特許第6562332号(P6562332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6562332活性化T細胞からのIL−8産生を抑制するための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562332
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】活性化T細胞からのIL−8産生を抑制するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7024 20060101AFI20190808BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20190808BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   A61K31/7024
   A61P1/04
   A61P17/06
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-557960(P2018-557960)
(86)(22)【出願日】2018年5月30日
(86)【国際出願番号】JP2018020696
(87)【国際公開番号】WO2018221562
(87)【国際公開日】20181206
【審査請求日】2018年11月27日
(31)【優先権主張番号】特願2017-106234(P2017-106234)
(32)【優先日】2017年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506265750
【氏名又は名称】有限会社イムノ
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 祥
(72)【発明者】
【氏名】川野 雅章
(72)【発明者】
【氏名】高木 理英
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 毅
【審査官】 菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−069508(JP,A)
【文献】 日大口腔科学、1992、18、第54−59頁
【文献】 THE NIPPON Dental Review, 2001, Vol.61, No.12, pp.153-160
【文献】 Skin Pharmacol, 1993, Vol.6, pp.193-199
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7024
A61P 1/04
A61P 17/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニン酸を有効成分とする、潰瘍性大腸炎または乾癬の治療または改善に用いるための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーパミンD2様受容体アゴニストを有効成分とする、活性化T細胞からのIL−8産生を抑制するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
獲得免疫の中心的役割を担うヘルパーT細胞は、産生するサイトカインの違いなどから、Th1(タイプ1ヘルパーT細胞)、Th2(タイプ2ヘルパーT細胞)、Th17(タイプ17ヘルパーT細胞)などに分類される。
【0003】
従来から、Th1/Th2バランスの異常は様々な免疫関連疾患の発症に関与すると考えられており、例えば、Th1細胞へのバランス偏向は、慢性炎症性疾患である関節リウマチや、臓器特異的自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症、1型糖尿病、炎症性腸疾患、糸球体腎炎、肝炎、肝障害、自己免疫性溶血性貧血、白血球減少症、血小板減少症、脱髄疾患、橋本甲状腺炎、悪性貧血、乾癬)などに関与すると考えられており、また、Th2細胞へのバランス偏向は、アレルギー性疾患や、多くの全身性自己免疫疾患に関与すると考えられている。一方、Th17細胞は、もっぱらIL−17を産生することにより、自己免疫性炎症の増悪に関与しており、特に前述の、1型糖尿病、炎症性腸疾患、乾癬、多発性硬化症、および関節リウマチは、このTh17への偏向に起因する疑いが強いと考えられている(非特許文献1)。
【0004】
獲得免疫システムには様々な要因が複雑に関与しており、どの免疫関連疾患に、Th1偏向、Th2偏向、Th17偏向のいずれが関与しているかは、いまだ不明な点も多いが、本発明者らは、既に、樹状細胞を介したTh1/Th2/Th17分化誘導機構に、ドーパミン(DA)の働きが大きく関与していることを見出している(特許文献1)。この報告においては、具体的には、樹状細胞上のドーパミンD1様受容体に、そのアンタゴニストを作用させると、樹状細胞におけるドーパミンの合成と貯蔵が抑制され、その結果、ナイーブT細胞のTh17細胞又はTh2細胞への分化の誘導が抑制され、Th1細胞への分化の誘導が促進されることが示されている。さらに、樹状細胞上のドーパミンD2様受容体に、そのアンタゴニストを作用させると、樹状細胞におけるドーパミンの合成・貯蔵が促進され、その結果、ナイーブT細胞のTh1細胞への分化の誘導が抑制され、Th2細胞への分化の誘導が促進されることも示されている。
【0005】
一方、本発明者らは、黄連解毒湯(オウゴニンを主成分とする漢方処方)がTh17細胞の分化の誘導を抑制することや、ベルベリンがTh17細胞やTh1細胞の分化の誘導を抑制することも報告している(非特許文献2〜4)。しかしながら、これらの知見は、いずれもナイーブT細胞からTh細胞への分化の誘導を制御しようとするものであり、既に分化して活性化したTh細胞の機能を制御しようとするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5442256号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Batten,M et al.;Interleukin 27 limits autoimmune encephalomyelitis by suppressing the development of interleukin 17−producing T cells.Nat Immunol.2006.7:929−936.
【非特許文献2】高木理英ら,黄連解毒湯のTh17選択的な抑制作用と好中球性気道炎症モデルにおける改善作用,アレルギーの臨床 34:66−68, 2014
【非特許文献3】Takagi, R. et al. Wogonin attenuates ovalbuminantigen−induced neutrophilic airway inflammation by inhibiting Th17 differentiation. Int. J. Inflamm., Vol. 2014, Article ID 571508, 8 pages.
【非特許文献4】Kawano, M. et al. Berberine is a dopamine D1−, D2−like receptor antagonist and ameliorates experimentally induced colitis by suppressing innate and adaptive immune responses. J. Neuroimmunol. 289:43−55, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、活性化したTh細胞のドーパミン受容体に作用し、当該細胞の機能を制御しうる組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、タンニン酸、没食子酸、およびカテキン類の没食子酸エステルがドーパミンD2受容体に対してアゴニスト活性を有していることを見出した。
【0010】
また、各Th細胞のサイトカイン産生を解析し、当該サイトカイン産生におけるドーパミンD2様受容体アゴニストの影響を評価したところ、ドーパミンD2様受容体アゴニストが、活性化したTh細胞におけるドーパミンD2様受容体に作用し、好中球走化性因子として知られる炎症関連メディエーターであるインターロイキン8(IL−8)の産生を抑制することを見出した。
【0011】
さらに、本発明者は、好中球性炎症に関連する様々な疾患のモデル動物を用いて、ドーパミンD2様受容体アゴニストの効果を検証したところ、好中球性気道炎症、乾癬、潰瘍性大腸炎、および歯周病の各モデル動物において、当該疾患の治療または改善の効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
従って、本発明は、活性化したTh細胞におけるIL−8の産生を抑制するためのドーパミンD2様受容体アゴニストの利用に関し、より詳しくは、以下を提供するものである。
【0013】
(1)ドーパミンD2様受容体アゴニストを有効成分とする、活性化したヘルパーT細胞のIL−8産生を抑制するための組成物。
【0014】
(2)ドーパミンD2様受容体アゴニストが、タンニン酸、没食子酸、カテキン類もしくはその没食子酸エステル、ロピニロール、またはプラミペキソールである、(1)に記載の組成物。
【0015】
(3)活性化したヘルパーT細胞が、Th1細胞またはTh17細胞である、(1)または(2)に記載の組成物。
【0016】
(4)好中球性炎症の治療または改善に用いられる、(1)から(3)のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0017】
好中球性気管支喘息を含む好中球性気道炎症、歯周病、乾癬、重症アトピー性皮膚炎、尋常性ざ瘡、子宮内膜症、慢性副鼻腔炎、その他の各種自己免疫病など、好中球性炎症を主体とする病態は多い。しかしながら、特効薬は、これまで知られていない。副腎皮質ステロイドは好酸球性炎症の特効薬であって好中球性炎症の特効薬ではない。本発明の組成物は、活性化したTh細胞上のドーパミンD2様受容体を標的として、当該細胞のIL−8産生を抑制するという新規機序により効果を発揮するものであり、しかも、ステロイドのような副作用は問題とならないと考えられる。タンニン酸、没食子酸、カテキン類もしくはその没食子酸エステルは、様々な植物に含まれている天然成分であり、特に安全性が高い。本発明によれば、活性化したTh細胞からのIL−8の産生に起因する症状(特に、好中球性炎症)の治療や改善を、効果的かつ安全に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】タンニン酸のドーパミンD2受容体に対するRC50を検出した結果を示すグラフである。
図2】各Th細胞クローンにおける特異的サイトカイン(IFNγ、IL−5、またはIL−17)産生とIL−8産生を定量し、その相関を示したグラフである。
図3】末梢血単核細胞(PMBC)をカンジダ抗原と共培養する系に既知のドーパミンD2様受容体アゴニスト(プラミペキソールおよびロピニロール)を共存させて、IL−8産生に与える影響を評価した結果を示すグラフである。
図4】末梢血単核細胞(PMBC)をカンジダ抗原と共培養する系に、タンニン酸を共存させて、IL−8産生に与える影響を評価した結果を示すグラフである。
図5】好中球性気道炎症モデルにおけるドパーミンD2様受容体アゴニストの効果を示すグラフである。ドパーミンD2様受容体アゴニストとしてプラミペキソールおよびロピニロールを用いた。
図6】乾癬モデルにおけるドパーミンD2様受容体アゴニストの効果を示すグラフである。ドパーミンD2様受容体アゴニストとして、Aは、プラミペキソールとタンニン酸を、Bは、タンニン酸と没食子酸を用いた。
図7A】潰瘍性大腸炎モデルにおけるドパーミンD2様受容体アゴニストの効果(体重の減少抑制)を示すグラフである。ドパーミンD2様受容体アゴニストとしてロピニロールを用いた。
図7B】潰瘍性大腸炎モデルにおけるドパーミンD2様受容体アゴニストの効果(体重の減少抑制)を示すグラフである。ドパーミンD2様受容体アゴニストとしてタンニン酸を用いた。
図8】潰瘍性大腸炎モデルにおけるドパーミンD2様受容体アゴニストの効果(腸の収縮抑制効果)を示すグラフである。ドパーミンD2様受容体アゴニストとしてタンニン酸を用いた。
図9】歯周病モデルにおけるドパーミンD2様受容体アゴニストの効果を示すグラフである。ドパーミンD2様受容体アゴニストとしてタンニン酸を用いた。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、ドーパミンD2様受容体アゴニストを有効成分とする、活性化したヘルパーT細胞のIL−8産生を抑制するための組成物を提供する。
【0020】
「ドーパミン受容体」には、D1〜D5までの5つのサブタイプが存在し、Gタンパク質と共役して細胞内にシグナルを送る働きを有することが一般に知られている。このうちドーパミンD2受容体、ドーパミンD3受容体、およびドーパミンD4受容体は、併せて「ドーパミンD2様受容体」と呼ばれており、その活性化によって、細胞内cAMPの分解が促進され、細胞内cAMP濃度が低下する。なお、ヒト由来のドーパミンD2受容体の典型的なアミノ酸配列は、NCBI Reference Sequence: NP_000786.1やNCBI Reference Sequence: NP_057658.2に、ヒト由来のドーパミンD3受容体の典型的なアミノ酸配列は、NCBI Reference Sequence: NP_000787.2に、ヒト由来のドーパミンD4受容体の典型的なアミノ酸配列は、NCBI Reference Sequence: NP_000788.2に、それぞれ開示されている。「ドーパミンD2様受容体アゴニスト」は、ドーパミンD2様受容体に結合して、このようなシグナル伝達を作動させる化合物を意味し、例えば、ロピニロール(レキップ)、プラミペキソール(ビ・シフロール)、ブロモクリプチン(パーロデル)、ペルゴリド(ペルマックス)、カベルゴリン(カバサール)、ロチゴチン(ニュープロ)などが挙げられるが、これらに制限されない。本発明において、タンニン酸、没食子酸、カテキン類とその没食子酸エステルがドーパミンD2受容体アゴニストであることが見出されていることから、これらも、本発明の「ドーパミンD2様受容体アゴニスト」に含まれる。カテキン類とその没食子酸エステルとしては、例えば、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、没食子酸エピカテキン、没食子酸ガロカテキン、および没食子酸エピガロカテキンが挙げられる。なお、ある化合物が、ドーパミンD2様受容体アゴニストであるか否かは、例えば、本実施例に記載の通り、Ca濃度またはcAMP濃度を指標としたアッセイにより評価することができる。
【0021】
本発明において「活性化したヘルパーT細胞」とは、特異的な抗原をT細胞受容体を介して認識して分化したヘルパーT細胞であって、いわゆるエフェクターT細胞と記憶T細胞を含む。本発明の適用対象とする「ヘルパーT細胞」としては、例えば、Th1細胞、Th2細胞、Th17細胞が挙げられ、これらは特異的なサイトカインの産生により区別することができる。特異的なサイトカインとしては、Th1細胞においては、インターフェロンγ(IFNγ)、IL−2が挙げられ、Th2細胞においては、IL−4、IL−5、IL−13が挙げられ、Th17細胞においては、IL−17が挙げられる。本発明の組成物により、IL−8産生を抑制する対象とするヘルパーT細胞は、好ましくは、Th1細胞およびTh17細胞である。
【0022】
本発明の組成物は、医薬組成物(医薬品、医薬部外品、動物用医薬品など)、飲食品、あるいは研究目的(例えば、インビボの実験目的など)に用いられる試薬の形態でありうる。
【0023】
本発明の組成物は、活性化したT細胞のIL−8産生に起因する症状の治療または改善に利用することができる。IL−8は、主要な好中球走化性因子として知られる炎症関連メディエーターであることから、本発明の組成物は、好中球性炎症の治療または改善において好適に利用することができる。本発明の組成物は、例えば、好中球性気管支喘息を含む好中球性気道炎症、歯周病、乾癬、潰瘍性大腸炎、重症アトピー性皮膚炎、尋常性ざ瘡、子宮内膜症、慢性副鼻腔炎、その他の種々の自己免疫病(例えば、関節リウマチや、多発性硬化症、1型糖尿病、腎炎)などの各種疾患の治療または改善、特にこれら疾患の症状のうち、好中球性炎症の治療または改善に適用することができる。ここで「好中球性炎症の治療または改善」には、好中球性炎症に起因する各種の症状や形態的変化などの治療または改善をも含む意である。
【0024】
本発明の組成物を医薬組成物として用いる場合、有効成分としてドーパミンD2様受容体アゴニストを含有するものであればその剤形は特に限定されない。本発明の医薬組成物は、公知の製剤学的方法により種々の剤形で製剤化することができる。
【0025】
医薬組成物の剤型としては、特に制限はなく、例えば、所望の投与方法に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤(錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤など)、経口液剤(内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤など)、外用剤(坐剤、軟膏剤、貼付剤、ゲル剤、クリーム剤、外用散剤、スプレー剤、吸入剤)、注射剤(溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤など)、その他、口腔用剤(ガム剤、トローチ剤、舌下錠、バッカル錠、付着剤)、口腔用スプレー剤、口腔用半固形剤、歯磨剤、含嗽剤などが挙げられる。
【0026】
経口固形剤としては、例えば、ドーパミンD2様受容体アゴニストに、賦形剤、更には必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤などの添加剤を加え、常法により製造することができる。
【0027】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0028】
経口液剤としては、例えば、ドーパミンD2様受容体アゴニストに、矯味・矯臭剤、緩衝剤、安定化剤などの添加剤を加え、常法により製造することができる。
【0029】
矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。安定化剤としては、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
【0030】
坐剤としては、例えば、ドーパミンD2様受容体アゴニストに、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセリドなどの公知の坐剤製剤用担体と、必要に応じてツイーン(TWEEN:登録商標)などの界面活性剤などを加えた後、常法により製造することができる。
【0031】
軟膏剤としては、例えば、ドーパミンD2様受容体アゴニストに、公知の基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤などを配合し、常法により混合し、製造することができる。
【0032】
基剤としては、例えば、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィンなどが挙げられる。保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルなどが挙げられる。
【0033】
貼付剤としては、例えば、公知の支持体に軟膏剤としてのクリーム剤、ゲル剤、ペースト剤などを、常法により塗布し、製造することができる。支持体としては、例えば、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布、軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタンなどのフィルム、発泡体シートなどが挙げられる。
【0034】
注射剤としては、例えば、ドーパミンD2様受容体アゴニストに、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などを添加し、常法により皮下用、筋肉内用、静脈内用などの注射剤を製造することができる。
【0035】
pH調節剤および緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
【0036】
口腔内に適用する製剤も、その性状に応じて、公知の製剤学的方法により製剤化することができる。
【0037】
本発明の組成物を医薬組成物として用いる場合には、活性化したヘルパーT細胞のIL−8産生の抑制(好ましくは、好中球性炎症の治療)に有効な1種もしくは2種以上の他の成分を配合することができる。また、この目的に有効な他の医薬組成物と併用してもよい。
【0038】
医薬組成物の投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、サルなどが挙げられる。投与方法は、その剤型などに応じて適宜選択することができ、例えば、経口、外用、注射による投与などが挙げられる。投与量は、投与対象の種類、年齢、体重、性別、症状などに応じて適宜選択することができるが、例えば、ヒト成人1日あたり、有効成分であるドーパミンD2様受容体アゴニストの量として、例えば、0.04〜500mgの範囲内で選択される量が好ましいと考えられる。投与頻度としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1日あたりの投与量を、1日に1回で投与してもよいし、複数回に分けて投与してもよい。また、毎日ではなく、例えば、週に1〜4回で投与してもよい。
【0039】
本発明の組成物を飲食品として用いる場合、当該飲食品は、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、病者用食品、あるいは食品添加物でありうる。飲食品の具体例としては、ドリンク類、スープ類、乳飲料、清涼飲料水、茶飲料、アルコール飲料、ゼリー状飲料、機能性飲料などの液状食品;食用油、ドレッシング、マヨネーズ、マーガリンなどの油分を含む製品;飯類、麺類、パン類などの炭水化物含有食品;ハム、ソーセージなどの畜産加工食品;かまぼこ、干物、塩辛などの水産加工食品;漬物などの野菜加工食品;ゼリー、ヨーグルトなどの半固形状食品;みそ、発酵飲料などの発酵食品;洋菓子類、和菓子類、キャンディー類、ガム類、グミ、冷菓、氷菓などの各種菓子類;カレー、あんかけ、中華スープなどのレトルト製品;インスタントスープ,インスタントみそ汁などのインスタント食品や電子レンジ対応食品などが挙げられる。さらには、粉末、穎粒、錠剤、カプセル剤、液状、ペースト状またはゼリー状に調製された健康飲食品も挙げられる。
【0040】
本発明における飲食品の製造は、当該技術分野に公知の製造技術により実施することができる。飲食品においては、活性化したヘルパーT細胞のIL−8産生の抑制(好ましくは、好中球性炎症の改善)に有効な1種もしくは2種以上の成分を配合してもよい。また、この目的の機能を発揮する他の成分あるいは他の機能性食品と組み合わせることによって、多機能性の飲食品としてもよい。
【0041】
飲食品の摂取対象としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、サルなどが挙げられる。摂取量は、摂取対象の種類、年齢、体重、性別、症状などに応じて適宜選択することができるが、例えば、ヒト成人1日あたり、有効成分であるドーパミンD2様受容体アゴニストの量として、例えば、0.04〜500mgの範囲内で選択される量が好ましいと考えられる。摂取頻度は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1日あたりの摂取量を、1日に1回で摂取してもよいし、複数回に分けて摂取してもよい。また、毎日ではなく、例えば、週に1〜4回で摂取してもよい。
【0042】
本発明の組成物は、特定の器具に含まれる形態であり得る。従って、本発明は、上記組成物を含む器具を提供する。当該器具の形態には、特に制限はなく、本発明の組成物の目的に応じて異なる。例えば、歯周病における好中球性炎症の治療や改善の目的においては、本発明の組成物は、デンタルフロス、歯間ブラシ、歯間ブラシ用スポンジ製品、爪楊枝などに含有させた形態であり得る。
【0043】
本発明の組成物の製品(医薬品、医薬部外品、動物用医薬品、飲食品、試薬、これらを含む器具など)またはその説明書には、例えば、活性化したヘルパーT細胞のIL−8産生に起因する症状(好ましくは、好中球性炎症)の治療や改善のために用いられる旨、あるいは活性化したヘルパーT細胞のIL−8産生の抑制のために用いられる旨の表示を付したものでありうる。
【0044】
ここで「製品または説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装などに表示を付したこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、その他の印刷物などに表示を付したことを意味する。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]タンニン酸のドーパミン受容体に対する作用
各ドーパミン受容体(ドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、ドーパミンD4受容体、およびドーパミンD5受容体)に特異的に応答してカルシウム濃度を変化させる細胞株とFLIPRを用いた細胞内Ca濃度測定系とを利用する「GPCRProfiler」(登録商標)サービスにより、タンニン酸の各ドーパミン受容体に対する作用の検討を行った(Eurofins社)。なお、%アゴニスト活性は、ドーパミンの最大応答に対する度合いを、また、%アンタゴニスト活性は、ドーパミンのEC80に対する抑制度合いを示している。
【0047】
その結果、タンニン酸は、ドーパミンD2受容体に対してアゴニスト活性を、ドーパミンD4受容体およびドーパミンD5受容体に対してアゴニスト活性およびアンタゴニスト活性を有することが判明した(表1)。
【0048】
【表1】
【0049】
また、タンニン酸のドーパミンD2受容体に対するRC50の決定は、ドーパミンD2受容体刺激に特異的に応答しcAMPの濃度を変化させる細胞株を用いて解析を行った(DiscoverX社)。具体的には、フォルスコリンによるcAMP上昇をドーパミンが抑制する最大値を100%とした場合の度合いを示している。ドーパミンD2受容体に対するタンニン酸のRC50は2.23μMであった(図1)。なお、ドーパミン自体のRC50は0.0013μMである。
【0050】
以上から、タンニン酸は、ドーパミンD4受容体およびドーパミンD5受容体に対してはアンタゴニスト活性を有する部分アゴニストであることが示唆された。すなわち、ドーパミン非存在下ではドーパミンD4受容体およびドーパミンD5受容体に対してアゴニスト刺激を入れるが、ドーパミン存在下では、ドーパミンD4受容体およびドーパミンD5受容体を介するドーパミンシグナルのみを抑制すると考えられる。生理的免疫応答の場では免疫担当細胞から産生されるドーパミンが存在することから、タンニン酸は相対的にD2Rを介したシグナルを増強し細胞内cAMPの減少を誘導すると考えられる。
【0051】
[実施例2] ドーパミンD2様受容体アゴニストによる活性化T細胞におけるIL−8産生抑制
次に、タンニン酸が獲得免疫性炎症、特に好中球性炎症に与える影響について解析した。アロ反応性Th1/Th2/Th17細胞クローンを複数樹立し、それらが産生するIFNγ、IL−5、IL−17、IL−8を定量した。図2にその結果を示す。IL−8産生は、Th1サイトカイン(IFNγ)産生およびTh17サイトカイン(IL−17)産生と正の相関を示すことが明らかとなった。なお、相関の値は、以下の通りである。
【0052】
IL−8とIFNγの相関(図2左):r=0.3172、P<0.01、IL−8とIL−5の相関(図2中央):r=−0.05216、P=ns(有意でない)、IL−8とIL−17の相関(図2右):r=0.5485、P=0.01。
【0053】
ヒトのPBMCをカンジダ抗原で刺激すると、IFNγ、IL−17、およびIL−8の産生がみられる。そこで、既知のドーパミンD2様受容体アゴニストであるプラミペキソールとロピニロールをその系に添加し、7日後の上清におけるIL−8濃度を測定した。その結果、IL−8産生の抑制が観察された(図3)。
【0054】
同様の実験をタンニン酸で行ったところ、タンニン酸は、PBMCの多クローン性IL−8産生を抑制した(図4)。なお、IFNγ産生に有意差は見られなかった。
【0055】
[実施例3] 好中球性気道炎症モデルにおけるドパーミンD2様受容体アゴニストの効果
DO11.10マウスに各薬剤(水、プラミペキソール、ロピニロール)を週3回、6週間にわたり経口投与を行った(0.3mg/kg/日)。その後、3日間連続で卵白アルブミン(OVA)吸入を行った翌日に屠殺し、BALF(気管支肺胞洗浄液)を回収し、その好中球数を計測した。その結果、ドパーミンD2様受容体アゴニストは、好中球数を減少させたことから、好中球性気道炎症モデルに対して有効であることが判明した(図5)。
【0056】
[実施例4] タンニン酸関連化合物のD2受容体に対する活性
タンニン酸関連化合物のアゴニスト/アンタゴニスト活性を、GPCR Biosensor Assay(タンニン酸の活性については、eurofins社のdiscovery services、その他の分子の活性については、DiscoverX社のLeadHunter discovery services)を利用して、cAMP量を指標に測定を行った。没食子酸は難水溶性のため、DMSOに溶解してアッセイ系に添加した。最大および最小応答に対して標準化して算出した結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
なお、没食子酸の生化学的データは弱いアゴニスト活性のみを示しているが、これはDMSOに溶かしてアッセイ系に添加したことによる水性溶媒中での析出が影響していると考えられる。
【0059】
[実施例5] 乾癬モデルにおけるドパーミンD2様受容体アゴニストの効果
C57BL/6マウスにイミキモド(IMQ)クリーム単独とIMQクリームにドーパミンD2様受容体アゴニストを混合したクリーム(3種類)をマウスの耳下に塗布して、その肥厚を観察した。開始から8日目において、IMQクリーム単独に比べて、タンニン酸10mgまたは没食子酸10mg(クリーム250mgあたり)を含むクリームの投与群で有意な耳介肥厚抑制が観察された(図6)。
【0060】
[実施例6] 潰瘍性大腸炎モデルにおけるドパーミンD2様受容体アゴニストの効果
(1)体重の減少抑制効果
0.114mg/mlのロピニロールを含む4%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)をC57BL/6Jマウスに自由飲水投与(約5ml/日)した。この投与量は、約28mg/kgに相当する。その結果、開始から4日目において、対照群に比べてロピニロール投与群で有意な体重の減少抑制が観察された(図7A)。また、タンニン酸10mg/mlのタンニン酸を含む4%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)で同様に実験を行ったところ、タンニン酸でも有意な体重の減少抑制が観察された(図7B)。
(2)腸の収縮抑制効果
各濃度(1、5、10mg/ml)のタンニン酸を含む4%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)をC57BL/6Jマウスに自由飲水投与した。その結果、開始から7日目において、対照群に比べて5または10mg/mlのタンニン酸の投与群で有意な腸の収縮抑制が観察された(図8)。
【0061】
[実施例7] 免疫賦活剤カラギーナンで誘発される歯周病モデルにおけるタンニン酸のドパーミンD2様受容体アゴニストの効果
ラット上顎左右第二臼歯舌側に、PBS、1%カラギーナン、1%カラギーナン+1%タンニン酸に浸漬した絹糸2〜3mmを挿入する作業を、週に1回3週間に渡って行った(n=4)。開始より4週間経った時点でμCTによる歯槽骨の吸収度を測定したところ、1%カラギーナンで誘発される歯槽骨の吸収が1%タンニン酸により有意に抑制された(図9)。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明の組成物は、活性化したヘルパーT細胞のIL−8産生に起因する症状の治療または改善を行う医薬や飲食品として、また、活性化したヘルパーT細胞のIL−8産生を抑制するための試薬として利用することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9