【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、原フィラメントが延伸されることによって、ナノフィラメントの領域までに極細化される延伸装置内で製造されるナノフィラメントウェブから極細マルチフィラメント糸を得ることにある。本発明における原フィラメントとは、既にフィラメントとして製造されて、リール等に巻き取られたものである。また紡糸過程において、溶融または溶解フィラメントが冷却や凝固によりフィラメントとなったものを紡糸過程に引き続き使用され、本発明の原フィラメントとすることもできる。ここでフィラメントとは、実質的に連続した繊維であり、数ミリメータから数十ミリメータの長さである短繊維とは区別される。原フィラメントは、単独で存在することが望ましいが、数本ないし数十本に集合されていても使用することができる。
【0007】
本発明において延伸されたフィラメントは、全てフィラメントと表現するが、延伸された結果、上記ファイバーの領域に属するものも含まれる。本発明における延伸されたフィラメントは、殆ど延伸切れすることがないので、フィラメントの長さも数m以上であり、フィラメント径dが小さいことを考慮すると、実質的に連続フィラメントと見なすことができる場合が殆どである。しかし、条件によっては、上記ファイバーの領域に属する短繊維も製造することができる。
【0008】
本発明における原フィラメントは、一本のフィラメントからなるシングルフィラメントである場合と、複数のフィラメントからなるマルチフィラメントである場合が含められる。本発明においては、延伸されたフィラメントは数ミクロン領域の極細フィラメントの領域から1ミクロン未満のナノフィラメント領域のフィラメントを原料にして極細のマルチフィラメント糸が製造される。
【0009】
本発明の原フィラメントは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、脂肪族ポリエステルおよびポリエチレンナフタレートを含むポリエステル、ナイロン(含むナイロン6、ナイロン66)を含むポリアミド、ポリプロピレンやポリエチレンを含むポリオレフィン、ポリビニルアルコール系ポリマー、また、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などを含むフッ素系ポリマー、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の耐熱性のポリマーにも適用される。特に、生分解性ポリマーであるポリ乳酸(PLLA)や生体内分解吸収性ポリマーであるポリグリコール酸などは、他の手段ではナノフィラメント化が困難とされているので、本発明の手段が有効である。
【0010】
本発明においては、フィラメントの送出手段から送り出された原フィラメントについて延伸が行われる。送出手段は、ニップローラや数段の駆動ローラの組み合わせなどの一定の送出速度でフィラメントを送り出すことが出来るものであれば種々のタイプのものが使用できる。
【0011】
本発明において、送出手段から送り出されてくる原フィラメントは、多錘であることを特徴とする。多錘とは、独立して行動するフィラメント又はフィラメントの束が複数本存在することを意味する。複数本は、2本から数100本を意味する。
【0012】
フィラメントの送出手段より送り出された多錘の原フィラメントは、さらにオリフィスを通して、オリフィス中を原フィラメントの走行方向に流れる気体によって送られる。原フィラメントがこのフィラメント送出手段を経てオリフィスに送り込まれるまでは、P1気圧の雰囲気下で行われ、P1気圧下の状態に保たれている場所を原フィラメント供給室とする。P1が大気圧のときは、特に圧力を一定にする囲いは必要ない。P1が加圧下や減圧下の場合は、その圧力を保つための囲い(部屋)が必要であり、加圧ポンプまたは減圧ポンプも必要となる。なお本発明では、オリフィス入口部がP1であることが必要であるが、原フィラメントの貯蔵部、原フィラメントの送り出し部分は、必ずしもP1気圧である必要はない。しかし、それらを別々の部屋を設けるのは煩雑であるので、それらの部分が同一気圧であることが好ましい。
【0013】
オリフィスの出口以降は、P2気圧下に保たれ、オリフィスから出てきた原フィラメントを赤外線光束(ビーム)によって加熱することによって延伸される延伸室となる。原フィラメントは、P1気圧の原フィラメント供給室とP2気圧下の延伸室との圧力差(P1−P2)によって生じるオリフィス中を流れる空気の流れによってオリフィス中を送られていく。
【0014】
P1とP2の気圧の差は、P1>P2である。そして、実験の結果、P1≧2P2であることが好ましく、さらに好ましくはP1≧3P2、P1≧5P2であることが最も好ましいことがわかった。
【0015】
本発明は、P2が減圧下(大気圧未満の圧力)で行われることを特徴とする。そうすることにより、P1を大気圧で実施でき、装置を著しく簡便に出来、また、減圧は比較的簡便な手段であるからである。さらに、オリフィスからエアーが減圧下に噴出されることにより、通常存在する大気圧のエアーに邪魔されることないので、噴出されるエアーも、それに伴うフィラメントも非常に安定し、その結果、延伸性が安定し、ナノフィラメント領域までの延伸が可能になる。さらにもう一つの特徴として、本発明ではインターレースノズルを使用するが、通常のインターレースノズルは圧縮エアーを必要とする。しかし、本発明のインターレースノズルは減圧下の延伸室内で使用されるため、圧縮エアーは必要とせず、インターレースノズルの圧縮エアー挿入口を延伸室外の外気に配管するのみでよく、コンプレッサーも必要とせず、省エネルギーでもある。このような簡便な手段で、ナノミクロン領域のフィラメント糸が得られることに本発明の特徴がある。
【0016】
なおP1またはP2は、通常室温の空気が使用される。しかし、原フィラメントを予熱したい場合や、延伸したフィラメントを熱処理したい場合は、加熱エアーも使用される。また、フィラメントが酸化されるのを防ぐ場合は、窒素ガス等の不活性ガスが使用され、水分の飛散を防ぐ場合は、水蒸気や水分を含む気体も使用される。
【0017】
本発明における原フィラメント供給室と延伸室は、オリフィスによってつながっている。オリフィス中では、原フィラメントとオリフィス内径との間の狭い隙間に、P1>P2の圧力差で生じた高速気体の流れが生じる。この高速気体の流れを生じるために、オリフィスの内径Dと繊維の径dとは、あまり大きくかけはなれてはならない。実験結果、D>dであって、D<30d、好ましくはD<10d、さらに好ましくはD<5dであってD<2dであることが最も好ましい。
【0018】
オリフィス内を高速の気体が流れるので、オリフィスの内部は抵抗の少ない構造が望ましい。本発明のオリフィスの形状は、1本1本独立したものも使用されるが、板状物に多数の孔を開けて多錘のオリフィスとすることもできる。オリフィスの内部の断面も円形のものが望ましいが、複数のフィラメントを通過させる場合や、フィラメントの形状が楕円やテープ状の場合には、断面が楕円や矩形のものも使用される。また、オリフィス入り口では、原フィラメントを導入しやすいように大きく、出口部分のみ狭い形状が、フィラメントの走行抵抗を小さくし、オリフィスの出口からの風速も大きくできるので好ましい。
【0019】
本発明におけるオリフィスは、本発明者らによる従来の延伸前の送風管とは役割を異にしている。従来の送風管は、レーザーをフィラメントの定位置に当てる役目であり、できるだけ抵抗が少なく、定位置に原フィラメントを搬送する役目であった。本発明はそれに加えて、高速の整流気体が原フィラメント供給室の気圧P1と延伸室の気圧P2の気圧差で発生する点で異なる。なお、通常のスパンボンド不織布製造においては、エアーサッカー等によって溶融フィラメントに張力を与えられる。しかし、スパンボンド不織布製造におけるエアーサッカーと本発明におけるオリフィスとは、その作用機構と効果が全く異なる。スパンボンド法では、溶融フィラメントをエアーサッカー内の高速流体で送られ、エアーサッカー内でそのフィラメント径の細化の殆どが完了する。それに対して、本発明では固体の原フィラメントがオリフィスで送られ、オリフィス内ではフィラメントの細化は始まらず、オリフィスを出た所でレーザービームが照射されることによって、始めて延伸が開始される。またスパンボンド法では、エアーサッカー内に高圧エアーを送りこむことにより高速流体を発生させるが、本発明では、オリフィス前後における部屋の気圧差でオリフィス内の高速流体を発生させる点で異なる。またその効果も、スパンボンド法では、せいぜい10μm前後のフィラメント径しか得られないのに対して、本発明では1μm未満のナノフィラメントが得られるという大きな効果が得られる点が異なる。
【0020】
本発明は、原フィラメントが赤外線光束によって加熱されて延伸されることを特徴とする。赤外線は、波長0.78μmから1mmまでとされているが、高分子化合物のC−Cボンドは、3.5μmの吸収を中心としており、0.78μmから20μmが特に好ましい。これらの赤外線は、鏡やレンズにより点状または線状に焦点を絞り、原フィラメントの加熱域を絞り込むスポットヒータやラインヒータと呼ばれる加熱ヒータが使用できる。ラインヒータは、複数本の原フィラメントが並列して走行している場合に好適である。
【0021】
本発明の赤外線光束は、レーザー光であることが特に好ましい。中でも、10.6μmの波長の炭酸ガスレーザーと、1.06μmの波長のYAG(イットリウム、アルミニウム、ガーネット系)レーザーが特に好ましい。レーザーは、放射範囲(光束)を小さく絞り込むことが可能であり、また、特定の波長に集中しているので、無駄なエネルギーも少ない。
【0022】
オリフィスから送り出されてきた原フィラメントは、オリフィス直下で、赤外線光束によって加熱され、オリフィスからの高速流体によってフィラメントに与えられる張力によって、原フィラメントは延伸される。オリフィスの直下とは、実験結果、赤外線光束の中心がオリフィス先端より30mm以下、好ましくは10mm以下、5mm以下であることが最も好ましい。オリフィスから離れると、原フィラメントが振れ、定位置に収まらず、赤外線光束に安定して捉えられないからである。またオリフィスからの高速気体によってフィラメントに与えられる張力が、オリフィスから離れることによって弱くなり、また安定性も小さくなるからと思われる。
【0023】
本発明の原フィラメントは、赤外線ビームにより延伸適温に加熱されるが、延伸適温に加熱される範囲がフィラメントの中心でフィラメントの軸方向に沿って、上下4mm(長さ8mm)以内であることが好ましく、さらに好ましくは上下3mm以下、最も好ましくは上下2mm以下で加熱される。このビームの径は、走行するフィラメントの軸方向に沿って測定する。本発明においては、原フィラメントが複数本であるので、原フィラメントの軸方向で測定される。本発明は、狭い領域で急激に延伸されることにより、高度に極細化され、ナノ領域までに細くした延伸を可能にし、しかも超高倍率延伸であっても、延伸切れを少なくすることができた。なお、この赤外線光束が照射されるフィラメントがマルチフィラメントである場合は、上記のフィラメントの中心は、マルチフィラメントのフィラメント束の中心を意味する。
【0024】
延伸室内で、多数の原フィラメントが赤外線光束によって加熱されて延伸され、極細の延伸フィラメント群となる。延伸されたフィラメント群は延伸室内を走行するコンベア上に集積され、極細フィラメントウェブとなる。本発明のコンベアとして、網(ネット)状の移動体が通常使用されるが、ベルトやシリンダ上に集積させてもよい。
【0025】
原フィラメントが多数本使用されるので、原フィラメントが通過するオリフィスも多数本使用される。この多数のオリフィスの配列には大別して二通りの方式がある。多数本のオリフィスがコンベアの進行方向にほぼ平行して配列されている縦型配列の場合と、オリフィスの多数本がコンベアの進行方向に対してほぼ直角方向に配列されている横型配列の場合である。縦型配列では、極細フィラメントウェブは狭い幅でコンベア上を走行し、横型配列では、極細フィラメントウェブは広い幅でコンベア上を走行する。なお、オリフィスの配列を、コンベアの走行方向に対して、平行又は直角と説明したが、角度は厳密ではなく、数度乃至は数十度傾斜していてもよい。
【0026】
コンベア上の極細フィラメントウェブは、集束されてインターレースノズル中を通過する。
インターレースノズルは、合成繊維のマルチフィラメント紡糸において近年開発されたもので、「圧縮空気を吹き出し、糸条により合わせに相当する抱合効果を付与するためのノズル」(JIS L0364)である。マルチフィラメント紡糸においてインターレースノズルが使用される以前は、紡糸されたマルチフィラメントは巻き取られた後、別工程で撚が加えられていた。撚のないマルチフィラメント糸は、糸切れ、絡みつき、織物不良となり、きわめて扱いにくい。しかし、別工程での撚加工は、作業能率が悪く、コストアップとなっていた。そこで紡糸工程中にインターレースノズルを設け、マルチフィラメントにより合わせに相当する抱合効果を付与し、マルチフィラメント糸として使用できるようにした。インターレースノズルは、マルチフィラメントが通過する通路Aと、通路Aの直角方向から導入される圧縮空気の通路Bからなる。直角方向から流入したエアーにより、マルチフィラメントを構成する複数のフィラメントを相互に絡ませることで、撚のもつ集束性と抱合効果を持たせることができる。
【0027】
本発明のインターレースノズルは、圧縮空気を必要としない点に特徴がある。本発明のインターレースノズルは、減圧下のP2圧で使用されるので、上記の通路Bを延伸室外の通常の外気に接続することで、外気の流入が圧縮空気と同等の効果をもたらす。圧縮空気を使用しない点で、繊維産業で通常使用されているインターレースノズルとは機構を異にするが、構造は殆ど同一であるので本発明でもインターレースノズルの用語を使用する。
【0028】
延伸室内にインターレースノズルを複数個設け、またコンベア上には複数列の極細フィラメントウェブが走行しており、この複数のウェブがそれぞれの複数のインターレースノズル(複数のノズルA)を通過することで複数の糸状体が形成させることができる。そして、この複数の糸状体を合わせて、さらに別個のインターレースノズル(ノズルB)を通過させることによって、複数の糸状体(ダブルの糸)がさらに交絡された糸状体を形成させることができる。2本撚ることでマルチフィラメント径を小さくでき、さらに引張強度を高めることができた。
【0029】
本発明のコンベアの走行速度Scに対して、インターレースノズルを出た糸状体の巻取速度のSwを大きく(Sw/Sc>1)することにより、巻き取られる糸に延伸効果を生じさせることができる。延伸倍率λは、λ=Sw/Scで表示できる。コンベアとインターレースノズルの間に延伸張力がコンベア上に及ばないように、ニップローラ、フリクションローラ等の張力遮断のための手段を設けることもできる。
【0030】
インターレースノズルを出た糸状体は巻取ビームを有する巻取機に巻かれて行く。本発明では抱合性のある糸として巻き取られるので、マルチフィラメントの個々のフィラメントの糸切れも少なく、非常に作業性よく巻き取られる。
【0031】
本発明において、インターレースノズルを出て巻き取られた糸は、さらに延伸されて糸の強度をアップすることができる。延伸は、合成繊維の延伸に用いられている糸を熱板や加熱ローラ、オーブン(熱風室)等の加熱源を介してニップローラ間で延伸することによっても達成することができる。さらに、本発明の巻き取られた糸の有効な延伸手段としてゾーン延伸がある。ゾーン延伸は、上記の加熱源を糸が通過する距離を極端に狭くすることで、糸の加熱域を非常に狭くする。局所加熱のため、加熱軟化された部分に応力が集中し、延伸切れを少なくし、延伸倍率をアップさせることでき、高強度の糸となる。さらに、高張力下の熱処理もされているので、糸の耐熱性も向上する。
【0032】
極細マルチフィラメントからなる糸は、通常の市販のマルチフィラメント糸とはフィラメント本数が桁違いに多く、それだけに取り扱いが難しい。本発明により、この取り扱いが難しい極細マルチフィラメントに抱合性を持たせ取り扱いを良くした。この糸の製造工程における延伸(Sw/Sc)やその後のゾーン延伸等において、糸の強度や弾性率がアップした。本発明による極細マルチフィラメント糸は、極細フィラメントからなる織布やニット等の衣料用、医療用、産業用素材としても使用される。さらに、本発明を利用して生体内分解吸収性ポリマーからなるマルチフィラメント糸を製造し、この糸より組紐技術により手術用縫合糸や人工血管(円筒状組紐)等に応用することができる。
【0033】
本発明における極細マルチフィラメント糸の熱物性は、株式会社リガク製THEM PLUS2 DSC8230Cにより示差熱分析(DSC)を用い、昇温速度10℃/minで測定した。
【0034】
また、極細マルチフィラメント糸の結晶性については、FT−IR(フ−リエ変換赤外分光光度計)によっても測定される。本発明では、JASCO社製FT/IR4200装置を使用した。
【0035】
なお、ナノフィラメントの強伸度は、フィラメント径があまりにも小さいので1本のフィラメントについて直接測定することは困難である。そこで、1本のマルチフィラメント糸の強度を測定し、1本のマルチフィラメント糸の強伸度として求めた。なお、マルチフィラメント糸を構成するナノファイバーの本数n
MFは(1)式から概算できる。
(d
av/2)
2πL
MFρn
MF =W
MF (1)
ここで、d
avは極細フィラメントの平均繊維径、L
MFは極細フィラメントの長さ、ρは極細フィラメントの密度、W
MFは糸の所定の長さ当たりの重量である。