明は、1つの端面に関して形成される切れ刃の数を限定しない。1つの端面に関して形成される切れ刃の数は、1つでも、複数でもよい。
【0023】
本実施形態において、切れ刃22は表面18と周側面16との交差部、別言すれば交差稜線に形成されており、また、表面18のすくい面24と、周側面16の逃げ面26との間に延在する。ただし、逃げ面26は、一方の端面12(表面18)に対して実質的に鋭角をなし、正の逃げ角を有している(
図4等参照)。逃げ角は20°以下に設定されるとよく、本実施形態の切削インサート10では、一例として7°に設定されている。なお、部分的に逃げ角が異なってもよく、例えば
図4に示されている位置では逃げ角が14°である。
【0024】
表面18の切れ刃22は、裏面20に近づくように傾斜するように形成されている(
図3、
図4参照)。逃げ面26に向かって水平方向から見た傾斜角度は7°である。切れ刃22は、円弧状切れ刃22aと直線状切れ刃22bとを含む(
図5、
図6等参照)。円弧状切れ刃22aは、表面18の鋭角をなす切削コーナ部18cの稜線部に形成されている。円弧状切れ刃22aは円弧状をなす(
図6等参照)。円弧状切れ刃22aを構成する円弧の曲率半径の好適な範囲は0.2〜1.2mmであり、一例として本実施形態では0.4mmである。
【0025】
また、本実施形態の切削インサート10における切れ刃22に関してさらに説明すると以下のとおりである。すなわち、インサート本体11の表面18と裏面20のそれぞれに設けられた切れ刃22の中心(代表的には、表面18、裏面20において左右に配置された切れ刃22の中心位置のことであり、本実施形態であれば円弧状切れ刃22aの中心位置)を通る当該インサート本体11の垂直断面である二等分面B(
図2参照)を考え、当該二等分面Bによる垂直断面を垂直視した場合に、表面18または裏面20に対する切れ刃22の角度εは、3〜15°の範囲内にある(断面図ではない
図4を参照)。一つの切削工具で穴あけ加工と旋削加工の両方に用いられる多機能工具としての切削インサート10は、従来のごとき形状であれば角度εの範囲が制限されることがあるが、本実施形態のごとき構造であればそのような制限の影響を排除して適切な角度εを実現することが可能となる。
【0026】
直線状切れ刃22bは、この円弧状切れ刃22aに連続するように延在する。直線状切れ刃22bは、円弧状切れ刃22aの両端から延在する。つまり、1つの切れ刃22につき2つの直線状切れ刃22bがある。これら円弧状切れ刃22aと直線状切れ刃22bとが被削材に切り込む切れ刃22となる。上記のごとき切削インサート10は、表面18に垂直な平面視または裏面20に垂直な底面視した場合に、切れ刃22として機能する2辺の直線状切れ刃22bが見える構造となっている。なお、特に図示してはいないが、1つの端面(すなわち、表面18と裏面20のいずれか)に関して形成される切れ刃22の数が複数である場合には、表面18に垂直な平面視または裏面20に垂直な底面視したとき、切れ刃22として機能する3辺以上の直線状切れ刃22bが見える構造となることもある。
【0027】
本実施形態の切削インサート10においては、表面18および裏面20の外郭形状が平行四辺形状であるインサート本体11の表面18と裏面20とにそれぞれ切れ刃22が設けられている。これら切れ刃22は、インサート本体11の中央を中心として対称となる位置に配置された、いわば180°回転対称形状であり(
図4等参照)、ホルダ101に切削インサート10を取り付けて一方の切れ刃22を露出させた使用状態において、もう一方の切れ刃22はホルダ101のインサート取付面の近傍に位置し、露出しない(
図12参照)。このため、未使用状態の切れ刃22は損傷しづらい。従来構造の切削インサートないしは切削工具においては、種々の加工形態において露出している未使用の切削コーナ部が損傷することが生じ得たのに対し、本実施形態の切削インサート10によれば、このような問題を解消することが可能である。また、本実施形態の切削インサート10によれば、使用コーナを変えることで、同じ加工に同様の切れ刃22を少なくとも2回使用することができる。
【0028】
ホルダ101には、未使用状態の切れ刃22との接触を回避する凹部108が形成されている(
図13参照)。切削インサート10を裏返した後の、使用後の切れ刃22もまたこの凹部108においてホルダ101との接触が回避されることはいうまでもない。
【0029】
切削インサート10には、その厚み方向に両端面12、14を貫通する穴28が形成される。本実施形態では、2つの端面12、14を垂直に、かつインサート本体11の中心位置を貫通するように延びる軸線Aが定められ(
図3等参照)、穴28の中心軸線は、軸線Aに対して傾斜した中心軸線Cに一致する。このように、穴28が、インサート本体11の表面18と裏面20に対し傾斜して設けられている場合、この穴28の傾きをホルダ101のねじ穴(締付穴)106の傾きに一致させないと、当該インサート本体11を当該ホルダ101に取り付けることができない(
図13、
図14参照)。この結果、切削インサート10を誤った状態でホルダ101に取り付けること、別言すれば切削インサート10の取付時のイージーミスの発生を抑制することができる。傾きは、例えば、5°以上20°以下の範囲である。
【0030】
上記の中心軸線Cは、周側面16のうちの少なくともいずれかと平行とされる。本実施形態の切削インサート10においては、いずれの周側面16に対しても中心軸線Cが平行となるよう構成されている(
図3、
図4、
図11参照)。ただしこれは好適な一例にすぎず、この他、例えば、中心軸線Cは、周側面16の一部分と平行となるように構成されていてもよい。これには、例えば、周側面16のすべてが平面ではなくその一部に曲面が含まれるような場合に、当該周側面16の一部分(の接線)と平行であるような場合が含まれる。
【0031】
本実施形態の切削インサート10のごとく、対向する周側面16を互いに平行(完全に平行ではないにしてもこれに平行に近似した状態であってもよく、以下、このような状態を含むものとして説明する)な2組の面で構成し、かつ、穴28の中心軸線Cをこれら周側面16と平行な構造とした場合には、穴28の周りの厚みが極端に薄くなることを避けることができる。すなわち、表面と裏面とで面積が大きく異なる側面視台形のテーパ形状の切削インサートであれば、インサート厚みを増すにしたがって幅方向に窄み徐々に幅狭となり、穴の周りの厚みを十分に確保することが難しくなることから厚み増大には限度があるのに対し、本実施形態の場合は、穴28の周りの厚みを一定あるいは変化が極めて少ない状態にすることができる。したがって、切削インサート10のインサート厚みを増大させやすい。インサート厚みを増大させた切削インサート10は剛性が増し、欠損等しづらくなる。このような切削インサート10は、切削加工中に切削インサートがずれ動くことがあるという問題を、締付力を強くすることによって解消することを可能とする(
図13、
図14参照)。また、このような切削インサート10は、穴あけ加工、内外径切削加工を可能とする多機能工具の工具剛性が、単機能工具のそれに比較して低い(穴あけ加工時のインサート保持力の点において多機能工具は単機能工具のそれに比較して低い)という問題を解消することも可能とする。このような切削インサート10によれば、適宜、切れ刃に対してインサート厚みを制御ないし最適化することも可能となる。
【0032】
表面18にはボス面30が存在する。これらボス面30は、円弧状切れ刃22aおよび直線状切れ刃22bより高位にあって、また、同一平面上にある。つまり、軸線Aに直交すると共に切削インサート10を上下に2等分するように周側面16を通過する平面(以下、中央平面)Mを定義するとき(
図3、
図4参照)、ボス面30と中央平面Mとの距離は、円弧状切れ刃22aおよび直線状切れ刃22bを含む切れ刃22と中央平面Mとの距離よりも長い。そして、全てのボス面30は中央平面Mに平行な平面上に延在する。
【0033】
表面18の円弧状切れ刃22aおよび直線状切れ刃22bの内側領域には、チップブレーカ突起部(以下、単に突起部ともいう)32が形成されている。突起部32の切れ刃22側を向く面32aは、上記すくい面24と共に、切れ刃22に沿って延在する凹部34を表面18に区画形成する。凹部34はチップブレーカ溝と称され得る。また、突起部32の面32aは凹部34から立ち上がる壁面なので以下、立ち上がり壁面と称される(以下、単に壁面とも称する)。すくい面24と、壁面32aとは、切れ刃22の任意の部分で切れ刃22に直交する断面において凹部34を有するように、切れ刃22のほぼ全てに沿って延在している。
【0034】
壁面32aはすくい面24とともに切れ刃22に沿う凹部を形成するように延在する面であり、第1壁面32a1と第2壁面32a2を有する(
図6等参照)。
【0035】
第1すくい面24aは、インサート本体11の表面18と裏面20のそれぞれの切れ刃22の円弧状切れ刃22aの中心を通る当該インサート本体11の垂直断面である二等分面B(切削インサート10の切れ刃22の垂直断面)上の位置において、表面18または裏面20と周側面16との間で、逃げ面26に対する一定の角度γを有する。角度γは、好適な範囲が例えば60〜87°であり、さらに好適な範囲が例えば76〜85°であり(
図11参照)、本実施形態では切削コーナ部18cの切れ刃22と二等分面Bとの交点においてγ=76°である(
図7参照)。
【0036】
切削コーナ部18cは第1すくい面24aに加えて第2すくい面24bを有する。第2すくい面24bは、切れ刃22の垂直断面において、第1すくい面24aと所定の角度δ、例えば5°〜20°の角度を有し、すくい面24に延在する(
図7参照)。
【0037】
凹部34のうち、円弧状切れ刃22aおよび直線状切れ刃22bから凹部34の最底部に向けて延びる面は、上記すくい面24となる。このすくい面24は、切れ刃22から内側へ離間するにつれ漸次下方へ陥没するようにつまり上記中央平面Mへ近づくように傾いた傾斜面である。このようにすくい面24は正のすくい角を有するように形成されている。
【0038】
このすくい面24は実質的に2つの面から構成されている。すくい面24は切れ刃22に直交する方向において切れ刃22から離れる方向に順に配置された第1すくい面24aおよび第2すくい面24bを有する。第1すくい面24aはすくい面24の1つの領域であり、すくい面24の第1領域である。第2すくい面24bはすくい面24のもう1つの領域であり、すくい面24の第2領域である。
【0039】
また、本実施形態の切削インサート10は、内接円寸法が例えば約6mm(6.3mm)、厚さが約3mm(2.8mm)、コーナ半径が約0.4mm、穴径は約2mmである。ただし、これらが切削インサート10の具体的な寸法の一例であることはいうまでもない。
【0040】
さらに、本実施形態の切削インサート10は、刃先近傍が内径、外径、端面、穴あけ加工に用いられうる形状とされ、穴あけ加工と旋削加工とを同じ切れ刃で加工できるように構成されたものでもある。以下、この構成について説明する(
図9等参照)。
【0041】
なお、本明細書では、切削インサート10の中央平面Mに垂直な方向における(別言すれば、軸線Aに平行な方向における)切れ刃22の円弧状切れ刃22aと凹部34の最底部(最深部)34aとの距離(寸法、あるいは高さ)をブレーカ深さと呼び、符号Bdで表す(
図8参照)。また、中央平面Mに垂直な方向における切れ刃22の円弧状切れ刃22aと第2壁面32a2の上端つまり突起部32との距離(寸法、あるいは高さ)をブレーカ高さと呼び、符号Bhで表す(
図8参照)。
【0042】
本実施形態の切削インサート10における立ち上がり壁面32aは以下のように形成されている。すなわち、第2すくい面24bが形成されることで、ブレーカ高さBhが、穴あけ加工時における切屑Zが第2壁面32a2の外側へ誘導される高さとなり(
図9参照)、尚かつ、ブレーカ深さBdは、旋削加工時における切屑Zが凹部34に入り込むように誘導される深さとなっている(
図10参照)。このような機能を実現するブレーカ高さBhとして好適な数値範囲は0.1mm〜0.8mm、より好適な範囲は0.3mm〜0.5mmである。このように、第2すくい面24bにてブレーカ深さBdを増大することで、突起部32の高さを安易に低減するのではなく、旋削時の切屑Zに関しては、従来形状と同等のブレーカ深さBdを保持しつつ、穴あけ加工時の切屑Zに関してはブレーカ高さBhを低減する(
図9、
図10等参照)ことが可能となる。なお、切屑Zを処理するにあたっては、基本的にはブレーカ高さBhを低減することが上記のごとく奏功する。ブレーカ深さBdは補助的なパラメータであって、切屑Zが凹部34に引き込まれることで、相対的な高さが増す。
【0043】
すくい面24を、第1すくい面24a及び第2すくい面24を有する二段構成とし、突起部33の相対的な高さを下げることで、従来構造よりもブレーカ高さBhを低減させ得る構成を実現することができ、こうすることにより、旋削加工時の切屑Zの処理性を阻害することなく(
図10参照)、穴あけ加工時における切屑Zの排出性を向上させることが可能となる(
図9参照)。本実施形態においては、切削コーナ部18cの近傍のみ、すくい角が大きくなる2段すくい面にすることで、切削コーナ部18cの近傍の切れ刃22のみを用いる旋削加工のみで突起部32が効くようにしている。すなわち、第2すくい面24bによって凹部34を深くしやすくなる(ブレーカ深さBdを深くしやすくなる)ので、相対的に、同じブレーカ突起の高さでも(つまり、ブレーカ高さBhが従来のものと同じだとしても)、チップブレーカ溝の高さが高くなった場合と同様の効果が得られるようになる。なお、切削コーナ部18cの近傍に具体的な数値範囲があるわけではなく、当該切削インサート1の構造、切削の態様、切削対象などに応じ、「近傍」の具体的な範囲は変わりうる。あくまで一例として例示すれば、「近傍」は例えば切削コーナ部18cから距離が1mm以内の範囲であるが、先述のごとく旋削加工時の切屑Zの処理性を阻害することなく、かつ、穴あけ加工時における切屑Zの排出性を向上させることが可能であれば、「近傍」の範囲が具体的なある数値範囲に限定されることはない。
【0044】
一般に、突起部33は、最適な状態で切屑Zを出すような形状とされており、従来の切削インサート(切削工具)であれば、通常、穴あけ加工時の切屑Zと旋削(穴広げ)加工時の切屑Zとが同じ経路を辿り、チップブレーカに当たる。この点、本実施形態では、穴あけ加工と旋削加工とで、切屑Zがチップブレーカを構成する面(立ち上がり壁面32a)に当たるか当たらないか、別言すれば切屑Zが凹部(チップブレーカ溝)34に入るか入らないかをコントロールできる形状(さらに別言すれば、壁面を使うか使わないかを選択できる形状)を実現している。具体的には、以上の説明から明らかなとおり、本実施形態の切削インサート10では従来構造よりもブレーカ深さBdが深く、ブレーカ高さBhが低い。ブレーカ深さBdは例えば0.05mm〜0.5mmであり、好ましくは0.08mm〜0.2mmである。
【0045】
なお、旋削加工時における切屑Zをより細かに切断するという観点からすれば、本明細書でいう水平方向における切れ刃22から立ち上がり壁面32aまでの距離が短くなるように凹部34を構成してもよい。当該距離が短ければ、切削条件が変わった場合にも切屑Zが立ち上がり壁面32aに当たりやすい。なお、主に対応する切削条件は、切込みapと送りfである。なおかつ、水平方向における切れ刃22から立ち上がり壁面32aまでの距離が短い方が有利なのは、「切込みapが小さい」場合および「送りfが小さい」場合である。
【0046】
以上、説明した切削インサート10は、ホルダ101に設けたインサート取付座104に着脱可能に装着される(
図12参照)。切削インサート10は、着座面としての機能を有する裏面20と周側面16のうちの少なくとも一部とをインサート取付座104の底面と壁面とに夫々当接させて、インサート取付座104に載置される。インサート取付座104にはねじ穴106が形成されている。切削インサート10の穴28に係合するまたは貫通するねじ200がインサート取付座104のねじ穴106に螺合されることで、切削インサート10はホルダ101に着脱可能に固定される。
【0047】
ホルダ101は、ドリル加工が可能なように切屑排出溝102を有する(
図12参照)。ホルダ101のシャンク径(対応スリーブの内径)は、例えば約20mmである。工作機械にスリーブを介してホルダ101を固定し、内径、外径、端面、穴あけ加工を行うことができる。
【0048】
なお、切削インサート10をホルダ101へ取り付ける取付機構または手段はこのような構成に限定されない。他の機械的または化学的な機構または手段が取付機構または手段として採用され得る。
【0049】
上記した、対向する端面の両方を選択的に表面として使用する両面使用可能な切削インサート10の場合、一方の端面(端面12または端面14)がインサート取付座104の底面に当接し得る。
【0050】
ホルダ101に装着された切削インサート10において、切削加工時、表面18はワークの回転方向を向けられる。このとき、穴あけ加工および内外径旋削加工の際は軸方向先端側の切れ刃22を主切れ刃とし、端面加工の際は外周方向に延びる切れ刃22を主切れ刃とする。また、この切削加工時、作用切れ刃22のうちの他方の直線状切れ刃22bおよびこの他方の直線状切れ刃22bに隣接する円弧状切れ刃22aの上記横切れ刃として機能しない残りの部分は、被削材の加工面側に面した前切れ刃として機能する。なお、作用切れ刃とは、切削インサート10が装着された切削工具において、切れ刃22の中で被削材に切り込まれる部分つまり切削に関与し得る切れ刃である。
【0051】
この切削インサート10は、例えば被削材の回転中心線に平行な方向に送りを与えられて、回転中心線まわりに回転する被削材の外周面を旋削加工するために用いられる。この場合、上記横切れ刃は、回転中心線に直角の方向(切込み方向)で切込み全体にわたって被削材に接触して切削を主に担うことができる。前切れ刃は、この場合、被削材の加工面に接触して該加工面の形成を担うことができる。
【0052】
以上に説明した切削加工において、切削インサート10の横切れ刃で主に生成した切屑Zは、該横切れ刃から立ち上がり壁面32a側に向かって流れる。このとき、切屑Zは、第1すくい面24aの表面に接触しながら該第1すくい面24a上を通過する(
図10等参照)。
【0053】
また、多機能工具である切削インサート10においては、先述のごとき作用効果に加えて、本実施形態のごとく第1すくい面24aのすくい角よりも第2すくい面24bのすくい角を大きくすることで、第2すくい面24bに切屑Zを接触させずに切屑処理ができる場合もある(
図9参照)。その場合、このようなすくい面の構成はさらに切削抵抗の低減に寄与する。したがって、切削インサートおよび切屑Zの発熱を抑制できる。また、この場合、切屑Zと切削インサートとの接触面積が少ないので、切屑Zに発生した熱が切削インサートへ伝播することを抑制できる。したがって、切削インサートの表面温度の上昇を抑制可能である。
【0054】
一方で、単純にすくい面24のすくい角を大きくしただけでは、一般に刃先強度が低下する。これに対して、本実施形態の切削インサート10では、第1すくい面24aの大きさ(切れ刃22からの長さ)を小さくし、よりすくい角の大きい第2すくい面24bが第1すくい面24aに隣接形成される。したがって、刃先強度の低下を最小限に抑えることができる。
【0055】
第1すくい面24a上を通過した切屑Zは、第2すくい面24b上へ流れる。第2すくい面24bのすくい角αbは第1すくい面24aのすくい角αaよりも大きい。つまり、すくい面24は凸状を呈する。したがって、第1すくい面24aから第2すくい面24bにかけて流れる切屑Zは、第2すくい面24bの表面に積極的にまたは実質的に接触することができない。故に、切屑Zの温度上昇が抑制されるとともに、切屑Zとすくい面との間の擦過抵抗が大幅に抑えられる。したがって、切削インサートの工具寿命を向上させることができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態に係る切削インサート10を説明したが、それらには種々の変更が適用され得る。切削インサート10の表面等の形状は、菱形だけでなく正方形、長方形、平行四辺形、三角形などの略多角形に変更可能である。つまり、切削インサート10は、略多角形板状であり得る。また、切削インサート10は、種々の材料から製作され得る。円弧状切れ刃および直線状切れ刃の少なくとも一部は、超硬合金、サーメット、セラミックなどの硬質材料、ダイヤモンド焼結体、立方晶窒化硼素焼結体などの超高圧焼結体、または、これらの硬質材料もしくは超高圧焼結体にCVD法、PVD法等により周期律表4A、5A、6A族金属の炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、炭窒酸化物、硼窒化物、硼炭窒酸化物、酸化アルミニウム及び窒化チタンアルミニウムよりなる群から選ばれる被腹膜、もしくは、非晶質炭素薄膜等をコーティングしたもので構成されるとよい。
【0057】
また、上記実施形態で説明した第2すくい面24bは平面には限らず、例えば、一定のすくい角をもたない曲面(例示すれば、円筒面のような曲面)で構成されていてもよい。同様に、上記実施形態で説明した第1すくい面24aもまた平面には限らず、例えば、一定のすくい角をもたない曲面で構成されていてもよい(後述の変形例、
図14参照)。
【0058】
また、突起部32や、面32a(第1壁面32a1、第2壁面32a2)の形状は、対象とする切削条件に応じて、様々な変更が可能である
【解決手段】穴あけ加工と旋削加工の両方に用いられる切削インサート10である。切削インサート10は、表面12および裏面14の外郭形状が平行四辺形状であるインサート本体11と、該インサート本体11の四辺に配置された周側面16と、インサート本体11の表面12および裏面14と周側面16とのそれぞれの交差稜線に設けられた切れ刃22と、表面12と裏面14に対し傾斜してインサート本体11に設けられている、取付に利用可能な穴28と、を備える。